記憶を売る本屋 2
最新 最初 全 
#401 [我輩は匿名である]
が。
「あ!」
「ん?」
飛鳥は困ったような顔でうなだれる。
「あたし、いい服持ってない…」
「あらまー…。家にどんな服があるの?」
「ジャージ」
「だけ!?」
「うん」
暗い顔で答える飛鳥に、響子は目を丸くしている。
:10/06/14 19:59
:N08A3
:hqt4bZk6
#402 [我輩は匿名である]
しかし、すぐにキリッとした顔で言った。
「……今日、奏子ちゃんバイトよね?」
「うん」
「飛鳥ちゃん、お金ある?」
「…昨日給料日だったから、1万円ぐらいはある」
1万円か。響子は少し考え。
「まぁいいわ。飛鳥ちゃん、今日放課後、買い物行こ」
響子に言われて、飛鳥はきょとんとする。
:10/06/14 19:59
:N08A3
:hqt4bZk6
#403 [我輩は匿名である]
「…でも、あたし買い物とか行った事ないし…」
「わかってるわよ!私がちゃんとついて行くから!」
手に力を入れて、響子は飛鳥を説得する。
響子が来てくれれば安心だ。
ちょっと間黙った後、飛鳥は「うん!」と大きく頷いた。
:10/06/14 20:00
:N08A3
:hqt4bZk6
#404 [我輩は匿名である]
「ここさぁ、どうやって行くかわかんねぇんだよなぁ…」
その頃、直人は後ろの黒板を使って、薫とTVゲームの話をしていた。
直人が書いた簡単な地図を、薫はじーっと見つめる。
「お前、これ行けた?」
「このソフト、多分全クリした」
「マジかよ!どうやった!?」
直人に詰め寄られ、薫は腕を組んで考える。
「……忘れた」
「何だよそれー」
直人は悔しそうに壁にもたれる。
:10/06/14 20:00
:N08A3
:hqt4bZk6
#405 [我輩は匿名である]
「じゃあ今度家に来て、俺の代わりにクリアして」
「は?あぁ、いいよ」
「いつがいいかなぁー?」
「なぁ」
直人が嬉しそうに考えていると、飛鳥が4組から帰ってきた。
「おう、おかえり」
「…カラオケの話なんだけどさ」
飛鳥のその一言に、薫の眉がぴくっと動く。
「カラオケ…?」
:10/06/14 20:01
:N08A3
:hqt4bZk6
#406 [我輩は匿名である]
「大丈夫、俺とこいつが行くだけだから」
「そうか、ならどうでもいい」
直人に言われて、薫は小さく笑う。
「………やっぱり、行きたい。
よく考えてたら昨日給料日だったから、お金もまだあるし…」
「おぉ!じゃあ行こうぜ!いつがいい?」
直人の表情が、パッと明るくなる。
その反応を見て、飛鳥もホッとして笑みをこぼす。
:10/06/14 20:01
:N08A3
:hqt4bZk6
#407 [我輩は匿名である]
「あたしは…明日はバイトだから、それ以外なら」
「でも、せっかく行くんだし、いっぱい歌える方が良くないか?」
「そうだね。だったら、土曜日とか?」
「それがいいな。日曜日はゆっくりしたいし。へへっ、楽しみだな!
