虹色のオセロ
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#701 [ゆーちん]
玄関で仁士は言った。


蕾夢が起きないように小声で。


「今日は本当助かった」

「最初断ってごめん」

「それは仕方ないから」

「そんな風に思ってなかったくせに」

「え?」

「私が断ったら一気に不機嫌になってた」

⏰:09/05/11 14:31 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#702 [ゆーちん]
「そう?」

「うん」

「それはきっとアレだな」

「何」


背の高い仁士は私を見下ろしながら言う。

「失恋した気分にでもなって、無意識に不機嫌になってたのかも」

「…無意識とかタチ悪い」

⏰:09/05/11 14:31 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#703 [ゆーちん]
言葉や合図はなかった。

そういう雰囲気でもなかった。

なのに蕾夢を抱っこしたままの仁士は、私にキスをした。

この前の下手くそなキスとは大違い。

今日は首も唇も痛くない、優しいキスだった。

⏰:09/05/11 14:33 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#704 [ゆーちん]
「何でこんな事するの?」

「何だその質問。処女か!」

「だって…」

「元若者よ、たくさん悩め」

「…元って何よ。失礼しちゃう」

仁士は笑いながら帰ってった。

⏰:09/05/11 14:33 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#705 [ゆーちん]
あー、酔えない理由わかった。

緊張してたからだ。

仁士が帰った途端、急に酒が体中に巡った気がした。

おかげでベッドに入ってるはずなのに、宙に浮いてるみたいだったよ。

何で仁士に緊張してんの?って疑問は明日考えよう。

今日はもう寝る。

明日は学校だ。

⏰:09/05/11 14:34 📱:SH901iC 🆔:0u6kOFR2


#706 [ゆーちん]
翌朝はひどい頭痛で目が覚めた。

ちょっと寝坊して慌てて用意したせいで、昨日の事を思い出す暇もなかった。

だから学校に着いて仁士を見た時、不意討ちのビンタを食らったような気分になった。

昨日キスしたのは、幻なんかじゃなくって現実だったはず。

あんなに平然でいられると現実だったっていう自信がなくなる。

⏰:09/05/12 08:58 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#707 [ゆーちん]
あぁー、イガイガする!

栄之助、あんた言ったよね?

私と仁士は両想いだ、って。


ちょっくらハッキリさせますか。

いつまでもこのままじゃ嫌。

⏰:09/05/12 08:59 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#708 [ゆーちん]
と、いうわけで4時間目に仁士を更衣室に呼び出した。


「僕、サボるキャラでもないんですけど」

「なーにが、僕よ。僕ってキャラでもないでしょ」

⏰:09/05/12 09:00 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#709 [ゆーちん]
久しぶりの更衣室は寒かった。

屋上に行きたかったけど、今日は天気が悪いからきっとここより寒いだろう。

「どしたのー。オセロでもする?」

まだ何を言われるのかわかってない仁士は、ロッカーに入れているオセロを取り出し、ベンチの上に置いた。

⏰:09/05/12 09:00 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#710 [ゆーちん]
「オセロしながら話す?」

オセロ盤を挟み、私も仁士もベンチに座る。

「何の話だよ」

「…どの話かわかってるくせに。弟が寝てるからって抱っこしながらアレは無いっしょ」

⏰:09/05/12 09:01 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#711 [ゆーちん]
すると仁士は笑った。

やっと気付いたみたい。

「で!元若者はたくさん悩んで、たくさん考えたけど、やっぱりよくわかんない。現若者よ、答えを教えろ!」

「じゃあオセロに勝ったら教えてやるよ。はい、スタート」

⏰:09/05/12 09:02 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#712 [ゆーちん]
と、いうわけでいきなり始まったオセロ勝負。

勝てる!と確信してからの仁士の逆転劇はすごかった。

「はい、七海の負けー」

その笑顔、ムカつく。

「悔しいからもう一回」

「何回やっても結果は一緒」

「…結果とかどうでもいい。勝たなきゃ教えてくんないんでしょ?私、知りたいもん」

⏰:09/05/12 09:03 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#713 [ゆーちん]
仁士といる時に感じる、この息苦しい雰囲気は何なんだろう。

