記憶を売る本屋 2
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#350 [我輩は匿名である]
直人が笑って返事をしようとした時。

「ふぅん、意外だなー」

直人の背後で、若い男性の声がした。

振り向いてみるが、誰もいない。

「…今何か言ったか?」

「いや?」

飛鳥はきょとんとしている。

声も彼女のものではなかった。

「どうかしたの?」

⏰:10/06/10 18:57 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#351 [我輩は匿名である]
「今、男の声が聞こえてきたんだけど。もしかして幽霊!?」

幽霊は怖くない直人は笑うが、飛鳥はかなり嫌そうな顔をしている。

「何だよ?」

「幽霊なんかいるわけないだろ!?変な事言うな!!」

飛鳥はものすごい剣幕で言い返してきた。

直人はきょとんとしてそれを見る。

「……お前、もしかして……幽霊怖い、とか?」

「…な…っ」

直人に図星を突かれて、飛鳥はちょっと顔を赤くする。

⏰:10/06/10 18:58 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#352 [我輩は匿名である]
「そっ、そんな事…」

「はっはーん、そうか。お前お化け怖いのか」

「こっ、怖くない!」

ニヤニヤしてからかってくる直人に、飛鳥は大声で言い返す。

しかし、直人は全く信じない。

「そーゆーの全然平気そうなのにな。じゃああれか?

香月の前世が幽霊だった話とか聞いてる時も、怖がってたわけ?」

「………それは……」

「死にかけてる男の前で、悲しそうに立っている髪の長い女…。うはっ、怖ぇ」

⏰:10/06/10 18:58 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#353 [我輩は匿名である]
もはや死神じゃねぇか、と直人は笑う。…が。

「(……悲しそうに立っている…髪の長い女…)」

飛鳥は真剣に想像する。

こういう事を考える時、何故かありえない程恐ろしい顔の幽霊が思い浮かぶもの。

頭の中で、もはや原型である今日子の顔からかけ離れた、気味の悪い女性が出来上がった。

「(………今日、お風呂入るのやめようかなぁ……)」

1人で勝手に暗くなっている飛鳥を見て、直人はちょっと慌ててフォローに入る。

「ま、まぁほら、香月みたいな奴が幽霊でも、全然怖くねぇけどな!

顔も可愛いし、背ちっこいし?むしろ薫の方が…」

⏰:10/06/10 18:58 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#354 [我輩は匿名である]
「……月城が幽霊だったら…確実に呪い殺される……」

2人の頭の中に、血まみれの服に包丁を握り、半笑いで立っている薫の姿が思い浮かぶ。

「………やめよう。さすがに俺も怖くなってきた…」

「だから言ったじゃん…。夢に出てきたらどうしよう…」

泣きそうな顔で飛鳥はうつむく。

「でも何だったんだろ?俺が聞いた声。どっかで聞いた事ある気もしたけど…」

気まずくなってきたので、直人は話を戻す。

「……うめき声とか、そういうの…?」

飛鳥が恐る恐る尋ねる。

⏰:10/06/10 18:59 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#355 [我輩は匿名である]
「違ぇよ。『ふうん、意外だな』って…」

「…そんなのんきそうな幽霊、初めて聞くんだけど」

「何で」とでも言いたそうに、飛鳥が言う。

「俺だってこんなの初めてだっつの」

「…まぁ、怖くなさそうな幽霊で良かったね」

「そっちかよ」

俺が気になってるのはそっちじゃない。直人は心の中で呟く。

「まぁ、そのうち思い出すんじゃない?空耳だったかもしれないし」

「んー…」

⏰:10/06/10 18:59 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#356 [我輩は匿名である]
軽くあしらわれてしまい、直人はちょっと不満そうに首をかしげる。

「…もう忘れちゃったのか」

「ん?」

直人は思わず顔を上げる。

「神崎、お前今何か言ったか?」

「しつこいな、言ってないって」

飛鳥はちょっとうっとうしそうに答える。

「…本当に、今『もう忘れちゃったのか』って言わなかったか?」

「言ってないって。何なんだよ」

⏰:10/06/10 19:00 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#357 [我輩は匿名である]
しつこい直人に、飛鳥はちょっとムッとしている。

「…またさっきの声がした」

直人はぽかんとした表情で言う。

さすがに、飛鳥の顔から血の気が引く。

「………こ、怖い事言うな!もう先帰る!」

「あ?ちょっ…」

⏰:10/06/10 19:00 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#358 [我輩は匿名である]
直人が止める間もなく、飛鳥は怖がって、走って逃げていった。

「……何なんだよ…」

直人はその場でしばらく、腕を組んで立ち尽くす。

しかし、それ以降は何も聞こえなかったため、とぼとぼと1人で帰っていった。

⏰:10/06/10 19:00 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#359 [我輩は匿名である]
「幽霊?」

次の日、直人は薫に幽霊の話をしてみた。

「そう。昨日帰りに、誰もいないのに声が聞こえてきたんだ」

「ふうん…お前、霊感あったんだな」

薫は呑気に言いながら、手首に貼られた湿布を気にしている。

「そーゆーのはどうでもいいんだよ!」

直人はバンッ!と机をたたいて声を荒げる。

幽霊ごときにキレる直人に、薫はきょとんとする。

「俺が気にしてんのは、その声なんだよ!」

⏰:10/06/10 19:01 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#360 [我輩は匿名である]
「声?」

「俺が知ってる声なんだよ!誰だかわかんねぇけど!」

「(そんな事言われても…)」

薫は少し呆れながら首をかしげる。

「神崎の声じゃないのか?一緒に帰ってただろ」

「いーや違う」

直人は首を振って断言する。

「だって、男の声だぜ!?クラスの奴の声でもなかったし…」

「……何か言われたのか?」

⏰:10/06/10 19:01 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#361 [我輩は匿名である]
「『ふうん、意外だな』って」

「…何だそれ…」

いきなりそんな事を言う幽霊がいるのかと、薫はますます呆れる。

「聞き間違えじゃないのか?」

「違ぇよ!その後も『もう忘れちゃったのか』って言われたし!」

直人は必死に説得するが、薫は「うさんくさい」という表情で聞いている。

「本当だって!」

「…まずさぁ」

薫がため息をつきながら口を開く。

⏰:10/06/10 19:01 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#362 [我輩は匿名である]
「お前の他に、誰か同じ道歩いてたとか…」