…って、俺金あんのかな?」
直人はぶつぶつ言いながら、席に戻って財布をチェックする。
飛鳥はじーっと薫を見る。
:10/06/14 20:02
:N08A3
:hqt4bZk6
#408 [我輩は匿名である]
「……なぁ、月城」
「ん?」
黒板に書いた地図を消していた薫は、手を止めて飛鳥を見る。
「……今の話さ…」
飛鳥は少しうつむき加減に、話しにくそうにしている。
何を言おうとしているのかわかったらしく、薫はフッと笑う。
「安斎か?」
言う前に聞き返されて、飛鳥は「え…」と顔を上げる。
:10/06/14 20:02
:N08A3
:hqt4bZk6
#409 [我輩は匿名である]
「言わねぇよ。言ったらややこしくなるだろ。
喧嘩でもして、また飛び降りられても困るしな」
「い、いくら何でもそんな事で死なねぇよ!」
「どーかな」
薫はバカにしたように笑って、また手を動かす。
ちょっとイラッとしたが、薫なら黙っていてくれるだろう。
:10/06/14 20:03
:N08A3
:hqt4bZk6
#410 [我輩は匿名である]
「なぁ、4千円で足りるかなぁ?」
直人が戻ってきた。
「足りるよ、充分」
「だよな!じゃあ土曜日、忘れんなよ」
「あんたもね」
直人と飛鳥は、お互いそう言って笑い合った。
:10/06/14 20:03
:N08A3
:hqt4bZk6
#411 [我輩は匿名である]
待ちに待った土曜日。
結局11時に待ち合わせし、気が済むまで歌う事になった。
響子と買い物に行って買って来た服を着て、飛鳥は玄関で靴を履く。
「ははっ、何?その格好」
背後で、嘲笑うような巧の声がした。
飛鳥は無視する。
「もしかしてデート?いいねぇ、暇人は。
どうせ相手も、あんたと同じ、ろくでもないような男なんだろ?」
やれやれ、とでも言いたそうに、巧は大げさにジェスチャーまでつける。
:10/06/22 19:38
:N08A3
:3deUowRU
#412 [我輩は匿名である]
「あたしはろくでもない女だけど」
出て行き様に、飛鳥は口を開いた。
「相手は、あんたよりもいい男だよ」
「はぁ!?」
巧はかなりイラッときたのか、顔が苛立ちに歪む。
しかし、飛鳥は構う事なく家を出た。
:10/06/22 19:39
:N08A3
:3deUowRU
#413 [我輩は匿名である]
直人はボーッと、駅前の時計台の前で飛鳥を待つ。
「お待たせ」
少しして、飛鳥がやってきた。
パーカーにワンピース。
普段見ない格好をしている飛鳥を、直人はまじまじと見つめる。
「……変?」
緊張しているような顔で、飛鳥が尋ねてくる。
「いや。…ジャージしか見た事ないから、新鮮だなぁと」
かなり興味深いのか、直人は言いながら、まだ飛鳥の服を見ている。
:10/06/22 19:39
:N08A3
:3deUowRU
#414 [我輩は匿名である]
「…いいじゃん、たまにはこういう格好も」
一通り見た後、直人は笑った。
「変じゃないよな?」
「全然。行こうぜ」
そう言って、直人は歩きだす。
飛鳥もそれについて行く。
「…さっき家出る時、また弟に嫌み言われたんだけどさ」
カラオケ店に行く途中、飛鳥が話し始めた。
直人は早くも「またかよあのクソガキ」と顔をしかめる。
:10/06/22 19:39
:N08A3
:3deUowRU
#415 [我輩は匿名である]
「何言われたんだよ?」
「『デート?いいねぇ暇人は。どうせ相手もろくでなしなんだろ』って」
「はぁん!?今度俺んとこ連れてこい!
