記憶を売る本屋 2
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#51 [我輩は匿名である]
次の日は課題テストだった。

すっかり忘れていた直人は、魂が抜けたように呆然とする。

しかし、もっと大変なのは薫だった。

「おい月島!」

「月城、だ」

今日も懲りずにやってきた良介に、うんざりしたように訂正する。

⏰:10/04/21 22:08 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#52 [我輩は匿名である]
「今日課題試験なんだろう?だったら僕とBattleしろ!」

「面倒だから断る」

「逃げるのか!?」

早くも勝ち誇った顔をする良介に、薫は眉をピクつかせる。

「なんでお前とバトルしないといけないんだ?」

「勝ったら響子ちゃんを返してもらうんだ!」

「やだ」

「何なんだお前は!?月島!お前にはPrideというものはないのか!?」

「だから月城だ。それにプライドどうこういう話じゃないだろ。

響子が聞いたら俺に泣き付いてくるだろうなぁ」

⏰:10/04/21 22:09 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#53 [我輩は匿名である]
「抱きつくだと!?そんな事させないぞ!」

「(あぁ…もう言い間違いも聞き間違いもどうでも良くなってきた…)」

やけに気負っている良介に、薫は早くも呆れムードになってきた。

「(…でもまぁ、響子の事は抜きで、ちょっと見返してやっても良いな)」

薫はニヤッと小さく笑う。

「なぁ、桐生。今回は響子の話は抜きにして、点数バトルだけやってみないか?」

「何だと!?」

「今回は課題テストだ。宿題やってればそこそこ点数が取れる。

どうせなら期末とかの実力テストで競う方がやりがいあるだろ」

⏰:10/04/21 22:09 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#54 [我輩は匿名である]
「…ふむ」

良介は腕を組んで考え込む。

そして、少し経って「いいだろう!」と答えを出した。

「月島!絶対に手を抜くなよ!」

「はいはいわかりましたよ」

適当に返事をすると、良介は気合いを入れて8組を出て行った。

⏰:10/04/21 22:09 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#55 [我輩は匿名である]
「月城、あいつ見返してやれよな!」

クラスの男子たちが、薫に声援を送る。

「あぁ」

「あいつ、入ってきてそうそう、女子にちやほやされやがってさぁ…」

「あぁ…」

「でも、月城くんこの間学年1位だったから、楽勝なんじゃない?」

「いや、どうかわかんないけど…まぁ頑張るよ」

薫は笑ってみせる。

「(学年1位…あぁ…そう言えばあいつ1位だったな…。

俺110位っていう超微妙な順位だったのに…)」

⏰:10/04/21 22:10 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#56 [我輩は匿名である]
この学年は生徒が320人いるため、直人の順位もそこまで悪くないのだが、

親友が1位という事を考えるだけで、何となく欝になってくる。

「やっぱ頭良いんだね、月城」

斜め後ろの席にいる飛鳥が、直人の傍にやって来た。

「よく1位とか取れるよな、脳みそどうなってんだか」

「ははっ、あんた何位だっけ?」

「110位」

「…警察呼べそうな順位だね」

⏰:10/04/21 22:10 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#57 [我輩は匿名である]
「何ちょっと上手いこと言ってんだよ。そういうお前は?」

「あたしは101位」

「俺が警察ならお前は犬じゃねぇかよ」

2人は何だか面白くなって笑いだす。

すると、学校中にチャイムが鳴り響いた。

「ま、お互い月城に近付けるように頑張ろ」

「おうよ」

飛鳥は笑って、自分の席に戻った。

⏰:10/04/21 22:11 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#58 [我輩は匿名である]
「え?あのアメリカンと月城くんが点数バトル?」

バイトに行く途中、飛鳥は今日の薫達の話を奏子に聞かせた。

「まぁ、月城くんなら1学期の期末1位だったから、楽勝だろうけどね」

「そうだよね」

奏子と飛鳥はそろって頷く。

「今回は順位2桁だったらいいなぁ…」

飛鳥は「はぁ…」とため息をつく。

「何で2桁取りたいの?」

「2桁っていうか、出来れば1桁取りたいんだけどね」

⏰:10/04/21 22:12 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#59 [我輩は匿名である]
「えっ!?何で!?」