「誰もいなかった」

「じゃあ何か考えてたのか?」

「……考えてた」

「何を?」

「石川晶も運動嫌いだったのか、へぇーって」

「(…何だそれ…)」

全く話がつかめなくて、薫は眉間にしわを寄せて腕を組む。

「なんかな、神崎が運動嫌いって話してたんだよ」

⏰:10/06/10 19:02 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#363 [我輩は匿名である]
「はぁ…」

「で、あいつが『石川晶が運動嫌いだったんだから仕方ない』って…」

「…ふうん…。確かに球技大会の時テンション低かったな」

薫は結構どうでも良さそうに返事をする。

「だろ?…って、俺そんな話したいんじゃねぇんだよ!」

「いつか言うと思ってた」

薫は呆れたように笑って言った。

⏰:10/06/10 19:06 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#364 [我輩は匿名である]
「(…でもそれって、普通に考えて…)」

薫は考えながら、悩んでいる直人を見つめる。

「(……まぁ…俺が言うより、自分で気付いた方が良いか…)」

「なぁ、俺、何か恨まれてんのかなぁ?」

直人は特に気にしてなさそうに呟く。

「さぁ?俺にはさっぱりわからないな」

「ちぇっ。いいよ、自分で考えるから」

直人は口を尖らせて、自分の席に戻る。

⏰:10/06/10 19:06 📱:N08A3 🆔:BePAOuBw


#365 [我輩は匿名である]
「なぁ」

席に座ると同時に、今度は飛鳥が話し掛けてきた。

「ん?」

「今日は、例の幽霊はいないの?」

飛鳥は暗い顔で尋ねる。

「あ?あぁ、今日はまだ何も」

直人は椅子の上であぐらをかく。

すると、飛鳥は少し恥ずかしそうな顔で、直人にある物を手渡した。

⏰:10/06/12 19:57 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#366 [我輩は匿名である]
「はい」

「…何?お守りじゃん」

直人が受け取ったのは、神社で売っている、青い御守りだった。

「それ、あんたにあげる」

「へ?これ、俺にくれんの?」

「…うん」

飛鳥は視線をそらして頷く。

「何で?」

直人はぽかんとして尋ねる。

⏰:10/06/12 19:58 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#367 [我輩は匿名である]
「だって…変な幽霊に取り憑かれてたら近寄れないじゃん!」

飛鳥はちょっと顔を赤くして、声を上げて答える。

「あぁ、なるほどな!サンキュ!」

直人はニッと笑って、どこに付けようかと考える。

何だか嬉しそうな直人を見て、飛鳥もホッとしたように笑う。

「なぁ、お前ならどこに付ける?」

「私?私は…」

そう聞かれて、飛鳥も一緒に考える。

⏰:10/06/12 19:58 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#368 [我輩は匿名である]
「………お守りって、肌身放さず持っとく物だろ?…財布とか?」

「でも、俺の財布にお守りつけれそうな所なんかねぇぞ」

「あぁ…。うーん…」

「…あ!」

直人はひらめいたように声を上げる。

「財布の中に入れとけばいいか!」

「あぁ、いいんじゃない?それでも」

飛鳥は小さく笑って答える。

⏰:10/06/12 19:58 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#369 [我輩は匿名である]
我ながらいいアイデアだと、直人は財布にお守りを入れる。

「でも、本当にいいのかよ?せっかく自分で働いた金なのに」

「いいよ、それぐらい。だからさっさと幽霊追っ払えよ」

飛鳥はかなり嫌そうな顔で直人に言った。

直人はふと、財布の中身を見つめる。

「お前、もう飯買った?」

「…買ってない。昼休みに食堂でパン買うつもりだけど」

⏰:10/06/12 19:59 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#370 [我輩は匿名である]
急に何を聞くのか。飛鳥は眉間にしわを寄せる。

「じゃあ、パン1個おごってやるよ」

財布の中身を確認した後、直人は満面の笑みを浮かべて言った。

「………へ?」

飛鳥はただきょとんとする。

「なんで?」

「これのお礼!」

答えながら、直人は財布を指差す。

⏰:10/06/12 19:59 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#371 [我輩は匿名である]
「え、いいよ、別に」

「いいっていいって。昨日小遣いもらったばっかだしよ。

パン代浮かせて、さっさとケータイ買えよな」

「う…」

携帯電話を持っていないことをからかわれて、飛鳥は悔しそうに目を逸らす。

「何のパンがいい?」

「…サンドイッチ」

「よし。俺今日飲み物買いに行くから、一緒に食堂行くわ」

⏰:10/06/12 19:59 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#372 [我輩は匿名である]
「そう?じゃあチャイム鳴ったらダッシュな」

「はぁ?めんどくせー」

乗り気だった直人の顔が、一瞬にして欝陶しそうな表情に変わる。

が、言ってしまった以上仕方がない。

「わかったよ。俺マジでダッシュするから、ちゃんと付いて来いよな」

そういって、また飛鳥に笑いかけた。

⏰:10/06/12 20:00 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#373 [我輩は匿名である]
そして、昼休み。

「あ…あんたさぁ…」

息を切らして、途切れ途切れに飛鳥が言う。

その横には、何事もないような顔でレジに並んでいる直人の姿。

手にはちゃっかり、ペットボトル飲料が握られている。

「もうちょっと…待ってやろうとか…思わないわけ…?」

「だから言っただろ?マジでダッシュするって」

「そうだけど…!」

言い返そうにも、疲れすぎてそれどころではない。

⏰:10/06/12 20:00 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#374 [我輩は匿名である]
必死で直人に付いてきた飛鳥は、膝に手をついて息を整える。

