浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#1 []
 
「浮き世」とは
辛く儚い世の中または俗世間。

‥他にも意味がありますが、
説明するほどの物でも、



ないでしょう、ね

⏰:10/01/24 18:10 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#2 []
 
気が付いたら
生い茂った竹林の中

竹が風に揺れて
ミシミシ音を立ている


ぼやけた世界に
あたしは目をつむって‥

この世に別れを告げた。

⏰:10/01/24 18:12 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#3 []
『こっちに来るんじゃないよ!!
‥汚らわしい!!』

バチンッ

あたしは‥人間なのだろうか

『お前のせいで‥お前のせいで‥
父ちゃん死んじゃったじゃないか!

お前が殺したんだ!!化け物!!』

⏰:10/01/24 18:14 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#4 []
ドカッ ドカッ ‥


鈍い音と鋭い衝撃が体を伝った

あたしは何故生まれてきたのか‥


よく‥わからなかった

⏰:10/01/24 18:18 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#5 []
 
『いや‥やめてよお母さ‥』

『汚い声で呼ぶんじゃない!!
あたしはお前の母親じゃない!』


『‥ご‥めんなさい‥。』



幸せの意味を知らずに終わった
つまらない人生だったな‥

⏰:10/01/24 18:21 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#6 []
 





「‥ごめん‥なさいっ
ごめんなさい‥許し‥て」

‥あれ?
あぁ‥あたし死んだんだ

痛み無かったし‥

死ぬってそんな辛くないんだ‥

⏰:10/01/24 18:22 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#7 []
 
ぼうっと差し込む光に
思わず目を細めた

これから地獄行きか天国行きか
決めるんだろーなぁ‥

まぁ
あたしは地獄に決まってる‥


あたしは人殺しだもんね

⏰:10/01/24 18:23 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#8 []
 
ほら‥やってきたよ神様だ


神様って案外普通なんだなぁ‥
もっとこう‥何て言うか‥


あーでも‥綺麗な顔かも


神様ってこんな美形なんだぁ‥

⏰:10/01/24 18:25 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#9 []
 
「‥あぁ、やっと」

神様と目があった
なんだか胸が飛び跳ねた
恐怖じゃない何か別の‥


「本当に‥あんな所にいたら
今頃喰われてましたよ?貴女」


‥ん?

⏰:10/01/24 18:26 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#10 []
 
「運が良かったです‥ね」

ちょっと待てよ

「あのー‥」

恐る恐る声をかけてみた
起き上がろうとしたけど
体に力が入らなかった

「こら、病人‥動いたら死にますよ?」

もしかしたらあたし‥

⏰:10/01/24 18:27 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#11 []
 
「生きてます‥か?」

すると神様は切れ長の目で
こっちをじっーと見つめ
あたしの隣に腰をかけた


逆光でよくわからなかったけど
よく見ればかなり色白で鼻が高い

怪しい‥雰囲気

⏰:10/01/24 18:27 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#12 []
 
「あのまま‥置き去りにしても
よかったんですけど、ね」

クスっと鼻で笑い
これまた綺麗な手であたしの顔を撫でた

「助けて‥くれたんですか?
こんなあたしを?」

こんなボロボロの着物着て
髪もボサボサで化粧もしてない
こんな汚らしいあたしを‥

⏰:10/01/24 18:28 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#13 []
 
「拾っただけ、ですよ」

あぁ‥なんて優しい人なんだ
神様だ神様だ!!!

