浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#36 []



放り出された藍色の羽織り
手に取ればずしり重く感じた

泣き出すとは‥ねぇ
何を言われたの、か

それを丁寧に畳めば
途中で手が止まる
彼女に世話を焼きたくなるのは
私だけではないのかと
‥思うのですが

⏰:10/04/02 22:15 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#37 []
 
小さく四角くなったそれを
彼女の枕元にそっと置いた


「妬いてしまうんですが、ね
どう、したら‥」

まだ閉じたままの瞳
あどけない額を撫でれば
長い睫が少しばかり揺れる

⏰:10/04/02 22:16 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#38 []
 
愛嬌も良ければ
懐きやすい、ときた
ちょいと目を離したら
貴女は‥何処へ

"一生傍にいる"なんざぁ
私の言い分に過ぎないのか‥


どうも近頃
満足いかないんですが、ね

⏰:10/04/02 22:17 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#39 []
 
月明かりに照らされた桜
はらはら散って終わりを告げる


「花は盛りに‥か」

⏰:10/04/02 22:17 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#40 []



「おえぇええっっ!!!」

いきなり催す吐き気
腹部に走った激痛が
胃の中を駆け巡って
口の中から漏れそうだった

「いち‥ゴホッ
何でお腹‥おえぇ」

「大袈裟、ですね」

⏰:10/04/02 22:18 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#41 []
 
大袈裟じゃない!!
ほんとに痛いって言うか
は‥吐く

まだ顔面叩かれた方がましかも‥


「ちょいと‥
鍛えたらどうですか?」

「は?」

⏰:10/04/02 22:18 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#42 []
 
壱助さんの背後から射す
朝日の眩しさに目を細め
上から降り注ぐ視線の先を
目で丁寧に追えば‥

「随分と‥柔い」

クスッと鼻であしらわれた
あたしのお腹

蹴り飛ばしといて笑うとは‥
何か‥恥ずかしい

⏰:10/04/02 22:19 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#43 []
 
「女の子は‥
これ位が丁度いいんですぅ!」

「女の子‥ねぇ」

そう吐き捨て腰を下ろし
茶を啜った


昨日はお茶飲まなかったのに‥自分で煎れたのかな?

⏰:10/04/02 22:19 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#44 []
 
って言うかあたし
やっぱり女の子に見られてない?
普通蹴飛ばさないよね‥

「んん‥」

ぼうっと腹部をさすり
壱助さんの背中を見つめる

痛かったはずなのに
今は忘れてしまうくらい
心が痛いです

⏰:10/04/02 22:20 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#45 []
 
ふと枕元目をやれば
綺麗に畳まれた倫次の羽織り
そして予想される相手へ目配せ

‥世話好きだなぁ、やっぱり

あたしは子供なのかな?


やっぱり気づかなきゃよかった
気分が上がらないや‥

⏰:10/04/02 22:20 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#46 []
 
「香夜さん‥」

「‥はい?」

「午前中には出ます、よ」

呆気なく終わる一泊二日の二人旅

まぁいつもと変わりないよね
布団が一枚だったのと
壱助さんが‥

⏰:10/04/02 22:21 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#47 []
 
―‥やきもち?


まさかね、
こんな冷酷な大人すぎる人間が
あたしみたいな餓鬼に
妬くわけがない


ただの世話好き、そうだ

⏰:10/04/02 22:22 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#48 []



何だか来たときより
荷物が重く感じた

気持ちの問題かな
‥すっきりしたはずなのに


「壱助さんっ!!」

ゆるり振り返り着物が揺れた
相変わらずの仏頂面
もう‥慣れたけど

⏰:10/04/02 22:22 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#49 []
 
「倫次に羽織り‥返してきます」

荷物を石畳の上に置き
羽織りだけを抱えた

壱助さんを待たせるなんて
‥挑戦者だあたし


反応を見るのを恐れて
急ぎ足で向きを変えて向かえば
後ろから声がかかる

⏰:10/04/02 22:23 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#50 []
 

「‥香夜」


思わず振り返った
それはもう小動物のように機敏に

だって今‥呼び捨て

ばちりと合ったその目は
鋭くも柔らかくて驚いた

⏰:10/04/02 22:23 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#51 []
 
春風に揺られ
花びらが壱助さんの周りを舞う

なんだかその瞬間
周りの音が消えた気がした


艶容な唇が緩くつり上がり
ゆっくり少しだけ動いた
そして何かを告げた

⏰:10/04/02 22:24 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#52 []
 
「え?今なんて?」

何故か胸が張り裂けそう


「いえ‥早くしないと
置いて行きます、よ」

「え‥あぁはい!!」

⏰:10/04/02 22:24 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#53 []
 
今までにない顔で
あぁもう‥だめだ
忙しなく鳴る鼓動がやまない


熱くなる頬
思い切り息を吸い込んで
熱を無理やり追い出した

⏰:10/04/02 22:24 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#54 []



「倫次‥ありがと」

懐かしき幼なじみに手渡した
あっさりとした別れ

「いえいえ」

にっこり笑ったその顔は
少しばかり寂しそうに見えた

⏰:10/04/02 22:25 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#55 []
 
「それと‥ありがと」

「‥何が?」

「気持ち、嬉しかった」

大切な人に
そう思われてるなんてね
すごくあたしは幸せ者だと思う

⏰:10/04/02 22:26 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#56 []
 
だけどね‥気付いた

「だけど‥
心に決めた人がいるから」


倫次のおかげで気付けたよ
やっと向き合えた

辛くても、うまく行かなくても
投げ出すのだけは
やめようと思うよ

⏰:10/04/02 22:26 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#57 []
 
「そっか、
いつもの香夜らしくいれば
‥大丈夫さ」

くしゃっと頭を撫でられて
鼻の奥がつんとした


「香夜‥あの人、いい人だよ」

「‥?」

⏰:10/04/02 22:27 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#58 []
 
「あの人には‥負ける」

「え‥?何が?」

「ほら、あんまり待たされると
‥置いて行かれる」

背中を押した手
暖かくて力強くて

あたしもいつかそんな風に
誰かの背中を押せるような
強い人になりたいな

⏰:10/04/02 22:27 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#59 []
 
「ありがと倫次!!
また‥また来るから!!」

振り返り叫べば
大きく手を振って見送られた


あぁ‥何だか切ないよ
わかんないけど
あたし‥幸せだ、本当に

⏰:10/04/02 22:28 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#60 []



追いかければもう門には居らず

「‥置いて行かれた」

肩を落として
うなだれて門を出れば


「ぎゃあっ!!」

門の隅に寄りかかった貴方

⏰:10/04/02 22:28 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#61 []
 
「‥遅い」

なんだ‥待っててくれたんだ

じわじわと地面から
柔らかい感情が湧き出して

「ご‥ごめんなさい」

鋭い視線に突かれたって
痛くも痒くもない

⏰:10/04/02 22:29 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#62 []
 
ふと思い出す先程の貴方

緩む口元に力を込めて
先を行く背中を追った

「あ‥壱助さん!!
倫次とお話したんですか?」

「何、故」

「さっき倫次が
そんなような言い方してたから」

⏰:10/04/02 22:30 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


#63 []
 
「‥」

「何で黙るんですか?」


「さぁ、ね」

そして、遠くを見つめて‥


横顔が舞う桜に溶けて行く

⏰:10/04/02 22:30 📱:D905i 🆔:fWI6nvOI


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