<<来栖>>
最新 最初 🆕
#1 [nanoka]

怖い話を観たり聞いたりするのは好きですか?

――はい。

では、あなたは霊感がある方ですか?

――いいえ、全く。

⏰:09/10/18 00:08 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#2 [nanoka]

これは面接の時に俺と蒼井さんが交わした言葉。

蒼井さんの質問の真意など知らず、暢気に

「自慢じゃないっすけど、俺一回も幽霊とかそうゆう類い見たことないんすよねー」

と答えた俺を見て蒼井さんは微笑んだ。

⏰:09/10/18 00:17 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#3 [nanoka]

「うん。君に決めた。合格!」

「え?採用ですか?ほんとに俺でいいんすか!?」

思わず聞き返した俺に蒼井さんはもう一度静かに微笑んだ。

⏰:09/10/18 00:23 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#4 [nanoka]

マンガやら映画の影響を受けまくって

次は絶対バーでバイトする!!

そう決めていた俺。すでに10軒以上のバーの面接に落ちていた俺を雇ってくれたのが蒼井さんだった。

⏰:09/10/18 00:29 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#5 [nanoka]

酒の知識もほとんどないド素人の俺を雇ってくれた理由は後々わかるんだけど、それを俺が知るのはもう少し後になってから。

あの時は嬉しさのあまり、仕事内容には全く触れずに俺を採用したことに何の疑問も抱かなかった。

⏰:09/10/18 00:38 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#6 [nanoka]

俺がバイトすることになったバーの名前は来栖。

「これ、店の名刺なんだけど連絡先とか載ってるから渡しておくよ」

面接の日、帰り際に蒼井さんから渡された名刺に目を落とした俺は恐る恐る訊いた。

⏰:09/10/18 00:44 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#7 [nanoka]

「あのー…この漢字って何て読むんですか?」

これから働こうという店の名前もわからないなんて、ほんと失礼な奴だった。

「くるす」

蒼井さんは短く答えた。

⏰:09/10/18 00:47 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#8 [nanoka]

いまだに名前の由来は聞けないままでいる。

たまにお客さんが

「何で来栖なの?」

と訊ねても、蒼井さんは静かに微笑むだけで由来は決して口にしない。

⏰:09/10/18 00:49 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#9 [nanoka]

そんな蒼井さんを横で見ているせいもあって、俺はその質問を口に出せずにいる。

お客さんの一人がしつこく訊ねてくれたら…と思うけど、みんなあの蒼井さんの微笑みに負けて深く追及できなくなる。

⏰:09/10/18 00:56 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#10 [nanoka]

有無を言わせない魅力っていうのかな。

蒼井さんはそんな独特な雰囲気がある人だった。

同性に魅力を感じたのは蒼井さんが初めてだった。

⏰:09/10/18 01:00 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#11 [nanoka]

あ、変な意味じゃなくて、かっこいいなーとか人として憧れるって意味で、ね。

常連さんの話では、蒼井さんのおじいちゃんがロシア人らしく蒼井さんはいわゆるクォーターってやつらしい。

⏰:09/10/18 01:03 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#12 [nanoka]

直接、蒼井さんから聞いたわけじゃないから真実かどうかはわからないけど。

そういえば蒼井さんがクォーターだって教えてくれたおじさんがきっかけだったんだ。

蒼井さんのバーテンダーとは別の“仕事”を知ったきっかけはおじさんの怪談話だった。

⏰:09/10/18 01:10 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#13 [nanoka]

蒼井さんのバーでバイトを始めて2週間。

加藤さんと呼ばれるそのおじさんを常連さんだと俺が認識した頃だった。

一人でカウンター席に座り、蒼井さんや俺と会話を楽しんで帰るというのが加藤さんのいつものパターンだった。

⏰:09/10/18 01:15 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#14 [nanoka]

その日の加藤さんは、俺の目から見てもわかるくらい元気がなかった。

出されたカクテルにもほとんど口をつけていない。

体調でも悪いのかな?帰って休んだ方がいいんじゃないかな、などと余計な心配をしていたのを覚えている。

⏰:09/10/18 01:18 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#15 [nanoka]

