記憶を売る本屋 2
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#51 [我輩は匿名である]
次の日は課題テストだった。
すっかり忘れていた直人は、魂が抜けたように呆然とする。
しかし、もっと大変なのは薫だった。
「おい月島!」
「月城、だ」
今日も懲りずにやってきた良介に、うんざりしたように訂正する。
:10/04/21 22:08
:N08A3
:S8dNuXTM
#52 [我輩は匿名である]
「今日課題試験なんだろう?だったら僕とBattleしろ!」
「面倒だから断る」
「逃げるのか!?」
早くも勝ち誇った顔をする良介に、薫は眉をピクつかせる。
「なんでお前とバトルしないといけないんだ?」
「勝ったら響子ちゃんを返してもらうんだ!」
「やだ」
「何なんだお前は!?月島!お前にはPrideというものはないのか!?」
「だから月城だ。それにプライドどうこういう話じゃないだろ。
響子が聞いたら俺に泣き付いてくるだろうなぁ」
:10/04/21 22:09
:N08A3
:S8dNuXTM
#53 [我輩は匿名である]
「抱きつくだと!?そんな事させないぞ!」
「(あぁ…もう言い間違いも聞き間違いもどうでも良くなってきた…)」
やけに気負っている良介に、薫は早くも呆れムードになってきた。
「(…でもまぁ、響子の事は抜きで、ちょっと見返してやっても良いな)」
薫はニヤッと小さく笑う。
「なぁ、桐生。今回は響子の話は抜きにして、点数バトルだけやってみないか?」
「何だと!?」
「今回は課題テストだ。宿題やってればそこそこ点数が取れる。
どうせなら期末とかの実力テストで競う方がやりがいあるだろ」
:10/04/21 22:09
:N08A3
:S8dNuXTM
#54 [我輩は匿名である]
「…ふむ」
良介は腕を組んで考え込む。
そして、少し経って「いいだろう!」と答えを出した。
「月島!絶対に手を抜くなよ!」
「はいはいわかりましたよ」
適当に返事をすると、良介は気合いを入れて8組を出て行った。
:10/04/21 22:09
:N08A3
:S8dNuXTM
#55 [我輩は匿名である]
「月城、あいつ見返してやれよな!」
クラスの男子たちが、薫に声援を送る。
「あぁ」
「あいつ、入ってきてそうそう、女子にちやほやされやがってさぁ…」
「あぁ…」
「でも、月城くんこの間学年1位だったから、楽勝なんじゃない?」
「いや、どうかわかんないけど…まぁ頑張るよ」
薫は笑ってみせる。
「(学年1位…あぁ…そう言えばあいつ1位だったな…。
俺110位っていう超微妙な順位だったのに…)」
:10/04/21 22:10
:N08A3
:S8dNuXTM
#56 [我輩は匿名である]
この学年は生徒が320人いるため、直人の順位もそこまで悪くないのだが、
親友が1位という事を考えるだけで、何となく欝になってくる。
「やっぱ頭良いんだね、月城」
斜め後ろの席にいる飛鳥が、直人の傍にやって来た。
「よく1位とか取れるよな、脳みそどうなってんだか」
「ははっ、あんた何位だっけ?」
「110位」
「…警察呼べそうな順位だね」
:10/04/21 22:10
:N08A3
:S8dNuXTM
#57 [我輩は匿名である]
「何ちょっと上手いこと言ってんだよ。そういうお前は?」
「あたしは101位」
「俺が警察ならお前は犬じゃねぇかよ」
2人は何だか面白くなって笑いだす。
すると、学校中にチャイムが鳴り響いた。
「ま、お互い月城に近付けるように頑張ろ」
「おうよ」
飛鳥は笑って、自分の席に戻った。
:10/04/21 22:11
:N08A3
:S8dNuXTM
#58 [我輩は匿名である]
「え?あのアメリカンと月城くんが点数バトル?」
