街がスカーレットに染まる時
最新 最初 🆕
#71 [ぎぶそん]
「…ああっ!質問に答えたところでまた別の質問が返ってくる!」

両手で頭を抱える彼。
落ち着きを取り戻す為か、煙草を吸い始めた。

「別にいいじゃん。
私が男だったらその理香ちゃんって子と沢山会話をしたくて、必死で話を盛り上げようとするけどな」

今日彼女を一目見て、余裕で『アリ』だと思った。
軽薄な性格で背の高い私とは違って、朗らかで愛くるしい彼女はその場にいるだけで周りが和むような雰囲気を持っていた。

「えー。文字で会話すんのってめんどくせ」
携帯を放り、彼が床に寝転んだ。

⏰:09/10/17 02:39 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#72 [ぎぶそん]
「じゃあこれからお風呂とか出掛けるとか適当に嘘ついて、『切れ』ばいい」

えー、それもなあ、と彼はどっちつかずの態度を取る。

「そしたらいっそのこと彼女のこと好きになれば?
そうすれば気も楽だし逆に楽しくなる」

向こうはおそらくあんたに気があるんだから。

「えー。あの子は何か違うなあ。俺、一人称が自分の名前の子あんま好きじゃない」

彼が天井を仰いだまま返答する。
へえ。あんたにも異性の好き嫌いというものがあるんだ。

⏰:09/10/17 02:57 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#73 [ぎぶそん]
「っていうか、あんたってわりかし異性に対して真面目なんだね」

思い切り遊びたい年頃だろうに、意外と堅い。

「んー。俺は、『女の人と暮らしてるなんてあり得ない!今すぐ住む場所を変えて!』なんてお説教を受けるシチュエーションを避けたいだけ」

「何言ってるの。新しい物件なんて探せばまたすぐに見つかるって」

「俺はここが気に入ってんの」

体ごと顔を向こうにやりながら、やや彼が感情を剥き出しにして言った。
彼のその言動を、私は嫌いではなかった。

⏰:09/10/17 03:18 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#74 [ぎぶそん]
翌週の水曜日。
この日の彼は一限から授業だというのに、タオルケットにくるんだ状態でぐずついたままでいた。
いつまでそうしてんの、と私は急き立てた。

「…風邪引いた。今日学校休む」

無理もない。
彼は未だに自分の寝具を持っておらず、まともな寝方をしていなかった。
毎回毎回敷き布団を広げるのが面倒らしい。

「よし、二段ベッド買おう」

「は?今ある自分のベッドはどうすんの?」

「リサイクルショップにでも売りに行く。あれはもう要らない」

私はお気に入りのダブルサイズのベッドを見つめた。

⏰:09/10/17 15:20 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#75 [ぎぶそん]
その三日後の金曜日。
一年以上使用していた自分のベッドとも今夜で最後となる。
せっかくなので、彼にも半分のスペースを貸してあげることにした。
二人が横たえても、ベッドはまだ十二分に余裕がある。
二人で微かに名残惜しむ気持ちを分け合う。

「スピッツのどこが好き?」
仄暗い部屋の中、お互い仰向いたまま話し込む。

「言わなーい」
「教えてよ、ケチ」
「全部だよ、全部」
「よくある答え方」
「そういうと思った。でもそれしか言い様がない」

大丈夫。私も近い将来、きっとそう言う。

⏰:09/10/17 15:44 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#76 [ぎぶそん]
「サギ師かまじない師、たぶんどちらかといわれればどっちだと思う?」
「何が?」
「自分の前世。『俺のすべて』にあるじゃん」

ああ。こないだ一緒にライブDVDを観て、「この曲かっこいい」って自分でも思わず何度も言ってた歌か。

「サギ師じゃないのかなあ。周りに自分を偽ってばっか」
「俺も」
「じゃあ、私の前でも嘘をついてる?」
「わかんない。むしろ自分という生き物すらよく分かってないから」

私も同じ。十九年以上生きてて自分というものを一番掴めてない。
そして生まれて来た意味も解せぬまま。

⏰:09/10/17 16:08 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#77 [ぎぶそん]
「今度六月にあるライブに見に来て。
俺ら新入生バンドは一番手だから時間に遅れないこと」

「バンドのメンバー揃ったんだ」

「うん。ていうか、今週の日曜日その皆がここに遊びに来ることになってるからよろしく」

「えっ!勝手に色々決めないでよ!」

私は手に持っていた小さなクッションを彼に投げた。
プライベートまで知れ渡ってる上に、その家まで教えてどうすんの。

「いいじゃん。
かなめもその時間空けといて。夜は焼き肉する予定だから。久しぶりのご馳走になりそう」

私も一緒にいること前提なんだ。

⏰:09/10/17 16:27 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#78 [ぎぶそん]
翌日。部屋にあるベッドを業者に引き取ってもらってから、その変わりとなるように予め百貨店で発注しておいた二段ベッドが運ばれてきた。
ステンレス製で出来た、シンプルなデザイン仕上げで、二人のインスピレーションが見事に合致して、即購入を決めたもの。

深夜。上下に分かれて就寝する。
上段の彼が何度も寝返りを打つので、その度にベッドが音を立てる。

「上の人。さっきからみしみしうるさいですよ」
「すまん」

そう詫びながらもまた体の向きを変えた様子で、再び上段のベッドが軋む。
この男、何というか阿呆だ。

⏰:09/10/17 17:00 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#79 [ぎぶそん]
翌日の夕方。椎橋君を含む彼のバンドメンバーの皆が、我が家に足を踏み入れた。
来る前に近くのスーパーで買ったという、焼き肉の食材や飲み物が入った袋を四人で分担して抱えていた。

私はそこで見知らぬ二人の紹介を受ける。

真織と共にギターを担当するのが、長田博一君。
身長は真織より高くて、性格はだいぶ素っ気ないかも。

ベース担当となるのが、小柴篤人君という男の子。
下膨れの顔が特徴的で、性格は大人しい様子。

緊張している二人を尻目に、部屋に上がって早々真織と椎橋君は立て続けに煙草を吸い続ける。

⏰:09/10/17 17:29 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#80 [ぎぶそん]
「最初はブルハみたいな音楽がやりたかったんだけど、指が動かないから今の路線に変更した訳。
バンド名の由来はキャンキャン吠えることから来ていて、初期の音楽性を表している」

真織がホットプレートの上で焼く肉を返しながら、スピッツに関するうんちくを垂れる。
へー、と一同が関心を覚える。

長田君も小柴君も、スピッツに詳しい訳ではないらしい。
テナーやアジカンだのが演りたくて入部したけど、椎橋君と同じ感じで改めて彼らの歌に聞き惚れたとか。

真織の影響力は凄い。
皆の心にどんどんスピッツが入っていく。

⏰:09/10/17 17:59 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194