「まぁいいじゃん。これなら売り切れる前にサンドイッチ買えるぞ」

「…まぁね……」

直人がダッシュしたおかげで、前から5、6番目に並ぶ事が出来た。

「すぐ売り切れるだろ?サンドイッチ」

「そうだね…。サンドイッチが1番人気みたいだし」

「お前サンドイッチ好きなのか?」

「結構好き、かな」

レジを待つ間、2人はそんな話をして時間を過ごす。

⏰:10/06/12 20:01 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#375 [我輩は匿名である]
「……ありがとね」

「ん?」

不意に言われて、直人はぽかんとする。

「…いや…おごってくれて、…ありがとう、って」

照れているのか、飛鳥は頬を赤くしてそっぽを向く。

「何でお前が礼言うんだよ?俺はお守りのお返ししてるだけだろ」

「…一応言っときたかったの!」

飛鳥は怒ったように言って、黙り込んでしまった。

「(…あれ?怒ったか?)」

⏰:10/06/12 20:24 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#376 [我輩は匿名である]
直人は飛鳥を見ながら考える。

「何だよ、怒んなよ」

「べっ、別に怒ってねぇよ」

「そうか?顔赤いぞ?」

「怒ってないってば!」

「怒ってんじゃん!」

「うるさいなぁ!早くサンドイッチ買ってよ!」

「今から買うっつーの!」

2人はそんな言い合いをしながら、レジの順番がまわってくるのを待っていた。

⏰:10/06/12 20:25 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#377 [我輩は匿名である]
数日後。

直人は憂鬱そうな顔で、自分のノートを見つめる。

隅っこにメモされた、数学の中間試験のテスト範囲だ。

「(………忘れてた…。再来週からテストだった…)」

直人はまるで、埴輪のような顔で茫然とする。

「変な顔」

いつの間にか目の前にいた飛鳥に言われ、直人はハッと意識を取り戻した。

「だって、テストとか…忘れてたし…。

お前のお守り、学業成就のお守りじゃねぇの?」

⏰:10/06/12 20:25 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#378 [我輩は匿名である]
「違うから。それよりほら、来てるよ。あいつ」

飛鳥は呆れた表情で、薫の座席を指差す。

薫の目の前に仁王立ちしているのは、案の定良介だった。

「……飽きねぇなぁ…あいつも…」

直人もため息を吐いて、机に肘をつく。

「おい月城!Good newsだ!」

「何だ」

薫も腕を組んでむすっとしている。

「今回のテストのBattleは無しだ!ありがたく思え!」

⏰:10/06/12 20:26 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#379 [我輩は匿名である]
「は?」

彼の言葉には、薫だけでなく直人たちもきょとんとする。

「する気は全くなかったけど、何でまた?」

「球技大会を無しにしてくれたからな。借りぐらい返させろ」

「(あれは貸しに入るのか…?)」

何故かしたり顔の良介を、薫は呆然として見上げる。
「お前…」

「用件はこれだけだ!次は覚悟しておけよ!」

「え、ちょ…」

⏰:10/06/12 20:26 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#380 [我輩は匿名である]
薫が何か言う前に、良介は走って教室を出て行った。

薫は疲れ果てたようにため息を吐く。

「…ちょっくら慰めに行ってやるか」

直人は何だか楽しそうに笑って立ち上がる。

暇なので、飛鳥もとりあえずそれについていく。

すると、響子や奏子も8組にやってきた。

「どうしたの?」

「数学の教科書忘れちゃって…」

飛鳥が尋ねると、奏子が苦笑して答えた。

⏰:10/06/12 20:26 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#381 [我輩は匿名である]
「あぁ…今日、うち数学ないんだ。水無月は持ってるかもしれないけど」

「教科書全部置いて帰りそうだもんね、水無月くん」

響子は笑って言った。

「聞いてみよっか」

女子3人は、話しながら直人達に寄っていく。

「苦労するな、お前も」

直人はニヤニヤしながら薫の肩をたたく。

「……いいよな、あいつに絡まれなくてすむ奴は」

薫は遠い目をして言い返す。

⏰:10/06/12 20:27 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#382 [我輩は匿名である]
「ま、良かったじゃん。期末テストまで絡んでこないんじゃねーの?」

「……まぁな」

「(…良介くん、また何か言いに来たのね…)」

話の内容から察したらしく、響子が頭を抱えてため息を吐く。

「神崎、こいつにも魔除けのお守り買ってやれば?」

直人は何も考えずに、笑顔で飛鳥に声をかける。

「はぁ?何であたしがそこまで…」

飛鳥はめんどくさそうに言い返す。

⏰:10/06/12 20:28 📱:N08A3 🆔:C5E9sbig


#383 [我輩は匿名である]
「お守り?」

奏子と響子は顔を見合わせる。

「…響子」

ボーッとしていた薫は、ここで初めて響子達が来ているのに気付いた。

「薫か水無月くん、どっちか数学の教科書持ってない?

奏子ちゃんが忘れちゃったらしくて」

「俺あるぜ」

直人はニッと笑って手を挙げる。

「やっぱりな」

⏰:10/06/14 19:51 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#384 [我輩は匿名である]
飛鳥と奏子が声を合わせる。

「あんただったら、絶対教科書置いてると思って」

「うっせぇな!教科書貸さねぇぞ」

「いいじゃん本当の事なんだから!早く貸してよ」

奏子は急かすように手を出す。

直人は軽く舌打ちして、一旦自分の席に戻る。

奏子もそれについていく。

「えーっと…あったあった。ほらよ」

いっぱいになった机をあさっていると、少ししわの寄った数学の教科書が出てきた。

⏰:10/06/14 19:52 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#385 [我輩は匿名である]
「サンキュ♪」

「どーいたしまして」

「お礼に私もお守りあげよっか?」

「はぁ?別にいらねぇよ。お守りは1個で充分だろ」

直人はポケットに手を突っ込んで断る。

「つーか、何で飛鳥からお守りもらったの?」

奏子は不思議そうに首をひねる。

「この間の幽霊話でさ。俺が『変な声がする』って、球技大会の時言っただろ?