嬉しさのあまり涙を浮かべた
‥のもつかの間




神様はやっぱり存在しないのだ

⏰:10/01/24 18:29 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#14 []
 




「で?貴女、名前‥は?」

独特の語り口調の神様は
何とも落ち着いた様子で
お茶を入れている

あ‥睫毛すごい長い。
いーなー‥羨ましい
この人‥何才くらいなんだろう

⏰:10/01/24 18:35 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#15 []
 
「‥名前は、と聞いているんです
聞こえませんか?この耳、は」

ギュッ

「いぃいっっ!!!!
ちょっと何するんですかっ!!
は‥離してくださいっ」

神様はあたしの耳を右手で
それはもう思いっきり引っ張り
左手は全く別物かのように
湯呑みを口元に運んでいた

⏰:10/01/24 18:36 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#16 []
 
 
 
嫌な‥
   予感‥
      がします‥。

⏰:10/01/24 18:37 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#17 []
 
「うぅ‥っかや!!‥かやです!!」

涙をいっぱいに溜めて叫んだ


途端に神様のお仕置きは終わった

い‥痛い‥痛すぎる

⏰:10/01/24 18:38 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#18 []
 

「ほう、"かや"とは‥
どんな字を‥あてるのですか?」

ズズズーっと茶をすする音が
部屋中に響き渡った



「‥"香"る"夜"です」

⏰:10/01/24 18:39 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#19 []
 
「‥」

「‥香る‥よ‥」

「何とも‥、夜が期待できそうです、ね」


顔をゆっくりこちらに向けて
意味ありげに怪しく笑った

⏰:10/01/24 18:39 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#20 []
 
「な‥//
べべ‥別にそういう‥
ヤらしい名前じゃ‥」

「誰が‥
"ヤらしい"と言いました?」


あたし‥からかわれてる?
てか‥何なのこの人 !!

この余裕綽々なかんじ‥

⏰:10/01/24 18:40 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#21 []
 
「‥あ‥貴方のお名前は?」

話を切り替えるので
‥精一杯なほど

この人は話がうまいというか
川が流れていくように
するする進んで
いつの間にか自分もその流れに‥

「名前?‥何故言わなきゃいけないのですか?」

何故って‥この人

⏰:10/01/24 18:41 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#22 []
 
 
 
―‥ 一体、何なの ?


_

⏰:10/01/24 18:42 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#23 []
 




「あぁ‥そうだ」

「‥な、何ですか?」

「私が‥香夜を‥」

そう言いながら
ミシミシと近づいて

「拾った、わけですから‥」

遂には吐息がかかるくらいにまで
何故か高鳴る鼓動

⏰:10/01/24 19:06 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#24 []
 
「だ‥だから何ですか?」


飛び出した自分の声が
震えていたのがわかった


喰われそうな‥




気もしなくもなかった

⏰:10/01/24 19:08 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#25 []
 
「今日から貴女は‥








私の、所有物です」

⏰:10/01/24 19:08 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#26 []
 
しょ‥しょ‥

「所有物?!‥何ですかそれ!!」

ふ‥ふざけないでよ
あたし一応人間よ?

こんな訳の分からない人の
所有物になんかぁ‥

⏰:10/01/24 19:09 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#27 []
 
「所有物の意味も知らないんですか?」

なんとも悠長に
普通のことかのように
振る舞ってるけどこの人‥

「わかります!!
馬鹿にしないでください!!」

「ほう、
それならお分かりでしょう?
‥今日から貴女は私の‥」

誘拐よ!!監禁よ!!
犯罪だわ‥こんなの!!

⏰:10/01/24 19:10 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#28 []
 
「べ‥別に!!
誰も‥助けてなんて
言ってないじゃないですか!!」

さっきまでは
あんなに感謝してたのに‥はは


だけどこんなの納得いかない!!

⏰:10/01/24 19:11 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#29 []
 
 
「自分の立場‥
お分かりで、お出でで?




それなら‥死にます、か?」

⏰:10/01/24 19:12 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#30 []
 
人の言葉に
こんな凍り付いたことはない

この表情‥この目つき


本気‥だっ‥!!

思わず声を失った



あたし‥殺される‥?

⏰:10/01/24 19:13 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#31 []
 
「そうですねぇ‥
選ぶ権利を与えましょう、か

首絞めも結構
殴る蹴るその他も結構
刃物で刺すも結構‥

あぁ‥
切腹と言う手もありますねぇ

いや、しかし‥
私の着物が汚れるのは‥
ちょいと厄介ですからぁ‥ねぇ」

冷たい手があたしの首を這う
え‥苦しいの‥やだよ?

