CLUB shin　BL

どうも

　

BL小説です

他のも書いていたんですが、新しくしました

　

書くのを辞めなきゃいけなくなったと言ったんですが、大丈夫になったので再開します

感想版です

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3121/

では、スタートします

　　　　　　　　　　　　繋いだ手を離したのは　

自分の選択。　

それなのに…　

今でもこの両手が　

君の温もりを求めてる。

　　　　　　　　　　　　｢いらっしゃいませ。　
　　　　　　　優輝です｣

指名をもらい、女性のとなりに座りお酒を作ると　

花開く会話。　

そう、ここはホストクラブ。

『CLUB　shin 』

俺はここのNo.2の優輝。　

年齢は24。　

俺の他には　
No.1でお調子者かつカリスマ的なオーラを持つノリ。　

甘い声を持ち、ピアノも弾ける、凪。　

天然だけど、料理は天才的な美形の淳也。　

ノリ、凪、淳也は　
偶然にも俺と同じ年。　

そして　
1番年下で天使の様な笑顔をもつのに　
ドSなマキト。　　

あと数人いるが、このクラブは今紹介した五人がメインメンバー。

俺の役割は　

まぁ、まとめ役のような事。　

ノリ、凪、淳也、マキト。　

俺を含めたメインメンバーは　
互いに様々な事情で　
オーナーに拾われた。

このクラブではもう、五人は家族のような感覚で　

一人でも欠けるなんて　
考えられなくなっていた。　

｢お疲れっしたー。｣　

AM　５:００　

お店も閉店となり、次々と帰路につく。

｢あーｯ!ラーメン食べたい!ねぇ、優輝!ラーメン行こう!?｣　

そう誘ってきたのは淳也。　

｢いいよ、行こうか。　
他のみんなは??｣　

｢誘ってみるー!!｣　

嬉しそうに、スキップしながら他の３人の元へいく。　

そんな淳也が可愛くて、俺は笑みを溢した。

いつ頃からだろう…。　

こんな気持ちを持ったのは…。　

もうずっと前から　
俺の心は淳也に奪われていた。　

だけどこの気持ちを伝える事はないだろう…。

気持ちを伝えれば…　

今の関係が崩れてしまうことくらい　

俺は分かっている。　

淳也を失いたくなかった。

｢いっただきまーす!!｣　

店の近くの行き付けのラーメン屋。　

そこに淳也の誘いで　
五人並んで腰かけ　
他愛もない会話をしながら、ラーメンをすする。　

もう何度も五人で　
この店にきた。

そして何時ものように　

｢そのチャーシューいただきです!｣　

マキトが今日は淳也のチャーシューを横取りし、　
ドSっぷりを発揮。　　

それを見た、凪とノリは自分のチャーシューを取られまいと死守。(笑)

｢えーｯ!!ひどいよぅ(泣
楽しみに取ってたのに!!

マキトに向かって口を尖らせる淳也。　

だが、もうすでにチャーシューはマキトの口の中。　

｢マキトのばかぁ!!｣　

本気で泣きそうな淳也。

｢はいはい、俺のあげるから。｣　

淳也を宥めるようにして　俺は自分のチャーシューを淳也の器にのせた。　

｢えｯ??でも優輝のが無くなっちゃう…」　

申し訳なさそうに淳也が眉を下げる。

「いーよ、俺は。チャーシューって気分じゃないし」

笑って見せると　
淳也は女ならいちころだろって笑顔で礼を言う。　

「んぢゃ、俺には卵ちょーらい♪」　

マキトが横から言ってきたから　

「お前は横取りしすぎ!卵は俺が食べる!｣　

俺はそう言い、マキトのおでこに軽くデコピンをする

俺のそんな行為をみて　

「｢そーだ②!!｣」　

とまた横から凪とノリがマキトに抗議をするが…　

「ふんｯ!!卵いただき!!｣

「｢ああｯ!!!｣」　

二人とも卵を取られてしまった。（苦笑

「もう、マキトったらぁ」

淳也が苦笑いで言うと　
俺を見る。　　

凪とノリの落ち込む姿をみて、俺も苦笑いを返す。　

こんな五人の時間が　
すごく大好きで心地いい。

だけど　

この時の俺達は　
知らなかった………。　

それぞれの『想い』を…。

｢お早うございます。｣

PM　６:００　

いつもの様に出勤すると　店内には、優しいピアノの音色が響いていた。　

きっと　
凪が練習でもしているのだろう。　

そう思い、俺はピアノのあるステージに向かった。

｢あｯ!優輝、おはよー。｣

俺に気付いた凪が　
ピアノを弾く手をとめ笑顔を向ける。　　

そんな凪の笑顔に　
この時、なぜか違和感を覚えた。　

いつもより、元気がない??

｢お早う、凪。何かあったのか??｣　

心配になり凪に問いかける。

だけど凪は　

｢えｯ?なんでー?
　何もないよー!?｣　

そう言って、またピアノを弾き始めた。　

俺の思い過ごし…か。　

そう思い、凪のピアノに耳を傾けた。

「いらっしゃいませ。」

それからお店が開店と共に、お客様が来店する。　

お酒を作り、会話に花を咲かせていると　

「えー、間宮さまのリクエストにより、これからピアノと歌を披露します。」　

ステージにたつ　
凪の姿に、視線が集まる。　

凪はこうやって、リクエストに応じたまにピアノを披露する。　

そんな凪のピアノと歌は　うちの店の一つの名物。　

静かにピアノの音色がなる。　

その音色に、さっきまで花を咲かせていた会話も　
一時中断され、お客様は皆凪のピアノに耳を傾ける。

ピアノの音色もそうだが、凪が歌い出した瞬間は　

俺達、従業員でさえも　
その歌声に聞き惚れてしまう…　

凪の低く甘い声、それでいて少しハスキーな高音。

その歌声は、天才的だ。

ピアノと歌声に耳を傾け、俺はさっき覚えた違和感は勘違いだと安心しきっていた。　

だけど…　

ガッシャーﾝ…ｯ――――。　

閉店間際。　

お店の奥から、ガラスの割れる音がした。

その音が気になり　

「スミマセン、少しだけ失礼いたします。」　

ヘルプに着いていたテーブルを任せ、店の奥へ行くと…　

「――ｯｯ!!大丈夫かｯｯ!?｣

俺は焦った。

散らばる割れたグラスの破片…　

そのすぐ側に　

さっきまで、綺麗な音色を奏でていた

凪の姿があった。

「ん、ん～……ごめ、大丈夫…」　

俺の言葉に凪が反応したが、俺は正直驚いた。　　

凪は普段、滅多に酔わない。　

なのに、今の凪は長年一緒にいる俺ですら初めてに近いほどに　

酔っている様子だった。

しかも…　

「凪ｯｯ!お前ケガしてるじゃないか!!｣　

割れたグラスの破片でやっただろう手の甲の傷。　

俺は凪の手をとり　
体を支えるようにして凪を立たせ　

｢すまない、こいつの手当て裏でしてやって。｣　

通りかかったボーイに凪を頼み　
席に戻った。

閉店までの数分間。　

俺は凪の事が気になりつつも、お客様に笑った。　

俺の知ってる凪は　
人一倍繊細で感情豊かなやつ。　

ただ…　

たまに悩んでいても　
無理して笑うクセがある。　

同じ年なのに、守ってやりたくなるような…　
弟にも似た存在だ。

「優輝ー!凪、大丈夫!?｣

閉店後、ボーイから聞いたのか　
淳也、ノリ、マキトが俺の周りに集まってきた。　

皆の表情は、とても心配といった感じで　

｢ああ、大丈夫だ。　
でも少し凪と話したいから、お前達は先に帰っていいよ。｣　

３人を宥めるようにして　俺は言った。

｢わかった。でも後で必ず連絡くれよな?｣　

ノリの言葉に、あと二人も同じ事を言った。　

｢ああ、ちゃんと連絡するよ。｣　

俺がそう返すと　
３人は帰っていった。

…………――――――。　

「凪、大丈夫??｣　

裏の更衣室のソファーに寝ている凪に声をかける。　

｢ん…もう酔いも冷めたよ。ごめんな?優輝。｣　

ゆっくり起き上がり、俺を見て　

フッと眉を下げ笑った。

｢…何か、あったのか?｣

凪のとなりに腰掛け、肩に手を置いて聞いてみたが　

｢……………。」　

凪は何故か、返事もしないまま　
俯いてしまった。

いつもなら、他の３人に出来ないような相談も俺には言ってくれる。　

俯いた凪を見て　
俺は益々心配になった。　

「凪……??｣　

俯いた凪の顔を覗きこもうとした時だった。　

｢ねぇ…優輝?」　

俯いたまま凪は　
俺の肩に寄りかかってきた。

そんな凪に　

「ん?……どうした?｣　

肩に手をやり訪ねると　

｢俺が…………

優輝の事、好きだって……言ったら優輝はどうする?｣

え……???　

凪が今、なにを言ったのか俺には分からなかった。

ただ驚く俺の顔に、凪は静かに顔をあげると　

｢優輝………好きだ。」

その表情はあまりにも切な気で

凪が…
俺を………??　

だけど凪に返す言葉が　
俺にはすぐ見つけられなくて　

ただ二人、見つめ合っている状態。

俺の頭の中に　
一瞬、淳也の顔が過った時だった。　

｢なーんちゃって!!!｣　

さっきまで、あんなに切な気な表情だった凪が　

笑顔で立ち上がった。

｢はっ!?……」　

そんな凪に　
俺はなんとも間抜けな声を出す。　

「ごめん!優輝があんまり心配するから

ちょっとイタズラしてみましたー(笑)｣　

俺に向かって舌を出してみせる凪。

｢はぁ…お前なぁ～」　

思わずため息がでる。　

そんか俺を笑う凪は　

「びっくりした!?｣　

なんて嬉しそうに言うから　

｢こんのやろー(笑)｣　

凪の髪の毛をクシャクシャにしてやった。

この時の俺は　
凪の言葉がイタズラで良かった

なんて思っていた。　

本当だったなら　
俺は凪の気持ちに答える事が出来ないから…　

いつもの笑顔で笑っている凪。　

そんな凪を見て、俺は安心した。

-淳也Side-　

うそ…でしょ?

どうしても、凪の事が気になった僕は優輝には帰れって言われたけど　
お店に戻っていた。

二人の姿を発見し、声をかけようとしたけど…　

『優輝……好きだ。』　

凪の口からはっきりと聞こえた。

その言葉に　
僕の胸がギュッと締め付けられる。

凪が……??
優輝のことを??　

見つめ合う二人。　

僕はそれが見ていられなくて　
そのままお店を飛び出した。　

凪への答えを　

聞きたくなかったから…

部屋に帰った僕は　
スーツのまんまベッドへ倒れ込んだ。　

『好きだ。』　

凪の言葉が頭をグルグル回る。　

初めて知った…凪の想い。　

優輝の答えが知りたくなくて飛び出してきたのに　
今はそればかり気になって…

楽しい

頑張ってください

我が輩さん

　

有り難うございます

　
頑張ります

　　　　　　　　　　　　初めて知る凪の想い……。　

優輝の答えがYESなら…
僕はどうすればいいの??　

だって僕は………

「………凪に、　

先、越されちゃった…」　

優輝の笑顔や　
僕に向けられる優しい言葉。　
みんなを大切にする姿…。

そんな優輝を　

僕は初めて会った時から　

《好き》
になっていたから…。

もし、優輝の答えがYESだったら…。　

考えると涙が溢れてくる。　

僕はただ　

枕に顔を埋めるしかなかった。

｢お早うございまーす。｣

次の日　

あまり眠れなかったせいで重い身体を何とか起こし、僕は出勤した。　

｢お早うございます!淳也さん!｣　

先に来ていたマキトが声をかけてくれる。

｢おはよー、マキト。｣

いつもの様に、笑って返事したつもりだったのに　

｢淳也さん…何かありましたか?目、腫れてますよ?｣

心配した面持ちで、マキトが僕の頬に触れる。　

ドキッと胸が鳴った。

だけど　

｢う、ううん!何もないよ!そうだ、今日のメニューちょうだい?｣　

心配かけたくなくて、僕はマキトに笑って見せた。　

そんな僕にマキトはそれ以上何も言わずに　
メニューを渡してくれた。　

いつも出勤してから、お店に出す軽いおつまみのメニュー…　

それを受け取り、厨房へ入った。

おつまみを作っている間も考えてしまう。　

優輝の答え…

優輝はどう答えたのかな…

「はぁ……。」　

考えるとため息ばかり出てくる。

「どうしたんだ?ため息なんかついて。｣　

そんな僕の後ろからした声に　

｢うえｯ!?わ………ｱﾂｯ!!｣

ビックリしてしまった僕は、フライパンの熱くなった取っ手の根の部分を

思わず握ってしまった。　

｢淳也ｯ!!?何してんだ!｣

｢優輝……。」　

僕の手をとり、急いで水で流してくれる優輝。

「大丈夫か!?｣　

こんなに心配してくれる優輝だけど　
僕はこんな時まで優輝の触れる手に　
ドキドキしてしまう。　

だけどその反面…　

昨日の出来事を思い出し、胸がモヤモヤしていた。

「ほら、もう大丈夫。」

優輝が僕の手に絆創膏をはり、安心したように小さなため息をついた。　

幸い小さな火傷で済んだけど…　

「ごめんね…?優輝。｣

申し訳なくて、僕は優輝に謝った。

だけど優輝は、僕の頭を優しく撫でると　

｢いいよ。大した事なくて良かった。｣　　

僕の大好きな笑顔をくれた。　

だけど、そんな大好きな笑顔を見て　
僕の胸のモヤモヤは大きくなって…

「……ほんと、優輝は優しいんだから。」　

僕の言葉に、優輝は笑って　

「何、急に?｣　

優輝の顔を見つめてみるけど、僕の頭の中では　
凪の言葉が流れていく。　

｢もう……僕に優しくしないでよ…」　

驚く優輝。

自分でも…驚いた。　

何でこんな事、口にしてしまったのか…　

「………淳也??｣　

なんで優輝に、こんな悲しい顔をさせてしまったのか…

「ごめん…ｯ何でもない!これ、ありがとね!｣　

どうしていいのか分からずに、僕はそれだけ言うとフロアに戻った。

優輝はきっと　

僕の事、変に思ったよね…

でもね、僕気付いちゃった…　

この胸のモヤモヤが　
《やきもち》だって事。　

優輝は好き。　
でも凪だって大切な仲間。

それなのに僕は…　

凪にやきもちした。　

優輝を傷つけた。　

そんな自分が嫌になる。　

この気持ち…どうすればいいの?　

そんな想いを隠して、僕は仕事をした。

-優輝Side-　

『もう、僕に優しくしないでよ…』　

淳也にそう言われてから数日。　

ノリや凪、マキトにはいつもの笑顔を見せるのに　

俺には何故か、無理して笑って見せているような…

明らかに前とは違う、淳也の態度。　

俺はどうしてもそれが気になっていた。

～♪～♪～♪。　

休日。　

一人、部屋で淳也の事を考えていると　
ふいに携帯が鳴った。　

着信　　ノリ　

俺が電話にでると

「よぉ、優輝!今日少し時間あるか??｣　

ノリに話があると呼び出された。　

近くのカフェ。　

少し先に着いた俺は、コーヒーを注文しノリを待った。

｢うーｯす!お待たせぇ!｣

注文してすぐに私服のノリが俺に手をあげながら店内に入ってきた。　

｢おう!｣　

それに手をあげ答えるが、さすがはウチのNo.1。　

そのオーラに店内の視線が集まる。

｢急に呼び出してゴメンなぁ～」　

そんな視線も気にせずに　ノリは俺の前に腰掛けた。　

ノリもコーヒーを注文した所で　

「いいよ、それで話って?｣

コーヒーを片手にノリに訪ねる。

するとノリは少し間をあけたあと　

｢お前、淳也と何かあった?最近のお前ら変だぞ??｣　

ノリの言葉に少々戸惑ったが、ノリも気付くくらいだ。　

俺は最近の淳也との事。　

淳也の態度の変化をノリに話した。

｢ふーん…」　

話を聞いたノリは、少し考えると　

「淳也がどうしてそう言ったかは分かる気もするけど…　

ちゃんと話せよ。」　

そう言ったあと　

「お前らがそうやってると、No.1で忙しい俺も気になって仕方ねーっつの!!｣

俺の肩を叩き、笑った。

｢ああ、すまない。話してみるよ。｣　

ノリの笑顔に　
俺は笑って答えた。　

それからノリと軽く仕事の話をして　

｢また明日なー!!｣　

ぶんぶん手を振るノリに手を振り返し　
別れた。

そして…　

ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ…――。　

淳也のアパートに足を運んだ。　

チャイムが鳴り、しばらくして　

「はい、どちら様…って優輝!?｣　

少し驚いた様子で淳也が俺を見上げる。

そんな淳也に俺はいつものように笑いかける。　

｢急にすまない。少し、いいか?｣　

｢う、うん。どうぞ…」　

だけど淳也は　
相変わらずたどたどしい笑顔を見せた。　

「ど、どうしたの??
　急に来るなんて珍しい｣

ハーブ茶を出しながら、淳也が俺に訪ねる。　

｢ああ…。なぁ?最近どうしたんだ?｣　

淳也をまっすぐ見つめる。　

｢えｯ!?…な、なにが!?｣　

明らかに戸惑った様子の淳也に　
俺は全て伝えた。

何故、あんな事を言ったのか。　

最近の俺に対する態度はどうしてか。　

淳也が何を考えているのか知りたい。　

全て伝えたあと、淳也は何故か下を向いてしまった。

｢淳也??｣　

そんな下を向く淳也の顔を覗き込むと…　

「なんで……。」　

その大きな瞳から　
涙が零れていた。

「……なんで泣いてるんだ??｣　

訪ねても、淳也はただ涙を流すだけで　

｢俺の事…嫌になった??｣

そう訪ねれば、首を横に振る。　

どうしていいのか分からず、ただ泣きやんで欲しくて俺は淳也の身体を抱きしめ　

頭を撫でた。

｢僕にｯ……ｸﾞｽｯ……優しくしないでって、言ったのに…」　

小さく呟く淳也の声は　
少しかすれていた。　

「…その言葉の意味が知りたいんだ……淳也。」

身体を離し、淳也の瞳から零れた涙を拭う。

すると淳也は堰を切ったように　

「だって!……ｸﾞｽｯ…僕聞いちゃったんだ!……凪ｯ、凪が…優輝に告白してるのを!!｣　

一瞬、なんの事かと思ったが　
すぐに俺は、そんな理由で泣いてる淳也が凄く愛しくなった。　

｢そっか、聞いてたんだな?それであんな態度とったの??｣　

思わず笑ってしまう。

そんな俺を見た淳也は　

｢なんで笑うの!?ｸﾞｽｯ……僕はｯ、僕は優輝の答えが気になって仕方なくって」

俺の胸を叩く淳也。　

それでも、淳也の言葉があまりにも嬉しくて　

俺は淳也を抱き締めた。

「なっ!!優輝…??｣　

単純に嬉しい。　

凪への答えを　
淳也が気にしてくれていた事が。　

｢凪の告白な……あれ、凪のイタズラなんだ。」　

そう伝えると　

「………うそｯ!?｣　

少し間をあけて、淳也が驚いたような声をだした。

そんな淳也に　

｢気になってたって事は、俺自惚れてもいいんだよな??｣　

そう訪ねると　
淳也は首を傾げる。　

｢だから、淳也は　

俺の事、好きだって思っていいの??｣　

淳也を見つめ、首を傾げる仕草をすると　
淳也の顔が見る見る赤く染まっていった。

それがあまりにも可愛いくて　

チュッ…。　

淳也にキスをした。　

「……俺の事、好き??｣　

キスのあと、淳也は俺の問いかけに　
静かに頷いた。

愛しくて、今度は深いキスをした。　

「ﾝｯ……ﾌｱｯ……」　

一生懸命、俺のキスに答える淳也。　

「……好きだよ。」　

そう伝えれば、また頬を染める。　

「僕も……好き。」　

そうやって抱きついてくる淳也を　
俺はそっと押し倒した。

「……いい??｣　

そう訪ねれば、淳也は恥ずかしそうに頷く。　

綺麗な淳也の髪の毛に指を通すと　

もう一度…　

「ﾌｯ……ﾝｯ……」　

深いキスをした。

そして…　

「凄く…綺麗だ。」　

淳也のシャツを開くと　
その透き通るような肌に　目を奪われた。　

「やｯ…もう、恥ずかし…｣

顔を隠す淳也が　
凄く愛しい。

｢ｸｽｯ……可愛い。」　

そう言って、淳也の肌に優しく触れると　

「ﾝｱｯ……!ゆｯ…き…」

甘い声で鳴く淳也。　

俺はただ、一つ一つ。　
淳也を確かめるように触れる。

「ｱｯ……ﾝﾝｯ……」　

口唇を肌に這わすと　
淳也は俺の髪の毛を緩く握った。　

淳也の下半身に触れると　もうそこは　

「……ｸｽｯ…気持ちいいの??｣　

｢もｯ…優輝のばかぁ!///｣

俺の肩を叩く淳也。

｢可愛い…淳也。」　

叩く手を優しく掴み、微笑むと　
淳也は顔を赤くした。　

それから淳也のズボンを脱がし　
そこに触れると　

「ﾋｱｯ!…ｱｱｯ……や、ら!」

一際甘い声で鳴く。

｢もっと、声聞かせて?｣

淳也の甘い声がもっと聞きたい。　

｢ｱｱｯﾝｯ!………ﾋｱｯ…」

淳也のそれを口に含み、舌を這わせる。　

「もｯ……ﾔｯ……ﾝｱｱｯ…」

絶頂が近づいたのか、淳也が俺のシャツをキュッと握ってきた。

俺は淳也のを含みながら、下の蕾に触れる。　

「――!?ﾔｯ…ｱｱｯ!!｣　

ビクッと身体が跳ね、不安気な表情で俺を見る淳也。　

｢大丈夫……すぐに良くなるよ。」　

微笑みながら指を蕾へと沈め、ポイントを探ると

「ｱｱｯ!…な、にｯ……ﾝｱｱｯ…!!!」

ある一点を掠めた瞬間。　

淳也は達した。

｢ﾊｧｯ…ﾊｧｯ…優、輝…」　

肩で息をする淳也を前に　俺も着ていた服を脱ぐ。

「ｸｽｯ……どうしたの??｣

あまりにも淳也が見つめるから　
訪ねてみると　

｢………////
やっぱ優輝って、男らしい身体だなって思って…｣

そう答えると　
俺の肌に触れた。

そんな淳也の行為に　
愛しい気持ちが増した。　

「…好きだよ、淳也。」

「ｱｱｯ!!……優輝ぃ!｣　

淳也の蕾に　
自分のモノをゆっくり入れる。　

淳也の苦しさが少しでも軟らぐよう　
俺は淳也のモノに触れながら、腰をスライドさせた。

そして…　

「ｱｱｯ…んぅｯ……も、イッちゃう!」

｢ﾊｧｯ……一緒にイこうか」

二人で　
絶頂を迎えた。

男がｲｯﾁｬｳとか言いますかね・・・

「…なんか、夢みたい。」

ベッドで寄り添っていると淳也が小さく呟いた。　

｢俺も、そう思ってた。　

でも夢じゃないよ。淳也」

笑って頭を撫でると、嬉しそうに淳也が笑う。

我が輩さん

言いませんかね

すみません

　

でも淳也ならって事でお許しを

この日から　
俺達は恋人同士になった。　

その幸せを　
俺は永遠に続くようにと　

心から願った。

-凪Side-　

苦しかった。　

優輝の視線の先には　
いつも淳也がいて　

俺の入る隙間なんてないって…　

分かってた。

「マスターもう一杯!!｣

仕事帰り、俺は行き付けのBARで飲んでいた。　

｢もう、凪さん!?飲みすぎっすよ!｣　

横からマキトが俺に言う。　

だって…
仕方ないじゃん…。　

「いーんだよ、今日は…飲みたいんだ。」　

俺がマキトに言うと、マキトは呆れたようにため息をつく。

俺をこんな飲みたい気分にさせた理由。　

それは今日、店に出勤したときに感じた…　

二人の雰囲気。

いつもの様に、ピアノに向かう俺の元に　

「おはよー、凪!!｣　

笑顔で淳也が駆け寄ってきた。　

｢おはよう、淳也。｣　

笑って答えると　

｢ねぇ②!!あれ弾いてよ!!｣

淳也が曲のリクエストをしてきた。　

俺が答えるまえに　

｢こら、淳也。凪の練習の邪魔しない。｣　

優輝が淳也の後ろで笑いながら立っていた。　

｢ぶぅーｯ!少しくらいいーじゃあん!｣　

頬を膨らませる淳也を　
優輝が宥め　

｢おはよう、凪。｣　

優輝が俺に声をかけるが　

俺はこの時に感じた。

淳也と優輝の間に　
流れる空気が　

いつもと違う。　

前とは違う二人の雰囲気に俺の胸はギュッと締め付けられた。

この日は二人の雰囲気が気になって…　

上手くピアノにも集中できなかった。　

だから…　

「……酔いたいんだ。」

BARのカウンター。　

マキトに呟いた。

マキトはそんな俺を見て、小さくため息をついたが　

「帰りは僕が送ります。だから潰れないで下さいね。　

潰れたら…知りませんよ?｣

と、いつもの天使の笑顔で毒を吐いた。　

｢お、おう；」　

それから何杯かカクテルを飲んだ俺は…

「…ﾋｯｸ……う～、マキトｫごめぇん～」　

潰れはしなかったものの　マキトに支えられ、アパートに帰りついた。　

「まったく…今日はどうしたんですか?
凪さんにしては珍しい。｣

なんて言いながら、俺の前に水を差しだしてくれた。

｢さんきゅ～。まぁ、俺も酔いたい時だってあるわけよ。」　

その水を飲み干し、俺が言うと　

「…この間は店で酔うし。
凪さん、何かあったんですか??｣　

心配そうに俺の座るソファーに腰掛ける。

何か……か。　
あったと言えば、あったのかもな…。　

優輝の顔が浮かぶ。　

俺と優輝は　
CLUB　shinでは同期で　
優輝の男らしい性格や、優しい笑顔に　

あっという間に俺の心は奪われた。

だけど、この想いを伝えるのが怖くて
優輝の隣に居たくて気持ちを押し殺してきた。　

だから…　

淳也が店に来たとき
正直焦った。　

優輝の視線が…
俺を見る視線と違う気がしたから…。

「……凪さん??｣　

思わず考え込んでしまった俺を　
心配そうにマキトが見つめていた。　

｢あ、ああ；　
ごめんｯ…大丈夫だから!｣

心配させまいとマキトに笑顔を向けた。

だけど…　

「……………優輝さん?｣

えっ…?　

