街がスカーレットに染まる時
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#99 [ぎぶそん]
日曜日の夕方。
アルバイトから帰宅すると、横になった彼が携帯型ゲーム機をいじっていた。
その周辺では電気量販店の袋や口の開いた箱、説明書等が散らばってる。
ゲーム機の画面を後ろから覗き込むと、彼は『ポケットモンスター』のゲームの最新作を黙々とやっていた。
うわー、懐かしい。小学生の頃物凄く流行ってたなあ。
「あんたがポケモンするなんて意外」
私は少し茶化してやった。
「俺、思いきり『ポケモン世代』だし。ガキの頃から新作が出る度買ってるの」彼は黙々とタッチペンでゲーム操作をする。
:09/12/01 02:02
:SH705i
:tD4FaRYY
#100 [ぎぶそん]
見た目に似合わず、可愛いところがあるじゃない。
何だろう。真織と居ると常に何か新しい発見と癒しがある。
「『ハルノウタ』に『ワカバ』…」
彼はゲーム内の自分のポケモンたちに愛称をつけていた。
どれもスピッツの曲名に関するものばっか。
「ニックネームあった方が愛着湧くしね」
さっきから彼の発言の一言一言が不似合い過ぎて、お腹がよじれそうだ。
「あ、ライバルの名前は『カナメ』に設定したから。これからこてんぱんにやっつけてやるわ」
彼が意地悪そうに笑う。
私は後ろからその頭を小突いた。
:09/12/01 02:19
:SH705i
:tD4FaRYY
#101 [ぎぶそん]
数日後の放課後、私は写真を撮る最適な題材となる「景色」を探す為、ぼんやりと街を歩き続けていた。
普段は足を入れたことのない地下道を下りてすぐ、茶髪の若い男性がギターケースの上に座って弾き語りをしているのが見えた。
斉藤和義の「歌うたいのバラッド」を、楽譜も何も見ずに慣れた様子で歌い続ける。
ストリートライブという奴か。
私は思わず立ち止まり、彼の真正面にくるように反対側の壁に腰を下ろした。
少しだけ、いつか真織が「スカーレット」を歌っていた時と同じ空気がそこに流れていたから。
:09/12/02 00:15
:SH705i
:nIbz/fOI
#102 [ぎぶそん]
男性のその歌を聴き入って間もない内に、彼はその一曲を歌い上げた
彼が顔を上げ、数メートル先にいる「客」の私に声を掛ける。
「…こんにちは!」
彼の目尻のシワがくっきりと表れる。
黒目がちなその瞳は、都会の空気に濁ることなく光を発していた。
この人、普段他人に恨みを買われることがないだろうなと思った。
「今日は雲一つないいい天気ですね」
「え?ああ、そうですね」
差し障りのない天候の話から二人の会話は入っていく。
一時も彼は笑顔を崩さないでいた。
:09/12/04 00:36
:SH705i
:36M7fz9.
#103 [ぎぶそん]
そうして話はだんだんとお互いのことについて進んでいく。
男性の名前は村山啓司さん。
ここら近辺にある私立大学の四年生らしい。
私は彼に自分の名前と身分、そして今何か写真を撮る為に色んな場所を歩き回っていることを伝えた。
「音楽はどんなの聴くんですか?」
啓司さんが口元を緩ませて私に問う。
「スピッツが好きです」
「…スピッツ!いいですよねー。
僕もよく聴きますよ」
彼の声のトーンが上がる。
そして彼は自分の目の前に広げてあった持参のファイルノートを、パラパラとめくり出した。
:09/12/04 15:20
:SH705i
:36M7fz9.
#104 [ぎぶそん]
「久しぶりだから歌えるかは分からないけど…」
啓司さんが一度、コホンと小さく咳ばらいをした。
その数秒後彼がギターに手をやると、地下道に乾いたギターから奏でられる「ロビンソン」のイントロが響く。
それを男らしい重量感のある声で、彼が歌い続ける。
真織が普段スピッツを歌う時とはまた違う世界観が漂っていた。
そういえば、真織はまだ私の前でこの歌を歌ってくれてないなと思った。
私は首から提げていたカメラを自分の顔の前にやった。
レンズ越しに彼と彼を取り巻く全てを見つめる。
:09/12/06 00:27
:SH705i
:T9/Xo4o6
#105 [ぎぶそん]
シャッターの音が彼の弾き語りを邪魔しないようにと、遠慮しがちに鳴る。
被写体となった彼は、若干顔に恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
「良かったらまた遊びに来てください。
毎週木曜日のこの時間帯は、いつもここにいますんで」
ストリートライブが終わった後の立ち話の際に、彼にこう伝えられた。
私は時間の許す限りは何度でもここへ来ようと思った。
一枚の写真に収めても、何度でも自分の目で見たい風景を見つけたから。
私は啓司さんの純朴そうな風貌と物越しの低い姿勢に、人間としての魅力を感じた。
:09/12/06 00:45
:SH705i
:T9/Xo4o6
#106 [我輩は匿名である]
楽しみにしてます(^^)
:09/12/06 06:08
:SH906iTV
:NvD7CL3s
#107 [ぎぶそん]
翌日。軽音学部の定期ライブ本番がいよいよ次の日と迫った。
夜、私と真織はお互いの子供時代について語り明かすこととなった。
彼は小学生の頃から大勢の前で面白いことをやってみせたり、それによって皆を笑わせるのが好きだったらしい。
ムードメーカーな所は今とはほとんど変わってない様子。
「あの頃は皆でサッカーの練習サボって、誰かの家で皆でポケモンのアニメ観てたっけなあ」
テーブルに頬杖をつき、天を仰いで彼が言う。
「今でもポケモンのゲームやってるの俺だけなんじゃね」という呟きに私は笑った。
:09/12/07 21:53
:SH705i
:xg7qNZ7o
#108 [ぎぶそん]
そして中学生の頃にギターを覚え、文化祭で当時「Brand‐New Myself〜僕にできること」がブレイクしたチャコールフィルターのコピーを演ってみたらしい。
懐かしい。解散するには惜しいバンドだった。
「高校は男子校だったよ。
野郎共でワイワイ騒ぐの好きだし」
彼が紙パックのジュースを音を立てて吸う。
私は元彼の優哉も同じような理由で、高校は男子校に通っていたという話を思い出した。
たったそれだけの記憶が蘇っただけで、視界にぼんやりと靄がかかる。
心に何か見えないトゲが刺さる。
:09/12/07 22:12
:SH705i
:xg7qNZ7o
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