バイトに行く途中、飛鳥は今日の薫達の話を奏子に聞かせた。
「まぁ、月城くんなら1学期の期末1位だったから、楽勝だろうけどね」
「そうだよね」
奏子と飛鳥はそろって頷く。
「今回は順位2桁だったらいいなぁ…」
飛鳥は「はぁ…」とため息をつく。
「何で2桁取りたいの?」
「2桁っていうか、出来れば1桁取りたいんだけどね」
:10/04/21 22:12
:N08A3
:S8dNuXTM
#59 [我輩は匿名である]
「えっ!?何で!?」
奏子に聞かれ、飛鳥は少し躊躇いながら答える。
「…私、…親を見返してやりたいの」
「…親?」
「うん。私の親、弟しか見てないから…いい成績とって見せてやりたいんだ」
「へぇ…」
飛鳥の話に、奏子はきょとんとする。
「最初は親なんかどうでも良かったんだけどさ。
でも…水無月に元気付けられてから、自分にも何か出来そうな気がしてきて…」
:10/04/21 22:13
:N08A3
:S8dNuXTM
#60 [我輩は匿名である]
飛鳥は柔らかな笑顔を見せる。
奏子は黙って、その横顔を見つめる。
「…飛鳥はやっぱり、水無月の事好きなの?」
「へ?」
思いもしない質問をされて、飛鳥は素早く奏子を見る。
「ま、まさかー!」
飛鳥は手を振りながら否定する。
「そ…そうだよねー。ごめん、何か変な事聞いた!」
奏子は「へへへ」と笑う。
:10/04/21 22:13
:N08A3
:S8dNuXTM
#61 [我輩は匿名である]
「(…好き…じゃない、よな…」
飛鳥は答えてから、自分の心臓の鼓動が高鳴っているのに気付いた。
「(……そりゃ…晶と要はそうだったけど……、私は…)」
考えれば考えるほど、何だか胸が熱くなる。
「(……水無月は……私の事、どう思ってるんだろ…?)」
「飛鳥!」
:10/04/21 22:14
:N08A3
:S8dNuXTM
#62 [我輩は匿名である]
奏子が飛鳥の腕を掴む。
「へっ?」
振り向くと、アルバイト先のカフェを通りすぎかけていた。
「あれっ?ごめんごめん」
飛鳥は笑いながら店の中に入る。
奏子も何だか少しモヤモヤした気持ちで入っていった。
:10/04/21 22:14
:N08A3
:S8dNuXTM
#63 [我輩は匿名である]
4日後。
廊下に張り出された課題テストの順位を見て、一年生のほぼ全生徒が愕然とした。
直人は100位、飛鳥は98位、響子は121位、奏子は165位だった。
しかし、4人とも自分の順位など、もはやどうでも良かった。
「薫が…」
「2位…?」
「ええーっ!?」
直人、飛鳥、奏子が茫然とする横で、響子と薫が凍り付いている。
:10/04/22 18:36
:N08A3
:07aOrgP2
#64 [我輩は匿名である]
『2位:月城 薫(8組) 498点』
の上に1行、
『1位:桐生 良介(4組) 499点』
と書いてあった。
「月城ー!」
クラスの男子たちが薫に詰め寄る。
「何であと2点頑張れなかったんだぁー!?」
「…これでも自己ベストなのに…」
肩を持って揺さ振られながら、薫はブツブツ呟く。
:10/04/22 18:36
:N08A3
:07aOrgP2
#65 [我輩は匿名である]
「おい月島!」
その声に、クラスメイトの手が止まる。
見ると、自信有りげな顔をした良介が立っていた。
「(来たーーーっ!!)」
薫以外の4人が縮こまる。
「お前、名前すらないじゃないか」
「お前のすぐ下にあるだろ」
「What's?」
良介は成績表とにらめっこする。
「ん?お前、月島じゃなくて月城(つきじょう)だったのか」
:10/04/22 18:36
:N08A3
:07aOrgP2
#66 [我輩は匿名である]
「惜しいな、月城(つきしろ)だ」
何故か反対に、薫が良介を見下した言い方をして威張る。
「おっ、惜しいのはお前の方だろ!