「口に合いませんでしたか?」

数人のお客さんを送り出し、静かになった店内で蒼井さんはそう訊いた。

「あ、いや。美味しいよ」

⏰:09/10/18 01:22 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#16 [nanoka]

蒼井さんに訊かれ、思い出したように加藤さんはグラスに口をつけた。

「お気になさらず、残して下さい。氷が溶けて薄くなってるでしょうから」

蒼井さんの言葉に、加藤さんは少し困ったような顔をした。

⏰:09/10/18 01:25 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#17 [nanoka]

「不味かったとか、そうゆうんじゃないんだ」

そう否定する加藤さんに、蒼井さんは

「宜しければ同じもの作り直しましょうか?」

と微笑んだ。

⏰:09/10/18 01:28 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#18 [nanoka]

「あ、うん。そうしてもらおうかな。今日は飲みたい気分なんだ」

蒼井さんがカクテルを作っている間の加藤さんは酷く小難しい表情で、蒼井さんの手元を眺めていた。

「どうぞ」

⏰:09/10/18 01:32 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#19 [nanoka]

今度は目の前に出されたカクテルをすぐに口へと運んだ。

「美味いよ」

その言葉に、蒼井さんは小さく頭を下げた。

⏰:09/10/18 01:36 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#20 [nanoka]

「この間…」

ようやく自分から口を開いた加藤さんの声は、少し高揚していた。

何かを思いきって口にする時、特有の緊張感が俺にも伝わってきた。

⏰:09/10/18 01:39 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#21 [nanoka]

「家族で川に行ったんだ」

話の腰を折らないようにする為か、蒼井さんは相槌の代わりに作業していた手をとめた。

「夏休みなんだからどっか連れてけって子どもたちにねだられてな」

⏰:09/10/18 01:52 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#22 [nanoka]

きっと店に入ってからずっとこの話がしたかったのだろう。

加藤さんは話し続けた。

「じゃあまぁ川でバーベキューでもするかってことになったんだ」

⏰:09/10/18 01:55 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#23 [nanoka]

加藤さんの話が気になって俺もグラスを洗っていた手をとめた。

「女房と子ども2人と俺の4人で行ったんだ。夏休みだから他にも家族連れや大学生くらいの子らも来てて結構賑やかだった」

⏰:09/10/18 01:59 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#24 [nanoka]

そこまで聞く限りでは、楽しいバーベキューの話としか思えなかった。

事態を変えたのは、急に降りだした雨らしい。

「山だから急に天気が変わることは珍しくないし、川で泳いだ後だったからすでに身体も濡れてたし、大したことじゃなかったんだが…」

⏰:09/10/18 02:03 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#25 [nanoka]

そこまで話すと、加藤さんはグラスに残っていたカクテルを一気に飲み干し話を続けた。

「急に雨が降りだしたからみんな慌てて、バーベキューしてた小屋の辺りまで走ったんだ」

⏰:09/10/18 02:07 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#26 [nanoka]

「小屋って言っても、屋根があるだけで壁があるわけじゃなくて…」

「わかります。僕もキャンプ場やバーベキュー場には何度か行ったことありますから」

加藤さんの話をフォローするように、蒼井さんがそう言った。

⏰:09/10/18 02:12 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#27 [nanoka]

「そうか。多分あれだろうな。バーベキューの煙や何かを籠らないようにする為に屋根だけにしたんだと思うんだけど」

と、加藤さんは少しホッとしたような顔をした。

「そこで雨宿りしていると川が見えたんだ。それまで泳いでた川がな」

⏰:09/10/18 02:16 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#28 [nanoka]

「夕立みたいな強い雨だったからすぐに止むだろうと何気なく川を眺めてたんだ」

そこで加藤さんは口を閉じた。

その先が気になっていたが必死で「それで続きは?」そう訊くのを我慢した。

⏰:09/10/18 02:21 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#29 [nanoka]

動揺しているのか、空になったグラスを手に取った加藤さんに

「もう一杯召し上がりますか?」

と、蒼井さんが声をかけた。

⏰:09/10/18 02:23 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#30 [nanoka]

