記憶を売る本屋さん
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#371 [我輩は匿名である]
:10/04/07 18:28
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#372 [我輩は匿名である]
薫は「何だったんだ…」と携帯電話を見つめる。
「(…“そりゃ怒るだろ”…か…。…そうだよな…)」
直人の言った事を、薫はもう1度思い返す。
そして、薫は来たときよりも早く車椅子を走らせて、病室に戻った。
響子は自分のベッドに転がっている。
「香月、ごめん」
帰って来て早々、薫は響子に頭を下げる。
響子は少し驚いたように起き上がる。
「…どうしたの?」
:10/04/07 18:31
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#373 [我輩は匿名である]
「…俺…おかしかった」
響子は黙って、薫を見つめる。
「俺、香月響子と長谷部今日子は同じだと思ってた。
自分の事も、“俺は霜月優也だ”としか思ってなかった…。
だから正直…お前を“香月響子”だと思って接した事はない。
今までずっと、お前を“長谷部今日子”だと思って傍にいたんだ」
薫は、響子に嫌われる事を承知で、全て話した。
:10/04/07 18:32
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#374 [我輩は匿名である]
「お前は…香月は最初から“俺”と“霜月優也”を別にして考えてくれてた…。
……当たり前だよな…。長谷部今日子も霜月優也も、もう死んでこの世にいないのに…。
同じ人間がいるなんて事…あるわけないんだよな…。
…何でそんな簡単な事もわからなかったんだろうな…俺…」
薫はずっと頭を下げたまま話す。
あの体勢では、怪我した左胸が痛んでいるはずだ。
「…月城くん…もういいよ」
響子は止めようとするが、薫は頭を上げようとはしない。
:10/04/07 18:32
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#375 [我輩は匿名である]
今まで、響子は“月城薫”を好きでいてくれた。
“霜月優也”を好きなのは、彼女の記憶の中の、“別の女”だ。
余計にこんがらがりそうな頭の中を、薫は必死に整理する。
今まで自分の隣にいてくれたのは誰?
今まで自分に優しく笑いかけてくれたのは誰?
「(でも俺は…今まで今日子しか…)」
「その人はその人」
直人の言葉が頭に浮かぶ。
響子は、下を向いたまま考え込んでしまった薫を気にして、立ち上がって隣にやって来た。
:10/04/07 18:33
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#376 [我輩は匿名である]
「…大丈夫?」
「なんかもう…わからなくなってきた…」
薫は深刻そうな顔で考える。
響子はため息をつき、こんな事を言いだした。
「どうしても長谷部今日子の事しか考えられないなら、私が越えてやるわ。
月城くんが他に何にも考えられないぐらいの女になってやる。
そうすれば、月城くんもスッキリするでしょ?」
何を言いだすのかと、薫思わず顔を上げる。
響子は自信満々に笑っている。
それががおかしくて、薫も呆れたように笑い返した。
:10/04/07 18:43
:N08A3
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#377 [我輩は匿名である]
「出来んのか?お前に」
「私が『会いたくない』ってメールしただけで淋しがる男が何言ってるの?」
響子は怯むことなく言い返してくる。
「わからせてあげるわ。私は長谷部今日子とは違うって事」
「…まぁ、身長は伸びたもんなぁ。それでもまだまだチビだけど」
薫は意地悪そうに笑い返す。
「チビって言わないで!一応155cmあるんだから!」
「俺の中では160cmないヤツはみんなチビなんだよ」
「な…」
響子は悔しそうに腕を組んで、言い返す言葉を考える。
:10/04/07 18:43
:N08A3
:yPxyjGr2
#378 [我輩は匿名である]
それを見て、薫は少し下を向いて笑った。
長谷部今日子は、こんなに言い返してくる性格ではなかった。
霜月優也は、そんなおしとやかな彼女が好きだった。
こんなくだらない言い合いをした事などない。
「(…確かに、あいつとは違うな…)」
「…何笑ってんの?」
少し顔を上げると、さっきまで怒っていた響子が、しゃがみこんでこちらを見上げている。
:10/04/07 18:44
:N08A3
:yPxyjGr2
#379 [我輩は匿名である]
「…別に。何か面白くなっただけ」
薫はすました表情で言う。
響子も「…確かに」と返事をして笑う。
いつもの笑顔に、薫も何だかホッとして小さく笑い返した。
:10/04/07 18:44
:N08A3
:yPxyjGr2
#380 [我輩は匿名である]
「そうだよな、要は要、俺は俺だよな!」
その頃、直人は清々しい気分でいっぱいになっていた。
携帯電話を枕元に放り投げ、寝転がる。
「(初めて薫に勝った気がするぞ…)」
今まで勉強でも運動でも薫に負けてきた直人は、大の字に寝転がってニヤける。
何だか自分に自信が湧いてきた。
さっきまでの不安も吹き飛ばして、早く明日にならないかと、直人は窓の外を見上げていた。
:10/04/07 22:00
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