その日が来る前に、2
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#601 [愛華]
「うん。なんか用?」
「そーゆーわけじゃないけど…
直純、大丈夫かなって」
大丈夫なわけないだろ。
あんなこと聞かされて……
でも、それは梓も同じか。
親友の死が身近に迫ってる。
平気なわけないよな。
「………びっくりしたよ。
いつかはこんな日が来るだろうって思ってたけど……今なんてな」
:10/12/21 17:19
:840SH
:yAxc/byQ
#602 [愛華]
今日の放課後。
誰もいない教室で、梓と俺に
白石から告げられた事実。
白石は、20歳まで生きられない
かもしれないということ。
手術は成功すれば治るけれど、
確率はかなり低いということ。
手術を受けるつもりはない、ということ。
俺も梓も何も言えなかった。
今日まで白石は……この事実に
どれだけ苦しんだんだろうか。
:10/12/21 17:24
:840SH
:yAxc/byQ
#603 [愛華]
「………あたしも同じだよ……」
梓は消え入りそうな声で言った。
「どうして那佑なんだろね。
那佑じゃなきゃだめだったのかな
他の誰かじゃだめなのかな」
「梓………」
「ひどいこと言ってる?あたし。
でもこんな気持ちになるなら…
自分が病気のほうがよかった」
:10/12/21 17:32
:840SH
:yAxc/byQ
#604 [愛華]
『あたしは梓とか直純くんよりも
先にいなくなっちゃうかもしれない』
白石は今日そう言った。
『でも、諦めない。絶対に
諦めない。一生懸命、生きる』
強い瞳でそう言った。
『……だから、側にいて下さい
笑ってて下さい。あたしを……
支えてください…』
:10/12/21 17:39
:840SH
:yAxc/byQ
#605 [愛華]
当たり前だろ、そんなの。
白石が嫌だっつっても……
側にいて支えてやるから。
「……梓。誰がなったってきっと同じだったんだよ」
「うん………」
「俺たちは白石を支えよう。
いつも通り笑えばいいんだ。
」
「うん。うん…………」
俺たちができるのは笑うこと。
白石が不安にならないように
支え続けることなんだ。
:10/12/21 17:44
:840SH
:yAxc/byQ
#606 [愛華]
「………タカには……」
「隆兄には言うな。やっと
2人の傷が癒えてきたのに、またこのことで掘り返す必要はない」
「……ん。わかった……」
本当は、怖かった。
今2人が再会したら、
もしかしたら………って。
汚いかもしれないけれど。
:10/12/21 17:48
:840SH
:yAxc/byQ
#607 [愛華]
今はまだ会わせたくない。
白石をとられたくない。
俺だって毎日必死なんだ。
大事なものを守ることに
必死なんだよ。
大丈夫。明日、また笑える。
いつも通りに、笑える。
:10/12/21 17:51
:840SH
:yAxc/byQ
#608 [愛華]
-那佑side-
:10/12/21 17:51
:840SH
:yAxc/byQ
#609 [愛華]
「はぁぁぁ!?」
「え?え?ダメ?」
いつもの昼休み。
梓と、直純くんと、あたしと。
「バイトしたいってあんた…
する必要なんかないでしょ?」
「したことないからしたいの!」
梓と直純くんは怪訝そうな顔。
:10/12/21 22:36
:840SH
:yAxc/byQ
#610 [愛華]
あの事実を話してからも、
2人はいつも通り接してくれる。
それが何より嬉しくて。
「なんか働いてみたいんだよね。
時間がもったいない気がしてさ」
「そんなにバイトしたいの?」
「うん!!」
:10/12/21 22:40
:840SH
:yAxc/byQ
#611 [愛華]
「………じゃああたしも」
「梓!!一緒にやってくれる?」
「え、じゃ俺も……」
「ううん。直純くんはいい。」
「………なに、この疎外感…」
あ、そういう意味じゃなかったんだけどな。迷惑あんまかけた