マキトが急に優輝の名を口にするから　
俺は思わず目を見開いた。　

そんな俺の反応をみて　

｢やっぱり…優輝さんの事で何かあったんですね。」

頬杖をついてマキトが俺を見る。

「なっ；何言ってんだよ」

そんなマキトの視線から目を反らし、誤魔化すように笑うけど　

「僕…凪さんの気持ち。

知ってましたよ??凪さん、優輝さんの事…」　

「やめろｯ…」　

思わず、マキトの言葉を塞ぐように叫んでしまった。

だけどマキトはそんな俺に動じる事なく　

「……今日、酔いたいって言ってたのは優輝さんと淳也さんの事ででしょう??｣

｢――――ｯ!!｣　

マキトの的をついた言葉に俺は何も言い返せない。

今日の二人の雰囲気や、会話を思い出してしまう。　

忘れたくて…あんなに飲んだのに…。　

「……泣いても、いいですよ??｣　

俺より少し背の高いマキトが　
俺の身体を包み込んだ。

｢うｯ……あｯ……ﾋｯｸ…」

俺はただ　
マキトの胸に顔を押し付け泣いた。　

その間、ずっとマキトは何も言わずに　

俺の背中を擦ってくれていた。

「ごめん……ありがとな」

ひとしきり泣いたあと　
マキトに礼を言うと　

「…いいですよ。また泣きたくなったら言って下さい。」　

いつもはドSなマキトなのに、この時だけは　

「また、胸貸してあげますから。」　

優しく笑った。

そんなマキトに　
少しだけ心が癒された気がした。　

「ほんと、ありがとな。マキト。」　

だから俺も、マキトに笑ってみせた。　

それから少しして　
マキトは俺のアパートを出た。

-淳也Side-　

カチッ…　

僕のアパートに来ていた優輝がタバコに火をつけた。　

そんな優輝の背中に　
僕がピタっとくっつくと　

「どうした??淳也。｣

優しい声で聞いてくる。

｢んーんぅ。ただ優輝のタバコの匂い好きなんだぁ｣

そう答えると、僕の大好きな笑い声がする。　

優輝と恋人同士になって　僕は毎日が幸せ。

毎日、優輝に好きって伝えられて　

毎日のように同じベッドで眠って　

付き合う前は分からなかった優輝のクセも仕草も　

全部が僕の宝物になった。

幸せすぎて怖いくらい。　

｢淳也、おいで??｣　

タバコを吸い終わった優輝が手招きする。　

｢なぁに～??｣　

優輝のとこに行くと　
優しくキスをされた。

優輝のキスが好き。　

優輝の温もりが好き。　

だけど…
僕は全然分かってなかった…。　

こうやって僕が優輝と幸せな時間を過ごして　
誰かが傷ついてるなんて事…。

「優輝さんと…付き合ってるんですか??｣　

優輝と付き合い始めてからもうすぐ１ヶ月が経とうとしていた頃。　

マキトが僕に聞いてきた。　

僕は隠すつもりもなくて　

｢うん。えへへ、なんか恥ずかしいな。｣　

笑ってマキトに答えた。

マキトは僕に笑みを向けると　

｢そうですか、良かったですね。｣　

そう言ってくれたから、嬉しくて僕は満面の笑みをマキトに向ける。　

だけど　

この会話が、あの人の耳に届いていたなんて…　

そして、それが…　

その人を傷つけていた。　

僕はなんにも分からなくて、幸せそうに笑って　

マキトと会話をしていた。

僕はなんて鈍感で馬鹿なんだろう…　

あんな事があるまで　
全然気付かなかった。　

ただ優輝の隣で　

呑気に過ごしていたなんて…。

-マキトSide-　

好きな人の好きな人って、分かってしまうものなんですね。　

僕が目でいつも追っている人は　

いつも違う人を見つめていた。

優輝さんと淳也さんが付き合ったのを聞いて　

僕は素直に喜んでいいのかわからない。　

だって…　

きっとあの人は　
この事を知れば、悲しむから…

そう思いながら、僕はピアノを弾く凪さんを見つめた。　

だけど…　

今日の凪さんのピアノの音色が少し変な事に気付いた。　

まるで…

泣いているような音色。

その音色が気になって　

「凪さん、これから暇ですか??｣　

僕は凪さんを　
自分のアパートへと誘った。　

またこの人は何かを抱えてる…　

そんな気がして。

アパートに向かう途中、凪さんは笑っていたけど　

僕にはその笑顔が切な気にみえていた。　

「……お疲れ様です。」

「おう、お疲れ!｣　

アパートにつくと、買ってきた缶ビールを手に二人で乾杯した。

他愛もない話をしながらもいつ、凪さんの今日の様子について聞こうか僕が考えていると　

「なぁ……マキト?｣　

缶ビールの縁を指でなぞりながら、凪さんが口を開く。　

｢なんですか??｣

それに笑顔で答える。

すると凪さんは小さく笑うと　

｢……胸、貸してくんない?｣

｢また、何かあったんですか?｣　

そう言いながら、胸に凪さんを迎えいれたとき　

｢……ごめｯ、お前と淳也の会話…聞いちゃった」　

小刻みに凪さんの肩が奮える。

僕は（しまった）とさえ思った。　

僕と淳也さんの会話を　
まさか聞いていたなんて…

自分が無神経だとさえ思った。　

「そう…ですか。　
　　　すみません。凪さんの気持ちを知ってるのに…｣　

申し訳ない気持ちを伝えながら、凪さんの背中を擦ると

｢ｸﾞｽｯ……謝んなよ。マキトは悪くない……」　

そして凪さんは　
泣きながら、自分の中にある想いを吐き出すように　

「分かってたｯ…ｸﾞｽｯ……俺の想いはｯ…優輝に届かないｯて…　

優輝はいつだって淳也を見ててｯ…俺はｯ…ﾋｯｸ……」

泣きじゃくる凪さんを　
僕はただ抱き締める事しかできない。

だけど凪さん…　

僕はあなたの想いを　
今、一番理解できてると思います。

だって僕も…　

僕の想いも
一方通行だから…。

CLUB　shin　に僕がオーナーに連れてこられたのは　僕はまだ１９歳で　

親も友達も　
何もかもが信用できなかった頃…。　

他人に関わる事が嫌だったときに　
出会った…。

お店の中にあるステージの上。　

優しい音色を奏でる人…。　

初めて会ったとき　
ろくな挨拶もしなかった僕に　

「これから宜しく!!じゃあ君のために一曲♪」　

ってピアノを弾き始めた。

その音色に　
その歌声に…　

僕の冷めていた心が　
溶かされていくような気がした。　

そして曲が終わった頃には…

「えｯ!?ちょっとキミｯ!?｣

焦るあなたは僕に急いでハンカチをくれた。

自然と涙が出ていた。　

それが、僕と凪さんの出会い。　

あれからもうずっと　
凪さんを想う日々。

だけど　

僕はすぐに凪さんの心が、優輝さんにあると気付いた。

だから…　

遠くで見ていようって決めた。　

だけど　

今は僕の胸で泣きじゃくる凪さんの支えになりたい。　

そう思い、抱き締める腕に力を込めた。

そして…　

「…凪さん。　

僕を……抱いて下さい。」

「えｯ…??｣　

涙目の凪さんは　
驚いたように僕を見上げた。

軽はずみで言ったんじゃない。　

凪さんが優輝さんを想って泣いてる…　

それを少しでも忘れさせたかった。　

たとえ…　

「…優輝さんだと思ってもいいですから。」　

そう言った僕は、凪さんにキスをした。

「ちょｯ…マキトｯ…」　

キスのあと、凪さんは戸惑ったように　
僕の身体を押した。　

「……あたなの中の優輝さんを　
少しでも忘れさせたいんです。」　

「マキト………。」　

凪さんを見つめると　
またその瞳から、一粒涙が零れた。

……………――――――。　

「ｱｯ……ﾝｱｯ!な、ぎ…さん…!｣　

凪さんの熱い体温を　
全身で感じた。　　

｢ﾊｯ……ﾝ…………」　

凪さんの甘い吐息。　

お願いです…
今だけは…優輝さんの事　忘れて下さい。　

そう願いながら

「ﾔｯ……もｯ……僕ｯ…」

「俺ｯ…も……」　

絶頂を迎えた。　

僕の身体を抱きながら　
凪さんは…

達した瞬間、微かに声を漏らした。　

《優輝……》　

その声を僕は聞こえないふりをした。

だけど僕は　
後悔などしません。　

だって…　

僕が望んだ事だから…。　

「……ごめんな。マキト」

終わったあと、凪さんが小さくつぶやいた。

そんな凪さんに　

「謝らないで下さい。　
僕はあなたの支えになりたかったんです。」　

凪さんの頬に触れる。　

だけど　

凪さんはただ、目を反らし　

「……ごめん。」　

ベッドから出てしまった。

着替え始める凪さんを見つめ　

僕は間違っていたんだろうか…　

傷つけてしまったのだろうか…　

色々考えてみたが…　

「……今日は、ありがとな。俺…」　

玄関先で今にも泣き出しそうな表情の凪さんに　

「……もう、何も言わないで下さい。」　

一つ、分かった。　

僕じゃ…優輝さんの代わりにはならない。　

その事が…。

「……僕の想いは、やっぱり一方通行ですね。」　

一人になった部屋で　
ただ凪さんの残していった香りを　

抱き締め、さすがの僕もこの時ばかりは涙した。

-優輝Side-　

｢お早うございまーす。｣

この日も俺は、いつもの様に出勤した。　

そこにはすでに　
淳也、ノリ、マキトがいて　

それぞれ俺に声をかけてくる。

ふとステージに目をやると　

いつもなら誰よりも早くきてピアノを弾いているはずの　

凪の姿がない。

同伴以外では、１日でもピアノを弾く事を欠かさない凪。

同伴ならば　

《今日は同伴!》　

っていつも俺に

をくれるのに　

今日はそれもない。　

「なぁ、凪から何か連絡あった??｣　

不思議に思い、みんなに聞いてみるが　

みんなの返事はNO。　

凪が店を休むなんて　
定休日いがい無い。

心配になり、携帯を開く。　

凪に

を送るが、返ってきたのは　

《今日は休む。ごめん》

それだけだった。　

そして、次の日も　
凪は店を休んだ。

俺が

を送っても、凪の返事は　

《大丈夫、ごめん》　

理由もなく、このくらいの返事で　
電話もしたが、凪がそれに出る事はなかった。　

「凪、また取らないの?｣

横で心配そうに淳也が訪ねる。

｢ああ…さすがに心配だから、今日俺が店行く前に凪の家に行ってみるよ。」　

そんな淳也の頭を撫でた。　

そして俺は、いつもより早く部屋を出た。

だけど　

そんな俺の行為が　
あんな形になるなんて…

知らないまま、俺は凪のアパートへと足を運んでいた。

ピンポーン……――。　

凪の部屋のチャイムを鳴らす。　

が、何度鳴らしても凪は出て来ない。　

不思議に思い、ドアノブに手をかけると…　

カチャ…　

鍵が開いてる…。

そっと扉を開け、中を覗くと　

部屋の奥から　
ピアノの音色が聞こえてきた。　

居る…のか。　

「……お邪魔します。」　

俺はそっと中に足を踏みいれた。

音色の方へと足を運ぶ。　

そして…　

ピアノを奏でる凪の姿を発見したとき　

俺はその姿に　

身体が動かなくなってしまう。

グランドピアノの周りには楽譜が散乱し　

真っ白なシャツを着て
ピアノを弾く凪は…　

瞳から涙が流れていた。　

その姿は…　
俺に酷く悲しいような印象を与えた。

なのに何故か　
その姿が綺麗にさえ見えるのは…　

凪の整った容姿のせいだろう。　

俺は声をかける事も忘れ、ただ立ちどまっていた。

響くピアノの音…

それが急に止まった　
その時だった…。　

「凪ｯ!!｣　

ピアノから指が離れ　
凪の身体がふらつくのを　

俺は急いで受けとめた。

その身体を支えたとき　
俺は驚きを隠せなかった。　

前に触れた肩とは違う…

少し、痩せた凪の身体。　

「凪ｯ……」　

俺が名前を呼ぶと　
凪はゆっくりと目を開けた。

「優…輝??なんで…」　

「なんでじゃない!心配で来てみれば…少し痩せたみたいだな。」　

俺の言葉に　
凪は小さく笑う。　

そして　
まだふらつく身体を　
ゆっくり起こした。

「ははっ…ごめん。　　
　　ずっとピアノに集中してたから…」　

凪の言葉に驚いた。　

「ずっとって…
　　何があったんだ?凪。｣

そう問いかけると　

｢………優輝には、言えないよ。」　

そう言って、すぐ側のソファーにもたれた。

俺にも言えないほど　
凪が何かを抱えてると思ったら　

ますます心配になる。　

「……どうしても、俺に言えないのか?｣　

俺の言葉に　
凪がまた小さく笑う。　

｢凪……俺で力になれるなら…話してくれないか?｣

ずっと一緒に働いてきた凪の事を　
俺が放っておくなんて出来なかった。

｢……力に、か。」　

凪は呟くと　
ソファーから立ち上がる。　

話してくれるのかと思ったら　

「……優輝さ、淳也と付き合ってるんだろ?｣　

検討違いな事を口にした。

｢ああ…。でも今はそれよりお前の話を聞かせてくれ。」　

話を元に戻そうとする俺に凪がため息をつく。　

さっきから凪の可笑しい態度を不思議に思った。　

だけど　

「…淳也と付き合ってるんなら、俺の力にはなれないよ…」　

凪の言葉の意味が分からない。

「どういう…意味だ?｣

俺が問いかけたのに　
凪はまたピアノに向かい

ﾎﾟｰ…ﾝ――。　

鍵盤に触れる。　

そして…　

「……優輝、俺ね。　
　　　　苦しいんだ…」

俺はただ凪の後ろ姿を見つめていた。

-凪Side-　

｢………俺には、好きな奴がいてさ。」　

部屋に来ている優輝に　
俺はもう言葉を止められなかった。

「好きな……奴?｣　

相変わらず、俺を真っ直ぐ見つめてる優輝。　

苦しいんだ…。　

マキトを抱いてる間も　
やっぱり考えたのは優輝の事で　

マキトへの罪悪感。　

優輝への押し殺した気持ち。　

全てが…まるで俺の身体を縛りつけてるかのようで…

この２日間。　

何もかもを忘れたくて　
ピアノに向かっていた。　

だけど…　

優輝が目の前に現れた今、俺は伝える事のないはずだった想いを…

「そいつ…他の奴と付き合ってさ。」　

優輝の眉が少し動いたのを見つけた。　

俺は静かに優輝に近付く。　

「……なぁ??もう分かってるんだろ??｣　

問いかけると　
優輝は目を反らした。

そんな優輝に胸がギュッと締め付けられた。　

｢…俺は、お前の事が…」

《好き》だと伝えようとした時　

「凪…ごめん。」　

優輝の温もりが、俺を包んだ。

そんな優輝の行為に　
俺は涙した。　

だって…　

「なんだよｯ…言わせてもくれないのかよｯ…」　

《好きだ》って事を　
まるで言うなって言われてるみたいで…　

「……ごめん、凪。」　

ただ謝る優輝の胸で　
俺は泣き続けるばかりだった。

「……ごめん。明日からは店に出るよ。」　

ひとしきり泣いたあと　
俺は優輝に言った。　

「凪……」　

優輝は何か言いたそうだったが

今は優輝に　
側にいて欲しくない…。　

だから俺は、笑顔を作る。　

「ほら、もう出勤だろ?
　　　　また明日な!!｣

玄関まで優輝を引っ張ると無理矢理、外に出した。　

｢凪……いや、明日な。」

そう言った優輝を俺は笑顔のまんま見送った。

いっそのこと、「好きだ」って言えた方が良かった。　

もう…今までのように優輝は接してくれないかもしれない…。　

そんな不安を抱え、俺はまたピアノに向かった。

-優輝Side-　

｢おはよー優輝!
　凪、どうだった??｣　

店に出勤すると　
心配そうに淳也が駆け寄ってきた。　

「ああ……大丈夫。明日から店に出るって。」　

そう伝えると　
淳也は安心したように笑う。

知ってしまった…。　

凪の想い。　

でも、凪の口からそれを聞きたくなくて　
抱き締める事で塞いだ…。　

聞くのが…

怖かった。

凪の涙…

少し細くなった身体…。　

まさか凪が俺を想っていたなんて、気付きもしなかった。　

凪を傷つけてしまった…。

「優………優輝!?｣　

凪の事を考えてボーッとしていた俺を淳也が呼ぶ。　

｢あ、ああ…なに??｣　

そんな俺の様子に　

｢凪と…なにかあったの??さっきからボーッとしてる…」　

俺を見上げ、淳也が不安そうな顔をする。

「何もないよ。ほら、仕事しよう。」　

そう言って、淳也には笑って誤魔化した。　

もし…　

淳也がこれを知ってしまったら　
こいつは深く考えてしまう。　

凪の想いは　
俺の胸にだけ閉まっておこう。　

そう決めた。

｢優輝!ちょっといいか?｣

閉店後　
ノリが俺を呼び止めた。　

｢凪の様子、どうだった?｣

店の前のBAR。　

ノリが訪ねてきた。

｢明日から店には出るって…。」　

するとノリはため息をついて　

「……お前、凪のことどうすんの??｣　

――――ｯ!!!　

ノリの勘にはいつも驚かされる。　

でも一番仲間思いなノリだから…
気付くんだろう。

俺は、凪の部屋での事をノリに全て話した。　

「……凪の口から、聞くのが怖かったんだ。　
俺は……知らないうちに凪を傷付けてたんだな。」　

ぽつりと漏らすと　

ノリはワインを一口飲み、グラスを置いた。　

「お前……まぁいい。」

何かを言い掛けたが辞め
俺の肩に手を置くと

「明日、凪が来たら普段通りにしてやれ。　

それが凪のためだ。」　

そう言って笑った。　

ノリに話せて良かったんだと思う。　

「…ああ、そうするよ。」

笑い返すと、この日は朝方まで二人で飲み明かした。

「お早うございまーす。」

次の日。　

出勤すると店内に　
ピアノの音色が響いていた。　

凪が来ている。　

俺は少し安心した。

そして、いつもの様に　

「お早う、凪。」　

笑顔で凪に声をかける。　

「お早う、優輝。」　

凪も普段通りに接してくれた。　

大丈夫…。　

そう心の中で思った。

「あ!!凪ー!!｣　

出勤してくるなり　
淳也が凪を見つけ、走ってきた。　

｢おはよー、淳也。｣　

凪の様子が気になったが、笑顔で淳也に話す凪。　

その姿に正直、ホッとした。

｢お早う!って凪ってばぁ!心配したんだからねー!｣

凪に抱きつく淳也。　

抱きつかれている凪と目が合う。　

凪はただ　
俺に向かってピースをしてみせると　

｢ごめんって!あはは!｣

抱きつく淳也の背中を　
軽く叩いた。

前と変わらない態度の凪。　

そんな凪に　
俺は心の中でお礼を言う。　

でも…

この時の凪の決意を　

俺達は知る由もなかった…。

-マキトSide-　

｢えｯ………!?｣　

凪さんに呼ばれ、来ていたBARで　

僕はただ驚きを隠せずにいた。　

｢あはは、ビックリしすぎだって!｣　

そんな僕を笑う凪さん。

でもそんな凪さんの笑顔が、空元気なのを僕は知っている。　

凪さんが店に再び出るようになって　
もうすぐ半年が経とうとしていて　

この半年、凪さんはずっと空元気を演じている。

凪さんと身体を重ねてから…　

凪さんとはあまり話さなかった。　

だけど　

今日久しぶりに電話が鳴ったと思ったら…　

「……また、どうしてそんな急に…」　

やっと出た言葉だった。　

「うん……前から話は来てたんだけど、shinがあまりに居心地良かったから…」

今度は苦笑いをして話す凪さんの話に　
僕は真剣に耳を傾けた。

「……だけど、決心ついたよ。」　

少し俯いたあと　
凪さんは僕に笑いかけて　

「好きだって…言わせてもくれなかったんだ。」　

その笑顔があまりにも切なくて　

「……凪さん。」　

僕はただ　
凪さんの手を優しく握った。

凪さんが決めた…。　

「歌とピアノでのプロとしての道」　

その為に　
アメリカへ行く事。　

凪さんと離れてしまうのは嫌だけど　
それで凪さんが少しでも楽になるのなら…

「頑張って下さい。　
僕はいつでも凪さんを応援していますから。」　

胸の痛みをグッとこらえ　

凪さんに目一杯の笑顔をしてみせた。　

「……ありがと。お前には…いつも感謝してたよ。」

凪さんの手が、僕の頭を撫でる。

ねぇ…凪さん??　

あなたとまた会えた時　

僕は伝えてもいいですか??

『あなたの事が大好きでした。』と…。　

手の温もりを感じながら　僕は心の中で
凪さんに問いかけた。

誰か読んでくれていますか

読んでますよ♪
面白いです！

私いつもよんでます!!
前のもみてました!!
頑張ってください!!

