虹色のオセロ
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#500 [ゆーちん]
でも1つだけ、ちゃんと聞けた。

「カレーライスマンのアンコール曲、あれ私に作ってくれたんでしょ?」

「アハッ、バレたかぁ〜」

「バレバレ。でもありがとう。普通に嬉しいよ」


この【バレた】じゃないんだよね?

栄之助が仁士に送ったメールの【バレた】は。

⏰:09/05/06 20:08 📱:SH901iC 🆔:aLDiVks2


#501 [ゆーちん]
「来年も期待してる」

「うん」


喫煙、飲酒、叱りたい事だらけだけど、これも仁士からのタレコミだから言えなかった。

てゆーか禁煙してたんじゃないの、栄之助。

禁煙してたのに吸っちゃうぐらい、荒れる事があったんだろうな。

で、その原因ってやっぱ…私なのかな。

⏰:09/05/06 20:09 📱:SH901iC 🆔:aLDiVks2


#502 [ゆーちん]
何も言えなくなってしまい、沈黙になる更衣室。


また、先に沈黙を破ったのは栄之助だった。


「ママさ、俺の気持ち知ってんでしょ?なのに避けたりしなくて、ありがとね」


あらら、自分から言ったよ。


「あのさ、その栄之助の気持ちって、やっぱ…」

⏰:09/05/06 20:10 📱:SH901iC 🆔:aLDiVks2


#503 [ゆーちん]
私を女として好きなの?って質問は、栄之助に遮られた。


「言わないで」

「…」

あぁ、じゃあそうなのか。


「もう襲ったりしないからさ、これからもママでいてよ」

⏰:09/05/06 20:11 📱:SH901iC 🆔:aLDiVks2


#504 [ゆーちん]
「栄之助はそれでいいの?私が聞くのも変だけどキスしたりして、歯止め効く?」

「効く。女としてより、柴田七海にはママとして、いて欲しいから」

「あんたがそれほどママに執着する意味って何?」

「…反動かな。甘え知らずだったから」

ふーん、私と仁士の考えはビンゴじゃん。

じゃあやっぱ、その執着心は深く考えなくていいのか。

⏰:09/05/06 20:12 📱:SH901iC 🆔:aLDiVks2


#505 [ゆーちん]
「わかった、これからもママするよ」

「で、俺また彼女できたんだ。彼女いるから、もうママに変な事しないよ。でもたまに甘えさせてね」


栄之助の笑顔はいつもと違った。

無理してる。

ママだからわかるんだよ。

⏰:09/05/06 20:13 📱:SH901iC 🆔:aLDiVks2


#506 [ゆーちん]
「うん、了解」

「たまぁにチューとかさせてね?んじゃ」


栄之助はそう言って逃げるように更衣室から出て行った。

なんか…不完全燃焼。

⏰:09/05/06 20:13 📱:SH901iC 🆔:aLDiVks2


#507 [ゆーちん]
いつの間にか冬になっていた。

ビデオの早送り?ってぐらい早かった。


あれから、栄之助とも仁士とも相変わらず。


たまに更衣室で甘えん坊になる栄之助とオセロして、キスする。

⏰:09/05/08 10:58 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#508 [ゆーちん]
もう襲ってこなかったし、キス以外をする事もなかった。


もちろん、家に来る事もなければルームドレス姿を見れる事なんかない。


栄之助に変わり、仁士がよく家に来るようになった。

⏰:09/05/08 10:58 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#509 [ゆーちん]
バイトまでの時間潰しだとか、蕾夢預かってだとか。

今じゃ蕾夢とはすっかりラブラブな私。

お風呂デビューもしちゃったぐらいだもん。

すっかりベビーシッターなんだ。

面倒だと思ってた子守りがだんだん楽しくなってくる。

でもやっぱり教師だけは楽しくなんないけどね。


そして冬休みが来た。

なんだか波乱万丈な予感。

⏰:09/05/08 10:59 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#510 [ゆーちん]
夏休み同様、生徒のいない学校は寒さを除けば快適だった。

授業もない、補習もない。

超ラク!


「柴田先生」

学年主任だ。


「はい」

「すみませんが職員室のストーブの灯油の補充、お願いします」


げぇー。

やだよ〜、面倒だよ〜、寒いよ〜。

だなんて断れる訳もなく、

「はーい」

渋々了解した。

⏰:09/05/08 11:00 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#511 [ゆーちん]
外にある灯油置き場までダッシュ。

寒い、寒い、寒い!

灯油補充って地味だし臭いから大嫌い。


「ぶーっさいくな顔になってますよぉ」


…なぜ、いる。


「うるせぇやい」

「今日蕾夢と行くね」

「てゆーか冬休みなんじゃないんですか委員長。なんでいんの」

⏰:09/05/08 11:00 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#512 [ゆーちん]
夏休みにも、普通に学校にいたもんなこいつ。


「生徒会の集まりですけど」


うちの学校は、各クラス委員長が生徒会部員という風になっている。


だったらクラス委員長会って名前にすればいいのに、生徒会だなんてカッコイイ名前付けちゃってさ。

⏰:09/05/08 11:01 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#513 [ゆーちん]
「あぁ、なるほど!休み中も集まりとかあるんだ」

「休み明けのイベント考えないとだし」

「イベント?」

「マラソン大会」

「げぇー。最悪。私マラソン大嫌い。いっつもバックレてたなぁ」

⏰:09/05/08 11:02 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#514 [ゆーちん]
遠い日を思い出す私に、仁士は言う。


「七海みたいな奴がいるから今年はマラソンじゃなく登山にしよっかって案もある」

「登山?」


これまた斬新なアイデアですこと。


「でも費用が足りないから結局はマラソン大会になりそう。行き詰まったから、とりあえず今日は解散っつーことで、そこ歩いてたら不細工なおばさんが見えたから来てみたって訳だ」

⏰:09/05/08 11:02 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#515 [ゆーちん]
「…最後の方、喧嘩売りまくりだね、あんた。」

「買わないの?」

「寒いから買わない。つーか、またうち来るの?」

「夜間バイトだから蕾夢見ててね」

「また夜間?今日は冷え込むらしいから気を付けろ〜。蕾夢連れて来る時も暖かい格好させて来なよ」

⏰:09/05/08 11:03 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#516 [ゆーちん]
「あいあい。んじゃまた後で」

仁士は小走りで帰ってった。

だから私も小走りで職員室に戻る。

職員室ではニンマリ笑顔の学年主任が私を待ちわびていたので、わざとらしく寒い寒い騒いでやると、お茶を出してくれた。

ラッキー。

⏰:09/05/08 11:03 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#517 [ゆーちん]
夕方、さっさと帰宅するとタイミングを見計らったように瀬川兄弟が来た。


バイトが始まるまで仁士は私の家でくつろいで行くって魂胆か、この野郎。


「なんで自分んちでくつろがないのよ」

「狭いから」


…はい、会話終了。

何か機嫌悪い?

さっきは小走りするぐらい元気だったのに。

⏰:09/05/08 11:04 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#518 [ゆーちん]
「仁士?」

「何」

「何か怒ってる?」

「別に」

んー、テンション低い。

異様に低い。


「蕾夢ぅ、にいに機嫌悪いの?」

「きげん?」

「うん。にいに怒ってる?」

「わかんない」


だよねー。

2才がわかるわけないか。

ソファーにでかでかと寝転がる金髪にいには、一体何時からバイトなのかは知らないが、しばらくするといびきをかいて眠っていた。

⏰:09/05/08 11:05 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#519 [ゆーちん]
「蕾夢、にいに寝ちゃったね」

「ななみちゃん、らいむ、おなかちゅいた」

出ました〜、おなかちゅいた。

可愛すぎて溶けちゃいそう。


ばっちりスープパスタの準備ができていた私は、いつものようにレオにご飯をあげてから蕾夢と二人でいただきますをする。

⏰:09/05/08 11:06 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#520 [ゆーちん]
ソファーで寝てる奴は放っておく。

それが私流。

「おいち」

ズキューン。

蕾夢の笑顔にやられました。


「いっぱい食べなよ」

「うん」


そんな癒され夕食タイムが終わり、しばらくテレビを見てから、お風呂の時間。

⏰:09/05/08 11:06 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#521 [ゆーちん]
なーんで私が生徒の弟を風呂に入れてんだって感じだけど、同情が愛情に変わったっていう話だ。


今じゃ蕾夢は余所の子とは思えないね。


蕾夢ラブ!

⏰:09/05/08 11:07 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#522 [ゆーちん]
「らいむね、あした、にいにと、じゃんけんする」


めちゃくちゃ意味わかんねぇし、主旨もわかんねぇ〜。

じゃんけんぐらい勝手にすればいいのに、いちいち私に教えてくれんだよ、この子。


可愛くて可愛くて、泣かずにいられないって感じ。

⏰:09/05/08 11:08 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#523 [ゆーちん]
「七海ちゃんともじゃんけんしようよ」

「いいよ」

湯船に浸かりながらじゃんけんをした。

不器用なチョキが可愛くて吹き出してしまう。


「らいむのかちー」


その笑顔が見たくて、後だしして負けてやってんだよ2才児!

本当、可愛い。

⏰:09/05/08 11:08 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#524 [ゆーちん]
お風呂から出ると19:30だった。

仁士はまだ寝てる。


「仁士、バイト何時から?」

「んー…はちじ」


何、蕾夢みたいな甘えた声出してんだよ。

お前は栄之助か?


「あと30分だよ」

「ん」

って言ってまた寝ちゃった。

寝不足で機嫌悪かったのかな?

⏰:09/05/08 11:09 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#525 [ゆーちん]
蕾夢が持ち込んで来たアニメDVDを2才児と真剣になりながら見ていると、蕾夢が私の膝に寝転がって来た。


「どした?眠い?」

蕾夢は目をゴシゴシかきながら頷いた。


「寝よっか」

また蕾夢が頷く。


DVDを止め、テレビを消し、寝室に行く準備をする。


ふと振り替えればすぐ後ろにソファーがあって、そこには仁士が弟より先に眠ってる。

⏰:09/05/08 11:10 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#526 [ゆーちん]
…ん?

眠ってる?

時計は20:30になろうとしていた。

完全に遅刻じゃんか!