くなかった、っていう意味……
だったんだけど。
:10/12/21 22:48
:840SH
:yAxc/byQ
#612 [愛華]
うわ、すねてるし。
後ろ向いちゃったし。
「な、直純くん。大丈夫だよ。
ね?心配しないで?」
「………どーせ!!俺は!!」
「ほら、プリンあげるから」
「食いかけじゃん!!しかも
残り5分の1程度!!」
「直純ぃ、すねるなって。那佑は
あたしがちゃんと守るから!」
:10/12/21 22:54
:840SH
:yAxc/byQ
#613 [愛華]
「なんだよちくしょー!!」
5月の中盤。
いつもの楽しい日々。
限られた時間で何がしたいのか。
何度も考えたけれど…
きっと、これが正しい。
色んなことをやろう。
その日が来た時後悔したくない。
もちろん、諦めてはいない。
:10/12/21 23:04
:840SH
:yAxc/byQ
#614 [愛華]
きっと20歳の夜を越えてみせる
そう強く、願うんだ。
それまでは笑ってすごそう。
そんな毎日にあなたはいない。
慣れていくのがいいことなのか
悪いことなのかわからない。
まだこんなにも好きなのに。
側に戻って来てほしいのに。
:10/12/22 01:32
:840SH
:zdiU6mws
#615 [愛華]
傷は治らない。
たまに開いて痛むんだ。
今、あなたは
なにをして
なにを見て
なにを食べて
誰を思ってるんだろう。
私は今日もあなたを想うのに。
:10/12/22 01:35
:840SH
:zdiU6mws
#616 [愛華]
'
「………ただいまぁ」
「あ、那佑おかえりー!」
家に帰れば、優しいお母さんと
お父さんが迎えてくれる。
1年前のあたしなら絶対に
考えられなかったことだ。
:10/12/22 01:37
:840SH
:zdiU6mws
#617 [愛華]
「お母さん、あたしね梓とバイト
しようと思うんだけど……」
「いかん!!お金に困ってるならお父さんにいいなさい!」
いや、お父さんいつからいた?
びっくりしたよ今。
どっから出てきたんだよ。
「そーいうわけじゃないの!
やってみたいな、って思ったの」
「………お母さんは…うーん…」
:10/12/22 22:55
:840SH
:zdiU6mws
#618 [愛華]
「やっぱりダメかなぁ?」
さすがにお母さんも反対かな…
バイトなんて心配かけるし。
でもお母さんは。
「…まぁ梓ちゃんも一緒なら…
絶対無理はしないでね?」
「……!!ありがとう!!」
「那佑にバイトなんて……
危ない男につかまったりしたら
どうするんだ?」
:10/12/22 23:00
:840SH
:zdiU6mws
#619 [愛華]
「だいじょーぶだってば!」
「あ、ほら!!つきあってる
男性に送ってもらったら?」
ドキン
「………あー別れたんだ。
言ってなかったっけ?」
「え………そうなの?」
「まぁモテるひとだったしね!
また好きなひとつくるよ!」
:10/12/22 23:21
:840SH
:zdiU6mws
#620 [愛華]
あたしはなるべく声のトーンを
落とさないように言った。
「好きなひとなんかつくらんでいいんだ那佑は!!わかったな!」
「あーもうわかったから!
お願いだからお父さん黙って!」
「お父さんに向かってなんだ
その言い草は!!」
あたしとお父さんが言い合いを
している様子を、お母さんは
複雑そうに見ていた。
:10/12/22 23:47
:840SH
:zdiU6mws
#621 [愛華]
多分、お母さんはわかってた。
あたしが傷ついてること。
でもなにも言わなかった。
いまだに立ち直れない自分が
情けない。
自分で決めた道なんだ。
納得もしたはずなのに……
やっぱりまだ苦しい。
いつになれば忘れるのかな。
…………わかんないや。
:10/12/23 00:02
:840SH
:dtgS1Dxc
#622 [愛華]
あなたと次に会うのはいつ?
あたしは笑ってる?
あなたも笑ってる?
思い出として振り返れる?
