死に至る病
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#201 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「そんなぁぁ、渉クンには血も涙もない鬼畜だぁぁ。何だよ何だよ、直央ちゃんのお願いならホイホイきくくせにさ。お願いだよ、毎月ぷにたんグッズあげるから」

なんたるごり押し。

今なら洗剤二つつけます、みたいな新聞勧誘のごとくしつこい入会勧誘だった。

⏰:09/08/14 19:28 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#202 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
おねだりポーズでせめ寄るりこの額をぐいぐい押し返す僕に、早紀さんが静かに言った。


「…りこさんが必死なのには、ちゃんとわけがあるんです」

無表情のまま早紀さんは続けた。

⏰:09/08/14 19:30 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#203 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「とにかく人数が必要なんです。夏の生徒総会予算案までに、部活として認められる最低限の部員を集めれば、正式な部活として認められるまたとないチャンスです」

「正式になると、ミステリーの宣伝以外のお得があるの?」

直央は訊いた。

早紀さんが頷く。

⏰:09/08/14 19:31 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#204 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「はい。正式な部活に認められると、原則的に部活運営費が支給されます。費用は生徒総会予算案で決定されるので、これが最低のデッドラインになります。
この日までに部活をかき集めて、さらに顧問も依頼しなくてはいけません。すごく大変ですよ」

りこはそうだそうだとテーブルを叩き盛り上がっていた。

僕も質問する。

⏰:09/08/14 20:58 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#205 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「でも、正式に認められるとか顧問とかは別として、部活運営費はなにに使うんだよ。…りこ、おまえまさか、ぼったくるわけじゃないだろうなぁ?」

「し、失礼だね。あたしはそこまで落ちぶれてないよ。図書室にミステリー小説を増刊するのに使うのー」

案外まともな答えに、僕はむっと口をつぐんだ。

入会を断る理由はなかった。

⏰:09/08/14 23:38 📱:N03A 🆔:L2gBWe92


#206 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
りこや早紀さんの助けになりたいし、彼女らの意見は立派だった。

あと一押し、必要だった。

そういうしどろもどろな感情を嗅ぎとるのが、直央は特別鋭かった。

僕にたいしては特にだ。

⏰:09/08/15 15:07 📱:N03A 🆔:OoTeDIrc


#207 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央が僕に、ねぇと呟いた。

「渉ちゃん、入るよね?」

入会前提の問いかけに、僕はそうだねと頷いた。

にっこり笑う直央。

渉ちゃんが困っているりこちゃんを見捨てるわけがない。

⏰:09/08/15 15:10 📱:N03A 🆔:OoTeDIrc


#208 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
彼女は最初から、僕がりこを助けるため入会すると確信していたに違いなかった。

僕達の入会に、りこは大喜びだった。

最低限の人数が集まった、次は正式に部活として認めさせることが必要だった。

⏰:09/08/15 16:27 📱:N03A 🆔:OoTeDIrc


#209 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
新人二人を交え、打ち合わせは夜まで続いた。

司会はりこ、まとめ役は早紀さんでつまづくことなく円滑に計画は練られていった。


まとめると、まず生徒会にのりこみ意見をぶつけ、生徒側からじわじわと学校にミス会の意義を訴える。

僕と直央は、同時進行で教師に協力を呼びかけ味方をつける。

⏰:09/08/15 18:13 📱:N03A 🆔:OoTeDIrc


#210 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ビラ作り、配布交渉は湊(本人の同意なしにりこが決定)。

打ち合わせは昼休みに決定した。

放課後は学生らしく、受験勉強に励むためだった。

攻撃準備は万全、実践あるのみ。

⏰:09/08/15 20:40 📱:N03A 🆔:OoTeDIrc


#211 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
今夜更新します(^O^)/

⏰:09/08/16 19:02 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#212 [chimu◆Hi9o8eIXuA]



静かな戦争が始まった。


早速りこと早紀さんは生徒会にミステリー同好会の意義をぶつけ、少なくない多数の支持を受けた。

さらには図書委員会と協力し、大々的な宣伝をした。

湊は地味ながらも、着実に支持者を増やしていった。

⏰:09/08/16 20:34 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#213 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕と直央も負けてられない。

片っ端から教師をあたり、意見をぶつけて、支持増やしもかねて情報収集に励んだ。


しかし、そう簡単に大人は折れてくれない。

⏰:09/08/16 20:35 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#214 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
必ず同じ壁にぶつかった。

予算を削って費用をだすからには、教師一人一人の一個人ではどうにもならないというのだった。


金は学校から出る。

学校を説得させないかぎり、僕達の願いは叶わないらしい。

⏰:09/08/16 21:36 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#215 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
今日もまた、僕と直央は笹原先生のもとに訪ねていた。


なにか打開策はないのか。

意見をぶつけると、困ったわねぇと渋る笹原先生に、焦りといきどおりを感じる。

⏰:09/08/16 21:50 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#216 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「笹原先生、予算案までになんとかならないでしょうか」

直央が訊いた。

理科準備室にこもる薬品の臭いが鼻をつく。

「先生もミステリー同好会はぜひつくって欲しいと思うわ。…思うけど、先生だけじゃどうにもならないわねぇ……。うーん…」

⏰:09/08/16 21:51 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#217 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
さっきからこの繰り返しで、話は一向に進展しない。


僕は笹原先生に訊いた。

「先生から学校側に訴えることはできないんですか?」

笹原先生は低く唸った。

⏰:09/08/16 21:52 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#218 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ストレートにいうわね。うーん、動かなければ何も進展しないからね、……分かったわ、交渉してみましょう。だけどあんまり過度に期待はしないように」


そう言いつつも、数日後、笹原先生は僕達に生徒会との話し合いの場をもうけてくれた。

代表者として、ミステリー同好会からはりこと僕がでることになった。

数人の教師も参加し、話し合いの行方を見守ることとなった。

⏰:09/08/16 21:53 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#219 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
話し合いが始まると、生徒会長がまず僕達にミステリー同好会の意義をあげるよう求めた。

りこは凛として答えた。


生徒はもっともだと誰もが頷く。

頷かないのは、教師だけ。

⏰:09/08/16 21:55 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#220 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「……以上のことから、ミステリー同好会への入会を希望する生徒は多数います。図書室へのミステリー小説入荷を除けば、他の部活動より低コストです」

「ありがとうございます。峰先生の挙手です。峰先生、どうぞ」


峰先生が座ったまま、口元に薄い笑みを浮かべて言った。

⏰:09/08/16 21:58 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#221 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「今までの主張では、先を急いでいますが、創部は今すぐに、でなくてはいけないのですか?」

「はい」

りこは答えた。


峰先生は困ったように頭をかいた。

⏰:09/08/16 22:07 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#222 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「難しいですよ。予算案間近ということで、いろいろと。あと半年かけてゆっくりとではいけないはっきりした理由を求めます」

生徒会長が相づちをうつ。


「それでは、理由の提示を求めます。どうぞ。」



ほんの一瞬、りこが目を泳がせて戸惑ったのが分かった。

⏰:09/08/16 22:07 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#223 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
りこは打たれ弱い。

ミステリー同好会の一員のはしくれとして、サポートしてやらなければいけない。


僕は迷いなく、挙手した。

りこが驚く。

⏰:09/08/16 22:10 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#224 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「僕達3年が卒業するからです。付けくわえ、春につくられた漫画研究会は半年も待ちませんでした、どういうことですか」


ややあって峰先生が挙手した。

「漫画研究会は前もって創部を予定していたからです」

「どうにかなりませんか」

⏰:09/08/16 22:56 📱:N03A 🆔:PPlF0EU.