「仁士、起きて!起きろってば」

「…痛い痛い。何」

「8時回ってるよ?バイト遅刻」

「えっ…えぇ?」


意識を戻した仁士は慌て起き上がった。

⏰:09/05/08 11:10 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#527 [ゆーちん]
「何で起こしてくんなかったんだよ!」

…何で私が叱られてんのよ。


「はぁ?起きなかったあんたが悪いんでしょ?」

「普通起こすだろ!鈍感!」

「人のせいにするなよ!」

「あぁー、もういいよ。七海と騒いでても意味ないしな!」

⏰:09/05/08 11:11 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#528 [ゆーちん]
うっざー。


「ふざけんな、バカたれガキんちょ!」

「ババアに言われたくないね!」

そう、捨て台詞を吐いて仁士は出て行った。

何なの、あれ。

本気でうざい。

何様?

⏰:09/05/08 11:11 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#529 [ゆーちん]
「ななみちゃん」

「何?」

「にいに、どうしたの?」

「知らないよ。ほら、蕾夢寝るんでしょ?ベッド行くよ。おいで」


蕾夢の手をひきながらベッドに向かう間も、はらわたが煮えくりかえっていた。


何であんなに偉そうなわけ、あのガキ!

起こしてあげただけでも感謝しろよ、ったく。

⏰:09/05/08 11:12 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#530 [ゆーちん]
ベッドに入っても、思い出してはイライラしていた。


「ななみちゃん、てぇにぎって」

蕾夢が小さな手を出したので、何も言わずに握ってあげた。


すると、蕾夢は小さな声で私に言った。


「おこんないで」


心臓が跳ね上がった。


蕾夢に対して怒ってなんかないのに、蕾夢は私の怒りを感じ取っていたんだ。

⏰:09/05/08 11:13 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#531 [ゆーちん]
蕾夢に当たるつもりはないのに、ちょっと口調がキツくなったかなって反省。


「ごめんね、蕾夢」

「もうおこんない?」

「怒んない。本当にごめんね」

⏰:09/05/08 11:13 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#532 [ゆーちん]
蕾夢が眠り、冷静になってからよく考えてみた。

私、大人げなかったかも。

10も離れたガキの喧嘩を買って、その上2才の子供にも当たっちゃって…。


「ごめんねー」


スヤスヤと眠る蕾夢の柔らかな頬を撫でた。

気持ちが落ち着いたし、罪悪感さえ出てきた。

⏰:09/05/08 11:14 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#533 [ゆーちん]
仁士だってまだ17才のガキなわけで、遊びたい盛りなんだ。


でも、裕福ではない家庭だからバイトに明け暮れてて…

勉強だって出来る奴だから、それなりに努力してるんだろうし。

⏰:09/05/08 11:14 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#534 [ゆーちん]
バイトに勉強、その上、蕾夢の面倒を見ていると来た。

そりゃ大変極まりないよね。

私の人生に比べれば、仁士のが大変。

⏰:09/05/08 11:15 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#535 [ゆーちん]
学校嫌いで、サボってばっかで、先生いじめた学生時代。


就職活動なんかもせずにフリーターしながら毎日過ごして、彼氏作って、浮気して、浮気されて、別れて…また彼氏作って。


結婚考えた相手もいたけど、でも結局ダメで。

⏰:09/05/08 11:15 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#536 [ゆーちん]
で、数ヶ月前にいきなり教師になって。


教員免許を取ったのだって、ただのノリだったし。


その免許の噂を聞き付けて、私を採用した学校も変な学校だよね。


真剣に何か取り組んだ事ない、って言うか…気まぐれと行き当たりばったりで生きてきた私の人生と、仁士の人生を比べるのも可哀想だ。

⏰:09/05/08 11:16 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#537 [ゆーちん]
仁士が帰って来たら、謝ろう。


素直に謝る女はモテる、って褒めてくれるかもしんないからね?


…なんちゃって。

⏰:09/05/08 11:16 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#538 [ゆーちん]
深夜2時。

仁士が帰って来た。


「おかえり」

「うぉっ、起きてたの」


いつもは蕾夢と一緒に爆睡ぶっかましてる私だから、普通に起きている事にビックリしていた。

⏰:09/05/08 11:18 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#539 [ゆーちん]
「何か飲む?」


今日も泥だらけ。

汚い格好のクラス委員長。


「冷たいお茶ちょうだい」

「ん」


仁士はフーッとため息をつきながら椅子に座り、せっせと煙草を吸い始めた。

⏰:09/05/08 11:18 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#540 [ゆーちん]
「ん」

「どーも」


お茶を飲む仁士。

それを眺める私。

…無言。


そんな空気にしびれを切らしたのは仁士だった。


「言い訳していい?」

「…何を?」


仁士が口を開こうとした時、寝室から蕾夢の声がした。

⏰:09/05/08 11:19 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#541 [ゆーちん]
「まま…」


小さな声だったけど、その切なげな声は私たちの部屋まで届いて来た。


それを聞いて、いたたまれない気持ちになる。


あんな小さな子に、私は苛立ちをぶつけてしまったんだから。

⏰:09/05/08 11:19 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#542 [ゆーちん]
それでなくても親の愛が少ない子なのに。


「泣いてる?」

「いや、たぶん寝言」

「ちょっと私、見てくる」


隣の部屋である寝室に行き、蕾夢の様子を覗いた。

ごそごそと布団でもがいていた。

⏰:09/05/08 11:20 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#543 [ゆーちん]
「ママいるよ」


ママでもないのに、そう言って手を握ってあげると、蕾夢の動きが止まる。


嘘も方便。

⏰:09/05/08 11:20 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#544 [ゆーちん]
蕾夢に布団をかぶせ、仁士が待つ部屋に戻る。

2本目の煙草に火を点けていた。


「未成年の喫煙は法律で違反されてます」

「…棒読みだな。蕾夢は?」

「ん、大丈夫」

「そ。ありがと」

「うん」


私が椅子に座ると仁士はさっきの続きを喋り出した。

⏰:09/05/08 11:21 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#545 [ゆーちん]
「最近バイト大変でさ。学校にも行かなきゃで、寝不足続いてたんだ」

「…ふーん」


やっぱりね。

私が睨んだ通りだ。

⏰:09/05/08 11:22 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#546 [ゆーちん]
「家にいても蕾夢がいるから昼寝もできなくて…託児所に行くの嫌がるから無理矢理連れてく訳いかないし。蕾夢のこと好きだけど、でも…一緒にいすぎると疲れるんだ」


申し訳なさそうに仁士は呟いた。

パーフェクト人間が私に初めて溢した弱音。


「こんな兄貴最低だよな」

「あんたは偉いよ。兄貴って役目をちゃんと務めてんじゃん。最低なんかじゃない。最高の兄貴だよ」

⏰:09/05/08 11:23 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#547 [ゆーちん]
吸わない煙草からは、白い煙が虚しく立ち上っていた。


「自分がいくら辛くても蕾夢に当たらないのは偉いよ。私さっきあんたが飛び出してった後、蕾夢に冷たい態度取っちゃったんだ。八つ当たり。私の方が最低だよ。ごめんね」

⏰:09/05/08 11:23 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#548 [ゆーちん]
「いや、あれは俺が悪かったから…」

「ううん。違う。仁士が寝不足になるほど頑張ってんの私ちゃんと知ってたのに、助けてあげられなかったんだもん。副担任として情けないよね」

「副担任って…懐かしい響き。なんか七海が教師だってこと、たまに忘れる」

⏰:09/05/08 11:24 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#549 [ゆーちん]
「それって私がまだ17の少女みたいだって事?」

「は?違うし」

「私も仁士が生徒だってこと、たまに忘れるよ。つーかこんな厚かましい生徒なんて、なかなかいないよ普通」

「ハハッ、かもな」


仁士が笑う。

だから私も笑う。

⏰:09/05/08 11:24 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#550 [ゆーちん]
「仲直りね」

「お互いごめん、って事で」


仁士が手を差し伸べたので、その手に応えた。

仲直りの握手。

変な教師と生徒。

⏰:09/05/08 11:25 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#551 [ゆーちん]
最初は同情だった。

可哀想な兄弟だから、って。

私にできる事あるなら助けてあげるよ、って。

偽善者だよね、私。

でもね、今日仁士と喧嘩して蕾夢の寝顔を見てから、何かちょっと考え変わったんだ。


で、仁士と仲直りの握手をした瞬間から私の中にあった同情心が完全に消えた。

⏰:09/05/08 11:25 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#552 [ゆーちん]
こいつらの役に立ちたい、って素直に思えた。

カッコつけてるわけじゃない。

本当に、二人の幸せに貢献したいって思えた。

友情だとか母性愛だとか、どの愛なのかもわかんないけど…とにかく純粋にそう思ったんだ。

⏰:09/05/08 11:26 📱:SH901iC 🆔:OrUQies.


#553 [ゆーちん]
「すみれちゃんが妊娠したかも」

「…はぁ?」


冬の更衣室は冷える。

だから私のおサボり場所は屋上に変更。


日中は太陽が温かくて気持ちいいんだ。

⏰:09/05/09 12:16 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#554 [ゆーちん]
ま、晴れてる日限定のおサボり場所なんだけどね。


「生理が来ないって」

「避妊しなかったの?」

「ちゃんとしたよ」


他の生徒におサボりがバレないように、ちょいと入り組んだ場所でのおサボりだけど、ここはここでまた気持ちいいから満足してた。

⏰:09/05/09 12:16 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#555 [ゆーちん]
「検査は?」

「まだ」


日光浴中の私に、見慣れた顔が隣に座り、いきなり何を言い出すかと思ったら、彼女の妊娠疑惑。


最近、あんまりキスとかしてこなくなったと思えば、これだからなぁ…バカ猿め。

⏰:09/05/09 12:17 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#556 [ゆーちん]
「話は検査してからだよ。ちゃんと病院で診てもらいな」

「…なんか最近ママ冷たいね」

「何で?そんなことないよ。最近やっと親離れしたと思っていた子供が、子供できたかもって言って来た事は悲しいけどね」

「…仕方ないじゃん。頼れるのはママしかいないんだから」

⏰:09/05/09 12:18 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#557 [ゆーちん]
そうやって、しょげてる顔なんてまだまだガキそのもの。


ガキがガキ作っただなんて、もし本当だったらどうすんのよ。

ママは今から頭が痛いよ。


彼女にちゃんと病院行くように説得して、結果がわかったらまた教えて、と約束し、栄之助は授業に戻って行った。

⏰:09/05/09 12:19 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#558 [ゆーちん]
帰りぎわ、久しぶりにキスしてくれた。


これは浮気?

それともマザコン?