コメントありがとうございます

　
凄く嬉しいです

頑張って書きますので

ヨロシクお願いします

208>>>から。　

凪さんが日本を発ったのは　

それから１ヶ月後だった。　

桜の中で　
笑って手を振った凪さんは　

僕の知っている凪さんの中で一番、綺麗に見えた。

-淳也Side-　

桜が咲き始めた頃。　

僕たちスタッフに　
凪が店を退店する事が改めて知らされた。　

この日は　
凪の送別会として　
店が凪のお客様でいっぱいになっていた。

凪のピアノね音色。　

凪の歌声…。　

それがこのお店で聞けるのも、今日で最後。　

僕たちは、それを胸に焼き付けるように　
仕事をした。

だけど…

あの日、凪が退店する事を知った日…。　

今から数日前だった。

「えｯ…?うそｯ!?｣　

まだ誰も来ていない店内に僕の驚く声が響く。　

そんな僕の目の前で　
苦笑いを浮かべているのは凪。　

いつもより僕が早く出勤していたこの日…

「おはよう!凪ぃ!｣　

相変わらず、誰よりも早くきてピアノに向かっている凪に声をかけた。　

｢おはよー、淳也。｣　

凪は僕に笑って答える。

今日はまだ誰もきてないし♪　

そう思った僕は　

「ねぇ、凪!あれ弾いてよ!｣　

曲のリクエストをお願いした。　

｢いいよ。あれね。｣　

凪も心よく頷いてくれて、僕が耳を澄ますと　
大好きなラブソングが凪の指によって奏でられる。

僕はそれに聞き惚れていた。　

｢ありがとー!相変わらず凪の歌とピアノは凄いよ!!｣

曲が終わったあと　
興奮気味に僕が凪に言うと　

｢はは、ありがと!｣

照れたように凪は笑った。

だけど　

｢でも練習の邪魔しちゃってごめんね??｣　

僕が凪に謝ると　

｢いいよ。淳也のリクエスト弾けるのも、これで最後だと思うから。｣　

凪は笑って言ったけど、僕は凪の言葉の意味が掴めなくて　
首を傾げてみせた。

すると凪は　
何だか困ったような笑顔を見せて　

｢俺ね…店、辞めるんだ。｣

凪の言葉に　
僕はただただ、驚きの声を上げた。　

そんな僕の頭に　
凪がそっと手を置く。

真っ直ぐ僕を見つめた凪に視線を合わせると　

｢ピアノ…やるために、アメリカに行く事にしたよ」

ゆっくり話し始める凪。　

凪にスカウトがきてたのは前に知っていたけど…　

「応援、してくれるよな?｣

凪の真剣な表情に、僕は凪がいっぱい考えて決めたんだって分かった。

だから…　

「凪が……居なくなるなんて…でもｯ、僕応援する!!寂しいけど…応援するから!!｣　

凪のスーツの裾を掴み　
精一杯伝えたのに　

｢ばか…泣くなよ。」　

泣いてしまった僕を　
凪は笑って　

涙を拭ってくれた。

だけど…　

思えばこの時から　
僕は気付いていたのかもしれない…　

凪の決意の理由も　

優輝の変化にも……。

-凪Side-　

ずっと迷っていた。　

優輝のとなりに居たくて…

断り続けてきたスカウトの話。　

だけど…　

精一杯、考えて出した結果だった。

「お前…店辞めるって　
　　　　　　　本当か??｣

オーナーに退店する事を伝えた翌日　
ノリが俺に尋ねてきた。　

「うん……本当だよ。」

ノリに笑って見せると　
俺の前にあった椅子に腰掛けるノリ。　

まだ開店までは時間があり、この時店内には　
俺達だけだった。

「スカウト、受けたのか?｣

それに俺が頷くと　
ノリは小さなため息をつき　

｢……優輝の事は??｣　

ノリの言葉に　
苦笑いをして見せる。　

そして、ノリに考えていた事を全部話した。

優輝の側にいれば　
俺はきっと想い続けてしまう…　

伝える事さえ、許してくれないこの想いを　
俺はどこに閉まえばいいのか…　

そして考えて出た結果が　

優輝から離れる事だった事を…

ノリはただ　
黙って俺の話に耳を傾けていた。　

「……最近じゃ、優輝の笑顔を見るのも…苦しい。　

ははｯ、俺なんか逃げるみたいだよな。」　

笑ってみたけど　
自分で言って苦しくなった胸を押さえた。　

そんな俺をノリは　
そっと両腕で包み込んでくれた。

そして　

「俺は…お前の決めた事、逃げだなんて思わねーから……頑張ってこいよ。」　

ノリの言葉に　
ノリの温もりに　

俺の苦しかった胸が　
溶かされた気がした。　

「ありがと……ノリ。」　

自分の出した答えに　
自信が持てた、瞬間だった。

だから…　

日本を発つまで後２日。　

最後の出勤。　

俺の為に集まってくれた人達に　

優輝、ノリ、マキト、淳也…みんなに。

最高の音色と歌を聴かせたくて　

俺は心を込めて　
ピアノを弾いていた。　

店で弾く…最後のピアノ。　

店で過ごした、沢山の思い出が俺のピアノから溢れているようだった。

「今まで、お世話になりました。」　

閉店後。　

従業員みんなに頭を下げ、挨拶をする。　

みんなの顔を見渡すと　
ここで過ごした日々の思い出が　

楽しかった記憶が　
溢れてきて、俺は思わず涙を流した。

「凪ぃ～、おづがれざまぁ!」　

そんな俺を見て、泣き出した淳也が花束をくれる。　

｢ありがとう…淳也ｯ。」

思わず淳也に抱きつきハグをすると　

マキトやノリ、優輝も　
俺達を囲むようにして　
抱きついてきた。

「ありがとうｯ…みんな!」

この店で過ごした日々。　

みんなとの思い出。　

俺はずっと　
忘れないから……。

-優輝Side-　

凪が…店を辞める。

それを知ったのはほんの数日前。

寂しそうに淳也が俺に話した時だった。　

凪本人からは　
何も伝えられていなかった俺は　
なかなかそれを受け入れる事が出来ずにいた。

店から　

凪が居なくなった時の事を想像すると　

胸の奥に　

まるで穴が空いたかのように思えて　

ただ…凪には何も聞く事もできずに　
気付けば俺は目で凪を追ってばかりいた。

「お早うございまーす。」

凪の最後の出勤日。　

店に入ると聞こえてくるピアノの音。　

この音が聞こえてくるのも今日で…最後。　

そう思うと何故か切なくなった。

店内を見渡すと　
まだ皆来ていない様子で　

凪と俺だけだった。　

目を閉じて、凪のピアノに耳を澄ます。　

その音色に　

俺は自分の瞳から流れるものを感じた。

｢優……輝??｣　

俺に気付いたのか、ピアノの音が止まり　
凪が驚いたような顔をする。　

だけどすぐに　

｢どうして…泣いてるんだ…?｣　

俺にかけより、頬に手を伸ばした。

自分でも…
なんで泣いてるのか分からない。　

ただ…　

「今日で……最後、なんだな。」　

涙を拭うと、凪は俺の涙の理由を勘違いしたのか　

「俺が店を辞めるのは……決してお前のせいなんかじゃないから…」　

そう言って、困った様に笑う。

そんな凪を…

「ｯ優輝…??｣　

自分でも　
気付かないうちに、抱き締めていた。　

この店で、凪と出会い　
ずっと一緒に働いてきた。　

一緒に成長してきた。

楽しかった事も…
たまに揉めたりした事も…

凪との色々な思い出が　

俺の胸の中に溢れてくる。

いつも共に笑い合っていた凪…

「…ありがとう。凪。」

抱き締め、伝えたあと　
凪を見つめると　

凪の目からも　
涙が零れていた。　

二人で静かに泣いた。

そして…　

「行っちゃったね、凪…」

空港の屋上。　

淳也が寂しそうに呟く。　

「……大丈夫。きっとまたいつか会えますよ。」　

そんな淳也にマキトが笑いかける。

「応援、してやろーな!?｣

ノリが俺の肩に腕を乗せながら笑った。　

｢そうだな…」　

それだけ返すと　
俺は飛んで行く飛行機を　

小さくなるまで見送った。

ただ…　

最後に抱き締めた　
凪の温もりが　

あの感触が…

俺の身体に残っていた。　

俺はまだ…その理由に気付く事なく　

空を見上げていた。

-ノリSide-　

街に秋風が吹き始めた頃…

凪が日本を発ってから　
少し淋しかった店も、前の賑やかさを取り戻していた。

相変わらず、この店のNo.1を保っている俺は　

ホッと胸を撫で下ろしていた。

相変わらず、笑い合っている優輝と淳也。　

凪が居なくなって、元気のないように見えたマキトも　

最近じゃ前のようにドSっぷりを発揮できるようになっていたから。　

だけど…　

「おはよーっす。」　

この日から　
また…誰かが、誰かを想い　

誰かが傷つく事になるなんて…　

思ってもいなかった。　

俺が出勤すると、店にはもうすでに淳也と他のスタッフが数人集まっていた。

「おはよーｯノリ!!
　　ねぇ②!これ見てよ!｣

淳也が手に何かを持ち　
俺に駆け寄る。　

そして手に持っていたモノを　
俺の目の前に差し出した。

｢ん～??CDか…?｣　

差し出された真っ黒のCDケース。　

｢ここｯ!!読んでみてｯ!!｣

興奮気味に　
淳也はそのケースの端にある白い文字を指差した。　

淳也に言われた通り、その文字を読んでみる。　

《lovin´you……

From………》　

｢N……A……GI……って　
　　　　　　　凪っっ!?｣

あまりに驚いた俺は、思わず淳也の手からCDケースを奪い取った。

｢そう!!もうビックリでしょ!?　
昨日偶然CDショップに寄ったんだ!!そしたら!!｣　

さっきより興奮気味に淳也が話す。　

｢すっごいんだよ!!
注目アーティストって大きく宣伝されてて!!｣　

大きな瞳をキラキラさせる淳也。　
俺も嬉しくなり、一緒にはしゃいでいた。

それから
出勤してきた優輝とマキトに　

「｢じゃーんｯｯ!!｣」　

淳也と二人、凪のCDを見せた。　

二人とも　
俺と同じような反応を見せ、４人で閉店後CDを聞こうと約束を交わした。

だけど…

この時俺は、ある人物のちょっとした変化に　
気付いていた。　

俺の中に芽生えた　

《不安》　

その不安は　
CDを聞き終えたあと　
的中した。

「凪さん……凄い。」

マキトが感動し、呟く。　

「うん!…凄い、凄いよ!
凪…前よりずっとパワーアップしてる!!｣

口に両手を当てた淳也も　歓喜の声を上げた。　

凪のピアノ　
凪の歌声は、切ないラブソングを奏でていた。

二人が感動する中　

俺は気になっていた人物に目を向ける。　

何て…
表情(ｶｵ)してんだよ…。　

その人物を見て　
俺の胸はギュッと締め付けられた。

眉間にシワを寄せて　
まるで泣きたいのを我慢しているかのような……

愛しい人でも見つめるかのような視線で　

CDケースを見つめる　
切なすぎる表情(ｶｵ)。

そんな優輝を見つめて　

俺は…　

どうか、この表情の意味を　

淳也にだけは気付かれないでほしい…　

優輝自身にも…気付いて欲しくない…　

凪の決意が意味の無いモノになってしまわないよう　
俺は心の中で願った。

-優輝Side-　

なぁ…凪?　

お前が日本を発ってから　俺の周りの景色は変わらないはずなのに　

変わったように思えてしまうのは　

何故なんだろう……。

「優輝?美味しい?｣　

淳也の作った料理を　
一口食べると　
淳也が俺に尋ねてくる。　

｢ああ、美味いよ。｣　

笑顔で答えると　
嬉しそうに笑う淳也。　

そんな淳也を、相変わらず(愛しい)と思った。　

それなのに…

出勤すと　
淳也とノリが二人して　
俺とマキトに差し出した。　

一枚のCD…　

それを見て、始めは驚いたが　
すぐにそれも喜びに変わった。　

ただ…

喜びの反面　
凪の存在が凄く遠くに感じた。　

閉店後。　

店のレコーダーに凪のCDを入れる。　

静かに…店全体に流れるピアノの音色。

久しぶりに聴く　
凪の音色。　

それに目を閉じ、耳を澄ます。　

そして…　
凪の歌声が響いた瞬間…

凪の笑顔、凪の泣き顔。　

俺が見てきた　
凪の姿、全部が俺の中で　鮮明に思い出された。

凪の歌声は前よりもはるかに甘く…　

切なかった。　

（凪………。）　

その甘い声に　
俺の胸はギュッと締め付けられ

俺は胸を押さえ心の中で　小さく名前を呼んだ。　

そして　
曲が終わる頃…　

ただ　
凪に会いたい。　

そう思う自分がいた。

何故　
自分がそう思うのか…　

分からず　
ただ真っ黒なCDケースを　見つめていた。

-マキトSide-　

凪さん…。　

あなたは離れた今でも　

まだあの人の事を　

想い続けているんですね…。

淳也さんの差し出した　
凪さんのCD。　

それを見た時　
僕は飛び上がりたい程に　嬉しくなった。　

凪さんが　
頑張っている証拠。　

それを手に持った僕は　
閉店が待ち遠しかった。

だけど…　

あなたの歌を聞いた時。　僕はすぐに気付きました。　

この歌の意味。　

あなたが誰を想って　
歌っているのかを……。

でも…
この時の僕は　

久しぶりに聴く　
あなたの声にただ溢れ出そうな涙を　

堪えるのが精一杯だった。

「作詞、作曲……

　　　　　NAGIか……。」

みんなで凪さんの歌に感動したあと　
一人アパートに帰った僕の手には、途中で買った凪さんのCD。　

僕はそれをレコーダーに入れ、静かにスイッチを押した。

凪さんのピアノの音色。　

甘い歌声…　

その歌声に合わせて　
歌詞を目で追った。

《その声は今でも　

僕じゃない…誰かの名前　　　　　　　呼んでるの?

何処にいても　
何をしていても…

僕は願う。　

lovin´you　　
　きっと　いつかキミと…

叶うはずもない願いを今日も抱え　

lovin´you
キミだけ　想ってる》

凪さんの想いが溢れてる歌詞…。　

僕は苦しくなった。　

切なくて
凪さんの歌う「キミ」にさえ嫉妬してしまう…　

だから
あの日の凪さんの香りを探すように　
僕は枕に顔を埋めた。

凪さん…　

あなたはきっと　
これからも　

あの人を想い、歌い続けるんでしょうね…。　

そして　

その度に　
僕はこうやってあなたの香りを探し　
静かに泣く…。

あなたの歌は…　

僕の想いに似てる…。

だから　

僕はあなたの歌に　
想いを重ねて　

切なくなる。

-淳也Side-　

優輝が…いない。　　

秋風も冷たさを増した頃。　

僕の隣で毎日見せてくれる笑顔。　

前と変わらないはずなのに…　
最近、思うんだ。　

優輝の心はいま…
　　　　　何処にいるの??

「凪くんのCD、買っちゃった!!｣　

そう言ってくれる　
お客様が、最近多くなって　

僕は素直に嬉しかった。　

だんだん有名になっていく凪。　

だけど　
その中で僕は　
もうずっと優輝に違和感を感じていた。

｢ねぇ、ノリ?
　最近の優輝、少し変だと思わない??｣　

その違和感が　
何か知りたくて、僕はノリに尋ねてみた。　

だけどノリの答えは　

｢……いや。何も感じないけど?｣　　

そんなノリの返事に　
僕だけが感じてるのなら　

僕の勘違いかと思った。

でも…　

僕は見てしまった…。　

「……クチュンｯ!!｣　

｢大丈夫?風邪か?｣　　

くしゃみをする僕に　
一緒にベッドで寝ていた優輝が心配そうに毛布をかけ直してくれた。

｢もう冬も近いし、気を付けろよ?｣　

そう言って、優しく頭を撫でながら　
僕の身体を包む温もり。　

僕は　
それが気持ちよくて　

目をそっと閉じた。

｢ん………。」

いつの間にか　
寝てしまっていた僕。　

少しだけ　
寒さを感じた僕が　
ゆっくり、目を開けた時…

隣にいるはずの　
優輝の姿がみえなくて　
僕は静かにベッドを出た。

リビングへ向かうと　
そこに優輝の姿を見つけたのに　

僕はただ　
その場で立ち止まってしまう。　

部屋に小さく流れるメロディ…　

優輝はそれを聴きながら　座っていた。

普段なら声をかけていた。　

でも…　

優輝がCDケースを手に　
天井を仰いだとき　

はっきりと見えた。　

頬を伝う涙。　

胸の中で　
何かが騒ぎ出した時。　

僕はその理由から　

目を反らした。　

信じたく…無かったから。

優輝に感じた違和感。　

優輝の流す涙。　

ただ　

僕は静かにベッドに戻り、無理やり瞼を閉じた。

優輝の中にいる…

《凪》

という存在。　

それを知ってしまった事を後悔しながら…。

-優輝Side-　

この胸の中にある　
想いは一体何なのだろう…

いま隣にいる愛しい人の温もりが　

時々…あいつの温もりを思い出させる。　

それを隠したまま　
ただ　
過ぎていく季節を感じていた。

スーツに着替え、上からコートを羽織り店に向かう。　

季節はもう冬を迎えていた。　

「お早うございます。」

いつもの様に店内に入る。　

「え……?｣　

店に入るなり、俺はステージへと急いだ。

まだ数人しか集まっていない店内に…　

もう聞こえるはずのない　ピアノの音色。　

もしかして…　

「あ!お早う!　
　　　　　　　優輝!!｣

ステージにたどり着いついた時、音色を奏でていた人物が俺に笑う。

｢あ、ああ……
　　　　　　お早う。」　

一瞬…　
少しでも、もしかして…なんて思った。　

そんな自分に　

俺は自分自身、がっかりした。

「凪の真似して弾いてみたんだけど…
僕にピアノは向いてないみたい。」　

そう言って、苦笑いをしながら舌を出してみせる淳也。　

「そっか……それは残念だったな。」　

そんな淳也の頭を撫でてやると　
俺の胸には　

何故か罪悪感が芽生えた。

どうして…　

凪が弾いてるかもしれない。　
なんて　

一瞬でも思ってしまったんだろう…。　

俺は…
何を期待していたんだ…?

もう凪が…　

この店で　
このステージで　
演奏をするなんて事　

あるわけないのに…。

それに…　

「えｯ??…優輝??｣　

俺の愛しい人はこいつなのに…　

抱きしめると、淳也は驚いたように俺の名前を呼ぶ。　

「……抱きしめたくなっただけ。」　

そう淳也の耳元で呟いた。

その温もりは　
確かに淳也のもので　

俺の中に　
生まれた罪悪感を消したくて　

抱きしめる腕に　
そっと力を込めた…。

-ノリSide-　

あいつの決意が　

意味の無いモノにならないよう…　

そう願った。　

そんな俺の願いは　

冷たい冬の風に　
攫われていった……。

「お前ｯ……。」

閉店後の更衣室。　

ソファーに座り、俯き加減に優輝が放った言葉。　

俺はそれに　
言葉を詰まらせていた。

優輝が自分自身の想いに気付かないように…

そう願ってから　

相変わらず、淳也と笑い合う優輝を見ていて　

心の何処かで安心していた。　
それなのに……

｢なぁ…ノリ。」　

更衣室、淳也もマキトも先に帰り　
珍しく、優輝と２人きりになった時だった。　

「んー?なにー?｣　

俺が返事をすると　
優輝はゆっくりとソファーに腰掛けた。　

そして　

｢……最近、自分自身がなにを考えてんのか分かんねーんだ。」　

ぽつりと呟く。　

その言葉に　
俺はまさか…と思いつつも、優輝の隣に座る。　

「何が…分かんねえの?｣

優輝に視線を向けると　
地面を見つめていた優輝が顔を上げ

｢……淳也と居ても、　　時々、凪の事が頭の中に浮かぶんだ…。」　

そう言って、困ったように眉をさげた優輝は　
小さく笑った。　

この事を聞いた瞬間。　

俺は言葉を詰まらせてしまった。

「…淳也が隣に居るときでも、気がつけば…考えてるのはいつだって…

　　凪の事ばかりでさ…」

言葉が出ない俺をよそに　優輝はゆっくりと話す。　

優輝…
お前、それは……。　

「どうして、なんだろうな…。」　

小さく呟やく優輝。

俺が口にしてしまえば　
優輝は自分の気持ちに気付いてしまう。　

自分の想っている人が…
誰、なのか。　

このまま…　
気付かない方がいいのかもしれない。

俺がそう思った時　

｢なん…ですか。それっ」

いつから、俺たちの話を聞いていたのか　

更衣室に俺たち以外の声が響く。　

その声の方に視線をやると、俺は焦るのを隠し切れなかった。

「今の話は何なんですか!優輝さん!!｣　

真剣な顔で　
優輝の前に立つ　

……マキト。　

「何って……」　

戸惑いながらマキトを見上げる優輝。　

「淳也さんが居るのに、凪さんの事を考えてしまうなんてｯ!そんな……!!｣　

｢やめろ!!マキト!!｣　

マキトが次に言う言葉が分かった俺は　

まずい。　

そう思い、マキトを静止しようと声を張り上げた。

しかし　
マキトにはそんな俺の思いは伝わる事なく　

｢そんな…それじゃまるで凪さんの事!

好きって言ってるようなもんじゃないですか!!｣　

目に涙を溜め　
優輝に言い放つマキトを　

俺にはどうする事も　
出来なかった。

優輝は目を見開き、驚いていた。　

気付いてしまった…　

俺にはもうどうしようもない…。　

ただ　
俺は２人を見つめていた。

-マキトSide-　

どうして…

どうして今更　

あなたは　

あの人の想いに答えるような事　

言うのですか…?

店に忘れモノをした事に気付き　

僕は店に戻ってきた。　

だけど　

忘れモノを取ろうと更衣室を覗いたとき　

優輝さんとノリさんが何やら話し込んでいて　
その２人の雰囲気に、僕は引き返そうとした。

でも…　

《凪》　

優輝さんの口から　
あの人の名前が出たとき　

僕は何故か足をとめてしまった。　

聞こえてくる…　

２人の会話。　

その会話を聞いてしまった僕は　

自分でも気付かないうちに優輝さんの目の前に立っていた…。　

苦しくて…　
苦しくて…

「俺が……??
　　　凪のこと……」

驚き、困惑している優輝さんを前に　

僕の口は止まらない…。　

「凪さんは……ｯ凪さんは!あなたをずっと想って泣いていたんです!!｣　

凪さんが　
僕の前で流した涙も　

僕の身体を抱きながら呟いた名前も　

全部、優輝さんの事だったのに…!!　

｢あなたを想って、傷ついてｯ泣いてｯ……それなのにあなたはｯ!!｣　

涙が止まらない…　

ただ　
苦しかった。　

「あなたがｯ!あなたが凪さんを離したんじゃないですかｯ!!!｣　

苦しくて、くやしくて…

もっと早く　
優輝さんが自分の想いに気付いていたなら…　

凪さんはきっと…　

今でもココで　
この店でピアノを弾いて　

笑っていたはずだったのに…!!　

それが例え　
僕の隣じゃなくても　

僕は　

凪さんと一緒に居たかった…。

「……マキト。」　

ただ泣いて、拳に力を込め優輝さんの前に立つ俺の肩を　
ノリさんが支えてくれたから…　
僕は溢れる涙を流し続けた。

-優輝Side-　

この想いが何なのか…

今はっきりと気付かされた。　

だけど　

気付いた今…　
もう遅いという事を　

思い知らされた。

「…今更気付くなんて　　　あなたはズルいです…」　

目の前で　
涙を流していたマキトが小さく呟いた。　

その言葉から　
マキトの想いが伝わってくる…　

マキトも…凪を…。　

胸が酷く苦しくなるのを　俺は感じていた。

だけどマキトに何を言っていいのか…　

「……すまない。」　

今の俺の口からは　
こんな言葉しか出てこない。　

「……もう、誰も…
　傷つけないで下さい。｣

マキトが最後に口にした言葉。　

それが　
俺の胸に突き刺さり　
感じていた胸の苦しさが増した。

あの時…　

何故、凪の想いを聞くのが怖くなったのか。　

今になって　
はっきりと分かった。　

俺は…　
自分の想いが、淳也への想いが間違いない。　
そう思い込もうとしていたのかもしれない。　

だけど　

本当は…もうずっと前から…凪を想っていたんだろう。

一緒に居すぎて　

近すぎて…　

凪が居なくなって　
ようやくこの想いに気付くなんて…　

凪を傷つけていた事を　
俺は後悔した。

それと同時に　

淳也の顔が浮かぶ…。　

「俺は……今度は淳也まで傷つけようとしてるんだな……」　

一人の暗い部屋に　
俺の声が小さく響く。　

淳也に対して　
どうしようもない罪悪感が芽生え　
胸が傷んだ。

淳也への想いは　
本物だと思っていた。　

なのに…　

自分の気持ちに気付いてしまった今　
俺はどうすればいいのだろう…　

もう…　
誰も傷つけたくない…。

ソファーに保たれた身体が重い…。　

俺は　
なんて馬鹿なんだろう…

考えても、考えても　
答えの出ないまま　
明けていく空を…ずっと見つめていた。

誰か読んでくれていますか

読んでます

頑張ってください

あむ様

我が輩様

　

ありがとうございます

テンションあがりました

更新します

327>>>から。　

｢昨日は少し言い過ぎました。でも…僕、謝りませんよ?｣　

次の日。　

出勤するとマキトが話しかけてきた。　

マキトの言葉に　
俺は少し間を置いて　

「ああ……逆に、お前には感謝しているよ。」

そう言って小さく笑って見せると　
少し驚いた表情でマキトが俺を見上げた。　　

「ごめんな…。お前の気持ちにも気付かずに俺は…」

俺の言葉に　
マキトの表情が変わっていく…　

そして　
小さく首を横に振った。

そんなマキトの頭にそっと手を置き　

「ほんと…自分がどれだけ凪を傷つけていたか…だからマキト、ありがとな。気付かせてくれて…」

そう言ってマキトに視線を合わす。　

マキトは泣きそうな表情でもう一度、首を小さく横に振った。

それから小さな声で　

「……すみません。」

呟いた。　

俺はただ　

マキトの頭に置いた手で　そっと髪を撫でた。

気付けて、良かった…。

じゃなきゃ俺は　
また知らないうちに　
誰かを傷つけていたかもしれない…。　

「あ!優輝ぃ、マキト!
　　おっはよーう!!｣　

何時ものように笑った淳也が俺達に駆け寄ってくる。

その淳也の姿に　
俺は…　

こいつを傷つけちゃいけない。　

もうこれ以上…
誰かを傷つけるなんて…

そう思った時　
俺は　　

静かに胸の中で
覚悟を決めていた。

-淳也Side-　

誰かを想うことで　

誰かが傷つく。　

ねぇ…　
僕はキミが隣に居てくれるなら　

そんな傷、屁でもないよ?