「あぁ。それじゃ同じものを」

誰も口を開かなくなった店内に、蒼井さんがカクテルを作る音が静かに響いた。

続きが気になって仕方なかった俺は、バイト中なのも忘れて突っ立ったまま加藤さんを見ていた。

⏰:09/10/18 02:27 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#31 [nanoka]

「どうぞ」

そう言ってグラスを置くのが蒼井さんの普段の出し方だった。

でもその時は違っていた。

⏰:09/10/18 02:29 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#32 [nanoka]

「薄い水色のワンピースを着た女性ですか?」

そう言って蒼井さんがグラスを置くと、うつ向いていた加藤さんは驚いた顔で蒼井さんを見上げた。

「視えるのか!?」

⏰:09/10/18 02:34 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#33 [nanoka]

「はい」

蒼井さんには全部わかっているようだった。

「そうか。やっぱり連れて帰ってしまってたか」

全く意味がわからずに間抜けな顔で蒼井さんに助けを求めていると目が合った。

⏰:09/10/18 02:38 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#34 [nanoka]

「彼に話してあげても構いませんか?」

蒼井さんが訊くと、加藤さんは思い出したように俺の方に振り向いた。

「あぁ。悪い悪い。お兄ちゃんいたの忘れてた」

⏰:09/10/18 02:40 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#35 [nanoka]

話したことで気が楽になったのか、加藤さんはそう言って少し笑顔を見せた。

「蒼井くんはな、霊が視えるんだ」

「へっ?」

⏰:09/10/18 02:43 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#36 [nanoka]

結婚して子どももいる人とは思えない常識離れした発言に、何とも間の抜けた声が出てしまった。

「俺も多少霊感があるみたいでたまに憑かれるんだ。その度に蒼井くんにはお世話になっててな」

⏰:09/10/18 02:47 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#37 [nanoka]

?マーク全開の俺に、加藤さんはさっきの話の続きをしてくれた。

雨が止まないかと川の方を眺めていた加藤さんは、川の反対側に人影を見つけたらしい。

それが蒼井さんの口にした薄い水色のワンピースの女性のようだ。

⏰:09/10/18 02:50 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#38 [nanoka]

「最初は逃げ遅れた子だと思ったんだ。雨も激しかったし川を渡れなくなったのかと思ってな」

でもすぐにそれがこの世のものではないと気付いたらしい。

「他の客も川の方を見ていたけど、それに気付いているのは俺だけみたいだった」

⏰:09/10/18 02:54 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#39 [nanoka]

元々、心霊関係の話が好きだった俺はすっかり加藤さんの話に夢中になっていた。

「この世のものじゃないって言ってもやっぱり気になって見てたんだ。そしたら…」

「そしたら…?」

⏰:09/10/18 02:57 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#40 [nanoka]

ついさっき常識離れした発言などと思ったことも忘れ続きを急かした。

「その女と目が合ったんだよ。一瞬な」

目が合った瞬間、全身に鳥肌が立ったと加藤さんは言った。

⏰:09/10/18 02:59 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#41 [nanoka]

「これはヤバいと思って、気付いていないフリをしたんだ。俺は何も視えてないぞーってな」

「それで?どうなったんですか?」

あまりに俺が興味津々なのが面白かったのか、加藤さんはわざと続きを焦らすような話し方をした。

⏰:09/10/18 03:03 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#42 [nanoka]

「目は逸らしているんだけど、どうしても意識はそっちに行ってしまってな」

「わかります!って俺は全く視えないですけど…」

「視えない方が幸せだよ。な、蒼井くん」

⏰:09/10/18 03:05 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#43 [nanoka]

加藤さんに同意を求められた蒼井さんは、例のお得意の微笑みを返した。

「そのまま10分くらい経ったかな。雨が止んで太陽が照り出したんだ。そしたら誰かが虹だ!って叫んだのが聞こえてきて、俺もつられて川の方に目をやっちゃってな」

⏰:09/10/18 03:10 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#44 [nanoka]

