― 短編箱 ―
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#136 [栢]
金木犀
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:09/10/20 19:38 :D905i :vOnJO0u6
#137 [栢]
たくさんの金木犀の花束を
両手で抱えてくる
小さな亜季子を
橙色の花が覆う
まるで花束が歩いてるみたいだ
「ー‥虎太郎さん
具合はいかがですか?」
彼女はいつも
きっかりと5時にやってくる
花屋の看板娘であった
:09/10/20 19:46 :D905i :vOnJO0u6
#138 [栢]
三年前に彼女の店で知り合った
2人とも金木犀が好きで
仲を深め交際を初め‥
早2年と半月が過ぎる
柔らかい香りが包む
「虎太郎さん、
お元気ないですね‥」
小さな花を
細く白い指で愛でながら
ぽつりと呟く
:09/10/20 19:57 :D905i :vOnJO0u6
#139 [栢]
窓の外は
秋の世界が広がり
枯れ葉が淋しそうだった
「‥もう時が近いのでしょう。
最近、嫌な夢を見るので‥」
もう外への世界へは出れない
そう先々週に告げられた
ただ最期を待つしかないのだ
僕がそう言うと
亜季子は悔しそうに
きゅっと口を締める
:09/10/20 20:05 :D905i :vOnJO0u6
#140 [栢]
「最期などと‥
どうか、どうか
おっしゃらないで‥」
今にも溢れんばかりの雫を
こぼれぬようにと拭う彼女が愛おしい
強がりな彼女を僕は愛した
美しい黒髪に柔らかな声
おっとりしたように見えるが
どこかの親父のように頑固だ
涙をこぼしたことなどは
今までに一度もない
:09/10/20 20:14 :D905i :vOnJO0u6
#141 [栢]
「亜季子‥、
話を聞いていただけますか?」
一呼吸置いて
落ち着いた口調で言った
亜季子は改まったように
背筋をぴんと伸ばして
僕のことをじっと見つめた
:09/10/20 20:17 :D905i :vOnJO0u6
#142 [栢]
「もう‥
ここへは来なくてよいですよ」
微笑していたが
残酷すぎたか‥
今までにない表情を見せて
「どうしてです?」
僕の腕を掴む手に
ぎゅっと力が入っていくのがわかる
:09/10/20 22:15 :D905i :vOnJO0u6
#143 [栢]
「先は長くない‥。
死別はきっと
何よりも残酷でしょうから‥」
亜季子を想っての事であった
自分の最期を知ってから
何度も何度も考えたのだ
「私は‥決めたのです
死ぬまで虎太郎さんについて行くと
こころに誓ったのです‥
最期まであなたを‥」
小さく肩を震わせて
泣いているのか亜季子‥?
:09/10/20 22:22 :D905i :vOnJO0u6
#144 [栢]
「死に際など
見られたくはないのですよ
‥格好つきませんからね」
最期くらい
格好付けたかったのだ。
このように室内にいては
格好いいことなど見せられたことがない
亜季子には幸せになってほしい
まだ若くお美しい
10も離れた僕でなく
もっと素敵な人と‥
:09/10/20 22:29 :D905i :vOnJO0u6
#145 [栢]
枯れ葉がまた一枚
ひらり、
「虎太郎さん。
私は‥覚悟してきたのです
10も離れた貴方とでは
世間からの目は冷ややかです。
―‥ ですが、恋人として
何時かは妻として‥
貴方を支えようと強くなったつもりです。
貴方に肩を貸すために
涙を流さず生きて参りました。
私は‥頼りのない女でしょうか‥?」
:09/10/20 22:36 :D905i :vOnJO0u6
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