例えキミが　
他の誰かを想っていても…

優輝の中の《凪》の存在を知ったとき　

僕は悲しくて一人の時は　毎日泣いていた。　

でも…
それでも、優輝の隣に居る事が僕の幸せだから…

「優輝ぃ!?明日のランチ、何がいいー??｣　

何も知らない。　

そう言い聞かせて　
僕は優輝に接した。　

｢んー…淳也の食べたいヤツでいいよ。」　

そう言って笑う、優輝の笑顔には　
まだ違和感を感じるし、慣れないけど…。

「えー!!それじゃ困るよぅ!まぁ…でもオムライスにしよっ♪」　

それでも僕は　
自分に言い聞かせる。　

大丈夫…。　

お店の帰り道。　

優輝との他愛もない会話。　

それを守りたかったから。

僕が　
このまま、優輝の中の　

《凪》を　
知らないふりをし続ければ　

僕はずっと　
優輝の隣に居られる。　

そう思い、毎日笑顔を優輝に送った。　

そんな僕に　
優輝が笑ってくれる。

そんな日々を　
守っていける。　

ずっと　
優輝と続いていけるって
そう思っていた。　

だけど　
僕は全然知らなかった。

優輝が…　

少しでも　
僕を傷つけまいと　

選んだ答え。　

それを知る事になったのは…　

凪が居なくなってから　
丁度、１年目の春だった。

-ノリSide-　

誰かを傷つけるくらいなら一人になった方がいい…。　

そう呟いたあいつを　

引き止める事なんて…　

俺には出来なかった。

「えｯ!?…優輝さん、が?｣

行き付けのBARの中。　

マキトが驚きの表情で　
俺を見つめる。　

｢……僕が、僕があんな事言ってしまったから…」

そう言うと俯くマキト。

「いや、それは違うな……あいつ、お前には感謝してるって言ってたんだぜ?｣

そんなマキトの肩に　
俺はそっと手を置いた。　

あいつは　
あいつなりに考えたんだろう…　

せめて　
少しでも淳也を傷つけまいと…

「あいつ、言ってたよ。　もう…これ以上淳也のそばに居ても傷つけるだけだって…」　

あいつの出した答え。　

「……あいつなりに出した答えだ。理解してやろうぜ??マキト…」　

マキトの顔を覗き込み　
笑ってみせると　

少し間をおき　
小さく頷いた。

「…もう淳也の隣には居られない。」　

数日前の休みの日。　

家に訪ねてきた優輝が　
呟いた言葉。　

「…どうするつもりだ?｣

この時　
俺の勘はすぐに働いた。

俺に何を話しに来たのか。　

俺の問いかけに　
優輝は少し間を置いたあと　

｢淳也を…傷つけてしまうのに変わりはないのかもしれない…」

静かに話し始めた。　

淳也を傷つけてしまうのに変わりはない。　

でも　
このまま一緒にいる事だけで　淳也を傷つける。

優輝の話に俺はただ耳を傾けた。　

「でも…もし少しでも、少しでもいいから　
淳也の傷が…深くならないように…」　

優輝の手に力が入るのが　俺には分かった。　

どれだけ　
優輝が悩み、考えたのか　

それが伝わってくる。

「だから……俺…」

その言葉の続きが　
俺には分かっていた。　

優輝の出した答え…　

「……この街を　
　　出る事にしたよ。」

優輝の答えに　
俺は小さく頷いた。　

引き止める事なんて…
出来るはずがない。

「…行くとこは、もう決めたんだな?｣　

俺の問いかけに　
優輝はゆっくりと首を縦に振る。　

だけど　

｢……淳也には、言わないで出ていくつもりだ。」

それを聞いた時、俺は　

「お前ｯ言わないってそれじゃ…」　

もっと淳也を傷つける事になる。　

そう口にしようとしたけれど　

「分かってる。…だから」

それを優輝はさえぎり　
俺の前に何かを差出した。

「だから……俺が居なくなった時、ｺﾚを…お前の手から淳也に渡してほしい…」

そう言った、優輝の手には白い封筒が握られていた。　

「頼まれて…くれないか?｣

俺の顔を見つめる　
優輝の真剣な眼差し。

それを見た俺は　

ただその封筒を受け取る事しかできなかった。　

きっと　
淳也ならｺﾚを見たとき　
分かってくれる。　

見つめた優輝の目が　

そう言っているようで…。

-優輝Side-　

どうか…　
こんな俺を許して…　

今の俺に
出来る事といえば　
お前をこれ以上傷つけないことだから…　

今までありがとう…。

「…元気でな。」　

春風が頬を掠めた夕暮れ時。　

空港まで送ってくれたノリが手を振る。　

「ああ、…ノリ、淳也のことよろしく頼むな。」

それだけ言い残し　
俺は今日、住み慣れた地を離れる。

「お疲れ!優輝。　
　　　明日さぁ……」

店の帰り道。　

いつものように　
淳也と肩を並べ歩いた。　

俺には最後の出勤日。　

みんなには　
伝えていなかった。

何も知らない淳也は　
明日のランチは何がいいか、いつものように俺に尋ねる。　

淳也の笑顔に　

胸が痛む。　

でも…これでいい。　

自分に言い聞かせた。

「そうだな…お前の作るモノなら何でもいいよ?｣　

優しく淳也の頭を撫でる。　

淳也は嬉しそうに笑って　

｢じゃあ優輝の好きなパスタにするねｯ!｣　

俺にピースサインをしてみせた。

淳也…。　

今の俺には　
お前を傷つけない自信がない…。　

でもどうか…

俺が居なくなったとしてもその笑顔を　

絶やさないで…。　

そう願いを込め、ノリに渡した封筒。

きっと…　

お前なら　
分かってくれる。　

そう俺は　
信じてるよ。

「いただきます。」　

次の日。　

いつものように淳也のアパートでランチを食べた。　

最後の淳也との食事。　

「ほんと…うまいな。」

淳也に笑顔を向ける。

「ほんと?良かったぁ!｣

嬉しそうに　
笑顔を返す淳也。　

そして　

ランチを終えた俺は　

｢午後から、ノリと約束があるから…」　

淳也にはそう伝え　
空港へと向かった。

「いってらっしゃい!｣

そう言って俺を送り出してくれた　
淳也の笑顔を思い出していると　

｢……後悔、してるのか?｣

運転席でノリが問いかけてきた。　

｢いや……しないよ。」　

そう返事をして　
俺は窓の外を見つめた。

さよなら…　

これでいいんだ。　

お前が　
傷つかないように…　

ごめん…　
今までありがとう…。　

心の中で呟いて　
俺は遠くへ…出発した。

-淳也Side-　

キミの笑顔も　

キミの温もりも　

もう僕の側には無いけれど…　

僕はキミが
守ってくれたこの笑顔を　

ずっと絶やさないよ…。

ピンポーン……――。　

優輝が出ていって　
すぐにアパートのチャイムが鳴った。　

僕が玄関へ向かうと　

「淳也さん!!早く開けてくださいｯ!!｣　

扉を叩く音と共に　
慌てた声が聞こえた。

その声に　
僕は急いでドアを開ける。　

｢どうしたの!?そんなに慌てて…」　

息を切らし　
慌てるマキトの姿に　
僕が尋ねると　

「説明は後です!早く行かなきゃ!｣　

グイッと　
マキトに手を引っ張られ　僕は訳の分からないまま　着いていくしかなかった。

｢ねぇ、マキト?ドコに行くの??｣　

乗せられたタクシーの中。　

隣に座るマキトに尋ねる。　

｢空港です。｣　

さっきの慌てた姿と違って何やら険しい表情で　
マキトは答えた。　　

｢なんで空港に??｣　

そんなマキトを不思議に思いながらも　
何故、空港に行かなきゃいけないのかを聞いた。

だけど…　

「…優輝さん、今日この街を出るって言ってたんです。」　

マキトからの答えに　
僕はますます意味が分からなくなった。　

「え!?…もう、マキトってば意味わかんない!｣　

笑ってマキトの肩を　
軽く叩くけど　

マキトは僕を見て　
酷く悲しそうな顔をした。

そして　

｢…淳也さん。僕の話をよく聞いてください。」　

そう言って　
マキトは僕に話し始めた。　

マキトから　
いきなり告げられたのは　

優輝が　

店を辞めてこの街を去ること…。　

僕は一瞬、頭の中が真っ白になった。

「淳也さんには黙っとけって言われたんですが…」

僕の手を　
そっと握るマキト。　

だけど　

僕はすぐに今の話を理解することが難しくて…

ただ　
優輝が僕に黙って　
居なくなろうとしている。　

その事だけは分かって　

なんで…?
どうして……?

頭の中で　
こんな事ばかりを繰り返していた。

｢…優輝さん、言ってました。誰かを想う事で淳也さんを傷つけてしまうって」

隣で　
ぽつりとマキトが呟くように話した。　

淳也をこれ以上傷つけたくない…　

優輝の言葉をマキトが口にする。

その言葉に　

《凪》の事が頭に浮かぶ。　

優輝…　

僕はそれでも　　　　　　ただ優輝の側に居られれば　

それで良かったのに…。　

そう思ったと同時に　
僕は溢れる涙を止める事が出来なくなった。

「なんでｯ…」　

空港に入ると　
偶然にもノリと会った。　

ノリは驚いた表情で　
僕たちを見つめる。　

「ノリｯ!優輝、優輝は!?｣

泣きながらノリの身体を揺さ振るけど　

ノリはそんな僕の身体を包み込んだ。

｢優輝は…もう行ったよ。｣

ノリの言葉に　
僕は全身の力が抜けていくのを感じた。　

最後に…
顔さえも見れないの?　

いやだｯ…
そんなのヤダｯ…　

ノリの胸の中で　
声を出して泣いた。

優輝が　
もう居ない…　

僕に黙って　

ドコへ行ってしまったのかも分からない。　

「……淳也さん。」　

マキトも　
僕の身体を包むように　
そっと肩を抱いた。

その時　
ノリは僕から身体を離し　

「……淳也、これ。」　

僕の目の前に　
何かを差出した。　

涙でよく見えないそれを　僕の手に乗せたノリは　

「優輝から…だよ。」　

ノリを見上げると　
涙のせいでノリの笑顔が霞んで見えた。

手渡されたそれを　
涙を拭い見てみると　

そこには　
確かに優輝の字で　

僕の名前が書かれていた。　

その封筒を　
僕はゆっくり開ける。

中には　
一枚の写真が入っていて　

「なん…で…ｯ。」　

僕は思わず　
その写真を見て　
口に手を当てた。　

だって…　

あれは優輝と　
付き合い始めた頃だった。

「何してんの～??｣　

優輝の部屋へ初めて行ったとき　
優輝が何かを手にして　
大事そうに磨いていた。　

僕の問いかけに　

｢ん?カメラだよ。｣　

優しく笑うと　
カメラを僕に見せてくれた。

｢えーｯ!!凄い!!
優輝、写真撮んの!?｣　

僕が驚くと　
優輝は少し照れたように　撮った写真を見せてくれた。　

それはどれも綺麗な風景で僕が見入っていると　

｢昔からの趣味なんだ。｣

って教えてくれた。

そんな優輝に　

｢凄いなぁ～。ねぇ、僕も撮ってみてよー!｣　

はしゃいで　
お願いしてみたけど　

あの時優輝は　

｢残念、俺風景しか撮んないんだよね。｣　

って苦笑いになった。　

それでも僕はめげずにお願いしたっけ…

でも結局、優輝は僕のお願いを聞いてくれなくて　

撮ってもらえずに　
僕は諦めたのに…　

なのに…　

「風景しか……撮らないって言ったじゃん……。」　

僕の手の平にある写真。　

そこには　
いつ撮られたのか分からない…　

僕が笑っていた。　

そして　

その写真の裏には　
何か書かれていて　
僕はゆっくり写真を裏返し目を向けた。

ほんとは　
ショックだし　

怒りたい気持ちでいっぱいなのに　

泣きたい気持ちでいっぱいなのに…　

「優輝の…ばかｯ。」　

僕はその文字を読んで呟いた。

《淳也へ。　

黙って居なくなる事、許してほしい。　
お前の笑顔…
俺は確かに…大切だった。だけど分かってほしい。　
俺の出した答えを……今までありがとう。》

「こんな写真…見せられちゃったら…怒れないじゃんか…。」　

文字を指でなぞったあと　
僕はそれを胸に当てた。

優輝の出した答え…。　

それが僕の為に出した答えなら　
僕はそれを受け入れるよ。　

もう…会えなくても…

優輝が守ろうとしてくれた　
大切にしてくれたこの笑顔を…　

僕は　
絶やさないよう…
生きていく。

僕も…
今までありがとう。　

「ノリ!マキト!　
　　ほらっ!お店遅れちゃう!｣　

飛行機を見送ったあと　

僕は二人に笑顔で言った。　

優輝の　
大切にしてくれた　

笑顔で…。

-凪Side-　

自分で決めた道。　

だけど　

どんなに離れても　
お前はいつだって俺の中にいて…　

想いは消える事もなくて…

今日も俺は　
お前の事を歌にする…。

アメリカに渡って　

今、季節は　
日本を発った時と同じ春。　

この１年。　

優輝の事を忘れる事もできないまま　
俺はただ、優輝への想いをメロディーにのせる日々を過ごしていた。

会いたい…。　

優輝の笑顔が見たい…。　

何度もそう願い　
心が折れそうになった時もあった。　

でも　
毎日のレッスン。　
レコーディングや作詞。　

イベントに追われ、忙しく過ごす事で俺はなんとか自分を保っていた。

それに　

「ナギー!今度の新曲の事だけど!｣　

緑色の瞳をした小柄な男の子が　
楽譜を手に俺に駆け寄る。　

彼は俺より一つ下のセイ。　

セイは、俺がアメリカの事務所に入ってから　
ずっと俺のサポートをしてくれている仲間の一人。

まだ、英語もほとんど分からなかった俺に　
英語も教えてくれた。　

そんなセイとは　
仕事以外でも仲良くなった。　

今では一番の友達で　
セイや他の仲間がいてくれるおかげで　

俺はココで笑えるようになっていた。

｢ナギの書く詞はいつも切ないよねぇ。僕毎回泣いちゃうもん。｣　

楽譜に書かれた詞を　
セイが見つめながら言う。　

｢はは、セイは切ない系に弱いもんなー。｣　

セイの頭を撫でながら笑って見せた。　

この日は　

俺の新曲　
《U　and　ME》が完成間近に迫っていた。　

そんな中…　

「えｯ……?｣　

唯一　
日本を発つときに連絡先を教えていたノリからの何度目かの手紙を手に　

一人暮らしの部屋の中。　

俺は思わず　
声を出して驚きを隠せずにいた。

手紙に書かれた　

-優輝が　
　　店を辞めたよ-　

その一行に　

あんなに店を大切に思っていたはずの優輝がなぜ…。　

そう思った瞬間　

淳也は…?　

手紙を何度読み返しても　答えは何処にも書かれていなかった。

でも…　

もう俺には　
関わる理由もないのかもしれない…。　

そう思う事で　
俺は自分を納得させることしか　

出来なかった。

…………―――――。　

「ナギ!お疲れ様!｣　

新曲のレコーディングが終わった俺にセイが笑いかける。　

｢ありがと。セイもお疲れ様。｣

セイの頭を撫でると　
わくわくした表情で　
セイが俺を見上げ　

｢明後日からの撮影も頑張ろうねｯ!!｣　

とガッツポーズをした。

この時　
俺達には日本でのプロモーションビデオの撮影が決まっていた。　

場所は南の島。　

明日そこへ向かうため　
セイは張り切っている様子で　
それを見て、俺は思わず笑みが零れた。

機材を準備しはじめるセイ。　

｢頑張ろう!ヨロシクな。｣

そんなセイに　
同じようにガッツポーズをして見せると　

セイは嬉しそうに笑った。

だけど　

この時はまだ　
知らずにいた…　

この撮影で　

神様のイタズラに　
出会ってしまうことを…。

-優輝Side-　

誰かを想う事が　

誰かを傷つけてしまう事になるのなら　

俺は　

この胸にある想いを閉じ込め　
生きていこうと決めた。

｢いってらっしゃい。優輝くん。｣　

俺がカメラを手にすると　柔らかい笑顔で　
いつものように見送ってくれる男性。　

この人はカオルさんと言って、４０代前半の男性。　

そして　
ここは小さなペンション&カフェ。　

カオルさんはここのオーナー。

あの街を発って　
仕事探しのために偶然泊まっていたのが　

このペンション。　

カオルさんは、そんな俺にとても親切にしてくれ　

ある日　

「優輝くん。仕事が見つかるまでココで働かないか?｣　

とまで言ってくれた。

カオルさんは独身で　
これからの季節、このペンションは忙しくなるらしく　

初めは申し訳なくて　
断っていた俺も、しばらくこのペンションで働く事を決めた。　

こんな…見ず知らずの俺にカオルさんは深くは何も聞く事なく　
とても良くしてくれている。

それに…　

「これ、全部キミが撮ったのかい?｣　

俺が写真を整理していると横からカオルさんが、驚いたように言う。　

｢ああ、はい。でも素人なんで。｣　

俺が苦笑いを見せると　
カオルさんは大きく横に首を振った。

｢いや!これだけ撮れたら凄いもんだよ!｣　

そう言って俺の肩を叩くと　

｢キミが撮った写真を店に飾ってもいいかな?｣　

そう言ってくれたカオルさんに　
俺は素直に嬉しく思い　
首を縦に振った。

それから　

俺の撮った写真が　
ペンションやカフェに飾られるようになり　

俺はたまに　
こうしてカメラを手に　
外へ出る。　

たどり着いたこの町で　
カオルさんと出会えて良かった。

それに　

この町は景色が良い。　

緑もあり、穏やかで　

一番はエメラルドグリーンの海。　

白い砂浜。　

俺は、それを一枚一枚　
カメラに収めては　
カオルさんに見せる。　

そしてカオルさんの選んだ一枚を店に飾った。

この日も　

カメラを手に　
この町の海へ向かっていた。　

そこは　

夕日が海を染める時刻、とても良い写真が撮れる場所で　

俺の一番のお気に入りスポットとなっていた。

車を運転する中…　

この時　
もうすでに　

俺の心を揺るがす出来事が始まりを告げている事を　

俺は知らずにいた。

-ノリSide-　

運命なんてのは　
きっと…　

巡ってくるもので　

誰にも　

止められない…。

「僕ね…思うんだ。」　

店の帰り、淳也がぽつりと呟やいた。　

優輝が去ってから　
俺は、優輝との約束通り　淳也の側にいる。　

初めは心配していた俺も　笑っている淳也を見ていると　
少し安心できていた。

そんな淳也が呟いた言葉に　

「ん?どうした?｣　

淳也の頭を撫で　
訪ねる。　

淳也は俺を見上げたあと　

｢うん…あのね…。」　

小さな声で　

「優輝とね…凪は、繋がらなきゃいけないと思うんだ…。」　

そう言って　
眉を少し下げ、俺に笑ってみせた。　

そんな淳也を前に　
俺は思い出していた。

「……凪さんと優輝さんが寄り添う事が、僕の今一番の願いなんです…。」　

前に、マキトが俺に話してくれた想い。　

あの時のマキトは　
今の淳也のように笑っていた。　

２人共…　

凪への、優輝への想いは　まだ心に残っているはずなのに…。

こんな風に　
言える２人を　

俺は〈強い〉と思った。

２人の想いを　

俺は心で　
受け止めた。

「そうだな…もし、あの２人がまた出会えるとしたら…運命なのかもな。」　

そっと　
淳也の肩を寄せた。　

少しだけ　
震えているように感じた。　

こんな風に　
自分の好きな奴の幸せを　願うほどに　

想う気持ち。

この時　

俺は心から願った。　

そんな２人の想いが　

願いが届けばいい…と。

-凪Side-　

どうして俺達は　

忘れたくても　

忘れられない想いを　
胸に抱えて　

生きているんだろう…。

「はいｯ!カットォ!｣　

日本に着き　
PVの撮影が始まっていた。　

輝く海に　
よく映える夕日　

それをバックに　
俺は曲に合わせ　
歌詞を口ずさむ…。

優輝への想い…。　

何故か　
この町の夕日は　
一層それを切なくさせて　

瞳から雫が零れたとき　
監督の声が響いた。

「お疲れ様!ナギ良かったよー!｣　

今日の撮影が終了した時　セイが駆け寄ってきた。　

｢お疲れ様。ありがとな。｣

俺は零れた雫を拭き取り、セイに笑ってみせる。　

すると、セイは空を見上げた。

｢見てナギ。絶対今日は星が綺麗だよ!｣　

日の沈み始めた浜辺。　

セイの言葉に　
空を見上げると　

ぽつぽつと　
星が出始めていた。　

｢セイ。夜、散歩しようか?｣　

セイの頭を撫でると

｢うん!行きたい!｣　

元気よく頷いた。　

沈みかけた夕日　

ぽつぽつ光る星…　

この町の景色は　
不思議と俺を切なくさせる。　

そう感じながら　
セイと約束をし、ホテルへと一旦戻った。

「うｯわー!すごい!｣　

ホテルから少し離れた場所で　
セイが思わず声を上げた。　

さっき見た浜辺とは　
また違う。　

暗くなった浜辺は　
満天の星に照らされて　

｢綺麗…だな。」　

まるで　
宝石のような星達に　
セイと同じく感動した。

星空に　
しばらく見とれていると　

「ねぇ、ナギ。あそこに人がいるよ!｣　

俺の洋服の裾を引っ張りながら　
セイが指差した。　

その方向に目をむける。　

｢あの人、カメラ持ってる。きっとこの星空を撮ってるんだね!｣　

セイが言った瞬間。　

フラッシュの光りが見えた。

パシャｯ…　
パシャｯ…とフラッシュの光りが光るたび　

それが　
その人の顔を照らした。　

俺は　
ただ…　

その人に目を奪われていた。

一瞬　
俺の中で　

時が止まった。　

カメラを空に向ける　
その人が…　

あまりにもそっくりで…。

「………ゆう、き?」

そう口にした時　

｢…ｷﾞ……ナギ!?｣

｢えｯ…??｣　

セイが俺の腕を揺らした時、俺はやっと我に返った。　

俺を不思議そうに見上げるセイ。

｢どうしたの?　
　あの人…知ってる人??｣

そう言って　
首を傾げるセイに　

｢いや…知らないよ。　
　人違いしたみたいだ…｣

そう言って笑ってみせたあと　

｢そろそろ戻ろうか。｣　

ホテルへと引き返した。

｢まさか…居るはずないのにな…。」　

ホテルの部屋。　

一人呟いた。　

店を辞めた優輝が　
偶然、この町にいるなんて事あるはずない。　

でも…　

俺が見間違えるほど　
似ていたあの人が頭に浮かんだとき

こんなにも　
自分がまだ　

優輝の事を想っている事に　

改めて気付かされた。　

その日…　

俺は　
優輝の
夢を見た…。

-優輝Side-　

空を　
見上げると　

いつも想う事がある。　

遠いあの場所で　
今、同じように　

空を見上げていると　

いいのに……と。

「どうしたんだい??
　　　　　優輝くん。｣　

カフェのカウンターの中。　

カオルさんが　
俺の肩に手を置いた。　

それで　
俺はハッとし、カオルさんに顔を向ける。　

｢珍しいな。　
優輝くんがボーッとするなんて。｣　

そんな俺にカオルさんが笑いかけた。

｢あ、いえ…スミマセン。｣

俺はただ　
苦笑いを返す。　

この数時間前。　

知った出来事を　
俺はまだ信じられずにいた。

｢今日は見れるといいなぁ～。」

カフェに来ていた女性２人組の一人が　
ため息交じりに言った。　

おかわりのコーヒーを入れようと　
そのテーブルに来ていた俺は　

「どうかされたんですか?｣

と何気なく尋ねた。

だけど　

｢えｯｯ……??｣　

その女性の答えに　
思わずコーヒーを入れていた手が止まってしまった。　

｢お兄さん??知ってますか?｣

笑顔で俺に聞く女性。　

｢え、ええ…知ってますよ。いいですよね。」　

そう返事をするのが　
やっとだった。

そんな俺をよそに　

「あたし達大ファンでぇ、一目見たくって!｣　

｢日本に来るってきいて追い掛けてきちゃったんですー!｣　

楽しそうに　
会話を続ける女性２人。　

《今、あのNAGIが
　PV撮影でこの町に来てるんですよ。》　

俺の頭の中には　
さっき聞いた女性のセリフが　
流れていた。

凪が…

この町に来ている??　

