街がスカーレットに染まる時
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#89 [ぎぶそん]
食後にベランダに出て、二人で無邪気にしゃぼん玉を吹きながらはしゃぐ。

「見てて。今から俺、飛び切りデケーの作るから」

至近距離にいる彼が小さく私を手招く。
私の視線が、一気に彼の口先の緑色のプラスチックのストローに集中する。

彼が生み出す無色透明の液体の泡が、どんどんと膨らんでいく。
そして、今までで一番大きな玉が夜空へと浮かび上がった。

「しゃぼん玉とんだ
屋根までとんだ

屋根までとんで
こわれて消えた」

私はその玉を見送りながら、誰もが知っている童謡を口ずさんだ。

⏰:09/10/26 03:03 📱:SH705i 🆔:qR2hLkuw


#90 [ぎぶそん]
「知ってる?その歌は自分の子供が生まれてすぐに死んだっていう悲しい歌なんだよ」

彼がベランダの柵にもたれ掛かる状態で両肘をつけたまま、暗闇に包まれた街目掛け泡を吹き続ける。
反対に私は吹くのを止めた。

彼に言われて初めて気がついたけど、『うまれてすぐに こわれて消えた』というフレーズは確かにその思いを直に表しているのかも。

ねえ真織。誰かを失ってばかりの私はあなたを失うのがとても怖いよ。
いつか私たちの関係もこのしゃぼん玉たちと同じように、きっと壊れて消えていくだろうから。

⏰:09/10/26 03:18 📱:SH705i 🆔:qR2hLkuw


#91 [我輩は匿名である]
頑張って

⏰:09/11/01 10:37 📱:W56T 🆔:tJVxcJv6


#92 [ぎぶそん]
しばらくして、真織に続くように私も街中の中華料理店でアルバイトをすることとなった。

厨房に入って、ただただ機械のように主に配膳と皿洗いをし続ける。
慣れて来たら、ホールの仕事内容もさせられるらしい。

アルバイトの最中、同期で入った中野静香という同級生の子と親しくなった。

店の近くの美容専門学校に通っているらしく、見た目も金色に染めた髪と特徴的なマッシュルームヘアの髪型、個性的な服装とそれらしい。

小柄な体格と頬を染めるピンク色のチークが、どこと無く佳奈を思い出させる。

⏰:09/11/03 03:20 📱:SH705i 🆔:G9w4Ke6c


#93 [ぎぶそん]
「初給料で何買おっかなー。かなめは欲しいものとかある?」

狭い厨房の隅で皿洗いをしながら、静香がこちらに話し掛けてくる。
その傍らで私は、注文を受けた分のご飯を電気釜から速やかについでいた。

「アコギが欲しい」

「へー。音楽するんだあ。何か意外」

水道から流れっぱなしの水の音に負けないようにと、静香が少し声の音量を上げて言う。

私自身も、まさか自分が音楽をやろうと決意するなんて思ってもみなかった。
目を閉じると、部屋の壁にもたれて弾き語りをする真織の姿が浮かぶ。
今の私の羨望の的。

⏰:09/11/03 03:51 📱:SH705i 🆔:G9w4Ke6c


#94 [ぎぶそん]
アルバイトから帰宅すると、物音一つしない明かりの点いたリビングで真織が寝転がっていた。
テーブルの上には二人分のコンビニ弁当と、溢れんばかりの吸い殻が入った灰皿が。

「今までずっと何もしないでそうしてたの?
先に食べてれば良かったのに」
私は肩から提げていたショルダーバッグを外し、床に置いた。

「誰かさんだっていつも俺の帰りを待ってるじゃん」彼が上体を起こして、欠伸をしつつ少し寝癖のついた髪を掻き分ける。
その仕草を見て、私は顔に笑みを浮かべた。

立ち仕事からくる足の痛みも何処へやら。

⏰:09/11/04 02:54 📱:SH705i 🆔:JwJwdF2k


#95 [ぎぶそん]
「椎橋は『三日月ロック』、長田は『名前をつけてやる』、小柴は『惑星のかけら』派なんだとよ」

弁当に入ってるコロッケに付属のタルタルソースをかけながら、彼が口を開く。今日はバンドのメンバーでスピッツのどのアルバムが好きかそれぞれ打ち明けたらしい。

「私は『フェイクファー』かな」
私も彼と同じようにして、ソースを目一杯出す。

「『スカーレット』好きだねえ」

「あんたは何派なの?」

「内緒」

何それ。隠す必要がどこにあるのよ。
スピッツを話す時の彼はいつも嬉しそうで、照れ臭そうだ。

⏰:09/11/04 03:19 📱:SH705i 🆔:JwJwdF2k


#96 [我輩は匿名である]
あげ
がんばって!

⏰:09/11/26 18:24 📱:W56T 🆔:Qz9p.CVk


#97 [ぎぶそん]
「…『三日月ロック』」
彼が固有名詞をぼやく。

「え?何?」

「俺が一番好きなの。椎橋が今日絶賛してた時、『げっ!被ってる!』って思った」
彼が少しぷんむくれの表情をしながら、頭を掻いた。

なーんでそこで同じ気持ちを素直に共有しないのかな。
友達どうし気が合う証拠ってことでいいじゃない。

「…今度のライブでは『三日月ロック』の曲を中心にやるよ」
彼が私の瞳を見て言った。
彼の透き通った真っすぐな視線と、私の視線が重なる。

うん、とそれをありのまま受け入れる形で私は小さく頷いた。

⏰:09/12/01 01:26 📱:SH705i 🆔:tD4FaRYY


#98 [ぎぶそん]
「『ロビンソン』の歌詞って何を言ってるのか分かんなくない?」

食事を済ませた後、無言のまま歌詞カードを見つめていた彼が口を開いた。
部屋からは丁度、彼の言う曲が流れていた。

「心中をイメージした歌っていう噂は聞いたことはあるけど。
でも私は違うと思うな」

私はきっと、歌詞を書いた草野さんですら全てを理解出来てないなんて思ってる。

「考えるな、感じろってことか」
彼が歌詞カードを閉じる。

きっとスピッツの歌は、誰からしてみてもその人だけの世界にすることが出来るから、いいんだね。

⏰:09/12/01 01:43 📱:SH705i 🆔:tD4FaRYY


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