死に至る病
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#1 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
死に至る病とは
   すなわち絶望である。


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⏰:09/07/21 00:31 📱:N03A 🆔:/.aCtCEE


#2 [chimu◆Hi9o8eIXuA]








⏰:09/07/21 07:36 📱:N03A 🆔:/.aCtCEE


#3 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
プロローグ


ビデオを見終わった後、僕はためらうことなく嘔吐した。

口内いっぱいに広がる胃酸の不味さに、視界が涙でぼんやり滲んだ。


見るんじゃなかった。

僕は拳を強く握り歯を噛みしめて、恐怖に叫びたい衝動を必死にぐっと抑えた。

嫌な汗が背中を伝い、悪寒をはしらせる。

⏰:09/07/21 18:24 📱:N03A 🆔:/.aCtCEE


#4 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
テレビの電源を切るチャンスはいくらでもあったのに、最後まで見てしまった。

……まさか、こんな内容だったなんて、……酷すぎる。

しかし、いくら嘆いても、後の祭りでしかなくて。

後悔が波のように押し寄せたが、すぐにそれは吐き気に変わり、また嘔吐した。

⏰:09/07/21 18:27 📱:N03A 🆔:/.aCtCEE


#5 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
頭の中はぐちゃぐちゃで、しばらく思い出したくもないビデオの内容がループしていた。


……もう、やめてくれ。僕はかたくまぶたを閉じた。

部屋を支配する重苦しい静寂にたえきれず、僕はのろのろとおぼつかない足取りで洗面所へ向かった。

膝がおもしろいほど笑う。

その道のりが果てなく感じた……。

⏰:09/07/21 18:29 📱:N03A 🆔:/.aCtCEE


#6 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
思いきり蛇口をひねる。

洗面器にあふれた、きんと冷たい水で顔を洗い、口をゆすいだ。

鏡にうつる僕は、情けないくらいひどくやつれていた。


まぶたが重い。

もう寝よう。

⏰:09/07/21 18:30 📱:N03A 🆔:/.aCtCEE


#7 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕が玄関の戸締まりに向かう途中、電話のベルが鳴った。

そんな聞き慣れた音にさえ、僕はびくっと体を震わせた。


こんな時間に、誰だろう。恐る恐る受話器をとった。

⏰:09/07/21 18:32 📱:N03A 🆔:/.aCtCEE


#8 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「……もしもし。桐沢です」
「こんばんは。夜遅くにごめんなさい」


声の主を僕は知っていた。とたんに、緊張がとけた。



――だから、油断していた。

忍びよる足音に、気づけなかった。

⏰:09/07/21 18:33 📱:N03A 🆔:/.aCtCEE


#9 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ビデオは、楽しかった?」


彼女は、愉快そうに言った。

僕は言葉を失い、受話器を手放して床に落としてしまった。


そして、背後に迫った気配に、ようやく気づいた。

⏰:09/07/21 18:36 📱:N03A 🆔:/.aCtCEE


#10 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「無用心だよ。玄関に鍵をしめないなんて、悪い人が入ってきちゃうかもしれないのに」

彼女は言った。

驚いて振りかえると、時はすでに遅く、……彼女は金槌を大きく振りかぶっていた。


そして、彼女はなんのためらいもなくそれを振り下ろした……。

⏰:09/07/21 18:37 📱:N03A 🆔:/.aCtCEE


#11 [chimu◆Hi9o8eIXuA]



1 退屈な午後


⏰:09/07/23 22:08 📱:N03A 🆔:U89gCFpA


#12 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
午後の授業は、ひどく眠い。寝まいと頑張っても、気づいたら机につっぷして寝てしまう。

もちろん、それを教師が見逃すはずもなく、出席簿で頭を叩き起されるのが日常茶飯事だった。


今日もまた、眠気に負けて居眠りをしてしまっていた。


「またですか……」

黒山先生は大きなため息をついて、出席簿を手にとった。

⏰:09/07/23 22:11 📱:N03A 🆔:U89gCFpA


#13 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
もう少しで出席簿の一撃を食らうところで、隣の席の狩山直央(かりやまなお)が僕の肩をつついて起こしてくれた。


