<<来栖>>
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#401 [nanoka]

もう友達みたいな口調で、空さんが訊いた。

「あ。えっと拓真です。それからあそこにいるのが、蒼井さんです」

俺の言葉にみんな一斉に蒼井さんに視線を送った。

⏰:09/11/08 15:21 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#402 [nanoka]

「初めまして。蒼井です。みなさん宜しければ何か飲まれますか?」

蒼井さんが口を開いただけなのに、店内の雰囲気が明るくなった気がした。

蒼井さんの落ち着いた優しい声のせいかもしれない。

⏰:09/11/08 15:23 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#403 [nanoka]

全員がそれぞれ頼んだドリンクが揃う頃には、五人ともカウンターの席に座っていた。

あまり広くない店内のカウンター席は彼らで埋まってしまった。

「表の看板、クローズに変えてきてくれる?」

⏰:09/11/08 15:26 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#404 [nanoka]

彼らが蒼井さんの作ったカクテルを味わっている間にそう耳打ちされた。

「えっ?いいんですか?」

俺も小声で訊き返すと蒼井さんは笑顔でコクコクと頷いた。

⏰:09/11/08 15:28 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#405 [nanoka]

俺のせいで店を閉めるなんて申し訳ないなと少し暗い気分で看板をオープンからクローズに変えた。

店内に戻ると、空さんが二杯目のカクテルを受け取っているところだった。

「拓真くんも座って何か飲みますか?」

⏰:09/11/08 15:35 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#406 [nanoka]

「拓真くんも座って何か飲みますか?」

蒼井さんに言われ、俺は慌てて手を振った。

「いいです。俺は…」

言い終わらないうちに蒼井さんは

⏰:09/11/08 15:37 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#407 [nanoka]

「たまにはいいじゃないですか。今日は僕もお休みしますから」

と、ボックス席から椅子を持ってきてくれた。

結局カウンター席の向かい普段は厨房の場所に椅子を二つ運び、そこに俺と蒼井さんが座る形になった。

⏰:09/11/08 15:42 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#408 [nanoka]

そこまできて、ようやく話は本題に入った。

俺があの女の子に会った話をしている間、五人ともが真剣に聞いていてちょっと恥ずかしくなった。

普通なら夢でも見たんじゃないかと笑い飛ばされそうな話なのに。

⏰:09/11/08 15:45 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#409 [nanoka]

「なるほど…」

説明を終え、一番先に口を開いたのは亮太だった。

なるほどと呟いてから、俺をじっと見て言った。

「霊感があるのか?」

⏰:09/11/08 15:49 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#410 [nanoka]

その質問にどう答えていいのかわからず、目で蒼井さんに助けを求めた。

“霊感がある”という実感は正直まだあまりない。

「それについては僕が説明しましょう。半分は僕のせいでもあるので」

⏰:09/11/08 15:51 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#411 [nanoka]

そう前置きして蒼井さんはこの前俺にしてくれた後ろの方の話や、蒼井さんの力について説明をした。

誰も笑わなかったし、話の信憑性を疑っているという感じも皆無だった。

「………と、まぁ大まかに言えばこんな感じです」

⏰:09/11/08 15:54 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#412 [nanoka]

そう言って蒼井さんは微笑んだ。

「聞くよりも見る方が早いかもしれませんね」

と、蒼井さんが手にしたのは真っ黒くくすんだ数珠だった。

⏰:09/11/08 15:56 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#413 [nanoka]

「こんなこと言うと手品みたいになってしまいますけど、みなさん手に取って確認してみて下さい」

蒼井さんはまず亮太に数珠を手渡した。

しばらくその数珠を眺めていた亮太が横にいた優ちゃんに渡し、順番に全員が数珠を手に取った。

⏰:09/11/08 16:02 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#414 [nanoka]

