記憶を売る本屋 2
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#285 [我輩は匿名である]
「どうかした?」

「…ううん、何でもない」

響子は笑って首を振る。

薫もじっと、響子を見つめる。

「大丈夫か?なんか元気ないけど」

「ん?うん、大丈夫だよ。眠たくなってきただけ」

響子はそう言って試合に目をやる。

しかし、薫は知っていた。

『眠くなってきた』というのは、長谷部今日子が悩んでいる時、

それを隠そうと誤魔化すのに使っていた決まり文句だという事を。

⏰:10/05/28 22:20 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#286 [我輩は匿名である]
時間が経つのは早かった。

結局直人は良介にボールをぶつける事が出来ず、引き分けとなってしまった。

引き分けの場合、ジャンケンで勝敗を決める事になっている。

「水無月、お前責任とって勝ってこいよ」

クラスメイト達は口をそろえて直人に言う。

「負けても文句言うなよ」

「言うに決まってんだろ!!」

早くも逃げ腰な直人に、クラスメイトが怒鳴り付ける。

⏰:10/05/28 22:20 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#287 [我輩は匿名である]
一方4組も同じ状況だった。

「なんで僕なんだ!」

「お前がさっさと当たってやらねぇからだろ!

お前が当てられてりゃ、事が運んで勝ってたかもしれねぇのに!」

4組のクラスメイトは良介に詰め寄る。

良介は嫌そうにしているが、クラスメイトが「早く行け!」と背中を押した。

その先には直人が待っている。

「またてめぇかよ!」

ジャンケンの相手まで良介。

自分でまいた種ながら、直人はうんざりして怒鳴り付ける。

⏰:10/05/28 22:20 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#288 [我輩は匿名である]
「君が僕を当てるのにこだわるからだろ!本当、いい迷惑だよ!」

「こっちはお前の存在が迷惑なんだよ!!」

「お前達!さっさとしろ!」

係の教師に怒られ、2人はしぶしぶ黙る。

「…しょうもない…」

先に試合を黒星で終えていた飛鳥が、奏子の横で呆れたように呟く。

「応援してあげなよー、同じクラスじゃん」

「どっちでもいいよ、私球技大会好きじゃないし」

飛鳥は「早く終わらないか」と、それしか考えていないらしい。

奏子は少し怪訝そうに飛鳥を見つめる。

⏰:10/05/28 22:21 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#289 [我輩は匿名である]
「……何か悩んでるだろ」

その横で、薫がぼそっと響子に声をかける。

「え?」

「お前の『眠たいだけ』ほど信用できないものはないからな」

薫は小さく笑う。

それを見てホッとしたのか、響子も安堵の笑みを浮かべる。

「…悩んでたけど、どうでも良くなった」

「そうか?まぁ、何かあったら言えよ」

「うん」

響子は頷いて、薫の肩にもたれ掛かる。

⏰:10/05/28 22:21 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#290 [我輩は匿名である]
「あいつ…僕の前で響子ちゃんといちゃつきやがって…!」

「いいからジャンケンするぞ!終わんねぇだろ!」

悔しそうに薫を見る良介に、直人はまた声を荒げる。

「じゃーんけーん」

直人の声に合わせて、2人は手を出す。

直人はパー、良介はチョキ。

一瞬、コート内がしーんと静まり返った。

「水無月ー!!!」

8組の男子たちが、一斉に直人に殴りかかる。

逆に、4組の男子達は両手を上げて喜びの声を上げる。

⏰:10/05/28 22:21 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#291 [我輩は匿名である]
「あーあ…」

クラスメイトに追い掛けられる直人の情けない姿に、奏子がため息をつく。

「……バレーとドッヂが消えたか…」

薫は腕を組んで考える。

「ハンドも負けたらしいよ」

飛鳥が薫に言う。

薫は「はぁ…?」と、自分のクラスの弱さに呆れ返る。

「か…薫、助けてくれよー!」

走るのに疲れた直人は、薫の後ろに座り込む。

「お前が余計な事するからだろ」

薫は自業自得だ、と突き放す。

⏰:10/05/28 22:22 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#292 [我輩は匿名である]
「響子ちゃん!見たかい!?僕の華麗なチョキを!」

同時に、良介は嬉しそうに響子の手を握る。

「おい…」

薫は目を光らせ、良介の手を振りほどく。

「てめぇ誰に断って響子の手ぇ握ってんだ…?」

「ふん、何故わざわざ君に断らないといけないんだ?」

良介も負けじと言い返す。

睨み合う2人が怖くなって、直人は四つんばいで移動し、飛鳥の隣に座った。

「はぁ、疲れた」

「お疲れ、なんかダサかったみたいだね」

⏰:10/05/28 22:22 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#293 [我輩は匿名である]
飛鳥はしれっと直人をからかう。

「っせぇな!お前はどうだったんだよ!?」

「負けた」

「人の事言えねぇじゃねーか!!」

汗だくのまま、直人は飛鳥に言い返す。

「あいつの事はほっときなよ、月城が自分で何とかするよ」

飛鳥はめんどくさそうに忠告する。

「いいじゃん、別に」

そう食い付いたのは、直人ではなく奏子だった。

「それだけ友達思いって事じゃん?ね、水無月」

⏰:10/05/28 22:22 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#294 [我輩は匿名である]
「(……最近やたら水無月の肩持つな…)」

直人の事を好きだとはいえ、見ていて少し腹が立つ。

飛鳥もムッとし、目を逸らす。

「なんだよ、お前。いじけてんのか?」

相変わらず鈍感な直人は、笑って飛鳥の肩を叩く。

「い、いじけるわけないだろ!?何で私が!」

「お前、前からいじけやすい性格だったし」

直人は言い切ってからハッとする。

うっかり晶の事を差す話をしてしまった。

直人は「ごめん」と言いたそうに、飛鳥に視線を送る。

⏰:10/05/28 22:23 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


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