「あら」

黒山先生は僕が起きたことに気づくと、少し残念そうにして、教卓へ戻っていった。

……その様子から、本当は気持ちいい一撃をおみまいしたかったんだろうな、と、僕ならずクラスメイトも思ったに違いない。

まさに危機一髪、危ないところだった。

⏰:09/07/23 22:20 📱:N03A 🆔:U89gCFpA


#14 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
何事もなかったみたいに授業が再開され、僕は閉じたままだった教科書とノートを広げた。

ノートいっぱいの数式の羅列に、一気に眠気とけだるさがぶり返す。

こんなものが将来なん何の役に立つのやら。


僕はでかいあくびをひとつして、また机につっぷした。

⏰:09/07/23 22:23 📱:N03A 🆔:U89gCFpA


#15 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
しかしすぐに、直央に頭をぽかっと叩かれた。

痛ぇ、と素直に口にでた。
そこそこ強く、地味にじんじんと痛かった。


直央は教科書で顔を隠しながら、小さな声で言った。

「渉ちゃんったら、何回頭を叩かれれば気がすむんだよぅ。
黒山先生だって、真剣に教えてくれてるんだから、真面目に授業受けなきゃ失礼だよぉ」

⏰:09/07/23 22:25 📱:N03A 🆔:U89gCFpA


#16 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
長い睫毛で包まれた大きく丸い瞳がぱっちり開いて、困ったように僕を見ていた。

しかし、口元はへの字で、しっかり怒っていた。


「真面目に受けてるって。ほら、教科書もノートも広げてるしさ」

僕は机の上の教科書をパラパラめくってみせる。

隅っこに描かれた半年かけた超大作のパラパラ漫画が、不器用な動きを見せていた。

⏰:09/07/23 22:34 📱:N03A 🆔:U89gCFpA


#17 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央はぶぅ、と頬を膨らませて、それ以上何もいわずにすねてしまった。

……少しやりすぎたかな。


授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、直央はおもいっきり背伸びをして、机にうつ伏せた。

腰まであるウェーブのかかった髪が、顔をすっぽり隠し、カーテンみたく机から垂れ下がっている。

⏰:09/07/23 22:55 📱:N03A 🆔:U89gCFpA


#18 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
撫でて見ると、さらさらしていて、とても気持ちいい。

うちの猫みたいだな、と思った。


しばらくしても起き上がらないので顔を覗いてみると、なんとスナック菓子を食べていた。

薄目で、ただひたすら口だけ動かしている。

その無気力さが面白くて愛しくて、いよいよ笑いをこらえきれずに腹を抱えて笑った。

直央は頬をうっすら赤に染めて、恥ずかしそうに「なんだよぅ」と言った。

⏰:09/07/23 22:56 📱:N03A 🆔:U89gCFpA


#19 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「動物みたいだなー、お前は。そんなに緩みまくって、珍しく真面目に授業受けて疲れたんだろ」

「違いますぅ」

菓子を一口して、直央は言った。

「わたしはやる時はきちんとして、休む時はきっちり休むの。渉ちゃんみたいなねぼすけとは違うのぉ」

「……ほーお。生活習慣病まっしぐらの爆食娘が生意気いうようになったな」

⏰:09/07/24 16:25 📱:N03A 🆔:rRJYHlQs


#20 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕は直央のスナック菓子の袋を奪い取ると、残り少ない中身を全部食べてやった。

……うむ、美味である。


直央はわーっと悲鳴を上げながら袋をむしり取り、空っぽなのに気づくと怒りを露にして襲いかかってきた。

「ひどいよぉ、渉ちゃんのバカぁーっ。人でなしーっ」

「人様を馬鹿にするからだ。悔しかったら、俺の腹ん中から取り戻してみやがれってんだ」

「ばかばか、ばかぁ!」

⏰:09/07/24 16:27 📱:N03A 🆔:rRJYHlQs


#21 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
小さな握りこぶしが、僕の胸をぽかぽか叩く。

そのうちの一回がみぞおちにヒットし、かなりの大打撃を受けた。

うえ、吐きそう。


「天罰ですぅ。人様のお菓子を横取りするからだよぉ」

直央は、してやったりと真っ赤な舌を出してみせる。

窮鼠猫を噛むって、こういうことなのかと身をもって実感した。

⏰:09/07/24 17:33 📱:N03A 🆔:rRJYHlQs


#22 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
しかし、いくら鈍感で無神経(直央いわく、そうらしい)な僕でもここは直央に謝るべきだと分かっていた。