最終的に蒼井さんの手に戻ってきた数珠は、最初と同じように真っ黒だった。

「それじゃあ…」

と、両手で蒼井さんはその数珠を包み、静かに目を閉じた。

⏰:09/11/08 16:03 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#415 [nanoka]

次に蒼井さんが手を広げた時には数珠は透明になっていた。

「これが僕の力です」

と、蒼井さんは微笑んだ。

一瞬の沈黙後、蒼井さんが質問攻めにあったのは説明するまでもないかな。

⏰:09/11/08 16:06 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#416 [nanoka]

全部の質問に一つ一つ丁寧に答えていく蒼井さんは、かなりがっちり彼らの心を掴んだようだった。

蒼井さんってすごくいい人という尊敬の眼差しが俺でもわかるくらい熱烈に送られていた。

一通り彼らの質問が落ち着くまで俺は黙ってカクテルを口に運んでいた。

⏰:09/11/08 16:13 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#417 [nanoka]

蒼井さんの話にしきりに感心し異様なまでに盛り上がっている様子を、俺は少し得意気な気持ちで眺めていた。

蒼井さんが褒められると、何だか嬉しい。

そんな和やかな雰囲気を変えたのは空さんの何気ない一言だった。

⏰:09/11/08 16:20 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#418 [nanoka]

「何か蒼井さんって枢先生と正反対って感じだね」

その言葉に、騒がしかった店内に沈黙が訪れた。

場が凍りつくという状況を俺は生まれて初めて経験した。

⏰:09/11/08 16:21 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#419 [nanoka]

「その枢先生のこと聞かせてもらえませんか?」

少し遠慮がちに蒼井さんが口を開くまで、誰一人言葉を発しなかった。

「枢先生というのは…」

⏰:09/11/08 16:23 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#420 [nanoka]

説明したのは亮太だった。時折空さんが捕捉しながら話は進んだ。

悪いモノを吸収する体質と俺は理解した。

吸収しても浄化していたが突然それがうまくいかなくなり今は入院中だという。

⏰:09/11/08 16:26 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#421 [nanoka]

彼らがそれを自分たちのせいだと責任を感じているということもわかった。

たしかに、蒼井さんと逆の体質のように思えた。

蒼井さんの場合…

と、そこまで頭の中で整理した時、蒼井さんが口を開いた。

⏰:09/11/08 16:28 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#422 [nanoka]

「僕は逆というより似ていると思います」

意外な答えだった。

「僕の場合、吸収するよりも前に霊が逃げちゃうんですけど…」

⏰:09/11/08 16:30 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#423 [nanoka]

「その方は一度吸収して、浄化しているんですよね。結果的に寄ってきた霊が消えるという点では同じですから」

そこまで話すと、蒼井さんはさっきの数珠を手にとった。

「さっき僕が見せたのと同じことが、彼女にもできるのだと思います」

⏰:09/11/08 16:34 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#424 [nanoka]

蒼井さんは言った。彼女の場合、一度身体に霊を入れることで浄化しているのではないかと。

「煙草を吸う様子を想像してみて下さい」

蒼井さんの言葉に、彼らが目を閉じたので俺も目を閉じて想像した。

⏰:09/11/08 16:36 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#425 [nanoka]

「その煙草の煙は真っ黒です。吸い込むと一度それは肺に入ります。

その煙を今度はゆっくりを吐き出します。

すると真っ白に浄化された煙が身体から出てきます」

⏰:09/11/08 16:40 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#426 [nanoka]

「これが亮太くんたちの話を聞いて僕がイメージした枢さんの浄化のイメージです」

ゆっくりと目を開けると、蒼井さんが微笑んでいた。

「話に聞いただけなのではっきりとは言えませんが」

⏰:09/11/08 16:42 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#427 [nanoka]

そう言って蒼井さんは彼らのほうへ視線を送った。

「もしかしたら今彼女は、どこかが悪いモノで詰まってしまっている状態なのかもしれませんね」

「詰まって…?」

⏰:09/11/08 16:44 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#428 [nanoka]