#225 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「んー、気持ちは分かるけど学校側の許可が、ねぇ……」

「失礼ですが、学校とは先生方のことではないですか?」



生徒会室がしんと静まった。

生徒会長が恐る恐る峰先生を見た。

⏰:09/08/17 00:29 📱:N03A 🆔:AYXChSt2


#226 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
参った参ったと、峰先生が豪快に笑った。


そして、言った。

「よろしい。君たちの熱意を認め、私がなんとかしましょう。」


ようやくの支持宣言。

りこが小さくガッツポーズをした。

⏰:09/08/17 01:02 📱:N03A 🆔:AYXChSt2


#227 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
話し合いがお開きになり、僕達は真っ先に早紀さんや直央に嬉しい結果報告をした。

二人は抱き合って喜んだ。


普段感情を表さない早紀さんが、満天の笑顔をほころばせていた。

⏰:09/08/17 01:16 📱:N03A 🆔:AYXChSt2


#228 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
彼女は誰よりも努力した。

倍は動き回って、考えて、心からミステリー同好会を実現しようとしていた。

そのぶん、彼女の笑顔は輝いていた。

⏰:09/08/17 21:26 📱:N03A 🆔:AYXChSt2


#229 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
努力した後の成果は、言葉にできないほどの達成感をもつ。


例え努力が実らなくても、努力しないよりは断然いい。

後悔はなるべく残さないように生きていかなければならない。

努力すれば、少なくとも、努力しなかった後悔は生まれない。


まあこれは、
親の受け売りだけど。

⏰:09/08/18 15:36 📱:N03A 🆔:wAGIFEYA


#230 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
数日後、無事にミステリー同好会が学校側に認められた。

それは同時に、僕達の努力が認められたことでもあった。


記念すべきその日は、りこの家でお祝いパーティーをした。

飲んで、食べて、騒いで、日が暮れるまでパーティーは続いた。

⏰:09/08/18 17:01 📱:N03A 🆔:wAGIFEYA


#231 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
そろそろお開き、というところで、りこが皆に小さな可愛らしい紙袋を配った。

紙袋の上からなぞってみると、細くて堅いものと分かった。

皆が顔を見合わせる。


開けてみると、そこには銀色の、光を受けて光る鎖があった。

⏰:09/08/18 22:39 📱:N03A 🆔:wAGIFEYA


#232 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
そっとつまみ上げ、それがネックレスだと分かったとき、僕は両手で鎖を広げてみた。

中心には、少し小ぶりの、細かい細工のほどこしてある十字架のチャームがついていた。

シンプルだけど、こった作りをしているところが、りこらしいなと思った。


全員がりこをみる。

よく見ると、彼女はすでに同じネックレスをつけていた。

⏰:09/08/18 22:40 📱:N03A 🆔:wAGIFEYA


#233 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
これは、ミステリー同好会の一員である証として、あたしからのプレゼントだから。

勝手ながら結構奮発したんだからさ、肌身離さずつけてないと、バチが当るよ。


りこの好意を、誰もぞんざいにせず受け取った。

ありがとう、ありがとうと皆に言われ、頬を赤らめる彼女は本当に幸せそうだった。

⏰:09/08/18 22:50 📱:N03A 🆔:wAGIFEYA


#234 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕達の首筋に、銀色が光る。

この輝きがずっと、続けばいいと、願わずにはいられなかった。


これから僕達の夏が始まる。

⏰:09/08/18 22:50 📱:N03A 🆔:wAGIFEYA


#235 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
5 Their summer!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

海風が頬を撫でる。

海猫の鳴き声。

白く霞んだ水平線はどこまでも伸び、海は青く澄んで、宝石をちりばめたみたいに煌めいていた。


僕達ミステリー同好会一向は、夏休みを活用して海に来ていた。

正確には、りこいわく同好会としての一泊二日のプチバカンス(バカンスの使い方が間違ってる気がする)。

⏰:09/08/19 00:12 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#236 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
これは暑さと宿題の多さにしびれを切らしたりこが提案したもので、僕達は喜んで同意した。

明日の夜は地元の夏祭りに参加するのだという。

市が花火をあげるらしい。


ミステリー要素が全く入ってない活動だが、あくまでもミステリー同好会の活動として、だそうだ。

そこにこだわらなくても別にかまわないと思うけど、誰も問いはしなかった。

⏰:09/08/19 00:15 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#237 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
浅瀬ではしゃぐ直央達を眺めながら、僕は汗だくになって必死に浮き輪を膨らましていた。

雑用仲間の湊は顔を真っ赤にしながら、直央の巨大なイルカさんを相手に格闘していた。


僕達は同時にため息をついた。

⏰:09/08/19 00:16 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#238 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕達だって泳ぎたいよね。

まったくだよ、というかなんでポンプで空気入れてこないんだ、俺らに対する嫌がらせかこれは。

目で語る、男の苦労。


水をかけあう女性陣を幻のように眺めながら、僕達はひたすら膨らました。

⏰:09/08/19 00:17 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#239 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
しばらくして、りこ達が海水浴を止めて僕達の様子を身に来た。

全員ビキニ姿だから、目のやり場に困る。


りこは濡れた髪をかきあげて、僕の膨らました浮き輪をひょいと手にとった。

しかし、すぐに放り投げた。

⏰:09/08/19 00:18 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#240 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「まだぶよぶよしてる。もちっと最後まで空気入れなよねー」


なんて他人事な発言なんだ。

精一杯頑張ったんだぞ。

こんにゃろー高飛車ムスメが、一泡吹かせてやるからな。

⏰:09/08/19 00:18 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#241 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
堪忍袋の破れる音がした。

暑さのせいもあるかもしれない。


僕は立ち上がり、ずいっとりこに詰め寄った。

「人様に仕事押しつけておいて、そんな言い方ねーだろ! ありがとネッ助かったヨン、くらいは言えよなワガママムスメ!」

⏰:09/08/19 00:19 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#242 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
負けじとりこも言い返す。

「んまーカッタい男だねー、男らしくこんなのどうってことなかったゼほら泳いでこいヨ、くらいは言いなよねカタブツオトコ!」


ぎゃーぎゃー騒ぐ僕達をよそに早紀さんは浮き輪を取って、涼しい顔して喧嘩を見学していた。

直央は楽しそうだよぅと笑いながら、湊にお礼をしてイルカさんを受け取り、早紀さんと見学にまわった。

⏰:09/08/19 00:20 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#243 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
頬っぺたをつねり、まぶたをねじるりこと、ポニーテールをつかみ対抗する僕。

口喧嘩じゃ決着がつかんと取っ組み合いになったところで、湊が喧嘩を割って止めにきた。

僕は直央に、りこは湊に後ろから組みつかれ、引き離された。


息を荒くしながらにらめっこする僕らの前に、早紀さんがなにかを持ってやってきた。

⏰:09/08/19 00:21 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#244 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
スイカだった。