⏰:10/01/24 19:14 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#32 []
 
「何でもよいのなら‥
首をちょいと‥」

「やややややっ!!
やめて下さいぃいっ!!」

「それでは‥
所有物、と言うことで‥契約を」


ニコッと愛想良く笑ったが
なんと言うか‥心晴れず。

⏰:10/01/24 19:15 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#33 []
 
「‥って言うか!!
話逸らさないでくださいよ!!」

「さぁ‥」

むくっと立ち上がって
また壁にもたれかかり
‥ぼうっと空を眺めてた


無理矢理に体を起こしてみるが
やっぱり重い

⏰:10/01/24 19:16 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#34 []
 
「名前です!!貴方の!!」

「名前‥
何故"所有物"に教えな‥」

「名前無くちゃ‥
呼べないじゃないですか!!
ふ‥不便です!!」


なんかイライラしてきた‥
ほんとに何なのよ!!
もう‥嫌

⏰:10/01/24 19:18 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#35 []
 
「不便‥ねぇ
そうですね‥呼び名、か」

こうやってもったいぶるのも
あたしを馬鹿にしてるんだわ


逃げ出さなくちゃ‥!!



「逃げようなんて‥無駄、ですよ」

⏰:10/01/24 19:18 📱:D905i 🆔:ZJpO7xz6


#36 []
 
背筋がぞっとした
何かが不気味な冷たい物が
這い上がってくるような‥

「に、逃げようなんて‥!!」

「‥思っていらっしゃる」

鋭い眼差しが捉えて離さない

"イケない物に出くわした"
そんな気もしたけれど

美しすぎて、見とれてしまって

動けなくなっていた。

⏰:10/01/26 16:10 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#37 []
‥見透かされてる?
特別な力でも持ってるの?

「あの‥」

だらしなく開けたままの口から
間の抜けた声が出た

その人は表情を全く変えずに
ゆっくりとこちらに視線を落とす


「何か、」

捕まえておきながら
その関心なさそうな声‥

⏰:10/01/26 16:15 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#38 []
 
「どうするつもりですか?」

すると
やっと眉間がピクリと動いて
また同じ口調で"何を、"と言う

きっとこの人とあたしの性格は
正反対なのだと思う
ここまで白けてる人‥初めて

⏰:10/01/26 16:20 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#39 []
 
ムスッとして少し睨みつける

‥動じない。


もっと睨みつける

‥全く。



ここまで来ると‥
何故か芽生える、寂しさ

⏰:10/01/26 16:21 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#40 []
 
「どう、されたいんで?」

お茶をすすって放った声は
すごく低くて部屋中に響き渡った


「どうって‥
どうされたいも、こうされたいも
言わなくてもわかるでしょう?

所有物なんて嫌です!!絶対に」

つい声が大きくなってしまった
はっとして咄嗟に下を向く

⏰:10/01/26 16:26 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#41 []
 
―‥沈黙
何故か急に恥ずかしくなる



「では‥夫婦にでも、なりますか?」

「め‥め、おと?!
ふざけるのもいい加減に‥」



と、言い終わる前に
あの綺麗な手で塞がれた馬鹿でかい声は情けなく語尾を弱めた

⏰:10/01/26 16:32 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#42 []
 
「あまり大きな声を出されると‥」

ばつが悪そうに
眉を下げて小声で‥

初めて人らしい振る舞いを見た


「ほら‥、」

足音が近づいてきた襖に目をやる

⏰:10/01/26 16:37 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#43 []
 
「壱助さん?
如何なさいましたか?」

襖の向こうから
落ち着いた女の人の声が聞こえた

「あぁ‥いえ、
どうか、お気になさらず」

目に見えない向こうの人に
その人は律儀に頭を下げた


足音が遠ざかると
すっと口元から冷たい感覚が消え
妙な緊張と息苦しさに
深く息を付いた

⏰:10/01/26 16:42 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#44 []
 
あ‥なるほど、

「壱助‥さん?」

馴れ馴れしく、だけどぎこちなく

「‥」

興味なさそうな
冷たい目がこちらを向いたが

‥あたしは見逃さなかった。


"壱助さん"の口元が
少しだけ、ほんの少しだけ緩んだ

⏰:10/01/26 16:47 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#45 [笹]
 
第一章 【拾われて】完結 ?