呟くようにそう訊いたのは空さんだった。

「はい。パイプなんかに汚れが詰まると水が流れなくなりますよね?」

「あ…なるほど」

⏰:09/11/08 16:46 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#429 [nanoka]

納得したような声を出した空さんに代わって、今度は亮太が質問した。

「その詰まりを直すことはできるんですか?」

蒼井さんはちょっと困った顔をした。

⏰:09/11/08 16:47 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#430 [nanoka]

「多分…まずは周りに集まっている悪いモノを遠ざけてから原因を探らないといけませんが…」

「蒼井さんにならできますか?」

真剣な表情だった。彼らにとって枢先生がどれほど大きな存在だったかがよくわかる。

⏰:09/11/08 16:50 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#431 [nanoka]

「一度会いに行ってみて、それからですね。詳しく話せるのは」

慎重で嘘のつけない蒼井さんらしい言葉だった。

「ただ一つだけ今でもわかることがあります」

⏰:09/11/08 16:52 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#432 [nanoka]

ゆっくりと優しく蒼井さんは続けた。

「彼女のことは君たちのせいじゃありませんよ。彼女がそうなったことの原因があるとしたら、詰まっている悪いナニカですから」

蒼井さんはもう一度彼らに向かって微笑んだ。

⏰:09/11/08 16:56 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#433 [nanoka]

安価
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:09/11/08 16:57 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#434 [nanoka]

変わった人たちだなっていうのが第一印象だった。

でも不思議と嫌いじゃなかった。

だから次の日、枢先生という女性に会いに行くことが決まった時も自分から一緒に行きたいと言った。

⏰:09/11/10 15:52 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#435 [nanoka]

蒼井さんは

「それじゃあお昼くらいに迎えに行きます」

と、快く承諾してくれた。

正直俺が行ったところで何かの役に立つとは思えなかった。

⏰:09/11/10 15:54 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#436 [nanoka]

ただの興味とか好奇心だったのかもしれない。

蒼井さんにもきっとわかっていたと思うけど、何も言わなかった。

病院に先に着いていた彼らも蒼井さんの横にいた俺を見ても表情を変えなかった。

⏰:09/11/10 15:57 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#437 [nanoka]

「おはようございます」

蒼井さんが声をかけると、待合室のソファーに座っていた亮太が立ち上がった。

つられるように横にいた空さんと優ちゃんも立ち上がり挨拶を返した。

⏰:09/11/10 15:58 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#438 [nanoka]

「面会の許可はとれましたか?」

蒼井さんの言葉に亮太が答えた。

「はい。談話室でなら全員入れるそうです」

⏰:09/11/10 16:01 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#439 [nanoka]

先に談話室に移動しているという枢先生に会うために俺たちは病院の廊下を歩いた。

誰も言葉を発しず、そのことが妙な緊張感を生んだ。

蒼井さんが談話室2と書かれたドアをノックすると、はーいと明るい声が返ってきた。

⏰:09/11/10 16:03 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#440 [nanoka]

すぐにドアが開き、中からピンクのナース服を着た看護師さんが出てきた。

「面会時間は一時間です。私は外にいますのでお話が終わったら部屋の電話からナースセンターにコールして下さい」

笑顔でてきぱきと説明をすると、看護師さんは談話室に背を向けた。

⏰:09/11/10 16:06 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#441 [nanoka]

中に入って最初に口を開いたのは枢先生だった。

「こんにちわ」

優しく微笑むその表情は、どこか蒼井さんに似ていて緊張がとけていくのを感じた。

⏰:09/11/10 16:08 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#442 [nanoka]

「何だか今日はすごく気分がいいの」

と、彼女は笑った。

知り合いと言っていたが、亮太たちのことはわからないみたいだった。

⏰:09/11/10 16:10 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#443 [nanoka]