あれ言ったら、『怖くて近寄れないから持っとけ』って」

⏰:10/06/14 19:52 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#386 [我輩は匿名である]
直人は呆れたように笑って、響子と一緒に薫と喋っている飛鳥を見る。

「ふうん。意外と乙女だね、飛鳥」

「みたいだな。あんなムスッとしてる奴が怖がりとか、すげぇギャップ」

「確かに」

奏子は笑って頷き、直人の顔を眺める。

直人はまるで見守るような目で飛鳥を見ている。

「…あんたって飛鳥の話する時、すごい良い顔するよね」

そんな事を言われて、直人はきょとんとする。

「……そうか?」

⏰:10/06/14 19:52 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#387 [我輩は匿名である]
「うん」

奏子は少し笑って頷く。

「…なんか悔しいけどね」

それだけ言い残して、奏子は3人の方に歩きだした。

「(……何が悔しいんだろ?)」

彼女の言葉の意味がわからず、直人はぽかんとする。

「(………まぁいいか)」

一瞬考えた末、直人は特に気にせずに、4人の元に戻っていった。

それからは、特に大きな出来事は無かった。

⏰:10/06/14 19:53 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#388 [我輩は匿名である]
3週間後。

もう10月の中旬。

さすがに涼しくなってきて、制服も合服に変わった。

「お?」

直人達はじーっと、貼り出された成績順位を見つめる。

直人はほんの少し健闘して93位。

薫は良介と同着1位。

響子は前回とほぼ同じ120位。

奏子は171位。

そして驚く事に、飛鳥の点数が39位だった。

⏰:10/06/14 19:53 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#389 [我輩は匿名である]
「すげー!やるじゃんお前!」

直人はバシッと飛鳥の肩をたたく。

「…本当だ」

「何だよ!嬉しくないのか!?」

「う、嬉しいけど…信じられないっつーか…」

飛鳥はただただきょとんとしている。

課題テストの時は98位だったのが、今回のこの順位。

信じられないのも無理はない。

「へへへっ、なんか俺の方がテンション上がってきた!」

⏰:10/06/14 19:54 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#390 [我輩は匿名である]
茫然とする飛鳥の肩に手を回して、直人は満面の笑みを浮かべる。

「弟見返すのも近いかもな!頑張れよ!」

「…うん、ありがと」

直人に言われ、飛鳥もやっと嬉しそうに笑った。

奏子は黙って、2人の様子を見る。

「なぁ、お祝いしようぜ!薫も1位だった事だし」

「なんでこういう時に1位なんだ…」

「いいね、お祝い♪」

ため息を吐いている薫の隣で、響子が笑って返事する。

⏰:10/06/14 19:54 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#391 [我輩は匿名である]
「あたし、カラオケがいい!」

奏子が真っ先に手を挙げる。

「(カラオケ…)」

直人と響子は、その一言にぎょっとする。

「…俺はいい」

更に暗い顔をして、薫は断った。

「なんでー?いいじゃん、このメンバーで行った事無いし」

「あんまり好きじゃないんだよ、カラオケは。

もっと他の事にしないか?」

⏰:10/06/14 19:54 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#392 [我輩は匿名である]
薫はきっぱりと言い張って、他に何か無いか考える。

しかし答えが出ないまま、予鈴のチャイムが鳴った。

「…あ、俺トイレ行ってくる」

「じゃあ、私達も行こ」

「うん」

薫はトイレへ、響子と奏子は自分達の教室へと歩きだす。

2人きりになった直人と飛鳥は、お互い顔を見合う。

⏰:10/06/14 19:55 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#393 [我輩は匿名である]
「……月城、もしかして……」

「…誰にも言うなよ。あいつそれバラすとキレるから」

直人の言葉に、飛鳥は「やっぱりな」と確信した。

「…音痴なの?」

「あぁ、信じられねぇぐらいな」

直人は苦笑する。

「音符は読めるけど、歌うとなると、さっぱりだ。

中学の通知表で2取った事があるぐらい」

⏰:10/06/14 19:55 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#394 [我輩は匿名である]
「そんなに?」

「おう。ちなみに絵もかなり下手だぞ」

「…あぁ、なんか下手だったな」

本の代償の話をした時の事を思い出し、飛鳥は頷く。

そして、少し残念そうに、こう呟いた。

「……カラオケ行きたかったな」

直人はじっと、飛鳥を見る。

「じゃあ、今度行くか」

ニッと笑って、飛鳥に言ってみる。

⏰:10/06/14 19:56 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#395 [我輩は匿名である]
「へ?」

思いも寄らぬ誘いに、飛鳥はきょとんとする。

「行きてぇんだろ?カラオケ。

俺カラオケ好きだし、お前が良いんなら行くぜ」

直人は笑顔で飛鳥を誘う。

行きたい。飛鳥は思ったが、口には出せなかった。

奏子が直人を好きだという事を考えると、行っていいのかわからないのだ。

⏰:10/06/14 19:56 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#396 [我輩は匿名である]
「…そう、だね。考えとこ」

そんな答えしか返せなかった。

「あ、お前バイトとかあるもんな。行けそうだったら言えよな」

「うん、ありがと」

直人は特に変に思う事なく、笑顔で言った。

⏰:10/06/14 19:57 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#397 [我輩は匿名である]
昼休み。

「カラオケ?」

奏子が席を立っている間に、飛鳥は響子に相談していた。

「いいじゃない、行ったら。私だったら行くわよ」

「…そう?」

響子に当たり前のように言われて、飛鳥は更に悩む。

「…まぁ、相手が友達だから悩むのもわかるけどね。

でも、飛鳥ちゃんも水無月くんが好きなんでしょ?」

「……………うん」

⏰:10/06/14 19:57 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#398 [我輩は匿名である]
飛鳥は大きく頷く。

「じゃあなおさらよ。気遣ってたら、取られちゃうわよ?」

響子は真剣な顔で、急かすように言う。

一息つき、飛鳥は考える。

「(…そう…なんだよなぁ…。

でも、奏子とややこしい事になったらめんどくさいし…)」

悩んでる飛鳥を、響子はじっと見つめる。

「……いいなぁ。私にもあったな、そういう時」

懐かしそうに、響子が笑った。

⏰:10/06/14 19:58 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#399 [我輩は匿名である]
「そうなの?」