まさかお前、負けるのがわかってたから響子ちゃんを渡さないように…!?」
「さぁな?でも…」
薫はフッと笑う。
「次は負けねぇからな…」
良介の目の前で、薫は宣言する。
:10/04/22 18:37
:N08A3
:07aOrgP2
#67 [我輩は匿名である]
「のぞくところだ!」
「あぁー惜しいな、のぞ“む”だな」
「だっ、黙れ!覚えてろよ!次こそは響子ちゃんを返してもらうからな!」
良介はキッと睨み返して、自分の教室に戻っていった。
「…何でテストの順位で響子の婚約者を決めなきゃいけないんだ…」
さっきまで威勢が良かったのに、薫は急に暗くなって壁にもたれかかる。
「…薫…」
:10/04/22 18:37
:N08A3
:07aOrgP2
#68 [我輩は匿名である]
「…いや、やっぱりおかしいだろ」
薫はもたれるのを止め、しゃきっと立つ。
そして、響子の方を向いた。
「やっぱ、断ってくる」
「へ?」
「だって、おかしいだろ?お前だって、他人の点数で彼氏決められるなんて…」
そう言われて、響子も「…うーん…」と頭を悩ませる。
「ちょっと、あいつに言って来る。響子はここにいろ」
そう言って、薫は良介の後を追った。
:10/04/22 18:37
:N08A3
:07aOrgP2
#69 [我輩は匿名である]
「おい、桐生」
薫に呼び止められ、良介は足を止めて振り向く。
「…俺、やっぱり勝負降りる」
薫はきっぱりと言い張った。
その言葉に、良介はフッと、余裕の笑みをこぼす。
「僕に勝てないから?」
薫は心底イラッとしたが、冷静に「そうじゃない」と言い返す。
:10/04/22 18:38
:N08A3
:07aOrgP2
#70 [我輩は匿名である]
「同じ事じゃないか。僕に負けて、響子ちゃんを取られるのが怖いんだろう?
そうだよねぇ。あんだけ自信満々で話に乗ったのに、負けたんだからね」
「…お前…!」
「知ってる?響子ちゃんの好きな男のタイプ。
格好よくて、優しくて、頭が良い男だって。
君、そんな事知らないだろ?」
良介はまるで、薫を見下すような言い方で笑う。
「…そんなもん、ガキの時の話だろ」
薫は良介を睨みながら言い返す。
:10/04/22 18:38
:N08A3
:07aOrgP2
#71 [我輩は匿名である]
しかし、良介の表情は変わらない。
「残念だけど、今君に何言われても、負け犬の遠吠えにしか聞こえないよ?
悪いけど、君に勝ち目は無いと思うけどな。まぁ、頑張ってみれば?」
良介は笑って、教室に入っていった。
廊下に残った薫は1人、黙ってうつむいて、両手を握り締めていた。
:10/04/22 18:39
:N08A3
:07aOrgP2
#72 [我輩は匿名である]
「そう言えば神崎、お前2桁だったじゃん」
教室に入って、直人は飛鳥に言った。
「ん?あぁ、見てたんだ」
「俺も2点足らずでお前に負けたんだ…。薫の気持ちがよくわかる…」
席についてすぐ、直人は頭を抱えてため息をつく。
「何よ、そっちか…」
「…おっと、そういう話じゃねぇな」
単純な直人は、飛鳥の方を向いて笑いかける。
:10/04/23 18:58
:N08A3
:KdcsC5Iw
#73 [我輩は匿名である]
「やるじゃん!そろそろ親もちょっとはお前の事見直すんじゃね?」
「…まだまだ」
飛鳥は苦笑する。
「弟の1番良かった順位は、9位らしい。だから、私は8位以上を目指すって決めてんだ」
「マジで?でもこれから、1位2位はあのアメリカンと薫が占めるだろうから…
3位〜8位…6人しか枠がないぞ?」
「…まぁ、何とかなるっしょ。ダメそうなら月城に勉強でも教えてもらうわ」
「あぁ、それがいいな」
2人は話ながら笑い合う。
:10/04/23 18:58
:N08A3
:KdcsC5Iw
#74 [我輩は匿名である]
「……水無月さぁ」
飛鳥は何気なく話を変える。
「あん?」
「…もし私が…」
そこまで言って、飛鳥はハッと言うのをやめた。
「…えっ?何だよ?」
「…ごめん、やっぱ何にもない。忘れて」
「はっ??」
ぽかんとしている直人を見ずに、飛鳥は自分の席に戻った。
:10/04/23 18:58
:N08A3
:KdcsC5Iw
#75 [我輩は匿名である]
その夜、直人はベッドに寝転んでボーッと考えていた。