*。*。*。*
思いつきで書いてしまいました
よくわからない話‥。笑

怪しい人の名前を
やっとの思いで知れた香夜ちゃん

さて、これから
逃亡するか、それとも‥。

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/

⏰:10/01/26 16:55 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#46 []
 
浮き世、とは
辛く儚い世の中の事‥。


‥誰にでも
思い出したくない過去は

あるもの、ですよ


威勢の良い、この"捨て猫"も



また‥然り。

⏰:10/01/26 22:25 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#47 []




どうやって逃げ出そうか‥
取り敢えずここは宿みたい。

さっきの女の人は
ここの女将さんのようだ


壱助さん、とやらは
逃げようと企んでるのをわかって
あたしから目を逸らさないのか‥

⏰:10/01/26 22:29 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#48 []
 
「何か‥変ですか?」

様子を伺うように
恐る恐る目を合わせてみる

「いえ‥、何も」

真っ直ぐに伸びた長い睫
綺麗な首筋、透き通った肌

見れば見るほど美しくて、
ただ見てるだけで


惚れてしまいそう‥。

⏰:10/01/26 22:32 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#49 []
 
って、何考えてるのよ!!

はっと我に返って
"そうですか"とぶっきらぼうに
目を伏せながら呟いた。

「ただ‥」

あの綺麗な手が
今度はあたしの髪を撫でる


外がだんだんと橙色に染まる
窓からの光が
壱助さんの横顔を染める。

⏰:10/01/26 22:38 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#50 []
 
綺麗な夕日色に
壱助さんの美しさが
何とも、ぴたりと合っていて

女のあたしが嫉妬しそうなほど
色っぽく映し出した。


"ただ‥"の後に続く言葉を
あたしは黙って待った

普段はせっかちだから
こんなことは‥有り得ないのに

⏰:10/01/26 22:41 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#51 []
 
 
「可愛らしいな、と‥」


_

⏰:10/01/26 22:42 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#52 []
 
いや、まさかと思った。
‥お世辞に違いないのだ

こんな美しい人に
"可愛らしい"なんて言われても
正直、嫌味にしか聞こえない

そんなことを言って
あたしが油断したすきに
"喰ってしまおう"とか、
きっと考えているんだ‥。


そう疑わなければ、
自分を見失ってしまいそうで
急に忙しくなった鼓動に
気づかぬ振りをする

⏰:10/01/26 22:46 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#53 []
 
そんなあたしをよそに
クスッと鼻で笑って
ゆっくりと立ち上がった。

着物の裾や襟を整えて‥

「ちょいと、野暮用に」


畳が擦れる音
襖に手をかけゆっくり開ける音
ひとつひとつに
何故か奥ゆかしさを感じる

⏰:10/01/26 22:50 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#54 []
 
「野暮用‥?今から?」

「まぁ、‥はい」

"此処から出ないで下さい、よ"
相変わらずの口調で
そう言い残して去っていった。



まだ少しだけ落ち着かない胸に
手を当てて深く息を吐いた

⏰:10/01/26 22:53 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#55 []
 
畳の匂いが鼻の奥をくすぐる

こんなに安心して
畳の上に寝そべったのは
もう‥いつぶりだろう

ぼーっと天井を眺める



「あ‥今が狙い目‥だ」

⏰:10/01/26 22:56 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#56 []