驚きを隠せない俺。　

なのに　

胸は少しだけ苦しく　
そして小さく音を立てた。

｢なにかあったのかな??｣

心配そうに　
俺に聞くカオルさん。　

いつもなら　
こんな話をしない俺は　

何故か今は　

｢昔…一緒に働いてた奴が、この町に来てるみたいなんです…」　

カオルさんに呟くように　話した。

｢会いに、行かないのかい?｣

そんな俺に　
カオルさんが尋ねる。　

俺はただ　

｢…会いに、行けないんです。」　

そう言って　
カオルさんに笑ってみせた。　

カオルさんは　
そんな俺にこれ以上何も聞く事もなく
俺の肩に手を置いた。

カオルさんが　
これ以上何も聞かないでいてくれた事。　

カオルさんの　
さりげない優しさに　

俺は
胸を撫でおろした。

凪に　
会いたい…。　

そう思うほど　
自分の決めた想いが　

心の中で　
強くなっていた…。　

もう…誰かを傷つけたりしない。　

そう決めた。　
あの日の俺がここに居る。

-マキトSide-　

あなたへの想いが　

いつからだろう…　

願いに変わったのは。　

あなたがただ　
幸せになる事が…　

僕の幸せ。　

僕の、願い…。

「ねぇ、マキト…
僕たちって似てるよね。」

お店の定休日。　

淳也さんのアパートの中　淳也さんが笑って言った。　

２人でワインを飲むなんて久しぶりの事だった。　

だって…
前までは皆で居たんだから…。

「ええ…似てますね。」

淳也さんの　
部屋に流れる　

凪さんの音楽。　

それを聞きながら　
僕は淳也さんに笑い返した。

淳也さんは　
ワインを一口飲むと　

「僕……凪の音楽、大好きなんだ。」　

そう言って目を瞑ったあと　

「この歌って…
多分、優輝の事だよね。」

そう言った淳也さんを見て僕は感じた。　

淳也さんも　
僕と同じなんだと…。

きっと　

優輝さんの事を想い　

願ってる…。　

「淳也さん…きっと、願いは叶いますよ。」　

淳也さんと同じように　
目を瞑る。

凪さんの音楽が　
身体の中に流れてきた時。　

「うん…叶う、よね。」

呟いた淳也さんの手が　
僕の手に触れ　

僕はその手を　
そっと　

握り返した。

この瞬間。　

僕たちは　
きっと同じ事を願っていたんだと思う。　

どうか…　

僕たちの想いが　
届きますように…　

願いが…　

叶いますように…と。

-凪Side-　

夢で会えた。　

それだけで幸せだった。　

例え　
近くに居る事が　
出来なくても……　

そう想っていた…。

PV撮影で訪れた　
この町で　

優輝に　
良く似た人の姿を　
目撃してから　

もう１週間が過ぎていた。　

PV撮影も　

残りわずかになっていた頃、この日は久々のオフだった。

「やっぱり、ここにいたんだね。」　

俺の背中を　
軽く叩きながらセイが笑う。　

この町に来てから　
何故か海を眺めるのが習慣になっていた。　

｢探してたのか??｣　

俺はセイに　
笑いかける。

｢あのね、近くにお洒落なカフェを見つけたんだ!
だから、ナギと行きたくて!｣　

目をキラキラ　
輝かせるセイ。　

｢じゃあ…案内してもらおうかな。」　

そんなセイに　
俺は自分より少し低い視線に　
顔を合わせた。　

「こっちだよ!!｣　

嬉しそうに　
セイが俺の手を引いた。

セイに引かれ　
歩く道のり…。　

「ここだよ!!｣　

辿り着いたのは　
落ち着いた雰囲気を感じさせるカフェだった。　

中に入ると　
その店内には　
いくつかの写真が飾られていて

俺とセイははそれに　
視線が釘付けになった。

｢いらっしゃいませ。　
　　こちらへどうぞ。｣　

そんな俺たちの前に　
一人の男性が現れ、席へと案内してくれた。　

俺はコーヒー。　
セイは紅茶を注文し　
座る。　

｢この写真、素敵ですね!｣

それが運ばれてきた時　
セイが男性に言った。

だけど　

そのセイの言葉が英語だったせいで　
男性は困ったように笑う。　

｢この写真を素敵だって言ってるんですよ?｣

その男性に　
俺が通訳をすると　
男性は柔らかい笑みを浮かべ　

｢Thank you．｣　

とセイに言った。

そして　

｢この写真は全部、うちで働いている子が撮ったモノなんですよ。｣　

そう教えてくれた。　

俺はセイにそれを伝え、セイはまた目を輝かせる。　

｢凄く良く撮れてますね。｣

俺が　
男性に伝えると　
男性はニッコリ笑い　

｢でしょう?　今も、写真を撮りに出掛けてるんですよ。｣　

それを教えてという表情をするセイに通訳する。

すると　

「僕、会ってみたい!ナギ、聞いてみてよ!｣　

興奮したセイが　
いった通り　

｢すみません、良かったら撮りに行った場所を教えてくれませんか?｣　

男性に尋ねると　
心よく、その場所を教えてくれた。

｢どんな人なんだろう!
　　僕、楽しみだなぁ!!｣

教えてくれた場所に　
向かう途中、セイが言う。　

｢ああ、そうだな。｣　

そう返事をした俺は　

この時　
あの夜見た、優輝に良く似た人の　

姿を何故か思い出していた。

-優輝Side-　

どうして…　

どんなに離れても　
俺達はまた出会い　

誰かを　
傷つけてしまうのだろう…。

目の前の姿に　

俺の手が震えている事が　自分でもはっきりと分かった。　

この日も　

俺は海に向かい　
シャッターを切っていた。

「すみませーん!｣　

ふいに　
英語で話しかけられ　
俺はシャッターを切る手を休め　

その声に　
振り替える。　

そこには　
小柄で緑色の瞳をした　
一人の男の子がニコニコと立っていた。

少しだけ　
英語の話せる俺は　

｢どうしたんですか??｣　

その子に　
笑顔を向け、尋ねた。　

相変わらず　
ニコニコと笑ったまま　
その子は　

カフェに行って、俺の写真に感動し思わずカオルさんに場所を教えてもらって来た。　
と言った。

元気よく　
そう言ったその子の姿が　

淳也に似てる気がして　

俺は笑みを零す。　

だけど　

｢こら、セイ～先に行くなって。」　

その子の後から駆け寄るその姿に　
俺の視線が釘付けになった。

その人は　
顔を隠すように　
深々と帽子を被っていた。　

でも…　

見間違えるはずがない。　

俺は　
まるで、幻でも見ているかのように　

動けなくなってしまった。

「ごめぇん。僕、興奮しちゃって。」　

その人に舌を出し、謝る男の子。　

「まったく。あ、すみませ……えｯ…」　

俺の顔を見た　
その人の動きが止まる。　

目と目が合い　
俺の口からは自然と　

「な……ぎ?｣　

その人の名前を呟いていた。

｢うそ……優…輝。」　

互いに　
その先の言葉が出ずに　
視線を合わせていた。　

信じられない…　
今、俺の視界の中に　
凪の姿がある事が…。　

胸が　
熱くなるのを感じた時…

「えｯ!?どうしたの??
　　２人は知り合いｯ!?｣

凪の洋服を引っ張る　
男の子。　

｢え…ｯ?あ、ああ…知り合いというか、友達だよ。」

凪はハッとしたように　
男の子に視線を移し答えた。　

「うそ!そんな偶然ってあるの!?すごぉい!｣　

驚くその子を前に　
凪はまた俺に視線を向けて

｢…ほんと。凄い偶然…」

ぽつり呟くように言った。　

「元気…してた?｣　

セイと紹介された男の子が気を使ったのか　
浜辺で一人はしゃぐ中　

凪が俺に　
小さく笑った。

｢ああ…元気、してたよ。｣

それだけ答えると　
凪が俺の隣に腰をおろした。　
　

久しぶりに見る　
凪の笑みは…　

いつもShinで俺の隣にいた頃より　
少し、大人びて見えた。

１年、会わない間に　
凪は綺麗になっているようにも感じ　

その姿に　
俺の胸は音を立てた。　

ただ　
変わらないのは　
凪の手…。　

今、こんなに近くに　
凪がいる。

その夢のような現実。　

それを前に　

今、抱き締めて　
伝えてしまえばいいのか…

会えた事の嬉しさ。　
伸ばせば届く手…。　

だけど

あの日の想いが　
胸に強く光り、切なくなった。　

凪への想いは　
自分の中に閉まったはずだろ…?　

俺は　
抱き締めたい気持ちを　

心の中で　
ギュッと、押し潰した。

これが正解なんだ…。　

そう　
自分に　

言い聞かせるように…。

-凪Side-　

遠く　
離れていたキミが　

今、こんなに近くにいる。　

ほんの　
わずかな時間…。　

それが今　

俺の宝物になった。

｢また、来てくれたのか?｣

笑顔で　
優輝が俺に言う。　

偶然、また出会った俺と優輝。　

その日から　
俺は毎日のように　
撮影が終わるとカフェへと足を運んでいた。

始め、優輝を見た時は　
信じられなくて　

夢の続きでも　
見ているんじゃないかって思った。　

久しぶりの優輝は　
あの頃よりも少し髪が伸びて　

元々の落ち着いた雰囲気がさらに増していた。　

でも　

俺に見せる変わらない笑顔に、俺の胸はキュッと締め付けられた。

その笑顔を見た日から　
毎日　

撮影期間の間だけでもいい…。　

俺に　
少しだけでいいから　

優輝との新しい思い出をください…。　

そう祈った。

「今度はいつ　
　　撮りに行くんだ??｣

コーヒーを片手に　
カウンター越しの優輝に尋ねる。　

｢明後日に行く予定だよ。｣

グラスを拭きながら　
答える優輝。　

再会してから　
俺は優輝といろんな話をした。

俺の歌作りや　
活動の事を優輝は楽しそうに聞いてくれた。　

そして　

写真のことを　
話す優輝は凄く生き生きして見えた。　

だけど　
ただ一つ俺には聞く事が出来なかった。

Shinを辞めた理由を…。　

目の前にいる優輝に　

溢れそうなこの想いを　
抑えるのが精一杯だったから…。

だから…　

どうか今みたいに　
昔のように　
笑い合えるこの時間だけでいい…。　

そう自分で自分を納得させていた。

でもそれが…　

俺のこんな気持ちが　

誰かの胸を　
苦しくさせているなんて　

思ってもいなかった…。

「もう…帰ったのかな…」

優輝が写真を撮りに行くと教えてくれた日。　

この日は　
予定より撮影が押してしまい　
俺は急いで優輝が言っていた場所まで来ていた。　

でもそこには　
誰の姿もなく、俺は被っていた帽子を外し　

沈みかけた夕日を見上げた。

その瞬間…。　

パシャッ…――。　

後ろからのシャッター音に俺はすぐに振り返った。　

「帰ったのかと…思った」

俺にレンズを向ける優輝に笑いかけると　
優輝は小さく笑った。

そして　

「来ると思ってたから…
　　　　待ってたんだ。」

優輝は　
何気なく言ったつもりだったのかもしれない…　

でも　

俺にはそれが　
その言葉が…　

嬉しすぎた。

「凪ｯ!?｣　

嬉しすぎて…　

「えｯ…あ、ごめｯ…」

知らないうちに　
涙が溢れていた。　

慌ててそれを拭く俺に　
優輝が近づいてくる。

俺は　
どうにかこの涙を止めたくて必死だったのに…。　

「なんで、泣いてんだよ?｣

急に　
優しい香りに包まれた。　

優輝の声が　
やけに近い…。　

それに気付いた時　

今、俺の身体が　
優輝の腕の中だって　
事を知った。　

優輝の行動に　
俺は正直驚いていた。　

でも…　

「分かんない…でも、もう少しこのままでもいい?｣

今は　
この温もりを　
噛み締めたくて　

静かに優輝の胸に　
顔を埋めた。　

俺の頭を撫でる　

優輝の手の感触を　

感じながら…。

-セイSide-　

キミの隣も　

キミの笑顔も　

僕だけの　
特権だって…　

そう思ってた…。

｢今日からここで、お世話になります。ナギです。｣

初めて　
ナギがうちの事務所で挨拶をした日。　

その容姿に　
僕は驚いた。　

だって　
申し訳ないけど、日本人ってだいたいが小さくて足短いイメージだったから。

でもナギは
そんな僕のイメージとは全然違って　

すらっと伸びた手足に　
僕より高い身長。　

おまけに　
整いすぎってくらい　
美形で　

今まで　
僕が見てきた誰よりも　
綺麗に見えた。　

それがナギの第一印象。

最初、ナギは片言の英語で一生懸命早く馴染むように頑張ってて　

いつも笑顔だった。　

でも　
たまにその笑顔の中に　
切ない感じがして　

それで僕はナギの事をほっとけなくなった。

ナギの　
一番の友達になってあげたい。　

最初はそう思って　
いつも隣にいた。　

でも　

頑張り屋で凄く繊細。　

それに　
ナギの書く詞。　

僕が　
ナギに心を奪われたのは　あっという間だった。　

だけど　

ナギを想うと同時に　
その切ない詞に　

ナギには好きな人がいるって　
すぐに分かった。

だけど　

僕はそれでも良かった。　

いつの日か　
何年先でもいいから　

ナギが　

僕を見てくれる日がくる事を願ってるから…。　

それなのに…

「ねぇ、ナギ何処行ったか分かるぅ??｣　

仲間の一人に　
尋ねると　

｢ああ、ナギならさっき急いで出掛けていったよ。｣

その言葉に　
僕は少しだけ寂しくなった。

この町で　
あのカフェの優輝さんと　ナギが再会してから　

いつも僕と一緒だったはずのナギが　
よく一人で出かけるようになったから…。　

初めて　
優輝さんを見たとき　

僕はナギと出会った時と同じくらい驚いた。

ナギとはまた違って　
大人の男って雰囲気で　

ナギと並ぶと　
凄い２人に思えた。　

あと　
僕が驚いた事が　
もう一つ…。　

ナギの優輝さんを　
見たときの　
あの表情……。

ナギのあんな表情　
僕は初めてで　

この時　
僕はふと感じた。　

もしかして…
ナギの好きな人って…

だけどすぐに　

そんな訳ない。　

もしそうだとしたら　
こんな偶然、奇跡に近いし　

あるわけない。　

そう言い聞かせた。

なのに…　

僕の感じた予感は…。　

「なに……これｯ…」　

沈む夕日の中　

カフェの店長に聞いた場所で　

沈む夕日の中　
見つけた２人を前に　

僕は　
その場で動けなくなってしまった。

優輝さんが　
ナギの身体を包みこむのが　

僕の目に　
はっきりと映る。　

しかも…　

あのナギが　
泣いている…。

僕の隣に居るナギは　

いつも笑顔で…　

涙なんて　
一度も見た記憶がない。　

いくら　
優輝さんとナギが　
昔からの友達であっても…

そう思った時　
僕の予感が当たっていた事を知った。

僕の知らないナギ…　

それを　
優輝さんは知ってる。　

ナギに　
想われてる優輝さんに　

僕は　

どうしようもなく、悔しくて仕方のない感情でいっぱいになった。

「なんでｯ…今さらｯ…」

ホテルに戻った僕は　
枕に顔を埋めた。　

こんなに　

人を想って泣いた事　

初めてだった。

ただ　

優輝さんを羨ましく思った。　

だって　
こんなにもナギに想われてる…。　

悔しくも思った。

だって　

ナギの隣は　
僕の場所だと思ってた。　

ナギの書いた詞を　
見つめながら　

僕はこの胸に芽生えた　
感情が　

《嫉妬》
だという事に気付いた。

こんな感情が　

自分の中にあるなんて　
初めて知った。　

だから…　

僕は自分のした事が　
ナギを傷つけるなんて　

この時　
分かるわけなかった。

-優輝Side-　

触れてはいけない。　

そう思う程に　
触れたくなって…　

キミの泣き顔に　

思わず胸に　
キミを閉じこめた。　

時が、止まってほしいと　

願ってる　
俺がいた…。

「もう、ナギと　
　会わないでください。」

俺を　
見つめる。　

緑色の瞳に　

ただ　
言葉を失っていた。

カラン…――。　

来客を告げる音に　

「いらっしゃいませ。」　

声をかけると　
その人はカウンターの中の俺の前に腰掛けた。　

「珍しいですね、一人でなんて。紅茶でいいですか?｣

その人に　
俺は尋ねる。

その人は　
頷くき、俺は紅茶を入れた。　

｢今日は…優輝さんに話があってきました。」　

紅茶を　
一口飲んだ、セイが真っ直ぐ俺を見つめた。　

「…??話って??｣　

グラスを拭きながら、セイに言う。

｢……あなたに、優輝さんに会ってからナギは変なんです。」　

セイの言葉に　
俺はその手を止め　
視線をセイに移した。　

セイは　
言葉を続け　

｢優輝さんと会ってから、ナギは仕事に集中していないし、それに…」　

真っ直ぐと　
その緑色の瞳が俺を捕え…

「ナギは、僕の恋人です。だから…」　

ナギと　
セイの関係を知った俺は　

自分の　
胸の奥がﾁｸｯと痛むのが　分かった。　

セイが　
俺にそう伝える訳を　
考えた。

きっと　

ナギと俺が　
会っていること…　

そして　

その事で　
ナギが仕事に集中していないように感じた事。　

俺は、セイにとって　
ナギの邪魔をしている存在なのかもしれない…。

酷く　
胸が傷んだ。　

セイの気持ちを　
考えるだけで…　

「会わないほうが……良かったのかも、な…。」　

一人　
部屋の中、あの日夕日を見つめる横顔の写真を　
手にとり呟いた。

もう…　
会わない方がいい。　

セイに　
これ以上、そんな思いをはせて　

傷つけてしまうなら…。　

この俺の想いは　
胸の中に閉まおう…。

そう思うのに…　

写真の中の横顔が　
あまりに綺麗で…　

俺の胸を　

また　
切なくさせた。

-凪Side-　

少しだけでいい…。　

そう願った。　

だけど　

俺の思いは　
また…キミに届かない。　

どうしてキミは　
僕を…　

遠ざけるの…?

｢もう…ここには、来ないで欲しいんだ…。」

目の前の　
優輝が言った一言に　
俺は固まる。　

この日も　

撮影が終わると　
すぐに優輝のいるカフェへと来ていた。

いつも　
カフェに来る俺を　
笑顔で迎えてくれる優輝。　

でも　
そんな優輝が、この日の雰囲気が違っていた。　

だけど…　

まさかこんな事を言われるなんて…思っても見なかった。

しばらく　
固まっていた俺が　

｢なんで……急に?｣　

やっと返したのに　
優輝は　

そんな俺の視線から　
顔を反らした。　

ｽﾞｷﾝ…　
胸が痛くなった。

また…　
優輝は俺を拒絶しようとしているの…?　

｢なぁ、優輝?どうしてだよ!?答えてよ…」　

声が震えてしまうのを　
必死に堪え優輝を見つめる。　
でも優輝は　
相変わらず顔を反らしたままで　

「…ごめん。お願いだから…もう来ないで欲しい。」

それしか…答えてくれなかった。

俺は　
涙が出そうになるのを　
堪えるのが精一杯で…　

この町に居る間…　
わずかな時間でいい。　

一緒に居たい。　

そんな小さな願いさえ…　届かなかった。

カフェから　
どうやって出たのか…　

ホテルまで　
どう帰って来たのか…。　

分からないほどに　

優輝からの　
二度目の拒絶は　

俺の心を　
打ちのめした。

ただ　

涙で滲む視界。　

「ナギｯ!!ナギってば!!｣　

セイの声と共に　
俺の身体が揺れた。　

この時　

ホテルに頼んで部屋に置いてもらっていたピアノの盤がぼやける視界に映る。

その事で　
今、自分がホテルの部屋にいる事に気付かされた。　

ゆっくり…　

セイの声に視線を移すと　

不安気な顔で俺を見つめていた。　

「…どうしたの?セイ?｣　

セイに笑ってみせたつもりだった…。

だけど　
セイは今度は泣きそうな顔をして　

「どうしたのって…ｯ。ナギ、ずっと…弾いてたの?｣

セイの質問の意味が　
分からなくて　

｢……そう、みたいだな。｣

曖昧に返事を返すと　
セイは急に俺に抱きついた。

｢昨日の夜から姿が見えないって…今日の撮影にも来ないし、心配になって…」

他の仲間が　
心配してる事や　
急いでホテルの人に鍵を開けてもらった事を　

セイは言いながら　
俺の身体を包む手に力をこめた。　

「……ごめん。撮影、あったんだよな。」　

そう言って、セイの腕から離れようとした。

だけど　
セイは離してくれなくて…

「…優輝さんに…何か言われた?｣　

その言葉に　
俺の身体は反応する。　

俺の反応に気付いたのか　セイが俺の瞳に視線を合わせた。　

｢…何か、言われたんだね。ナギ…。」　

俺は　
ただセイの緑色の瞳から視線を反らした。

「…ナギ?僕が…ナギの支えになってあげる。　

僕じゃ……ダメ、かな??｣　

セイの一言に　
俺は思わず、反らした目を合わせた。　　

手を　
セイの頬に伸ばす…　

俺は…弱い。　
セイの一言に　
寄りかかってしまおうか…

そう思い、瞳を閉じたセイの口唇に触れようとした。

だけど…　

触れる寸前…。　

優輝の顔が浮かぶ。　

そして…　

前にもこうやって　
誰かに寄りかかった時の　

マキトに…　

触れた時の事を　
思い出した。

触れそうな口唇が　
止まる。　

「……ナギ?｣　

閉じていた緑色の瞳が　
俺を見つめた。　

俺は…　
また自分の弱さで　
今度はセイを………??　

そう思った瞬間　
何とも言えない罪悪感が俺を襲った。

｢…ごめん。セイ……ごめんｯ。」　

セイの身体を　
今度は俺がきつく抱き締めた。　

あの頃と　
俺は何も変わっていない…

弱い自分が嫌になった。

姫です。
携帯変えて初投稿です。

「どうして？ぼくは、ずっと...」

言いかけたセイの声が震えてる...。

でも、
今はセイに寄りかかってはいけない。

「ごめん....セイ。

今は、セイの気持ちには答えらんないよ。」

そう言って、笑ってみせた。

-セイside-

一番...

大切な人を傷付けて

今の僕に残ったのは...

後悔と

両手に残る...キミの温もり。

「ごめん....。」

ナギへの想いを
拒まれた時。

あの日

僕は.....

「ーーッッ!?セイッ...！

やめッ...ンンッ！」

困った様に笑っていた
ナギの口唇に

自分の口唇を押し当てた。

深く...

深く...

僕はただ

ナギを奪いたかった。

僕を...

見て、欲しかった。

無我夢中で

ドサッ...

口唇を押し当てたまま
ナギを床に押し倒した。

一日中
ピアノを弾いていたせいで
疲れ切っていたナギの体は

力弱く....

僕の力でさえ
押しのけるコトも出来ない。

「ンッ...ハァッ...
やめッ...!」

時々、口唇の隙間から
ナギが言葉を発するけど

僕には
そんな弱々しい声
聞こえない。

ナギの体に触れる...

僕は

ナギの体を
抱いた。

その時の

ナギの涙を思い出す...

ナギの温もりが
僕の両手にまだ残っている...

そっと

ナギの弾いていたピアノに触れたとき

僕は

声を上げて泣いた。

こんな事を
もう何度、繰り返してるんだろう...

後悔。

そんな言葉では
片付くはずもない...

胸を締め付けるもの...

ナギの温もりを奪った
あの日...

朝、目覚めると

そこにナギの姿はなく...

ナギは
全てを置いたまま

僕達の前から....

姿を消した。

-優輝side-

「想い」は

時に、人を変えてしまう。

そして

誰かを傷付けては

消えない痛みを知る....。

「おかけになった電話は通話の...」

何度も...

何度も...

同じ番号を繰り返し押す。

だけど

それはいつも

繋がらないまま....。

「僕を....殴ってください！」

目の前の
緑色の瞳が苦しそうに訴える。

この日

俺は、セイに呼ばれ
セイ達の泊まるホテルの部屋へと来ていた。

理由が分からないまま
セイの言った言葉に、俺は固まる。

そんな俺に
セイはゆっくり、口を開いた。

「...あなたに、もうナギと会わないで
と伝えた...次の日、僕はナギを
傷付けてしまったんです。」

セイの話に
耳を傾ける

セイは
今にも泣き出しそうな表情で...

「本当は僕の片想いで...
ナギのあなたへの想いを知って
それで僕ッ...」

そこまで話した所で
セイは自分の手の平を
ギュッと握り力を込めた。

そして

「嫉妬...それだけで
僕はッ...ナギを無理矢理ッ」

セイの告白に
俺は怒りを感じた。

だけど...

「だからッ...僕のせいで
ナギは居なくなってしまったッ!」

ガッ!!!

「ーーッッつぅッ!!」

俺が殴った事で
倒れてしまったセイ。

そんなセイを

「....ゆ、うきさ...ん??」

抱き締めた。

ナギを無理矢理、強姦した
セイは決して許す事は出来ない。

でも...

「...ごめん。
でも、ナギを傷付けたのは
キミだけじゃない...。」

怒りと共に

俺を悲しみが襲った。

セイが
こんな事をしてしまったのは

ナギへの想いが大きくなりすぎたせいだろう...

その気持ちが
話している間、ずっと
震える姿から伝わってきていた。

「僕ッ...ごめッ...ごめんなさッ...」

ただ
泣きながら謝り続ける
セイの体を
ずっと抱き締めた。

そして

セイから告白された
すぐ...

「すみません...カオルさん。」

「いいですよ。気にしないで。
大切なもの...ちゃんと見つけて下さい。」

カオルさんの元を
この町を去る決意をした。

何処に行ったのか...

それさえも分からない。

大切な人を探しに....。

例え

何処に居ようとも

きっと
見つけられると信じ...

ナギを探すために...。

-マキトside-

ただ

1番、幸せで居て欲しい。

僕は

あなたの声を聴けるだけでいい...

そう願ったのに...

「マキトー!!大変ッ!!」

店に出てすぐ
淳哉さんが僕の元に駆け寄って来た。

「どうしたんですか？
そんなに慌てて。」

僕が笑いかけると
淳哉さんは焦った様子で

手に持っていた雑誌を
僕の目の前に差し出した。

「...えッ!?」

その雑誌の見出しに
思わず声を上げる。

「凪...どうしちゃったのかな?」

淳哉さんが不安気に呟く。

その雑誌の見出し...

そこには

《シンガーソングライターＮＡＧＩ
活動休止。》

そう書かれていた。

活動休止。

その言葉に
僕は思わず固まってしまった。

なんで...
こんな急に...?

淳哉さんと2人
雑誌に目を通すけど

(事務所の意向と本人の事情で...)

それだけしか書かれていなくて

真実など分からない。

凪さん...
一体、何があったんですか?

急な活動休止の
理由が知りたい...

でも、どうする事も出来ず...

ただ
昔、みんなで撮った写真に映る
凪さんの姿を

見つめて

毎日を過ごしていた。

-ノリside-

神様っていうのは

どうしてこうも
人を惑わせるのだろう...

いつかまた...

お前たちが

巡り会えることが

出来るなら....。

「どうしたんだ？
急にこの街に戻って来るなんて...」

目の前の人物に
俺は尋ねる。

その人物は

俺が思っていた事より
予想だにしなかった答えを

口にした。

♪～♪～....

この日

久しぶりに携帯の画面に
映し出された

優輝の名前。

「はい。もし～？」

珍しい。

そう思いつつ
電話に出ると

「ノリ...話がある。
今、この街に来てるんだ。
会えるか？」

そう言われ、俺たちは待ち合わせ
合流した。

もう
この街には戻る事もないだろう。

そう言っていた優輝が
戻ってきたことが不思議に
思っていたが...

「なッ...!?」

優輝から聞かされた話に
俺は言葉を失いつつも
その理由が分かった。

数日前。

マキトと淳哉から聞かされた
凪の活動休止。

その理由が...

「凪が...失踪した。」

優輝の一言で分かった。

「...もしかすると、この街に戻っている
可能性だってある。」

優輝は
俺を真っ直ぐ見据えた。

そして

「だから...少しでいい。
お前も探してみてくれないか？」

真剣な表情で俺に言った。

まさか
優輝と凪が再会していて

こんな事になっていたなんて...