いや、彼女からすれば浮気だろうな。

でも栄之助からすれば、マザコンなだけ。

私からすると…どうなんだろ、わかんない。

⏰:09/05/09 12:19 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#559 [ゆーちん]
数日後、栄之助から真夜中に電話がかかってきた。


「…はい」

「ごめん、起こした」

「本当だよ。今3時だよ?」

「もうすぐママんちに着くんだ。鍵開けて」


…いきなりだな、おい。


「やだー」

「凍え死ぬから絶対開けてよ?それじゃ」

⏰:09/05/09 12:20 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#560 [ゆーちん]
久しぶりに栄之助の強引さを目の当たりにした真冬の真夜中。


眠い目をこすり、起き上がって玄関の鍵を開けようとしたら、ちょうどチャイムが鳴った。

ナイスタイミング。

⏰:09/05/09 12:20 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#561 [ゆーちん]
扉を開けると、トナカイさん並みに真っ赤なお鼻の栄之助がいた。


家に上げた途端、栄之助は私を抱き締めた。


「どした?」

「…」


何も言わない。


「私に話したい事あるんでしょ?今すぐ聞かせたい?それとも朝イチ?」

⏰:09/05/09 12:22 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#562 [ゆーちん]
私的には朝イチがいいな。

眠くて眠くて頭が回らない。

「ママ、睡魔に弱いから朝イチでいいよ」

「あら、ママ想いね」

「当たり前じゃん」

「お風呂入って来る?またルームドレス姿見たい」

私が笑うと、栄之助も笑ってた。

⏰:09/05/09 12:22 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#563 [ゆーちん]
「俺のルームドレス姿似合ってた?」

「とっても」


栄之助をバスルームに放り込み、私はベッドに戻って、またすぐに夢へと落ちた。


栄之助の温もりの中で眠っていた事に気付いたのは、それから5時間後の朝8時だった。

⏰:09/05/09 12:23 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#564 [ゆーちん]
「遅刻!…って、土曜だった」


慌てて起きた私は相当虚しい奴だ。


土曜だって事をすっかり忘れていたなんて、栄之助にバカだなんて言えない。

⏰:09/05/09 12:23 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#565 [ゆーちん]
まだ気持ちよさそうに眠っている栄之助をベッドに残し、そそくさと着替えや歯磨きを済ませた。


「おはよ、レオ。栄之助まだ寝てるからシーッね」


レオとじゃれながら栄之助が起きてくるのを待った。

最近の若者は遅寝遅起きだね。

お肌に悪いぞー。

⏰:09/05/09 12:25 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#566 [ゆーちん]
「…おはよ」


頭ボサボサの栄之助が起きて来たのは13:00を回ってからだった。

残念、ルームドレスは着ていなかった。


「おはよ。私のスウェット着れちゃうなんて、どんだけ細身なの」

「んー、丈は短いけど」

横幅は全然余裕なのに縦幅がアウト。

⏰:09/05/09 12:26 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#567 [ゆーちん]
足首や手首が見えまくっているスウェット姿には、ルームドレスの時よりも笑えた。

すぐに、昨日着ていた服に着替えた栄之助。

また写真に収め忘れちゃったよ。

⏰:09/05/09 12:26 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#568 [ゆーちん]
「お腹すいたね。何か食べる?」

「うん」


昼ご飯を用意してあったので、朝昼兼用ご飯を食べる事に。


「いただきます」

「召し上がれ」


簡単手間いらずのオムライスを栄之助は美味い美味いと食べてくれた。

⏰:09/05/09 12:29 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#569 [ゆーちん]
和やかなムードを一転させたのはテレビのニュースだった。


妊婦がたらい回しにされた、というニュース。


さすがに【妊婦】だなんて言葉に反応しないはずなかった。

⏰:09/05/09 12:29 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#570 [ゆーちん]
「食べ終わったら話すね」

「ん」


ちょっと気まずい雰囲気のまま、ごちそうさま。


栄之助はソワソワしながら煙草に火をつけた。


「禁煙は?」

「失敗…って、何で知ってんの?」

「仁士に聞いた」

「…そう」

⏰:09/05/09 12:30 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#571 [ゆーちん]
「私も禁煙中なんだよ?精神的に辛くなると手が出るんだけど、もう絶てたかも。10ヶ月ぐらい吸ってない」

「凄いね。俺は1ヶ月もしないうちにアウト」

「精神的に追い込まれてるからでしょ?禁煙失敗したの」

栄之助は頷いた。

⏰:09/05/09 12:30 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#572 [ゆーちん]
「生徒の喫煙見逃す教師なんて、やっぱ違法?」

「ママが捕まったら保釈金出すよ」


苦笑いの二人。

なかなか本題に入れない。


「…栄之助」

「俺、パパになるつもりだったんだ」

⏰:09/05/09 12:31 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#573 [ゆーちん]
煙草を持つ手が震えていた。

いきなり入った本題に、私の気持ちも震えてた。


「すみれちゃんと病院行ったよ。見事妊娠しててさ。だから腹くくったんだ」

「うん」

「でも、すみれちゃんは母親になる気ゼロで…堕ろすの一点張り」

⏰:09/05/09 12:32 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#574 [ゆーちん]
栄之助は煙草の火を消した。


「…それで?」

「手術代ちょうだいって。親父に金ぐらいもらうのは簡単だけど、その金渡しちゃったら…もう赤ちゃんいないんだよ」

「そうだね」

⏰:09/05/09 12:33 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#575 [ゆーちん]
「俺すみれちゃん好きだったけど、赤ちゃんに対してやけに冷たかった事知って、一気に萎えてさ。
本当は産んで欲しいんだけど母親が、すみれちゃんが、子供なんかいらないって邪魔者扱いする姿見て…正直幻滅。
これから一緒にやってく自信ないけど、赤ちゃん産んで欲しいし…でも無理だろうしで、どうしていいか」

⏰:09/05/09 12:33 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#576 [ゆーちん]
何も言えないよ。

二人の問題なんだから、私が口を出す権利なんてない。


「17と18の子供が、子供産むのなんて簡単じゃないのはわかってるけど…」


へぇ、すみれちゃんって年上なんだ。

⏰:09/05/09 12:34 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#577 [ゆーちん]
栄之助が混乱している時に、私の頭は妙に冷静だった。


「すみれちゃんに、ちゃんと伝えたんだ。赤ちゃん産んで、って。殺すなんて耐えられない、って。そしたら…ウザイって言われちゃった。本当ビックリ。
せっかく芽生えたすみれちゃんへの恋愛感情一気にダウン。でも赤ちゃんだけは諦めらんない」

⏰:09/05/09 12:34 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#578 [ゆーちん]
どうしたもんかね。


どうにもできないよ。


「説得してもすみれちゃんは聞く耳持たない」

「で、私にどうして欲しいの?すみれちゃんに説得しろと?」

「違うよ。ただの報告…と17の少年の悲痛な声」

⏰:09/05/09 12:35 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#579 [ゆーちん]
「栄之助、ここがあんたの正念場だよ。ウザがられても、お互いが納得する結果を導かなきゃ。こうしてる間にも、あんたとすみれちゃんの子供は生きてんだよ。早くママとパパに会いたいな、って腹の中で成長してんだよ」

⏰:09/05/09 12:36 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#580 [ゆーちん]
栄之助は泣いていた。


「産む、産まない、どっちにしろ栄之助は今現在の時点で父親なんだよ?
泣いてる暇なんか無いくらい、わかってんでしょ?」

「…うん」

「赤ちゃんとすみれちゃんと、あんたの為にも決断は早いに越した事はない」

⏰:09/05/09 12:37 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#581 [ゆーちん]
栄之助はコクリコクリと何度も頷いた。


「ほら、行きな」


栄之助に手を差し伸べた。

ギュッと握り返してくる手のひらは、しっかりとした男の手。

私に甘えまくってた男の手とは、違って見えた。

⏰:09/05/09 12:37 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#582 [ゆーちん]
「大丈夫、大丈夫」


鼻をすする栄之助を抱き締めてあげた。


ママから子への応援ハグ。


栄之助が抱き締め返してくる事はなかった。


「ありがとう、ママ」

⏰:09/05/09 12:38 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#583 [ゆーちん]
それだけ言って、涙を拭いた栄之助は帰ってった。


きっと今からすみれちゃんのところに向かうに違いない。


まだまだ未熟なガキんちょに、幸あれ。

⏰:09/05/09 12:39 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#584 [ゆーちん]
―――

栄之助とすみれちゃんが結局どうなったのか、わからないまま週が開けた。


月曜日の朝はとても寒い。

火曜日の朝もとても寒い。

そして水曜日の朝ももちろん寒かった。


「ななみん、おはよう」

ガキは朝から元気だ。

おばちゃんは足先が冷えて泣きそうだよ。

⏰:09/05/09 12:45 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#585 [ゆーちん]
「ななみん先生、おはようございまーす」

…このおっさんも朝から元気だ。


「おはようございます、保泉先生」

「もうすぐ期末テストですよ〜」

「あ、そっか。このテストで進学とか留年とか決まってくるんですよね」

⏰:09/05/09 12:46 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#586 [ゆーちん]
懐かしい〜。

毎年必死だったっけ、私。


「留年ギリギリの奴らにはラストチャンスみたいなもんですね」

「なるほどー」


なるほど、なんて言ってるけど学年末テストの大変さを一番味わって来た私なんだ。

わからない訳がない。

⏰:09/05/09 12:49 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#587 [ゆーちん]
「でも、その前にマラソン大会ですね」

「…あぁ。結局マラソン大会に決まったんですか」

「予算が足りないらしくて、例年通りのマラソン大会なんです。教師はマラソンコース誘導とかです」

「了解しました」

⏰:09/05/09 12:50 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#588 [ゆーちん]
保泉はさ、変態だけど新人の私に色々教えてくれるから、ありがたいんだよね。


まぁ、その気づかいもできないんじゃ、ただの変態男か。

⏰:09/05/09 12:51 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#589 [ゆーちん]
「はい、それじゃあ今日はここまでです。委員長の瀬川くん、この資料を職員室まで運ぶの手伝ってね」

「…はーい」


2Cでの授業が終わり、起立、礼、休み時間。


仁士は私を睨みながら教壇に向かって来た。

⏰:09/05/09 12:53 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#590 [ゆーちん]
「せっかくの休み時間がパシりで終わっちゃいまーす」

