記憶を売る本屋 2
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#151 [我輩は匿名である]
「お前、あんまり薫の邪魔すんなよな!」

「邪魔してるのはあっちだろ!」

良介もムスッとして言い返す。

直人は腰に右手をあてて、じーっと良介を見る。

「……お前さぁ、香月のどこが好きなわけ?」

直人はそもそも、そこから聞きたかった。

「僕?響子ちゃんの全てに決まってるじゃないか!」

「はぁ!?全てが好きとか、適当に言ってんだろ!」

「適当?失礼な!君は人を好きになった事無いのか?」

「気持ち悪いから『君』っていうな!俺は水無月直人!み・な・づ・き・な・お・と!」

⏰:10/05/06 20:17 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#152 [我輩は匿名である]
直人は鳥肌が立ったのか、上腕をさすりながら名乗る。

「水無月?6月の事か!」

「ま、まぁそうだよ、6月の水無月」

「ふむ。じゃあ水無月、君は人を好きになった事は…」

「だから!『君』ゆーな!気持ち悪いから!」

「はっはっは!水無月は面白いな。天然か」

「天然はお前だろアホぉ!!」

直人は勢いで立ち上がる。

ここまでくれば、日本語の意味がわかっているのか不安になってくる。

⏰:10/05/06 20:18 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#153 [我輩は匿名である]
「俺だってなぁ!好きな奴ぐらいいるんだよ!」

直人はそう言い切った。

「じゃあ水無月は、その子のどこが好きなんだ?」

「俺は…」

勢いで話を進めたため、少し悩む。

しかし、自然と頭に飛鳥が思い浮かんだ。

「…俺は、特に、頑張り屋な所、かな」

「頑張り屋?」

「そう、頑張り屋なんだ。…ある人を見返す為に、今一生懸命頑張ってるんだ。

俺はそこが好きなんだ、多分。だから、心の底から応援してるんだ」

⏰:10/05/06 20:18 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#154 [我輩は匿名である]
言ってしまった。直人は言ってから、とても恥ずかしくなった。

本当なのかわからなくて、何だか飛鳥に申し訳なく思う。

「…………それって…」

良介は何故か、ものすごく気持ち悪そうな顔で直人を見る。

「な、何だよその目は」

「だってぇ…水無月の好きな人って…」

直人は「バレてるのかな」と、少しドキドキする。

「月城だろ…?」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#155 [我輩は匿名である]
「俺にそんな趣味ないわぁー!!」

直人は今日1番の大声を出した。

おまけに、その声に重なって、どこかから薫の声もした。

「だって、見返すって僕の事だろ?」

そう言っている良介の後ろを見てみると、柱の影から薫が出て来ている。

「薫!」

「月城!盗み聞きかっ!けしからん奴だ!」

良介はむすっと腕を組んで薫を睨む。

「あのなぁ!俺が好きなのは女だよ!ちゃんとした女!わかったか!?」

「あぁ、どうでも良くなった」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#156 [我輩は匿名である]
「何だとー!?」

良介はどうでもよさそうに適当にあしらって、薫と向き合う。

「それより月城、お前は響子ちゃんのどこが好きなんだ?」

「はぁ…?」

いつも唐突に物を聞いてくる良介に、薫は首をかしげる。

「俺は…そうだな、笑った顔が好きだな」

薫は小さく笑って答えた。

直人も良介も、黙って薫を見つめる。

「…な、何だよ。俺変な事言ったか?」

「いや、なんか意外な答えだったなぁ…と思って」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#157 [我輩は匿名である]
「……“全部”って答えは、おかしいのか?」

良介は納得できなそうに考える。

「…まぁいいんじゃないか?どこが好きかなんて、人それぞれだろ」

薫は少し面倒くさそうに言ってやる。

「そうか!そうだな!お前もたまには良い事言うな!でも響子ちゃんは俺がもらうからな!」

良介はそう言って、笑いながら帰っていった。

嵐が去って、2人は大きくため息を吐く。

まぁ、直人が呼び止めたのが悪かったのだが。

「…つーか、お前いつからいたんだよ?」

⏰:10/05/06 20:20 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#158 [我輩は匿名である]
「『俺だって好きな女ぐらいいるんだよ!』みたいなのが聞こえてから。