奏子に聞かれ、飛鳥は少し躊躇いながら答える。

「…私、…親を見返してやりたいの」

「…親?」

「うん。私の親、弟しか見てないから…いい成績とって見せてやりたいんだ」

「へぇ…」

飛鳥の話に、奏子はきょとんとする。

「最初は親なんかどうでも良かったんだけどさ。

でも…水無月に元気付けられてから、自分にも何か出来そうな気がしてきて…」

⏰:10/04/21 22:13 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#60 [我輩は匿名である]
飛鳥は柔らかな笑顔を見せる。

奏子は黙って、その横顔を見つめる。

「…飛鳥はやっぱり、水無月の事好きなの?」

「へ?」

思いもしない質問をされて、飛鳥は素早く奏子を見る。

「ま、まさかー!」

飛鳥は手を振りながら否定する。

「そ…そうだよねー。ごめん、何か変な事聞いた!」

奏子は「へへへ」と笑う。

⏰:10/04/21 22:13 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#61 [我輩は匿名である]
「(…好き…じゃない、よな…」

飛鳥は答えてから、自分の心臓の鼓動が高鳴っているのに気付いた。

「(……そりゃ…晶と要はそうだったけど……、私は…)」

考えれば考えるほど、何だか胸が熱くなる。

「(……水無月は……私の事、どう思ってるんだろ…?)」

「飛鳥!」

⏰:10/04/21 22:14 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#62 [我輩は匿名である]
奏子が飛鳥の腕を掴む。

「へっ?」

振り向くと、アルバイト先のカフェを通りすぎかけていた。

「あれっ?ごめんごめん」

飛鳥は笑いながら店の中に入る。

奏子も何だか少しモヤモヤした気持ちで入っていった。

⏰:10/04/21 22:14 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#63 [我輩は匿名である]
4日後。

廊下に張り出された課題テストの順位を見て、一年生のほぼ全生徒が愕然とした。

直人は100位、飛鳥は98位、響子は121位、奏子は165位だった。

しかし、4人とも自分の順位など、もはやどうでも良かった。

「薫が…」

「2位…?」

「ええーっ!?」

直人、飛鳥、奏子が茫然とする横で、響子と薫が凍り付いている。

⏰:10/04/22 18:36 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#64 [我輩は匿名である]
『2位:月城 薫(8組) 498点』

の上に1行、

『1位:桐生 良介(4組) 499点』

と書いてあった。

「月城ー!」

クラスの男子たちが薫に詰め寄る。

「何であと2点頑張れなかったんだぁー!?」

「…これでも自己ベストなのに…」

肩を持って揺さ振られながら、薫はブツブツ呟く。

⏰:10/04/22 18:36 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#65 [我輩は匿名である]
「おい月島!」

その声に、クラスメイトの手が止まる。

見ると、自信有りげな顔をした良介が立っていた。

「(来たーーーっ!!)」

薫以外の4人が縮こまる。

「お前、名前すらないじゃないか」

「お前のすぐ下にあるだろ」

「What's?」

良介は成績表とにらめっこする。

「ん?お前、月島じゃなくて月城(つきじょう)だったのか」

⏰:10/04/22 18:36 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#66 [我輩は匿名である]
「惜しいな、月城(つきしろ)だ」

何故か反対に、薫が良介を見下した言い方をして威張る。

「おっ、惜しいのはお前の方だろ!

まさかお前、負けるのがわかってたから響子ちゃんを渡さないように…!?」

「さぁな?でも…」

薫はフッと笑う。

「次は負けねぇからな…」

良介の目の前で、薫は宣言する。

⏰:10/04/22 18:37 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#67 [我輩は匿名である]
「のぞくところだ!」

「あぁー惜しいな、のぞ“む”だな」

「だっ、黙れ!覚えてろよ!次こそは響子ちゃんを返してもらうからな!」

良介はキッと睨み返して、自分の教室に戻っていった。

「…何でテストの順位で響子の婚約者を決めなきゃいけないんだ…」

さっきまで威勢が良かったのに、薫は急に暗くなって壁にもたれかかる。

「…薫…」

⏰:10/04/22 18:37 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#68 [我輩は匿名である]
「…いや、やっぱりおかしいだろ」