「初めまして。僕は蒼井と言います。ここにいる亮太くんや空さん、優さんの友達です」

蒼井さんがそう話しかけると、一瞬彼女の表情に変化があった。

「亮太くん…?」

⏰:09/11/10 16:12 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#444 [nanoka]

「はい。彼が亮太くんです。前にも何度かお会いしたことがありますよね」

ゆっくりと言葉を選びながら蒼井さんは、枢先生に説明していった。

昨日はあんなにうるさかった亮太たちが今日は黙ってその様子を見ていた。

⏰:09/11/10 16:14 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#445 [nanoka]

三人とも枢先生を心配そうな表情で見つめていた。

俺も彼女を見ていた。いや性格には彼女の頭部を見ていた、だ。

ちょうどおでこがある辺りに黒いもやの様なものが浮かんでいた。

⏰:09/11/10 16:19 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#446 [nanoka]

俺はそれが何なのか気になって仕方なかった。

チラチラと蒼井さんに視線を送ってみたけど蒼井さんは微笑みを返してくれるだけだった。

もしかしたら俺にしか視えてないのかと心配になったくらいだ。

⏰:09/11/10 16:21 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#447 [nanoka]

結局その日は、彼女が亮太たちのことを思い出すことはなかった。

それでも彼女は終始ニコニコしていたし、その表情はどこか亮太たちを懐かしんでいるようにも見えた。

⏰:09/11/10 16:28 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#448 [nanoka]

面会時間を終えた後、蒼井さんは亮太たちをバーに誘った。

「コーヒーでも飲みながら説明させて下さい」

という蒼井さんの誘いを、亮太たちは二つ返事で受けた。

⏰:09/11/10 16:32 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#449 [nanoka]

移動途中の車内で俺はあの黒いもやについて蒼井さんに聞いてみた。

「やっぱり拓真くんにも見えてましたか」

と、ちょっと嬉しそうに笑ってからあれが原因だと思うと蒼井さんは言った。

⏰:09/11/10 16:34 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#450 [nanoka]

「あれがあると何回まわりの霊を祓ってもまたすぐ集まってきちゃうと思うんですよね」

「あのもや自体を何とかすることは出来ないんですか?」

俺の質問に蒼井さんは少し困った顔で言った。

⏰:09/11/10 16:37 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#451 [nanoka]

「悪い夢を見てうなされている人を起こしちゃいけないって聞いたことはありませんか?」

「あ。その話なら昔ばあちゃんから聞いたことあります。たしか夢から戻ってこれなくなるとかって…」

「あの黒いもやも同じようなものなんです。だから下手に手出ししていいものかどうか…」

⏰:09/11/10 16:39 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#452 [nanoka]

俺にしたのと同じ話を蒼井さんは亮太たちにも伝えた。

「ただ今日みたいに寄ってきた霊たちを一時的に祓うことはできます」

と、付け加えて。

⏰:09/11/10 16:41 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#453 [nanoka]

「後ろの方の話はしましたよね?今は彼女自身の後ろの方の力は彼女を守ることに使っていると思うんです。だからそれを僕が手伝って…」

彼女自身の力で黒いもやを祓うしかないのだと、蒼井さんは言った。

後ろの方の力を黒いもやだけに使えれば可能かもしれないと。

⏰:09/11/10 16:45 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#454 [nanoka]

「時間はかかるかもしれませんが、僕にも手伝わせてくれませんか?」

というわけで、蒼井さんは二日に一回のペースで彼女に会いに行くことになった。

俺と二人の時もあれば亮太や空さんたちをつれて行くこともあった。

⏰:09/11/10 16:50 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#455 [nanoka]

一ヶ月くらい経って、俺はある変化に気付いた。

あのもやが少し小さくなっていたのだ。

蒼井さんの言うように少しずつだけど、彼女は元気になっているように思えた。

⏰:09/11/10 16:52 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#456 [nanoka]

何より彼女が蒼井さんの顔を見た時に見せる笑顔が、その証拠だった。

「蒼井くんといるとすごく気分が楽になるの」

と、口癖のように彼女は言っていた。

⏰:09/11/10 16:54 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#457 [nanoka]