じれったくてイライラする。

「今どき、処女でもそんな発言しないぞ」

「だって私、あんたの先生なんだよ?からかってるなら辞めてくんないと、お互い大変なだけじゃん」

⏰:09/05/12 09:03 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#714 [ゆーちん]
「…栄之助にはキスさせんのに、俺はダメって事?」

あ、不機嫌になった。

「栄之助で学んだんじゃん。いくら教師って仕事が面倒でも、不真面目にキスしてると痛い目に遭うだけだって」

「痛い目って?」

⏰:09/05/12 09:04 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#715 [ゆーちん]
「結局はお互い辛かっただけ」

「…辛かったんだ?」

「ママしてる間は辛いだとか思わなかったんだけど、いざ私から去ってく時はやっぱ辛かったよ」

「それは栄之助を好きだったから?」

「違う。そうじゃない」

⏰:09/05/12 09:04 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#716 [ゆーちん]
なんで栄之助も仁士も、好きだの嫌いだのこだわんのよ。

もぉー、頭爆発しそう。


「その気がないなら、もうからかわないで」

「…」

「あんたとは、友達みたいな感覚で楽しかったのに…キスなんかするから私どう接していいかわかんなくなってきてんの」

⏰:09/05/12 09:05 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#717 [ゆーちん]
仁士は何も言わず、オセロを眺めてた。


「キスしてる時はいいかもしんない。でもその後の私の頭の中ぐちゃぐちゃになんの。あんたは、なんない?」

⏰:09/05/12 09:06 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#718 [ゆーちん]
仁士はゆっくり顔を上げた。

目が合う。

「ぐちゃぐちゃになるよ」

「だったら‥」


真面目な顔は似合わない。

私は、冗談言ってニッて笑うクラス委員長の顔の方が好きだな。

少しばかり眉を下げて、私の言葉を見事に遮り、こう言った。

⏰:09/05/12 09:06 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#719 [ゆーちん]
「嬉しすぎて、ぐちゃぐちゃになるんだよ」

辞めて、栄之助の二の舞になるのは嫌だ。

「そんな嘘、いらない」

「嘘じゃねぇよ。嫌いな奴にキスしたりもしないし、幼なじみとキスしてイチャついてる所見てヤキモチ妬いたりもしない」

⏰:09/05/12 09:07 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#720 [ゆーちん]
「もう…そんな事聞きたいんじゃない!あんたは私をどうしたいのよ!」

回りくどい事をせずに最初からこう聞けばよかったものの、冷静を装うのに必死で変に遠回りする言葉を選んでいた。

もう冷静なんて保っていられるわけもなく、気付いたら半泣きになりながら叫んでた。

⏰:09/05/12 09:07 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#721 [ゆーちん]
早く仁士の返事が聞きたいのに、何にも言わないで私を見ているだけだった。

ムカつく、本当ムカつく。

何で私があんたごときに半泣きにされなきゃなんないの。

「聞いてんの?あんたは、私を、どうし‥っ」

⏰:09/05/12 09:08 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#722 [ゆーちん]
オセロがベンチの上から勢いよく落ちた。

それと言うのも、私が引っ張られたからだ。

私が仁士の腕の中に無理矢理引っ張り込まれたせいで、オセロは落ちてしまった。

「どうしたいか言えば、その望みは叶えてくれんの?」

⏰:09/05/12 09:09 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#723 [ゆーちん]
痛い。

体も痛いし、心臓だって痛い。

こいつは人を抱き締める力の加減ってもんができないの?