吊し上げにしてヒーヒー言わせてやる!」
「…まぁ先にあたしの話聞けよ」
気合いを入れる直人を、飛鳥はちょっと呆れ気味に落ち着かせる。
「…で、今日はちゃんと言い返してきた」
「おお!何て?」
直人は目を輝かせる。
:10/06/22 19:40
:N08A3
:3deUowRU
#416 [我輩は匿名である]
「…『あたしはろくでなしだけど、相手はお前よりいい男だよ』って」
飛鳥は少し恥ずかしそうに答えた。
それを聞いて、何故か直人は不満そうに腕を組む。
「…言い返したのは偉いけどよぉ、お前別にろくでなしじゃないだろ」
「……んー…」
「まぁ、自殺するような奴はなぁ…」
「うっさいな!どっちなんだよ!」
からかうように笑う直人を、飛鳥は声を荒げて怒鳴りつける。
その反応を見て、直人は笑い声を上げる。
:10/06/22 19:40
:N08A3
:3deUowRU
#417 [我輩は匿名である]
「まっ、そのバカ弟よりは立派な人間だって」
そう言いながら、飛鳥の肩を軽くたたく。
「よくやったじゃん、お前にしては」
「何様だよお前」
「睨むなよー、冗談だろー?さて、今日は何歌おうかなー」
「あんたいつも何歌うの?」
「俺?俺は…」
そんな会話をしながら、2人は近くのカラオケ店に入っていった。
:10/06/22 19:41
:N08A3
:3deUowRU
#418 [我輩は匿名である]
4時間後。
「あーすっきりした!」
カラオケ店から出て来て、飛鳥は大きく伸びをする。
直人も「カラオケ久しぶりだったなぁ」と、満足そうに笑っている。
「つーか、お前意外と歌上手いんだな」
直人は意外そうに言いながら歩きだす。
「そう?まぁ、歌うのは嫌いじゃないしな」
パーカーのポケットに手を入れて、飛鳥は返事をする。
:10/06/22 19:41
:N08A3
:3deUowRU
#419 [我輩は匿名である]
「どうする?時間余ってるけど、どっか行くか?」
今はまだ3時過ぎ。
時計を見て、直人は飛鳥に尋ねる。
「……でも、あんたお金ないんじゃないの?」
「まぁ、そんなにねぇけど。でもお前、こんな時間から帰りたくねぇだろ」
「うん」
「即答だな」
2人はどうしようかと、それぞれ頭を抱える。
「…どっかに座ってくっちゃべるか」
:10/06/22 19:41
:N08A3
:3deUowRU
#420 [我輩は匿名である]
「そうだね。どこ行く?その辺の公園でも行く?」
「だな」
2人は話しながら適当に歩いて、そこそこ大きな公園を見つけた。
ベンチもある。
そこに腰を下ろして、2人は一息つく。
「…なんか、懐かしい感じしね?2人ででかけるの」
小さく笑って直人が言う。
同じように、「そうだね」と飛鳥が返事を返す。
:10/06/22 19:42
:N08A3
:3deUowRU
#421 [我輩は匿名である]
「路地の細いとこに、暗ーい女がうずくまっててさ。
何かのホラー物かと思ったぐらい」
「そんなに怖かったか?」
「あぁ怖かったね。要はどう思ったか知らねぇけどよ」
「あんたがそう思ったんなら、要もそう思ったんじゃない?」
「かもな」
2人は適当に言って笑う。
「でも、喋ってみたら普通の女だったしな。暗かったけど」
:10/06/22 19:42
:N08A3
:3deUowRU
#422 [我輩は匿名である]
「暗い暗いって言うなよ。仕方ないじゃん、生い立ちが生い立ちなんだから」
「今も似たようなモンだけどな」
「ははっ、まーね」
飛鳥は苦笑する。
「で、勝手に勘違いして勝手に怒って、挙げ句の果てに勝手に死ぬ、と」
直人は更に呆れたように笑う。
「…ごめんってば」
「人の話はきちんと聞くように!」
「はい…」
まるで説教されているような気がして、飛鳥はうなだれる。
:10/06/22 19:43
:N08A3
:3deUowRU
#423 [我輩は匿名である]
「まっ、あんな目に遭ったら2度とやらないだろうけどな」
「うん、無理だね」
話の最中に、直人はふと、ある事を考えた。
「………今思ったんだけどさぁ」
「ん?」
「薫、何でお前の事許せたんだろうな?
前は『石川晶』の名前聞いただけで、すげぇ顔してたのに」
「……何でだろうね」
「だってあいつ、お前の事相当恨んでたぞ?
俺が『何であんな女かばったんだ』とか言われるぐらい」
:10/06/22 19:43
:N08A3
:3deUowRU
#424 [我輩は匿名である]
「…まぁ、そう言われても仕方ない事したけどね、あたし」
飛鳥は暗い顔でため息をつく。
しかし、直人には不思議で仕方がなかった。
『初めて人を殺したいと思った』。
そこまで言っていた薫が何故…?
