こいごころ
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#793 [向日葵]
言われなくてもわかる。
きっと1番と2番は、馨や茉里のことに違いない。
「もうきっと2人を泣かせたりしないよ。絶対に幸せにする。君に話をきいてもらえてよかった」
裕之はより笑って車を発進させた。
宗助はその車をずっと見送った。
そして同時に、眠気に襲われた。
ああ……、自分でも気づかないうちに、すごく緊張していたんだな……。
ーーーーーーーーー…………
帰ってきた裕之は、リビングで家族水入らずでゆったり過ごそうと思い、リビングの戸口にやって来た。
:11/06/25 16:33
:SH05A3
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#794 [向日葵]
しかし茉里の姿がない。
戸口に立ったままキョロキョロと首を動かすと、帰ってきたことに気づいた馨が、洗い物をしている手をとめて、にこりと笑う。
「おかえりなさい。茉里ならお風呂ですよ。あがってきたらこちらに来るんじゃないかしら。お茶でもいれます?」
考えていたことを見透かされて、裕之は照れたように頬をかく。
馨の問いを頷きでかえし、椅子に座る。
「笹部くんはどうでした?」
お湯を沸かしながら馨が言う。
:11/06/25 16:34
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#795 [向日葵]
「今時珍しい、誠実な青年だと思うよ」
「あら高評価ですね。未来の息子が決まりまって良かったわ。でも、父親としたら複雑かしら?」
本当ならそうなのかもしれないけれど、不思議とそうは思わない。
余程抵抗がありそうな男なら、自分のしてきたことを棚に上げてでもとめるが、彼はそういう類ではなかったから。
宗助の雰囲気は、どこか落ち着くものがあった。
:11/06/25 16:34
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#796 [向日葵]
男同士、しかも遥かに裕之のほうが年上にも関わらず、愚痴をこぼしても軽蔑されることはないだろうと思い、いつの間にかするすると言葉を紡いでいた。
「二十歳を過ぎたら、是非酒を酌み交わしたいものだよ」
「それは楽しみね」
ほのぼのと会話しているうちに、お茶が出来た。
それと同時に、茉里がリビングへやって来た。
「帰ってきてたの」
バスタオルで濡れた頭を拭きながら茉里が裕之に言った。
:11/06/25 16:35
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#797 [向日葵]
「うん。茉里もお茶を飲むかい?」
「もらう」
茉里は裕之の正面に座る。
馨は茉里のぶんのお茶を茉里の前に置き、裕之の隣に座って、皆と同じようにお茶をすする。
茉里は言おうと思っていたことがあった。
もうひとつ、胸にずっとずっと引っ掛かっていたものがあったのだ。
「…………。………………。…………っ!、げほっ!!げほげほっ!!」
「茉里!?大丈夫?よそにでもいった?」
:11/06/25 16:35
:SH05A3
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#798 [向日葵]
考え事しながらお茶を飲むものじゃない。
咳をしても咳をしても、誘発されるかのようにとまらない。
「だ……だい、じょ、ぶ……げほ……」
じゃなくて。
「あの……。ずっと言おうと思っていたんだけど」
「うん。なに?」
思い出しても、黒い霧は襲って来なかった。
だから落ち着いて言える。
深呼吸するが、それはもう咳がおさまったかを確認するだけのものだった。
:11/06/25 16:36
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#799 [向日葵]
「いつだったか、事故した時、「死ね」だなんて言ってごめん……」
裕之は全く気にしていないように、「ああ」と言った。
「茉里が謝ることじゃない」
「でも、その……」
茉里は馨をちらりと見る。
浮気相手のことを云々話すのは、馨にとって苦痛ではないだろうか。
けれど馨は薄く笑って、変わらない表情で二人の話に耳を傾けていた。
それは大丈夫だということだと思い、茉里は言葉を続ける。
:11/06/25 16:36
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#800 [向日葵]
「あれは、浮気の途中だったんでしょ……?」
「そういえば茉里は、僕が何人も浮気してたと思っていたんだよね?それは違うってことをとりあえず訂正しとくね。訂正した上で話をすれば、あれは浮気ではなかったんだ」
「じゃ……あ……?だって、付き添いの女の人がそういうニュアンスで話してたけど」
「それはね」
耳を傾けていた馨が口をはさんだ。
その間に茉里はお茶をすする。
今度はむせないように。
:11/06/25 16:37
:SH05A3
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#801 [向日葵]
「お母さんも一緒にいたでしょ?だから、お母さんへの当てつけ。あの時はすでに、お父さんは浮気をやめてしばらく経ってたし、あなたはお父さんの話をききそうもなかったから」
茉里はうっと唸る。
「だって……」
「気にしなくてもあの時は仕方なかったのよ。人間誰だって、信じてみようって心の底から思わなきゃ、いくら真実を言っても嘘にきこえるものだから」
母の器はやはり大きい。
この小さな体に、どのくらいの愛情がつまっているのだろう。
「お母さんは……、どうしてそんなに早くにお父さんを信じれたの?」
:11/06/25 16:37
:SH05A3
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#802 [向日葵]
馨はきょとんとする。
裕之のほうを見ると、同時に裕之も馨のほうを見る。
まるで示し合わしたかのように、二人はふっと笑みをこぼして、茉里を見る。
「愛しているからって理由が、一番大きいかしらね」
単純な理由が、とても大きな理由だと思えた。
だから茉里も、今日初めて、二人に向けて、満面の笑みを見せた。
今、この瞬間、忘れてしまっていた家族の時間を取り戻せたのだった。
:11/06/25 16:38
:SH05A3
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