でも心臓が痛いのは、また別の理由だって事…気付かないフリしてる私が嫌い。

⏰:09/05/12 09:09 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#724 [ゆーちん]
「…離して」

「離しちゃったら、お前泣くじゃん」

「もう泣かしてる」

仁士の制服が濡れた。

化粧が滲んで、汚れも付いた。


「どうしたいもこうしたいも、もうお前だってわかってんじゃねぇの?」

⏰:09/05/12 09:11 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#725 [ゆーちん]
「…わかんない」

「あえて言うなら、あと10年早く生まれたかった」


もっと濡れたし、もっと汚れた。


「私はあと10年遅く生まれたかった」

⏰:09/05/12 09:12 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#726 [ゆーちん]
栄之助、認めるよ。

私は仁士が好きなんだ。

私が教師じゃなかったら、仁士が生徒じゃなかったら…。


「もうやだ」

「俺もやだ」

「こんなガキんちょのどこがいいのか自分でもわかんないよ」

「俺だってこんな色気の無いババァのどこに惚れちゃったんだろ」

⏰:09/05/12 09:12 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#727 [ゆーちん]
理由を考えるのは辞め。

もう頭は爆発した。

優しいキスはどこにもなくって、無我夢中にお互いの欲を重ね合った。

この前、歯をぶつけて怪我した唇が少しだけ疼く。

⏰:09/05/12 09:13 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#728 [ゆーちん]
「…さっきの休み時間、煙草吸ったでしょ」

だってキスが苦いから。

「緊張ほぐすのにね」

ふーん、緊張してたんだ。

私もだよ。

⏰:09/05/12 09:13 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#729 [ゆーちん]
「どこで吸ったの?」

「秘密」

「あんまり無茶してるとバレるよ。委員長が喫煙で謹慎なんて助けようが無いから」

「…もう、そういうの辞めよ。俺といる時は教師とか生徒とか忘れたい」

「無理だよ。どうあがいてもやっぱり私は教師で、あんたは生徒。結ばれる運命じゃない」

⏰:09/05/12 09:14 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#730 [ゆーちん]
だったら何でキスしたんだろう。

言動が矛盾してるよ、私。

「俺と付き合うのは不可能な事なんだ?」

頷いた。

⏰:09/05/12 09:15 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#731 [ゆーちん]
「両想いでも?」

頷いた。

「好きなのに?」

どうしよう、頷けない。

好きなのに付き合えないパターンなんて柴田七海の人生には初めての事だから、すぐに頭が回らないの。

⏰:09/05/12 09:15 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#732 [ゆーちん]
「ごめん、私そんなに器用じゃない」

「栄之助に油売ってた時は器用に過ごしてた」

「栄之助への好きと、あんたへの好きは違うの。わかるでしょ?」

⏰:09/05/12 09:16 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#733 [ゆーちん]
仁士はよりいっそう抱きしめる力を強めた。

「…無理」

「無理って言われても、私だって無理だよ。もう頭爆発して再起動に時間掛かりすぎる」

「…年中無休で爆発してるくせに」

「愛の言葉を囁きながら、喧嘩売るのが得意なの?」

⏰:09/05/12 09:16 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#734 [ゆーちん]
この状況でまだ冗談ぶっかませる余裕があるなら、私なんかいなくても大丈夫でしょ。


「仁士には仁士の未来がある。私みたいなババァに十代の貴重な時間使うのは勿体ないよ。元十代が言うんだから間違いない」

⏰:09/05/12 09:17 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#735 [ゆーちん]
「お互い好き同士なのに付き合えないって事を学んだ十代の傷は、俺の心から一生消えないんだろうな」

「…だって、仕方ないじゃん。私は仁士が好きだから、お互いの為を思って言ってるの」

「教師と生徒が付き合うのって、そんなに不可能な事なの?」

「…うん。私は17の男のママをする不真面目さはあっても、真剣な恋をする真面目さはない。仁士と付き合っていける自信がないんだよ」

⏰:09/05/12 09:17 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#736 [ゆーちん]
仁士は、私から離れた。


体が冷たい風に抱かれる。


仁士の腕が恋しくなるけど、自分で選んだ道だ。

戻れない。

⏰:09/05/12 09:18 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#737 [ゆーちん]
―――

あれからどうなったかって?