俺はそれが蒼井さんの霊を寄せつけない体質のせいだと知っていたけど、蒼井さんの姿を見た彼女が

「蒼井くん!」

と、すごく可愛らしい笑顔を見せると何だか俺まで嬉しくなった。

⏰:09/11/10 16:57 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#458 [nanoka]

二ヶ月が経つ頃には、もやの大きさが定まらなくなってきていた。

風船みたいだと思った。

膨らんだりしぼんだり絶えず大きさが変化しているそのもやは一番大きい時でも野球のボールくらいまで小さくなっていた。

⏰:09/11/10 17:00 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#459 [nanoka]

三ヶ月が経つ頃には他にも変化が起きていた。

悪い変化ではない。いい方の変化だ。

まずは亮太たちが来栖の常連さんになったこと。

⏰:09/11/10 17:18 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#460 [nanoka]

病院の帰りだけではなく、ちょこちょこ店に顔を出してくれるようになった。

それからもう一つ。

亮太たちの仕事を俺が手伝うことになったことだ。

⏰:09/11/10 17:20 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#461 [nanoka]

手伝うと言っても、俺は霊の依頼を亮太たちに伝えるという仲介役みたいな感じなのだけど。

あのマンションの遺体のように俺一人では何もしれあげられないことが多いけど亮太たちのおかげで、彼らの依頼を聞くことができるようになった。

⏰:09/11/10 17:23 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#462 [nanoka]

そんな風に色んなことが順調に進んでいたある日、俺は蒼井さんからある秘密を聞くことになった。

いつものように蒼井さんと店の片付けをしていた時だった。

何気なく俺は蒼井さんに訊いた。

⏰:09/11/10 17:25 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#463 [nanoka]

「そういえば蒼井さん明日も枢先生のとこ行くんですか?」

深い意味はなかった。ただもし行くなら俺も行こうかなくらいの気持ちでそう訊いた。

それなのに蒼井さんは急に黙ってしまった。

⏰:09/11/10 17:27 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#464 [nanoka]

しばらく一人で何か考えるようにグラスを拭いていた蒼井さんは不意に顔を上げ俺を見た。

「拓真くんにはほんとのこと話しておきます」

深刻な言葉とは裏腹に蒼井さんの顔は笑っていた。

⏰:09/11/10 17:31 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#465 [nanoka]

いたずらがバレた時みたいなそんな少し子供っぽい表情だった。

「ほんとはもう週一くらいでいいんですよね、病院に行くのは」

「えっ?」

⏰:09/11/10 17:32 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#466 [nanoka]

「拓真くんには視えてるからわかりますよね。もやが小さくなったこと」

「はい」

事実だった。その頃には、あのもやは飴玉くらいの大きさまで小さくなっていた。

⏰:09/11/10 17:34 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#467 [nanoka]

「もうほとんど影響力もないくらいなんです、実は」

「じゃあ何で…」

もやが小さくなってからも変わらず蒼井さんは病院に通っていた。

むしろ回数は増えたくらいだ。

⏰:09/11/10 17:35 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#468 [nanoka]

「僕が会いたいからです。枢さんに」

そう言って蒼井さんはニッコリと笑った。

「えっ?」

「でも僕の気持ちだけでいつまでもこのままにしておいちゃダメですね」

⏰:09/11/10 17:37 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#469 [nanoka]

そう言った蒼井さんは少し寂しそうだった。

「明日亮太くんたちも病院に来れるか聞いてみてもらえますか?」

俺は蒼井さんに言われるまま次の日病院に亮太たちを呼び出した。

⏰:09/11/10 17:39 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#470 [nanoka]

いつものように談話室に入ると

「今日はみんなにも視えるようにしましょう」

そう言って蒼井さんは両手であのもやを包んだ。

⏰:09/11/10 17:41 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#471 [nanoka]