後で食べようと、早紀さんが家から持ってきたものだった。

たくさんの水滴がついたそれを、早紀さんは静かに砂浜に置いた。


そして、僕とりこにタオルをつきだし、言った。

⏰:09/08/19 00:22 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#245 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ここはいさぎよくスイカ割り勝負で決着をつけましょう」

しばしの沈黙の後、りこは黙ってタオルを受け取った。

僕も続いて受け取る。


また面白いことをしだしたなと、へらへら笑う直央と湊とは違い、僕らは真剣だった。

⏰:09/08/19 00:22 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#246 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
小さい頃からこうだった。

親が止めにくるまで、僕らはとことん喧嘩して、きっちり勝ち負けを決めた。


どんなに下らないことでも。

今だって同じ、譲らない。


早紀さんは拾ってきた流木片手に、ルール説明を始めた。

⏰:09/08/19 00:23 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#247 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「二人とも同じ位置からスタートします。ヒントの掛け声は、二人で一人、平等にします。他人を巻き込む、噛みつく以外はどんな卑怯な手段を使ってもいいです。もちろん面白いからです」

「腹黒いね…」

湊がつぶやいた。

ばっちり聞こえてるぞ。

⏰:09/08/19 00:24 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#248 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「掛け声は……、そうですね、直央さんにします。あくまでも遠回しに、曖昧に指示してください。それでは、タオルで目隠ししてください。始めます」

きつく目隠しを締めた。


早紀さんが不正がないか確かめにきた。

スイカ割りのための流木を握らせる。

⏰:09/08/19 00:24 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#249 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
この間にスイカを移動させているらしい、砂浜を踏みしめる足音が前から聞こえてきた。

いいでしょう、早紀さんはそう言うと後ろに移動して、すう、と息を吸った。

いよいよ始まる。



「勝負、始め」

僕は勢いよく走りだした。

⏰:09/08/19 00:25 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#250 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
……と思ったが、…両足に違和感がした。


体が浮く感覚が一瞬して、足を引っかけられたと理解したときには遅すぎた。

肩から思いきり、やわらかい砂浜に倒れ込んでしまった。

⏰:09/08/19 00:26 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#251 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央の悲鳴が聞こえた。

口に砂が入り、ジャリジャリと嫌な音を立てた。


畜生、やられた。

受け身なしはかなりこたえた。


なにくそと、起き上がって流木を構え直す僕に、誰かが近づいてきた。

⏰:09/08/19 00:27 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#252 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
りこかもしれない。

後退る僕、相手は言った。


「渉くん。りこは右上にいるよ。スイカはりこの近くだ」

湊の声だった。

どうやら掛け声役は湊に決まっていたらしい。

⏰:09/08/19 00:27 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#253 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
礼を言い、僕は湊の指示に従って流木で前方を探りながらゆっくりと進んだ。



流木がなにかを捕えた。

もう一回、今度は強く流木を振ってみると、また当たった。

⏰:09/08/19 00:28 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#254 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「いてっ」

人の声。
りこだ。

たぶん、いや絶対にりこだった。


そう思うやいなや、僕はりこに向かって体当たりをくりだした。

流木で叩かれて驚いたりこが移動していれば、自爆行為だが、自信があった。

⏰:09/08/19 00:29 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#255 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
案の定、肩にりこの細い体がぶつかり、相手は弾き飛ばされた。

しりもちをつく音が聞こえた。


「くそぅ、やってくれたね」

どこか愉快そうなりこの声と同時に、砂浜を蹴る音に続き、僕の体に衝撃がはしった。

⏰:09/08/19 00:30 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#256 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
りこの捨て身のタックルだった。

これはたまらず、僕はりこに組みつかれたまま仰向けに倒れた。

すかさず馬乗りになるりこ。



「お返しだよ」

もがく僕の腕を押さえつけ、僕の手から流木を力任せに奪い取り、どこかへ放り投げた。

⏰:09/08/19 00:30 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#257 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
それでももがく僕の右手が、なにかをつかんだ。

丸く大きい、すべすべしたこの手触りはひとつしかない。


スイカだった。

りこは気づいていない。

今がチャンスだった。

⏰:09/08/19 00:31 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#258 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
けれど、動けない。

りこを退かそうと手を伸ばしても、みぞおち辺りに乗ってるため大した力が出せないのだ。

僕は迷い、考えた。



覚悟を決め、りこの胸に手を伸ばし、鷲づかみにした。

⏰:09/08/19 00:32 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#259 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
むにゅ、とやわらかい手応え。

ふむ。
パッド無しでこの大きさ。

直央の貧乳とは比べ物にならないな。


「ぎゃー! 何すんの!」
「うわー! 何してる!」


りこと湊の叫びが重なった。

⏰:09/08/19 00:37 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#260 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
仰け反るりこを突き放し、僕はスイカを持って駆け出した。


「りこ、前だ、前にヤツがいる! 袋だたきにしてやれ!」

湊とは思えない叫び声が背後から聞こえてきた。

⏰:09/08/19 00:39 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#261 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
おっかない。

乳のひとつやふたつ揉んだくらいで怒りなさんな。

減るもんじゃないし。


僕は立ち止まると、スイカを砂浜に置いた。



りこが近づいてくる。

⏰:09/08/19 00:39 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#262 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕はひじでスイカを打ち、割った。

あっさりとスイカはひじ打ちをのみ込み、割れた。

間髪を入れず、早紀さんが言った。

「勝負あり。渉さんとりこさんは目隠しを取ってください」


目隠しを取ると、目一杯の光の波が襲ってきた。

⏰:09/08/19 00:41 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#263 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
視力が回復したとき、見えたのは割れたスイカと砂まみれのりこだった。

悔しそうに、だけど嬉しそうに、りこは笑った。

僕も笑った。



「渉ちゃんの勝ちだよぅ。さすが渉ちゃん、かっこいい!」

直央が飛びついてきた。

⏰:09/08/19 00:41 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#264 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
しかし両手で首をつかまれ、ぐぇっと首をつかまれた鳥みたいな変な声を出してしまった。

直央はその手に、ぎゅうっ…と力を込めて、下から僕を睨んだ。



笑顔で。

⏰:09/08/19 00:43 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#265 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「りこちゃんの胸を鷲づかみにした感想はないかなぁ? ほらほら、遠慮しなくていいんだよぅ」

がくがくと首を絞めたまま揺すられ、気が遠退きかけた。


こいつ本気で怒ってる。

⏰:09/08/19 00:45 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#266 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「な、直央サン、だってあれは仕方なく、」

「いいんだよぅ、渉ちゃんは悪くないし。私が悪いんだよ。貧乳でごめんなさいですよぅー。どーせパッドでごまかしてるお子ちゃま体型ですよぅー」


「直央ちゃん、駄目だよ」

湊が直央の手をつかみ、僕を助けくれた。

⏰:09/08/19 00:48 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#267 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
と勘違いしていた。


湊は直央と同じく笑顔のままで、僕の首に手をかけた。

ごり、と喉仏を親指でもてあそぶ彼の目は恐ろしく冷たく、殺意に満ちていた。

僕は息をのんだ。

⏰:09/08/19 00:49 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#268 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「駄目だよ、こうやって絞めなきゃ苦しくないんだ。ほら」