「思わず叫びそうになったよ。あの女が川を渡って来ようとしてたんだ」

「うおっ!怖っ!!」

話を聞いてるうちに俺まで鳥肌が立ってきて、手のひらで腕を擦った。

⏰:09/10/18 03:12 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#45 [nanoka]

「水面に目から上だけ出てる状態で泳いでる姿を見た時は、いい歳して泣きそうになったよ」

「それって加藤さんに近付いて来てたんですか?」

「多分な。とにかく見ちゃいかんと思ってひたすら無視してたよ」

⏰:09/10/18 03:17 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#46 [nanoka]

「完全に雨が上がって子どもに一緒に泳ごうって手を引かれて川を見た時かな、聞こえたんだ」

「な、何がですか?」

心霊好きなのに怖がりな俺はちょっとビビりながら訊いた。

⏰:09/10/18 03:21 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#47 [nanoka]

「ねぇ、視えてるの?って声が耳元で」

加藤さんの話に完全にビビってしまった俺が、今日は電気つけたまま寝ようと決意している間に、加藤さんのグラスが空になっていた。

「次はどうします?」

⏰:09/10/18 03:25 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#48 [nanoka]

蒼井さんの問いに

「いや、今日はもうやめとくよ。話してスッキリしたし」

と、加藤さんが答えると蒼井さんは自分の手首からブレスレットのような物を外して加藤さんに渡していた。

⏰:09/10/18 03:29 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#49 [nanoka]

よく見るとそれは数珠だった。透明で硝子みたいな玉でできた数珠。

「見つかってしまったみたいなので、しばらく隠れましょう」

蒼井さんは店の入り口を見ながら言った。

⏰:09/10/18 03:34 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#50 [nanoka]

「隠れんぼか」

加藤さんは小さく笑うと、数珠を手にはめ眺めた。

「今は僕がいるので店の中に入れないでしょうから、外に出てからはその数珠に隠してもらって下さい」

⏰:09/10/18 03:37 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#51 [nanoka]

「わかった。ありがとう」

「視えても目を合わさず、数珠はシャワーや寝る時も外さないで下さい」

蒼井さんの説明に加藤さんは二度頷いてから立ち上がった。

⏰:09/10/18 03:39 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#52 [nanoka]

「子どもの頃、隠れんぼ得意だったんだ」

そう言って笑顔を見せた加藤さんを見送ると、店内は蒼井さんと俺の2人だけになった。

「今日はそろそろお店閉めましょうか」

⏰:09/10/18 03:42 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#53 [nanoka]

蒼井さんは一体何者なのか?

という疑問を口にする暇もなく、蒼井さんは俺に背を向けテーブルを拭きはじめてしまった。

仕方なく俺も洗いかけだったグラスを手に取った。

⏰:09/10/18 03:46 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#54 [nanoka]

加藤さんの件で蒼井さんと話したことと言えば

「もし万が一、店の外で水色のワンピースの女性が見えても絶対に目を合わせないで下さいね」

という忠告だけだった。

⏰:09/10/18 03:49 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#55 [nanoka]

おかげで俺は帰り際かなりビビりながら店のドアを開ける羽目になってしまった。

まぁ、心霊スポットに行っても気配すら感じられない俺は何も視ることなく無事に終わったのだけど。

たとえ視えなくても怖いもんは怖い!!よね?

⏰:09/10/18 03:54 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#56 [nanoka]

一週間ほど経って加藤さんが店に来た。

いつものようにカウンターの席に座ると同時に

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

と、俺に手招きをした。

⏰:09/10/18 03:56 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#57 [nanoka]

近寄ると、この間はめて帰った数珠を見せてくれた。

加藤さんの左手の手首につけられた数珠は何故か真っ黒になっていた。

加藤さんいわく「悪いものを吸い取るとこんな風に黒くなる」らしい。

⏰:09/10/18 04:01 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#58 [nanoka]

数珠の黒さにも驚いたが、一番ビックリしたのは蒼井さんにだった。

「もういなくなりましたから外しても大丈夫ですよ」

そう言われると加藤さんは数珠を外し、蒼井さんに返した。

⏰:09/10/18 04:04 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#59 [nanoka]