仁士は苦しそうな顔をして更衣室から出てったよ。

私は泣いた。

久しぶりに恋愛絡みで泣いた。

泣いて泣いて、しっかりしなきゃって自分に喝入れた。

⏰:09/05/12 09:23 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#738 [ゆーちん]
でも、放課後にあった職員会議の内容なんか全く覚えてないくらい、頭の再起動には時間がかかった。

家に帰り、レオを抱き締めて眠った。

涙が勝手に流れてた。

⏰:09/05/12 09:23 📱:SH901iC 🆔:yWNcT3eQ


#739 [まあ]
気になリます

⏰:09/05/13 20:16 📱:D904i 🆔:XB6F8LH6


#740 [ゆーちん]
>>739まあさん

今から更新します

⏰:09/05/14 09:54 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#741 [ゆーちん]
翌日、そのまた翌日、そのまたまた翌日…あの日から3日目の今日まで、まだ一度も仁士とは話してない。

学校には来てるみたいだけど、私の授業の時にはいなかった。

どうやら仁士は栄之助に私の事を言ったらしく、栄之助まで私を避けた。

⏰:09/05/14 09:55 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#742 [ゆーちん]
栄之助は背中を押してくれた人だから、ちゃんと報告を兼ねて話がしたいのに、私が話しかけようとすると上手く姿を消すんだ。


ねぇ私、17の男の子に避けられるだなんて、去年の今頃想像なんかした?

しなかったよね。

どうすればいいのか、わかんないよね…。

⏰:09/05/14 09:55 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#743 [ゆーちん]
「ななみん、バイバーイ」

「バイバイ、また明日」

放課後は学校中が一気に賑やかになる。

期末テストが終わり、結果が知らされ、留年なのか補習なのか進学なのか、それぞれがやるべき事をやらなければいけない春休み前。

⏰:09/05/14 09:56 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#744 [ゆーちん]
無事に春休みを迎えられる仁士、補習を受けないと進学できない栄之助。

放課後、その二人に呼び出された。

私が今やらなきゃいけない事は、呼び出された更衣室に行く事だ。

バックレたりせず、素直に呼び出しに従う。

⏰:09/05/14 09:56 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#745 [ゆーちん]
ガチャ…

「女子更衣室に男子生徒が2人も侵入してる」

栄之助は笑ってたけど、仁士はいつもながらのクール顔って感じ。

てゆーか仁士の顔をまじまじと見るのが久しぶりすぎて、心臓バクバク。

⏰:09/05/14 09:57 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#746 [ゆーちん]
「今日だけはママって呼んじゃうから」

「…別にいいけど」

猿スマイルは、私の心にちょっとばかしの余裕をくれる。

「ここで二人が愛を確認しあったのは、仁士から聞いた。俺の言った通り、両想いだったでしょ?」

⏰:09/05/14 09:57 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#747 [ゆーちん]
私と仁士からは【気まずい】オーラ発生させまくってるのに、栄之助は空気を読むのが下手くそなのか、空気を読んであえての行為なのか…むちゃくちゃ明るく会話を進める。

「何で好き同士なのに付き合わないの?」

⏰:09/05/14 09:58 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#748 [ゆーちん]
「それは私と仁士が‥」

「教師と生徒だから、って答え以外で」

「それ以外に理由は…」

「無いんだ」

私は頷いた。

仁士は何も言わず、栄之助の隣で座っているだけ。

息苦しいよ、何か喋ってよ、ねぇ仁士。

⏰:09/05/14 09:59 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#749 [ゆーちん]
「その教師と生徒が付き合うのは、不可能ってママは仁士に言ったんだよね?」

「そうだよ」

「不可能ねぇ…」

すると栄之助は、私に正方形の板を手渡した。

カラフルな板には、升目が入っている。

⏰:09/05/14 09:59 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


#750 [ゆーちん]
「何これ」

「よーく思い出して。文化祭1日目に3人でここでオセロした事」

年取ると、記憶力は低下する。

どうでもいいって判断した出来事だったら尚更覚えてない。

でも私の脳は、どうでもいいって判断しなかったらしく、ちゃんと記憶してくれていた。

⏰:09/05/14 10:00 📱:SH901iC 🆔:UWYIjbJY


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