「…待ちなよ、湊」

りこが言った。


今度こそ助けてくれると思ったが、獣のごとくぎらついた彼女の目を見て嫌な汗が出た。

⏰:09/08/19 00:50 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#269 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「あたしも協力する。勝負には負けたけど、やっぱ許せないもんは許せないんだよね」

「……私もです。いくらなんでもありとはいえ、同性として許せません。不埒です。そんなやからには仕置きが必要ですね」

「おっ、早紀ちゃんもあたし達の味方なんだね」


片端だけ口を吊り上げ、にたにた笑い僕を取り囲む不気味軍団。

⏰:09/08/19 00:51 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#270 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
なにも言えず、金魚のごとく口をぱくぱくさせるしかなかった。



「さぁ、皆。この変態男をどう料理してやろうかねぇ」

りこがいやらしい手つきで僕に責めよる。

直央達も続いて、同じ手つきでよってきた。

⏰:09/08/19 00:52 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#271 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ぎゃあぁぁあー! 止めろー乳揉むなーー! 近寄るなゾンビどもがっ! ぴ、ぴぎゃぁぁあ!」



綺麗な海、青い空に似合わない悲鳴が、ひとつ響いた。

⏰:09/08/19 00:56 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#272 [chimu◆Hi9o8eIXuA]



乳が痛い。

ヒリヒリする。


あいつら力いっぱいに揉みやがって、まるで加減をしらない。

なにが乳揉み祭りだ。

⏰:09/08/19 16:19 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#273 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
風呂上がりに布団に寝転び、前をはだけて胸をみると、赤い手形がいくつも残っていた。


文句を言いたいところだが、今は誰もいない。

りこと湊は夕涼み、直央と早紀さんは風呂だった。

⏰:09/08/19 16:20 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#274 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
天井をあおぐ。

蚊帳が垂れ下がり、雑魚寝する僕らの布団を覆い被さるみたいにおおっていた。


今日遊んだ海のすぐ近くに、この民宿はあった。

家庭のにおいが漂う、ごくごく普通の民宿だった。

⏰:09/08/19 16:21 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#275 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
夕飯も美味しかった。

海の幸をふんだんに使った、ヘルシーメニューだったから女性陣は喜んでた。


エビアレルギーの湊は、こっそり僕の皿にエビを忍びこませてたな。

⏰:09/08/19 16:21 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#276 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
草のにおいが微かににおった。

たしか、おかみさんが畳を新調したばかりと言ってた気がする。

日焼けせず、緑色をしている。



襖(ふすま)が開いた。

直央だった。

⏰:09/08/19 16:22 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#277 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ぷにたんのプリントがついたパジャマを着ていた。

半乾きの髪をタオルケットで拭きながら、蚊帳を持ち上げて入ってきた。


仰向けの僕のはだけた服を見て、顔を赤くした。

渉ちゃんの生胸板だーと、きゃーきゃー言いながら皆に揉まれ赤くなった手形を指でなぞった。

⏰:09/08/19 16:23 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#278 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
なにを照れることがある。

今日おまえ一番遠慮なしに十分に揉んだろうが。



僕は起き上がり、部屋の隅にある冷蔵庫からコーラを取出した。

よく冷えていて、美味しい。

直央はただ、コーラを飲む僕を興味深そうに見ていた。

⏰:09/08/19 16:24 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#279 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
飲みたいのかな。

飲みかけのコーラを差し出すと、直央はまた照れた。


濡れた髪が白い頬や腕にはりついていた。

風邪引くと大変だな。

⏰:09/08/19 16:24 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#280 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕は直央の鞄の中からドライヤー(これもぷにたん…)を取って、おいでおいでと手を振り呼んだ。

直央は僕の膝に乗り、猫みたいに目を細めた。



ドライヤーから熱風がでる。

直央の細い髪を手櫛(てぐし)でときながら、丁寧に乾かしてやった。

⏰:09/08/19 16:25 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#281 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
完全に乾くと、ふわふわと膨らみ軽いウェーブがかかっていた。

ほい出来上がり、と直央の頭をぽんと叩く。

直央は抱きついてきた。

はだけて露出した肌に、直接何度も頬擦りしてくる。



抱きついたまま、顔を上げて直央はいたずらっぽく言った。

⏰:09/08/19 16:26 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#282 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「二人きりだねっ」

うふふ、と直央は笑う。



何気なく意味もなく、ぴと、…と直央の頬っぺたに触れた。


白い、やわらかい。

温かい、すべすべしてる。

⏰:09/08/19 16:26 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#283 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
普段はずっと仲良しのサインなのに、今はなんだか違う。

背徳、かもしれない。




キスしたいよぅ。

直央が言った。

⏰:09/08/19 16:27 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#284 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
碧い瞳。

長いまつ毛。

白い肌。

無垢の匂い。

狩山直央という存在。



すべてが僕を誘惑していた。

艶やかに直央は待つ。

⏰:09/08/19 16:28 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#285 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
体が熱い。


だけども、僕は優しくない。

僕は彼女の唇と僕の唇が触れるか触れないかというところで、容赦なしにでこぴんしてやった。



「あうっ」

額を押さえながら、直央は驚愕の表情をして僕を見た。

⏰:09/08/19 16:29 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#286 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕は無感動に言ってやる。



「萎えた」

外していたボタンを止めながら、僕はコーラを一口飲んだ。



もちろん嘘だった。

僕の高ぶった気持ちと直央を抑えるための、見え見えの嘘だった。

⏰:09/08/19 16:30 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#287 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央は不機嫌そうに口をつぐみ、うつむいてから小さな声で、嘘だよ、とつぶやいた。

珍しく落ち込んだな。



僕は嘘を続けた。

⏰:09/08/19 16:31 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#288 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「直央とキスするくらいなら、りこや早紀さんとしたほうがマシだな」

僕は笑った。

しかし直央は笑わない。


直央はうつむいていた頭を起こし、恨めしそうに言った。

⏰:09/08/19 16:32 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#289 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「渉ちゃんはそんな人じゃない」



どうしたんだよ。


その言葉は直央の唇で無理矢理ふさがれた。

抵抗する間もなく、直央は思いきり爪を立てて背中に手をまわし、抱きついた。

⏰:09/08/19 16:32 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#290 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
――熱い。
――苦しい、激しい。


感情を爆発させて、僕を食い殺す勢いで貪ってくる。

感情の荒波だった。


訳がわからぬまま、僕は押し倒された。

⏰:09/08/19 16:33 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#291 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
馬乗りになって、また貪る。

押し退かそうとする僕の手に、直央は手をぎゅうっと強く絡めた。



直央は息を荒くしながら体を起こし、どちらのものとも分からない涎を手の甲で拭った。

⏰:09/08/19 16:34 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#292 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
その時だった。

僕を見下ろす涙ぐんだ碧い丸い瞳が、突然渇いた鋭いものに変わった。


別人のようだった。



直央は舌なめずりをして、また倒れ込み、僕の耳元で小さく言った。

⏰:09/08/19 16:34 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#293 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「嘘はダメだよぅ。私には分かるんだから。なんでも分かるよ。私ちゃんがどうして欲しいかも」

