記憶を売る本屋 2
最新 最初 🆕
#101 [我輩は匿名である]
「ねぇ、飛鳥」

バイトに行く途中、奏子は飛鳥に尋ねる。

「水無月が、前に変なおっさんから、前世の本もらったって話、知ってる?」

「…知ってるよ」

飛鳥は少しきょとんとした顔で答える。

「…飛鳥って、その、水無月の前世の話に関係あったりする?」

奏子は続けて聞く。

「…なんで?」

今度は飛鳥が聞き返す。

⏰:10/04/30 20:32 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#102 [我輩は匿名である]
「なんか、この間うちのおばあちゃんと会ったじゃない?

その時に、2人とも何か知ってそうだったからさ」

そう言われて、飛鳥は少しの間黙り込む。

「……私さぁ」

飛鳥がなかなか答えようとしないため、奏子が口を開く。

「最近、水無月の事、気になってるんだ」

その言葉に、飛鳥はハッと奏子を見る。

「……好き、って事?」

「……多分」

⏰:10/04/30 20:32 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#103 [我輩は匿名である]
まだはっきりしないのか、奏子は曖昧な言い方をする。

「…それで…何であの本の話…?」

飛鳥は少し動揺しながら、奏子に尋ねる。

「なんか、気になったからさ。水無月の事、いろいろ知ってるのかなぁと思って。

元気づけてもらったとか、前言ってたじゃん?」

奏子は明るく笑ってみせる。

しかし、飛鳥は何故か、ショックを受けたような顔で黙っている。

⏰:10/04/30 20:33 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#104 [我輩は匿名である]
直人の事で、知っている事はいろいろある。

でも、飛鳥は何も教えたくなかった。

直人の過去を知ってるのは、自分だけの特権。

何もない自分にある、たった1つの小さな自慢。

「まぁまた、いろいろ相談乗ってね♪」

奏子は笑って、飛鳥に頼む。

飛鳥はしぶしぶ、「うん…」と頷くしかできなかった。

⏰:10/04/30 20:33 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#105 [我輩は匿名である]
次の日。

飛鳥はじっと、4組の教室を覗く。

幸い、響子と奏子が別々の子と話している。

飛鳥は気付かれないようにササーッと、早足で響子に近づく。

「響子…」

背後から声がして、響子は振り返る。

「うわっ!びっくりした…」

響子は、いつの間にか背後にいた飛鳥に驚いて声を上げる。

「どうしたの?昨日のバイトで、また何かやらかした?」

⏰:10/04/30 20:34 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#106 [我輩は匿名である]
「違う……事もないけど」

飛鳥はやつれたような表情で答える。

確かに、昨日奏子の突然の告白に動揺していた飛鳥は、

皿は割るわ、カップから紅茶を溢れさせて床をボトボトにするわ、

レジ操作を誤って1000円以上の現金差異を出すわで、

店長にかなりこっぴどく怒られたのだが、響子に相談に来たのはその事ではない。

「…今度、2人っきりで相談があるんだけど」

「2人っきりで?……ははーん、なるほどね」

勘の良い響子は、ニヤリと笑う。

⏰:10/04/30 20:34 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#107 [我輩は匿名である]
「恋の話ね」

「えっ…!?わかんない。でも、多分そーゆーの」

「じゃあ僕も一緒に♪」

2人の隣に、急に良介が割り込んできた。

「あんたはどうでもいいから、消え失せてくれる?」

「残念ながら、君みたいに背の高いバカそうな女には興味ないよ」

良介は飛鳥に目もくれず、響子と向き合う。

「ねぇ響子ちゃん、僕は絶対、1位を守りぬくからね!」

⏰:10/04/30 20:34 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#108 [我輩は匿名である]
「…え?薫が断りに来たでしょ?」

響子は眉をひそめて確かめる。

「来たけど、女々しい事言うから、追い返したよ」

良介は笑顔で言い張る。

「女々しい?薫が何言ったのよ」

響子もさすがにムッとして言い返す。

「“勝負降りる”って。自信無くしたんじゃない?