「エヘッ、ごめんねぇ」


そんなブリっ子、可愛くねぇぞってな目で睨み、資料を持ってくれた。


廊下を歩く。


周りの生徒に聞かれないように小声で喋った。

⏰:09/05/09 12:54 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#591 [ゆーちん]
「登山ダメだったんだね」

「予算がアウト」

「ふーん、ドンマイ」

「…まさか、それ言う為に俺をパシりにした?」

「そうだよ」

「…最悪」

「なんで、いいじゃな〜い。それより、栄之助…」

「あぁ、うん。今日も来てない」

⏰:09/05/09 12:54 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#592 [ゆーちん]
仁士も栄之助にすみれちゃんの妊娠の話は聞いたらしく、気になっていたようだ。


「今日水曜だから、休み始めて3日だね」

「七海んちに行ったのって金曜だろ?」

「正確には土曜の真夜中」

「じゃあ今日で4日か。ママの喝、効いてるといいんだけど」

⏰:09/05/09 12:55 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#593 [ゆーちん]
あの日、私の家に来た事は栄之助から直接聞いたらしく、月曜日の朝イチで私のところに飛んできた仁士。


結局どうなったのかを聞きたくても、当の本人が姿を現さないんじゃ話にならない。


おサボり3日目。

明日こそは登校しろ、と願いながら今日も一日、教師という苦痛を乗り切った。

⏰:09/05/09 12:56 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#594 [ゆーちん]
結局栄之助はその週、学校に来なかった。


あれからちょうど一週間。


気になってはいたけど、自分から電話なんかする気分でもなく、もう一人の方に電話をかける事にした金曜日の21:00前。

⏰:09/05/09 12:57 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#595 [ゆーちん]
「集〜合〜」


有無を言わさず呼び付けた。

金髪頭はご機嫌ななめで来てくれた。


「栄之助に電話しよ」

「自分でしろよ。何で呼び出されてんの俺」

「栄之助だって私より仁士の方が言いやすいよ」

「…で、その栄之助と仁士の会話を盗み聞きするつもり?」

「うん」

「最悪な教師だな」

⏰:09/05/09 12:57 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#596 [ゆーちん]
冷たい事言いながら、顔は笑ってんの。

ドS疑惑。


「気にならないの?もう一週間だよ」

「気にはなるけど無理に聞き出すのも悪いじゃん」

「そうだけど…でも栄之助はきっと聞いて欲しいって思ってるに違いない」

⏰:09/05/09 12:58 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#597 [ゆーちん]
「何でわかんだよ」

「ママの勘」


仁士は小さく笑ってから、栄之助に電話をかけた。


「七海が一緒だって事は内緒だからな。黙ってろよ」

「了解」


完全なる盗み聞きだね。


仁士は共犯者って事で、ちょっと申し訳ない。

⏰:09/05/09 12:59 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#598 [ゆーちん]
2コール目で栄之助は電話に出た。


スピーカー機能にしてもらい、私は黙って二人の会話を聞く。


「もしー、生きてんの?」

「死んでる〜」

「あっそ。今どこ?」

「部屋だけど」

「どうなったの、彼女と子供」

⏰:09/05/09 13:00 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#599 [ゆーちん]
しばし無言。


「おーい、栄之助」

「うん」

「言いたくねぇんなら別にいいけど」


栄之助はまた無言になった。

しばらくすると、悲しい音が聞こえた。

⏰:09/05/09 13:00 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#600 [ゆーちん]
「おい、泣くな」

「あのさ…笑うなよ?」

「おう」

「俺の子供じゃないんだって」


落胆した。

私も泣きたくなった。

そんな展開、誰も望んでないよ。


「何…で、だよ」

仁士もひどく動揺していた。


「すみれちゃんがそう言うんだから、そうなんだよ。それに、日数も合わない」

⏰:09/05/09 13:01 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#601 [ゆーちん]
「他に男がいた、って事?」

「…らしいね」

「何だよそれ…」

ため息しか出なかった。

栄之助を今すぐ抱き締めてあげたくなった。


「仁士、ごめん」

我慢できなかった。

気付いた時にはペラペラと口が動いてた。

⏰:09/05/09 13:02 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#602 [ゆーちん]
「栄之助、私だよ。聞こえる?」

「…え、ママ?なんで?」

「ごめんね。仁士の事、責めないであげて。私が無理矢理盗み聞きしてたの」

「アハッ…そっか」


泣きながら笑う栄之助が、フッと脳裏をよぎる。


「栄之助、私…あんたに何て言ったらいいか」

⏰:09/05/09 13:02 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#603 [ゆーちん]
「何も言わなくていいよ。それより、いま二人は柴田家?」

「そうだけど」

「俺も行っていい?一人でいると虚しいんだ。ママと仁士の前でバカみたいに泣きたい気分」


鼻をすすりながら精一杯明るい声を出す栄之助。

⏰:09/05/09 13:03 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#604 [ゆーちん]
「おいで。仁士と待ってるから」

「うん」


電話を切ると、仁士は眉を下げながら私に笑いかけた。


「俺と栄之助の友情が崩れたら、どう責任取ってくれんの?」

「…ごめんなさい。いてもたってもいられない状態になりまして」

⏰:09/05/09 13:03 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#605 [ゆーちん]
仁士は優しく笑いながら
「いいママじゃん」
と言って私の頭をポンッと叩いた。

その手はそのままレオに行き、栄之助が来るまでの数分間、仁士はレオと、私は一人で過ごした。

私と仁士の間に、会話がなかった。

お互い、考え事をしていたからだと思う。

⏰:09/05/09 13:04 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#606 [ゆーちん]
インターホンが鳴るなり、私はドアを開けて、目が潤んでいた栄之助を抱き締めた。


「はいはい、中でやれよ」

仁士は、私と栄之助が抱き締め合ってるのを見て呆れながら笑ってた。

⏰:09/05/09 13:05 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#607 [ゆーちん]
ドアを閉めて中に入る。

私は、栄之助を抱き締めながら泣いていた。

この私が泣いていたんだよ?

生徒に興味のない私が、生徒の悲しい事実を知って、涙を流す。

私、変わっちゃったね。

⏰:09/05/09 13:06 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#608 [ゆーちん]
「ママが叱ってくれたから、俺、納得するまですみれちゃんに説得したんだ。ウザがられても容赦なく」

「うん」

「そしたら、すみれちゃんため息吐きながら言ったんだ。栄之助の子供じゃない、って」

「…うん」

「舞い上がりすぎて、すみれちゃんと最後にそういう事した日忘れててさ。よく思い出したら日数が全然合わなくて。間違いなく俺の子供じゃないんだ」

⏰:09/05/09 13:06 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#609 [ゆーちん]
「うん」

「でも赤ちゃん殺すなんて可哀想じゃん。だから俺の子供じゃなくてもいいからって言ったんだけど…ダメだった。昨日、勝手に手術してて…俺、もう訳わかんなくて」

「あんた偉いね。ママの誇りだよ」

「日曜から水曜まで粘って、木曜に赤ちゃんいなくなって…そんで今日。学校行く気にもなんなくて放心状態の俺にすみれちゃんから別れを告げられ…みたいな?笑っちゃうよね」

⏰:09/05/09 13:07 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#610 [ゆーちん]
栄之助は泣きながら無理矢理笑顔を作ってた。

私は子供みたいに栄之助の手を握りながら泣いた。

仁士は何も言わず、ただ黙ってレオを抱っこしていた。


「笑わないよ。小さな命を守ろうとしたあんたを笑う奴がいるなら私がそいつ、ぶん殴る」

⏰:09/05/09 13:07 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#611 [ゆーちん]
「怖っ」

泣き笑いする栄之助。


「栄之助、よく頑張ったね。あんたならまた素敵な女の子に出会って、小さな命にも出会えて、幸せになれるよ」

「…だといいね」

⏰:09/05/09 13:08 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#612 [ゆーちん]
泣き疲れているのと、一人になるのが嫌な栄之助をベッドに寝かせてあげた。


今夜だけはママに甘えて眠れ、っていうサービスだよ。

って言っても、もう栄之助は夢の中なんだけどね。

⏰:09/05/09 13:09 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#613 [ゆーちん]
「七海、俺帰るよ」

「あ、うん。今日はありがとね」

「どういたしまして」

「盗み聞きバラしてごめんね」

「いいって。そんな事でいちいち怒る奴じゃないから、栄之助は」

「…うん」

「それより、見直したよ七海の事」

「何が?」

⏰:09/05/09 13:09 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#614 [ゆーちん]
「薄情で感情移入とかしない人なのかと思ってたけど、今日もそうだしこの前の喧嘩の事もそうだし…なんか最近の七海変わったな」

「…そ?」


ちょっと自覚あるんだけどねー。

⏰:09/05/09 13:10 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#615 [ゆーちん]
「そっちの方がモテるよ」

「アハハ、あんたいっつもそれだね。大体モテるったって誰に?あ、保泉にモテるってのは無しだか‥」


ムチウチになるんじゃないかってぐらい、あまりに突然だった。

腕引っ張られて頭だけ残す感じ、わかる?