「そりゃあるわよー。友達と取り合いしたって事はなかったけど」

「やっぱり、2人で出かけるって時、緊張した?」

「したした。でも1番は…やっぱり優也と初めてご飯行った時かな。

あっちはもっと緊張してあらしいけど」

響子が嬉しそうに話すのを、飛鳥も笑顔で聞き入る。

「そうなの?」

「うん。優也が誘ってきたからね。

『良かったら今度、2人でご飯行きませんか?』って」

⏰:10/06/14 19:58 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#400 [我輩は匿名である]
「へぇ。いいね、そういうの」

「飛鳥ちゃんだって、水無月くんにカラオケ誘われてるじゃない」

「…そっか」

飛鳥は思い出したように頷く。

「……ちょっと悪い気もするけど、大丈夫だよね?」

「大丈夫よ。行ったら感想聞かせてね」

響子は早くも楽しそうに笑った。

⏰:10/06/14 19:59 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#401 [我輩は匿名である]
が。

「あ!」

「ん?」

飛鳥は困ったような顔でうなだれる。

「あたし、いい服持ってない…」

「あらまー…。家にどんな服があるの?」

「ジャージ」

「だけ!?」

「うん」

暗い顔で答える飛鳥に、響子は目を丸くしている。

⏰:10/06/14 19:59 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#402 [我輩は匿名である]
しかし、すぐにキリッとした顔で言った。

「……今日、奏子ちゃんバイトよね?」

「うん」

「飛鳥ちゃん、お金ある?」

「…昨日給料日だったから、1万円ぐらいはある」

1万円か。響子は少し考え。

「まぁいいわ。飛鳥ちゃん、今日放課後、買い物行こ」

響子に言われて、飛鳥はきょとんとする。

⏰:10/06/14 19:59 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#403 [我輩は匿名である]
「…でも、あたし買い物とか行った事ないし…」

「わかってるわよ!私がちゃんとついて行くから!」

手に力を入れて、響子は飛鳥を説得する。

響子が来てくれれば安心だ。

ちょっと間黙った後、飛鳥は「うん!」と大きく頷いた。

⏰:10/06/14 20:00 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#404 [我輩は匿名である]
「ここさぁ、どうやって行くかわかんねぇんだよなぁ…」

その頃、直人は後ろの黒板を使って、薫とTVゲームの話をしていた。

直人が書いた簡単な地図を、薫はじーっと見つめる。

「お前、これ行けた?」

「このソフト、多分全クリした」

「マジかよ!どうやった!?」

直人に詰め寄られ、薫は腕を組んで考える。

「……忘れた」

「何だよそれー」

直人は悔しそうに壁にもたれる。

⏰:10/06/14 20:00 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#405 [我輩は匿名である]
「じゃあ今度家に来て、俺の代わりにクリアして」

「は?あぁ、いいよ」

「いつがいいかなぁー?」

「なぁ」

直人が嬉しそうに考えていると、飛鳥が4組から帰ってきた。

「おう、おかえり」

「…カラオケの話なんだけどさ」

飛鳥のその一言に、薫の眉がぴくっと動く。

「カラオケ…?」

⏰:10/06/14 20:01 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#406 [我輩は匿名である]
「大丈夫、俺とこいつが行くだけだから」

「そうか、ならどうでもいい」

直人に言われて、薫は小さく笑う。

「………やっぱり、行きたい。

よく考えてたら昨日給料日だったから、お金もまだあるし…」

「おぉ!じゃあ行こうぜ!いつがいい?」

直人の表情が、パッと明るくなる。

その反応を見て、飛鳥もホッとして笑みをこぼす。

⏰:10/06/14 20:01 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#407 [我輩は匿名である]
「あたしは…明日はバイトだから、それ以外なら」

「でも、せっかく行くんだし、いっぱい歌える方が良くないか?」

「そうだね。だったら、土曜日とか?」

「それがいいな。日曜日はゆっくりしたいし。へへっ、楽しみだな!

…って、俺金あんのかな?」

直人はぶつぶつ言いながら、席に戻って財布をチェックする。

飛鳥はじーっと薫を見る。

⏰:10/06/14 20:02 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#408 [我輩は匿名である]
「……なぁ、月城」

「ん?」

黒板に書いた地図を消していた薫は、手を止めて飛鳥を見る。

「……今の話さ…」

飛鳥は少しうつむき加減に、話しにくそうにしている。

何を言おうとしているのかわかったらしく、薫はフッと笑う。

「安斎か?」

言う前に聞き返されて、飛鳥は「え…」と顔を上げる。

⏰:10/06/14 20:02 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#409 [我輩は匿名である]
「言わねぇよ。言ったらややこしくなるだろ。

喧嘩でもして、また飛び降りられても困るしな」

「い、いくら何でもそんな事で死なねぇよ!」

「どーかな」

薫はバカにしたように笑って、また手を動かす。

ちょっとイラッとしたが、薫なら黙っていてくれるだろう。

⏰:10/06/14 20:03 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#410 [我輩は匿名である]
「なぁ、4千円で足りるかなぁ?」

直人が戻ってきた。

「足りるよ、充分」

「だよな!じゃあ土曜日、忘れんなよ」

「あんたもね」

直人と飛鳥は、お互いそう言って笑い合った。

⏰:10/06/14 20:03 📱:N08A3 🆔:hqt4bZk6


#411 [我輩は匿名である]
待ちに待った土曜日。

結局11時に待ち合わせし、気が済むまで歌う事になった。

響子と買い物に行って買って来た服を着て、飛鳥は玄関で靴を履く。

「ははっ、何?その格好」

背後で、嘲笑うような巧の声がした。

飛鳥は無視する。

「もしかしてデート?いいねぇ、暇人は。

どうせ相手も、あんたと同じ、ろくでもないような男なんだろ?」

やれやれ、とでも言いたそうに、巧は大げさにジェスチャーまでつける。

⏰:10/06/22 19:38 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#412 [我輩は匿名である]
「あたしはろくでもない女だけど」

出て行き様に、飛鳥は口を開いた。

「相手は、あんたよりもいい男だよ」

「はぁ!?」

巧はかなりイラッときたのか、顔が苛立ちに歪む。

しかし、飛鳥は構う事なく家を出た。

⏰:10/06/22 19:39 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#413 [我輩は匿名である]
直人はボーッと、駅前の時計台の前で飛鳥を待つ。