薫はもたれるのを止め、しゃきっと立つ。

そして、響子の方を向いた。

「やっぱ、断ってくる」

「へ?」

「だって、おかしいだろ?お前だって、他人の点数で彼氏決められるなんて…」

そう言われて、響子も「…うーん…」と頭を悩ませる。

「ちょっと、あいつに言って来る。響子はここにいろ」

そう言って、薫は良介の後を追った。

⏰:10/04/22 18:37 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#69 [我輩は匿名である]
「おい、桐生」

薫に呼び止められ、良介は足を止めて振り向く。

「…俺、やっぱり勝負降りる」

薫はきっぱりと言い張った。

その言葉に、良介はフッと、余裕の笑みをこぼす。

「僕に勝てないから?」

薫は心底イラッとしたが、冷静に「そうじゃない」と言い返す。

⏰:10/04/22 18:38 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#70 [我輩は匿名である]
「同じ事じゃないか。僕に負けて、響子ちゃんを取られるのが怖いんだろう?

そうだよねぇ。あんだけ自信満々で話に乗ったのに、負けたんだからね」

「…お前…!」

「知ってる?響子ちゃんの好きな男のタイプ。

格好よくて、優しくて、頭が良い男だって。

君、そんな事知らないだろ?」

良介はまるで、薫を見下すような言い方で笑う。

「…そんなもん、ガキの時の話だろ」

薫は良介を睨みながら言い返す。

⏰:10/04/22 18:38 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#71 [我輩は匿名である]
しかし、良介の表情は変わらない。

「残念だけど、今君に何言われても、負け犬の遠吠えにしか聞こえないよ?

悪いけど、君に勝ち目は無いと思うけどな。まぁ、頑張ってみれば?」

良介は笑って、教室に入っていった。

廊下に残った薫は1人、黙ってうつむいて、両手を握り締めていた。

⏰:10/04/22 18:39 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#72 [我輩は匿名である]
「そう言えば神崎、お前2桁だったじゃん」

教室に入って、直人は飛鳥に言った。

「ん?あぁ、見てたんだ」

「俺も2点足らずでお前に負けたんだ…。薫の気持ちがよくわかる…」

席についてすぐ、直人は頭を抱えてため息をつく。

「何よ、そっちか…」

「…おっと、そういう話じゃねぇな」

単純な直人は、飛鳥の方を向いて笑いかける。

⏰:10/04/23 18:58 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#73 [我輩は匿名である]
「やるじゃん!そろそろ親もちょっとはお前の事見直すんじゃね?」

「…まだまだ」

飛鳥は苦笑する。

「弟の1番良かった順位は、9位らしい。だから、私は8位以上を目指すって決めてんだ」

「マジで?でもこれから、1位2位はあのアメリカンと薫が占めるだろうから…

3位〜8位…6人しか枠がないぞ?」

「…まぁ、何とかなるっしょ。ダメそうなら月城に勉強でも教えてもらうわ」

「あぁ、それがいいな」

2人は話ながら笑い合う。

⏰:10/04/23 18:58 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#74 [我輩は匿名である]
「……水無月さぁ」

飛鳥は何気なく話を変える。

「あん?」

「…もし私が…」

そこまで言って、飛鳥はハッと言うのをやめた。

「…えっ?何だよ?」

「…ごめん、やっぱ何にもない。忘れて」

「はっ??」

ぽかんとしている直人を見ずに、飛鳥は自分の席に戻った。

⏰:10/04/23 18:58 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#75 [我輩は匿名である]
その夜、直人はベッドに寝転んでボーッと考えていた。

今日、飛鳥は自分に何を言おうとしていたのか。

あの時の飛鳥の顔は、いつものような表情ではなかった。

直人はそれが気になっていたのだ。

「(…別に怒ってるような顔でもなかったし…何だったんだろ?)」

ふと、響子の『鈍感ね』という言葉が頭に浮かぶ。

あの言葉は、こういう事を指しているのだろうか。

「……って事は…やっぱ俺、気に障るような事したのか…?」

直人はしばし、黙って考える。

しかし、答えが出ないまま眠りに落ちてしまった。

⏰:10/04/23 18:59 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#76 [我輩は匿名である]
ある日。