あんなに張り切ってのってきたのに、あっさり僕に負けちゃったんだもんね」

良介は呆れたように、「やれやれ」と首を振る。

⏰:10/04/30 20:35 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#109 [我輩は匿名である]
「お前なぁ」

響子の代わりに、飛鳥が良介を睨む。

「調子に乗るのもいい加減にしろよ。お前みたいな新入りに、こいつらの何がわかるんだよ?」

「じゃあ聞くけどさ、君たちに僕の何がわかるわけ?」

良介も負けじと言い返してくる。

「僕は元々勉強なんか好きじゃない。

でも、響子ちゃんが“格好よくて、頭が良い、優しい人”が好きだって言ったから、

僕はそれを目指して今まで頑張ってきたんだ。

邪魔をしてる新入りは、あいつの方だろ?」

響子はそれを聞いて、昔そんな事を言ったのを思い出した。

⏰:10/04/30 20:35 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#110 [我輩は匿名である]
「だから、僕は絶対、あいつから君を取り戻すよ。

あんなクールぶってる奴、君には似合わないからね」

そう吐き捨てて、良介は背中を向けた。

「…マジでムカつく」

飛鳥は苛立ったように、彼の背中をにらみつける。

響子は暗い顔でため息を吐く。

「(……私が…あの時ちゃんと断ってたら…)」

「…響子?」

⏰:10/04/30 20:36 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#111 [我輩は匿名である]
飛鳥に声をかけられ、響子はハッと顔を上げる。

「…ごめん、ボーッとしてた」

「…まぁ気持ちはわかるけどさ」

飛鳥も呆れて息をつく。

「…あ、そうだ。どうせなら、どっかでご飯かお茶かしながら話さない?

ちょうど明日土曜だし。…バイト入ってる?」

「ううん。大丈夫」

⏰:10/04/30 20:36 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#112 [我輩は匿名である]
「じゃあ明日、飛鳥ちゃんがバイトしてるカフェ行こ♪」

「何でそうなるの!?」

「だって、1回行ってみたかったんだもん。じゃあ決まりね」

響子はにっこり笑う。

「(…まぁ、社割あるから、いっか)」

飛鳥は特に深く考えないまま、「しょうがないなぁ」と頷いた。

⏰:10/04/30 20:38 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#113 [我輩は匿名である]
次の日。

飛鳥は響子と共に、バイト先のカフェにやってきた。

「おう神崎」

入るなり、店長が飛鳥に話しかけてきた。

「売り上げのために、全ケーキ食って帰れよ!」

「無理ですよ。そんな金あったらケータイ契約しに行きます」

飛鳥は顔を引きつらせて言い返しながら、適当な席に座る。

「そっか、飛鳥ちゃん、ケータイ持ってないんだっけ」

「うん、仲悪い親に出してもらうの、嫌だしね。自分で稼いでから買おうかなぁと思って」

飛鳥は苦笑して言った。

⏰:10/05/01 20:21 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#114 [我輩は匿名である]
そういうところは頑固な飛鳥に、響子も笑い返す。

「とりあえず、何か頼もっか」

「うん」

飛鳥は響子にメニューを開いて渡す。

「飛鳥ちゃん、見なくていいの?」

「いいよ、大体覚えてるから」

「『大体』じゃなくて、『完璧に』覚えてほしいわね」

飛鳥の先輩の女性が、そう言いながらお冷やを持ってきた。

「すいません…」

飛鳥は口を尖らせる。

⏰:10/05/01 20:21 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#115 [我輩は匿名である]
「メニューはお決まりですか?」

先輩は響子に愛想良く尋ねる。

「えっ、えーっと…」

響子は少し慌ててメニューを見る。

「あっ、私はとりあえずカプチーノで」

「自分で注いで来な」

「えぇっ!?」

嫌味ったらしく笑う先輩に、飛鳥は変な声を上げる。

「あの…私はアイスミルクティー下さい」

⏰:10/05/01 20:21 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#116 [我輩は匿名である]
「はいかしこまりましたー