「うわー。真っ黒ですね」

蒼井さんも予想以上って感じで数珠を眺めてから自分の腕にはめた。

あり得ないことに真っ黒だった数珠が、蒼井さんの手にはめたとたん透明になっていった。

⏰:09/10/18 04:07 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#60 [nanoka]

「な、凄いやろ?」

呆気にとられていると加藤さんに声をかけられた。

「あ…はい。…てか何でですか?」

正直蒼井さんと出会うまで俺、幽霊の存在は信じてるけど霊能力者とかそうゆう類いはどうなの?ほんとなの?ってタイプだった。

⏰:09/10/18 04:11 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#61 [nanoka]

でも目の前で数珠が透明になっていくのをまじまじと見ていた俺は

「蒼井くんには霊とか悪いもんとかを浄化する力があるんや」

という加藤さんの言葉を、すんなりと受け入れることができた。

⏰:09/10/18 04:14 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#62 [nanoka]

こんな感じで呆気にとられている間に蒼井さんと心霊現象に関わる生活が始まった。

蒼井さんが浄化できる→店に霊が入れない→憑かれている人が安心できる、居心地がいい→といった流れがあるらしい。

⏰:09/10/18 04:22 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#63 [nanoka]

蒼井さんの力を知らなくても、悪いものが入れないから憑かれている人にとって“来栖”は居心地の良い場所のようだ。

そのせいか、バイトをしていると心霊関係の体験談をよく聞いた。

次はその中の一人の話をしようと思う。

⏰:09/10/18 04:27 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#64 [nanoka]


安価

>>1-63


⏰:09/10/18 15:12 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#65 [nanoka]

俺が2人目に常連さんだと認識して名前を覚えたのは明日香さんだった。

キャバ嬢らしく、いつも店に来た時にはすでに酔っ払っていた。

仕事終わりに一人で一杯だけカクテルを飲みに来る。

⏰:09/10/18 15:23 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#66 [nanoka]

明日香さんはよく俺に自分が体験した怖い話をしてくれた。

どうやら明日香さんの話を聞いてビビる俺の姿が面白いらしい。

「ねー、ちょっと聞いてよ。また変な体験しちゃってさー」

⏰:09/10/18 15:28 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#67 [nanoka]

大体こんな砕けた感じで、明日香さんの話は始まる。

「今度は何があったんですか!?」

心霊好きな俺としては明日香さんの話を聞くことは、ちょっとした楽しみの一つだった。

⏰:09/10/18 15:31 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#68 [nanoka]

「この間あそこを車で通ったんだけどさー」

「えっ?あそこってどこですか?」

俺が訊くと、明日香さんは煙草に火をつけながら答えた。

⏰:09/10/18 15:34 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#69 [nanoka]

「あそこよ、あそこ。焼身自殺があったアパート!知らないの?」

この辺で数年前にそうゆう事件があったという噂は聞いたことがあった。

「噂は聞いたことありますけど…」

⏰:09/10/18 15:38 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#70 [nanoka]

横目で蒼井さんに助けを求めると

「拓真くんのマンションのすぐ側ですよ」

と、話題を繋いでくれた。

そんな近くであった事件だとは知らなかったので驚いた記憶がある。

⏰:09/10/18 15:41 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#71 [nanoka]

「何年か前のことだしもう忘れかけてたんだけど、そのアパートの近くになって急に思い出して…」

車の助手席に乗っていた友達に明日香さんは言ったらしい。

「そういえば焼身自殺があったアパートってこの辺だよね」って。

⏰:09/10/18 15:44 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#72 [nanoka]

「その瞬間、車のロックがガチャガチャ鳴りはじめてさー」

「うわっ。怖っ!」

俺の反応を楽しむように明日香さんは続けた。

⏰:09/10/18 15:52 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#73 [nanoka]

「驚いてブレーキ踏んで車を停めたんだけど…顔あげたらそこちょうどそのアパートの目の前の道だったんだよね」

霊感もないくせに両腕に鳥肌が立ってしまった俺は、いつものように腕を擦りながら怖いを連発した。

⏰:09/10/18 15:55 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#74 [nanoka]