そうだといいな。
でもそんな願いは崩されて
あなたとの再会は
あたしの中のなにかを
簡単に変えてしまった。
:10/12/23 00:10
:840SH
:dtgS1Dxc
#623 [愛華]
'
「………えーと。今日から
入ってもらう白石さんと速水さんですね?よろしくお願いします」
「「よろしくお願いします!」」
:10/12/23 00:13
:840SH
:dtgS1Dxc
#624 [愛華]
数日後。
学校から少し離れた小さな
ケーキ屋でバイトすることが
決まった。
かわいいピンクのお店。
正直、ちょっと不安はあったけど
楽しみな気持ちのほうが勝った。
帰りに、ここのケーキ買って
帰ろうかな……
:10/12/23 00:19
:840SH
:dtgS1Dxc
#625 [愛華]
なんて思ってた。
「……ね、那佑。店長思ったより若いね!かっこよくない?」
「あんた誨さんいるくせに…」
確かに店長は20歳前半くらいで
しっかりしてそうなひと。
あたしは別に好みじゃないけど。
「……えーでは。自己紹介は
あとでしてもらうので仕事を
最初教えてもらう指導係の人を
紹介しますね」
:10/12/23 00:26
:840SH
:dtgS1Dxc
#626 [愛華]
「あ、はい」
「もう来ると思うんだけど……」
店長が言い終わらないうちに
ドアが開く音がした。
あ、来た。
あたし人見知りするからな……
上手く話せるかなぁ……
「すいません、遅れましたー
つーか店長。裏口しまってたんすけど。入れませんでしたよ」
:10/12/23 00:30
:840SH
:dtgS1Dxc
#627 [愛華]
'
……………………え?
「え?俺閉めてないけど……
あ、白石さんたちか。2人とも
裏口は閉めなくていーからね」
「………え、白石……?」
:10/12/23 00:32
:840SH
:dtgS1Dxc
#628 [愛華]
聞き慣れた声。
ずっと聞いていない声。
うそ。そんな……
その声の男の人はゆっくりと
振り向く。
黒が似合うそのひとは。
「……………隆則……」
:10/12/23 00:37
:840SH
:dtgS1Dxc
#629 [愛華]
「あれ?2人知り合い?」
時が止まった気がした。
周りの音がなにも聞こえない。
「……那佑………」
「隆則なんでここに……」
言葉が出ない。
息ができない。
…………苦しい。
:10/12/23 15:35
:840SH
:dtgS1Dxc
#630 [愛華]
「…………タカ!!あんた
こんなかわいい店でバイトして
たの!?知らなかったよ!」
いきなり梓が声をあげた。
「えー!速水さんも知り合い?」
「はい、幼なじみなんです」
「へーそうなんだ。いろいろ
都合いいかもね。じゃ、裏で
仕事教えてあげて、隆則くん」
:10/12/23 15:40
:840SH
:dtgS1Dxc
#631 [愛華]
「あ…………はい」
隆則はあたしから目をそらして
ドアからでていった。
冷たい。前とは別人みたい。
「………気持ちはわかるから。
普通にしてな。今は。」
梓の声で我にかえる。
どうして?こんな形で…………
:10/12/23 15:45
:840SH
:dtgS1Dxc
#632 [愛華]
'
「……えーと、じゃあ仕事教えるから。ちゃんと覚えろよ」
「その前にタカ。いつからここでバイトしてたの?」
「んーと……1ヶ月くらい前?
時給いいし。材料運ぶだけだし」
「確かに、ケーキづくり
とか似合わないしねー」
:10/12/23 15:49
:840SH
:dtgS1Dxc
#633 [愛華]
2人の会話を黙って聞く。
なんだろ、これ…………
あたし、なんでここにいるの?