直央は僕に当てた手のひらを胸から下に移動させて、ズボンに手を滑り込ませた。



おまえは直央じゃない。


直央の頬を叩いた。

⏰:09/08/19 16:35 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#294 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
叩かれると、直央は動きを止めて悲しい瞳で僕を見た。

いつもの直央に戻っていた。



直央はごめんなさい、とつぶやくと、立ち上がった。

ふらふらと数歩歩いて、直央は声を上げてわんわん泣いた。

⏰:09/08/19 16:36 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#295 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
その泣き声が、胸に刺さった。

僕は後ろから直央を抱き寄せた。



「何かあったんだろ?」


直央は静かに涙を流した。

雫は頬の曲線を伝い、畳に吸い込まれていった。

⏰:09/08/19 16:37 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#296 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「悩み事なら相談しろよ。一人で抱えこむな。親友だろ、俺達」

「親友なんてもういい。恋人がいい。そしたら渉ちゃん、わたしだけを見てくれるから」

「……」

「そうだよ。恋人になろ。一緒に楽になろう」

⏰:09/08/19 16:38 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#297 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
夜更新します(^^ゞ

⏰:09/08/19 16:42 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#298 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「断る。楽になって、後悔する直央なんかみたくないな」



直央はなにも言わず、蚊帳をくぐり部屋から出ていった。



入れ替えで、早紀さんが入ってきた。

立ちつくす僕に、早紀さんは怪訝そうな顔をして言った。

⏰:09/08/19 22:59 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#299 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「直央さん、泣いてましたけど。まさか不埒なことしましたか」

「……早紀さんの中の俺、不埒なやつでイメージ固まったみたいだな」

「ええ。女の敵です」

「はっきり言うねぇ」

⏰:09/08/19 23:13 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#300 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
彼女は笑った。


「そういえば、りこさんと湊さんが肝だめしすると意気込んでましたよ」

「肝だめし?」

「墓地辺りをぐるっと回るコースだそうです。庭に二人がいますから、ちょっと行ってみましょう」

⏰:09/08/19 23:13 📱:N03A 🆔:e0q3.Vcg


#301 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
庭に出ると、潮の匂いがした。

波打ちの音が聞こえる。

月がでてない。

電信柱についた外灯に照らされ、ようやくまわりが確認できた。

⏰:09/08/20 13:33 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#302 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
庭の隅に、りこと湊はいた。


もう一人、直央もいた。

さっきのことなんてまるでなかったように、明るい笑顔で楽しそうにりこと話していた。

パジャマからワンピースに着替えている。

⏰:09/08/20 13:33 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#303 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕を見るなり、直央は渉ちゃんだぁーとかけ寄ってきた。



透明な笑顔。

直央だ。
いつもの直央。

この直央があんな冷たい目をしたなんて、今思えば嘘のようだった。

⏰:09/08/20 13:34 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#304 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
いっそのこと、



嘘だったらいいのに。

そう思った。


一体何が原因で感情を爆発させたのか、結局分からずじまいですっきりしない。

⏰:09/08/20 13:38 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#305 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「今から肝だめしやろうと思うんだけどさ、オーケー?」

りこは言った。


りこは黄色いキャミソールに白いキュロット姿だった。

露出率高し。

髪はいつも通り高い位置でのポニーテール。

⏰:09/08/20 13:38 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#306 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
皆は頷いた。

りこが説明を始める。



肝だめしのルールはシンプルなものだった。

ペアをふたつ作り、余った鬼一人が先行でルートのどこかに隠れにいく。

ペアは隠れている鬼を見つけて、一緒に連れ帰る。

⏰:09/08/20 13:39 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#307 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
次からはその繰り返しだ。

先行の鬼はりこに決まった。

度肝抜かせてやるよ、と意気込みながら暗闇に消えていった。


最初のペアは湊と直央になった。

⏰:09/08/20 13:40 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#308 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
りこが隠れて5分経過した。



「渉ちゃん、わたしが大声あげたら助けにきてよぅ!」

暗やみにびくびくしながら、直央がすがるように言った。

「さあね」

「絶対だよぅ! 絶対!」

⏰:09/08/20 15:36 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#309 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「直央ちゃん、行こうか」

湊ペアは予定通り出発。

僕と早紀さんは手を振って見送った。




「ぎゃぁぁぁぁ……」


しばらく経った頃、遠くで直央の悲鳴(たぶん)が聞こえてきた。

僕と早紀さんは顔を見合わせる。

⏰:09/08/20 17:20 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#310 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「今の悲鳴、直央さんですよね」

「たぶん」

「助けに行かないんですか」

「湊がいるのに、必要ないよ」

僕の言葉とほぼ同時に、湊の悲鳴(これもたぶん)が聞こえてきた。


僕と早紀さんはまた顔を見合わせる。

⏰:09/08/20 17:22 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#311 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
りこのやつ、湊が驚くなんて相当なことをしでかしたんだろう。

それにしても、すごい悲鳴だった。

「今の悲鳴、湊さんですよね」

「だね」

「りこさんでしょうか」

⏰:09/08/20 18:57 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#312 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「あいつ、どんなことしたんだろうな。少なくとも、暗闇から突然現れた程度じゃないことはたしかだな」

またしても、僕の言葉とほぼ同時に悲鳴が聞こえてきた。

今度は、りこのだった。

脅かした本人が悲鳴を上げることがあるわけがない。

⏰:09/08/20 18:58 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#313 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
まさか本物の幽霊が出たとか。

まさかね。


早紀さんは何食わぬ顔で、懐中電灯を手に、

「助けにいきましょう」

と言った。

⏰:09/08/20 19:17 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#314 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ルートをたどっていくと、やがて道路にしりもちをついた湊と直央がいた。

少し離れたところに、魂の抜けたみたいなりこもいた。



そして、二人の子供もいた。

ちゃんと足があるから、幽霊ではないだろう。

⏰:09/08/20 19:21 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#315 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
二人は両手に肝だめし用の火の玉を持って、くすくす笑っている。

見覚えがあった。


「貴方たちは、民宿の息子さんですね」

早紀さんが懐中電灯で子供達を照らした。

子供は笑った。

⏰:09/08/20 19:22 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#316 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「そこのお兄ちゃんとお姉ちゃん、スッゴい顔して驚いてたよ。面白かったねー」

「ねー」

二人が湊と直央を指差した。


あれ、じゃありこはなにに驚いて悲鳴を上げたんだろう。

⏰:09/08/20 19:22 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#317 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
りこは真っ青な顔して僕達に言った。

「あたしが二人の悲鳴を聞いて駆けつけたら、あの子供たちの横に、白い服着た、女がいた…」

空気が凍った。

皆の顔は冗談でしょと言いたげだった。


けれど、りこは続ける。

⏰:09/08/20 19:23 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#318 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「皆見てないの? 冗談止めてよ、驚いて座り込んでる湊と直央ちゃん見て、笑ってたじゃんっ! こう、ニターッて……」

「や、止めてりこちゃん。わたし怖い話苦手なんだよぅ」

直央が怯えた声で言った。

りこはもっと怯えていた。

⏰:09/08/20 19:24 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#319 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「本物ですね」