だけど頭をよぎるのは
壱助さんの言い付け。

会ったばかりの人の言い付けを
何故守ろうとするのか‥

逃げてしまえばこっちの物


「此処から出ないで下さい、よ」

口調を真似して呟いた

⏰:10/01/26 22:59 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#57 []
 
何となく逃げられない気がした

逃げても捕まりそうな気がした
いや、
逃げたら捕まえてほしいのかも‥


わからない
大人なんて嫌いだ。

なのに‥誰かに心配されたい
誰かに求められたいと思う

⏰:10/01/26 23:01 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#58 []
 
と、言うより
恐らく‥いや絶対



逃げたら‥



殺される気がしたのだ。

⏰:10/01/26 23:03 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#59 []
 
死んでもいいと思ったくせに
死にたくないと今思うのは、

まだ人間らしい証拠なのかな‥


大の字になって
"所有物"は"所有物"なりに
いろいろと考えた


「‥はぁ」

ため息がいつの間にやら癖になった

⏰:10/01/26 23:05 📱:D905i 🆔:3fGEyA9k


#60 []




どれくらい経っただろう
急に寂しくなってきた‥。

『あんたのせいで‥!!』

独りになると、

『死んじまったじゃないか!!』

決まって甦る

『この人殺し!!化け物!!』

痛い思い出

⏰:10/01/27 00:42 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#61 []
 
もしもあの時‥
お父さんに助けを求めなかったら

『お父さん‥助けてぇ!!』

無事だったのかな。

『‥香夜!!』


あの時の‥
飛び散った父の生々しい血が
べたりと頬に付いたあの感触が

―‥未だに忘れられない

⏰:10/01/27 00:48 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#62 []
 
頬を伝う冷たいものを
恐る恐る手で拭い
涙だとわかって安堵した。


結局誰かに捕まるなら、
あの時連れ去られてしまえば
お父さんは生きていたのかも‥


「‥痛い、」

母親が残した体中の傷が疼いた

⏰:10/01/27 00:54 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#63 []
 
着物で隠せるのが唯一の幸い
背中だから、時々
寝返りをうつと痛むけど‥

ふぅっと息を吐いて
鏡越しに醜い背中を眺めた

‥痛々しい傷
爪を立てられたり
刃物を振り回されたり

今思えばあの時の母は、
何かに取り憑かれてたんじゃないかと疑ってしまうほどだ

⏰:10/01/27 01:02 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#64 []
 
「化け物は‥」

「母親の方‥ですか?」


振り返ると
いつ帰ってきたのか
‥壱助さんの姿が

足音くらい立ててよ‥
びっくりしたぁ


「お‥お帰りなさい」

「‥折角、良い隙をあげたのに」

⏰:10/01/27 13:12 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#65 []
 
壱助さん
あんた訳わかんないよ‥

捕まえて"所有物"だ"夫婦"だ
逃げられないと言っておきながら

あたしに逃げるための
時間を与えるなんて‥ねぇ。


「言い付けは守る主義ですから」

急いで腕を通した着物の胸元を
忙しなく直しながら言った

⏰:10/01/27 13:15 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#66 []
 
"それは、それは"と満足そうに
少し距離を置いて正座する、

壱助さんは無関心なのか
ただ口数が少ない方なのか
よくわからない


「勢いの良い、"猫娘"」

「へ?」

「かと、思いきや」

「や?」

「傷を負った"捨て猫"と、きた」

⏰:10/01/27 13:21 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#67 []
 
それでいて、
口を開いたかと思えば
訳のわからないことばかり

「‥何の話ですか?」

「幼き頃のその傷は、」

「だから何の‥」

「少々貴女には深すぎた」

「‥」

見透かされたのか、
独り言を聞かれたのか、
そんなことは気にならない

⏰:10/01/27 13:25 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#68 []
 