掃除当番だった直人は、同じく当番だった飛鳥と奏子と一緒に帰っていた。

薫と響子は、すでに先に学校を出ている。

「…ん?」

道端で、直人はふと足を止める。

視線の先には、スーパーの重そうな袋を両手に下げて立ち止まっているおばあさんの姿。

「どうかしたの?」

奏子が直人に尋ねる。

「…ちょっとな」

⏰:10/04/23 18:59 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#77 [我輩は匿名である]
直人はそれだけ言って、おばあさんに近づく。

飛鳥と奏子は、その場で様子をうかがう。

「ばあさん、大丈夫か?」

直人はおばあさんに声をかける。

「はぁい?」

おばあさんが顔を上げて、直人を見る。

そして、「あぁ、あんたは…!」と驚きの声を上げた。

「…へ?」

「あんた、あの時の子で……」

おばあさんはそこまで言い掛けて、「ん?」と考え直す。

⏰:10/04/23 19:00 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#78 [我輩は匿名である]
「…あぁ、私ったらすごい勘違いしたわ。もうあれから40年くらい経ってるのに」

おばあさんはそう言って、上品な笑い声を上げる。

直人は「ん?」と首をかしげる。

「…まぁそれより、それ重くないか?俺運んでってやろうか?」

「あら、本当?…でも、悪いし…」

「いいよ、荷物運ぶぐらい。歩きって事は、家もそんな遠くないんだろ?」

「…行ってみよっか」

2人のやり取りが気になって、飛鳥も直人達の所まで歩く。

⏰:10/04/24 12:46 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#79 [我輩は匿名である]
奏子はおばあさんを見て、「もしかして…」と声を漏らす。

「じゃあ…運んでもらえる?」

「おう、いいぜ」

直人は快く言って、おばあさんから荷物を受け取る。

「…私も何か持とうか?」

飛鳥はどういう話なのかすぐに理解して、直人に声をかける。

「え?いいよ、別に」

「でも、重そうだし…」

そう言われて、直人は「まぁ確かに…」と心の中で思う。

⏰:10/04/24 12:47 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#80 [我輩は匿名である]
「あ、じゃあ1個持って」

「あぁ、いいよ」

飛鳥は頷いて、代わりに直人の鞄を持った。

「なんか、悪いわねぇ…」

「いいですよ、私も暇だから」

「私“も”って何だよ?俺が暇みたいだろ」

「だって暇じゃん」

2人が言い合っている間に、奏子も駆け寄ってきて、おばあさんの顔を見る。

⏰:10/04/24 12:47 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#81 [我輩は匿名である]
「あ、やっぱりおばあちゃんじゃん!」

「あらぁ、奏子のお友達だったの」

「………え?」

2人の会話に、直人と飛鳥はきょとんとする。

「この人、うちのおばあちゃんだよ♪」

「マジで!?」

「こ、こんにちは…」

「あらあら、こんにちは」

直人と飛鳥がびっくりしている横で、奏子のおばあさんが笑う。

⏰:10/04/24 12:47 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#82 [我輩は匿名である]
「あ、うちの家こっちだから、ついてきて」

奏子はそう言って歩きだす。

2人もぽかんとしたままついていく。

「あらぁ、しかしまぁ、あなた、私が昔会った男の子にそっくりだわ」

おばあさんが懐かしそうに直人に言った。

「そんなにそっくりなのか?」

「…敬語使いなよ」

「あ?あぁ、そうか」

「あーいいわよ、そんな気を遣わなくても」

おばあさんはまた笑う。

⏰:10/04/24 12:48 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#83 [我輩は匿名である]
「そうねぇ。私がむかーし、姫崎公園に行きたかったのに、迷っちゃってねぇ」

「…え?」

直人は思わずおばあさんの顔を見る。

「その時に、道案内してくれた男の子がいたのよ。

あなたが、その子にあんまりそっくりだったから、つい…」

「道案内…って…」

飛鳥もハッと、直人を見る。

「あの子、元気かしらねぇ…?」

おばあさんは微笑みながら呟いた。

⏰:10/04/24 12:48 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#84 [我輩は匿名である]
直人は少し考える。