アレ、なかなか首が痛いもんだね。

⏰:09/05/09 13:10 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#616 [ゆーちん]
あと唇。


いきなり重ねたもんだから、歯が当たってかなり痛かった。


「保泉じゃなくて俺に」


こんな展開も望んで無かったんだけどなー…たぶん。

⏰:09/05/09 13:11 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#617 [ゆーちん]
「キス下手な奴にモテてもな」

案外、冷静でいれた。


「七海が出っ歯だからじゃね?」

「はぁ?違うし」


仁士は笑いながら、ぶつけた唇を指で撫でてくれた。


「そんじゃまた学校でね、先生」

「遅刻しちゃダメよ、委員長」

⏰:09/05/09 13:11 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#618 [ゆーちん]
疑惑のキスだけを残し、仁士は帰ってった。

私、何してんだか。

まさか、あの仁士にキスされるなんて思ってもみなかった。

後々、襲ってくる余韻に頭を悩ませながら栄之助の隣で眠った夜。

全然安眠できなかった。

⏰:09/05/09 13:12 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#619 [ゆーちん]
翌朝。

二人で目を覚まし、ベッドから出る前に栄之助は私にキスをした。


そのキスで、昨日仁士にもキスされた事を思い出した。


「おはよ」

「あ、うん。おはよ」


朝食を済ませ、栄之助は気分転換したいからってレオの散歩に行ってくれた。

⏰:09/05/09 21:55 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#620 [ゆーちん]
待ってる間、何もせずにテレビを見て過ごした。


でもやっぱりテレビの内容なんか頭に入んなくて、キスされた後の仁士の笑顔ばかりがリピート再生されてしまう。


あの勝ち誇ったような笑顔…むかつく。

⏰:09/05/09 21:55 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#621 [ゆーちん]
「ただいま」

「おかえり。散歩ありがとね」


特に何かをする訳でもなく、ぼんやりと過ごした。


あえて、すみれちゃんや赤ちゃんの話は避けて。


でもやっぱちょっとは気になる。

⏰:09/05/09 21:56 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#622 [ゆーちん]
そんな気持ちを感じ取ったのか、栄之助はソファーに寝転がりながら話し始めた。


「すみれちゃんへの未練はね、もうないよ。でも赤ちゃんへの未練…っていうか罪悪感があって。俺の子供じゃないけど可哀想な事したな、って」

⏰:09/05/09 21:56 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#623 [ゆーちん]
「うん」

相づちをうつ事しかできない私に、栄之助は話してくれる。


「昨日たくさん泣いて、ちょっと気持ちラクになったよ。ママと仁士のおかげ。助かった、ありがと」

「ううん。私なんも出来なかったけど」

「抱き締めてくれて嬉しかったよー」

⏰:09/05/09 21:57 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#624 [ゆーちん]
あ、いつものバカ猿スマイルだ。

久しぶりに見たよ、その笑顔。


「ねぇママ」

「ん?」

「ここらが潮時だと思うんだ。色々とけじめ付ける時が来たみたい」

「…何が?」

⏰:09/05/09 21:57 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#625 [ゆーちん]
体を起こし、ソファーに座り直した。


「はっきり言うね」

「…」


何となく、栄之助が今から言う事がわかる。


聞きたいようで聞きたくない。


「俺ママが好きだったよ。女として」

⏰:09/05/09 21:58 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#626 [ゆーちん]
ほらね、こういう話はあんまり聞きたくないもんだよ。


「だからキスしたし、それ以上もした。甘え知らずだったから、その反動でママが欲しいだなんてただの口実」


…私と仁士の予想またまたビンゴ。


「でも栄之助はママとしての柴田七海を選んだじゃん」

⏰:09/05/09 21:58 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#627 [ゆーちん]
「うん。ママの事が好き過ぎて失いたくなかったもん。体の関係なんかいらないから、ずっと俺の近くでいて欲しかった。それくらい好きだったんだよ」

「…女として?」

「たぶん恋愛感情を越えた愛みたいなのがママにはあったんだ。ママは特別な存在だから」

⏰:09/05/09 21:59 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#628 [ゆーちん]
「そんな褒めても何も出ないよ」


栄之助は猿みたいに笑った。

私も、その笑顔好きだったよ。

私だって今思えば栄之助への気持ちは、恋愛感情じゃなく、特別な愛だったのかもしれない。

⏰:09/05/09 22:00 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#629 [ゆーちん]
「ママに俺の気持ちバレた時はマジ耐えられなくてさ。軽蔑されて離れてくんだろなって思ってて、自分から離れてみたけどママは相変わらずですっげぇ嬉しかったよ。
ちょうどその頃すみれちゃんと付き合って…って言っても成り行きだったんだけどね」

⏰:09/05/09 22:01 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#630 [ゆーちん]
「成り行き?」

「酒に酔ってて、知らない内にホテル行っちゃってたんだ。お互いヤッた覚えはないんだけど。
それで、すみれちゃんと色々話してたら、なんか気が合うから付き合っちゃおっか〜ってなって、付き合った」

⏰:09/05/09 22:01 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#631 [ゆーちん]
「じゃああの日更衣室に私が呼び出した時、彼女できたって…」

「そう、すみれちゃん」

「そうだったんだ」

「すみれちゃん、本当に明るくて元気で年上だから安心できる人だったんだ。段々好きになりかけてた。いつの間にかママへの恋愛感情消えて、すみれちゃんに移ってた。でも結果これだもんね」

⏰:09/05/09 22:02 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#632 [ゆーちん]
「また私に戻ってくんの?その恋愛感情ってのは」


ニッと笑った私。

栄之助もニッと笑う。


「自惚れちゃだめだよママ。いつだって自分がモテるみたいな自信、怖いよ?」

「あら、そう」

⏰:09/05/09 22:02 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#633 [ゆーちん]
ふざけあうのはここだけ。


栄之助のニンマリ顔は、スッと消えて、優しい笑顔になる。


「もうママをそんな風には見ないよ」

「…そ」

「それでね、すみれちゃんに気持ち移った時、客観的にママを見てみたんだ」

⏰:09/05/09 22:03 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#634 [ゆーちん]
「何それ」

「そしたらさ…俺わかっちゃったよ」

「何を?」

「ママの気持ち」

「私の?教師やだなーって気持ち?」

「そういうんじゃない。また違う気持ち」

「何?わかんない」

⏰:09/05/09 22:03 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#635 [ゆーちん]
「ママ、素直になりなよ」


素直も何も、私何にも思い当たる気持ちなんか無いよ。


「ん?」

「俺は、はっきりさせたよ?だからママもはっきりさせなきゃ」

「だから何を」

⏰:09/05/09 22:04 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#636 [ゆーちん]
「好きなんでしょ?仁士」

呆れた。

ここまで引っ張ってそれ?

「私が仁士を好き?んなわけないじゃん」

「無意識?」

「いやいや、無意識も何も私、恋なんかしてないし」

「ふーん」

何なのよ、その嫌な笑み。

⏰:09/05/09 22:04 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#637 [ゆーちん]
「まぁ、そう言い切るならそれでいいけど?」

「いい、とかじゃなくて何も無いよ」

「あっそ。まぁいいや。じゃあそろそろ帰るね」


ん〜、後味悪いな。


「あ、月曜はちゃんと登校しなよ」

⏰:09/05/09 22:05 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#638 [ゆーちん]
「わかってるよ、先生」

「…もうママって言わないの?」

「んー、どうだろ?たまに言うかもね。言い慣れちゃったし。でももう柴田七海っていうママから卒業する。甘えたりもしないよ。これからは教師と生徒」

⏰:09/05/09 22:05 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#639 [ゆーちん]
やけに晴れ晴れした顔の栄之助。


「たまには友達しようよ。またレオに会いに来てあげて」

「ママがそう言うなら遊びに来ちゃおっかなー」


好きなんかじゃなかったけど、やっぱママの役目が終わるのって寂しいもんだね。

⏰:09/05/09 22:06 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#640 [ゆーちん]
「全く他人になるのは無理だもん。たまには連絡しなよ。ママ卒業だからって、母校に帰っちゃいけないルールなんて無いから」

「うん、ありがと」


栄之助は玄関で靴を履く。

そしてクルッと振り返り、猿みたいな笑顔を見せながらこう言った。

⏰:09/05/09 22:07 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#641 [ゆーちん]
「大好きだったよ、ママ」


だった。

その過去形が妙に寂しかった。


「最後に、いい?」


私は頷いた。

なんちゃって親子の最後のキスは、そっと触れるだけのキスだった。

⏰:09/05/09 22:07 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#642 [ゆーちん]
もうこれで私と栄之助がキスする事はないんだ。


「それじゃ、バイバイキーン」

「うん、バイバイ」


栄之助がドアを閉めた途端、涙の変わりにため息が出た。

⏰:09/05/09 22:08 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#643 [ゆーちん]
まるで恋人が永遠の別れの前にするキスみたいで、ちょっと切なくなった。

そんな土曜日のお昼前。

モヤモヤ感がうざったくて、買い物に行き、気分を紛れさせた。

夜は友達と飲んで、酔っ払いながら帰宅。

日曜は二日酔いでくたばっていた。

何も考えたくない。

そんな、ちょっぴり暴走ぎみな週末が開け、とうとう月曜日になった。

⏰:09/05/09 22:08 📱:SH901iC 🆔:JSeFKct6


#644 [ゆーちん]
「おはようございます」

「あっ、おはよう」


あれ?

仁士、超普通じゃん。

避けたりしないの?

気まずくないの?

恥ずかしくないの?

「栄之助来てるよー」

「あぁ、うん。そうだね。よかった」

「何キョドってんの?」


仁士が私の顔を覗き込みながら、笑った。

⏰:09/05/11 13:49 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#645 [ゆーちん]
ドS確定。

絶対わざとだよ。


周りを確認してから、仁士に耳打ちした。


「何でキスなんかしたの」


耳打ちが終わると仁士はまた笑いながら言う。


「え?したっけ?」

⏰:09/05/11 13:50 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#646 [ゆーちん]
じゃあ、何か?


私が欲求不満のあまり幻覚でも見たのかと思わせたいのかい?


んなわけねーだろ。


27歳をからかうんじゃねぇよ!

⏰:09/05/11 13:51 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#647 [ゆーちん]
てゆーか、私も私だよ。

処女じゃないのに、いちいち動揺するなっつーの。

土曜日、栄之助が余計な事言ったせいで変に意識しちゃうじゃんかー!

私がこいつを好き?

ありえないよ!

⏰:09/05/11 13:51 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#648 [ゆーちん]
それからの仁士は、何の変わりも映えもない、いつもながらの仁士。


あのキスは無かった方向で進めるつもりらしいので、私も無かった事にする。


栄之助は、やっぱちょっと変わった。


馴れ馴れしさが無くなった。

⏰:09/05/11 13:52 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#649 [ゆーちん]
屋上でおサボりしてても、もう『ママ』って呼びながら現れる人はいないんだ。


これが普通なのに、違和感だらけでぎこちない。


あんまり居心地がよくなかった。

⏰:09/05/11 13:52 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#650 [ゆーちん]
その週の最後にマラソン大会を開催した。


バレーボール大会の時とは違い、これは予行練習は無しみたいです。


「柴田先生はここに立って、生徒を誘導してやってください」

「はい」

⏰:09/05/11 13:53 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#651 [ゆーちん]
寒い!