なんか出ていくタイミングが掴めなくて、待ってたんだ」

薫は少し呆れ笑いする。

「何だよ…」

直人はだらんとうなだれる。

「さ、帰るか」

「ん」

2人はそう言って帰りはじめた。

⏰:10/05/06 20:20 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#159 [我輩は匿名である]
「あのアメリカン、…うぜぇけど、なんか憎めない奴だよな。…うぜぇけど」

階段を下りながら、直人は言った。

「何で2回言ったんだ」

「とりあえずうぜぇから」

直人は良介とのやり取りを思い出して、顔を引きつらせて笑う。

そう言われて、薫も「確かに…」と頷く。

「…そうなんだよなぁ…。根本から嫌な奴なら、ぶん殴ってでも黙らせるのに。

…あいつ相手だと、そんな気も失せてくるんだよなぁ…」

薫は不満そうに言う。

「…で、お前どうするんだよ?結局点数バトル続けんの?」

⏰:10/05/06 20:21 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#160 [我輩は匿名である]
「……そう、なりそうだな…。

この間の金曜日に、響子と神崎が釘を刺そうとしたらしいけど、ダメだったらしいし」

「…何で神崎まで?」

直人に言われて、薫は内心「しまった」とドキッとした。

『昨日ね、飛鳥ちゃんとお茶しに行ったの。

それで、一昨日その約束してたら、桐生くんが割り込んできたから、一言言おうと思ったんだけど…。

ダメだった。あの子いつからあんなマイペースになったんだろ…』

昨日の日曜日、家に遊びに来た響子が薫に話してくれた。

その時に、飛鳥と奏子が直人に気があるらしい事も聞いたのだった。

⏰:10/05/06 20:21 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#161 [我輩は匿名である]
「(…危ねぇ…口滑らす所だった…)」

例え「遊びに行った」とだけ言っても、「安斎は?」と聞かれたらアウトだ。

「薫?」

靴箱まで来て、白と黒のスニーカーを持つ手を止めて考え込んでいた薫に、直人が声をかける。

「え?あぁ…何か、たまたま神崎がクラスに遊びに来てたからって言ってたけど」

薫は適当に誤魔化す。

「あぁ、あいつ、いつも4組で弁当食ってるもんな」

単純な直人は、薫の適当な話を鵜呑みにして、赤と黒のスニーカーに履き替える。

「(こいつ…素直というか、単純というか…)」

薫は羨ましそうな、呆れたような眼差しで直人を見る。

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#162 [我輩は匿名である]
「…さっき言ってたの、やっぱり神崎の事なのか?」
薫も靴を履き替えながら、直人に尋ねた。


「…んー、なんか、そういう話してたら、神崎が思い浮かんでさ」

「…そうか」

薫は口元に指をあてながら考える。

「…でもな、本当に好きなのかどうか、わかんねぇんだよ、まだ」

直人は少し不安そうに言う。

「確かに、あいつの頑張り屋な所は好きだし、応援してやりたいっていつも思ってるけど。

だって俺、まだそんな…誰か好きになった事ないしさぁ…」

直人は歩きながら、ガシガシと頭を掻く。

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#163 [我輩は匿名である]
「…まぁ、最初はそんなもんだろ」

「お前もそうだったのか?てか、お前の場合いつの話だよ」

「もう50年近く前のことだな」

薫は笑いながら答える。


「初恋はそうだったな。なーか気になるっていうか…」

「そうそう、そんな感じ!……ん?初恋『は』?じゃあ前の香月には?」

「一目惚れだよ、俺の」

薫はきっぱり断言した。

「そうだったのか!?どこに惚れたんだよ?」

「顔と身長」

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#164 [我輩は匿名である]
「身長…?」

直人は「何で?」と首をかしげる。

「何かな、可愛かったんだよ、ちっこくて。

俺175、6pあったけど、今日子は150pなかったぐらい?