「あ、そう言えばあの子、お友達の事気にしてたわねぇ。

なんかねぇ、その道案内してくれた子のお友達が、元気がないか何かでね。

その子、私と同じように養護施設で育ったらしいんだけど。

その子は元気になったのかしら…?」

懐かしくて仕方ないのか、おばあさんは話を進めていく。

『その子』とは、多分晶のことだろう。

直人は何と言えば良いのか、少し困った顔で考える。

⏰:10/04/24 12:49 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#85 [我輩は匿名である]
「(…あの後何日かして2人とも死んだとか…言えねぇしなぁ…)」

無言で、眉間にしわを寄せる。

「…2人とも、今も仲良くやってると思いますよ」

そう言ったのは、飛鳥だった。

直人と奏子が、同時に飛鳥を見る。

飛鳥は小さく笑みを浮かべている。

「…そうだな」

彼女を見て、直人もニッと笑う。

⏰:10/04/24 12:49 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#86 [我輩は匿名である]
「俺も、2人とも元気にやってると思うぜ」

「…そうねぇ、あの男の子なら、元気にやってそうね」

おばあさんは、安心したようににっこり笑う。

「(…水無月…何か一瞬変だった…?)」

奏子は直人を見ながら首を傾げる。

「あなたたちにも言っとくわ。あの男の子にも言ったんだけどね」

おばあさんは3人に言う。

⏰:10/04/24 12:49 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#87 [我輩は匿名である]
「人との間に、壁を作っちゃダメなのよ。

仲良くなりたければ、一歩踏み出さなきゃ。

わかった?」

「あぁ…」

「はい」

「前も聞いたけどな」と思いながら、直人は相づちをうつ。

飛鳥もそれを聞くのは2度目だったが、素直に返事をした。

「…あ、着いたよ。あたしん家」

奏子は目の前の一軒家を指差す。

⏰:10/04/24 12:50 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#88 [我輩は匿名である]
「おぅ。意外と近かったな」

「ありがとうねぇ、2人とも」

おばあさんは直人と飛鳥に笑いかける。

「どういたしまして」

2人はそろって返事をする。

「ありがとう。ここまで来たらもう大丈夫」

家のドアの前まで来て、奏子も2人に言った。

「いいのか?」

「うん」

奏子に言われ、直人と飛鳥は、ドアのそばに買い物袋を置く。

⏰:10/04/24 12:50 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#89 [我輩は匿名である]
「お茶でも飲んでいったら?」

「いえ、私たちはこのまますぐに帰りますから」

おばあさんの申し出を、飛鳥が丁寧断る。

「あら、そう?じゃあまた遊びに来てね」

おばあさんはニッコリ笑った。

「んじゃ、俺たちはこれで」

「さよならー」

2人はおばあさんと奏子に手を振って、並んでその場を後にした。

⏰:10/04/24 12:51 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#90 [我輩は匿名である]
「いい子達だねぇ」

おばあさんは笑って奏子に言う。

奏子は「うん」と返事をしつつ、帰っていく2人の背中を、複雑な気持ちで見つめていた。

⏰:10/04/24 12:52 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#91 [我輩は匿名である]
「優しそうなおばあちゃんだったね」

帰り道、飛鳥が何気なく言った。

「そうだな。元気そうで嬉しかったなぁ」

直人も満足そうに笑う。

「まぁ言われてみれば、面影がないこともないな」

「1日しか会ったことないのに、面影とか覚えてんの?」

「ま、まぁ何となく…」

直人は目を泳がせる。

⏰:10/04/27 08:33 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#92 [我輩は匿名である]
それを呆れて見た後、飛鳥はふと、こんな事を言った。

「…うちにも、あんなおばあちゃんがいたら良いのに」

直人は「へ?」と、飛鳥を見る。

「……お前、相変わらず親とは口きいてないんだっけ?」

「きいてない。バイトしてるのも知らないし」

飛鳥は苦笑して答える。

「そうか…」

「まぁ、ちょっと平気になってきたけどね」

「うーん…」

直人は「何かいい方法はないかな」と首をひねる。

⏰:10/04/27 08:33 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#93 [我輩は匿名である]
「いいよ、そんなに頑張って考えてくれなくても」