「あ…!」

そばにいた亮太たちが声を洩らした。

どうやら亮太たちにももやが視えるようになったらしい。

⏰:09/11/10 17:42 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#472 [nanoka]

「この黒い塊がそもそもの原因です」

と、蒼井さんは言った。

「最初はもっと大きかったんですけど、今はここまで小さくなりました」

⏰:09/11/10 17:43 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#473 [nanoka]

そう説明をすると、蒼井さんはその塊を指で掴んだ。

右手の人差し指と親指で挟まれた塊は、逃げようと暴れているようにも見えた。

亮太たちも黙ってその光景を見つめていた。

⏰:09/11/10 17:45 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#474 [nanoka]

「さて…」

蒼井さんはそう呟くのと同時に指で掴んでいた塊を勢いよく指で押し潰した。

“ぱちん”という音が部屋に響いた。

⏰:09/11/10 17:47 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#475 [nanoka]

黒いもやは消えていた。

呆然としていると、枢先生の声が聞こえた。

「亮太くん…?と空に優ちゃん?」

枢先生は驚いた顔で亮太たちを見ていた。

⏰:09/11/10 17:50 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#476 [nanoka]

「行こうか」

蒼井さんに囁かれ、枢先生から目を離した。

蒼井さんはすでにドアの前にいた。慌てて後を追うと

「詳しいことは車で話すから」

⏰:09/11/11 02:26 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#477 [nanoka]

そう言われた。

事態が飲み込めなかったけど前を歩く蒼井さんの背中が小さく見えて、俺は黙ってついて行くことにした。

車までの距離がやけに長く感じた。

⏰:09/11/11 02:29 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#478 [nanoka]

蒼井さんが車のドアを閉めたのを確認すると、俺は口を開いた。

「何で声かけなかったんですか?せっかくあの塊が消えたのに」

「消えたからだよ」

蒼井さんは言った。

⏰:09/11/11 02:32 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#479 [nanoka]

「悪い夢を見ている人を起こしちゃいけないという話を覚えてるかな」

俺の返事を待たず蒼井さんは続けた。

まるで俺にではなく別の誰かに話しているみたいだった。

⏰:09/11/11 02:34 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#480 [nanoka]

「彼女は夢を見ていたんだ、悪い夢を。夢から覚めたら夢のことなんて忘れてしまう。今の彼女は僕が誰かわからない」

「蒼井さん…」

「拓真くんのこともわからないと思う…というよりもあの塊に取りつかれた間のことは多分ほとんど…」

⏰:09/11/11 02:37 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#481 [nanoka]

俺は蒼井さんがあの塊を指で潰した時のことを思い出していた。

蒼井さんはどんな気持ちで…。

「蒼井さん、やっぱり病院に戻りましょう」

⏰:09/11/11 02:39 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#482 [nanoka]

「でも…」

「別に忘れててもいいじゃないですか。また知り合いになれば」

顔を上げた蒼井さんと目が合った。

⏰:09/11/11 02:41 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#483 [nanoka]

蒼井さんの真似をして微笑んでみたけど、うまくできたかはわからなかった。

だから言葉を続けた。

「素敵じゃないですか。一生のうちに二度も運命の出逢いを体験できるなんて。しかも同じ相手と」

⏰:09/11/11 02:44 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#484 [nanoka]

俺の言葉が蒼井さんに届いたかはわからない。

でも蒼井さんは車を降り、病院に向かって歩きはじめた。

その背中はさっきよりも誇らしげに見えた。

⏰:09/11/11 02:45 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#485 [nanoka]

「初めまして、蒼井です」

蒼井さんは言った。初めての時と同じように。

「初めまして」

彼女は微笑んだ。

⏰:09/11/11 02:48 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#486 [nanoka]