「ヤバいと思ってすぐに車を発進させたよ。で、もし憑いてたら嫌だなーって思って蒼井くんに会いに来たってわけ」

話終えた明日香さんに蒼井くんは微笑んだ。

「大丈夫ですよ。というか多分彼はあそこのアパートから動けないと思います」

⏰:09/10/18 15:59 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#75 [nanoka]

何でそんなことわかるんですか!ってツッコみたい気分を抑えつつ2人の話を聞いていた。

霊感体質なのか、明日香さんは毎週のように心霊体験をしては蒼井くんに憑かれてないかと確認していた。

前回来た時にも有名な心霊スポットに行ってきたと話していた。

⏰:09/10/18 16:04 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#76 [nanoka]

「いやー、夜中のトンネルって怖いね!まじで。ごめんなさい連発しちゃったよ、あたし」

いつもにも増してテンション高く話はじめた明日香さんに俺は手をとめた。

「トンネルってだけでもう怖いじゃないですか」

⏰:09/10/18 16:11 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#77 [nanoka]

「拓真くんてさ、聞きたがりのくせにビビりだよね」

性格をズバリ言い当てられた俺は微妙な心境で明日香さんの顔を見た。

「ま、そこが面白いんだけどねー」

⏰:09/10/18 16:13 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#78 [nanoka]

「てか何で夜中にトンネルなんか行ったんですか?」

俺が訊くと、明日香さんはきょとんとした顔をした。

「夜中にトンネルに行く理由なんて一つしかないじゃない」

⏰:09/10/18 16:16 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#79 [nanoka]

「肝試しですか?」

明日香さん、わざわざ試さなくても十分肝据わってるのに…。

などと考えながらそう訊くと明日香さんは大きく頷いた。

⏰:09/10/18 16:19 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#80 [nanoka]

「そうそれ!肝試しに行ってきたの」

怖かったと言っているわりに嬉しそうに見えたのは、多分気のせいではなかったと思う。

肝試しといっても当初の計画ではただトンネルを見に行くだけだったらしい。

⏰:09/10/18 16:22 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#81 [nanoka]

「でもさー、何か実際に見てみたらそれほどってゆうか全然怖くなくて」

怖くなかったのは明日香さんだけじゃないかと思いながら話を聞いた。

「お酒もちょっと入ってたし車から降りて歩いて中に入ってみようってことになったのね」

⏰:09/10/18 16:26 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#82 [nanoka]

「酒の勢いって怖いですね。てか、何人で行ったんですか?」

「あたし入れて3人。みんなキャバ嬢だよー。今度連れて来てあげよっか?」

「いや、遠慮しときます」

⏰:09/10/18 16:28 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#83 [nanoka]

俺は深々と頭を下げた。

女3人で夜中のトンネルに入れる度胸のあるお姉さん方に囲まれたら、俺には到底相手に仕切れないだろう。

「ふーん。ま、いいや。それでさっきの続きなんだけど、いざ中に入ったものの何も起きなくてさー」

⏰:09/10/18 16:32 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#84 [nanoka]

その時不意に明日香さんはあることを思い出したらしい。

そのトンネルの中にはお地蔵様があって、そのお地蔵様に触れると何かが起こるという噂だ。

「で、そのお地蔵様を探そうってことになったんだけど暗くてよく見えなくて」

⏰:09/10/18 16:40 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#85 [nanoka]

そこで明日香さんたちは、わざわざ車まで戻って車でトンネルに入りなおしたらしい。

すごい執念!笑

「車のライト照らしながらゆっくりトンネル進んでたらあったんだよね、ほんとにお地蔵様が」

⏰:09/10/18 16:57 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#86 [nanoka]

「見つけたからには触るしかない!ってなってみんなで車降りてお地蔵様の頭をなでなでしたのね」

「あり得ないですって。度胸有りすぎでしょ!」

俺の反応が面白いのか明日香さんは笑いながら、煙草の煙を吐いた。

⏰:09/10/18 17:01 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#87 [nanoka]

