記憶を売る本屋 2
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#295 [我輩は匿名である]
「ばか!」

飛鳥もそれに気付き、直人の肩を拳でたたく。

「痛っ!」

「お前のそういう鈍感すぎる所、いい加減どうにかなんないわけ!?」

「だから、ごめんって!」

ギャーギャー言い合う直人達を、奏子はじっと見つめる。

「(『前から』って…どういう意味だろ…?)」

そんな事を考えながら。

⏰:10/05/28 22:23 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#296 [我輩は匿名である]
その後、野球の2回戦の時間になり、直人達は運動場に移動する。

8組は既に野球しか生き残っていないため、クラスメイトは全員観戦にまわってきている。

「(要するに、8組は全員俺に賭けてるって事だな)」

バッターボックスに入り、薫はふと考える。

野球の中でも、変に注目を浴びてしまった。

「(……いいじゃないか、こういうプレッシャーも)」

薫はニヤッと、不敵な笑みを浮かべる。

「(…怖い…)」

薫の様子を見て、ピッチャーは少し怯える。

そして、丸腰のままボールを投げた。

⏰:10/05/28 22:24 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#297 [我輩は匿名である]
しかし、そのボールは案の定、自分の頭を高々と越えて飛んでいった。

「よく打つねぇ…」

ボールを追い掛けていく外野の生徒達を見ながら、飛鳥が声を漏らす。

「あんたとは大違いだね」

「うっせぇな!」

未だにからかってくる飛鳥に、直人は大声を上げる。

しかし、少しして真面目な顔で飛鳥に言った。

「…悪かったな、さっき口滑らせて」

自分から謝るのは照れ臭くて、直人は少し下を向く。

奏子もハンドボール2回戦でコートに入っているため、この場にいない。

⏰:10/05/28 22:24 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#298 [我輩は匿名である]
「え?何か言った?」

飛鳥は耳をたてて直人に聞き直す。

また言わなければいけないのかと、直人はちょっと顔を赤らめる。

「1回で聞けよ!!」

「だって周りがうるさくて聞こえないもん!!」

薫のホームランへの歓声にかき消されて聞こえなかったらしい。

「だから!悪かったなって!さっき安斎の前であの話して!」

直人はちょっと顔を赤くしながら、再度飛鳥に謝る。

今度はちゃんと聞き取って、飛鳥はフッと小さく笑った。

⏰:10/05/28 22:25 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#299 [我輩は匿名である]
「いいよ!そんなの!」

飛鳥も大声で返事する。

「ありがとな!」

「どういたしまして!」

2人は言いながら笑い合う。

⏰:10/05/28 22:25 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#300 [我輩は匿名である]
少しずつ、歓声がおさまってきた。

「…お前、晶の時から運動嫌いだっけ?」

奏子がいないのを確認して、直人は飛鳥に尋ねる。

「うん、あんまり好きじゃなかった」

飛鳥は頷く。

「そのわりには走るの速かったじゃん。あの…お前に付きまとってた奴から逃げる時」

「…あぁ、美代ね。ウザかったな…あいつ」

「つーか、あいつが元凶だしな」

美代の事を思い出し、2人はどんよりとした表情でうつむく。

⏰:10/05/28 22:26 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#301 [我輩は匿名である]
「……でもまぁ」

飛鳥が顔を上げて言う。

「あいつが邪魔して来なかったら、今あたし達ここにいないんだよね。

…変な言い方だけど、おかげで目が覚めたっていうか」

「…何から?」

「………いろいろ!」

上手く説明出来なくて、飛鳥は短く答えた。

⏰:10/06/01 20:17 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#302 [我輩は匿名である]
ろくに友達も作れない性格だった自分。

それを親に捨てられたからだと言って逃げていた自分。

要がいないと生きていられなかった、未熟な自分。

そんな自分に、さよなら出来た。

飛鳥はそう考え、少し笑う。

彼女が何を考えているのかわからず、直人は首を傾げる。

「…ま、何かわかんねぇけど、吹っ切れたんなら良かったな」

考えるのが嫌いな直人は、ニッと笑う。

飛鳥も「うん」と頷く。

⏰:10/06/01 20:18 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#303 [我輩は匿名である]
「弟は?何も言ってきてないか?」

「うん、あれからは何も」

「そっか。また嫌み言われたら言えよ。怒鳴り込みに言ってやるから」

「ははっ。あんたってたまに頼もしいよな」

「俺が頼もしいのはいつもの事だろ」

「それはないね」

「はぁん!?」

「青春ねぇ〜♪」

飛鳥の隣にいた響子が、2人のやりとりを見てやっと口を開いた。

⏰:10/06/01 20:18 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#304 [我輩は匿名である]
「お前いたのかよっ!」

「失礼ね、最初からいたわよ。ねぇ?」

「うん。喋らないなぁとは思ってたけど」

飛鳥は苦笑して頷く。

「だって、2人の世界に入っちゃってるから…邪魔しちゃいけないでしょ?」

響子はにっこり笑う。

『2人の世界』と言われて、直人と飛鳥は何だか恥ずかしくなって、

お互い顔を赤くして目を逸らす。

「(…両想いにしか見えないのに、何で2人とも気付かないんだろ…?)」

2人の様子を、響子は少しもどかしく思いながら見つめる。

⏰:10/06/01 20:19 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


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