「お待たせ」

少しして、飛鳥がやってきた。

パーカーにワンピース。

普段見ない格好をしている飛鳥を、直人はまじまじと見つめる。

「……変?」

緊張しているような顔で、飛鳥が尋ねてくる。

「いや。…ジャージしか見た事ないから、新鮮だなぁと」

かなり興味深いのか、直人は言いながら、まだ飛鳥の服を見ている。

⏰:10/06/22 19:39 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#414 [我輩は匿名である]
「…いいじゃん、たまにはこういう格好も」

一通り見た後、直人は笑った。

「変じゃないよな?」

「全然。行こうぜ」

そう言って、直人は歩きだす。

飛鳥もそれについて行く。
「…さっき家出る時、また弟に嫌み言われたんだけどさ」

カラオケ店に行く途中、飛鳥が話し始めた。

直人は早くも「またかよあのクソガキ」と顔をしかめる。

⏰:10/06/22 19:39 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#415 [我輩は匿名である]
「何言われたんだよ?」

「『デート?いいねぇ暇人は。どうせ相手もろくでなしなんだろ』って」

「はぁん!?今度俺んとこ連れてこい!

吊し上げにしてヒーヒー言わせてやる!」

「…まぁ先にあたしの話聞けよ」

気合いを入れる直人を、飛鳥はちょっと呆れ気味に落ち着かせる。

「…で、今日はちゃんと言い返してきた」

「おお!何て?」

直人は目を輝かせる。

⏰:10/06/22 19:40 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#416 [我輩は匿名である]
「…『あたしはろくでなしだけど、相手はお前よりいい男だよ』って」

飛鳥は少し恥ずかしそうに答えた。

それを聞いて、何故か直人は不満そうに腕を組む。

「…言い返したのは偉いけどよぉ、お前別にろくでなしじゃないだろ」

「……んー…」

「まぁ、自殺するような奴はなぁ…」

「うっさいな!どっちなんだよ!」

からかうように笑う直人を、飛鳥は声を荒げて怒鳴りつける。

その反応を見て、直人は笑い声を上げる。

⏰:10/06/22 19:40 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#417 [我輩は匿名である]
「まっ、そのバカ弟よりは立派な人間だって」

そう言いながら、飛鳥の肩を軽くたたく。

「よくやったじゃん、お前にしては」

「何様だよお前」

「睨むなよー、冗談だろー?さて、今日は何歌おうかなー」

「あんたいつも何歌うの?」

「俺?俺は…」

そんな会話をしながら、2人は近くのカラオケ店に入っていった。

⏰:10/06/22 19:41 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#418 [我輩は匿名である]
4時間後。

「あーすっきりした!」

カラオケ店から出て来て、飛鳥は大きく伸びをする。

直人も「カラオケ久しぶりだったなぁ」と、満足そうに笑っている。

「つーか、お前意外と歌上手いんだな」

直人は意外そうに言いながら歩きだす。

「そう?まぁ、歌うのは嫌いじゃないしな」

パーカーのポケットに手を入れて、飛鳥は返事をする。

⏰:10/06/22 19:41 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#419 [我輩は匿名である]
「どうする?時間余ってるけど、どっか行くか?」

今はまだ3時過ぎ。

時計を見て、直人は飛鳥に尋ねる。

「……でも、あんたお金ないんじゃないの?」

「まぁ、そんなにねぇけど。でもお前、こんな時間から帰りたくねぇだろ」

「うん」

「即答だな」

2人はどうしようかと、それぞれ頭を抱える。

「…どっかに座ってくっちゃべるか」

⏰:10/06/22 19:41 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#420 [我輩は匿名である]
「そうだね。どこ行く?その辺の公園でも行く?」

「だな」

2人は話しながら適当に歩いて、そこそこ大きな公園を見つけた。

ベンチもある。

そこに腰を下ろして、2人は一息つく。

「…なんか、懐かしい感じしね?2人ででかけるの」

小さく笑って直人が言う。

同じように、「そうだね」と飛鳥が返事を返す。

⏰:10/06/22 19:42 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#421 [我輩は匿名である]
「路地の細いとこに、暗ーい女がうずくまっててさ。

何かのホラー物かと思ったぐらい」

「そんなに怖かったか?」

「あぁ怖かったね。要はどう思ったか知らねぇけどよ」

「あんたがそう思ったんなら、要もそう思ったんじゃない?」

「かもな」

2人は適当に言って笑う。

「でも、喋ってみたら普通の女だったしな。暗かったけど」

⏰:10/06/22 19:42 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#422 [我輩は匿名である]
「暗い暗いって言うなよ。仕方ないじゃん、生い立ちが生い立ちなんだから」

「今も似たようなモンだけどな」

「ははっ、まーね」

飛鳥は苦笑する。

「で、勝手に勘違いして勝手に怒って、挙げ句の果てに勝手に死ぬ、と」

直人は更に呆れたように笑う。

「…ごめんってば」

「人の話はきちんと聞くように!」

「はい…」

まるで説教されているような気がして、飛鳥はうなだれる。

⏰:10/06/22 19:43 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#423 [我輩は匿名である]
「まっ、あんな目に遭ったら2度とやらないだろうけどな」

「うん、無理だね」

話の最中に、直人はふと、ある事を考えた。

「………今思ったんだけどさぁ」

「ん?」

「薫、何でお前の事許せたんだろうな?

前は『石川晶』の名前聞いただけで、すげぇ顔してたのに」

「……何でだろうね」

「だってあいつ、お前の事相当恨んでたぞ?

俺が『何であんな女かばったんだ』とか言われるぐらい」

⏰:10/06/22 19:43 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#424 [我輩は匿名である]
「…まぁ、そう言われても仕方ない事したけどね、あたし」

飛鳥は暗い顔でため息をつく。

しかし、直人には不思議で仕方がなかった。

『初めて人を殺したいと思った』。

そこまで言っていた薫が何故…?