早紀さんがけろっと言った。


「ご愁傷様です。りこ先輩は本物の幽霊を見たんですね。知ってますか、幽霊は目撃者に取り憑くらしいですよ。今夜は天井の四隅に注意してみてください。
きっと、ほらこういう風に、……幽霊がりこ先輩をじぃーっ…と視てますよ」

「ふ、ふぇ……」

⏰:09/08/20 19:25 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#320 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「今も感じませんか? りこ先輩を祟り殺さんと狙う、女の霊の怨恨籠もった、視線…」

恐怖心をあおる追撃だった。

薄々感じていたけど、早紀さんはサディストっ気があるらしい。

あのりこがしくしくと涙を流して湊に助けを求めた。

⏰:09/08/20 19:25 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#321 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ふむ、絶景かな。

その夜、りこは汗だくになりながらも布団を頭まですっぽりかぶって寝た。

⏰:09/08/20 19:26 📱:N03A 🆔:Ig6.tuHE


#322 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
>>293
直央のセリフに「私ちゃん」とありますが誤字です。

×私ちゃん
○渉ちゃん

今さらすみません(__;)

⏰:09/08/21 09:54 📱:N03A 🆔:yUstpkE6


#323 [chimu◆Hi9o8eIXuA]



満月の輝く夜だった。

障子(しょうじ)を挟んだ窓ガラスに、羽虫や蝉がこつこつとぶつかって音を立てていた。


「りこちゃんの浴衣可愛いーっ! オレンジ似合うよぅー。早紀ちゃんのも大人っぽくていいなぁ! 蝶の模様なんだねっ」

「直央ちゃんのも可愛いよん」

⏰:09/08/21 11:45 📱:N03A 🆔:yUstpkE6


#324 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
襖の向こうから、楽しげな会話がもれ聞こえてくる。

僕と湊は暇潰しに持ってきたトランプでババ抜きをして、彼女らの着付けが終わるのを待っていた。


今夜は夏祭りがある。

結構大きな祭りだから、私服じゃもったいないと、りこが浴衣で合わせようとした。

⏰:09/08/21 11:46 📱:N03A 🆔:yUstpkE6


#325 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ちなみに男は甚平(じんべえ)を着るようりこに脅されたので、ちゃんと買って持ってきた。

りこ達の着付けが終われば、次は僕達の番だ。



やがて、襖が開いた。

そこには色鮮やかな浴衣を着て、髪を結い上げ変身した彼女らがいた。

思わず感嘆の声を上げた。

⏰:09/08/21 11:47 📱:N03A 🆔:yUstpkE6


#326 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
他の誰よりも、僕は直央に見惚れていた。


首には十字架のネックレス。

ふわふわした、薄桃色のへこ帯。

腰まである長い髪は、ゆったりしたふたつ結びのおさげにされていた。

りこに化粧をしてもらったのだろう、唇は光沢をおびていた。

⏰:09/08/21 11:51 📱:N03A 🆔:yUstpkE6


#327 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
可愛い、と口にした。

何気なく言ってしまうほど、本当に直央は可愛いくて、抱きしめたくなるくらいだった。

いつも可愛いけど。

⏰:09/08/21 11:52 📱:N03A 🆔:yUstpkE6


#328 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ほらほら早くとりこに急かされ、僕と湊は甚平を持って彼女らと入れ替えで部屋から出た。

我ながらぶきっちょな手つきで甚平を着付けていくのを、時たま、りこが襖を開けて覗いた。

湊はてきぱきと早々に着てしまい、とろい僕の着付けを手伝ってくれた。

湊は器用だなと感心する。

⏰:09/08/21 13:40 📱:N03A 🆔:yUstpkE6


#329 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕ももう少し器用に生まれてくれば、こんなのどうってことなかったのにな。

道ばたで水溜まりを避けて隣の水溜まりに足を突っ込むこともなかった。

飼い猫のミイの餌の缶詰めとシーチキン缶を間違えて食べることもなかった。

⏰:09/08/21 14:07 📱:N03A 🆔:yUstpkE6


#330 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
それだけじゃないもっとあるけど、――うん、もう止めよう。

悲しくなってきた。

はい出来上がり、と湊が僕の両肩をぽんぽんと叩いた。

本当に申し訳ない。

⏰:09/08/21 16:17 📱:N03A 🆔:yUstpkE6


#331 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
今か今かと待ち構えていたりこが勢いよく襖を開き、ちょっと恥ずかしい甚平姿のお披露目だった。

恥ずかしがる僕を、お約束でりこが茶化した。



直央は――眩しそうに、熱っぽいとろんとした目で僕を見上げていた。

⏰:09/08/21 16:22 📱:N03A 🆔:yUstpkE6


#332 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
もしかしたら、電灯を見ているのかもしれない。



――恍惚としたような、憔悴しきったような、諦めたような、そんな様々な感情を孕んだ万華鏡の瞳。

僕を見ているようで、見ていない、と思った。

⏰:09/08/21 16:25 📱:N03A 🆔:yUstpkE6


#333 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ふ、と直央が微笑んだ。


渉ちゃんは嘘つきだね。

それと、意地っ張り。

せっかく心変わりしたわたしの気持ちを、素直に受け止めればよかったのに、だから後悔しちゃうんだよ。


そう言っている、気がした。

⏰:09/08/22 11:52 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#334 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
遠くから祭りの始まりを告げる太鼓の音が聞こえてきた。

僕達は太鼓の音に誘われて、我先にと急ぎ足で庭に出た。

祭りのある方角の空が、ほんのり明るい。


僕達は下駄を鳴らしながら、祭りまでの道のりを歩いた。

⏰:09/08/22 13:34 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#335 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
祭りには大勢の人がいた。

たくさんの出店、そのどれも人が囲んでいる。


直央がにこにこしながら、りんご飴を片手に僕の腕に組みついてきた。

異様に艶のある、水分を含んだ唇に、僕はどきっとした。

⏰:09/08/22 13:35 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#336 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央は上目遣いでじーっと僕を見つめたあと、にこっと子供みたいに無邪気な笑みを浮かべた。


「人酔いしたぁ?」

なんで、と返すと、

「ぼーっとしてたから」

と直央は苦笑いした。

⏰:09/08/22 13:37 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#337 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕は悩みや動揺が面に出やすい人間(初対面の人に嘘を見破られるくらい)だから、はたからみたら上の空だったんだろう。


前を歩くりこが、もう少しで花火があがるから土手に行こう、と言った。

直央は元気よく返事をする。

⏰:09/08/22 13:37 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#338 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ごめんね、渉ちゃん」

うつむいて、直央が謝った。

なんで謝るんだよ、と僕の言葉はあまりにもか細くて、賑やかな話し声の中に混じって消えた。

直央の小さな手のひらが、ぎゅっ、と僕の腕をつかんだ。

⏰:09/08/22 13:38 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#339 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「乱暴してごめんなさい……。唇とか噛みついたから痛かったよねっ…。本当に、ごめんなさい」

「いいよ。反省の心さえあれば許してやる。その経験を糧にして今後の人生に役立てたまえ。……なんてな」

「ぷっ」


僕達は笑いこけた。

心の奥につっかえたものを洗い流すように、ずっと笑っていた。

⏰:09/08/22 13:42 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#340 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
やがて、僕は訊きたくなった。

