記憶を売る本屋 2
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#215 [我輩は匿名である]
「…いいですよ、何を失っても」
フッと小さく笑って、優也が答える。
「今日子ともう1度会うためなら、僕はどうなろうと構いません。
病気で何度死にかけようが孤独になろうが、今日子さえいてくれればそれでいい。
彼女の為なら…」
優也は話ながら、両手を大きく広げてニヤリと笑う。
「どんな醜い人間にでもなりましょう」
彼の答えに、女性も同じように笑い返した。
:10/05/17 09:24
:N08A3
:jTxbwtII
#216 [我輩は匿名である]
「……………っていうやり取りがあって」
薫はチョークでいろいろ描き足す。
直人と飛鳥はそれをまじまじと見つめる。
「…だからお前、毎年インフルエンザかかるんだな」
「つーか、あんた絵下手だね」
2人は声をそろえて薫に言う。
「絵なんか上手くなくても生きていけるから良いんだ」
薫はムッとしたように飛鳥に言い返す。
「つまりその“代償”って、人によって違うかもしれないって事か」
飛鳥はまた腕を組む。
:10/05/20 22:46
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:PIPg2LvY
#217 [我輩は匿名である]
「多分な。あの人が誰なのかわからなかったけど…。
ただ、響子は看護師としての知識を全て無くしてるから、それが代償だったんだろう」
「ふぅん…」
「じゃあ俺、何取られたんだろ?」
直人もまた考える。
:10/05/20 22:47
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:PIPg2LvY
#218 [我輩は匿名である]
「薫ー帰ろー」
考えたり、黒板を消したりしていると、響子と奏子がやって来た。
「あぁ、ちょっと待って」
「俺たちも帰るか」
「うん」
直人と飛鳥も鞄を肩に掛け、薫と共に教室を出る。
「何の話してたの?」
奏子が3人に尋ねる。
「あぁ、本の事でいろいろな」
直人がポケットに手を入れて答える。
:10/05/20 22:47
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:PIPg2LvY
#219 [我輩は匿名である]
奏子は不満そうに「いろいろって?」と聞き直す。
「あ?んー…」
どう言えばいいのかわからず、直人は飛鳥に目をやる。
「なぁ、何だっけ?」
「……何で私に聞くの」
本の所持者だった事を奏子に話していない飛鳥は、逃げるように目を逸らす。
「お前から言い出しただろ?“代金”って何だったんだろうって」
そういう事には全く気が利かない直人は、怪訝そうに言い返す。
それを黙って見ていた奏子が口を開いた。
:10/05/20 22:48
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#220 [我輩は匿名である]
「飛鳥、本の事に詳しいの?」
「え…」
ドキッとして、飛鳥は奏子を見る。
意外にも、奏子の表情は真剣そうで、飛鳥は再び目を逸らした。
「この間言っただろ、神崎も本もらったって…」
何も知らない直人は、ますます不思議そうに奏子に話す。
その直後、飛鳥は直人達には見えないように顔を背け、眉間にしわを寄せた。
「やっぱりそうだったんだぁ!」
そうとは知らず、奏子は驚いたように手をパチンとたたいた。
:10/05/20 22:48
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#221 [我輩は匿名である]
響子は困ったように、薫と目を合わせる。
「何だぁ、何で言ってくれなかったの?
まぁ、何となくそうじゃないかなぁとは思ってたんだけどね」
奏子はポンと、飛鳥の肩に手を置く。
しかし、飛鳥は戸惑い、目を合わそうとしない。
「飛鳥の前世って、どんな感じだったの?すごい気になる!」
奏子は目を輝かせて食い付いてくる。
「どうかしたのか?」
直人は、急におとなしくなった飛鳥の様子が気になって、声をかける。
:10/05/20 22:49
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:PIPg2LvY
#222 [我輩は匿名である]
「…ごめん、頭痛いから先に帰る」
飛鳥は苦笑しながら言って、そそくさと走って帰っていってしまった。
直人はわけがわからず、「何だ?」と首をかしげる。
「…大丈夫かな?」
響子が心配する振りをしながら、奏子に声をかける。
奏子は何か考えるような顔で、「うん…」とだけ返事をする。
すると、ポケットに入れていた直人の携帯電話が震えだした。
:10/05/20 22:49
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#223 [我輩は匿名である]
『安斎の前で、神崎の本の事には触れるな』
それだけ書かれた、薫からのメールだった。
「…はぁ?」
直人は思わず、斜め後ろにいる薫に目を向ける。
奏子と響子も、どうしたのかと直人を見る。
薫はその状況を真顔で見回した後、「あ」と声を上げた。
「そういえば、ちょっと直人について来てほしい所があるんだった」
「え?何だよいきなり。お前さっきから…」
「じゃあ、私達先に帰るね」
薫が考えている事が何となくわかったのか、響子はにっこり笑う。
:10/05/20 22:50
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#224 [我輩は匿名である]
直人は2人の意図が全くわからず、薫と響子の顔を交互に見る。
「あぁ、悪いな。また明日」
手を振る響子に、薫も手を振り返す。
そして、小声で「ちょっと来い」と言って直人の腕を掴む。
「えっ、ちょっ…」
薫に引っ張られ、足がもつれて転びそうになる。
曲がり角の影まで来て、薫はやっと手を離した。
「何だよ!?」
自分だけ何もわかっていない気がして、直人は苛立ったように薫に詰め寄る。
:10/05/20 22:50
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