自然と口が開く

「でも、あたしには‥
この傷を背負う義務がある」

「義、務」

ぽつり、呟いた壱助さんの口が
少し歪んで見えた

「"生きたい"って思わなければ
何もかもが上手くいったんです。
あたしさえ犠牲になれば‥
死ななくて済んだ‥。」

情けない自分の声が憎らしい

⏰:10/01/27 13:30 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#69 []
 
「母を許そうとは思いません。
そこまで出来た人間ではないし

自分の事も‥許せないんです
だから‥仕方ない事です」

ぷつり、ぷつりと
出た言葉を紡ぎ合わせると


壱助さんは目を細めた。

⏰:10/01/27 13:34 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#70 []
 
「ほぅ‥興味深いです、ね」

本当に興味あるのかな‥
目をこちらに向けもせず
お茶を入れる姿は
どうも、そうは見えない‥。


「香夜さんが、助けを求めた時
代わりに父親が殺されると‥
予期していたなら、

貴女は確かに‥人殺しです」

胸が痛む。息が少し上がった
何故‥知ってるの?

⏰:10/01/27 16:56 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#71 []
 
「しかし‥その様なことは
貴女でなくても、考えませんぜ

よって、罪意識は無用です、よ」


わからない。
今まであんなに自分を攻めてきた
そう思って‥孤独に生きてきた
母の暴力にも耐えたのに‥


「貴女は、悪くない‥香夜さん」

⏰:10/01/27 17:01 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#72 []
 
いきなり救われてしまっても、
自分への対応の仕方がわからない

「忘れられない過去も、
思い出したくない過去も、
誰にでも有るじゃぁないですか

もっと‥肩の力、抜きましょう」

目の奥が痛いくらいに熱くなる
目の前の壱助さんが
‥一気にぼやけた

⏰:10/01/27 17:06 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#73 []
 
あぁ‥もう
人前で泣かないと決めたのに。


「一つだけ、忘れなければ‥」

懸命に涙を拭ってみても
指の隙間から溢れ出る

何が悲しいの‥?
何が辛いの‥?
どうして‥こんなに‥。

「父上に救われた、その命
無駄な物に‥してはいけない」

⏰:10/01/27 17:11 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#74 []
 
壱助さんは
今どんな顔をしてるのかな‥
どんな思いで、どんな表情で‥

「死のう、なんざぁ‥
もう‥これっきりに、」

壱助さんの冷たい手が
あたしの手首を掴む

「‥っ」

恥ずかしくて堪らない
お父さんに、申し訳ない

「‥しましょう、か」

⏰:10/01/27 17:16 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#75 []
 
手首の腫れ上がった傷口を
細い指が撫でる

お父さん‥お父さん
‥ごめんなさい

「う‥っ‥グズ」

必死に声を殺しても
ただただ辛いだけで、虚しくて
悔しいだけだった

⏰:10/01/27 17:20 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#76 []
 
「壱助‥ッさん‥グズ」

「‥何か、」

落ち着いた声がどこか懐かしくて

「死にた‥くな‥ッ‥で」

本当は死にたくなんかない。

あの時お父さんに
生を訴えた時と同じ

死にたくなんかないんだ‥

⏰:10/01/27 17:23 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#77 []
 
「よし、よし」

ぽん、とぎこちなく
あたしの頭を撫でた手に
救われた気がした。

その瞬間に
子供のように声を上げて泣いた


壱助さんの懐に顔を埋めて
何年分もの涙を流した。

⏰:10/01/27 17:26 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#78 []




「おや、おや」


窓から差し込む
満月の優しすぎる光が照らす


「子供です、ね‥香夜さんは」


泣き疲れたあたしを抱いて
壱助さんがクスッと笑った。

⏰:10/01/27 17:29 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#79 [笹]
第二章 【救われて】

威勢のいい
香夜ちゃんの辛い過去

普段は興味なんて無さそうなのに
いきなり饒舌になる壱助さん。
なんだ、喋れるんじゃない(笑)

出会ったばかりでも
誰かを救えてしまうんだから、
言葉の力は偉大ですね。
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/

⏰:10/01/27 17:42 📱:D905i 🆔:.cEN1Iy.