「…………那佑も、久しぶり」
「…………え、うん」
隆則があたしに笑顔を向ける。
笑顔だけは、前と同じで。
:10/12/23 15:54
:840SH
:dtgS1Dxc
#634 [愛華]
「お前また小っさくなったな。
ちゃんとメシ食ってんのか?」
「た、食べてるよ!!」
そういって乱暴に頭をなでる。
大きくて、あったかい。
隆則の、手。
そっか。隆則はもう『普通』。
もうぎくしゃくしなくても
いいんだ。
:10/12/23 15:57
:840SH
:dtgS1Dxc
#635 [愛華]
気まずくなる必要なんてない。
前と同じように。
接すればいいんだ。
笑って挨拶すればいい。
それができたら……
あたしの傷は完全に『癒える』。
:10/12/23 15:59
:840SH
:dtgS1Dxc
#636 [愛華]
そう信じて。
あたしも『普通』に接するんだ。
「……で、月曜日と火曜日は
このダンボールを3箱。
フルーツは傷つきやすいから
丁寧に運べよ。水曜日はこの
倍の量になるからな」
「うわーいいにおいー!!」
「梓……聞いてんのお前?」
隆則の説明を聞いて、せっせと
メモをとる。
:10/12/24 16:31
:840SH
:amrEgRJU
#637 [愛華]
「那佑、けっこうハードだけど
お前に大丈夫なのか?」
それは……病気のことで?
聞きたくても聞けない。
隆則には話していないから。
病気の進行のこと………。
「……うん。平気だよ」
かすれた声しか出なかった。
隆則の目が、見れない。
:10/12/24 16:42
:840SH
:amrEgRJU
#638 [愛華]
久しぶりに見た隆則を改めて
見ても、少しも変わってなくて
ちょっとだけ安心した。
でもあなたにまだ言ってない
ことがあるから………
後ろめたくなった。
「……それじゃ、これを向こうに運んで並べて」
「………なんかタカ先輩みたい」
「みたい、じゃなくて先輩なんだっつの!!」
:10/12/25 13:53
:840SH
:3uZIMuUg
#639 [愛華]
'
いつのまにか初日は終わった。
隆則が言っていたとおり
ハードだったけど、梓は
なんてことなさそうにこなして
いたので、びっくりした。
「あー終わったー!!疲れた!」
「梓楽勝そうだったじゃんー」
:10/12/26 20:05
:840SH
:G5R.aRfw
#640 [愛華]
チラッと隆則のほうを見ると
あくびをしながら上着を着てた。
………ほんとに普通だなぁ…
ちょっとガッカリしてる自分が
いるのはなんでだろう?
こんな自分に自己嫌悪するよ。
「なーゆちゃん!!」
:10/12/26 20:08
:840SH
:G5R.aRfw
#641 [愛華]
「………はい?」
聞き慣れない男性の声。
「これからよろしくね!」
「はぁ………」
その男の人はあたしに微笑んだ
けど…………誰だっけ?
同じバイトの人だよね?
さっき自己紹介したときに名前
きいたはずなんだけど……
「……すいません、名前……」
:10/12/26 20:22
:840SH
:G5R.aRfw
#642 [愛華]
「もしかして覚えてない?」
「………すいません」
「俺、永島ちひろ!」
「……かわいい名前ですね」
「言うなよ、気にしてんだから」
そういって永島さんは笑った。
笑った時に見える八重歯が
印象的で、人懐っこそう。
:10/12/26 20:26
:840SH
:G5R.aRfw
#643 [愛華]
「那佑ちゃんてさ、隆則と
知り合いなの?友達?」
「まぁ、そんなとこです」
早く帰りたいんだけど………
でも梓と隆則が話してるみたい
だし……まぁいっか。
「なに?那佑ちゃんも隆則を好きでここのバイトはいったの?」
…………あたし、も?
:10/12/26 20:37
:840SH
:G5R.aRfw
#644 [愛華]
「……どういう意味ですか?」
「いや、隆則ってさ、普通に
カッコイイじゃん?だから
隆則目当てで色んな女の子が
このバイトに入るんだよね。
まぁみんな振られてやめてっ
ちゃうんだけどねー」
「………そうなんですか。でも
あたしは違いますよ」
「ほんと?よかったー」
……ん?どういう意味だろ?
脈ないからやめとけって意味?
