浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#570 [笹]
後ろの気配が息を潜めて
ゆっくりと布団から抜け出した
小さく鼻を啜り
着物がはらりと脱げる音
帯をきっちりしめて
‥音が止まる
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#571 [笹]
闇に包まれて
何も見えないはずなのに
何故でしょう、ね
貴女の泣き顔が目に浮かぶ‥
"行くな"と声をかける事も
抱き寄せる事も
肝心な時に限ってできずに
体が動かなくなる
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#572 [笹]
私は、
何に躊躇っているのでしょう、ね
―‥ 足音が消えた
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#573 [笹]
:
:
一睡もできずに
唯ぼうっと
月明かりが照らす畳の網目を
雑に何度も目で追った
重い体を起こし
消えた隣の温もりに
そっと手を添える
「‥馬鹿です、ね」
:10/02/14 01:41 :D905i :AHFqEp8k
#574 [笹]
枕元に置き手紙
『最後の挨拶くらい
しっかりしたかったのですが
壱助さんの顔を見たら
辛くなると思ったので‥
どうか、お許し下さい。
本当にお世話になりました』
綺麗に整った文字が
一カ所滲んでいた
:10/02/14 01:41 :D905i :AHFqEp8k
#575 [笹]
「もうだいぶ
連れ添ったと言うのに‥
淡泊な別れです、ね‥香夜さん」
目を細めて
ぼやけた文字を撫でた
:10/02/14 01:42 :D905i :AHFqEp8k
#576 [笹]
本当に意地っ張りな人だ
最後の最後まで
香夜さん‥
貴女は貴女でした、ね
_
:10/02/14 01:43 :D905i :AHFqEp8k
#577 [笹]
:10/02/14 01:46 :D905i :AHFqEp8k
#578 [笹]
自分で腹を括ったって
後悔は
情が籠もれば籠もるほど
溢れかえってくるもので
何度泣いても泣き足りない
でも、泣くことしか
あたしにはできないのだから‥
"声涙、倶に下る"
:10/02/14 22:37 :D905i :AHFqEp8k
#579 [笹]
:
:
理由は簡単で
これ以上
迷惑をかけたくなかった
あの日あたしの居場所は
壱助さんの隣しかないって
そう思った
だけど‥だけど違う
今までとは確実に何かが違う
:10/02/14 22:38 :D905i :AHFqEp8k
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