理由もなく、雰囲気に流されたというのがぴったりかもしれない。

気づいたら訊いていた。



「直央ってさ」

「うん?」

「好きなやつ、いる?」

⏰:09/08/22 13:46 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#341 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
その時、だった。

暗闇をかき分けるように裂いて、空高く花火が上がっていき、大きな音を立て咲いた。

拍手がわきあがる。


それを合図にして、夜の花が次々と咲き乱れはじめた。

⏰:09/08/22 13:49 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#342 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
途切れることを惜しむように、絶え間なく咲く。

極彩色の花火は、黒の背景によく馴染み、映えていた。


直央は瞳に花火を映しながら、ぼんやり言った。

⏰:09/08/22 13:50 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#343 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「うん、いるよ」



今ならいつでも止めれた。

そうなんだと相づちをうって、話を終わらせればよかったのに、僕は続けてしまった。

⏰:09/08/22 13:51 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#344 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「どんなやつ?」

「王子様みたいな人かなっ」

「誰なの」


直央が困ったように眉を八の字にして、

もう止めようよぅ、

と言うのを――愚かにも僕はいじらしいと感じて、まだ続けた。

⏰:09/08/22 13:52 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#345 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ひときわ大きな花火が上がり、僕達を明るく照らした。



――そして、言った。


直央は、何々だよ、と可愛いらしく首をかしげて、言った。


思考が停止した。


目の前が真っ暗になった。

⏰:09/08/22 13:53 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#346 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
全身がぴりぴりと刺すようにひどく痛み、麻痺したように動かなくなった。



直央の言葉。

僕はそれをきちんと聞き取れていたのに、僕の全細胞が拒否して、すぐに記憶の隅へと追いやられてしまった。

心臓が早鐘を打つ。

⏰:09/08/22 13:54 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#347 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
そんな馬鹿なことがあるものか、と、震える拳を握りしめて、訊いた。

「い、今、なんて、言った?」

情けなく震えた声に、直央はにっこりと天使みたいに笑って(悪魔みたいに?)、

聞いたこともない甘い声で、

ささやくように、

恥ずかしそうに、


言ってしまった。

⏰:09/08/22 13:54 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#348 [chimu◆Hi9o8eIXuA]


「私の好きな人はねぇ」


ひときわ大きな花火が上がり、僕達を明るく照らした。






「渉ちゃんじゃない人」

⏰:09/08/22 14:01 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#349 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
頭が、無で満たされた。


体が冷たくなっていく。


手先や足の爪先から、どろどろとした氷水が這ってくるように、じわりじわりと冷たくなっていった。



現実と幻想の狭間で、僕は言葉を知らない獣のように叫び続けた。

⏰:09/08/22 14:07 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#350 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
無垢ゆえの残酷だった。



親友に好きな人を素直に教えた、喜んでくれると思って。

それ以外のなにものでもない。



では僕が間違っている。

⏰:09/08/22 14:08 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#351 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
目の前の少女にとってのハグ、キス、異性への嫉妬の定義を教えてください。



なにがいけなかった?

親友なんて、恋人なんて、きれいごとに縛られなければよかったのか?


奪えばいいのか?

⏰:09/08/22 14:10 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#352 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
無理矢理、真っ白いこいつを、欲望のままに汚せばいいのか?

好きになりやがれと、想いを押しつければいいのか?


だいたい好きな人って誰だよ、滅茶苦茶にしてやる、

――そうじゃなくて、ああ、もう、これは悪い夢なのか?


誰か僕に、教えてください。

⏰:09/08/22 14:10 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#353 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕は無意識のうちにゆっくりと、花火を見上げる直央に手を伸ばした。



もう、いい。

もう、壊してやる。


好きな人がいるんだはいそうなんだ、じゃすまないくらいおまえを愛している。

⏰:09/08/22 14:11 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#354 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
他の女なんてみえない。

おまえがそうさせた。



直央、胸が、苦しい。


焼けそうだ。

⏰:09/08/22 14:13 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#355 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「直央ちゃーん、見てよ、わたがしにぷにたんの袋があるよん」

「ええっ、本当ぅぅ!?」

「ホントー」

「すごいすごいぃ。ごめん渉ちゃん、ちょっとりこちゃん達のところに行ってくるよぅー」

⏰:09/08/22 14:14 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#356 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
柔らかい髪に触れたその時、直央が僕のもとを去っていった。

僕の伸ばした手は空をつかんで、直央を捕まえることはできなかった。



花火が、きれいだった。

⏰:09/08/22 14:14 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#357 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ひとり残された僕に、高校生くらいの、きれいな女の子二人組が声をかけてきた。

珍しいことじゃなかった。

今までは直央がいるからと、ことごとく鼻であしらってきた。


これから私達と遊ぼう。

マスカラの塗りたくってあるまつ毛が、まっすぐな茶色い髪が、僕を物欲しそうに見ていた。

⏰:09/08/22 14:15 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#358 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
放心状態の僕は、何を勘違いしたかしらない女達に暗闇へと手を引かれて誘い込まれた。

花火の音が遠い。

誰もいない。


女達はいやらしい手つきで僕の体を触ってきた。

勝手に荒くなる女達の吐息が耳障りだった。

⏰:09/08/22 14:16 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#359 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
汚らわしい。

僕は女のひとりを草むらに思い切り突き飛ばし、もうひとりも背中を押して隣に突き飛ばした。

暑いし苦しいしでうざったるかった甚平の胸元を両手でがばっと開き、勝手に脱ぎだした女の服を下駄で踏みつけた。


どうして欲しいか言ってみろ。

自分のものとは思えない、低く冷たい声が暗い茂みに響いた。

⏰:09/08/22 14:16 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#360 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
めちゃくちゃにしてよ。

壊して。

女達が言った。



ふうん、いいよ。

直央の代わりに、壊してやる。

⏰:09/08/22 14:17 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#361 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「わ、渉っ……?」

その時、声がした。


僕が女を抱きしめたまま振り向くと、茂みの外にりこがいた。

驚愕の表情を、僕は笑った。


遅れて、女達がうつろな瞳でりこを見た。

⏰:09/08/22 14:18 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#362 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕は構わず続けた。



「なにしてんの、あんた…」

泣き出しそうな声だった。


女が舌打ちをする。

⏰:09/08/22 14:19 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#363 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「あんた邪魔だよ。早くここから消えてくれない」

女がりこに言った。

りこは歯をくいしばり、涙声でしぼるように叫んだ。



「渉、おまえ、なんてことしてるんだよ! こんなとこで、こんな時に、こんな女達と、こんなくだらないことして、――早く止めろっ!」


僕には届かない。

⏰:09/08/22 14:20 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#364 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
しびれを切らした女のひとりがのそのそと服を着て、りこに向かっていった。


「あんた、うるさい」

女はけらけらと笑いながら、りこを突き飛ばそうと手を出したが、

「畜生!」

りこはそう叫ぶと、なんの容赦もなしに女の顔面を殴りとばした。

⏰:09/08/22 14:21 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#365 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
女は突然のことに大した悲鳴も上げず倒れこみ、鼻血の垂れる鼻を押さえた。



僕は抱いていた女から離れると、殴られた女の顔を覗き込んだ。

これはすごい。

⏰:09/08/22 14:22 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#366 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「おまえも同じ顔にしてやる。間違っても、二度と直央ちゃんに近づけない顔にな」