:10/12/26 20:47
:840SH
:G5R.aRfw
#645 [愛華]
「那佑ー!!帰ろー!!」
梓が外で呼んでいるのが聞こえた
「あ……じゃ永島さん。また。」
「うん。またね!!」
……なんかいい人そうだな。
仲良くできそうな感じ。
「ごめん梓、お待たせー」
:10/12/26 20:53
:840SH
:G5R.aRfw
#646 [愛華]
「ったく。永島さんとなに
話してたの?」
「いや、別に……」
隣に隆則いんのに言えるわけない
「じゃあタカ、また明日ね」
「気ぃつけて帰れよ。那佑も」
「………うん。ばいばい」
:10/12/26 20:58
:840SH
:G5R.aRfw
#647 [愛華]
隆則と店の前で別れ、梓と
一緒にバス停に向かった。
……あ、なんか急に疲れが
出てきたなぁ………
「………びっくりしたね。まさかタカがここでバイトしてる
なんて……知らなかった」
梓は小さな声で言った。
……うん。あたしもそうだよ。
:10/12/26 21:03
:840SH
:G5R.aRfw
#648 [愛華]
「……どうする?那佑がまだ
辛いなら……バイトやめる?」
バイトをやめる。
そうすれば……また苦しい思いはしなくてもいいんだ。
でも………
「ううん。やめない」
「そっか………」
:10/12/26 21:08
:840SH
:G5R.aRfw
#649 [愛華]
逃げない。隆則から。
また前みたいに笑って、
話せるように。
頑張りたいんだ。
隆則はそれを望んでは
いないかもしれないけれど。
:10/12/26 21:12
:840SH
:G5R.aRfw
#650 [愛華]
'
「おーい隆則。俺らも帰ろーぜ」
「あぁ。ちょっと待ってろ」
「腹減ったんだよー」
そう言ってちひろがどたばたと
その場で暴れ始めた。
:10/12/26 21:15
:840SH
:G5R.aRfw
#651 [愛華]
子供みたいなやつだ。
「……ってか隆則ずりーよな。
あんな可愛い友達いてさ!」
ちひろがうらやましそうに
声をあげた。
「……なに、どっち?」
「梓ちゃんも可愛いけどー、
俺としては断然、那佑ちゃん!」
隆則の動きがピタリと止まる。
:10/12/26 21:20
:840SH
:G5R.aRfw
#652 [愛華]
「………那佑は、やめろ」
「隆則には関係ないよ」
ドンッッ!!
一瞬のうちに隆則は、ちひろを
壁に打ち付けた。
ちひろは微動だにしない。
:10/12/26 21:30
:840SH
:G5R.aRfw
#653 [愛華]
「……那佑に手ぇ出すな」
「お前のもんじゃねーじゃん。
隆則も那佑ちゃん好きなの?」
「…………」
隆則は、なにも答えない。
言葉の変わりかのように、
鋭い目でちひろを睨む。
「…………んな目で睨むなよ。
冗談だってーの。手なんか
出さないから安心しろよ」
:10/12/26 21:36
:840SH
:G5R.aRfw
#654 [愛華]
ちひろは軽く隆則の手をどけ、
肩をぽんっと叩く。
「……前に、那佑ちゃんと、
なんかあったんだろ?」
「………」
「なにあったか知らないけど。
お前今日、仕事何回ミスってん
だっつの。毎回こんなの
ごめんだからな」
ちひろは苦笑いした。
:10/12/26 21:44
:840SH
:G5R.aRfw
#655 [愛華]
「……ちひろ、悪い」
「まーいいさ。別に。俺が
首つっこむほどのことじゃない
しねー。でも仕事も手につかないくらい好きならつきあえば?」
「…………ムカつくな、お前」
「うるせーヘタレやろー!!」
ちひろは思いきり舌を出して、
出口に歩きだした。
:10/12/26 21:49
:840SH
:G5R.aRfw
#656 [愛華]
「まぁ、ちゃんとしろよ!!」
ちひろは後ろ姿で手をふりながら
出ていった。
俺…………なにやってんだろ。
暗い室内で、水道の水滴が
落ちる音が響く。
:10/12/26 21:55
:840SH
:G5R.aRfw
#657 [愛華]
長いため息をつきながら、
ゆっくりと目をつむる。
久しぶりに会った那佑の姿。
目に焼きついて、消えない。
「………ダセーな、俺」
月が綺麗な夏の始まりの日。