飛鳥は小さく息をつく。

「そのうちどうにか出来れば良いかなってぐらいだし」

「そうか?…まぁ、今は香月とか安斎とか、友達いるもんな、お前」

「うん」

飛鳥は笑って頷く。

「…あんたのおかげ、かな」

⏰:10/04/27 08:34 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#94 [我輩は匿名である]
「…は?」

飛鳥に言われて、直人はびっくりして彼女を見る。

飛鳥は少しだけ頬を赤らめて顔を背ける。

「(…あれ、なんか、変な感じする)」

直人は恥ずかしいような照れるような、なんだかわからない感覚に襲われた。

2人はそれぞれ同じような事を考えながら帰っていった。

⏰:10/04/27 08:34 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#95 [我輩は匿名である]
「そりゃお前、あいつに気があるんだろ」

飛鳥と帰った時の事を話すと、薫はあっさり言い切った。

「えぇっ!?」

直人はぎょっとしすぎて、持っていた箸を落としそうになる。

「お、俺が!?あいつを!?」

落とさないように箸を握って、少し声を荒げる。

「まぁ、その逆もありえると思うけど」

薫は言いながらサンドイッチを口に入れる。

⏰:10/04/29 13:13 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#96 [我輩は匿名である]
そういう事に関して全く疎い直人は、話についていけず呆然とする。

「え…えぇ…?」

「本当鈍感だよな、お前。どうすればそこまで鈍感になれるか知りてぇよ」

薫は呆れ返ってため息をつく。

直人は「そんな事言われても…」と頬を膨らませる。

「まぁ、そういう所がいいんじゃないのか?」

「…なんか嬉しくない」

直人は不機嫌そうに言い返す。

「…全く自覚してないのか?」

⏰:10/04/29 13:13 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#97 [我輩は匿名である]
「…うーん…何か、よくわかんねぇんだよなぁ…」

直人は箸を咥えて腕を組む。

「好きとかじゃない気がして…。なんかこう…“見守っててやりたい”…っていうか…。

何か、本気で応援してやりたくなるっていうか…」

「(…似たような事だろ)」

直人の話を聞きながら、薫は思った。

「…いいな、お前は平和そうで」

不意に、薫はそう言ってため息を吐いた。

⏰:10/04/29 13:14 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#98 [我輩は匿名である]
「何だいきなり」と、直人は首をひねる。

「…響子は…あいつの事、どう思ってるんだろ…」

薫は遠い目をして、机に肘をつく。

「あいつ?あのアメリカンの事か?てか、結局どうなったんだよ」

「“負け犬の遠吠え”、“君に勝ち目はない”、…そう言われた」

「はぁ!?何なんだあいつ!!」

短気な直人は、思わず声を荒げる。

⏰:10/04/29 13:14 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#99 [我輩は匿名である]
「…でも、あいつは響子の事を何も知らない。

あんな押し付けがましいやり方で、響子が納得するはずがない」

「当たり前だろ!今までお前らがどんだけしんどい思いしてきたか、あいつ何も知らないんだぞ!?

あんな奴に香月取られてたまるかよ!」

まるで自分の事のように、直人は腹を立てて騒ぐ。

「…でも、あいつは俺の言う事には全く耳を貸さない。

何を言っても、きっとまた“負け犬の遠吠え”って嘲笑うだけだろ。

…だから多分、俺が成績1位を取り戻す以外、あいつは納得しないだろうな」

⏰:10/04/29 13:15 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#100 [我輩は匿名である]
「あいつが納得するとかしないとか、どうでもいいだろ!」

「前みたいな目には遭いたくないんだよ」

薫は少しきつく言い返した。

そう言われて、直人はやっと、少し黙り込む。

確かに、怜奈のような行動に出られてはいろいろと面倒だ。

薫は1人で、そこまで考えていたのだろう。

そう思うと、直人はそれ以上何も言えなかった。

⏰:10/04/29 13:15 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


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