りこは僕の胸ぐらをつかみ、すごみながら言った。


それでも僕は動じなかった。

⏰:09/08/22 14:22 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#367 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「我慢して、大切にしてきた女に裏切られた気持ちが、男勝りな女に分かるか。おまえは、りこは――湊に好きなやつができたら冷静でいられるのか?」

りこは黙って拳を振り上げると、僕の右頬を殴った。


「この甘ったれ野郎が! 直央ちゃんにフラれでもしたか? いい気味だね、むしろおまえみたいなやつにねちねち好かれるくらいなら、他のやつを好きになれた直央ちゃんは幸運だ。渉、おまえに直央ちゃんは不釣り合いなんだよ、人間性がな!」

⏰:09/08/22 14:23 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#368 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「……」

「好きな女に好きな男がいたら素直に身ぃ引いて応援すりゃいいんだよ! それなのに、なんだよ、このザマはよ、だらしねぇ! 飼い主に首輪外された、盛りのついた犬かおまえは!」

「そうだよ。犬だ。」


いいように直央に飼い馴らされてた、犬なんだよ。

⏰:09/08/22 14:24 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#369 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
涙が出た。

止まらない。


こんなにも直央を愛してるのに、弱い僕はくだらない解釈しかできない。

⏰:09/08/22 14:24 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#370 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕はりこに抱きつき、キスをした。

胸に手をやり、腰に手を回す。



もう一度、右頬に鈍い痛み。

股間まで蹴られた。


畜生、畜生と叫び涙を流しながら、りこは僕をきつく抱きしめた。

⏰:09/08/22 14:26 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#371 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
小さな頃から知ってる、優しいりこの匂いが、僕の犯した過ちをゆっくりと理解させていく。



直央、好きなんだ、

好きなんだよ、

愛してるんだよ、

それなのにどうして。

⏰:09/08/22 14:28 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#372 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
愛してるのに、どうして。

直央。

直央、なにがいけなかったんだよ教えてくれ。

僕は声に出して叫ぶ。



渉、おまえは悪くない、悪いのは誰でもないんだ。

りこも声に出して叫ぶ。

⏰:09/08/22 14:28 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#373 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
――『渉ちゃん』。


僕を呼ぶ甘い愛しい声が、頭の中で何度も繰り返される。


僕は手を差し伸べる。

けれど、直央は首を横に振って、本当に好きな人のもとへと駆けていく。

⏰:09/08/22 14:29 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#374 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央、と僕は叫ぶ。



命と差し替えてもいい、
全てを売っていい、
プライドなんて捨てていい、
生まれ変われなくていい、



僕を見て。

⏰:09/08/22 14:31 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#375 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ストックが切れたので、また後で更新します(^-^)

誤字脱字がありましたら、感想板まで知らせてくれると助かります

⏰:09/08/22 14:36 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#376 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
Their summer!
(Side Story)「貧血」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

また直央が倒れた。

全校集会での校長先生のありがたいお話(長くて眠くなって立つのがだるくなるのが嫌だけど)の最中いきなり電池が切れた玩具みたいに、ぱたっと倒れた。

その後すぐに目を開けて大丈夫だと言い張ったが、無理矢理、笹原先生に背負われて保健室へ運ばれた。

全校集会が終わり、見にきてみたらベッドの上で気持ちよさそうにすやすや眠っていた。

⏰:09/08/22 19:10 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#377 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕はベッドの横に椅子を持ってきて、しばらく寝顔を眺めた。

まつ毛なげぇな、つまめそう、ひっこぬいてやろうか。


ちょっと触ろうかなと手を伸ばしたところで、直央が目を開けた。

くるっとした碧い瞳で、辺りを見回し、頭を押さえながらゆっくりと起きた。

⏰:09/08/22 19:18 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#378 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「おはよう、お姫様」


直央は驚いたように目を丸くして僕を見つめ、唸りながら、一緒なこと言わないでよぅと意味不明な発言をした。

まだ寝ぼけてる。

⏰:09/08/23 13:35 📱:N03A 🆔:ytt8HhJg


#379 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ベッドの側にある窓から、生温い風と蝉の鳴き声が入ってくる。

もうすぐ夏休みだな。

お互いなにも喋らなかった。


やがて、保険室の風間先生が帰ってきた。

手にもつプリントは、扇ぐのに使ったのだろう、折り目だらけでしわくちゃだった。

⏰:09/08/23 15:00 📱:N03A 🆔:ytt8HhJg


#380 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
風間先生は直央を見て、にっこり微笑みかけて近づいてきた。

真っ赤な口紅が、濡れたようにぬらぬら光っていた。


「心配したよー、狩山さん。具合はどんな感じかな? だいぶん良くなった?」

先生は直央の頭を撫でながら、優しく言った。

⏰:09/08/24 19:08 📱:N03A 🆔:ZJJ0NI9s


#381 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「えへへ、めまいがして倒れちゃいました」

「もしかして貧血?」

先生が首をかしげ、訊いた。


「貧血、……。…ん、……そう、かもしれません」

⏰:09/08/24 19:15 📱:N03A 🆔:ZJJ0NI9s


#382 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
もごもごと直央が言った。

妙に区切れの多いのが気になったが、すぐに捨て置いた。



直央はよく倒れた。

いつでもどこでも。

倒れられる方はたまったもんじゃないけど、倒れる方はもっとだろうな。

⏰:09/08/24 19:16 📱:N03A 🆔:ZJJ0NI9s


#383 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
道路の真ん中で倒れたりなんかしたら、あの世行きだし。

否応なしに意識が途切れるって、考えるまでもなく嫌だな。

四六時中見守ってやらないと。

⏰:09/08/24 19:17 📱:N03A 🆔:ZJJ0NI9s


#384 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「いつでも倒れていいぞ。俺が助けてやるからな」

「え」

「道路の真ん中でも、線路の上でも、どんとこい」

「やだよぅ…。もう、倒れるのは、絶対にいや、だね」

頭痛がするのか、目を押さえながらうめくように直央が言った。

⏰:09/08/24 19:18 📱:N03A 🆔:ZJJ0NI9s


#385 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
風間先生に水の入ったガラスのコップを差し出され、直央はあっという間に飲み干した。

コップは七色に光り、壁に光を反射していた。

綺麗だった。



「ずっと、わたしでいたい」

直央はそれを見ながら、寝ぼけ眼のままで、夢の中の出来事みたいにぼそっとつぶやいた。

⏰:09/08/24 19:18 📱:N03A 🆔:ZJJ0NI9s


#386 [我輩は匿名である]
更新たのしみです^^

⏰:09/09/04 18:57 📱:PC 🆔:cpmi6BoU


#387 [わをん◇◇]
↑(*゚∀゚*)

⏰:22/11/23 16:19 📱:Android 🆔:yR7K92nk


#388 [わをん◇◇]
>>340-380

⏰:22/11/23 16:56 📱:Android 🆔:yR7K92nk


#389 [わをん◇◇]
>>1-40

⏰:22/11/23 17:01 📱:Android 🆔:yR7K92nk


#390 [approach]
(´∀`∩)↑age↑(∩゚∀゚)∩age

⏰:25/11/12 23:06 📱:Android 🆔:84s6S4Do


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