こいごころ
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#701 [向日葵]
馨はギュッと目を閉じて、ゆっくり開ける。
もう、考えても仕方ないなら、終わらせよう。
あやふやなままにせず、綺麗さっぱり、終わらせよう。
馨はゆっくりと裕之の元へ行く。
庭を見ると、まだ少ししか進んでいないが、裕之は真面目に草を抜いていた。
この背中を、ずっと見ていたかったけど……。
「裕之さん」
そっと呼ぶと、ぎこちなく微笑みながら裕之は振り返る。
:11/04/30 20:32
:SH05A3
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#702 [向日葵]
彼ももしかしたら、同じことを願っているのかもしれない。
庭に続くガラス戸によりかかりながら、馨はそう思った。
庭と家では段差が少しある。
今は馨の方が高い位置にいる。
けれど元々背が高い裕之はそれで馨と同じくらいになった。
「どうかした?」
優しく裕之が問う。
まるで普通の会話のように馨が言葉をつむぐから、次に出てきた言葉を裕之は危うく頷きそうになった。
:11/04/30 20:33
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:☆☆☆
#703 [向日葵]
「別れましょう」
「う…………。…………え?」
馨の表情は、あの時ぐらい静かだった。
「このままいても、あなたが楽しく私たちと過ごすことは無理だと思うの。ずっと、罪の意識に苛むなら、別れたほうがきっといいわ」
「馨、なに言って……」
「あなたはもしかしたら花形さんの方がいいのかもしれないわ。仕事の大変さをわかってくれそうだもの。だから……」
「嫌だ」
自分でも驚くぐらい、強く否定した。
:11/04/30 20:33
:SH05A3
:☆☆☆
#704 [向日葵]
「他の女(ヒト)に心うつりを一瞬でもしてて、こんなこと言っても信じてもらえないかもしれない。でも僕は、君を、茉里を愛してる。絶対に離れたくない。離れたなら、今以上に僕は苦しむよ」
「離れれば、その想いも風化していくわ」
「しないよ」
即答すると、馨の瞳が揺れる。
水面が、風で波立つように。
「僕の心にはずっと君しかいない。花形のことだって……、君を求めすぎたことが、原因だった。……いや、これは別に責めてるわけじゃないよっ。ただ……いつも僕には君が」
「うそつき……」
駄目……。
抑えなきゃ……駄目。
困らせたくない。
面倒なことには、したくない……。
:11/04/30 20:35
:SH05A3
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#705 [向日葵]
そう思う度、涙があとからあとから落ちて、フローリングに染み込む。
あの時は、涙なんてすぐ止まったのに、今になってどうして……?
「じゃあどうして3年も続くのよ!!それは……っ、あなたがあの人に気があったって証拠じゃない!!」
「かお……」
「私は苦しいことは嫌!こんな思いするのは嫌なの!楽しくのんびり過ごしたかった!!ごちゃごちゃ家族がバラバラになるようなことは嫌なの!!」
「僕だって嫌だよ……」
:11/04/30 20:35
:SH05A3
:☆☆☆
#706 [向日葵]
「した人がな……っなに、言ってるの、よ……っ!!」
しゃっくりが出てきて、うまく喋れない。
せき止めていた沢山の思いは、もうとまらない。
「むかつく……っ!!」
気づかなかった自分が。
彼を3年も魅力していた花形を。
花形が彼の全てを手にいれたことを。
崩れ落ちた馨は、フローリングを拳で何度か叩く。
指の骨がぶつかって痛いけど、どうでもよくなった。
:11/04/30 20:36
:SH05A3
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#707 [向日葵]
「別れてよ!!わか……っれてくれたら、いいじゃない……っ!!私は風化出来……るわっ!!」
「じゃあ……もう僕が嫌い?」
「だ……だい……っ嫌っい!!」
「目を見て言って」
大きな手が、顔を包む。
30代になっても、裕之の綺麗な顔は変わらない。
甘い言葉をつむぐ唇は、キスすればもっと甘くて。
笑った顔は、心に明かりが灯ったように暖かくて。
大きな手で茉里の頭を撫でる姿が、微笑ましかった。
:11/04/30 20:37
:SH05A3
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#708 [向日葵]
「だ…………っ」
大嫌い。
あなたなんか、大嫌い。
裏切り者。
嘘つき。
触らないで。
もう私に2度と触れないで。
大嫌いなの。
もう愛せないの。
「ずるいわ……」
大嫌い。
そんなわけないじゃない。
「そんな……か、んたんに……っ、嫌いになれたら、こんなに苦しくならないわよ……」
「うん……」
:11/04/30 20:37
:SH05A3
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#709 [向日葵]
大好きよ……。
離れたくない。
でもこんなんじゃ、ただの面倒くさい女だわ。
なんでもないふりして、あなたのことわかってますみたいな顔して。
でも暴かれれば泣き崩れてすがりつくなんて。
そうなりたくなかったし、そんなことになることも避けようとした。
まるで雨のように、フローリングが濡れていく。
ガンガンと殴る手は、自分を戒めるかのように、力がだんだんと強くなっていく。
:11/05/07 22:18
:SH05A3
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#710 [向日葵]
その手を、やわらかく包まれる。
「殴るなら、僕の顔にしなよ」
ぶんぶんと、馨は首を横にふる。
「僕は……馬鹿だからさ……」
ぽたりと、馨ではない涙が、フローリングに落ちる。
形のいい目から、丸い涙がこぼれる。
馨は目を見開いた。
裕之が、泣いている。
:11/05/07 22:18
:SH05A3
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