こいごころ
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#873 [向日葵]
んー……。
確かにやりすぎかもしれないけど、やりたいと思っちゃったらやりたくてうずうずするのよね。

泡のついた手を、冷たい水で洗い流し、近くのタオルで拭いた後、ポケットにあるカイロで手を暖める。
すると、綾香が声をあげた。

「千早先輩!」

茉里は考えるより早く、洗面所から道場入り口が見える場所にうつった。

⏰:11/08/20 13:11 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#874 [向日葵]
そこには、正月あった時よりも少し髪が伸びて、大人っぽさがさらに増した千早先輩がいた。
マフラーをまいて、寒さで鼻を赤くしている姿が、大人っぽさの中にあどけなさを残し、彼女の魅力を引き立てていた。

「えへへ、久しぶり。今日はね、防具を取りにきたの。皆はー……まだなんだね」

掃除当番に委員会が重なって、今道場にいるのは茉里と綾香だけだった。

「あとこれ、女子のみんなで食べて」

茉里に渡されたのは、3つほどにわけられた小さな可愛らしい紙袋。
中身は言わずともわかる。

「女子だけでいいんですか?」

⏰:11/08/27 00:12 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#875 [向日葵]
今日は一般的に言えば男子のほうに渡すべきだと思うが。

「もちろん。男子よりも女子の後輩のほうが大事だし」

「それ男子がきいたら泣きますよ」

笑う茉里につられて、千早先輩。

「さて、と、お母さん車に待たしてるから早く行かなきゃ」

「あ、ごめんなさい。運ぶの手伝います」

「ありがとう」

⏰:11/08/27 00:13 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#876 [向日葵]
手伝うほどの荷物なんてなかった。
ただ先輩といたかった。

暗黙の了解かのように、千早先輩は竹刀袋を持たせてくれて、正門まで運ばせてくれた。

綾香は皆が来ては駄目だからと、ついて来なかった。

「ありがとうね。それにしても、まだ寒いわねー」

「あ、よかったらカイロ持ってますんでどうぞ」

「いいよ、茉里ちゃんが寒い……ん?なにか落としたよ?」

⏰:11/08/27 00:13 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#877 [向日葵]
カイロを出す時、一緒に落とした紙切れ。
それは今朝配られた、「蛍の光」の歌詞が書いたものだった。

簡単かつ適当にたたんでいたので、落とした拍子に軽く開いてしまった。

それを見ながら、千早先輩は眩しそうに目を細め、微笑む。

「私たちの、番なのね……」

「先輩……」

⏰:11/08/27 00:14 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#878 [向日葵]
「私はね、先輩たちが卒業するのがさみしくて、これを歌いながら泣いたたんだ。とても素敵な先輩だったから。それを今度は歌ってもらう番なのね」

「先輩も素敵な先輩でしたよ」

紙を丁寧に折りたたんで、茉里に渡す千早先輩は、とても嬉しそうに笑う。

「そう言ってもらって嬉しい。茉里ちゃんには、私の無神経なことが原因で傷つけてばっかりだったから」

「そんな……。あれは私が……」

⏰:11/08/27 00:14 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#879 [向日葵]
「それも思い出として残っていくのね」

「ここに」と呟きながら、千早先輩は胸に手を当てる。
いとおしそうに、目を瞑って。

茉里はなんと言っていいかわからず、そんな千早先輩をただみつめることしか出来なかった。

やがて目を開けた千早先輩は、またにっこりと微笑む。

「次に会うのは式ね。一緒に写真撮ろうね。じゃあ」

「あ、先輩!」

⏰:11/08/27 00:14 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#880 [向日葵]
車に乗りかけた千早先輩を、茉里は止めた。

なにか言わなきゃいけない。
今までのこと、これからのこと。先輩への賛辞、自分のこと。

しかし茉里がきいたのは、そのどれにもあてはまらないものだった。

「素敵な先輩は、どうしたらなれますか」

茉里の問いを馬鹿にすることなく、少し考えてから千早先輩はにっこりと笑って答えた。

⏰:11/08/27 00:15 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#881 [向日葵]
「そうやって考えた時から、もう素敵な先輩にはなってるんじゃないかな」

いっそうにっこり笑って、先輩は車に乗った。
しばらく車をみつめてから、少し足を動かす。

振り向けば、いつもの見慣れた学校があった。

下校している生徒、校舎内でなにか話している生徒、グラウンドからは、運動部の声がきこえてくる。

学校の風景や空気、雰囲気、一気に体に取り込んだ瞬間、胸がいっぱいになった。

⏰:11/08/27 00:15 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#882 [向日葵]
衝動的に、そしてどういう感情で出てくるかわからない涙を、必死に止めた。

それでも、溢れ出すようにして、滴がポタリと落ち、乾いた地面に吸い込まれていった。

こんな大勢の前で泣き顔を見られたくない。

茉里は早足で、道場へと帰って行った。

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静かな静かな空気の中、卒業式は行われていた。

⏰:11/08/27 00:16 📱:P04C 🆔:☆☆☆


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