また運命が動きはじめた。
:10/12/26 21:58
:840SH
:G5R.aRfw
#658 [愛華]
、
「よいしょっ」
段ボールを2個、ついでに袋を
片手に5個かついで、走る。
「ちょっと那佑…大丈夫?」
梓が心配そうにあたしに言う。
心配しすぎだよなぁ……梓は。
:10/12/27 23:19
:840SH
:qvb/ZXhc
#659 [愛華]
「大丈夫なわけないだろーが」
「あ」
抵抗するひまがないうちに、
あたしの手から段ボールと袋が
奪われてしまった。
「持ちすぎ。男だっていっぱい
いんだからもっと頼れよ」
「うん!ありがとう」
あたしは隆則に微笑んだ。
:10/12/27 23:26
:840SH
:qvb/ZXhc
#660 [愛華]
あれから1週間。
バイトにも慣れてきた。
隆則とも、上手く話せるように
なったし笑えるようにもなった。
でも………バイトに隆則が
いることを直純くんには
話してはいない。
話したらきっと……止められる。
卑怯だけど、それがいやだから。
:10/12/27 23:29
:840SH
:qvb/ZXhc
#661 [愛華]
それでもやっぱり、隆則を
見ると少しつらい。
でもこの辛さを乗り越えたい。
きっとまた強くなれるから。
「じゃあ隆則!ばいばーい」
「ん。気をつけてな〜」
:10/12/29 20:33
:840SH
:jT.Vrocs
#662 [愛華]
「那佑。バイト大分慣れたね」
「うん。楽しいね」
「あのさ……」
梓は言いづらそうに言う。
………なんだろ?
「……直純に、まだ言わないの?
バイトにタカがいること…」
「……………」
:10/12/29 20:36
:840SH
:jT.Vrocs
#663 [愛華]
「直純きっと怒るよ。隠してて
ばれたら……きっと怒るよ」
「わかってるよ。でもバイト
やめたら……隆則会う理由が
なくなっちゃうじゃん」
「那佑……………」
「あたしはいつか直純くんと…
梓とあたしと隆則で。みんなで
笑いたいの。それが夢なの。
時間がないかもしれないから。
だから………」
だから。もう少し待って。
:10/12/29 20:44
:840SH
:jT.Vrocs
#664 [愛華]
きっと話すから。
直純くん。待っていて。
そして、事件は起きた。
:10/12/29 20:50
:840SH
:jT.Vrocs
#665 [愛華]
「………んー…」
「那佑、顔色わるいね。
病院行こう。一回帰ろう」
「いや…薬飲んだから、ちょっと休めば平気………」
「だめ。次体育だから、それが
終わったら帰ろう。それまで
保健室にいて。絶対に」
梓………お母さんみたいだな。
なんて言ったら怒るだろうか。
最近、また体調が悪くなって
きてしまった。………つらい。
:10/12/30 00:10
:840SH
:g/TYES8.
#666 [愛華]
「白石……大丈夫か?」
「うん………へーき」
隠し事をしている罪悪感からか
あまり直純くんの目が見れなく
なってしまった。
……隆則と再会してから。
「じゃ、ちゃんと寝てなね」
「ん。ばいばーい」
保健室のベッドから2人を送る。
:10/12/30 00:15
:840SH
:g/TYES8.
#667 [愛華]
ベッドは気持ちよくって、すぐ
あたしは眠りについた。
そしてまた、夢を見た。
また誰かが泣いてる。
あれは誰だろうか?
あれは…………あたしだ。
:10/12/31 00:28
:840SH
:Eqb/iWps
#668 [愛華]
どうして泣いてるの?
もう泣かなくていいんだよ。
泣きたくなんかないよ。
ねぇ………泣かないでよ。
あなたは誰を求めているの?
:10/12/31 00:30
:840SH
:Eqb/iWps
#669 [愛華]
「…………ん」
目が覚めると、眠る前よりも
すっきりとした気分になっていた
よかった。薬が効いたんだ。
「……なんの夢見てたっけ……」
忘れちゃった。ま、いいか。
:10/12/31 00:33
:840SH
:Eqb/iWps
#670 [愛華]
「………白石」
「!?」
ドアのほうを覗くと、そこには
直純くんがいた。
「直純くん……授業は?」
「……………」
なに?