よしよししやすい身長だったな」

珍しく、薫の顔が全体的に緩んでいる。

「…お前、惚気だすと止まらなくなるよな」

「たまには惚気させてくれよ」

「まぁいいけどよ…」

⏰:10/05/06 20:23 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#165 [我輩は匿名である]
「彼女が出来たら、直人も絶対惚気ると思うぞ」

そう言われても、自分が惚気る姿なんて全く想像出来ない。

直人は「そうかなぁ…?」と腕を組んだ。

⏰:10/05/06 20:23 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#166 [ま]
>>100-200

⏰:10/05/07 01:45 📱:P04A 🆔:6S1BPj46


#167 [我輩は匿名である]
ホームルームの時間。

「今日は球技大会の競技を決定したいと思いまーす」

体育委員達が前に出て仕切っている。

「こんな時期に球技大会なんかあるのか!」

体育系の直人は、早くもテンションが上がる。

女子と男子が、それぞれ教室の前後に分かれていく。

「こんな時期に球技大会なんかするんだな」

薫も同じように思っていたらしい。

壁にもたれて腕を組んでいる。

「あれか?スポーツの秋だからか?

運動会は何故か1学期だったしな」

⏰:10/05/08 22:43 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#168 [我輩は匿名である]
言いながら、直人は楽しそうに笑っている。

「薫、お前何出る?」

直人は早速薫に尋ねる。

壁にもたれながら、薫は首をひねる。

「…何があるんだっけ?」

「えっとなぁ」

黒板に貼られた紙を見ると、男子は野球とドッヂボールと書かれている。

「野球だな、俺は」

「やっぱそう来るか。うーん…」

⏰:10/05/08 22:44 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#169 [我輩は匿名である]
直人はさらに楽しそうに声を上げ、自分も腕を組んで考える。

「…俺、ドッヂがいい!」

「だろうな、お前野球下手だし」

「うるせぇな!」

直人は声を荒げて反論する。

「…お前、昔から野球好きだったよな。何でか知らねぇけど」

「前世の名残じゃないか?」

「名残?」

⏰:10/05/08 22:44 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#170 [我輩は匿名である]
「霜月優也は小学校から高校まで野球部だった。

だからまぁ、生まれ変わりの俺が受け継いだんじゃないか?」

「へぇ…」

直人は薫を見ながら頷く。

「…要は…何もなかったなぁ…」

「そう…」

薫が返事をし終わる前に、直人が「あ!」と声を上げた。

「何だよ」

「お前、またバトルしようぜ、とか言われるんじゃね?」

⏰:10/05/08 22:45 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#171 [我輩は匿名である]
「………あぁ…」

薫は鬱陶しそうに壁にへばりつく。

「大丈夫だって!俺が手伝ってやるから!」

直人は元気良く笑う。

薫は「あぁ…」と相づちは打ったものの、どこか浮かない表情で考え込み始めた。

⏰:10/05/08 22:45 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#172 [我輩は匿名である]
一方、女子たちも順調に事を運んでいた。

女子は男子と違い、ハンドボールとドッヂボールとなっている。

「(…何でバスケでもバレーでもなくて、ドッヂボールなんだろ…?痛々しい…)」

飛鳥は紙を見ながら首をひねる。

「神崎さんは、何がいい?」

女子の体育委員が飛鳥に話し掛ける。

「…私は…」

正直どっちも嫌なのだが、決めなければ話が進まない。

ハンドボールはまだ暑い屋外で走り回らないといけない。

ドッヂボールは走り回らなくていいが、当てられると痛い。

⏰:10/05/10 20:01 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#173 [我輩は匿名である]
運動があまり好きではない飛鳥にとっては、究極の選択だった。

「………………ドッ、ヂ、ボール、かな」

しばらく迷った末、飛鳥は無理やりドッヂボールと答えた。

日焼けしないだけマシだと思ったらしい。

「りょーかい♪」

体育委員の女子はにっこり笑って、次々とみんなに聞いていく。

飛鳥は大きくため息を吐く。

「(……あいつは、何出るんだろうな…?)」

飛鳥はそんな事を考えながら、薫と話している直人の背中を見た。

⏰:10/05/10 20:01 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#174 [我輩は匿名である]
帰り道。久しぶりに5人一緒に帰る。

「みんな何に出る事になったー?」

奏子が4人に尋ねる。

「俺ドッヂボール!」

「あー、何かそんな感じするね」

奏子が笑っている横で、飛鳥ははぁっとため息をつく。

「神崎、お前は?」

「…私もドッヂボール」

「いいじゃん、ドッヂボール。何でそんなテンション低いんだよ?」

⏰:10/05/10 20:02 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#175 [我輩は匿名である]
「スポーツあんまり好きじゃないんだよ」