「…そんなに気になる?」
やけに考え込む直人に、飛鳥も首をかしげる。
「うん。だって、『殺してやりたい』とまで言ってたんだぞ?」
「そんなに…!?」
:10/06/22 19:43
:N08A3
:3deUowRU
#425 [我輩は匿名である]
ぎょっとしたように、飛鳥が声を漏らす。
「……そのうち聞いてみるか」
途中で面倒くさくなって、直人は考えるのをやめた。
:10/06/22 19:44
:N08A3
:3deUowRU
#426 [我輩は匿名である]
「もー、おばあちゃんも人使い荒いなぁ…」
2人が喋っている頃、奏子は買い物から帰っていた。
あの祖母に買い物を頼まれていたらしい。
「お腹減ったなぁー。お菓子買ってくれば良かっ…」
ぶつぶつ独り言を言っていた奏子の目に、ある光景が映った。
奏子は思わず足を止める。
:10/06/22 19:44
:N08A3
:3deUowRU
#427 [我輩は匿名である]
近所の公園のベンチに並ぶ、2人の男女。
その横顔は、直人と飛鳥だった。
「(…何で…?)」
一瞬、自分の目を疑った。
しかし、どう見てもあの2人だ。
奏子は逃げるように、早足でその場を離れた。
:10/06/22 19:45
:N08A3
:3deUowRU
#428 [我輩は匿名である]
月曜日。
「どうだった?カラオケ」
昼食の時間、薫が直人に尋ねた。
「楽しかったぜ。お前も来れば良かったのに」
直人は笑って言う。
しかし、薫の表情が一気に豹変した。
「『お前も来れば』……?……直人…お前…本気で言ってるのか…?」
「じょ、冗談に決まってんだろ!悪かったよ!」
「そうか、ならいい」
今の目は、かなり危ない目だった。
:10/06/22 19:45
:N08A3
:3deUowRU
#429 [我輩は匿名である]
直人は内心ちょっとびびりながら、慌てて弁明した。
「(…危ねぇ…。マジで殺されるかと思った…。……“殺される”…)」
飛鳥と話した、あの内容を思い出す。
「(…いきなり『何で神崎許せたの?』とか聞くの、変だしな…)」
「……何だよ?」
じっと見られて、薫は困ったように声をかける。
が、直人は全く聞いていない。
:10/06/22 19:46
:N08A3
:3deUowRU
#430 [我輩は匿名である]
「…………まぁいいや」
そう言って、止まっていた手を動かし始めた。
「(一体何なんだ…?)」
全く読み取れない直人の行動に、薫は呆れて首をかしげた。
:10/06/22 19:46
:N08A3
:3deUowRU
#431 [我輩は匿名である]
一方、女子達は。
飛鳥と響子は、じっと奏子を見つめる。
奏子は一言も話さず、ただ黙々と弁当を食べている。
「(……何かあったのかな?)」
「(さぁ…?)」
2人は目で会話する。
「飛鳥さぁ」
不意に奏子が口を開き、飛鳥はビクッとする。
:10/06/22 19:50
:N08A3
:3deUowRU
#432 [我輩は匿名である]
「……な、何?」
恐る恐る尋ねる。
「水無月の事好きだよね」
「…え」
目も合わさずに言われて、飛鳥は困ったように響子を見る。
響子も不安そうに飛鳥を見ている。
「この間、公園で2人で喋ってるの見たからさ」
「…えっ」
:10/06/22 19:50
:N08A3
:3deUowRU
#433 [我輩は匿名である]
「(…反応薄いなぁ…)」
「え」しか言っていない飛鳥に、響子は少し呆れる。
なぜ奏子に見られたのか、飛鳥は全く理解出来ない。
1番起きてほしくない事が、早くも起きてしまった。
飛鳥の顔に、焦りの表情が浮かぶ。
「好きならそう言ってくれたらいいじゃん。
陰でコソコソされるの、あたし1番腹立つの」
「…奏子ちゃん、飛鳥ちゃんは別にコソコソしてたわけじゃ…」
:10/06/22 19:51
:N08A3
:3deUowRU
#434 [我輩は匿名である]
「響子は黙ってて」
止めようとする響子を、奏子はきっぱり黙らせる。
