こちら満腹堂【BL】
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#425 [ひとり]
「殴られすぎて幻覚でも見えてんの?」
鼻から息を抜くようにして、三田さんは『はん』と俺を嘲笑った。
「違う、幻覚なんか見てない」
「俺は茶髪の巻き髪した覚えも、白いブリブリなコート着た覚えもねぇ」
「え、何それ?」
「白々しい、さっき店に来ただろ!!」
「さっき・・・・え、何が?」
ゴッ
また殴られた。
「だから彼女が来てただろ!!!!」
・
:10/01/15 21:55 :F01B :ShyQlI2A
#426 [ひとり]
さっき来た───
茶髪の巻き髪────
白─────
ブリブリなコート───
頭の中で少しずつ言葉のパーツを集めて。
彼女─────
組み立てて。
彼女──────
組み立てて。
かの・・───────え?
「えぇぇぇぇぇえ!?!?!?」
・
:10/01/15 21:57 :F01B :ShyQlI2A
#427 [ひとり]
「うっせぇな!何だよ急に!!」
「え、ちょ、マヂえ?彼女?アイツが・・ちょ、ムリムリムリだよマヂ冗談キツいって、っていうかなんでアキ・・え、本当に、え、えぇぇぇぇぇぇえ!!!???」
突然雄弁になった俺に、やや怯む三田さん。
「何だよマヂ意味わかんねぇよ!彼女なら潔く彼女だって認めろ!!!!」
「いや、それはできません」
俺はノーの意思表示に片手を胸の高さに挙げた。
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:10/01/16 08:34 :F01B :S6jD0iTs
#428 [ひとり]
「どこまでも往生際が悪・・・」
「従兄弟だから」
「は?」
再び振り上げにかかっていた三田さんの腕の動きが、中途半端な位置で止まった。
「何、言って・・・」
「アキは従兄弟だから、彼女にはできないです。てかその冗談キツいです」
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:10/01/16 08:34 :F01B :S6jD0iTs
#429 [ひとり]
何だ、そっか。
そういう事なのか。
だから俺が"逃げた"って。
頭にかかっていた靄が、一気に晴れていく感覚。
「だから幻覚じゃないです。ちゃんと見えてますよ、三田さんが。ちゃんと・・・・俺の好きな人が」
「根岸・・・」
やべ、ちょっと今のは臭かったかな。
でもこの雰囲気は言っとくべきだろ。
だってつまりアレでしょ?
これ、ヤキモチでしょ?
そう気付いた途端に。口に広がる血の味も、腹の痛みも、殴られすぎてつっぱる顔の感覚も、その一つ一つが"証"みたいで。
ヤバい、凄げぇ嬉しい。
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:10/01/16 08:35 :F01B :S6jD0iTs
#430 [ひとり]
もう感情が止めどなくて、喉がムズムズする。
「ごめん、誤解させて。俺マヂ三田さんだけだから。あんたしか見えてないから、だから・・・ごめんね」
アキが彼女じゃなかった事が余程信じられないのか、三田さんは口を半開きにしてキョトンとしていた。
「三田さん?」
名前を呼びながら、さっき殴ってしまった右の頬にそっと触れた。
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:10/01/16 08:36 :F01B :S6jD0iTs
#431 [ひとり]
三田さんは俺の手の感触で我に返ったようで、馬乗りのまま俺を見つめた。その瞳にみるみる水の膜がはって、ゆらゆらと揺れる。決壊は近い。
「・・・・・俺・・・ごめ・・・」
喉を震わせながら。真っ赤になった顔で俯けば、前髪の隙間から大粒の雫がポタポタと俺のカットソーに染み込んでいく。
「・・ごめん・・・ごめ、根岸・・・・ごめ」
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:10/01/16 08:46 :F01B :S6jD0iTs
#432 [ひとり]
さっきまでの猛々しい姿が嘘のように、小さくなってしまった三田さんは、さながら借りてきた猫。
声は出さずに、静かに肩を震わせて泣いた。
「ごめん・・・ごめんなさ・・・・」
「三田さん」
「俺・・・・ごめ・・・・ん・・」
「三田さん」
俯いて、謝るばかりの三田さんの顔を両手で包んで上げさせた。
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:10/01/16 08:51 :F01B :S6jD0iTs
#433 [ひとり]
「俺こそごめんなさい」
目を見て言うと、真っ赤な顔がくしゃっと歪んだ。
なんだよコレ反則だろ。毎度毎度の反則技は心得ていたけど、こんな風に泣かれたら。
「・・岸、くるし・・・」
俺は力任せに三田さんの身体を抱き締めた。
モコモコしたダウン越しにも、三田さんの姿形を感じて。その華奢な形を、もっと感じたくて、更に力を込めた。
初めての抱擁。
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:10/01/16 09:02 :F01B :S6jD0iTs
#434 [ひとり]
初めはぎゅうぎゅうと俺が締め上げているような一方的なものだったが、気付けば自分の背にも同じように腕が回されていて。無言で込められる力に、抱きしめ返されてるんだとまた嬉しくなる。
互いの肩上に顎をのせるように抱き合ったまま、俺は少し調子に乗ってみた。
「三田さん」
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:10/01/16 20:50 :F01B :S6jD0iTs
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