浮き世の諸事情｡

　
ｸﾞｼｬｯ

耳を突き刺すような音と共に
朝と同じ激痛が顔面に走る

｢ったぁあいぃ!!｣

何でこうも壱助さんは
顔面攻撃が好きなんだろうか‥
ただでさえ不細工なのに‥もう

　
息つく暇もなく
壱助さんはやりたい放題

｢うわっまぶしっ!!｣

一気に袋を取り去られ
急にさす光の眩しさに
目の前が眩んだ

じーっとこちらを見つめる
美しい視線とぶつかった

　
まばたきもしないで
ただじっと‥

熱のせいか頭が働かない

いつもなら
考えなくとも口が勝手に
喋り出すのになぁ

：
：

｢どんな‥夢を？｣

先に口を開いたのは
壱助さんの方だった

ひんやりした雪のような手が
額にそっと触れた

‥心地いい

　
｢昨日の‥少年の｣

蚊の鳴くような声で答えると
"そうです､か"と
何かを考え込んでる顔で言った

壱助さんの手は
まるで魔法の手みたいで
熱を吸い取っていくような
‥そんな気がした

　
それから
何を言うでもなく‥
壱助さんは優しく
あたしの額辺りを撫でて
また空を眺めてた

｢壱助さん‥空好きですよね｣

大した答えなど
期待してなかった

｢‥何か見えるんですか？｣

返事のない横顔に続けて問った

　
｢‥いえ､何も｣

｢どうしてそんなに
眺めてるんですか？いつも
何か考え事でも？｣

するとぴたりと手が止まった

　
｢何も‥考えたくないから
こうして居るんです､よ｣

気のせいだろうか
いつもより少しだけ
横顔が寂しそうに見えた

‥見ていられなかった
今日のあたしはどうかしてる

　

――――‥

_

　
ふわりと
お茶の香りが宙を舞う

体が勝手に動いてしまった
‥きっと壱助さんが
その左手で魔法をかけたのだ

衝動的に起き上がり
壱助さんを
胸の中に押し込めた