じっとしてるだけだから、寒いのなんのって。

サボりたいけど、さすがに今回は無理だ。

誘導係だなんて地味だし寒いから、来年からは違う係になるよう願おう。

⏰:09/05/11 13:54 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#652 [ゆーちん]
先に1〜3年の女子が走る。


「おーい、ななみーん」

「ななみんも走ろ〜」

「ななみん、私もう無理」


みんな私に愛想振りまいてないでしっかり走れ。

すっかり違う学年にまで【ななみん】が浸透していて嬉し恥ずかしだよ。

⏰:09/05/11 13:54 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#653 [ゆーちん]
女子が終わると男子。

先頭集団はだいたいが3年生だけど、私がよく知る2年生もばっちり混ざってた。

さすが猿と委員長。

先頭集団の中でも目立つねぇー。

⏰:09/05/11 13:55 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#654 [ゆーちん]
ふざけながら走ってるのかと思ったら二人は大真面目だった。


私がいた事にも気付いてないんだろうな。


「ななみん助けて」

「俺もうだめ」

「介抱してー」

⏰:09/05/11 13:55 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#655 [ゆーちん]
後半の奴らはこんな調子。

しっかり走れよナマケモノ!

…って、マラソン大会なんか出た事ない私が言うなって?

そりゃ失礼。

⏰:09/05/11 13:56 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#656 [ゆーちん]
そして無事マラソン大会は終了。

学校に戻り、順位を見てみた。

ほぉー、こりゃすごい。

1〜3年共通順位で、栄之助が6位。

仁士は4位だった。

あいつら運動神経よすぎ。

⏰:09/05/11 13:58 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#657 [ゆーちん]
「どう?見直した?」

順位表を見ていた私に後ろから声をかけて来たのは、4位の人。

「んー、微妙。4位だとメダル無いじゃん」

「はぁ?素直におめでとうって言ってくれないんですか?」

「言わなーい」

「モテませんよー」

仁士はそう言って、どっか行っちゃった。

何だ、あれ。

⏰:09/05/11 13:59 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#658 [ゆーちん]
「お、いた。6位」

教室近くの階段に座っていた栄之助。

友達の輪から外れ、私のところに来てくれた。

「凄い?」

「まぁまぁかな」

「いぇーい」

「ちょっと話さない?」

「いいよ」

場所を少し移動した。

生徒のみんなはマラソン大会が終わった達成感でニコニコしている。

私の隣にいるこの子もニコニコしていた。

⏰:09/05/11 14:00 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#659 [ゆーちん]
「春のバレーボール大会でなんとなく運動神経いい奴なのかなとは思ってたけど。6位だなんて大健闘じゃん」

「まぁね〜。運動神経だけが取り柄だし」

「頭も良かったら言う事ないのにねー」


嫌味のつもりが、栄之助は大笑いしだした。

⏰:09/05/11 14:00 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#660 [ゆーちん]
「それって、仁士の事じゃん」

またそれ?


「…だから違うってば」

「頭いいし運動神経もいいし何だかんだ優しい奴だもんな、瀬川仁士って男は」

「あんたさ、やけに私と仁士をくっつけたがってるよね?」

⏰:09/05/11 14:01 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#661 [ゆーちん]
「だってー、両想いなのに強がってる同士なんだもん」

「はぁ?両想いなわけないじゃない」

「ふーん?」


私の事より、栄之助の話をしたくて呼び出したのに。


調子狂うよ。

⏰:09/05/11 14:01 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#662 [ゆーちん]
「あ、そうだ。ママは卒業したんだから、先生かななみんって呼ばなきゃじゃん?どっちがいい?」

「どっちでもいいよ。みんなみたいにななみんって呼べば?」

「でも気に入ってないんでしょ?」

「うん」

「じゃあ俺が新しいあだ名考えたげよっか?」

「ダサかったら殴るからね」

⏰:09/05/11 14:02 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#663 [ゆーちん]
「んー、しばたん」

「…え?」

「柴田に、んを付けてみた」

「付けてみた、じゃねーよ。ダサすぎ」


殴ってやった。


「アハハ、冗談冗談」

「2Cって、ん付けんの流行ってんの?」

「そうなのかな?」

「ダサすぎだから」

⏰:09/05/11 14:03 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#664 [ゆーちん]
「そう?別に普通だよ。ななみんもしばたんも」

「私はヤダけど」


猿は笑った。

その笑顔を見るだけでも、救われた気分になる。

って、自己満足だけどね。

⏰:09/05/11 14:03 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#665 [ゆーちん]
「もう、ななみんでも何でもいいよ。それよりさー」

「ん?」

「元気になって、よかった」


栄之助の笑顔は優しくなる。


「マラソンしてる時にさ、色んなモヤモヤ吹っ飛ばしてやったよ!」

⏰:09/05/11 14:05 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#666 [ゆーちん]
「真面目な顔で走ってたよね。私がどこにいたか知ってる?」

「え、コースのどこかにいたの?」

「やっぱ気付いてなかったか。誘導係で寒い中、つったってたよ」

「そりゃお疲れだ」

「今も寒いね。そろそろ戻ろっか」

⏰:09/05/11 14:05 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#667 [ゆーちん]
立ち上がり、私たちは教室に戻る。


もうすぐ校内放送が入り、表彰式が行われる。


「あ、ねぇ」

「ん?」

「俺もう大丈夫だからね。心配してくれてありがと」

「あぁ…うん」

「完全復活とまでは、まだいかないけど、ちゃんと元気だから」

⏰:09/05/11 14:06 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#668 [ゆーちん]
だったら、よかった。


「俺に世話やいてないで、そろそろ自分の世話しないと」

「だーかーらぁ」

「柴田七海には何度お礼しても、しきれないよ。俺の青春を支えてくれた人として永遠に感謝する」

「何だそれ」

「ありがとう」

⏰:09/05/11 14:06 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#669 [ゆーちん]
栄之助に、ありがとうを言われると苦しくなる。


「それじゃ」

「うん、バイバイ」


栄之助が立ち去ると、タイミングよく仁士が通りかかった。


ある意味、ナイスタイミング。


「また会ったね、4位」

⏰:09/05/11 14:07 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#670 [ゆーちん]
「俺の事ストーカーしてんの?」

「この状況だと、それ私のセリフ。私はここにいて、あんたが通りかかった。あんたが私のストーカーしてんでしょ?」

「んなムキになんなくても」

⏰:09/05/11 14:08 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#671 [ゆーちん]
おっといけない、私としたことが。


栄之助が余計なことをベラベラと吹き込むもんだから、過剰反応になってしまう。


こっちが子供みたいで、なんか悔しい。


「で、結局何してたの?こんなとこで一人寂しく突っ立っててもイケメンは現れないぞー」

⏰:09/05/11 14:08 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#672 [ゆーちん]
「栄之助と話ししてたの」

「あぁ、親子の時間」

「…もう親子ごっこは終わったよ。ママ卒業したんだって。栄之助から聞いてないの?」

「ママ卒業?何それ。聞いてない」

「もうキスもハグもしないんだって」

⏰:09/05/11 14:09 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#673 [ゆーちん]
「ふーん」

「あんたにキスシーンを見られちゃうことも、もう無いってわけ」

「人を覗き魔みたいに言うなよ」

「だって、よく遭遇したし。胸まで見られてるんだよ私」

⏰:09/05/11 14:10 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#674 [ゆーちん]
「好きで見たわけじゃないし。それに‥」

「ペチャパイって言うのは無しだから」


仁士が笑った。

言う気だったのかよ。


そこでちょうど校内放送が入ったので、仁士ともバイバイ。

表彰式は1〜3位までしか対象者じゃないから、仁士も栄之助も興味なさそうに式に出ていた。

⏰:09/05/11 14:10 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#675 [ゆーちん]
そんなマラソン大会も終わり、いよいよテスト期間。


波乱の幕開け…な、予感。

⏰:09/05/11 14:11 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#676 [ゆーちん]
―――

「蕾夢、頼むね」


…やっぱり。


言われると思った。


前までの私は、この兄弟の力になりたいとかって思えたんだけど、今は…。


いや、力になりたいのは確かなんだけど、あのキス以来、仁士と話すとイガイガするってゆーか。

⏰:09/05/11 14:14 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#677 [ゆーちん]
関わりたくない、とまではいかないけど…仁士が何考えてるかわかんないから、怖い。


色んな意味で。


「いいけど…」

「けど?」

⏰:09/05/11 14:14 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#678 [ゆーちん]
仁士は来ないで、なんて言えるわけもなく
「何でもない」
と、誤魔化した。


あぁ〜!

歯がゆい!

スッキリしない!


自分で自分が意味不明!

⏰:09/05/11 14:14 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#679 [ゆーちん]
「ななみちゃーん」


…癒されよう、この天使に。


「いらっしゃい」

「あっ、れおー」


そそくさと部屋に上がり、レオとじゃれ始めた。


微笑ましい。

微笑ましすぎる。

⏰:09/05/11 14:15 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#680 [ゆーちん]
「悪いね」

「別にいいよ。どうせ暇だし」

「最近、親が育児放棄ぎみで。託児所も毎日行かせすぎで嫌がるし。テスト期間だからバイトは休みにしてもらったけど、蕾夢の面倒見てると結局勉強できなくなるしさ…」

⏰:09/05/11 14:16 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#681 [ゆーちん]
「若者よ、しっかり学べ!」

「ありがと」


仁士に言われるありがとうは全然苦しくない。

むしろ泣きたくなる。

何で?


「蕾夢、また後でな!」

「にいに、おべんきょ、がんばってねー」

「おう。七海ちゃんの言うこと聞けよ」

「あーい」

⏰:09/05/11 14:16 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#682 [ゆーちん]
弟にバイバイして、にいには帰ってった。

私に蕾夢を預け、仁士は家に帰って勉強。

で、また夜中に蕾夢を引き取りに来るって約束だ。

一緒にご飯食べて、テレビ見て、お風呂入って、眠って。

今までの、夜間バイトの時に預かってたみたいなもんだ。

夜中に仁士が眠ってる蕾夢を抱っこしながら帰る。

そんなテスト期間だった。

⏰:09/05/11 14:17 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#683 [ゆーちん]
蕾夢を預かるのはテスト期間だけだと思っていた。

だからテスト最終日、友達と飲みに行く約束をしていた。


「悪い。今日だけもう1日追加」

「なんで?もう友達と飲みに行く約束しちゃったから無理だよ」

「バイト休めなくて。親もいないんだ」

⏰:09/05/11 14:18 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#684 [ゆーちん]
「託児所は?」

「嫌がってる」

「…でも仕方ないよ」

「どうしても無理?」

「無理」

「…わかった」

⏰:09/05/11 14:18 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#685 [ゆーちん]
ちょっと期限が悪くなった仁士は、あっさり私から離れていった。


「おはよ、ななみん。仁士と喧嘩?」


いつの間にか、私をななみんと呼ぶようになっていた栄之助だ。

⏰:09/05/11 14:19 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#686 [ゆーちん]
「ううん、別に」

「ふーん。それより今日の答え教えて?」

「はぁ?」

「留年しそう」

「頑張れ、若者!あんたが留年したら大いに笑ってあげる」

「ひどーい」

こうやって栄之助と笑い合ってる最中も、頭は瀬川兄弟のことでいっぱいだった。

⏰:09/05/11 14:20 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#687 [ゆーちん]
わかってるよ、蕾夢が託児所を嫌がってる事。

私が見てあげればいいだけなのに。

友達との約束だって、また違う日に変えることは簡単。

私は、瀬川兄弟の力になりたいだけ。

なのになんで頼られすぎると、意地悪したくなるんだろう。

⏰:09/05/11 14:20 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#688 [ゆーちん]
テストが終わると、みんな開放ムード。

でも委員長だけは喜んでなさそうだった。

そりゃそうだよね。


「瀬川くん」

「…」


こっち見て、目を反らした。

イコール無視られた!