「ああ...俺も出来るだけ
探してみるよ...。」

この日から

俺は、優輝に協力する事を
決めた。

きっと

また2人が
出会えると

信じて...。

-淳哉side-

キミが

幸せになれるなら

僕は
その力になりたい。

それが

僕の幸せになるから ....。

「ねぇ～ノリぃ。
僕、この間不思議な事に出あっちゃった!」

お店が閉店して
すぐに僕はノリに話しかけた。

「不思議な事ってぇ？」

唐突な僕の言葉に
ノリは笑いながら

ソファーに腰掛け、僕を見た。

「あのね、この間のお休みに
僕、実家に帰ってたんだけど。」

僕もノリの座るソファーに
腰掛け、
僕の出会った不思議について
話し始めた。

この間のお休みの日。

僕は、ニ駅離れた実家に
用事ができ、帰っていた。

あッ！
このCD欲しかったんだよねぇ。

実家の用事も済み、
帰りの電車の時刻まで
まだ時間のある僕は、駅近くの
CDショップに立ち寄った。

そのCDショップで

出会った不思議。

欲しかったCDを手に
ルンルン気分の僕は

レジに向かった。

その時

ドンッ!!

「わッ！ごめんなさいッ!!」

不注意で人にぶつかってしまい
CDを落としてしまった。

そのCDを拾い上げたとき
僕の目に映ったのは

一人の男性。

黒いシャツに
深く帽子を被った

サングラスの男性。

その男性が
一つのポスターを見つめている。

普通なら
何も思わないような事だけど

僕は、驚いていた。

サングラスで
隠れている横顔だったけど

だけど

身長も....
ふと僕の視線が捕らえたその手も...

「僕が見ると凪にしか
見えなかったの!!」

そう言ったあと
凪がここにいる訳ないのにねッ!

って僕は笑った。

ノリの表情が変わる。

でも
そんなノリに気付かない僕は

「ねッ⁈不思議でしょ!?
世の中にはあんなにそっくりな
人って居るんだねぇ～！」

僕が一人、関心していると

ノリが
真剣な顔をした。

そして

「えっ....!?」

ノリの発した言葉に
耳を疑った。

だって...

「もしかすると、...本物の
凪かもしれない...。」

なんて言うんだもん。

しかも

「それに...凪を探しに、優輝が
戻ってきているんだ。」

うそッ...!?

僕はただ
言葉を失った。

そんな僕を心配そうに見たあと
ノリはゆっくり話してくれた。

凪と優輝の再会の話。

それから

凪の急な活動休止の理由。

優輝と会った話...。

その事実を
僕が知ったのは
凪の活動休止の情報から
数週間後のことだった。

初めは、ノリの話を理解するのが
やっとだった。

でも

優輝が凪を探してる。

「ノリっ!僕、優輝と凪のために
協力したい!! 」

ノリの手を取り、思った。

あの2人は ...

絶対結ばれる運命だから

僕はその手伝いをするんだ。と...。

誰か読んでくれてますか(•×・;)？

読んでます

頑張って下さいね

いつも読んでます

まあサン♥
我が輩サン♥

有り難うございます(^o^)

頑張ります !!

-優輝side-

想いを
閉じ込めた。

俺の決意が

誰かを傷付けていた。

やっと
気付いた。

想いは閉まうものじゃない事に...

だから
俺はもう、迷わない...。

「僕が見たのは、この場所だから!」

そう言って
俺に地図を差し出す手。

「ありがとう。」

それを受け取ると
その人は笑って頷いた。

この日、ノリから連絡があって
呼び出された俺は

正直、戸惑いを隠せないまま
指定された場所へと向かった。

待ち合わせの場所につくと

懐かしい気持ちになった。

ノリに言われて来た場所。

それは

また来る事なんて想像もしていなかった。

CLUB shin だった。

懐かしい店内に足を踏み入れると

「よう！優輝！」

見慣れたソファーに
腰掛けるノリの姿があった。

「よう。って、なんで店になんて
呼び出したんだ?」

俺が、感じていた疑問を
ノリに尋ねると

ノリは小さな笑みを浮かべて
店の奥の方を見た。

そして

「二人とも、お前に協力したいんだって。」

ノリがそう言ったあと
すぐに

「...久しぶり。優輝。」

「お久しぶりです。優輝さん...。」

俺の目の前に現れたのは...

淳哉と
マキトだった。

二人の姿を
目の当たりにした俺は

一瞬、言葉を失った。

だけど
驚き戸惑っている
俺に、二人が向けた笑顔。

それが

あの頃と変わらなくて...

「ああ...二人とも久しぶりだな...。」

笑って、言葉を返す事ができた。

「よし！じゃ、早速本題に入りますか！」

ノリがソファーに
座るように促す。

「あのね、優輝!?
僕が見たのは、たぶん凪かもしれない。」

淳哉が
実家に帰ったときの話をして

そう言ったとき

俺は
やっぱり凪はここに戻ってきている。

確信こそは持てないが、
その可能性がある事を知った。

ずっと、仲間だった淳哉が
ハッキリと言ったんだ...。

その可能性を教えてくれた淳哉。

俺はずっと
淳哉は、俺が黙って去ったことを
怒っているんじゃないかと思っていた...

そして

マキトも...
凪がこの店から去る、原因を作った
俺の事を...

そう思っていたのに...

協力したいと言ってくれた。

二人の想いが、嬉しい。

「優輝！ぜったい、凪見つけようね!」

俺の手を握る淳哉。

「そうですよ。絶対、見つけましょう。」

そう言ったマキトが
俺たちの手に、自分の手を重ねた。

それを見たノリは
気合いの入った笑顔で

「よっしゃ！皆で探すぞ！」

俺の背中に飛びついてきた。

こんな風に
また、こいつらと笑える日が
来るなんて
思わなかった。

温かい...

そして俺は感じた。

強くなれた気がした。

だから、絶対に凪を見つける。

そして

必ず、この腕で
凪を抱き締めてみせる。

改めて

そう決めた。

-凪side-

もう
何もいらない。

この想いも

誰かの愛も...

大事にしていた

この手さえ....。

「さよなら...。」

小さく呟いた俺は
行く宛も無いまま、飛び立った。

結局...

たどり着いたのは
1番楽しかった記憶の残る街。

俺は、何がしたいんだろう...
ここに
戻って来るなんて、どうかしてる...

そう思いながらも
ここを離れる事が出来ない。

何もかも置いてきた。

ピアノも...
歌も...

全て置いて...

1番の友達だと思っていた
セイの想いも...

ショックだった。

だけど
セイの事を憎むコトも出来ない。

ただ

夜になると苦しくなる。

あの日のセイの
「Ｉ love you.」が
聞こえる気がして...

俺の中の優輝への想いが
セイに触れられたあの日から

こんな俺を
きっと優輝は受け止めてくれるはずもないと

諦めた。

この街に戻り
懐かしい景色を見つめるだけ...

ただ時が過ぎていく。

CDショップなんて
入りたくなくても
自分のポスターがまだ貼ってある。

それを目にすると
足が勝手に止まってしまう。

そんな日は
暗い部屋で酒を飲む。

自然に涙が頬を伝う...

苦しくて...

ピアノを弾くために
大事にしていた手すら
もういらない....と傷付けた。

俺は今 ...
何をすれば救われるんだろう ...。

苦しくて...

気がつけば
あの場所へと足が向かう。

俺の大切だった場所。

唯一、昔俺を救ってくれた...

CLUB shin

だけど

店の前まで
たどり着いて、思わず立ち止まるのは

もう...

ここは
俺の居場所じゃない。

ってコトを知っているから...。

-マキトside-

キラキラ
輝いていた

あなたの笑顔。

それが今、
変わってしまっているコトに

僕の胸は

痛みを増した。

「えっ...!?」

店の前
偶然にも出会ったその人は

僕に気付いた時、
走り出した。

「...そうですか。
見つかりませんでしたか...」

優輝さんと再会してから
数日。

淳哉さんの地図を頼りに、
凪さんを探しに行っていた優輝さんから
連絡が届いた。

凪さんが見つからなかったコトに
僕が肩を落としていると

「マキト!少し買出しを
頼まれてくれないか？？」

オーナーに言われ、
外に出た俺は

見覚えのある後ろ姿を発見し
立ち止まる。

思わず、その後ろ姿の
名を呼ぶと

その人はふり返り

でもすぐに
走り出してしまった。

その姿を
僕はとっさに追いかけていた。

だって...
こんな偶然ってない。

「待って下さい!!....凪さんッ!!」

やっと追いつき
その手を掴んだ。

息を切らすその人の手が
あまりにも細く、僕は一瞬驚いた。

「はな..して!!」

背を向けたまま
僕に言う凪さんの手を

僕は強く握った。

「いいえ。離しません。
だって....。」

その肩をつかみ
強引に僕へと体を向けさせた。

だけど
その瞬間ーーー。

僕は言葉を失った。

「お願い...離して...」

そう言って、笑った凪さんの
笑顔が...

僕の知っている
凪さんの笑顔とは
全く別の物だったから...

キラキラしていた筈の凪さんの笑顔。

それが、まるで
何もかもを、諦めた様な
そんな笑顔になっていた。

そんな凪さんの笑顔に
ショックを隠し切れない僕は

また、ショックを重ねる。

「ーーッ!!どうしたんですか!?
そのキズッ....!!」

あんなに綺麗だった手に
キズがついている。

僕は必死に凪さんに問う。

だけど
凪さんは何も言わず
黙り込むだけで...

僕の胸に悲しみが広がった
その時...。

「マキト...!?」

後ろで名を呼ぶ声がして
僕はその声にふり返り
言葉を無くしてしまう。

「ーーーーっっ!?」

声の持ち主は
すぐに僕の側にいる
凪さんの姿を見つけ、動きを止めた。

そして

凪さんも、その声の持ち主を発見した
瞬間に
さっきより強い力で、僕の手を
振り払おうとした。

「凪さんッ!!逃げないでッ!!」

そんな凪さんを
逃がさまいと、僕も力を込め
その体を引き寄せた。

前より
ずっと、細くなった凪さんの体を

優輝さんへと向ける。

「優輝さんと...話、して下さい。」

目を合わさないように
下を向く凪さん。

優輝さんが
凪さんへと近づく...

僕はただ

2人の姿をじっと見つめていた...。

-優輝side-

目の前のキミは

少し会わない間に
変わってしまっていた...

抱き締めた腕が

キミの感触に
震えてる...。

一瞬...
自分の目に写った光景を
信じるコトが出来なかった。

「....凪。」

探し続けていた人が、
今目の前にいる。

俺は凪の元へ
一歩、一歩近付き

マキトが掴んだその手を
今度は俺が捕まえた。

その時
少しだけ、凪の体が
ビクッと震えた。

それと同時に
掴んだ手の細さに驚いてしまう...

細くなった、腕。

それに...その手にある
不自然な傷を見つけ、酷く悲しくなった。

その手を
俺は両手で包み込み

「...探したんだぞ？」

悲しみを堪え、笑って見せた。

でも
凪から返ってきたのは

「...誰も、探してくれなんて
頼んでない...」

顔を背ける凪の態度に
胸が痛くなる。

だけど

やっと、凪を見つけた。

「お前が、頼んでいなくても
...俺はずっと、お前を探してた。」

凪の手を引き、抱き寄せた。

だけど
凪はすぐに

「はなしてッッ!!」

俺を押しのけようと
体を強く押した。

俺は凪を離さまいと
その腕に力を込める。

「やっと！お前を見つけたんだ！
離すわけないだろうッ!?」

言い放った俺に

「優輝はッ!優輝は俺を
拒絶したんじゃなかったのかよッ!!」

叫ぶように言って
俺の体を、さっきより強く
押しのけた。

予想以上の力に
抱き締めた腕が離れてしまう。

涙目で俺を睨む凪...

「俺を拒絶したくせにっ...
探してたって何だよッ!!

俺はッ!もう...友達だと信じてた
ヤツにまでッ!!」

凪の握り締めた拳が
ふるふると震える...

その言葉に
その涙に...

凪の姿に

どれだけ、凪を傷付けて
苦しめていたのか思い知らされた。

セイのコトも
どれくらい辛かったのかも...

凪を拒絶してしまったのは
セイの言葉を信じてしまったから
だとしても...

こんなふうに凪を
してしまった自分に
たまらなく悔しい気持ちになった。

「俺はもうッ何もいらない!
自分も他人の感情も全てッ!!」

そう言い切る凪に
胸が苦しくなった。

悔しさと、苦しさが
俺を襲う...

だけど
もう俺は決めたんだ。

二度と...凪を傷付けないと...

だから

「...あの時は自分の想いを
見ないフリをしていた。

でも今は違う!!もう二度と、お前を..
拒んだりしないッ!!」

凪の体を
もう一度、強く...

強く

抱き締めた。

-凪side-

本当は

救われた気がしていた。

でも...

臆病になっていた。

だから
キミを...

「そんな言葉...信じらんないよッ!!」

優輝の体温に
包まれる中、俺はその体温を
突き放した。

「ーーーッ、凪ッッ!!」

名前を呼ぶ優輝の声を

俺は振り切って

走って
走って

部屋にたどり着いた。

テーブルの上に置いてあったお酒を
すぐに煽る。

ハァッ...

切れた息が、ますます荒くなり

目からは涙が止まらない...

突き飛ばした時に
一瞬見えた、優輝の表情が頭から
離れない。

優輝が、まさか探していたなんて
思ってもいなかった。

嬉しいとさえ感じた。

だけど、今の俺は

優輝の言葉さえ、信じたくない。

信じられなぃ...

ただ怖かった。

信じるコトが...
信じた人に裏切られる恐怖が...

酷く怖く感じた。

声を上げて泣いた。

泣いて
泣いて

自分でもどうしようもなく
流れ続ける涙を拭った。

胸が
苦しい、痛い...

息が整う事を知らないほどに。

苦しくて
俺は胸を押さえ

床にしゃがみ込んだ。

誰か...

俺を、助けて...

そう願った瞬間

目の前の景色が
霞んで...

見えなくなっていった...。

-ノリside-

また
あの頃の様に

みんなで

笑い合う日が来てくれるなら...

どんなに
良いのだろう...。

「おいッッ!!
しっかりしろッ!!」

揺さぶる体は
驚くほど軽く...

閉じた瞳からは

涙が伝っていた。

この日

俺は
いつもより少し遅く店に向かっていた。

そして

俺の横を走り抜けた
その姿に

思わず俺はふり返った。

走っていく
その後ろ姿を目にした

俺の足が
勝手に動いていた。

見失わないように
必死で追いかけ....

辿り着いた先。

「やっぱり...凪、だったんだ...」

切れた息を整えながら
その場所で呟いた。

いつか来たコトのあるアパート。

俺は考えた...

行くべきか、
優輝への連絡が先か...

だけど、考えている間に

ガシャンッッ!!

一つの部屋から聞こえた物音に
胸が騒つき、とっさに階段を駆け上がっていた。

ドクン...
ドクンッ...

駆け上がり辿り着いた部屋の
ドアノブを手にしたとき

脈が早くなるのを感じながら
ドアノブを回す...

「ーーーーッッ!!」

鍵が空いたままだった
その部屋へと足を踏み入れた瞬間に

俺は言葉を失った。

何もない部屋に

小さな光が灯る...

その光の下で
蹲り、横たわる....

「ーーッ!!凪ッッ!!」

俺はすぐに駆け寄り、凪の体を
抱き抱えた。

だけど

その体は力無く、意識も無くて...

周りに散らばる瓶の破片と

凪の手を、伝う真っ赤な...血。

それを目の当たりにした
俺の全身から血の気が引いて
いくのが分かった。

それからは無我夢中で

驚くほどに軽い凪の体を抱き上げた。

どうしてッ...
どうしてこんなッ!!

凪のキズを包む
タオルにそっと、触れ

病院に向かう車の中

悲しくて

零れそうな涙を
俺は堪えるのが、やっとだった。

-淳哉side-

大切な人が

震えてる...

「大丈夫。」

そう言って僕は
その手をギュッと握り締めた。

一瞬
頭の中が真っ白になった。

でもすぐに、僕はお店を飛び出した。

お店が開店して間もなく
ノリが遅刻している事に気付いた僕。

珍しいなぁ...

なんて思っていると

「淳哉、マキト。
ちょっと来てくれないか??」

オーナーに呼ばれ、マキトと
2人でオーナー室へと入る。

何だろ??

そう思い、マキトと顔を見合わせた時

オーナーの発した言葉に
僕とマキトは、固まった。

「さっき...ノリから連絡があった。

今、病院にいるそうだ。」

オーナーは眉を寄せ

「お前たちも、行ってやりなさい。」

僕達に告げた。

「淳哉さんッ!!
優輝さんに連絡お願いしますッ!!」

タクシーを止めるマキトに言われ
僕は急いで優輝に電話をかけた。

「優輝っ!?
今からそっち行くから待ってて!!」

電話の向こう
僕達と同じように言葉を失っている
優輝に言って、タクシーに乗り込んだ。

その中で
マキトはずっと両手を握り
祈るように下を向いていた。

僕も、心の中で祈った。

凪の...無事を...。

病院までの道のりが、酷く遠くに感じた。

優輝は、その間
何も言わなかったけど
その体が震えているのが、僕には分かった。

「大丈夫ッ!!...優輝。
ぜったい大丈夫だから!!」

震える優輝の肩を
そっと、支えその手を握った。

大丈夫...

大丈夫じゃなきゃ、ダメなんだ。

だって...
やっと2人は...

願いを込めた手に
力を込めた。

-マキトside-

不安と恐怖で

押し潰されそうだった。

もし...

あなたが
この世界から

いなくなってしまったら...。

「...命に、別状はないって。
今は、目が覚めるのを待とう。」

辿り着いた病室の中

まだ息を切らす僕達に
ノリさんが言う。

「凪ッッ!!」

病室に入ると
真っ先に淳哉さんが
凪さんへと駆け寄り、手を握った。

僕は

ベットに横たわる、凪さんの
姿を目の前に

涙が溢れそうなのを堪え

一歩、一歩

凪さんに近付き
淳哉さんの握った手に
自分の手を重ねた。

そんな僕達の後ろで
優輝さんは、放心した様に

ただ凪さんを見つめていて...

「...とりあえず、大丈夫だから。」

そんな優輝さんの肩を
ノリさんが支える。

凪さんを見つめる
優輝さんの表情は
凄く、悲しそうで...

優輝さんは、ノリさんの肩に
寄りかかっていた。

どれくらい、凪さんの手を
握っていたんだろう。

ふいに淳哉さんが

「えっ...!?凪っ!!」

身を乗り出すように
凪さんの顔を見た。

その時に

「凪さんッッ!!分かりますかッ??」

閉じていた、凪さんの瞳が

開いたのを見て、急いで声をかけた。

涙声で話しかける僕達を
凪さんは見つめて

「じゅ...んや??...マキトも。」

そう言って、起き上がろうとした。

「まだ、寝てろ。」

そんな凪さんに、ノリさんが言うと
優輝さんがコチラに近付いてくるのが
分かった。

僕は淳哉さんの肩を叩き
優輝さんが、凪さんの側へと
来れるように

その場を離れた。

優輝さんが、辿り着いた瞬間...

バシンッ!!ーーー...

病室に、響きわたる音。

僕達はただ、
優輝さんの行動に驚き
戸惑った。

-凪side-

このまま...
消えてしまうのかな?

そう思った時

「信じてほしい。」

キミの言葉が
聞こえた....。

目を開けると
光の中、淳哉とマキトが
涙を浮かべて俺を見つめていた。

痛む、腕...

鼻につく薬品の匂いに
ココが何処なのか気付いた。

淳哉とマキトの顔を見つめていると

その後ろに
優輝の姿を発見した。

胸が、痛む。

だって...

「バカヤロッ...!!
心配させんなッ....!!」

優輝に、叩かれた頬が痛む。

だけど、すぐに
痛みなんて....

優輝の香りに包まれた時
消え去って

「...ッ!優..輝、ごめッ...
ごめんッ...!!」

その温もりに
俺は声を上げて泣いた。

信じていいんだ。

俺は...この人のコトを...。

「凪ッ...!やっと、やっと...
捕まえたッ。」

俺の体を包む
優輝の腕がギュッと強さを増した時

俺は
心の底から

優輝の想いを感じた。

だって...

こんなバカな俺を
抱き締めた優輝が...

泣いている。

俺の全てを
受け入れてくれている。

そう想った時

申訳ないのと
だけど、温かい気持ちで
いっぱいで涙が止まらなかった。

そして

優輝にしがみつき、
泣きじゃくる俺を

「みんなッ...ごめん！..ごめんなさッ」

ノリ、淳哉、マキトの
温もりが包み込む。

みんなが
俺のために泣いてくれている。

きっと...

俺がこの街に来た理由は

みんなのこの温もりに
会いたかったから...。

この時

俺は、やっと...
苦しみから救われた気がした。

-優輝side-

やっと...
捕まえた。

愛しい人の手を
握る事の幸せ。

それを今...

心から

感じてる。

「凪?...愛してるよ。」

ベットの中
囁くと、凪は微笑み

「俺も、愛してる。」

俺の胸に顔を埋めた。

凪が退院して
腕のキズもすっかり癒えた頃

俺たちは、結ばれた。

誰かを抱き締めて

こんなにも心が満たされたのは
初めてだった。

2人で...
抱き合いながら

泣いたっけ...。

そして今は同じ部屋で
暮らし

凪はCLUB shinへと戻り、働いている。

手のキズも治り
また以前のように
ピアノも弾き始めた。

有名人になっていた凪が
店に戻る事を
初めは心配していたが...

「いーよ。売り上げUPするし!」

オーナーはそういって笑ったあと
大丈夫！と俺の肩を叩いた。

そんなオーナーの笑顔に
安心した。

一方...俺は。

店で働いていた時に貯めた
お金を使い

自分の店をオープンさせた。

CLUB shinのshinは
神の意味。

その神を取らせてもらい
小さなBARにつけた。

BAR GＯD

これが俺の店。

小さいが、売り上げも良くて...

それに何より...

「もう～聞いてよ!
またマキトが僕のサクランボ
取ったぁ!」

不貞腐れた淳哉の声が
BAR内に響く。

どうやら
カクテルにつけてやった
サクランボをマキトに
取られたらしい。

「いいじゃないですか、
サクランボくらい～。」

意地悪く
マキトが淳哉に笑う。

その横では
ノリと凪が苦笑いをしていた。

「はいはい。
サクランボやるから（笑
機嫌直せ。」

そう言って俺は
淳哉のグラスにサクランボを
のせた。

まるで

離れていた頃が
嘘だったかのように

俺たちは前と変わらず
笑い合う。

こうして
店が終わると
みんながBARに来てくれる。

この時間が

嬉しい。楽しい。

また、こんな日が来るなんて...。

五人で笑い合う日が。

毎日が充実していた。

そして
凪が隣りにいる。

幸せを感じていた。

だけど

一つだけ...

俺は、まだ心に残る
想いを

凪へと伝える準備をしていた。

-凪side-

大丈夫。

キミはそう言って
背中を押してくれた。

だから...

旅立つ勇気が
持てたんだ...。

「時間がどれだけ、かかっても
.いい。
お前が戻って来たとき...
このピアノを弾いて欲しい。」

優輝が
俺にそう伝えたのは

俺たちが結ばれてから
丁度、半年経った日の事だった。

CLUB shinに戻った俺は
またピアノを弾き始め

作詞も、するようになった。

初めは正直、不安だった。

前のように...弾く事が出来るか。
だけど、店のピアノの
盤に触れた時、

俺の心の中に
懐かしさと、あの頃の気持ちが
蘇ってきて

音色を奏でる喜びを
改めて知った。

そんな
俺の日常に音楽が
再び加わったとき...

「凪、話があるんだ。」

優輝に連れられ
向かった場所。

それは

優輝のお店だった。

話なら、家ですればいいのに..
そう思いつつも

「さぁ、入って。」

店に入るように促され
足を踏み入れたとき...

俺は驚き、優輝を見上げるた。

「優輝ッ...!コレッ...!?」

いつの間に
そんなスペースを
店内に作っていたのか...。

驚き、目を見開く俺に
優輝は笑いかけ

「気に入ってくれるといいんだけど。」

俺の頭を優しく撫でた。

もう一度、俺は店の中心に
視線を映す。

そこには...

綺麗なグランドピアノ。

「優輝っっ!!」

俺は嬉しくなり
勢い良く優輝に抱きついた。

予想もしていなかった
急な優輝のプレゼントに
涙まで出そうなくらい。

たけどすぐに
優輝に抱きついた腕を解き

ポーン...

グランドピアノの盤に触れた。

その音に
胸が踊った。

「凄く、良い音!!
優輝ッ、ありがとう!!」

興奮しつつ、優輝に御礼をすると

「凪?俺が今から話すこと
よく考えてくれな？」

真剣な顔をして
俺の頬に触れる優輝。

そして...

「一度...アメリカへ戻った方がいい。」

その言葉に
今度は別の意味で驚いた。

聞いた直後は
信じられない気持ちで
一杯になった。

もう離さない。

そう言った優輝がまさか...

でも、冷静になった俺が
見つめた優輝の瞳に

前のような拒絶されるという
不安は一ミリも感じない...。

頬に触れた優輝の手の温もりが
俺を信じさせてくれていた。

「ちゃんと、向こうで
セイや仲間と向き合って来い。」

そう言って優輝は
俺に口付けをしてくれた。

「大丈夫...俺はいつまでも
お前の帰りを、ココで待ってるから。」

そう微笑む優輝に
俺は答えを出した...

優輝を信じてる。

優輝の俺を想い
言ってくれた言葉が...

笑顔が
温もりが、

俺を強くしてくれた。

だから...

「行ってきます!!」

それから三ヶ月後...