飛鳥は浮かない顔で答えた。

「ま、野球に比べりゃ簡単だし、楽しめって♪」

「お前がボールをバットに当てられないだけだろ」

『面白くない』と胸を張る直人に、薫は呆れて言い返す。

「薫は?やっぱり野球?」

響子が薫に尋ねる。

「あぁ、野球にした」

「薫らしいね」

「俺の将来の夢は、息子に野球教える事だからな」

⏰:10/05/10 21:10 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#176 [我輩は匿名である]
2人が穏やかな表情で笑い合うのを、直人達は黙って見つめる。

「それ息子生まれなかったら終わりじゃね?」

「うるさいな、生むんだよ、息子」

薫は横目で、ニヤニヤ笑っている直人を睨む。

「響子は?」

「私は飛鳥と同じドッヂボール」

「えー、ハンドボール選んだの私だけー!?」

後悔したように奏子が声を上げる。

「暑いのによくやるよ」とでも言いたそうに、飛鳥が奏子を見る。

⏰:10/05/10 21:11 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#177 [我輩は匿名である]
「…ケガするなよ」

「大丈夫よ、外野だから」

心配している薫に、響子は明るく笑い返す。

「ねぇ、私も心配してよ」

2人の様子を見て、何故か奏子は直人の肩をたたく。

飛鳥は少しムッとしながら様子をうかがう。

「はぁ?何で俺がお前の心配しなきゃなんねぇんだよ」

直人は嫌そうに手を振り払う。

「ちぇっ、つまんないの」

奏子はふてくされたようにそっぽを向く。

飛鳥は何故か、ホッと胸を撫で下ろす。

⏰:10/05/10 21:11 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#178 [我輩は匿名である]
「…ん…?」

薫はたまたま、前の曲がり角から良介が出てくるのを見つけた。

「どうかした?」

「…あれ、アメリカかぶれじゃないか?」

薫が指差す先を、響子たちも見てみる。

「本当だ」

「あいつ、球技大会ではバトル申し込んで来ねぇのかな?」

「忘れてんじゃない?」

直人と奏子は、良介の後ろ姿を見ながら話し合う。

⏰:10/05/10 21:12 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#179 [我輩は匿名である]
「……申し込んで来ないと思うよ」

響子が少し呆れたように言う。

「何で?」

「桐生くん、運動音痴だから」

「…え、マジで?」

響子からの意外な話に、4人ともきょとんとする。

そして、直人がニヤリと含み笑いをした。

「じゃあ、こっちから仕掛けてやればいいんじゃね?」

「…はぁ?」

薫は「何で」と顔をしかめる。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#180 [我輩は匿名である]
「だってよ、これで勝っとけば1勝1敗だろ?あいつもでけぇ顔できなくなるぞ?」

「まぁそうだけど…」

むしろ彼の事はどうでもいい薫は、乗り気じゃなさそうに返事をする。

「よし、じゃあちょっくら言って来るわ!」

「えっ、ちょ…」

薫や響子が止める間もなく、直人は良介の所へ走っていってしまった。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#181 [我輩は匿名である]
「おい!アメリカン!」

直人は良介の背中を叩く。

「……あぁ、君か」

「君って言うなって言っただろ」

直人は嫌そうに言い返す。
「それよりお前、球技大会では『バトルしようぜ』とか言ってこないのかよ?」

直人はニヤニヤしながら尋ねる。

それを聞いて、良介はギョッとする。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#182 [我輩は匿名である]
「い、いや…あんまり僕が勝ちすぎると、月城が可哀想だから…」

「そんな気遣いいらねぇって」

直人は良介と肩を組む。

「それともあれか?勝つ自信ないとか?」

その一言に、良介は顔をこわばらせる。

「まっさかなぁー?あんだけ薫を見下してたんだから、運動とか出来ないわけ、ないよなぁ〜?」

「あっ、ああ当たり前だろう!!」

良介は意地を張ったのか、言い返してきた。

「受けてたってやるさ!」

「直人、やめとけ」

⏰:10/05/14 11:49 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#183 [我輩は匿名である]
2人の様子を見兼ねたのか、薫がやってきた。

「な、何だよ?」

「おい桐生、お前が出るのは野球か?ドッヂボールか?」

薫は直人の問いには答えず、良介に尋ねる。

「ド、ドッヂボールだけど…」

「え…」

良介の答えに、直人はきょとんとする。

「…競技が違うのに、どうやって戦うんだ?」

薫は不機嫌そうに直人を睨む。

⏰:10/05/14 11:49 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#184 [我輩は匿名である]
「い、いいのかよ?僕を見返したいんじゃないのか?」