「あたしがあいつの事好きだって知ってるのに、よく出来るよね。
お守り買ってあげたり、2人で会ったり…」
「あれは…」
「悪いけど」
奏子はさっさと弁当を食べ終え、片付ける。
「あたし、そういうの見て黙ってられるようないい子じゃないから」
奏子はきつく吐き捨てて、早足で教室を出て行った。
:10/06/22 19:51
:N08A3
:3deUowRU
#435 [我輩は匿名である]
飛鳥も響子も暗い顔で黙り込む。
「………ごめんね」
しばらくして、先に口を開いたのは響子だった。
「…カラオケ、勧めなかったら良かったね」
「…響子のせいじゃないよ」
飛鳥は弱々しく笑う。
「……隠してたあたしが悪いんだ」
無理して笑う飛鳥を見て、響子も肩を落とす。
:10/06/23 18:08
:N08A3
:0Q5km5DM
#436 [我輩は匿名である]
言い出すタイミングが掴めなかっただけなのに。
それだけで、こんな事になるなんて。
飛鳥はどうすれば良いのかわからず、大きくため息をついた。
:10/06/23 18:09
:N08A3
:0Q5km5DM
#437 [我輩は匿名である]
「…1人で帰んの、久しぶりだなぁー」
飛鳥と奏子はバイト、薫と響子は寄り道するとか。
直人は独り言を言いながら、1人で帰っていた。
「(でも、あいつら今日別々にバイト行ってたな。何かあったのか?)」
今日は別々にバイトに行った、飛鳥と奏子。
2人がもめている事を知らない直人は、のんきに考える。
「(昼休み終わってから、神崎もなーんか元気無かったし…。
もしかして、喧嘩でもしたのか!?)」
珍しくその予想は当たっている。
:10/06/26 13:54
:N08A3
:sOCuCGLY
#438 [我輩は匿名である]
「(えーっ、困るって!あいつかなり落ち込むじゃん!
つーか、何で喧嘩したんだ!?そもそも喧嘩で合ってるのか!?)」
直人は歩きながら頭を抱える。
「(……明日、さりげなく声かけてみるか)」
「何て声かけるの?」
「『元気ないじゃん』って」
普通に答えて、直人は足を止めた。
今、直人に話し掛けたのは誰だ?
直人は素早く振り返る。
:10/06/26 13:55
:N08A3
:sOCuCGLY
#439 [我輩は匿名である]
しかし、直人以外に誰も歩いていない。
1人でいると怖くなったのか、直人はしばらく息を殺して黙り込む。
「そんなに怖がらなくていいじゃないか」
しかし、黙っていても、また声がした。
「……誰だよ、お前」
直人は恐る恐る呟く。
「水無月直人。16歳。7月20日生まれ。O型」
声は問いに答えるどころか、直人のプロフィールを次々に言い当てる。
:10/06/26 13:55
:N08A3
:sOCuCGLY
#440 [我輩は匿名である]
「何だよ?何で俺の事…」
付近を見回しながら、直人は更に問いかける。
「そりゃ知ってるよ。俺はお前の“一部”なんだから」
「“一部”?」
直人は繰り返す。
「まっ、そのうちわかるよ、俺が誰なのか」
それ以上、声は何も言わなくなった。
「(……俺の一部…?どういう事だよ…?)」
声が言ったその言葉の意味が、全く理解出来ない。
直人はなかなか足を動かす事が出来ず、しばらくその場に立ち尽くしていた。
:10/06/26 13:56
:N08A3
:sOCuCGLY
#441 [我輩は匿名である]
次の日。
飛鳥はいつも以上にボーッとしている。
「……あいつ、何かあったのか?」
「わかんねぇんだよなぁ、俺にも」
遠くから彼女の様子を見ながら、直人と薫は話し合う。
「聞いてこいよ」
「やっぱ俺!?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
「お前がいるじゃん」
:10/06/29 16:57
:N08A3
:Kd8tcpI6
#442 [我輩は匿名である]
「何で俺が他の女の機嫌見に行かないといけねぇんだよ」
2人は小声で言い合う。
