吸血鬼死重奏
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#69 [渚坂]

突きに体重をかけていた綾辻は突きをかわされたことで多少足元が覚束なくなっていたが、間合いを取りながら私にも聞こえるほどの反抗的な舌打ちを零した。


「今度はこちらの番だな」

魔王の低くかすれた声が辺りに響く。誰太君の声はこんなにかすれてはいない。その違和感が私の恐怖心をさらに煽る。

⏰:09/07/25 10:48 📱:F905i 🆔:igwP.4vA


#70 [渚坂]

今度は魔王が地面を蹴り、一瞬にして綾辻との間合いを積めた。そして間髪入れずに魔王の右拳が綾辻の鳩尾へ。その鮮やかすぎる手捌きに、私は叫ぶのも忘れて思わず息を呑んだ。


「ゔ、がぁ――」


たった一撃で綾辻は小さい嗚咽と共に地面へと両膝から崩れ落ちてしまった。

⏰:09/07/25 10:48 📱:F905i 🆔:igwP.4vA


#71 [渚坂]


「情けない。たった一撃で終わってしまうとは……」

ふぅ、とため息をついて魔王は頭を横に振る。振り乱された髪はより一層ぐちゃぐちゃにされ、前髪からのぞく瞳には明らかに落胆の色が見えた。

続いて魔王は自身のひざを曲げ、片膝を着くような形で倒れている綾辻の顔を覗き込む。

⏰:09/08/05 18:50 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#72 [渚坂]


「死んだか?つまらん……」


その一言に私の中で沸き上がっていたある感情が沸点へと達した。一気に体温が上昇し、頭に血が上る。目の前がチカチカして視野はみるみる狭くなっていく。

今では魔王しか目に入らない。

⏰:09/08/05 18:51 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#73 [渚坂]


そして気付いたときには右足が地面を蹴り上げ、体は風を一身に受けていた。

「うわぁぁぁああ!!!!」

よくも綾辻を……。綾辻を!!
もちろん人間の私が“魔王”に勝てるはずがないのは分かってる。

“ヤメナサイ”

“ニゲナサイ”

“ナニガシタイノ?”

心の隅でもう一人の私が制止をかけるのだが、それ以上に熱い感情が私を突き動かす。友達が、私の大切な人を見捨てて逃げるなんで私には出来ない。

⏰:09/08/05 18:52 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#74 [渚坂]


「そちらから来ていただけるなんて有り難い。遠慮なく血を啜らせていただくぞ」


両手を広げ、ニヤリと笑う口から必要以上に尖った牙をむく魔王。その表情に一瞬だけ背筋が凍る。だけど、立ち止まってなんかいられない……!!

⏰:09/08/05 18:52 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#75 [渚坂]


チャンスは一度。
誰太君の懐に入ったその一瞬のみ。急かされるようにせわしなく足を動かしながらポケットから護身用の小さな金色の十字架を取り出す。

これは入学した誰もに渡されるただの備品。
吸血鬼の生徒たちには十字架になれるために渡されたようだが、今の私にはどんなものより心強い武器となっていた。

⏰:09/08/05 18:53 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#76 [渚坂]


感想お待ちしてます(^ω^)

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4482/

⏰:09/08/05 18:54 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#77 [渚坂]


……十字架なんて必要ないと馬鹿にした私が馬鹿でした。まさかこれがこんな風に役立つ日がくるなんて、ね。


私自身の体重を乗せて尖った部分を胸部に振り下ろせば、魔王の動きを鈍らせることぐらいできるだろう。

⏰:09/08/16 23:58 📱:F905i 🆔:Lqbduplk


#78 [渚坂]


魔王との距離はあと数メートル。

じわじわと手を濡らす汗で滑り落ちそうになる十字架を強く握りなおす。


「っ……!」


そして私は勢いよく“三國 誰太”の懐に体当たりしたが、もちろん私ごときの勢いで誰太君がよろめくわけもなく、逆に顎を捕まれ腰を引き寄せられた。端から見れば、まるでキスでもされそうな構図である。


……もう、逃げられない。

でも、これでいい。

⏰:09/08/16 23:59 📱:F905i 🆔:Lqbduplk


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