#80 [笹]
 
一週間もすりゃぁ、
人の性格も良くわかるもので


"捨て猫"はと言うと
泣くは、喚くは‥
かと思えば、眠りにつき

何かと‥忙しない猫でして、ね

それに加えて、頑固ときた
"言うは易いが行うは難い"
頑固者には、身に滲みる言葉です

⏰:10/01/28 13:15 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#81 []




ある晴れた日の事である。

「あら、壱助さんじゃないかぁ
相変わらず‥色男だねぇ」

団子屋の腰掛けに座ろうとすると
そこの女将がやって来た。

「あぁ‥伊代さん
ご無沙汰しておりました、ね」

壱助は律儀に正座をして頭を下げた

⏰:10/01/28 13:20 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#82 []
 
「聞いたよー?壱助さんよぉ、
最近若い子‥、
連れて歩いてるそうじゃないか」

伊代はお茶を差し出し
興味深い様子で身を乗り出した

「只の‥"捨て猫"ですよ」

「そんなぁ、隠さなくたって‥」

クスクスと笑って
壱助の肩をポンと叩く

⏰:10/01/28 13:25 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#83 []
 
「紹介しておくれよー
今日は連れてないのかい?」

「えぇ‥、
自立するそうです、よ」

「自立?」

伊代は不思議そうに首を傾げる

話好きな伊代は
話に花を咲かせる"花咲女将"
愛想もいいもんだから
此処はいつでも大繁盛

⏰:10/01/28 13:30 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#84 []
 
「"遊女になる"‥と、ね」

うっすら笑って茶を啜り
壱助は団子を手に取った

「ゆ‥遊女って‥何でまた」


伊代は緩んだ顔を引き締め
唾をごくりと飲んだ

⏰:10/01/28 13:33 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#85 []




こうなったのも、つい今朝の事。

『もういいです!
‥あたし
花街に行って遊女になります!
それで沢山稼いで
壱助さん見返してやります!!』

「と、言うもんでねぇ」

今朝の出来事を坦々と語る姿を
伊代はそわそわしながら見つめた

⏰:10/01/28 14:09 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#86 []
 
「まさか壱助さん‥
止めなかったのかい?!」

つい大きくなってしまった声に
他の客も反応する

「止めましたよ、もちろん
"男を知らないくせに
良く言えたもんだ‥。
雇ってもらえませんぜ"、と」

「そんな言い方しちゃあ、
余計維持になるじゃないかぁ!」

他の客の視線も気にならないほど
慌てふためく伊代

⏰:10/01/28 14:14 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#87 []
 
手にした団子をじっと眺め
変わらぬ口調で壱助は続ける

『だ‥大丈夫ですっ!!
あたし、経験あぁ‥あります!』

「と、分かりやすい嘘まで付いて
維持を張るもんですから‥
"這っても黒豆、ですね"、と」

楽しそうな顔の壱助とは対照に
呆れたような顔の伊代

⏰:10/01/28 14:19 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#88 []
 
『く‥黒豆?!
一体何なんですか?
人を所有物、猫呼ばわりして
‥仕舞いには黒豆?
いい加減にしてくださいよ!!
あたしそんなに色黒くないし
背丈だって人並みです!!』

「‥と、色をなしてしまいまして」

"参った、参った"と微笑し
頭を軽く叩く壱助

⏰:10/01/28 14:24 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#89 []
 
伊代は深くため息を付いて
"全く‥"と頭を抱えた

「そんな言葉、
若い子が分かる訳ないだろう?
その子の反応は妥当だよ、全く」

「そうですか、ね」

無関心そうに団子を口に入れ
満足そうな顔をする

⏰:10/01/28 14:27 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#90 []
 