「何だかあなたとは初めて会った気がしないわ。あなたといると懐かしいような幸せな気分になるの」

「光栄です。もしよかったら明日も会いに来ていいですか?」

彼女は再び微笑んだ。

「明日が待ち遠しいわ」

⏰:09/11/11 02:51 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#487 [nanoka]

安価

>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500

⏰:09/11/11 02:55 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#488 [nanoka]


感想お待ちしてます★

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4602/

⏰:09/11/11 02:59 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#489 [nanoka]

自分には一般に霊と呼ばれるものが生きている時の姿で視えると気付いたのは、彼女に会った時だった。

蒼井さんの言葉を借りるなら俺の後ろの方がそういう無害な霊を選んで姿を視せているから。

無害という言い方は少し違うかもしれないと蒼井さんは言った。

⏰:09/11/12 16:25 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#490 [nanoka]

だけど俺や他の人に何かしようとしているわけではないので人間に近い姿をしている…と。

だから彼女を初めて視た時俺は普通のおばさんだと思った。

おばさんって言ったら失礼かもしれないけど30代半ばにはみえた彼女と会ったのは店に向かう途中だった。

⏰:09/11/12 16:29 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#491 [nanoka]

黒いスーツにゴムで無造作に一つに束ねた黒髪。

郵便局とか役場とかで事務とかやってそうなイメージだった。

その彼女が自動販売機の前で屈んで下を覗き込んでいた。

⏰:09/11/12 16:35 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#492 [nanoka]

のんびり歩いていた俺は、五メートルくらい出前から彼女に気付き何の気なしにその光景を見ていた。

(自販機の下にお金でも落としたのかな?)

と、余計な想像をしながら彼女に近づいた。

⏰:09/11/12 16:37 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#493 [nanoka]

近づいたって言っても彼女のいた場所がたまたま通り道だったんだけど。

特に話しかける気もなく、素通りした。

ちょうど彼女の後ろを通り過ぎた時だった。

⏰:09/11/12 16:44 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#494 [nanoka]

「やっぱこんなとこにあるわけないかぁー」

突然彼女がそう口にした。独り言だと思うんだけど、あまりに突然だったんで俺は振り向いて彼女を見てしまったんだ。

目が合った彼女は驚いた顔で俺を見上げてた。

⏰:09/11/12 16:52 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#495 [nanoka]

「どうかしたんですか?」

その状況で何もなかったように再び歩きはじめる勇気はなかった。

だからそう訊いた。

⏰:09/11/12 16:53 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#496 [nanoka]

彼女は俺の質問に答えるかわりに俺に質問した。

「あなた私が視えるの?」

さっきよりも驚いた顔で、そう訊いてきた。

俺は咄嗟に蒼井さんに貰った数珠を確認した。

⏰:09/11/12 16:57 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#497 [nanoka]

色が変わっていた。うっすらだけど間違いなく反応していた。

「視えます…ね」

俺の答えに彼女はもう驚いている様子はなかった。どっちかと言えば嬉しそうにみえた。

⏰:09/11/12 16:59 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#498 [nanoka]

「時計を探してるの」

彼女は言った。

俺は自分の左手にある腕時計に目を落とした。CASIOのGーSHOCK。

父から貰ったその腕時計はバイトまであと15分だと告げていた。

⏰:09/11/12 17:05 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#499 [nanoka]

「違う違う」

彼女は俺の腕時計を見ながら笑った。

「そうゆうゴツいのじゃなくて…」

なくしたという腕時計の説明をする彼女を俺は困惑しながら眺めていた。

⏰:09/11/12 17:15 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#500 [nanoka]

(この人…ほんとに幽霊だよな?いわゆる)

数珠が反応していなかったら普通のおばさんにしか見えない。

どうしたものかと悩んでいるうちに彼女に手を握られた。

⏰:09/11/12 17:17 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#501 [nanoka]

氷みたいに冷たく冷えきった手だった。

「というわけで宜しくね」

途中から全く彼女の話を聞いていなかった俺は何のことだかわからなかった。

⏰:09/11/12 17:19 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


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