良介は少し不思議そうに言ってくる。

「見返すも何も、どうやって勝負するんだって言ってるんだ。

それに、別に弱点突いて勝ったって、面白くないだろ」

薫はあっさり答える。

「それに、例えそれで勝っても、お前納得しないだろ。

そうなったら余計にめんどくさいから、別にしなくていい。

だからさっさと帰れ」

薫は良介にそれだけ言い、背を向ける。

良介は何か言いたそうだったが、そのまま帰っていった。

⏰:10/05/14 12:41 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#185 [我輩は匿名である]
それに見向きもせず、薫は直人に向き合う。

「お前もこんな事に頭を働かすな」

「だってよー」

直人は小さい子どものように頬を膨らませる。

「いいじゃん別に、ねぇ?」

奏子も直人の肩を持つ。

「お前には関係ないだろ」

「そんな言い方しなくていいじゃん」

「ちょっと、やめなよ2人とも」

ピリピリした空気になり始めた2人を、響子が間に入って止める。

⏰:10/05/14 12:41 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#186 [我輩は匿名である]
「だって…」

「奏子、確かに私達関係ないし…」

飛鳥も困ったように奏子に声をかける。

しかし、奏子はムッとしたように飛鳥をにらみ、走って帰ってしまった。

「(…なんか、睨まれた…?)」

飛鳥は少し不安になる。

「…そんなに気を遣わなくても、あいつの事は気にしてないから」

薫はだいぶイライラしているのか、少しきつく直人に言う。

⏰:10/05/14 12:42 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#187 [我輩は匿名である]
「…悪かったよ」

直人はうつむいたまま謝る。

「…もういいよ」

薫はそれだけ言って、黙って家に向かって歩きだす。

「…ごめんね、2人とも」

代わりに響子が直人達に謝って、薫と帰っていった。

直人と一緒に残された飛鳥は、気まずくなって、黙って直人を見る。

「…俺、そんな変な事したのかな?」

いまいち納得できていないのか、直人は首を傾げる。

⏰:10/05/14 22:09 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#188 [我輩は匿名である]
「…他の人に突っ込まれたくない事なんじゃない?月城にとっては」

飛鳥は静かに直人に言う。

「自分でどうにかしたいっていうか、しなきゃいけないっていうか…。

あいつ結構頑固なとこありそうだし、この間負けた悔しさもあるだろうし…。

アレも鬱陶しい性格してるから、余計イライラしてるんじゃない?」

まるで薫の気持ちを見透かしているかのような飛鳥を、直人はぽかんとして見つめる。

「…よくわかるな、そこまで」

「予想だけどね。でも…何となくわかる気がして」

飛鳥は少し苦笑する。

⏰:10/05/14 22:10 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#189 [我輩は匿名である]
「私でも、親の事とかで首突っ込まれすぎたら腹立つだろうし…」

「えっ?じゃあ俺…」

「いや、あんたは元気付けたりしてくれるだけだから怒ったりしないよ。

相談乗ってくれたりするから、むしろ感謝してるっていうか」

飛鳥は素直に直人に言う。

直人は少し照れて、顔を背ける。

⏰:10/05/14 22:10 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#190 [我輩は匿名である]
「……難しいね、友達って」

さっきの奏子の顔を思い出して、飛鳥はぼそっと呟く。

「…お前も何かあったのか?」

「ん?…いや…」

飛鳥は首を振って、「帰ろ」と言って歩きだす。

直人は飛鳥の様子を気にしながら、一緒に帰っていった。

⏰:10/05/14 22:11 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#191 [我輩は匿名である]
「響子さぁ…」

何日か経った放課後、奏子は響子にこっそりと尋ねた。

「飛鳥と水無月って、どういう関係だったか知ってる?」

「…えっ?」

全く予想外の質問に、響子はドキッとして、鉛筆を回す手を止める。

「ど…どういう事?」

「飛鳥も本持ってる事、響子知ってたでしょ」

奏子は真剣な顔で問いただす。

響子は少しの間黙る。

⏰:10/05/15 13:11 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#192 [我輩は匿名である]
「知ってる」と言っているようなものだが、どう言えば良いのかわからない。