菓子のことじゃなく、授業中に居眠りを起こして助けてくれたことにだ。

恥ずかしくて煙にまくつもりだったけど、やっぱり言おう、言ったほうがいい。


僕は咳払いをして、言った。

⏰:09/07/24 17:35 📱:N03A 🆔:rRJYHlQs


#23 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「……ありがとな」

「え?」

きょとんとして僕を見上げる直央に、顔が熱くなるのがわかった。

彼女の瞳は、綺麗だ。
混血らしく、瞳は濃い青色をしていた。

澄んだ湖が凝縮されたみたいにきらきら輝いて、そして深い。

見つめられると、底知れない瞳の奥に、吸い込まれてしまいそうになる。

⏰:09/07/24 17:52 📱:N03A 🆔:rRJYHlQs


#24 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「授業中起こしてくれてありがと。助かったよ」

言い終わったと同時に、チャイムが鳴り、僕は逃げるようにして机に座った。


……顔がまだ熱い。

⏰:09/07/24 17:54 📱:N03A 🆔:rRJYHlQs


#25 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央は何も言わずに席につくと、ちょんちょん、と僕の肩をつついた。

そして、いたずらっぽく、ひそひそと小声で言った。

「放課後、どこかに遊びにいこ。美味しいもの食べたいなぁ」

彼女の顔もまた赤く、白い八重歯を覗かせて、魅力的に笑った。

僕も一緒に、笑った。

⏰:09/07/24 17:55 📱:N03A 🆔:rRJYHlQs


#26 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
2 寄り道
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
もうすっかり夕方だった。

空は羊雲におおわれ、ぼんやりした茜色に染まっていた。


放課後、僕達はファミレスで他愛ない話に花を咲かせていた。

小テストの結果、はまってるテレビドラマの展開、クラスメイトの面白いエピソード、話しだしたら止まらない。

直央となら、どんな話題でも楽しくてしょうがないから不思議だ。

⏰:09/07/26 13:31 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#27 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
――しかし、調子よく会話がはずんだのは最初だけで、すぐに僕は退屈になってしまった。

直央がテーブル一面に料理を頼み、僕そっちのけで食事に専念し始めたからだった。

もう慣れているから別にどうってことない。


「渉ちゃんも食べるぅ?」

直央がグラタン皿を差し出したが、僕は丁重にお断りした。

夕飯が食べれなくなる。

⏰:09/07/26 13:36 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#28 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「相変わらずよく食べるよな。夕飯食べれなくなるぞ」

「大丈夫、これっぽっちじゃ小腹もいっぱいにならないよぅ」

「…これがこれっぽっちとは、恐れ入りますな。……ところで口まわりにクリームがついてますぞ直央さん」

すごい量だが、彼女にしてみれば前菜のようなものでしかない。

着実に、料理をテーブルから減らしていくのだった。

⏰:09/07/26 13:37 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#29 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
見ているだけで胸焼けする食いっぷりは、ファミレス店員の間でもかなり有名らしい。

それは納得できる。

スタンプカードを異例の早さでつませてしまうとして、お得意様カードを店長直々に贈呈されたほどだ。

……しかも無料で。

お得意様カードは有料のプレミア会員に与えられるもので、これは特例だった。

⏰:09/07/26 13:39 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#30 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
風の噂では、店長との食い倒れ勝負の戦利品だとか、そうじゃないとか。