なんか………様子が変だ。
なんか……怒ってる。
:10/12/31 00:35
:840SH
:Eqb/iWps
#671 [愛華]
直純くんはあたしの隣のベッドに腰掛けて、あたしを見る。
視線が怖い。刺さるような……
「どうし、たの?」
「白石さぁ、俺になんか隠し事
してない?なんでもいいけど」
………え?
:10/12/31 00:37
:840SH
:Eqb/iWps
#672 [愛華]
「隠し事って………」
「そうだなぁ、例えば………
隠しとくと俺が怒りそうなこと。
んなもん1つしかねぇよなぁ。
…………隆兄がらみのことだよ」
………バレてる?どうして……
「バイトに隆兄がいるらしいね」
:10/12/31 00:40
:840SH
:Eqb/iWps
#673 [愛華]
顔は笑ってるのに、目は
笑ってない。………怖い。
「……隠してたわけじゃ……」
「じゃあ何?言えば俺がバイトをやめろ、とでも言うと思った?
だから隠してたのかよ?
そこまで隆兄に会いたかった?」
「直純くん……」
:10/12/31 00:43
:840SH
:Eqb/iWps
#674 [愛華]
何も言えない。
全部そのとおりだったから。
どんな言い訳したって……
あたしは隠していた。
自分のために。
卑怯で汚い……方法を使って。
「直純くん……ごめんなさ…」
「俺、全然信用されてないんだ。な、そうだろ?」
:10/12/31 00:47
:840SH
:Eqb/iWps
#675 [愛華]
直純くんの顔が近づく。
「直純………くん?」
「………ムカつく」
ギシっとベッドのきしむ音が
静かな保健室に響いた。
:10/12/31 00:58
:840SH
:Eqb/iWps
#676 [愛華]
「直純くん……やだ!」
手首を強くつかまれる。
直純くんはもう何も言わない。
ただ、直純くんの目に
吸い込まれそうになる。
…………本気だ。
「………や、だ」
声が出ない。
別人みたいな直純くん。
:10/12/31 01:03
:840SH
:Eqb/iWps
#677 [愛華]
'
「……………んっ…」
ゆっくりと直純くんと唇が
重なった。
ジタバタしてもびくともしない。
やだ………やだ……やだ!
:10/12/31 01:07
:840SH
:Eqb/iWps
#678 [愛華]
目を閉じると思い浮かぶのは
全部優しい直純くんなのに。
今ここにいるのは………
「………はっ………ん…」
息がもれる。苦しい。
直純くんはどんな顔を
してるんだろう。
もう……涙でにじんで見えない。
:10/12/31 01:10
:840SH
:Eqb/iWps
#679 [愛華]
「やだ………………」
唇が離れたのと同時にあたしは
つぶやいていた。
「しらい………」
「やだ………やだよ……」
涙でぐしゃぐしゃの顔を隠し
あたしは何度も何度も呟く。
嫌だったんだ。
あたしと直純くんの関係が
音をたてて崩れた気がして。
:11/01/03 00:07
:840SH
:8TNSGwW2
#680 [愛華]
隆則のキスと全然違う。
苦しくて悲しい。
「………白石、ごめん俺……」
「出ていって。今顔見れない」
「でも…………」
「顔見たくないの!!
きっとあたしひどいことしか
言えないから………お願い」
ドアが閉まる音が聞こえた瞬間
さらに涙があふれだした。
:11/01/03 00:12
:840SH
:8TNSGwW2
#681 [愛華]
'
「………ばか。このくらい…」
このくらいのことで、なに
泣いてんだよ。あたし。
この先もっと辛いことあるよ?
泣いてる場合じゃないだろ。
:11/01/03 00:14
:840SH
:8TNSGwW2
#682 [愛華]
ただ、直純くんが怖くて。
お願い。
誰かあたしを守って。
苦しさから、悲しさから、
あたしをこの世の全てから
解放して。連れ出して。
「………隆則………」
:11/01/03 00:17
:840SH
:8TNSGwW2
#683 [愛華]
涙は頬をつたって
落ちて
またなにかを変えていく。
正解はどこにあるの?