今日、飛鳥は自分に何を言おうとしていたのか。
あの時の飛鳥の顔は、いつものような表情ではなかった。
直人はそれが気になっていたのだ。
「(…別に怒ってるような顔でもなかったし…何だったんだろ?)」
ふと、響子の『鈍感ね』という言葉が頭に浮かぶ。
あの言葉は、こういう事を指しているのだろうか。
「……って事は…やっぱ俺、気に障るような事したのか…?」
直人はしばし、黙って考える。
しかし、答えが出ないまま眠りに落ちてしまった。
:10/04/23 18:59
:N08A3
:KdcsC5Iw
#76 [我輩は匿名である]
ある日。
掃除当番だった直人は、同じく当番だった飛鳥と奏子と一緒に帰っていた。
薫と響子は、すでに先に学校を出ている。
「…ん?」
道端で、直人はふと足を止める。
視線の先には、スーパーの重そうな袋を両手に下げて立ち止まっているおばあさんの姿。
「どうかしたの?」
奏子が直人に尋ねる。
「…ちょっとな」
:10/04/23 18:59
:N08A3
:KdcsC5Iw
#77 [我輩は匿名である]
直人はそれだけ言って、おばあさんに近づく。
飛鳥と奏子は、その場で様子をうかがう。
「ばあさん、大丈夫か?」
直人はおばあさんに声をかける。
「はぁい?」
おばあさんが顔を上げて、直人を見る。
そして、「あぁ、あんたは…!」と驚きの声を上げた。
「…へ?」
「あんた、あの時の子で……」
おばあさんはそこまで言い掛けて、「ん?」と考え直す。
:10/04/23 19:00
:N08A3
:KdcsC5Iw
#78 [我輩は匿名である]
「…あぁ、私ったらすごい勘違いしたわ。もうあれから40年くらい経ってるのに」
おばあさんはそう言って、上品な笑い声を上げる。
直人は「ん?」と首をかしげる。
「…まぁそれより、それ重くないか?俺運んでってやろうか?」
「あら、本当?…でも、悪いし…」
「いいよ、荷物運ぶぐらい。歩きって事は、家もそんな遠くないんだろ?」
「…行ってみよっか」
2人のやり取りが気になって、飛鳥も直人達の所まで歩く。
:10/04/24 12:46
:N08A3
:23VVxZiA
#79 [我輩は匿名である]
奏子はおばあさんを見て、「もしかして…」と声を漏らす。
「じゃあ…運んでもらえる?」
「おう、いいぜ」
直人は快く言って、おばあさんから荷物を受け取る。
「…私も何か持とうか?」
飛鳥はどういう話なのかすぐに理解して、直人に声をかける。
「え?いいよ、別に」
「でも、重そうだし…」
そう言われて、直人は「まぁ確かに…」と心の中で思う。
:10/04/24 12:47
:N08A3
:23VVxZiA
#80 [我輩は匿名である]
「あ、じゃあ1個持って」
「あぁ、いいよ」
飛鳥は頷いて、代わりに直人の鞄を持った。
「なんか、悪いわねぇ…」
「いいですよ、私も暇だから」
「私“も”って何だよ?俺が暇みたいだろ」
「だって暇じゃん」
2人が言い合っている間に、奏子も駆け寄ってきて、おばあさんの顔を見る。
:10/04/24 12:47
:N08A3
:23VVxZiA
#81 [我輩は匿名である]
「あ、やっぱりおばあちゃんじゃん!」
「あらぁ、奏子のお友達だったの」
「………え?」
2人の会話に、直人と飛鳥はきょとんとする。
「この人、うちのおばあちゃんだよ♪」
「マジで!?」
「こ、こんにちは…」
「あらあら、こんにちは」
直人と飛鳥がびっくりしている横で、奏子のおばあさんが笑う。
:10/04/24 12:47
:N08A3
:23VVxZiA
#82 [我輩は匿名である]
「あ、うちの家こっちだから、ついてきて」
奏子はそう言って歩きだす。
2人もぽかんとしたままついていく。
「あらぁ、しかしまぁ、あなた、私が昔会った男の子にそっくりだわ」
おばあさんが懐かしそうに直人に言った。
「そんなにそっくりなのか?」
「…敬語使いなよ」
「あ?あぁ、そうか」
「あーいいわよ、そんな気を遣わなくても」
おばあさんはまた笑う。
:10/04/24 12:48
:N08A3
:23VVxZiA
#83 [我輩は匿名である]
「そうねぇ。私がむかーし、姫崎公園に行きたかったのに、迷っちゃってねぇ」
「…え?」
直人は思わずおばあさんの顔を見る。