「でも何も起きなかったから白けて帰ろうってことになったのね」

「えっ?何もなかったんですか?」

「その時まではね」

⏰:09/10/18 17:03 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#88 [nanoka]

そう言って明日香さんは意味有り気な顔をした。

「3人で車に戻ってエンジンをかけて、さー帰るかって時になって後部座席に乗ってた子が突然悲鳴をあげたの」

⏰:09/10/18 17:05 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#89 [nanoka]

「ビックリして振り向いた瞬間、あたしも助手席にいた子も悲鳴あげちゃったよ。だってその子がお地蔵様の頭抱いてるんだもん」

「うわー。うわー。最悪の展開っすね」

俺はその時の様子がリアルに想像できた。

⏰:09/10/18 17:10 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#90 [nanoka]

「お地蔵様の頭なんかさすがに持って帰れないし、とりあえず返そうってことになったんだけど…」

「何でそんな冷静な判断下してるんですか」

「だってその子も何で持ってるのかわかんないって言うし…」

⏰:09/10/18 17:12 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#91 [nanoka]

「でさ、さっきお地蔵様があった場所に戻ったんだけどなかったんだよねー、お地蔵様」

「怖いし、どうにもならないしほんと最悪じゃないですか」

明日香さんとだけは肝試しに行きたくないって本気で思った。

⏰:09/10/18 17:16 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#92 [nanoka]

「暗いから場所間違えたのかなって話になってまた車に戻ったんだけど、今度は車が見つからなくてさー」

明日香さんの言葉に笑ったのは、蒼井さんだった。

「すいません、つい。拓真くんの言うようにほんとにあまりに最悪過ぎる展開だなと思って」

⏰:09/10/18 17:19 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#93 [nanoka]

「ほんと最悪ですよ!車はないしお地蔵様の体も見つからないし!!」

蒼井さんの同意を得たのが嬉しかったのか、明日香さんのテンションはさらに上がった。

「それで3人で途方に暮れてた時に聞こえてきたんですよ、足音が」

⏰:09/10/18 17:23 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#94 [nanoka]

姿は見えないけど、お地蔵様の足音だって3人ともがわかったらしい。

ゆっくり近付いてくる足音を聞いているうちに、どんどん空気が重くなっていったと明日香さんは言った。

⏰:09/10/18 17:25 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#95 [nanoka]

「あ、逃げないとヤバいって思ったね、直感ってやつ!」

「正しい判断ですね」

いつの間にか作業をやめて俺の隣に立っていた蒼井さんがそう呟いた。

⏰:09/10/18 17:27 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#96 [nanoka]

蒼井さんが言うのだから、正しい判断だったのだろうけど逃げても逃げてもトンネルから出れなかったらしい。

「足音はすぐ後ろまで迫ってるし、出口は見えないしで、ほんと焦った!走りながらごめんなさいってひたすら謝ったもん!!」

⏰:09/10/18 17:30 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#97 [nanoka]

夢中で逃げて気が付いたらトンネルの外に出てて、抱えてたはずのお地蔵様の頭もなくなってたらしい。

「あれはほんとに怖かった!」

と、興奮気味に話す明日香さんに蒼井さんは静かに微笑んだ。

⏰:09/10/18 17:44 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#98 [nanoka]

「憑いてきてはないみたいですね」

蒼井さんの言葉に、明日香さんはホッとした表情を見せた。

「心配でしたら、そのお友達も視てみますから今度連れて来て下さい」

⏰:09/10/18 17:46 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#99 [nanoka]

俺の顔を見ながら蒼井さんは言葉を続けた。

「拓真くんがお相手しますから」

肝っ玉の据わったお姉様方に囲まれるってある意味お地蔵様よりも怖いかもしれないと蒼井さんのちょっと意地悪な笑顔を見ながら思った。

⏰:09/10/18 18:48 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#100 [nanoka]


安価

>>1-63
>>64-99


⏰:09/10/18 18:50 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#101 [nanoka]

100まで続いたので
作ってみました.笑

感想板↓↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4602/

⏰:09/10/19 18:54 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194