― 短編箱 ―
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#270 [栢]
「高校生あたりから‥ですかね?
ぐんと伸びましたよね」
すごい‥よく知ってるな
思わず緩む口元に必死に力を込めた
「よく知ってるね!(笑)
そこまで話したりしてなかったのに‥」
「えぇ‥まぁ。
それくらいわかりますよ」
話の途中に細い髪を耳にかける
たぶんこれは君の癖。
:09/11/14 20:08 :D905i :lSHpUp5E
#271 [栢]
「そっか‥そうだよね(笑)」
奇跡なんかが起きたらいいなと
思ってはいけないのだ。
空一面が淡い紫に染まる
消えてゆく赤をよそ目に
真上では白い星が輝いた。
「日が落ちるの‥早くなりましたね」
腕時計を見つめて
ぽつり君がつぶやいた
:09/11/14 20:11 :D905i :lSHpUp5E
#272 [栢]
もう帰らなきゃな‥
送っていくとか言ったら
迷惑なのかな。
「瑞希ちゃん‥
あっちの駅まで一緒に帰らない?」
今日の僕はきっと心に決めたんだ。
もう終わりにしようって
「え‥あ‥、はい!
ありがとうございます」
感謝したいのはこっちのほうなのに
君はいつだってそう言うね。
:09/11/14 20:20 :D905i :lSHpUp5E
#273 [栢]
人気の少ない無人駅。
あたりの稲穂が風に揺れて
寂しげに奏でてた。
地元同じでよかった‥ほんと。
同じ時間を刻むことに
ほんの些細なことに
君といると幸せを感じるんだ。
古びた小さな電車に乗って
穏やかに揺られて
「こうして一緒に帰るのは、
よく考えると初めてですね」
不器用に開いた2人の空間が
僕らの距離を表した
:09/11/14 20:25 :D905i :lSHpUp5E
#274 [栢]
「大学入ってから一回も
駅で会ったことないもんね」
電車の音など気にならない
向かいの窓に映る君しか見れない
「なんだか不思議な気がします」
またクスリと笑う君を
窓越しに見つめた。
いつの間にかアナウンスが
僕らの別れを告げた。
:09/11/14 20:30 :D905i :lSHpUp5E
#275 [栢]
地元はやっぱり落ち着く
君と出会ったこの地が好きだ。
「今日はありがとうございました。」
改札を出て振り向いた君を
このまま連れ去りたかった。
「いえいえ‥こちらこそ」
僕らの声しか見当たらない
静かな夜に
ほんのり駅の光が差し込む
:09/11/14 20:34 :D905i :lSHpUp5E
#276 [栢]
「あのさ、瑞希ちゃん
今日は‥伝えたいことが‥」
僕の言葉に被せるように
君が僕の名前を呼んだ。
「あの‥私、明日からもう‥
大学通えないんです。」
チカチカと消えかかる光から
小さな虫たちが去っていく
虚しくすぎる電車の音に
耳を塞ぎたくなった。
:09/11/14 20:38 :D905i :lSHpUp5E
#277 [栢]
「それって‥」
「アメリカに引っ越すんです。
父の仕事の関係で‥
とても急な話で、私も驚きました。
最近、大学を休んでいたのは‥
そういうわけで、」
だんだんと小さくなる声を
拾うように目を閉じた。
振られた気がした。
もう会えなくなる‥。
君の笑った顔も丁寧な言葉遣いも
もうこれっきり
:09/11/14 20:41 :D905i :lSHpUp5E
#278 [栢]
「‥そうなんだ‥。そっか‥」
自らに納得させるように
何度も呟いた。
笑顔で見送ろうとしたけど
僕はそんなにできた人間じゃなくて‥
「それで‥、ずっと‥」
君の手に力が入ったのがわかった。
「橘くんを‥もう‥
見ていられないと思うと‥
胸が‥苦しくなりました。」
小さく小さく君が震えるから
泣いた顔なんて見たことなかったから‥
:09/11/14 20:47 :D905i :lSHpUp5E
#279 [栢]
言葉が出ない僕をよそに
声を絞り出して‥
「少し‥遅すぎました、
どうせなら‥気付かなければ‥
私‥橘くんが‥好きでした。」
月明かりに照らされた君は
まるで天使のようで
その涙も愛おしく思えるほどに‥
口を不格好に開いて
支えるのがやっとなほどに
体の力が抜けていった。
:09/11/14 20:51 :D905i :lSHpUp5E
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