「…そんなに気になる?」

やけに考え込む直人に、飛鳥も首をかしげる。

「うん。だって、『殺してやりたい』とまで言ってたんだぞ?」

「そんなに…!?」

⏰:10/06/22 19:43 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#425 [我輩は匿名である]
ぎょっとしたように、飛鳥が声を漏らす。

「……そのうち聞いてみるか」

途中で面倒くさくなって、直人は考えるのをやめた。

⏰:10/06/22 19:44 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#426 [我輩は匿名である]
「もー、おばあちゃんも人使い荒いなぁ…」

2人が喋っている頃、奏子は買い物から帰っていた。

あの祖母に買い物を頼まれていたらしい。

「お腹減ったなぁー。お菓子買ってくれば良かっ…」

ぶつぶつ独り言を言っていた奏子の目に、ある光景が映った。

奏子は思わず足を止める。

⏰:10/06/22 19:44 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#427 [我輩は匿名である]
近所の公園のベンチに並ぶ、2人の男女。

その横顔は、直人と飛鳥だった。

「(…何で…?)」

一瞬、自分の目を疑った。

しかし、どう見てもあの2人だ。

奏子は逃げるように、早足でその場を離れた。

⏰:10/06/22 19:45 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#428 [我輩は匿名である]
月曜日。

「どうだった?カラオケ」

昼食の時間、薫が直人に尋ねた。

「楽しかったぜ。お前も来れば良かったのに」

直人は笑って言う。

しかし、薫の表情が一気に豹変した。

「『お前も来れば』……?……直人…お前…本気で言ってるのか…?」

「じょ、冗談に決まってんだろ!悪かったよ!」

「そうか、ならいい」

今の目は、かなり危ない目だった。

⏰:10/06/22 19:45 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#429 [我輩は匿名である]
直人は内心ちょっとびびりながら、慌てて弁明した。

「(…危ねぇ…。マジで殺されるかと思った…。……“殺される”…)」

飛鳥と話した、あの内容を思い出す。

「(…いきなり『何で神崎許せたの?』とか聞くの、変だしな…)」

「……何だよ?」

じっと見られて、薫は困ったように声をかける。

が、直人は全く聞いていない。

⏰:10/06/22 19:46 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#430 [我輩は匿名である]
「…………まぁいいや」

そう言って、止まっていた手を動かし始めた。

「(一体何なんだ…?)」

全く読み取れない直人の行動に、薫は呆れて首をかしげた。

⏰:10/06/22 19:46 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#431 [我輩は匿名である]
一方、女子達は。

飛鳥と響子は、じっと奏子を見つめる。

奏子は一言も話さず、ただ黙々と弁当を食べている。

「(……何かあったのかな?)」

「(さぁ…?)」

2人は目で会話する。

「飛鳥さぁ」

不意に奏子が口を開き、飛鳥はビクッとする。

⏰:10/06/22 19:50 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#432 [我輩は匿名である]
「……な、何?」

恐る恐る尋ねる。

「水無月の事好きだよね」

「…え」

目も合わさずに言われて、飛鳥は困ったように響子を見る。

響子も不安そうに飛鳥を見ている。

「この間、公園で2人で喋ってるの見たからさ」

「…えっ」

⏰:10/06/22 19:50 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#433 [我輩は匿名である]
「(…反応薄いなぁ…)」

「え」しか言っていない飛鳥に、響子は少し呆れる。

なぜ奏子に見られたのか、飛鳥は全く理解出来ない。

1番起きてほしくない事が、早くも起きてしまった。

飛鳥の顔に、焦りの表情が浮かぶ。

「好きならそう言ってくれたらいいじゃん。

陰でコソコソされるの、あたし1番腹立つの」

「…奏子ちゃん、飛鳥ちゃんは別にコソコソしてたわけじゃ…」

⏰:10/06/22 19:51 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#434 [我輩は匿名である]
「響子は黙ってて」

止めようとする響子を、奏子はきっぱり黙らせる。

「あたしがあいつの事好きだって知ってるのに、よく出来るよね。

お守り買ってあげたり、2人で会ったり…」

「あれは…」

「悪いけど」

奏子はさっさと弁当を食べ終え、片付ける。

「あたし、そういうの見て黙ってられるようないい子じゃないから」

奏子はきつく吐き捨てて、早足で教室を出て行った。

⏰:10/06/22 19:51 📱:N08A3 🆔:3deUowRU


#435 [我輩は匿名である]
飛鳥も響子も暗い顔で黙り込む。

「………ごめんね」

しばらくして、先に口を開いたのは響子だった。

「…カラオケ、勧めなかったら良かったね」

「…響子のせいじゃないよ」

飛鳥は弱々しく笑う。

「……隠してたあたしが悪いんだ」

無理して笑う飛鳥を見て、響子も肩を落とす。

⏰:10/06/23 18:08 📱:N08A3 🆔:0Q5km5DM


#436 [我輩は匿名である]
言い出すタイミングが掴めなかっただけなのに。

それだけで、こんな事になるなんて。

飛鳥はどうすれば良いのかわからず、大きくため息をついた。

⏰:10/06/23 18:09 📱:N08A3 🆔:0Q5km5DM


#437 [我輩は匿名である]
「…1人で帰んの、久しぶりだなぁー」

飛鳥と奏子はバイト、薫と響子は寄り道するとか。

直人は独り言を言いながら、1人で帰っていた。

「(でも、あいつら今日別々にバイト行ってたな。何かあったのか?)」

今日は別々にバイトに行った、飛鳥と奏子。

2人がもめている事を知らない直人は、のんきに考える。

「(昼休み終わってから、神崎もなーんか元気無かったし…。

もしかして、喧嘩でもしたのか!?)」

珍しくその予想は当たっている。

⏰:10/06/26 13:54 📱:N08A3 🆔:sOCuCGLY


#438 [我輩は匿名である]
「(えーっ、困るって!あいつかなり落ち込むじゃん!

つーか、何で喧嘩したんだ!?そもそも喧嘩で合ってるのか!?)」

直人は歩きながら頭を抱える。

「(……明日、さりげなく声かけてみるか)」

「何て声かけるの?」

「『元気ないじゃん』って」

普通に答えて、直人は足を止めた。

今、直人に話し掛けたのは誰だ?