「その時に、道案内してくれた男の子がいたのよ。
あなたが、その子にあんまりそっくりだったから、つい…」
「道案内…って…」
飛鳥もハッと、直人を見る。
「あの子、元気かしらねぇ…?」
おばあさんは微笑みながら呟いた。
:10/04/24 12:48
:N08A3
:23VVxZiA
#84 [我輩は匿名である]
直人は少し考える。
「あ、そう言えばあの子、お友達の事気にしてたわねぇ。
なんかねぇ、その道案内してくれた子のお友達が、元気がないか何かでね。
その子、私と同じように養護施設で育ったらしいんだけど。
その子は元気になったのかしら…?」
懐かしくて仕方ないのか、おばあさんは話を進めていく。
『その子』とは、多分晶のことだろう。
直人は何と言えば良いのか、少し困った顔で考える。
:10/04/24 12:49
:N08A3
:23VVxZiA
#85 [我輩は匿名である]
「(…あの後何日かして2人とも死んだとか…言えねぇしなぁ…)」
無言で、眉間にしわを寄せる。
「…2人とも、今も仲良くやってると思いますよ」
そう言ったのは、飛鳥だった。
直人と奏子が、同時に飛鳥を見る。
飛鳥は小さく笑みを浮かべている。
「…そうだな」
彼女を見て、直人もニッと笑う。
:10/04/24 12:49
:N08A3
:23VVxZiA
#86 [我輩は匿名である]
「俺も、2人とも元気にやってると思うぜ」
「…そうねぇ、あの男の子なら、元気にやってそうね」
おばあさんは、安心したようににっこり笑う。
「(…水無月…何か一瞬変だった…?)」
奏子は直人を見ながら首を傾げる。
「あなたたちにも言っとくわ。あの男の子にも言ったんだけどね」
おばあさんは3人に言う。
:10/04/24 12:49
:N08A3
:23VVxZiA
#87 [我輩は匿名である]
「人との間に、壁を作っちゃダメなのよ。
仲良くなりたければ、一歩踏み出さなきゃ。
わかった?」
「あぁ…」
「はい」
「前も聞いたけどな」と思いながら、直人は相づちをうつ。
飛鳥もそれを聞くのは2度目だったが、素直に返事をした。
「…あ、着いたよ。あたしん家」
奏子は目の前の一軒家を指差す。
:10/04/24 12:50
:N08A3
:23VVxZiA
#88 [我輩は匿名である]
「おぅ。意外と近かったな」
「ありがとうねぇ、2人とも」
おばあさんは直人と飛鳥に笑いかける。
「どういたしまして」
2人はそろって返事をする。
「ありがとう。ここまで来たらもう大丈夫」
家のドアの前まで来て、奏子も2人に言った。
「いいのか?」
「うん」
奏子に言われ、直人と飛鳥は、ドアのそばに買い物袋を置く。
:10/04/24 12:50
:N08A3
:23VVxZiA
#89 [我輩は匿名である]
「お茶でも飲んでいったら?」
「いえ、私たちはこのまますぐに帰りますから」
おばあさんの申し出を、飛鳥が丁寧断る。
「あら、そう?じゃあまた遊びに来てね」
おばあさんはニッコリ笑った。
「んじゃ、俺たちはこれで」
「さよならー」
2人はおばあさんと奏子に手を振って、並んでその場を後にした。
:10/04/24 12:51
:N08A3
:23VVxZiA
#90 [我輩は匿名である]
「いい子達だねぇ」
おばあさんは笑って奏子に言う。
奏子は「うん」と返事をしつつ、帰っていく2人の背中を、複雑な気持ちで見つめていた。
:10/04/24 12:52
:N08A3
:23VVxZiA
#91 [我輩は匿名である]
「優しそうなおばあちゃんだったね」
帰り道、飛鳥が何気なく言った。
「そうだな。元気そうで嬉しかったなぁ」
直人も満足そうに笑う。
「まぁ言われてみれば、面影がないこともないな」
「1日しか会ったことないのに、面影とか覚えてんの?」
「ま、まぁ何となく…」
直人は目を泳がせる。
:10/04/27 08:33
:N08A3
:n39Qyhsk
#92 [我輩は匿名である]
それを呆れて見た後、飛鳥はふと、こんな事を言った。
「…うちにも、あんなおばあちゃんがいたら良いのに」
直人は「へ?」と、飛鳥を見る。
「……お前、相変わらず親とは口きいてないんだっけ?」
「きいてない。バイトしてるのも知らないし」
飛鳥は苦笑して答える。
「そうか…」
「まぁ、ちょっと平気になってきたけどね」
