― 短編箱 ―
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#81 [栢]
久しぶりに聞いた声は
安定感を失っていた。
細く弱々しくなり
呂律がよく回っていなかった。
酔っぱらうたびに
げらげらと楽しそうに笑って
テンポよく話していたのに‥
そんな姿は
どこにももう見当たらない
:09/10/12 00:06 :D905i :8HWp1nKk
#82 [栢]
泣きたくなった
いや、少し泣いてしまっていた
笑うでもなく
辛そうにするでもなく
無表情なじいちゃん
何を思っているんだろう。
:09/10/12 00:15 :D905i :8HWp1nKk
#83 [栢]
水が飲みたくても
許されなかったじいちゃんは
白いコットンのようなものに
水を染み込ませて
それを吸っていた。
一生懸命、
「もっと飲みたいなぁ」と
わがままを言った。
もちろん
飲ませてはもらえなかったけど‥
人間らしいじいちゃんを見て
私はほっとした
:09/10/12 00:21 :D905i :8HWp1nKk
#84 [栢]
じいちゃんが
ばあちゃんの手を握り
途切れ途切れに話し始めた。
退院したらばあちゃんと
山に登って紅葉を見て
それから魚釣りをして‥
じいちゃんは
柔らかく笑っていた。
:09/10/12 00:24 :D905i :8HWp1nKk
#85 [栢]
「じいちゃん頑張ってね」
お姉ちゃんが
じいちゃんの手を握って
別れを告げている時
私はひとり
黙って病室を出た。
なんだか恥ずかしかった。
ただそれだけの理由で
じいちゃんにさよならを言えなかった
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:09/10/12 00:27 :D905i :8HWp1nKk
#86 [栢]
じいちゃんはなんで
あんなにキツいことを言うばあちゃんを
好きでいられるんだろう‥
不思議でならなかった。
何日かして
学校で授業を受けていたら
先生に呼び出された。
じいちゃんが亡くなった
:09/10/12 00:55 :D905i :8HWp1nKk
#87 [栢]
わかってはいたけど
驚いて言葉がでなかった。
目の奥が熱くなる。
すぐに帰る支度をして
お母さんの迎えを待っている時
ついに泣き出してしまった
信じたくなくて
夢だ夢だと言い聞かせてみたが
止まらない涙
:09/10/12 00:58 :D905i :8HWp1nKk
#88 [栢]
病室に駆け込むと
真っ白なベッドに
白いきれいな顔をした
じいちゃんが眠ってた。
私はその場に泣き崩れた。
声をあげて泣いた。
苦しかったはずなのに
じいちゃんは
あの柔らかい笑顔のままだったから
:09/10/12 01:01 :D905i :8HWp1nKk
#89 [栢]
治すために入院したのに
水だって我慢したのに
どうして死んじゃったの?
ばあちゃんと
紅葉見て魚釣りするんでしょ?
じいちゃん‥、
なんとか言ってよ
:09/10/12 01:03 :D905i :8HWp1nKk
#90 [栢]
その場に
ばあちゃんの姿はなかった
私はそれからずっと
自分の部屋に引きこもって
泣き続けた。
大好きだったじいちゃんが
もういないのだ
:09/10/12 01:05 :D905i :8HWp1nKk
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