先輩はにっこり笑って、キッチンの方へと下がっていった。

「意外と、いじられキャラなんだね」

響子は楽しそうに笑って、向かい合っている飛鳥に言う。

「…何かわかんないけど、そうなのかな」

「ははっ、いいじゃない。いじられキャラは、愛されキャラみたいな物よ」

響子はテーブルに両肘をつく。

飛鳥は「そうかなぁ」と首をひねる。

「ところで、私に相談って、何?」

⏰:10/05/01 20:22 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#117 [我輩は匿名である]
響子は話を変え、本題に入る。

すると、急に飛鳥の顔が暗くなった。

「………何から話せばいいんだろ…?」

飛鳥は腕を組んで考える。

『奏子が直人を好きだ』なんて勝手に話すと、余計にこじれるかもしれない。

「…飛鳥ちゃんは、水無月君が好き?」

響子は先に、そう飛鳥に尋ねた。

飛鳥は「えっ!?」と、勝手に下向いていた頭を上げる。

⏰:10/05/01 20:22 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#118 [我輩は匿名である]
「やっぱりそういう事か」

響子はにっこり笑う。

「……んー、…わかんない」

飛鳥ははっきりしない顔で答える。

「でも、…他の子が『水無月が好きかも』とか言ってるの聞いたら…何かモヤモヤしてきて…」

「……じゃあ飛鳥ちゃんは、水無月くんの事どう思う?」

響子は優しい表情で、質問を変える。

⏰:10/05/01 20:23 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#119 [我輩は匿名である]
飛鳥は少し顔を上げる。

「……いい奴だと、思ってる」

何て言えばいいのかわからなくて、飛鳥はとりあえずそこから始めた。

「…私、高校入ってから、誰とも喋った事なくて……高校入る前からだけど。

でもなんか、あいつとは何も考えずに喋れて、なんか楽しくて…。

本を読み終わって、私がまた自殺しそうになったの、怪我してでも止めてくれた」

ちょっとずつ気持ちが整理できてきたのか、飛鳥の口調がスムーズになってきた。

響子も何も言わずに、その話に耳を傾けている。

⏰:10/05/01 20:23 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#120 [我輩は匿名である]
「それから…私が『親を見返してやるんだ』って思えるようになったら、

笑って『頑張れ』って言ってくれるし、

この間も、奏子のおばあちゃんが道で困ってたら、すぐ『手伝ってやるよ』って言って…。

あいつバカで能天気だけど、私は…そういう優しい所が、す…」

飛鳥はそこまで言って、顔を赤くして黙り込んだ。

「…考えまとまったね」

「…なんか、楽しそうな話してるわね♪」

響子だけでなく、たまたま注文の物を持ってきた先輩まで笑っている。

⏰:10/05/01 20:24 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#121 [我輩は匿名である]
飛鳥は余計に恥ずかしくなって下を向く。

「いや、でも、そういう『好き』じゃないかも…」

「どっちにしろ同じよ」

響子と先輩が声をそろえて答える。

「あら、あんたなかなかわかってるじゃない♪」

「ありがとうございます♪」

「(何なんだこの2人…)」

気が合って笑い合う2人を、飛鳥は呆れ気味に見つめる。

「ちょっと神崎、今度私にもその話聞かせてよね」

⏰:10/05/01 20:24 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#122 [我輩は匿名である]
「さぁどうでしょうね」

擦り寄ってくる先輩を、飛鳥はめんどくさそうな顔で押し返す。

先輩はテーブルにカプチーノとミルクティーを置いて、「ごゆっくりどうぞ」と言って立ち去った。

「(…話できるわけないじゃん…。話が広がったら、奏子がどう言うか…)」

飛鳥はまた鬱陶しそうにため息をつく。

「…他には誰も、その話してないの?」

「うん、他にできる人いないし…」

飛鳥はまた、苦笑して答えた。

響子は鋭い目付きで考える。

⏰:10/05/02 17:30 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#123 [我輩は匿名である]
奏子に相談を乗ってもらう事も出来た。先輩にも出来たはずだ。