奏子もまだ、響子の言葉を待っている。

「……えぇ知ってたわ」

響子は白状した。

「でも、内容までは知らない」

「…ホントに?」

「本当」

疑ってくる奏子に、響子は断言する。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#193 [我輩は匿名である]
「私たちは、自分の本の中の話しかわからない。

まぁ私は、正確には本をもらった者じゃないけどね。

……何でそんな事聞きたいの?」

響子は小さく含み笑いして聞き返す。

今度は奏子が、目を逸らして口を閉ざす。

「…水無月くんの事、気になってる?」

そう聞かれて、奏子はしぶしぶ頷く。

「…そっか」

響子はそれだけ答えた。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#194 [我輩は匿名である]
「…響子達見てたらさ、私、適わないのかなぁ…とか思っちゃうんだよね」

奏子は暗い顔で言う。

響子は黙って、彼女の話に耳を傾ける。

「本をもらった子は、みんな深いつながりがあるけど、…私には何もない。

多分、飛鳥も水無月の事好きだと思うんだ。

だから、水無月は飛鳥を選ぶんじゃないか…って思ってさ」

奏子の話に、響子は何も言えなかった。

「そんな事ないよ」と言えば、良介の背中を押す事にもなりうる。

今近くに良介はいないが、響子は机に肘をついて考える。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#195 [我輩は匿名である]
「…難しいわね、こういう事を考えだすと」

奏子よりも深刻そうな顔をして、響子はまた鉛筆を回す。

「なーにを考えているんだい?」

響子の背後で声がした。

「誰もあんたの話してないから。どっか行ってくれる?」

響子の後ろにいる良介に、奏子が眉間にしわを寄せて釘を刺す。

しかし、良介は奏子の相手をする気はない。

⏰:10/05/15 18:54 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#196 [我輩は匿名である]
「あのCool Boyの相手をするのが難しいって?

いっその事、そろそろ僕に乗り換えたらどうだい?」

「遠慮しておくわ」

「どうやったらそんな風に聞こえるのか教えてくんない?このクレイジー野郎」

ノリノリな良介に、響子も奏子も冷めた目で言い返す。

「あんたは多分、あのクールボーイには勝てないと思うよ?」

「Why?つーか、君発音下手だね」

「ほっとけよ」

奏子は真顔で言い返す。

⏰:10/05/15 18:54 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#197 [我輩は匿名である]
「あんた、本の都市伝説聞いたことある?」

「都市伝説?あの男、そんなFantasy信じてるのかい?

バカだなぁー。だから僕に勝てな…」

良介が相変わらず自意識過剰な発言を始めた時、

響子の手元から『バキッ』という変な音がした。

見ると、さっきまで彼女の手の中で回っていた鉛筆が、真っ二つに折れている。

「きょ…」

「響子ちゃん…?」

目を疑っている2人をよそに、響子は折れた鉛筆を見下ろす。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#198 [我輩は匿名である]
「……都市伝説、私も信じてるんだけど」

響子は満面の笑みで良介の方を向く。

「えっ?そうなのかい?どんな話?」

良介はコロッと態度を変える。

「(何で今の怖い笑顔を無視できるんだ…?)」

奏子は呆然と良介を見る。

「言わない。話すと長くなるから」

響子はフンと顔を背ける。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#199 [我輩は匿名である]
「えっ!?気になるじゃないか!教えてくれよ!」

良介は顔の前で手を合わせて響子に頼み込む。

「…薫へのライバル心を改めてくれるなら、教えてあげる」

響子は少し挑発するような笑みで答える。

「………じゃあいいや」

良介はあっさり諦めて、何故か早足で教室を出ていった。

「……何なの?あいつ」

奏子は鬱陶しそうにため息をつく。

しかし、響子は黙ったまま、ドアの方を見つめていた。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#200 [我輩は匿名である]
「おい、月城」

良介は薫の目の前で仁王立ちをする。

眼鏡を拭いていた薫は、早くも迷惑そうな顔でそれを見上げる。

「なんだ?お前、目悪いのか?僕は裸眼だぞ」

「だから何だ」

威張る良介に、薫は短く言い返す。

「…また来てるな、あいつ」

「懲りないね…」

直人と飛鳥は窓際で、2人の様子を見つめる。

⏰:10/05/16 12:35 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


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