直人は素早く振り返る。

⏰:10/06/26 13:55 📱:N08A3 🆔:sOCuCGLY


#439 [我輩は匿名である]
しかし、直人以外に誰も歩いていない。

1人でいると怖くなったのか、直人はしばらく息を殺して黙り込む。

「そんなに怖がらなくていいじゃないか」

しかし、黙っていても、また声がした。

「……誰だよ、お前」

直人は恐る恐る呟く。

「水無月直人。16歳。7月20日生まれ。O型」

声は問いに答えるどころか、直人のプロフィールを次々に言い当てる。

⏰:10/06/26 13:55 📱:N08A3 🆔:sOCuCGLY


#440 [我輩は匿名である]
「何だよ?何で俺の事…」

付近を見回しながら、直人は更に問いかける。

「そりゃ知ってるよ。俺はお前の“一部”なんだから」

「“一部”?」

直人は繰り返す。

「まっ、そのうちわかるよ、俺が誰なのか」

それ以上、声は何も言わなくなった。

「(……俺の一部…?どういう事だよ…?)」

声が言ったその言葉の意味が、全く理解出来ない。

直人はなかなか足を動かす事が出来ず、しばらくその場に立ち尽くしていた。

⏰:10/06/26 13:56 📱:N08A3 🆔:sOCuCGLY


#441 [我輩は匿名である]
次の日。

飛鳥はいつも以上にボーッとしている。

「……あいつ、何かあったのか?」

「わかんねぇんだよなぁ、俺にも」

遠くから彼女の様子を見ながら、直人と薫は話し合う。

「聞いてこいよ」

「やっぱ俺!?」

「お前以外に誰がいるんだよ」

「お前がいるじゃん」

⏰:10/06/29 16:57 📱:N08A3 🆔:Kd8tcpI6


#442 [我輩は匿名である]
「何で俺が他の女の機嫌見に行かないといけねぇんだよ」

2人は小声で言い合う。

「ほらっ、あいつのお守りはお前の仕事だろ」

薫にシッシッと手を振られ、直人はムスッとしながら動き出す。

「よ、よぉ、神崎」

顔を引きつらせながら、直人が飛鳥に近づく。

「…あぁ、おはよ」

飛鳥は早くも疲れ果てた顔で挨拶を返す。

⏰:10/06/29 16:57 📱:N08A3 🆔:Kd8tcpI6


#443 [我輩は匿名である]
「おはよう」

様子を伺っていた薫の所に、響子がやってきた。

「おう」

「…飛鳥ちゃんは?」

同じように飛鳥を気にしている響子に、薫は一瞬きょとんとする。

「…今直人が偵察に行ってる」

薫は直人を指差す。

「あいつがどうかしたのか?」

「…実は…」

響子は薫の耳元で、昨日の話をしはじめた。

⏰:10/06/29 16:58 📱:N08A3 🆔:Kd8tcpI6


#444 [我輩は匿名である]
「元気ねぇじゃん」

そんな事も知らない直人は、少し緊張しながら尋ねる。

「そんな事ないけど」

飛鳥は笑って答える。

しかしその笑顔は弱々しく、目の下にはうっすらクマが出来ている。

「…本当か?クマ出来てるぞ?」

「大丈夫だって。いつも通り」

そう言われると、これ以上問い正すわけにもいかない。

⏰:10/06/29 16:58 📱:N08A3 🆔:Kd8tcpI6


#445 [我輩は匿名である]
「…そうか?まぁ、何か悩みあったら言えよ?」

「うん、ありがと」

飛鳥は小さく笑う。

困って、直人はフラフラと席を離れる。

「絶対大丈夫じゃないよ、あの子」

昨日の声が直人に言う。

直人はまた、立ち止まって周りを見回す。

「無駄だよ。お前に俺は見えない」

⏰:10/07/10 10:13 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#446 [我輩は匿名である]
「ちっ」

声にあっさり言われて、直人は舌打ちする。

しかし、今声と話している暇はない。

さっさと薫の所へ戻り、椅子に座る。

「香月。いつ来たんだよ」

「ついさっき」

響子は笑って答え、「じゃあね」と教室に戻っていった。

⏰:10/07/10 10:13 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#447 [我輩は匿名である]
「何しに来たんだ?あいつ」

「俺に“おはようのチュー”しに来ただけだよ」

「えぇっ!?こんな公共の場で堂々と…」

「冗談だって気付けよ!」

薫は冗談を言ったのを後悔したのか、少し赤面して言い返す。

直人は「何だよ冗談かよ」と、机に肘をつく。

「で、どうだった?」

⏰:10/07/10 10:14 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#448 [我輩は匿名である]
「大丈夫って言われたけど、見るからに大丈夫じゃなさそうだ」

2人は深刻そうに話す。

「…あっ」

直人はひらめいた。

「安斎に聞いてくる!」

「えっ!?ちょっ…」

薫が止める間もなく、直人は教室を飛び出す。

「(おい…安斎は喧嘩相手だぞ…)」

事情を聞いた薫は、難しい顔でため息をついた。

⏰:10/07/10 10:14 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#449 [我輩は匿名である]
「安斎ー」

直人は教室に入るなり呼び掛ける。

が、返事がくる前に奏子を見つけ、自分から走っていった。

「おはよ」

奏子はいつも通り笑って挨拶する。

「なあなあ、神崎が元気ないんだけど、お前何か知らない?」

直人は単刀直入に尋ねる。

すると、奏子は少し困ったように顔を背けた。

「……ちょっとね」

⏰:10/07/10 10:15 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#450 [我輩は匿名である]
「(……やっぱり喧嘩かなんかしたんだな)」

奏子の反応を見て、直人は確信した。

「何だよー喧嘩か?仲良くしろよなー」

直人は面倒くさそうにポケットに手を入れる。

「女子だって喧嘩するんだよ!」

奏子はムスッとしたように言い返す。

「…つーか、何で喧嘩したんだよ?」

ちょっと勘がさえても、そこまでは頭が回らない直人。

⏰:10/07/10 10:15 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


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