一部始終を見ていた栄之助が「やっぱ喧嘩してんじゃん」って言いにくるぐらい、仁士の無視はあからさまだった。

⏰:09/05/11 14:21 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#689 [ゆーちん]
学校から帰り、そのまま友達との約束場所に向かった。

居酒屋に入り、ビールを飲む。

…美味しくない。

最悪だ。

原因は瀬川兄弟。

「七海、どしたの?」

「元気なくない?」

「やっぱ教師って大変なんだな」

みんなが心配してくれる。
楽しい席で、私みたいな奴がいると雰囲気が悪くなるのもわかってるんだ。

⏰:09/05/11 14:22 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#690 [ゆーちん]
電話なんかかかってきてないのに、かかってきたフリをした。


「みんなごめん。学校から呼び出しだ。きっとテストの事で。だから行くね!私のことは気にしないで、飲みまくってよ!また誘って」

⏰:09/05/11 14:23 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#691 [ゆーちん]
惜しまれつつ、退散。

自分で言うなって?

うん、気分が晴れてきた。

私の足取りも軽い。

ヒール音は、仁士の家へと向かっていった。

⏰:09/05/11 14:23 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#692 [ゆーちん]
ピーンポーン…

よし、まだバイトの時間じゃないから家にいるはず。

ガチャ…

「はい」

ほらね。

「よっ!」

「えっ、七海?何でいんの!」

ナイスリアクション!

「蕾夢の子守り」

「友達と約束は?」

⏰:09/05/11 14:24 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#693 [ゆーちん]
「嘘ついて帰って来た」

「何で…」

「だって私、あんたの先生だもん。生徒が困ってるときは助けてあげないと」

仁士が笑った。

「調子いい時だけ教師を名乗る癖、なんとかしたら?」

「それに、あんたら兄弟の力になるのって、悪くない」

私も笑った。

⏰:09/05/11 14:24 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#694 [ゆーちん]
―――

仁士の家から、私の家へと移動した3人。

蕾夢は託児所に行かなくなったので、喜んでいた。

「らいむね、ななみちゃんのおうち、すきー」

私もあんたの笑顔すきー。

「七海ちゃんも蕾夢がおうちに来てくれると嬉しいよん」

⏰:09/05/11 14:27 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#695 [ゆーちん]
「だってね、れおいるもん!」


…おいおい、私がいるからじゃなくってレオ目当てかよ。


「ブッ!」

「笑うな、にいに」

⏰:09/05/11 14:27 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#696 [ゆーちん]
「だって…」

「レオに負けたみたい、私」


まぁ、いいけど。

七海ちゃんは、そんなおちゃめな蕾夢が好きだから。

⏰:09/05/11 14:28 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#697 [ゆーちん]
私の家に着くと、仁士はすぐにバイトへ向かう。

「ありがと。よろしくな」

やっぱり仁士にありがとうを言われると泣きそうになる。

でも、飲み会を抜けて来てよかったって思う。

そんな仁士の笑顔は今日も泥だらけになって来るんだって思うと、喉元がムズムズした。

⏰:09/05/11 14:28 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#698 [ゆーちん]
深夜1時を回った頃、仁士が帰って来た。


「おかー」

「ただー」

「最近の若者は何でも略せばいいと思ってんの?」

「七海が振ったんだろ」

「すぐ人のせいにするぅ」

「それより、起きてたの」

「おん。飲んでた」


ちょっとばかしビールなんか飲んだものだから、酒恋しくなり、蕾夢を寝かせてから一人酒を楽しんでいた。

⏰:09/05/11 14:29 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#699 [ゆーちん]
「酔ってる?」

「全然。なんか今日は酔えない」

「何で?」

「んー、わかんない」

仁士は煙草、私はお酒。

二人して黙りながらテレビを見た。

深夜番組ってなんでこんなに面白いんだろ。

二人でハマっちゃって、気が付けば1時間も経っていた。

⏰:09/05/11 14:30 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#700 [ゆーちん]
「テレビも終わったし、帰るか」

「明日の朝辛いだろうね」

「お互い様な」


仁士はベッドに行き、栄之助を抱き上げた。

起きかけたけど、また仁士の腕の中で眠る。

毎回毎回この瞬間がヒヤヒヤする。

途中で起こしちゃうのが可哀想だから。

⏰:09/05/11 14:30 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#701 [ゆーちん]
玄関で仁士は言った。


蕾夢が起きないように小声で。


「今日は本当助かった」

「最初断ってごめん」

「それは仕方ないから」

「そんな風に思ってなかったくせに」

「え?」

「私が断ったら一気に不機嫌になってた」

⏰:09/05/11 14:31 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#702 [ゆーちん]
「そう?」

「うん」

「それはきっとアレだな」

「何」


背の高い仁士は私を見下ろしながら言う。

「失恋した気分にでもなって、無意識に不機嫌になってたのかも」

「…無意識とかタチ悪い」

⏰:09/05/11 14:31 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#703 [ゆーちん]
言葉や合図はなかった。

そういう雰囲気でもなかった。

なのに蕾夢を抱っこしたままの仁士は、私にキスをした。

この前の下手くそなキスとは大違い。

今日は首も唇も痛くない、優しいキスだった。

⏰:09/05/11 14:33 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#704 [ゆーちん]
「何でこんな事するの?」

「何だその質問。処女か!」

「だって…」

「元若者よ、たくさん悩め」

「…元って何よ。失礼しちゃう」

仁士は笑いながら帰ってった。

⏰:09/05/11 14:33 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#705 [ゆーちん]
あー、酔えない理由わかった。

緊張してたからだ。

仁士が帰った途端、急に酒が体中に巡った気がした。

おかげでベッドに入ってるはずなのに、宙に浮いてるみたいだったよ。

何で仁士に緊張してんの?って疑問は明日考えよう。

今日はもう寝る。

明日は学校だ。

⏰:09/05/11 14:34 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#706 [ゆーちん]
翌朝はひどい頭痛で目が覚めた。

ちょっと寝坊して慌てて用意したせいで、昨日の事を思い出す暇もなかった。

だから学校に着いて仁士を見た時、不意討ちのビンタを食らったような気分になった。

昨日キスしたのは、幻なんかじゃなくって現実だったはず。

あんなに平然でいられると現実だったっていう自信がなくなる。

⏰:09/05/12 08:58 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#707 [ゆーちん]
あぁー、イガイガする!

栄之助、あんた言ったよね?

私と仁士は両想いだ、って。


ちょっくらハッキリさせますか。

いつまでもこのままじゃ嫌。

⏰:09/05/12 08:59 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#708 [ゆーちん]
と、いうわけで4時間目に仁士を更衣室に呼び出した。


「僕、サボるキャラでもないんですけど」

「なーにが、僕よ。僕ってキャラでもないでしょ」

⏰:09/05/12 09:00 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#709 [ゆーちん]
久しぶりの更衣室は寒かった。

屋上に行きたかったけど、今日は天気が悪いからきっとここより寒いだろう。

「どしたのー。オセロでもする?」

まだ何を言われるのかわかってない仁士は、ロッカーに入れているオセロを取り出し、ベンチの上に置いた。

⏰:09/05/12 09:00 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#710 [ゆーちん]
「オセロしながら話す?」

オセロ盤を挟み、私も仁士もベンチに座る。

「何の話だよ」

「…どの話かわかってるくせに。弟が寝てるからって抱っこしながらアレは無いっしょ」

⏰:09/05/12 09:01 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#711 [ゆーちん]
すると仁士は笑った。

やっと気付いたみたい。

「で!元若者はたくさん悩んで、たくさん考えたけど、やっぱりよくわかんない。現若者よ、答えを教えろ!」

「じゃあオセロに勝ったら教えてやるよ。はい、スタート」

⏰:09/05/12 09:02 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#712 [ゆーちん]
と、いうわけでいきなり始まったオセロ勝負。

勝てる!と確信してからの仁士の逆転劇はすごかった。

「はい、七海の負けー」

その笑顔、ムカつく。

「悔しいからもう一回」

「何回やっても結果は一緒」

「…結果とかどうでもいい。勝たなきゃ教えてくんないんでしょ?私、知りたいもん」

⏰:09/05/12 09:03 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#713 [ゆーちん]
仁士といる時に感じる、この息苦しい雰囲気は何なんだろう。

じれったくてイライラする。

「今どき、処女でもそんな発言しないぞ」

「だって私、あんたの先生なんだよ?からかってるなら辞めてくんないと、お互い大変なだけじゃん」

⏰:09/05/12 09:03 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#714 [ゆーちん]
「…栄之助にはキスさせんのに、俺はダメって事?」

あ、不機嫌になった。

「栄之助で学んだんじゃん。いくら教師って仕事が面倒でも、不真面目にキスしてると痛い目に遭うだけだって」

「痛い目って?」

⏰:09/05/12 09:04 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#715 [ゆーちん]
「結局はお互い辛かっただけ」

「…辛かったんだ?」

「ママしてる間は辛いだとか思わなかったんだけど、いざ私から去ってく時はやっぱ辛かったよ」

「それは栄之助を好きだったから?」

「違う。そうじゃない」

⏰:09/05/12 09:04 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#716 [ゆーちん]
なんで栄之助も仁士も、好きだの嫌いだのこだわんのよ。

もぉー、頭爆発しそう。


「その気がないなら、もうからかわないで」

「…」

「あんたとは、友達みたいな感覚で楽しかったのに…キスなんかするから私どう接していいかわかんなくなってきてんの」

⏰:09/05/12 09:05 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#717 [ゆーちん]
仁士は何も言わず、オセロを眺めてた。