「うーん…」
直人は「何かいい方法はないかな」と首をひねる。
:10/04/27 08:33
:N08A3
:n39Qyhsk
#93 [我輩は匿名である]
「いいよ、そんなに頑張って考えてくれなくても」
飛鳥は小さく息をつく。
「そのうちどうにか出来れば良いかなってぐらいだし」
「そうか?…まぁ、今は香月とか安斎とか、友達いるもんな、お前」
「うん」
飛鳥は笑って頷く。
「…あんたのおかげ、かな」
:10/04/27 08:34
:N08A3
:n39Qyhsk
#94 [我輩は匿名である]
「…は?」
飛鳥に言われて、直人はびっくりして彼女を見る。
飛鳥は少しだけ頬を赤らめて顔を背ける。
「(…あれ、なんか、変な感じする)」
直人は恥ずかしいような照れるような、なんだかわからない感覚に襲われた。
2人はそれぞれ同じような事を考えながら帰っていった。
:10/04/27 08:34
:N08A3
:n39Qyhsk
#95 [我輩は匿名である]
「そりゃお前、あいつに気があるんだろ」
飛鳥と帰った時の事を話すと、薫はあっさり言い切った。
「えぇっ!?」
直人はぎょっとしすぎて、持っていた箸を落としそうになる。
「お、俺が!?あいつを!?」
落とさないように箸を握って、少し声を荒げる。
「まぁ、その逆もありえると思うけど」
薫は言いながらサンドイッチを口に入れる。
:10/04/29 13:13
:N08A3
:VvK4rUGI
#96 [我輩は匿名である]
そういう事に関して全く疎い直人は、話についていけず呆然とする。
「え…えぇ…?」
「本当鈍感だよな、お前。どうすればそこまで鈍感になれるか知りてぇよ」
薫は呆れ返ってため息をつく。
直人は「そんな事言われても…」と頬を膨らませる。
「まぁ、そういう所がいいんじゃないのか?」
「…なんか嬉しくない」
直人は不機嫌そうに言い返す。
「…全く自覚してないのか?」
:10/04/29 13:13
:N08A3
:VvK4rUGI
#97 [我輩は匿名である]
「…うーん…何か、よくわかんねぇんだよなぁ…」
直人は箸を咥えて腕を組む。
「好きとかじゃない気がして…。なんかこう…“見守っててやりたい”…っていうか…。
何か、本気で応援してやりたくなるっていうか…」
「(…似たような事だろ)」
直人の話を聞きながら、薫は思った。
「…いいな、お前は平和そうで」
不意に、薫はそう言ってため息を吐いた。
:10/04/29 13:14
:N08A3
:VvK4rUGI
#98 [我輩は匿名である]
「何だいきなり」と、直人は首をひねる。
「…響子は…あいつの事、どう思ってるんだろ…」
薫は遠い目をして、机に肘をつく。
「あいつ?あのアメリカンの事か?てか、結局どうなったんだよ」
「“負け犬の遠吠え”、“君に勝ち目はない”、…そう言われた」
「はぁ!?何なんだあいつ!!」
短気な直人は、思わず声を荒げる。
:10/04/29 13:14
:N08A3
:VvK4rUGI
#99 [我輩は匿名である]
「…でも、あいつは響子の事を何も知らない。
あんな押し付けがましいやり方で、響子が納得するはずがない」
「当たり前だろ!今までお前らがどんだけしんどい思いしてきたか、あいつ何も知らないんだぞ!?
あんな奴に香月取られてたまるかよ!」
まるで自分の事のように、直人は腹を立てて騒ぐ。
「…でも、あいつは俺の言う事には全く耳を貸さない。
何を言っても、きっとまた“負け犬の遠吠え”って嘲笑うだけだろ。
…だから多分、俺が成績1位を取り戻す以外、あいつは納得しないだろうな」
:10/04/29 13:15
:N08A3
:VvK4rUGI
#100 [我輩は匿名である]
「あいつが納得するとかしないとか、どうでもいいだろ!」
「前みたいな目には遭いたくないんだよ」
薫は少しきつく言い返した。
そう言われて、直人はやっと、少し黙り込む。
確かに、怜奈のような行動に出られてはいろいろと面倒だ。
薫は1人で、そこまで考えていたのだろう。
そう思うと、直人はそれ以上何も言えなかった。
:10/04/29 13:15
:N08A3
:VvK4rUGI
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