「ほらっ、あいつのお守りはお前の仕事だろ」
薫にシッシッと手を振られ、直人はムスッとしながら動き出す。
「よ、よぉ、神崎」
顔を引きつらせながら、直人が飛鳥に近づく。
「…あぁ、おはよ」
飛鳥は早くも疲れ果てた顔で挨拶を返す。
:10/06/29 16:57
:N08A3
:Kd8tcpI6
#443 [我輩は匿名である]
「おはよう」
様子を伺っていた薫の所に、響子がやってきた。
「おう」
「…飛鳥ちゃんは?」
同じように飛鳥を気にしている響子に、薫は一瞬きょとんとする。
「…今直人が偵察に行ってる」
薫は直人を指差す。
「あいつがどうかしたのか?」
「…実は…」
響子は薫の耳元で、昨日の話をしはじめた。
:10/06/29 16:58
:N08A3
:Kd8tcpI6
#444 [我輩は匿名である]
「元気ねぇじゃん」
そんな事も知らない直人は、少し緊張しながら尋ねる。
「そんな事ないけど」
飛鳥は笑って答える。
しかしその笑顔は弱々しく、目の下にはうっすらクマが出来ている。
「…本当か?クマ出来てるぞ?」
「大丈夫だって。いつも通り」
そう言われると、これ以上問い正すわけにもいかない。
:10/06/29 16:58
:N08A3
:Kd8tcpI6
#445 [我輩は匿名である]
「…そうか?まぁ、何か悩みあったら言えよ?」
「うん、ありがと」
飛鳥は小さく笑う。
困って、直人はフラフラと席を離れる。
「絶対大丈夫じゃないよ、あの子」
昨日の声が直人に言う。
直人はまた、立ち止まって周りを見回す。
「無駄だよ。お前に俺は見えない」
:10/07/10 10:13
:N08A3
:ZSYtSBPY
#446 [我輩は匿名である]
「ちっ」
声にあっさり言われて、直人は舌打ちする。
しかし、今声と話している暇はない。
さっさと薫の所へ戻り、椅子に座る。
「香月。いつ来たんだよ」
「ついさっき」
響子は笑って答え、「じゃあね」と教室に戻っていった。
:10/07/10 10:13
:N08A3
:ZSYtSBPY
#447 [我輩は匿名である]
「何しに来たんだ?あいつ」
「俺に“おはようのチュー”しに来ただけだよ」
「えぇっ!?こんな公共の場で堂々と…」
「冗談だって気付けよ!」
薫は冗談を言ったのを後悔したのか、少し赤面して言い返す。
直人は「何だよ冗談かよ」と、机に肘をつく。
「で、どうだった?」
:10/07/10 10:14
:N08A3
:ZSYtSBPY
#448 [我輩は匿名である]
「大丈夫って言われたけど、見るからに大丈夫じゃなさそうだ」
2人は深刻そうに話す。
「…あっ」
直人はひらめいた。
「安斎に聞いてくる!」
「えっ!?ちょっ…」
薫が止める間もなく、直人は教室を飛び出す。
「(おい…安斎は喧嘩相手だぞ…)」
事情を聞いた薫は、難しい顔でため息をついた。
:10/07/10 10:14
:N08A3
:ZSYtSBPY
#449 [我輩は匿名である]
「安斎ー」
直人は教室に入るなり呼び掛ける。
が、返事がくる前に奏子を見つけ、自分から走っていった。
「おはよ」
奏子はいつも通り笑って挨拶する。
「なあなあ、神崎が元気ないんだけど、お前何か知らない?」
直人は単刀直入に尋ねる。
すると、奏子は少し困ったように顔を背けた。
「……ちょっとね」
:10/07/10 10:15
:N08A3
:ZSYtSBPY
#450 [我輩は匿名である]
「(……やっぱり喧嘩かなんかしたんだな)」
奏子の反応を見て、直人は確信した。
「何だよー喧嘩か?仲良くしろよなー」
直人は面倒くさそうにポケットに手を入れる。
「女子だって喧嘩するんだよ!」
奏子はムスッとしたように言い返す。
「…つーか、何で喧嘩したんだよ?」
ちょっと勘がさえても、そこまでは頭が回らない直人。
:10/07/10 10:15
:N08A3
:ZSYtSBPY
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194