「キスしてる時はいいかもしんない。でもその後の私の頭の中ぐちゃぐちゃになんの。あんたは、なんない?」

⏰:09/05/12 09:06 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#718 [ゆーちん]
仁士はゆっくり顔を上げた。

目が合う。

「ぐちゃぐちゃになるよ」

「だったら‥」


真面目な顔は似合わない。

私は、冗談言ってニッて笑うクラス委員長の顔の方が好きだな。

少しばかり眉を下げて、私の言葉を見事に遮り、こう言った。

⏰:09/05/12 09:06 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#719 [ゆーちん]
「嬉しすぎて、ぐちゃぐちゃになるんだよ」

辞めて、栄之助の二の舞になるのは嫌だ。

「そんな嘘、いらない」

「嘘じゃねぇよ。嫌いな奴にキスしたりもしないし、幼なじみとキスしてイチャついてる所見てヤキモチ妬いたりもしない」

⏰:09/05/12 09:07 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#720 [ゆーちん]
「もう…そんな事聞きたいんじゃない!あんたは私をどうしたいのよ!」

回りくどい事をせずに最初からこう聞けばよかったものの、冷静を装うのに必死で変に遠回りする言葉を選んでいた。

もう冷静なんて保っていられるわけもなく、気付いたら半泣きになりながら叫んでた。

⏰:09/05/12 09:07 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#721 [ゆーちん]
早く仁士の返事が聞きたいのに、何にも言わないで私を見ているだけだった。

ムカつく、本当ムカつく。

何で私があんたごときに半泣きにされなきゃなんないの。

「聞いてんの?あんたは、私を、どうし‥っ」

⏰:09/05/12 09:08 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#722 [ゆーちん]
オセロがベンチの上から勢いよく落ちた。

それと言うのも、私が引っ張られたからだ。

私が仁士の腕の中に無理矢理引っ張り込まれたせいで、オセロは落ちてしまった。

「どうしたいか言えば、その望みは叶えてくれんの?」

⏰:09/05/12 09:09 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#723 [ゆーちん]
痛い。

体も痛いし、心臓だって痛い。

こいつは人を抱き締める力の加減ってもんができないの?

でも心臓が痛いのは、また別の理由だって事…気付かないフリしてる私が嫌い。

⏰:09/05/12 09:09 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#724 [ゆーちん]
「…離して」

「離しちゃったら、お前泣くじゃん」

「もう泣かしてる」

仁士の制服が濡れた。

化粧が滲んで、汚れも付いた。


「どうしたいもこうしたいも、もうお前だってわかってんじゃねぇの?」

⏰:09/05/12 09:11 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#725 [ゆーちん]
「…わかんない」

「あえて言うなら、あと10年早く生まれたかった」


もっと濡れたし、もっと汚れた。


「私はあと10年遅く生まれたかった」

⏰:09/05/12 09:12 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#726 [ゆーちん]
栄之助、認めるよ。

私は仁士が好きなんだ。

私が教師じゃなかったら、仁士が生徒じゃなかったら…。


「もうやだ」

「俺もやだ」

「こんなガキんちょのどこがいいのか自分でもわかんないよ」

「俺だってこんな色気の無いババァのどこに惚れちゃったんだろ」

⏰:09/05/12 09:12 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#727 [ゆーちん]
理由を考えるのは辞め。

もう頭は爆発した。

優しいキスはどこにもなくって、無我夢中にお互いの欲を重ね合った。

この前、歯をぶつけて怪我した唇が少しだけ疼く。

⏰:09/05/12 09:13 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#728 [ゆーちん]
「…さっきの休み時間、煙草吸ったでしょ」

だってキスが苦いから。

「緊張ほぐすのにね」

ふーん、緊張してたんだ。

私もだよ。

⏰:09/05/12 09:13 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#729 [ゆーちん]
「どこで吸ったの?」

「秘密」

「あんまり無茶してるとバレるよ。委員長が喫煙で謹慎なんて助けようが無いから」

「…もう、そういうの辞めよ。俺といる時は教師とか生徒とか忘れたい」

「無理だよ。どうあがいてもやっぱり私は教師で、あんたは生徒。結ばれる運命じゃない」

⏰:09/05/12 09:14 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#730 [ゆーちん]
だったら何でキスしたんだろう。

言動が矛盾してるよ、私。

「俺と付き合うのは不可能な事なんだ?」

頷いた。

⏰:09/05/12 09:15 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#731 [ゆーちん]
「両想いでも?」

頷いた。

「好きなのに?」

どうしよう、頷けない。

好きなのに付き合えないパターンなんて柴田七海の人生には初めての事だから、すぐに頭が回らないの。

⏰:09/05/12 09:15 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#732 [ゆーちん]
「ごめん、私そんなに器用じゃない」

「栄之助に油売ってた時は器用に過ごしてた」

「栄之助への好きと、あんたへの好きは違うの。わかるでしょ?」

⏰:09/05/12 09:16 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#733 [ゆーちん]
仁士はよりいっそう抱きしめる力を強めた。

「…無理」

「無理って言われても、私だって無理だよ。もう頭爆発して再起動に時間掛かりすぎる」

「…年中無休で爆発してるくせに」

「愛の言葉を囁きながら、喧嘩売るのが得意なの?」

⏰:09/05/12 09:16 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#734 [ゆーちん]
この状況でまだ冗談ぶっかませる余裕があるなら、私なんかいなくても大丈夫でしょ。


「仁士には仁士の未来がある。私みたいなババァに十代の貴重な時間使うのは勿体ないよ。元十代が言うんだから間違いない」

⏰:09/05/12 09:17 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#735 [ゆーちん]
「お互い好き同士なのに付き合えないって事を学んだ十代の傷は、俺の心から一生消えないんだろうな」

「…だって、仕方ないじゃん。私は仁士が好きだから、お互いの為を思って言ってるの」

「教師と生徒が付き合うのって、そんなに不可能な事なの?」

「…うん。私は17の男のママをする不真面目さはあっても、真剣な恋をする真面目さはない。仁士と付き合っていける自信がないんだよ」

⏰:09/05/12 09:17 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#736 [ゆーちん]
仁士は、私から離れた。


体が冷たい風に抱かれる。


仁士の腕が恋しくなるけど、自分で選んだ道だ。

戻れない。

⏰:09/05/12 09:18 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#737 [ゆーちん]
―――

あれからどうなったかって?

仁士は苦しそうな顔をして更衣室から出てったよ。

私は泣いた。

久しぶりに恋愛絡みで泣いた。

泣いて泣いて、しっかりしなきゃって自分に喝入れた。

⏰:09/05/12 09:23 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#738 [ゆーちん]
でも、放課後にあった職員会議の内容なんか全く覚えてないくらい、頭の再起動には時間がかかった。

家に帰り、レオを抱き締めて眠った。

涙が勝手に流れてた。

⏰:09/05/12 09:23 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#739 [まあ]
気になリます

⏰:09/05/13 20:16 📱:D904i 🆔:XB6F8LH6


#740 [ゆーちん]
>>739まあさん

今から更新します

⏰:09/05/14 09:54 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#741 [ゆーちん]
翌日、そのまた翌日、そのまたまた翌日…あの日から3日目の今日まで、まだ一度も仁士とは話してない。

学校には来てるみたいだけど、私の授業の時にはいなかった。

どうやら仁士は栄之助に私の事を言ったらしく、栄之助まで私を避けた。

⏰:09/05/14 09:55 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#742 [ゆーちん]
栄之助は背中を押してくれた人だから、ちゃんと報告を兼ねて話がしたいのに、私が話しかけようとすると上手く姿を消すんだ。


ねぇ私、17の男の子に避けられるだなんて、去年の今頃想像なんかした?

しなかったよね。

どうすればいいのか、わかんないよね…。

⏰:09/05/14 09:55 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#743 [ゆーちん]
「ななみん、バイバーイ」

「バイバイ、また明日」

放課後は学校中が一気に賑やかになる。

期末テストが終わり、結果が知らされ、留年なのか補習なのか進学なのか、それぞれがやるべき事をやらなければいけない春休み前。

⏰:09/05/14 09:56 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#744 [ゆーちん]
無事に春休みを迎えられる仁士、補習を受けないと進学できない栄之助。

放課後、その二人に呼び出された。

私が今やらなきゃいけない事は、呼び出された更衣室に行く事だ。

バックレたりせず、素直に呼び出しに従う。

⏰:09/05/14 09:56 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#745 [ゆーちん]
ガチャ…

「女子更衣室に男子生徒が2人も侵入してる」

栄之助は笑ってたけど、仁士はいつもながらのクール顔って感じ。

てゆーか仁士の顔をまじまじと見るのが久しぶりすぎて、心臓バクバク。

⏰:09/05/14 09:57 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#746 [ゆーちん]
「今日だけはママって呼んじゃうから」

「…別にいいけど」

猿スマイルは、私の心にちょっとばかしの余裕をくれる。

「ここで二人が愛を確認しあったのは、仁士から聞いた。俺の言った通り、両想いだったでしょ?」

⏰:09/05/14 09:57 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#747 [ゆーちん]
私と仁士からは【気まずい】オーラ発生させまくってるのに、栄之助は空気を読むのが下手くそなのか、空気を読んであえての行為なのか…むちゃくちゃ明るく会話を進める。

「何で好き同士なのに付き合わないの?」

⏰:09/05/14 09:58 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#748 [ゆーちん]
「それは私と仁士が‥」

「教師と生徒だから、って答え以外で」

「それ以外に理由は…」

「無いんだ」

私は頷いた。

仁士は何も言わず、栄之助の隣で座っているだけ。

息苦しいよ、何か喋ってよ、ねぇ仁士。

⏰:09/05/14 09:59 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#749 [ゆーちん]
「その教師と生徒が付き合うのは、不可能ってママは仁士に言ったんだよね?」

「そうだよ」

「不可能ねぇ…」

すると栄之助は、私に正方形の板を手渡した。

カラフルな板には、升目が入っている。

⏰:09/05/14 09:59 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#750 [ゆーちん]
「何これ」

「よーく思い出して。文化祭1日目に3人でここでオセロした事」

年取ると、記憶力は低下する。

どうでもいいって判断した出来事だったら尚更覚えてない。

でも私の脳は、どうでもいいって判断しなかったらしく、ちゃんと記憶してくれていた。

⏰:09/05/14 10:00 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


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