しかし、「他に出来る人がいない」と言う。

つまり。

「…水無月くんが好きだって言ったの、奏子ちゃんじゃない?」

響子は、他の席にも聞こえない程小さな声で言った。

思わず、飛鳥は目を丸くして響子を見る。

「……何で……」

⏰:10/05/02 17:30 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#124 [我輩は匿名である]
「相談出来る人が私だけって、おかしいなぁと思って。

水無月くんに出来ないのは当たり前だし、薫はそんな相談を受ける柄じゃない。

…まぁあれでも、相談されれば乗るんだけど。

奏子ちゃんもいるのに、あの子には出来ないって事でしょ?

先輩に出来ないのは、誰かが口を滑らせて奏子ちゃんに知られると面倒だから。

……どう?合ってるでしょ?」

響子は自信満々に笑ってみせる。

「…探偵になればいいと思うよ」

全て図星をつかれ、飛鳥はただ茫然とする。

⏰:10/05/02 17:31 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#125 [我輩は匿名である]
「まぁ、あれよね。飛鳥ちゃんと水無月くんには、本の事もあるしね」

「…うん…。最初はそうだったけど…でも、なんか違うっていうか…。

なんかね、要は、もっと穏やかで、おとなしい感じだったんだ。

だから、水無月とはタイプも全然違うし…。

私も結構性格変わってるし、本の事は…そこまで深く考えてないかなぁ…」

「そっか。…私達も同じだよ」

響子は小さく笑う。

⏰:10/05/02 17:31 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#126 [我輩は匿名である]
「やっぱり、みんな本とは変わってくるのかな。

私はもっと背も小さかったし、もっと大人しかった。

薫……は、あんまり変わらないかな?強いて言うなら、もうちょっと穏やかで、煙草吸ってたぐらい?」

「そうなの?」

「だから、あんな癌になったのよ」

響子はふぅっとため息をつく。

「意外でしょ?今なら絶対吸わなそうにしてるのに。

薫……優也は、煙草と関連が深い癌だった。

だからもう2度と吸わないでしょうね」

響子は優しく笑う。

⏰:10/05/02 17:31 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#127 [我輩は匿名である]
「優也はあんなにクールじゃなかったのよ?

薫はにっこり笑う事なんかないけど、優也はいつもニコニコしてた」

「(…また惚気だした…)」

そう思ったが、急に響子の表情が変わった。

「……はぁ…私もどうしたらいいんだろ……」

「……あのアメリカン?」

響子は頷く。

しかし、飛鳥には不思議でならなかった。

「でも、何でそんなに悩むの?響子も月城も、そんなてこずる相手じゃないんじゃ…」

⏰:10/05/02 17:32 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#128 [我輩は匿名である]
「てこずるのよ、ああいうタイプが1番ね」

響子は肩肘をつく。

「まともに話が通じる相手なら、薫もガン飛ばして一言二言言えば終わるのよ。

でも、りょう……桐生くんはそうじゃない。どこであんな性格になったのかわかんないけど……」

響子は大きくため息をつく。

「……そうだね、この間月城がガン飛ばしても、全く効かなかったもんね」

「私があの時ちゃんと聞き直して、断っとけば良かったのよ…」

話しているうちに、どんどん響子の表情が暗くなっていく。

⏰:10/05/02 17:33 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#129 [我輩は匿名である]
「いや…そんなちっこい時の事にすがってる奴に、気を遣う事はないと思うけど…」

