　　　　　　― 短編箱 ―

―だめ‥､ばれる‥!

すべてを放り投げて駆け出した
体が動くままに｡
ただ訳の分からぬ気持ちが
あたしを狂わせた

｢‥メイ!?
おい!どこ行くんだよ‥!｣

すぐさまあたしの腕を掴んだ
止めて‥見られたくない

思い切り振り払って
真っ暗な夜に出た

ハルトごときに泣くなんて‥
どうかしてる

見知らぬ道を歩く
街灯が寂しそうに消えかかってる
何しに来たんだろう､あたし

｢も‥､わけわかんない｣

目の奥が火傷しそうに熱い
まだひんやりした空気が包む

月がぼんやりしてる
切ない､ばか

気付いていたのに
気付いちゃいけない気がするんだ
だってそうでしょ？
ただ辛いだけよ､こんなの

普通に学校とかで知り合ってたかった
幼なじみなんて､嫌｡

もやもやする胸を抑えて
投げやりに目を擦った

―‥ここどこだろう｡
真っ暗な空間が不安にさせる

｢メイ!!｣

つい､振り向いてしまった

嬉しいのに何かが引き止める
かっこ悪いの｡あたし

｢ばかかお前､
普通に寒みーから‥
それに､迷子になるだろ｣

暗かったけど確かに見えた
ハルトの真剣な顔

｢ごめ‥､｣

言い終わる前に
暖かい手に包まれるあたしの冷たい手

｢帰るぞ｣
緩く笑ったのが見える
ハルトを近くに感じた

小さい頃にも
一度こんなことがあったっけ

何でだか忘れたけど
こうして手を引かれて夜道を歩いた

過去の自分が羨ましい
もっと一緒にいたかった‥

ハルトの背中はいつのまにか
大きくなっていた
気づかなかったな‥
あたしより､小さかったのに

玄関には
乱暴に脱ぎ捨てたスリッパ

部屋の灯りに目を細めた

｢止めたのによー‥
何で振り払うんだよ､ばか｣

少しふてくされてた
愛おしく想っちゃうよ‥もう

｢止めが足りないのよ
もっとちゃんと止めなきゃ‥｣

冗談よ冗談｡
強がり‥わかってたの？

｢これならもう‥
何処にも､行かない？｣

ぎゅっと優しく包まれた

つま先立ちで戸惑う
ハルトはもう､こんなに成長したんだ

鼓動が速まる
ばれてしまわぬように
そっと息を吐く

こくり､と小さく小さく
頷いたの

どうしよう‥
もう､抑えられない

溢れ出す気持ちを
はっきりと感じた｡

｢‥何の日だったか､知ってる？｣

その低い声が
体の奥底まで響く

｢‥わかんない､｣

途切れる言葉をやっと繋げた

｢嘘‥ついでもいい日｡｣

4月1日‥あぁそうか､
こんなにうまく行くはずないもんね

一気に涙が溢れ出す
いくら何でも
一番つらい嘘つくなんて‥

｢あたし‥バカなんだから､
期待しちゃう‥やめてよ｣

そっと離れようとする体を
また優しく包む大きな手