直央に聞いても誤魔化して教えないので、真相は知らない。

カードは店員に見せると、予約なしでも優先的に席を確保、全メニュー一割引き、お子様連れなら毎回オモチャ一つプレゼントの特典つきだからすごい。

その他にもたくさん特典がある。

町ではプレミア会員になることがちょっとしたステータスだったりする。

……僕も一度プレミア会員に入会しようと思ったが、小遣いではまかないきれず諦めてしまった。

⏰:09/07/26 13:51 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#31 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
店内はぺちゃくちゃと騒々しいほどたくさんの会話が飛び交っていた。

何しろ田舎だから、いつも満員で熱気に満ちあふれている。

学生に嬉しい値段で、料理が美味しいところといったらここらはこのファミレスしかない。

ファーストフードやコンビニは遠出しないとなく、めったにお目にかかるものではなかった。

⏰:09/07/26 15:55 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#32 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央といつか、行ってみたいな。

もうすぐ夏休みだから、電車なんか使って行けるかもしれない。

直央の食いっぷりを初めてみる奴らは、大食いテレビ番組の収録かと、さぞや驚くことだろう。

もしかしたらスカウトされたりして。

想像したらだらしなく口元が緩んでしまった。

⏰:09/07/26 15:59 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#33 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
…僕はハッとする。


いつからか、直央は見ていた。

スプーンをくわえたまま、僕をじろじろ見ていた。

舐めるようにねっとりした視線が痛い。

「な、なに見てんだよ」

僕は言った。

⏰:09/07/26 16:01 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#34 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「さっきまで渉ちゃんがニヤニヤしてたぁ。なに考えてたのぉ?」

てっきりジャンボパフェに夢中になってると思っていたのに、こういう時はちゃっかり見たり聞いたりしてる。

昼ドラでよくみる、どっかの探偵顔負けの家政婦みたいだ。

直央の勝ち誇った目からして、きっと僕が変な妄想をしてたと勘違いしてるに違いない。

絶対そうだ。

⏰:09/07/26 16:01 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#35 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「別に変なことじゃねーよっ」

「あり? 私一言だってそんなこと訊いてないよぅ。
……もしかして考えてたぁ? 話し相手がいなくて退屈しのぎに変なこと想像しちゃってたのぉ?」

直央はテーブルの下で足を伸ばして、僕の股辺りを探ってきた。

思わず叫びそうになる。

⏰:09/07/26 16:06 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#36 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「ばっ……馬鹿! 止めろって変態女! なにを確認しようとしてんだよ破廉恥、スケベ、場をわきまえろ!」

直央はおっとりしているが、たまに僕をいじり返す時がある。

いつも僕にいじられている直央なりの逆襲で、僕が隙をみせて揚げ足をとれる瞬間を、じっと待っている。

その時がきたら、白旗をあげるまで徹底的になじり倒す。

⏰:09/07/26 16:19 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#37 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
態度がでかくて、鼻で笑い、見下すような目はまるで別人だった。


…たぶん、直央をいじってる時の僕はこんな感じなんだろう。

直央の細い足首を捕まえようとしても、引っ込めたり避けたりしてなかなか捕まらない。

それをいいことに、直央は減らず口をますますヒートアップさせていく。

⏰:09/07/26 16:23 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#38 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「その言葉、そっくりそのままお返ししますぅ。いやですわー、公共の場で汚らわしいですわねぇまったくぅ。私身の危険を感じるよぉ」

「しーっ、声がでかい! とにかく俺は無実だ、誤解だ、濡れ衣だっ。ああもう、だから、股つつくの、止めてぇぇ!」

「わーい、いつも私をいじめてる渉ちゃんが困ってるぅー」

⏰:09/07/26 17:45 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#39 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央はからからと笑った。

僕はいもむしみたいにソファーで悶えながら、情けないほど取り乱していた。

店員と客の僕を汚らわしいやつだと言わんばかりの視線(たぶん)を感じる。

…もう泣きたい。

⏰:09/07/26 17:46 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


#40 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
どちらかの携帯が鳴った。

マナーモードにしろよな非常識だぞ、と思っていたら僕のだった。

携帯を開いてみると、驚くことに母さんからのメールを受信していた。

機械オンチの母さんからのメールなんて、年にあるかないかのレア物だ。

メールを確認する。

⏰:09/07/26 17:48 📱:N03A 🆔:fN2V2MIo


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