飛鳥は自分で出来る精一杯の慰めを言う。

「うん…」

「だって、響子は月城が好きなんでしょ?だったら無視すればいいんだよ。

私だって、テストの順位なんかで彼氏とか決めるの、おかしいと思う」

飛鳥はきっぱりと言い切った。

「…そうなのよね…」

響子はまだ浮かない顔をして頷いた。

⏰:10/05/02 17:33 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#130 [我輩は匿名である]
すると、飛鳥もまた、同じような表情でうつむき、こう切り出した。

「……私さ、本の事、まだ奏子に言えてないんだ」

響子は顔を上げ、また耳を傾ける。

「言おう言おうって思うんだけど、要との事…知られたくないんだ。

何でかわかんないけど…何か、自分の中だけに置いときたい気がして…」

「…そうね、奏子ちゃんが水無月君を好きなら、なおさらね」

響子は小さく笑う。

⏰:10/05/03 17:27 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#131 [我輩は匿名である]
しかし、飛鳥の表情はまだ晴れない。

「……でも、隠しとくのもモヤモヤするっていうか…」

「…友達だから?」

「…うん」

飛鳥は小さく頷く。

「でも…友達でも、話したくない事はいくらでもあるよ」

あっさり言う響子に、飛鳥は思わず顔を上げる。

「…響子も?」

「そりゃあるよ。私だって、いちいち薫とチューしただの寝ただの、みんなに言いたくないし」

響子は当然のように言い放って、ミルクティーを一口飲む。

⏰:10/05/03 17:36 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#132 [我輩は匿名である]
「ま、まぁそうだけど…」

飛鳥はしぶしぶ頷く。

「誰にでもねぇ、自分の中だけに留めておきたい事ってあるのよ。

飛鳥ちゃんが思ってる事、私は普通の事だと思うけどな」

さすが、前世で大人だっただけのことはある。

響子は優しい笑顔で、飛鳥を諭す。

「…そう、かな」

飛鳥もちょっとホッとしたように笑い返す。

⏰:10/05/03 17:44 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#133 [我輩は匿名である]
「じゃあ私はばれないように、奏子ちゃんの前で本の話はしないように気をつけるわ。

薫にも言っとくし。…まぁ、自分からそんな事話はしないだろうけどね」

「え?ごめんね、なんか気遣ってもらっちゃって…」

「いいよ、そんなの」

響子はまた笑う。

「…前の話を知ってるからかもしれないけど」

そう言いながら、響子はテーブルに両肘をつく。

⏰:10/05/03 17:49 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#134 [我輩は匿名である]
「私は、水無月くんには飛鳥ちゃんとくっついてほしいと思ってる。

…確かに見た感じ、奏子ちゃんと水無月くんは息が合ってるようには見えるけど、

飛鳥ちゃんといる時の水無月と奏子ちゃんといる時の水無月くん、明らかに態度が違う。

奏子ちゃんとなら、普通の友達って雰囲気な感じがするの。

…だから、そんなに悩まないで、自信持っていいと思うよ」

「…………うん」

響子の話を聞いて、飛鳥は大きく頷く。

それを見て安心したように、響子はまた笑った。

⏰:10/05/03 17:57 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#135 [我輩は匿名である]
「頑張ってね。また何かあったら、いつでも聞くから」

「うん、ありがとう」

飛鳥は悩みから吹っ切れたように笑い返す。

「(ただ、相手がちょっと手強いけどね)」

明るくなった飛鳥の表情を見ながら、響子は心の中で呟いた。

⏰:10/05/03 17:59 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#136 [我輩は匿名である]
直人は眠そうな顔で、目の前にいる奏子を見つめる。

まだ時計は8時10分。

「早く来過ぎたかな」と思っていると、満面の笑顔の奏子がやってきたのだ。

「……何か用…?」

「あんたにお礼持ってきたの♪」

「お礼…?…俺なんかしたっけ…?」

直人は欠伸をしながら聞き返す。

「この間、おばあちゃんの荷物持ってくれたじゃん」

⏰:10/05/05 18:04 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#137 [我輩は匿名である]
「…………あーぁ!あれか!」