「ちょいと壱助さん!!
そんな純粋な子、
からかうのは程々にしなよぉ?
ましてや、維持っ張りの子を‥」

眉間に軽くしわを寄せた伊代を
横目でちらりと見つめる

「本当に‥"這っても黒豆"
素直に止めればいいものを、
維持を張って‥ねぇ

‥仕様がない"猫"です、ね」

⏰:10/01/28 14:32 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#91 []




――‥花街
そこは遊女屋が集まる町の事。

本来あたしみたいな生女が
足を運ぶような所じゃない。

「いや‥でも‥」

『宿代を‥
払ってあげてると言うのに、』

「引き下がるわけには‥」

『あぁ‥"所有物"には
宿代はかかりませんでした、ね』

「いかない‥!」

⏰:10/01/28 14:38 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#92 []
 
壱助さんの言葉が頭をよぎる
悔しい‥情けない。

唇を思い切り噛み締めて
一軒の遊女屋に足を踏み入れた


絶対‥ぜぇぇぇぇったい!!
稼いで、見返してやるんだから!!

⏰:10/01/28 14:41 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#93 []




団子の串を静かに皿に置いて
"ご馳走様でした"と手を合わせる

「でも、壱助さんよぉ‥
心配してなそうな素振りだけど
本当は
居ても立っても居られなくて
出てきたんじゃないのかい?」

ニヤニヤしながら
伊代は壱助の脇腹を肘で小突いた

⏰:10/01/28 14:45 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#94 []
 
「まさか、
心配するも何も‥
"産毛ばかりの捨て猫"ですから
誰でも良いって訳じゃ
ないでしょうから、ね」

すっと腰を上げて下駄を履く

「男の力にゃ、勝てないよぉ?
可愛い子なんだろうから‥
すぐに客が‥」

そう言い終わる前に
軽く頭を下げて去っていった

⏰:10/01/28 14:50 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#95 []
 
「意地っ張りなのは‥




"おあいこ"なんじゃないかねぇ」



伊代は、壱助の背中を見つめ
"やれやれ"と緩く微笑んだ

⏰:10/01/28 14:53 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#96 []




「で、あんた‥
経験はあるのかい?」

梅の花のような香りがする部屋で
此処の遊女屋を取り仕切る
"京さん"は煙管を蒸かして言う

「え?!あぁ‥えっとぉ」

全身にどっと汗をかき
後ろに隠した手が忙しなくなる

⏰:10/01/28 15:05 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#97 []
 
「‥悪いけど、生娘は雇えないよ」

冷たく言い放つ声の後ろで
男女の色がましい声が聞こえる

やっぱり‥
あたしの来る所じゃないかも

「ささ、産毛の子猫ちゃんは
お家に帰って
"おまんま"でも喰ってな」

煙を顔に吹きかけられて
しかも子供扱いされて‥

⏰:10/01/28 15:11 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#98 []
 
引き下がってたまるか‥!!



「経験‥あります!!」


色がましい声をかき消すように
顔にかかった煙を吹き飛ばす様に


大声で言ってしまった

⏰:10/01/28 15:13 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#99 []
 
"ほぉう"と言って
目を細めて赤い唇を吊り上げた

「それなら‥
今晩から早速、仕事だよ」




げ‥いきなり今晩から?

辺りはもう急かすかのように
夕日色に染まっていた

⏰:10/01/28 15:17 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#100 []




「んふ‥もう‥、
あぁん‥まだ駄目よぉ」

「まだ駄目なのかい?
此処はこんなに‥」



‥‥‥早くも、


消 え た い !!

⏰:10/01/28 15:20 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


#101 []
 
襖の向こうから聞こえる声
耳を塞いでも聞こえてくる

「声で・か・す・ぎ!!」

小声なりに強めに
襖に向かって叫んでみた

「えーっと‥
まずは、お客さんにお酒注いで
それからー‥笑顔を忘れない
初めてのお客さんには
積極的に詰め寄る‥

って、
あたしも初めてなんだけど」

⏰:10/01/28 15:24 📱:D905i 🆔:Ad90U/U2


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