俺は、優輝やノリ
淳哉とマキトに見送られ

笑顔で日本を経った。

優輝の愛を

胸に抱いて...。

-ノリside-

今、羨ましく思うのは

互いを
信じ合える絆が

そこにあるという
2人の姿...。

「どうしたんだ?
呼び出しなんて久々じゃん。」

店への出勤前。

優輝からの電話で
俺はBAR GODへと来ていた。

久々の呼び出しに
俺は軽く笑みを浮かべ
カウンターへと腰掛ける。

この半年、優輝と凪が
くっついて
幸せそうな2人の姿に
俺はすっかり安心しきっていた。

なのに優輝は
俺に紅茶を差し出すと

「あぁ...実は...」

思いもよらない事を口にした。

凪をアメリカへ、戻そうと思う。

確かに優輝が言った言葉。

正直、あり得ないとさえ思った。

だって、やっと結ばれた2人だ。

「...お前、それでいいのか？」

カウンター越しに
俺は真っ直ぐ優輝を見据えた。

そんな俺に
優輝が見せた表情...

俺は

なんとなく、分かった気がした。

店の中にある
グランドピアノ...

それを見つめる優輝の横顔は

離れていた間に

凪と過ごしたこの期間にも

大人になっていた事に。

だから

「それが今...凪のすべき事だ。

俺は、凪を...信じてるよ。」

そう笑った優輝に

「そっか。
じゃあ...お前はココで凪の帰りを

ゆっくり待てばいいさ。」

そう言って
笑って見せた。

そして...

「今月一杯で
またお店を去りますが、

それまで宜しくお願いします。」

凪が、他のスタッフ達に挨拶をするのを

俺と淳哉、そしてマキトは
目を細め見つめていた。

きっと...
淳哉もマキトも
初めは戸惑ったに違いない。

だけど
俺たちには分かったんだ。

遠回りした分だけ
2人は強く結ばれた事...

その絆を

俺は
羨ましく思った。

そして

いつか俺も、そんな存在に
出会えるだろうか...

そんな事を思いながら

五人でいる時間を過ごした。

-マキトside-

あなたの笑顔が

今、幸せだって
伝えてくれる。

だから僕は

その笑顔を
その背中を

見送る事が出来た。

「...凪、行っちゃったね。」

空港からの帰り道。

淳哉さんが
寂しそうに、ぽつりと呟く。

「でも...幸せそうな笑顔でしたね。」

そんな淳哉さんの
頭を撫で、笑って見せると

淳哉さんも
笑顔を返してくれた。

「俺、一度...
アメリカに戻ろうと思う。」

凪さんが
僕と淳哉さん、そして
ノリさんにそう伝えた時

正直、僕は不安になった。

でも...

「寂しいからって泣くなよ!?」

ふざけた様に笑って
僕たちの肩を叩く

凪さんの明るい声と

凪さんを見つめる
優輝さんの姿を見て

不安になるなんて...
余計なお世話でしたね。

そう思い

「うん...凪さん。
頑張ってきて下さいね。」

僕は
凪さんとハグを交わした。

少しだけ...

寂しくも思ったりした。

でも
凪さんが幸せならいい。

それが

僕の、何よりの
喜びだから。

頑張ってください

我が輩さん♥
有り難うございます。

頑張ります(^_^)

-凪side-

いつか、きっと
キミの胸へ帰る。

その時まで

俺はこの場所で

精一杯、やっていく...。

「元気でな、凪...」

最後に
抱き締めてくれた
優輝の温もりには

愛情が溢れていた。

「ねぇ、凪ぃ??
ここの音程なんだけど。」

楽譜を手に
俺に問いかける人。

その人に
俺は笑顔で答える。

アメリカに来て

もうすぐ、半年の月日が
流れようとしていた日だった。

アメリカに戻ると決めた時

俺の胸の中には
ある想いが、芽生えていた。

もし...もう一度。

俺の事を
受け入れて貰えたなら...

「皆さん。
もう遅いかもしれない...
でも、スミマセンでしたッ！」

そう思いながら
事務所に辿り着いた俺は

社長やスタッフ全員に
深く頭を下げる。

「...どういうつもりで
戻ってきたんだ??」

社長の冷たい声が
オフィス内に響く...

だけど

その冷たい声にも
俺は怯む事なく

「自分勝手なのは分かってます。
...でもッもう一度、ココで俺に
音楽をやらせて下さいッ!!」

真っ直ぐ、社長を見据え
諦めたくない想いを口にした。

「......。」

沈黙が続く中

俺はずっと視線を
反らす事なく、前を向いていた。

そんな俺を
さっきまで険しい表情で
見つめていた社長から

「...戻ってきて、有り難う。
もう一度、やってみなさい。凪。」

返ってきた言葉に
俺は、嬉しくて涙を流した。

その姿に
他のスタッフ達が
俺に駆け寄り、ハグをする。

そのハグに答え

少し、ホッとした。

それから、もうひとつ...

「...セイ。こっちに来て??」

笑顔で迎えてくれる
スタッフの中、ひとり俯いている
セイに声をかけた。

「...ナギ、僕は...。」

戸惑い立ち竦むセイ。

そんなセイの側へと
俺はゆっくり足を向けた。

そして
セイの側に辿り着いたとき

「...もう、いいんだよ。
だって、セイはやっぱり俺にとって
大切な友達だから...。」

笑って、セイの頭を撫でると
セイは俺をみ上げ

「～～っ、ナギっ!
ありがとっ...グスッ...!」

緑色の瞳から
大粒の涙を流した。

一度は...
セイを憎もうとした。

でも、憎む事なんて
出来なかった。

その理由が
俺にとってセイが
どれ程、大切な存在で

本当はもう許していた事に

優輝や、ノリたちが気付かせてくれたから。

涙を流し、震えてる
セイの体をそっと抱き締めた後。

「あと、俺の音楽は
セイに歌って貰おうと思っています。」

俺はまた
社長に想いを伝えた。

初めは、困惑していた社長も
俺の決意を理解してくれた。

そして、セイも...
俺の音楽を受け入れてくれた。

セイだって
歌う事を夢見ていた。

それを知っていたから...

だから、今。

「ほら、セイ。
もう一回、音合わせするぞ。」

俺の作詞作曲した
楽譜をセイに託して、
ピアノへと向かう。

アメリカに戻り
初めて作った曲。

その曲で
全てが整い次第
セイのデビューが決まっている。

日本を発つ時。

俺が想っていた事が
ひとつ、ひとつ叶えられていく。

そう...

大切な友達の

セイの夢を、一緒に叶えたい。

そして...

セイのデビューが成功した時
俺は...

優輝の胸へと帰る、と
心の中で呟いた。

今、こうして
セイと向き合いながら

音楽をやる。

その事が
優輝の望んでいた、

俺の答え。

だから
今、俺はアメリカでの日々を
毎日精一杯、生きている。

-優輝side-

季節が過ぎて行く中で

キミの居ない
この街には

また

新しい想いが

芽生え始めているよ。

「なに?また溜め息？」

BARのカウンター越しに
俺はノリに呆れた様に
笑って見せた。

凪が日本を発って
少しした頃

こうやってノリは
たまに一人でBARに
やって来ては、溜め息をつく。

その理由は...

俺から言うのも
難だが...苦笑。

ついこの間...

「なぁ、優輝ぃ?
俺って最近変だと思わねぇ？」

その日は
珍しく一人でBARに
来ていたノリに尋ねられ

俺は思わずキョトンとしていた。

「何が、変なんだ？」

首を傾げ、ノリに問うと
ノリはセットされた髪を
クシャッとして

「ん...なんか、最近あいつの
コトが頭から離れねんだわ;」

そう答えたノリの言うアイツ。

俺は名前を聞かずとも
それが誰なのか
気付いていた。

ノリは人の事には敏感なくせ
自分自身に関しては鈍感だ。

俺はそんなノリの姿が
可笑しくて

「ふーん。
ノリ、お前そりゃ恋だわ（笑）」

からかう様に言った。

ノリは一瞬黙って

「えッ...えーッッ!!!」

少したった時、顔を真っ赤にした。

そして
自分が恋をしていると気付いた時から

ノリはBARに来ては
こうやって溜め息をつく。

まぁ、いくらホストとはいえ
ノリは客以外に接する以外は
積極的ではないから無理もない。

そう思いつつも
いつもカリスマなノリが
そうやって溜め息をつくのが
可愛く見えた俺は

「そんな溜め息ばっかつくより
早く告っちゃえば!?」

なんて
からかう様にして遊んでみる（笑）

まぁ、当の本人は

「ばッッ!!!
そんな簡単な事じゃねーし!!」

そう言って
毎回、顔を真っ赤にする。

でも本当、俺は思う。

ノリには
幸せになって欲しい。

だって
俺と凪のときも
1番に協力してくれた大切な友達だ。

だから少しでも
ノリの恋を応援したい。

それに

凪がココに帰って来たとき
ノリが幸せになった姿を見て
驚く凪の顔が浮かぶ。

想像したら自然と笑みが零れた。

そんな風に
俺は、ノリの恋を見守っていた。

-マキトside-

「ねぇ??やっぱり
最近のノリ、おかしいと思わない?」

俺を見上げながら
淳哉さんが、腕組みをしながら
言ったのは

凪さんが、日本を発って
数ヶ月経った頃だった。

「ん～...やっぱり
淳哉さんも、そう思いますか。」

確かに...
ここ最近、ノリさんの様子が変で

その理由も
本人に聞ける機会も伺えないまま

僕と淳哉さんは
2人して、首を傾げていた。

いつもお調子者で
明るいノリさん。

そのお調子者なのに
整った容姿と

たまに見せる真剣さの
中身の深さで
カリスマを感じさせ

みんなから愛されるノリさん。

そんなノリさんが
珍しく、仕事の時にまで
何かを考えてるのか...

たまに溜め息をつく姿が
見えていた。

そんな、ノリさんが
僕は心配で気になった。

だってノリさんは...
僕にとって、大切な兄の
様な存在。

あの日だって...

ノリさんは、僕を支えてくれた。

ーーーーーー....。

「うぃっす!!どしたぁ？
一人でなんて珍しい。」

凪さんが、日本を発つ前日。

僕は、ノリさんのアパートへと
来ていた。

「はい、スミマセン...急に。」

僕がハハッと
笑って見せると
ノリさんはただ笑顔で

僕を部屋へと上げてくれた。

「お前の事だから...
凪の話でも、しに来たんだろ??」

冷蔵庫から取り出した
缶ビールを

僕に差し出すと
ノリさんは、僕の隣に腰掛けた。

ノリさんは...凄い。

僕が何故、此処に来たのかを
一発で当ててしまう。

「あはは。ノリさんは
鋭いですね。
...はい。一人だと、考えてしまうので。」

笑って見せると
ノリさんはそっと、僕の
頭を撫でてくれた。

そして
僕の話を静かに聞いてくれた。

明日...凪さんが日本を発つ。

その事を覚悟していたはずなのに...

眠れなくなりそうな今夜...

僕は

「...ノリさん。
ノリさんの恋愛って...
今まで、どんな恋愛だったんですか?」

ノリさんに質問した。

僕はただ、ノリさんに
甘えたかったのかもしれない。

こんな質問...

だけど、あまり恋愛の話をしない
そんなノリさんの恋愛が

僕のしてる恋と
どう違うんだろうって...

そう思って口にした言葉だった。

「ん～...恋愛ねぇ。」

何かを思い出すように
ノリさんが腕組みをした瞬間。

偶然にも
つけていたラジオから
あの曲が流れてきた。

そのメロディに
僕の胸はキュっと締め付けられて...

そんな僕に気付いたノリさんは

「...俺は、お前が羨ましいよ。」

ラジオから流れる
その音に耳を澄ませるように
目を閉じた。

僕は、ただ
ノリさんの横顔を見上げた。

そっと
ノリさんが閉じた瞼を
ゆっくりと開く...

そして
僕の視線と目が合ったとき

「...俺は、こんな風に凪の事を
想えるお前も、ずっと想われてる
凪の事も...すっげぇ羨ましく思うよ。」

困った様に笑って見せると

「俺は...誰かをそこまで
想った事も、想われた事もないから。」

優しいノリさんの手が
僕の肩を包んだ。

肩に伝わる
ノリさんの体温が

いつもお調子者の
ノリさんとは違う気がして

僕は思わず
ノリさんの手を握っていた。

「ノリさんも...いつかきっと
本気で想ってくれる一人に
出会えます！僕は...ノリさんの
幸せも願ってますから！」

精一杯の
僕なりの言葉で
伝えたとき

ノリさんは

「有り難う...マキト。」

僕が今まで見た事のない
笑顔で笑った。

それから
僕の背中を優しく叩いてくれた。

そんなノリさんの行動が

大丈夫だって...

明日の僕はきっと
笑ってるよって、言ってるみたいで

僕は安心出来た。

あの時
ノリさんが居てくれたから

ノリさんのおかげで
ちゃんと...

僕は笑って見送る事が出来たんだ。

だから僕は
ずっと、ノリさんの
最近の表情が気になって

仕方がなかった。

あの日...

部屋の中に流れていた
曲は

まるで
ノリさんの表情にも当てはまるような

凪さんの

メロディだった。

更新ノロマでスミマセン(>_<)

あげ↑有り難うございます。
久しぶりに更新します(^ ^)

-淳哉side-

「ねぇ、ノリ？
最近なにか、あったのぉ？」

店での待機中
奥のソファーに腰掛ける
ノリに尋ねてみた。

だって！
ずぅ～っと気になってたんだ。

ノリの最近の様子...

「ん～?なにって...何がぁ？」

そんな僕の問いかけに
いつもの調子でノリが笑うから

「何がぁって!...僕が聞いてんの!
答えになってないじゃんかぁ。」

ノリの目の前に座り
頬を膨らませて見せたけど

ノリはハハッと笑って
僕の頭を軽く叩いた。

何だよっ！
心配してやってんのにぃ...。

少し不貞腐れたように
ノリを軽く睨みつけた。

その瞬間...

「なぁ、淳哉？
お前、まだ...優輝のこと好きなのか？」

いきなりのノリの台詞に
僕は一瞬、目を丸くさせた。

だって不思議でしょ!?

だけど、ノリの表情を見たとき

「ううん...好き、だけど。
今までの好きではないや。
なんてゆーのかな...幸せな優輝の姿が
今は大切な友達として大好き！」

笑って、素直に気持ちを伝えた。

僕の言葉に
ノリは小さく笑って頷く。

そんなノリの視線の先には...

それで何となくだけど
僕は分かった。

最近、なんでノリの様子が可笑しいのか。

なんだか、ちょっとだけ
胸が暖かくなって

「ねぇ、ノリ??」

僕に視線を戻したノリに

「恋愛って、難しいけど
なんにもしなきゃ、後悔するよん!?」

僕の言葉に
ただノリは驚いてたけど。

僕は僕なりに
ノリの背中を押してみた。

「ファイト！ノリ！」

ニカッと笑ってみせると
ノリは困った様に頭をボリっとかいた。

ノリは大切な友達だし
仲間だから。

後悔なんてして欲しくない。

それに...

案外、ノリとあの人は
相性いいかも(^ ^)

僕の分も
みんなには幸せになって貰わなくちゃ！

素直にそう思う。

-ノリside-

《本当のあなたが見えない。》

そう言って
付き合う人は皆、俺の前から
居なくなっていった。

今、思えば
追いかけるコトだって出来たはず...

でも、それをしなかったのは
俺もそれほど相手の心を
見ていなかったから...

そう気付かされたのは
あの日から

恋に落ちていたと
気付いた時だった...。

「凪さん...元気にしてますかね。」

休日。

俺の部屋に来ていたマキトが
凪が日本を発つ前に撮った
集合写真を手に呟く。

微笑みながら
写真を眺めるマキト。

凪が日本を発ってから
こうして休日になると、俺の部屋に
来るようになっていた。

マキトが、凪の名前を呟くとき
決まって俺は切なくなる...。

だから...

切なくなる度に

「何言ってんだよ！
元気にやってるに決まってるじゃねーか！」

俺はいつも笑って
マキトの肩を叩く。

「ハハッ。そうですよね！」

俺を見上げ、笑うマキトに
胸が高鳴る。

いつだったかな...

「なんにもしなきゃ、後悔するよん!?」

って、淳哉が言ってたな。

後悔...か。

したくはないが、今でも
こうやって凪の話しをするマキトに
想いを伝える事など
俺には考えられなかった。

それに...

誰かを想って(切なくなる)って事を
知っただけでも

俺には大きな出来事で

何より、今の関係が
変わる事が少し怖かったりする。

まぁ、そんな感じなんだけど。

休日にも会えるのは嬉しい。

だけど、こうやって部屋に2人だと
柄にもなく緊張してしまう。

そりゃ、好きな奴と居ればそうなるだろ？

「そ、そろそろ優輝の店が
開く時間だな！行こうぜ!?」

そう言って
毎回、優輝の店に逃げる始末。

はっきり言って、
ここまで自分が緊張すんのかと
思うほどに

こんな感覚は初めてだった。

そんな日々を送る中

俺の知らない所で
何かが始まっていた。

-優輝side-

「はぁ～...こんなんじゃ
俺の心臓が持たねぇよ...」

店に来ていたノリが
溜め息をつく。

そんなノリの様子を目に
俺は思わず笑ってしまった。

近頃、休みの度に
ノリとマキトが2人で店に
来るようになっていて

マキトがトイレやなんやで
席を外すと

こうやってノリは
息を吐く。

「大丈夫か～?（笑）
まぁ、マキトも満更じゃないんじゃね?」

そう言って
ノリに笑って見せるけど

ノリは軽く俺を睨み

「お前はまた何を根拠に...
そもそもアイツはまだッ...!」

言いかけた所で
俺に気を使ったのか
言葉をとめ

残りのビールを口にし
再び溜め息をついた。

まったく...（笑）

「凪の事だろ!?
大丈夫だって。もうマキトも
凪の事は大切な先輩くらいにしか
思ってないと思うけど⁇」

空になったグラスを受け取りながら
ノリに笑って見せるけど

ノリは頬杖をついて、
注がれたばかりのビールを口にした。

「凪さんは、今でも好きです...
でも、この気持ちは恋...じゃなくて
今では、もう別の好きなんですよ。」

以前、珍しく一人で来た
マキトが言った言葉を

俺は思い浮かべながら
ノリを見つめていた。

それはつい、この間の話で
話しをしていたマキトの表情に
俺は何処か安心した。

凪が日本を発って
半年以上。

徐々に俺の周りは変化していっている。

「優輝さん。
僕が居ない間、何を話してたんですか?」

トイレから戻って来たマキトが
ノリの隣に腰掛けると
尋ねてきた。

ノリはとっさに俺に目配せをしたが
面白く感じた俺は

「さぁ？なんだっけ？
なぁ、ノリ～（笑）」

意地悪く笑うと
わざとノリに話を振った。

「んあっ!?あっ...いや;
しっ、仕事の話...とか!?」

焦ったように一生懸命答える
ノリが酷く面白くて
俺は声を上げて笑ってしまう。

「ちょっ!?おまえ～‼」

そんな俺を軽く睨むノリ。

そのノリの隣に居るマキトは
ノリの顔を覗き込むと

「え～⁇何だか怪しいですねぇ。」

と、からかう様子で言う。

「だからぁッ‼
仕事の話だっつってるだろ!?;」

マキトの方に顔を向け
精一杯に言ったあと

その顔の近さに驚いたのか

「～～～ッ///ふんっ！」

ノリはソッポを向いてしまった。

そんなノリの行動に
俺とマキトは視線が合うと
笑い合った。

そんなノリとマキトが
俺にはとても微笑ましくて...

それに

「最近、ノリさんが可愛いくて
つい、意地悪しちゃうんです。」

この間、マキトが笑顔で言った台詞。

たぶん、ノリの気持ちには
気付いてないのだろうけど（笑）

ドSなマキトは
このノリの反応が面白いらしく

年下のくせに、何かとノリを
からかってはその反応を楽しんでいる。

その話を良く淳哉としては
笑っていた。

2人はどうも...。

そうお互いに思った俺と淳哉。

だから、ちょっと

「楽しみだねー！優輝♪」

面白い計画を
淳哉と立てている事は

まだあの2人には秘密にしておこう（笑）

-ノリside-

羊が一匹...羊が二匹...

「だぁーッ‼もうッ‼
眠れるわけないじゃんッッ‼」

部屋の中

ベッドに潜り込んでいた俺は
勢い良く毛布を押し退け
起き上がった。

何で眠れないのかって??

そんなん...
あれは一週間前、優輝に呼び出され
店に行った時の事だ。

『えっっ‼?』

驚く俺と、隣に居た
マキトの声が、重なり店の中に
響いた。

驚いたのは、優輝の

「来週、四人で旅行に行くから。」

笑顔で言ったこの一言のせい。

「ちょッ！そんな急にッッ！」

「そうですよ!?
僕たち仕事もありますし...」

俺とマキトが焦った様子で
訴えると

「それなら心配いらないよー!?」

横から、淳哉がニコニコと
出てきた。

「マジッ!?」

再び俺が驚くのを尻目に

「ほぉ...準備がいいですね。」

と、感心するマキト。

俺が驚いて
ただ目をぱちくりさせてると

「ふん（笑）
チャンスじゃない??」

目が合った優輝の言葉に
俺は顔が熱くなるのを感じた。

764

1番最初に淳哉の台詞で

「オーナーにはもう、OKもらって
るから(^ ^)」

が入ります。
スミマセン(>_<)

四人で、とはいえ
好きな奴との旅行を急に知らされて
平気で居られる訳がない。

だから今、俺が眠れずに居るのは...

明日が、いよいよ
その旅行に出発するからなんだょ。（；＿；）

しかも‼

店が終わった後に

「明日から楽しみですね。
迎えに行くので、ちゃんと準備
しといて下さいよ!?」

なんて
楽しそうにマキトが
俺の肩を抱いてくるから...;

そのせいもあって;

俺...二泊三日も持つかな⁇

と心配で(･_･;

そんなんばっかり考えてると...

「...リさん!?ーーノ、リさーん！」

.....ーー。

聞き覚えのある声が聞こえて

何だか、身体が揺れている...。

その感覚に、僕の意識が少しだけ
現実!?に引き戻され

.....!?

「ッッ‼」

目を開けた瞬間に
言葉が出なくなってしまう。

「やっと起きましたね。
さっ！早く仕度して下さいね？」

目の前の顔が
笑顔で、そう言った。

「なっ///なんでッッ!?」

一気に胸が早くなり、俺は
思わず口にした。

「なんでって（笑）
どーせ、寝坊でもすると思って
早めに来てあげたんです。」

「ブッ‼---////」

意地悪く笑って
俺の鼻をつまむと
リビングのソファーに腰掛けた。

あ...;
朝からこんなドキドキいらね～‼

パニックになりそうな
自分自身をおさえ、俺は身支度を済ました。

-マキトside-

「もぉー‼遅いよっ2人共！
急いで‼」

淳哉さんが空港のロビーで
頬を膨らませた。

「眠れなかったなんて、
あなたは遠足前の小学生ですか（笑）」

なんて、隣のノリさんに突っ込むと

「～ッッ!うるさいっ！
...しょーがねーじゃんッッ‼」

と言って、顔を赤くし
僕の背中をかるく

771

かるくの後は叩いたです。
スミマセン。

そんなノリさんの姿が
可愛くて
思わず僕の頬は緩んでしまう。

そして沖縄についたあと
移動中に寝てたノリさんの顔を
デジカメに納めたりした。

素直に楽しんでいた。

だけど...

「ノリー⁉次はあっち行こうよ‼」

ノリさんの腕を掴んだ淳哉さんが、
楽しそうに言う。

沖縄に着いて
観光しているあいだ
僕がノリさんに構うヒマがないほど

淳哉さんはノリさんにくっついていて...

「マキト！写真お願い！」

淳哉さんのデジカメを渡され
綺麗な海をバックに

カシャッ！-----。

シャッター越しに2人をみつめる。

楽しそうな2人の姿に
何だか胸のあたりがモヤモヤし始める。

「はい。撮れましたよ。」

淳哉さんにデジカメを返すと

「ありがと！マキト。」

笑顔で礼を言う淳哉さん。

こんな綺麗な海を目の前に
本来なら、はしゃいだりするはず。

なのに
何なんだ、この胸のモヤモヤ...

「よーし！じゃ、次はあっちね！
マキトも早くぅ～！」

元気の良い声が
僕の名前を呼ぶけど

そんな淳哉さんの腕は
相変わらずノリさんの腕へと
絡みついていて

淳哉さんのそんな行動を
気にするコトもなく
笑っているノリさんに

何か、無償に腹が立ってきた。

そんな僕の様子なんて
気付く訳もなく

優輝さんは自慢のカメラを手に
風景を撮るのに夢中だし...

「僕はここに居ますから。
2人で行ってきて下さい。」

淳哉さんとノリさんに
そう伝えると

「えっ...?マキト行かないのかよ。」

ノリさんが少し寂しそうに言った。

そんな言葉ひとつに
ちょっとだけ、嬉しくなったが

「マキト行かないのぉ？
じゃ、2人で行こうよ！」

隣の淳哉さんがノリさんの
腕を引いて行ってしまった。

1人で海を眺める。

突然の沖縄旅行...

僕は、ここに来てからの
出来事をふり返り

まさか...!!

あるコトに気付いた。

淳哉さんのノリさんへの行動...

もしかして、淳哉さんは
ノリさんの事を？

そう思ったとき、もしかして
この旅行は
淳哉さんがノリさんにアピールする為の
旅行なのかも。

確信ではないが、今日の淳哉さんの
行動を見ていると
あり得なくわない。

そう考えると

自分自身、何か分からない感情が
こみ上げてくるのを感じた。

一日目の観光の間

2人の姿を見つめては
この感情が何なのか、答えを
見つけようにも
見つからなかった。

-淳哉side-

「ねぇ!マキトの反応、どうだったぁ？」

ホテルの部屋の中
僕との相部屋は優輝。

荷物の整理を終えた僕は
優輝に尋ねてみた。

「んー。結構効いてると思うぞぉ（笑）」

僕に笑顔を向ける優輝。

そんな優輝に

「よっしゃ！
じゃあ、もうちょい、やってみますか（笑）」

意地悪い笑顔で僕は優輝に
ブイサインをしてみせる。

「おう！」

すると、優輝も同じ様に
ブイサインをした。

んふふっ♪

だからね...