思い出すのに時間がかかったが、直人は「あぁ、そういえば手伝ったなぁ」と頷く。

「はい♪」

奏子は笑って、数枚のクッキーが入った可愛らしい袋を、直人の机に置いた。

「えっ、何これ?わざわざあのお姉…いや、ばあちゃん焼いてくれたのか?」

直人は思いもよらぬプレゼントに目を輝かせる。

「残念ながら、それ私が焼いたの」

奏子はちょっと自慢げに笑う。

「えっ?これお前が焼いたのか!?すげー!」

⏰:10/05/05 18:05 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#138 [我輩は匿名である]
直人は尊敬の眼差しを奏子に送る。

「…今食べても良いかなぁ?」

「いいじゃん、食べちゃいなよ」

「だよな!じゃあ頂きまーす」

直人は袋を開け、丸くて茶色いクッキーを口に放り込む。

ボリボリ言わせて噛んでいる直人を、奏子も少しドキドキして見つめる。

「………どう?」

「…ん!うまい!!」

直人は意外そうに言いながら、右手でOKサインを出す。

「やったー♪私、クッキーだけは得意なんだ〜」

⏰:10/05/05 18:05 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#139 [我輩は匿名である]
奏子も嬉しそうに笑う。

「へぇ!意外と料理とか出来るんだな、お前」

直人は言いながら、なぜかもう袋を閉じる。

「えっ?もう食べないの?」

「もったいないから、昼休みに食う!結構あるし、薫にもちょっとやろうと思って」

直人は満足そうに笑って、袋の口を紐で締め直して、大事そうに鞄に入れる。

「(1人で全部食べてほしかったのになぁ…)」

逆に、奏子は少し残念そうに直人の動作を見る。

「ところでさぁ、何でおばあちゃんの事、『お姉さん』って呼びかけたの?」

⏰:10/05/05 18:05 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#140 [我輩は匿名である]
「え?あぁ…」

言って良いものか、と、直人は目線をそらす。

「もしかして、おばあちゃんの事知ってるの?」

奏子は少し近づく。

「……いや、口が勝手に言っただけ…」

「本当に〜?」


直人は上手く誤魔化せず、しばらく悩んだ末、大きくため息を吐いた。

「…前世の俺が、会ったことがあるんだよ、多分」

そう白状するしかなかった。

⏰:10/05/05 18:06 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#141 [我輩は匿名である]
「そうなの!?なんかすごい!」

奏子は楽しそうに声を上げる。

「じゃあ、おばあちゃんが言ってた道案内したのって、やっぱあんたなの?」

「…まぁな…」

「そうなんだぁ!あんた、意外と優しいとこあるよね」

「そ、そうかぁ?」

褒められると調子に乗る直人は、照れるように笑う。

「でもなんか、飛鳥も知ってそうだったよね、おばあちゃんの事」

奏子は笑顔で話を続ける。

「…いや、あいつは多分会ったことないぞ。俺があのばあちゃんからの話を聞かせただけで」

⏰:10/05/05 18:06 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#142 [我輩は匿名である]
「おばあちゃん、あんたに何か言ったの?」

「だから、俺じゃなくて、前世の俺」

直人はそこに念を押す。

「何か言ったって、この間のあれだぞ?友達作りたいなら、壁を作るなって話。

あれを伝えてやろうと思ってたんだけどさ、なかなか…」

「伝えてやるって、飛鳥に?」

「前世のあいつに」

直人はしつこく、『前世の』にアクセントをつける。

奏子は驚きつつ、「やっぱりな」と思った。

「じゃあ、水無月と飛鳥って、前世から知り合いだったんだ?」

⏰:10/05/05 18:06 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#143 [我輩は匿名である]
「…まぁ…そうだな、知り合いだな」

言ってみれば恋人同士か、最低でも友達以上恋人未満ってところだろう。

しかし、そこまで説明するのはめんどくさい。

「…ん?じゃあ、飛鳥も本もらってたりすんの?」

奏子は首をかしげる。

「なんか、もらったって言ってた気がするけど?」

直人はめんどくさくなってきて、言い方が適当になってきた。

「そうなんだ!なんかすごいねー!じゃあ…」

⏰:10/05/05 18:07 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#144 [我輩は匿名である]
「おはよう」

いつの間にか、8時15分を過ぎていて、飛鳥がやってきた。

「よぉ」

「あっ、飛鳥に渡すものがあるの!」

奏子は立ち上がって、さっき直人にあげたクッキーを差し出す。

「クッキーだ」

「この間、おばあちゃん助けてくれたでしょ?そのお礼♪」

「えっ?いいよ、荷物運んだだけだし、お礼なんか…」

飛鳥は両手を左右に振る。

⏰:10/05/05 18:07 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#145 [我輩は匿名である]
「いいのいいの。はい!」

奏子は笑って、飛鳥の手にクッキーを置いた。

「…ありがとう」

飛鳥は小さく笑って、それを受け取る。

「あっ、じゃあ用も済んだし、私教室にかーえろ♪じゃあまた後でねー」

奏子はそのまま、教室を出ていった。

「何だったんだ…?」

「おいしそうなクッキーだね。あのおばあちゃんが焼いてくれたのかな?」

飛鳥は嬉しそうに、クッキーの入った袋を見つめている。

⏰:10/05/05 18:08 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#146 [我輩は匿名である]
「いや、安斎が焼いたらしいぞ」

「そうなの?へぇ、すごいな」

「お前、料理出来ないんだっけ?」

「やれば出来ると思うよ。施設にいた時は、よくご飯の手伝いしてたから」

「へぇ、意外」

「そう?…まぁ、今は家で作る事ないし、作ろうとも思わないしな…」

飛鳥はふぅっと息をつく。

「じゃあ、なんか作ってきた時は、俺が毒味してやるよ」

⏰:10/05/05 18:08 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#147 [我輩は匿名である]
「はあ?私の腕前なめないでよね」

飛鳥は腕を組んで言い返す。

そんな2人の会話を、廊下で窓にもたれ掛かって、奏子が聞いていた。

「(やっぱり、あの2人…なんかあるんだ…)」

「安斎?」

すぐ後ろで声がして、奏子は素早く振り返る。

⏰:10/05/05 18:08 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#148 [我輩は匿名である]
そこには、登校してきたばかりの薫が立っていた。

「月城くん…」

「何してるんだ?朝っぱらから」

薫は少し首を傾ける。

「ううん、何にもない。じゃあね」

奏子は無理に笑顔を作って、小走りで4組に戻っていった。

「…隠さなくても、知ってるのにね」

薫の後ろにいた響子が、くすっと笑う。

「…お前の言ってた事、本当だったんだな」

「予想だけどね」

2人は小さく笑い合った。

⏰:10/05/05 18:09 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#149 [我輩は匿名である]
直人は、薫が掃除を終えるのを、階段に座って、1人ぼけーっと待っていた。

奏子と飛鳥はバイトが、響子も今日は用事がある為、それぞれ先に帰っている。

「(…そういえば、神崎とここで喋った事もあったなぁ…)」

直人はあの時の事を思い出す。

親と話していないとか、そういう話をしたのがここだった。

「(懐かしいな…もう半年近く経つんだなぁ…)」

そんな事を考えていると、あの時のように、目の前を良介が通りかかった。

⏰:10/05/06 20:17 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#150 [我輩は匿名である]
「あっ!そこのアメリカかぶれ!」

直人は思わず呼び止める。

“アメリカ”という言葉に足を止め、良介がこっちを見る。

「…誰?君」

ちょっと近寄りながら、良介が首をひねる。

「月城薫の友達だよ!」

「俺そんなに存在感ないか」と思いながら、直人は怒鳴る。

「あぁ、あの負け犬くんの」

「負け犬言うな!」

どこまでもマイペースで、思った事を口にする良介に、直人は何度も声を荒げる。

⏰:10/05/06 20:17 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194