「このお肉トロトロ～‼
ほらっ！ノリも食べてみて⁉」

夕飯と共に、お酒を楽しもうと
入った居酒屋さん。

そこに四人でテーブルを囲むと
僕は自分が食べているお肉を
お箸で取るとノリに差し出した。

確か、ラフテーとかいう
ぶた肉の角煮。

「えっ⁉あ、あぁ...」

あーんっして、と言わんばかりに
差し出す僕のお箸を
一瞬、戸惑いながらも
ノリはそのお肉を口にした。
お箸で取ると

782の最後のお箸で取ると
は、関係なぃです(^_^;)

スミマセン。

「んっ、んまッッ‼」

それを口にしたノリは
感動した様子。

それを見た僕はわざと...

「でしょぅ？
ほらっ！マキトも食べなよ！？
お肉、好きでしょ～！？」

そう、言っただけで
ノリにした様にはしなかった。

その時のマキトの表情を見て
僕は静かに心の中でガッツポーズをする。

なんでって？（笑）

だって
明らかにマキト、眉にシワまで寄せて
不機嫌な感じなんだもん♪

そんなマキトの姿に
僕は優輝と目が合うと
ウィンクをした。

どうして僕がノリに
ベタベタするかって？

そりゃ『好き』だから。

な～んてね（笑）

これは僕と優輝の作戦なんだぁ(^ ^)

自覚の無い人には
自覚させなきゃ！

こっちがモヤモヤしちゃうでしょ？

だからね(^-^)

僕は

「沖縄来て良かったね♪ノリぃ！」

わざとノリにくっついて
ラブ光線！を出してみせる。

だけど...

お酒も進むにつれて
少しだけ、僕...調子に乗っちゃったみたい(^_^;)

「あちゃぁ...やりすぎちった(･_･;」

「えっ！？なにを？」

思わず口に出してしまった
言葉に、ノリが反応するから

「う、うぅん！
何でもないよ！？」

と、笑って誤魔化しながら
優輝の後ろ姿を見送った。

-優輝side-

「どうしたんだ？
そんなに、苛ついて。」

トイレの中で
俺はマキトに問いかけた。

その理由は、テーブルでの出来事...

「ねぇ、ノリぃ？
僕ねぇ～今日すごぉく楽しい♪
ノリは楽しい～⁇」

少し酔った様に、
淳哉がノリの腕に自分の腕を
回しながら言った。

「おー。俺も楽しかったわぁ。」

泡盛を片手やな
ノリは上機嫌で淳哉に笑った。

「えへ～♪
ノリも楽しかったんだぁ！
良かったぁ！」

そう言ったあと
淳哉が...

「ちょっ！淳哉っ！」

さすがの俺も焦る。

何故なら、淳哉のやつ...
ノリの頬に...

ガタッ！！

その瞬間、俺の隣りにいる
マキトが立ち上がって

「...少し、お手洗いに行ってきます。」

笑顔で言ったが、目が笑っていない(･_･;

スタスタとトイレへ向うマキト。

その姿に
溜め息をひとつ吐くと
俺はマキトを追いかけた。

バシャッ...!!

と、水音がして
そこには顔を洗うマキトがいた。

そんなマキトに問いかけると
マキトは鏡越しに

「少し、飲み過ぎたようで。
もう大丈夫ですよ。」

ニコッと笑った。

質問の答えになっていない
その言葉に

まったく...
頑固というか、鈍感なだけというか。

自分の気持ちに気付いてるのか
気付いてないのか...

そんなマキトに
少しだけ呆れながらも

「ま、いいけど。
自分には正直になった方がいいぞ？」

肩を軽く叩くと
俺はトイレを後にした。

その後。

やりすぎたと自覚したのか
淳哉はマキトが席に戻る頃には
ノリから少し離れていた。

「ごめぇん。
ちょっとやりすぎちった(･_･;」

ホテルの中
反省したように淳哉が言うか。

792

言うか。じゃなくて
言う。です(^_^;)

「あれはちょっとな。
でも、確実にマキトには効いてるぜ？」

淳哉の頭金を撫でながら
笑ってみせる。

「だよね！
明日には2人が...んふっ♪」

「まぁ、一応反省しろよ？
でも、明日には変わってると
いいな。」

そんな会話を交わし
俺たちは眠りについた。

-マキトside-

何で、こんなに
イライラするんだろ...

淳哉さんが
ノリさんの事を好きだとしても

僕には関係の無い事なのに。

そう思っても
居酒屋での出来事を思い出すと
また、胸がモヤっとしたモノに
包まれる。

「ノーリ♪」

はしゃぐ淳哉さんが
ノリさんにまた、ベタベタ。

そして...

「ちょッッ！おまっ///」

真っ赤な顔で
頬を押さえるノリさん。

淳哉さんの口唇が...

ノリさんの

頬に触れた。

それを、目の当たりにした僕。

なんだか...
イライラする。

どうしようもない
苛立ちに襲われて

僕な、思わず席を立った。

そのままトイレへと向うと

優輝さんが
後から入ってきて...

質問をされたが、

せっかくの旅行だし、
意味も分からなく苛ついてるなんて

余計な心配もかけたくないし。

変に思われたくなくて

笑顔でその質問に答えると
トイレを後にした。

だけど...

ホテルに戻り
シャワーを浴びながら

(自分には、正直になれよ。)

優輝さんの言葉が
引っかかていた。

僕の....正直な気持ち？

考えるが、その言葉の意味が
分からない...。

そのまま
シャワーから出た僕に

「いやぁー。
今日は楽しかったな！」

髪をタオルで拭く僕に
相部屋のノリさんが笑顔を向けた。

なんだか、その笑顔すら
憎たらしく思えて

「...そうですね。」

なんて、少々冷たく答えてみたけど

「泡盛って、結構効くなぁ～！」

お酒で火照ったのか
ノリさんは手をヒラヒラとさせ
風を送りながら

僕の気持ちなど
全く気付かないようすで

「ハハッ。
淳哉だって酔ってたし（笑）

それで俺にチューまでしたしな！」

楽しそうに言った瞬間。

「ーーっ!?
なに、すんだよっっ？」

居酒屋での
あの場面がフラッシュバックしてきた
その時に

無意識のうちに
ノリさんの腕を掴んでいた。

急に、僕に腕を掴まれたせいで
ノリさんは目を丸くし
僕を見上げている。

「...あなたは、淳哉さんに
キスなんかされて、嬉しかったんですか？」

そんなノリさんに
気づきながらも、僕の口は
止まってくれなかった。

自分の中にあった
苛つき、が

「はっ⁉」

嫉妬だと...気づいたら
どうしようもなくて

ノリさんの腕を掴む手に
力がこもる。

「なっ！...んなっ、嬉しいなんて...」

言葉に詰まるノリさん。

その頬が
お酒のせいでなのか、そのキスの事を
思い出してなのか

少しだけ、赤く思えた。

それに加え、僕から目を反らすから...

「...ほら。
図星だから、僕から目を反らすんでしょう？」

イラっとしながらも
ノリさんを見つめ、言葉にした。

するとノリさんは

「違うって‼」

僕を軽く睨みつけると
バッチリと目があった。

何が違うって？

そう、感じた僕は

「じゃあ、なんでこんなに
嬉しそうに話すんですか？」

ノリさんに
首を軽く傾げてみせた。

だけど
ノリさんは、僕の質問に
答えることなく

ただ、さっきよりも
顔を赤くして僕の事を見上げた。

しばらく、
何も話さずに
お互い見つめあったまま...

ノリさんが
赤くなってる意味も分からなくて

その沈黙状態に耐えきれなくて

「ハァ...。すみません。
今日は少し、酔っているみたいです。」

僕は、先に視線を反らした。

掴んでいたノリさんの両腕を
ゆっくひ離すと

自分のベッドまでいき
腰掛ける。

それから、やっと
自分の気持ちが何か、整理して

反省した。

いきなりノリさんの腕を掴んだ事。

「...明日も早いですから。
今日は...お休みなさい。」

ノリさんの顔すら
見る事も出来なくて

寝るそぶりをし、布団に顔を
埋めるけど

横になっただけで
その日は

眠れなかった。

-ノリside-

掴まれた両腕が...まだ熱い。

怒った様子で
俺の腕を掴んだマキトが

「ハハッ！
すっごい、綺麗な魚ばっか！」

エメラルドグリーンの海の中を
覗いてはしゃいでいる。

何だったんだよ...昨日は！

そう思い、少しだけイラっとする。

昨日はマヂで
マキトにビックリしたのに...

なんでアイツは
あんなに笑ってられるんだっ！？

砂を指でいじりながら
考えてると

考えただけ...

「もうっ！俺も泳ぐっ！」

ムシャクシャしてきて
勢いのまま、海へとダイブした。

けど...ダイブしたまでは良かったんだけど。

「わッッ！？」

ヤバっ;
あっ！足がっっ！

日頃、夜行性だったし
ずいぶんと運動してなかったせいだ。

身体がなまっていたのかも...

不覚にも足が吊ってしまい
俺は必死で助けを求めた。

でも...

もう、無理...。

身体が沈んでいくのがわかるし、
苦しいのがだんだん薄れて

何だか、目も開けらんなくなってきた。

優輝...淳哉...

ーーーーマキト。

意識が遠のく中。

最後に呼んだのは
マキトの名前だった。

ーーーー....。

俺。
死んじゃったのかな...?

ふわふわした感覚。

真っ暗な視界。

あぁ...
死ぬんなら、ちゃんと伝えときゃ良かった。

マキトに...自分の気持ち。

そう思った時。

「の、りさん！...ノリさん！！」

...へっ！？

名前を呼ぶ声が
すぐ近くに聞こえ

「おいっ！！しっかりしろよ！」

「イヤだぁ！ノリぃーっ起きてよぉ！」

ふわふわした感覚が
だんだん、揺れている感覚に変わり

それから少しずつ
真っ暗だった視界に光が刺してきた。

「...あ、れ？...俺。」

意識が少し戻ったところで

生きてた？
なんて思い、目を開けた瞬間。

ーーーーっっ！？

「よかっ...たぁ。」

ギュッと、身体に温もりを感じて
生きていたんだと実感した。

「痛いって...マキト。」

ギュッとしてくれる、その腕の強さに
少し笑いながら言うと

「このバカっ！痛いって、心配かけといて！」

「ノリが...生きてるぅー！」

優輝には頭を軽く叩かれ
淳哉にまでギュッと抱きつかれ

「あはっ...ごめん！;」

頭を掻きながら、謝ってみた。

「まったく。海で溺れるなんて...
始めて見ましたよ、そんな人。」

念のためにと、病院に寄った帰りの車の中
後部座席にいた俺は、隣にいるマキトに
毒を吐かれ続けていた。

「いやぁ～。ほんとにゴメンってぇ;」

顔の前で両手をついて
マキトに謝っていると

「まぁ、マキトが一番心配してたもんねぇ。
いやぁ、しかし！あの時のマキト、格好
良かったよね～♪」

助手席の淳哉が、意味有り気な笑顔で
振り返る。

「だなぁ。あれは格好良かった！
すっごい勢いだったしなぁ。」

運動席の優輝まで、ミラー越しに
笑う。

「それ以上言うと...怒りますよ？」

マキトが2人に言うけど、その会話が
何なのか、分からない俺は

「なんの話してんの？」

首を傾げる俺に

「ノリを助けたのはマキトなんだよ～ん♪」

淳哉が教えてくれたけど...

ゴンッ！

「いった～い！」

俺がビックリする中
淳哉はマキトに軽くゲンコツを食らっていた(苦笑)

みんなに心配かけたのは
ほんとに申し訳ないと反省した。

でも

淳哉が教えてくれた事が
嬉しくて

「なにニヤついているんですか？
死にかけて心配かけたくせに。」

マキトの意地悪な言葉にさえ

「申し訳なぁい！」

と、笑顔で言ってみせた。

-マキトside-

まったく...
何でこんな無邪気に笑って居られるんですか。
この人は。

車の中、僕の隣で笑う
ノリさんの横顔を見てると
思わず溜め息が出る。

あの時、海面にノリさんの着ていた
シャツが浮かんでいるのを発見した時は
心臓が止まるかと思った。

そして、慌ててノリさんの元に
駆けつけて身体を支えた時も...

なのに。
こんなに元気だなんて。

つくづくこの人は...

なんて、呆れながらも
その元気な姿に安心していた。

それから、思った事が一つ。

凪さんの事を、思っていた時は
片想いで...
優輝さんの代わりでもいい。

そう思っていたけど...

この人、ノリさんには
僕くらいの心臓の持ち主か、タフな奴じゃなきゃ
ダメなんじゃないかって。

もし...この想いがまた
片想いだとしても。

僕は絶対に振り向かせてみせる。

そう、思った僕は...

「ちょっと、話があるんですが。」

ホテルに着くなり、ノリさんを
部屋のベランダへと手招きした。

「話ってぇ？あっ！まだ昼間の事
怒ってんのかよ～！？」

海での事を、僕にまた言われると
勘違いしたノリさんは口を尖らせながら
僕の隣に立つと

「ごめんって～！」

と、僕の肩に手を置いた。

でも、僕が話したいのは
そんな事じゃないんです。

「ノリさん。」

名前を呼び、肩に置かれた手に
そっと触れると

「へっ...?マキト？」

驚いた様子で、僕を見上げる。

その丸くなった瞳を見つめたまま

「僕が、これから話す事。
よぅく聞いてて下さいね？」

「なっ、なんだよ！？急に...」

僕の真剣な表情に戸惑ったのか、
少し御茶らけながら、ノリさんは
目を反らした。

そんなノリさんから僕は視線を
反らす事なく

「ノリさん？僕は...」

と話し始めると
ノリさんは笑顔で僕を見上げると
また

「もう～！なんだよっ！そんな顔してぇ。」

御茶らけて見せるけど
握ったノリさんの手に微かに力を込めた。

その微妙な力に気付くコトのない
ノリさんに

「あなたのコトが、好きみたいなんです。」

そう言い、ノリさんと向き合う。

「........。へっ？？」

目を丸くするノリさん。

そのリアクションが、あまりにも
想像していた通りのリアクションで
思わず、笑みが漏れる。

でも、今度は僕が目を丸くする番。

何故なら ...

「...嘘っ。お前が？....俺を？」

涙を瞳に浮かべ、僕を見上げるから

「ちょっ！？ノリさん ...??」

焦った僕が、その頬に触れると
勢いよく、ノリさんが僕の胸の中に
飛びこんできた。

その勢いに、少し驚いたものの

「冗談...なんかじゃないよな？」

可愛いらしいノリさんの問いかけに
また、笑顔になってしまった。

「ノリさん...？少し、顔を上げて
くれませんか？」

僕を見上げたノリさん口唇に

ちゅっ ...

と、軽くキスをした。

「 ..冗談なんかで、こんな事 ...しませんよ？」

笑ってみせると
目の前のノリさんは、顔を真っ赤にした。

誰か読んでます？(^_^;)

読んでますよ^^*

読んでます

いつも更新楽しみにしてます

がんばってください

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読んでくださり有り難うございます。

更新遅くなってスミマセン(^_^;)

更新しまぁす(^-^)

-ノリside-

こッ...こんな時にまでドＳ!?

マキトに好きだと言われて、
信じられない急な展開でまだ少し
頭がついていけてない状態なのに...

こいつは...！！

「まだ、聞いてませんけど？
ノリさんの...気持ち。」

いつものドＳスマイルを見せるマキトを
見て俺の顔が一気に熱くなった。

絶対...俺の気持ちなんか
とっくに知ってるくせに...！

ギュッと拳に力が入った。

だって、「好き。」だなんて
今まで本気で口にした事がないし。

どうしたらいいのか分からない俺の
顔を、マキトが覗き込んだ。

「...ホントに。
あなたは不器用なんですね。」

フッと笑顔を見せるマキトは

「よいっしょ、っと！」

「っ！？わっっ！」

急に身体が浮いたと思ったら
マキトに抱き上げられていた。

その行為に驚いてるうちに

ドサッーー！！

「ちょっ！？何すんだよ！？」

ベッドに放り投げられ
マキトを軽く睨みつけたが、
その表情を見て鼓動が一気に速度をあげた。

「僕の事が...好きなんですよね？」

さっきまでのドＳな顔じゃない。

いつものキリッとした眉が
八の字に下がった...包み込むような笑顔。

マキトには...勝てないな。

思わず、心の中で呟いた。

だけどやっぱり、「好き。」なんて
口にするのは恥ずかしくて...

「オッ、オレも好きだから！！」

緊張のあまりに、思ったよりも
デカい声が出てしまい

「～～～～～～～っっ／／／」

ますます恥ずかしさが増して
言葉が出てこなかった。

そんな俺を見たマキトは

「ぷっ...あはは！
ホントにあなたって人はっ！」

面白いとばかりに声を上げて笑う
から

こんのッ！
人がせっかく勇気振り絞ったのに！

あの顔は何だったんだ！
演技か！？
だとしたら何処まで小悪魔なんだ！

と、心の中で突っ込みを入れた。

でも...

「ホントに。
何処までも可愛い人ですね。」

そう言って、俺の頬に触れるから
また鼓動が速度を増していく。

そして...二回目のキスをした。

二回目は、俺から。

ホントは軽くキスするつもりで
したのに

ーーーっ／／／

「んっ...ハッ...」

マキトが頭を押さえつけ、
深くキスをしてきた。

いきなりで、驚きながらも
それに答えようと頑張ったけど

キスしている間

自分がこんなにもドキドキするなんて
今まで知らなかった。

こんなに...優しい温もりも
今まで知らなかった。と思い、胸が
温かくなった。

そして

口唇がゆっくりと離れた時。

「...ノリさん。
今すぐ、あなたが欲しい...」

真剣な顔で言ったあと
マキトは自分のシャツに手をかけ

俺の瞳は、現れたマキトの
身体に釘付けになる。

それくらい、マキトの身体は
綺麗で...

「僕に...触って下さい。」

俺の手を取り、胸に当てるマキト。

肌の感触に戸惑いながらも
真っ直ぐ俺を見つめるマキトの身体を

そっと、撫でた。

「んッ...。」

マキトの身体がピクッと反応したのが
分かったその瞬間...

俺はマキトに深く口付けていた。

ドサッ...と

今度は俺がマキトの上へ
覆い被さり

「...フゥッ...アッ...」

マキトの身体にキスを落としていった。

たまに...マキトから漏れる吐息が
凄い色っぽい。

身体中を愛撫していくと

「ヒァッ！？...ンッ、ノリっさ...そこっ..」

丁度、身体の中心に口唇が近づいた時に
マキトが一際、色っぽい声を発した。

マキトの自身に触れる...

その度に、マキトが俺の名前を
甘い声で呼ぶ。

いつも、ドＳなマキトが
今は俺の肩に腕を回し、感じてる。

それが酷く嬉しかった。

下の蕾にそっと指を滑り込ませると

「ーーっんッ！...やっ...もっ／／／」

涙目のマキトが、俺を見つめる。

もう、我慢の限界だった。

「ごめッ...俺っ、余裕ない。」

「ーーーっっ！ンッ！ああっ...！」

ズッ...とマキトの蕾に
自身をあてがうと、沈み込ませていった。

マキトが辛くないように
精一杯、優しくした。

「フッ...ンぅ。ノリ...さ、んッ！」

いつもキリッとした表情のマキトが
感じてる姿は

あまりにもエロい。

綺麗な顔にエロさが足されると
こんなにまで....と少しの驚きも知れた。

そして...

「マキト...俺っ...!」

絶頂を訴えかけると
マキトは俺身体にしがみつき

「僕...もっ！ンアアッ！」

....ーーー。

2人で絶頂を迎えた。

こんなに...

幸せな事、今まであったっけ？

「ノリさん。...好きですよ？」

微笑むマキトに、小さく笑って
キスをした。

なーのーにーッッ！

「早くしないと置いてきますよ。」

次の日には
いつものドＳなマキト。

今朝だって
俺が気持ち良く眠っていたのに...

いきなり布団剥がしやがって( *｀ω´)

キッチリ準備を終えたマキトが
ブーたれてる俺を椅子に座り見ている
から

少々、反撃しようと思い...

「昨日はあんなに、
可愛いかったのになぁ～。」

と、意地悪く笑ってみせた。

でも、マキトは椅子から
立ち上がり俺の側にくると

「僕、どちらもいけるんで。

帰ったら覚悟しといて下さいね？♪」

耳元で囁いたマキトの言葉に
驚き、その顔を見上げると

「～～～～っっ！／／／」

そのドＳな笑顔に
負けた気がして悔しくなった。

だけど...

こんな風に
マキトと笑い合える事が

幸せ。

だと、心から思えた。

この気持ちを、ずっと ...

大切にしようと、マキトの手を握った。

☆姫です☆

思ったよりノリとマキトの話が
長くなってしまぃました(^_^;)

優輝と凪の今後も、この後から
書いていきますので♪

これからも読んで下さると嬉しいです(^-^)

-凪side-

優輝や...
みんなは、元気にしてるのかな...。

そう呟いて、見上げた空は
真っ赤な夕日に染められていた。

「ナギっっ！！
やったよ！入ったよ！」

大きな目を輝かせながら
セイが駆け寄ってきた。

今日は...セイが歌を出して
丁度、一ヶ月。

念願のデビューを果して
始めてのランキング発表。

新人では、本当に珍しいくらいの
順位で ...

「おめでとう...セイ。
それから、ありがとな。」

俺を見上げるセイの頭を撫でると
何故かセイの表情が、少しだけ
暗くなった。

「...うん。でも、なんだか寂しいな...
嬉しいのに、複雑だよ。」

そう口にすると
悲しげに眉を下げて笑うセイ。

「ん...でも大丈夫。
俺たちはずっと繋がってるから。」

セイの頭を撫で、笑顔を見せると

「...僕、ナギの曲でデビュー出来て
本当に良かったよ！」

俺を見上げると、最高の笑顔を見せてくれた。

俺の曲...

その曲で、セイがデビューを果した。

俺が再びココに来た時に、立てた目標。

それが今、達成された。

そして...
その目標が達成された時。

俺は....。

「...久しぶり。」

あの日、持っていった少しの荷物を
手に空を仰いでみる。

吸い込んだ空気の香りが

早く...あの人に ...。

と想わせた。

早く。そう逸る気持ちを押さえながら
向かった先には...

ポーン ....＿＿。

あの頃と、一つも変わらない
音があった。

懐かしい空間に ...懐かしい音。

その全てを
身体中で感じていた。

やっと...ここに。

そう思ったら、自然と鍵盤に向かって
指が動いていた。

あの頃は、弾く事が怖かった。

その曲を ...

今は、こんなにも大切に弾ける。

「luv'n you ...。」

そう、口ずさんだ時...

ガチャ...。

扉の開く音がした。

「...ただいま。」

そこには、会いたくて...
会いたくて仕方なかった人がいた。

鍵盤にあった指が
その喜びに震えてる。

「...おかえり。ずっと...待ってた。」

いつもクールなその人が
柄にもなく、涙目で両手を広げてる。

会いたかった。

ずっと...

やっと、会えた。

その両手に
俺は飛び込む。

抱き締められた身体が、暖かくて
おれも思わず涙した。

この想いは...

この温もりは、全部ホンモノ。

本物の ...優輝のもの。

やっと ...
俺たち、本当に結ばれたんだな。

一日中...

愛し合って。

一晩中 ...

離れていた期間の話しをした。

それは、とてもかけがえの無い時間で

きっと俺たちは、ずっと ...

こんな時間を過ごしていくんだろう。

優輝とのこの時間を

俺は永遠に大切にする。

だから ...

これから先、何があっても離れてりしない。
この絆は永遠だから ...。

そして
恋をした ...してる人に伝えたい。

君が好きな人には ...
ちゃんと「好き」って言ってほしい。

それが、どんな結末でも ...

キミの糧となり、キミの大切な人に
出会うための

大切な一歩だから ....。

....ーーーーー。

「えっ！マヂでっっ！？」

優輝との再会のあと
俺は、ノリ、淳哉、マキトに会ったとき

俺は驚きの声を上げていた。

「まっ、そうゆー事なんだよ（笑）」

ノリが照れくさそうに笑う隣りには
マキト。

そして
マキトはそんなノリの手を
握り、優しい顔で笑ってる。

正直、驚いたけど
なんだかんだ、似合いの2人だと思った。

マキトには ...幸せになって欲しかったから
本当に、良かった。

それに ...

淳哉も。

「僕ねぇ～今、恋してんだぁ♪」

なんて相変わらず可愛らしい笑顔で
言うから
思わず頭金をなでた。

優輝の腕のなかでも
安心できたけど、やっぱり
この五人が落ち着く。

恋、愛。仲間。

この全てが

俺の宝物。

....ーーーーーl。

fin。

ども(^ ^)

姫です！
更新遅いなか、読んで下さった方
有り難うございます♥

終わりかた中途半端でしたかね(^_^;)

スミマセン。

新しい作品も、書きたいので
読んでくれると嬉しいです(^-^)

スミマセン(^_^;)

言葉の訂正です。

淳哉の頭が、頭金になってます(T ^ T)

頭を撫でた。

で、お願いしまぁす！

あと、感想もらぇると嬉しいです♥
感想版ゎ、ストーリーの始まる前に
貼ってありますので(^-^)