あたしは間違っていたの?
この気持ちに正直になれたら
こんなに苦しまなくて済むの?
嘘でもいいからそう言ってよ。
あたしに……答えをください。
:11/01/03 00:21
:840SH
:8TNSGwW2
#684 [愛華]
-直純side-
:11/01/03 00:21
:840SH
:8TNSGwW2
#685 [愛華]
わかりきってた。
白石の心に居座り続けてる
白石を支えているもの。
わかってるから、悔しくて。
キスをした。
俺は本当に最低だ。
:11/01/03 00:24
:840SH
:8TNSGwW2
#686 [愛華]
「……あ、直純………」
「梓か。なんだよ」
息をきらして教室に入ってきた
のは梓だった。窓の外を見てた
ので、顔は見えないけど……
きっと泣きそうな顔してる。
「……あのさ、バイトのこと。
隠してたわけじゃなくってさ」
「別にいーよ。もう」
俺は振り返って微笑んだ。
:11/01/03 00:30
:840SH
:8TNSGwW2
#687 [愛華]
隆兄がバイトにいるのを知った
のはついさっき、梓から聞いた。
『那佑、バイト頑張ってるよ。
タカがフォローしてくれてるし』
梓とバイトの話をしていた時、
梓が口を滑らせた。
問い詰めて、全部聞いた。
白石と隠していたことを全部。
:11/01/03 00:37
:840SH
:8TNSGwW2
#688 [愛華]
隆兄と白石が再会した。
そんなことよりも………
白石に隠されていた。
白石に……信用されてなかった。
なんか辛かったのかも。
梓が今にも泣きそうだけど……
泣きたいのこっちだっての。
:11/01/04 22:41
:840SH
:SJMj34kI
#689 [愛華]
いや…………違うか。
今泣きたいのは白石か。
きっとこの瞬間も泣いてる。
俺の、せいで。
「………直純………」
「俺、白石にひでぇことした。
嫌われてっかもしんねぇわ」
「な、に…………それ」
:11/01/04 22:50
:840SH
:SJMj34kI
#690 [愛華]
空気が冷えてゆく感じがした。
違うところにあった気持ちが
自分のところに戻ってきた。
そんな感覚。
「……………潮時、かな」
諦めるなら今なのかな。
:11/01/04 22:58
:840SH
:SJMj34kI
#691 [愛華]
「直純…………」
「俺、白石から病気が進行した
こと聞いてさ………白石は
手術受けないって言ったけど
俺は受けてほしいって思った。
病気が治って、ここに戻って
きてほしいって。
でも言えなかった。
梓、なんでかわかるか?」
「…………」
:11/01/04 23:07
:840SH
:SJMj34kI
#692 [愛華]
「俺には自信がなかったんだ。
白石にそう言ったとして。
『成功しなかったら……』
って不安をもらされたら。
受け止められる自信がなかった。
だから、言えなかった」
冷えた空気を吸い込む。
冷えていたように感じたのは
俺だけかもしれないけれど。
:11/01/04 23:16
:840SH
:SJMj34kI
#693 [愛華]
窓の外ではたくさんの生徒たちが
疲れた顔で走り回ってる。
あ、梓のやつも授業抜け出して
きたのか。
………なんで俺、こんなに
冷静なんだろ。
すごい辛いはずなのに。
:11/01/04 23:26
:840SH
:SJMj34kI
#694 [愛華]
「………………やっぱ、さ。
隆兄はすげぇよなぁ」
あの日から。
白石は俺の側にいてくれて。
いっぱい時間はあったはずなのに
白石には近づけなかった。
:11/01/04 23:28
:840SH
:SJMj34kI
#695 [愛華]
だから、もういいんだ。
白石が一緒に居たいやつと
一緒にいればいい。
その前に、君に伝えたい。
俺が思ってること全部。
たくさん傷つけてごめん。
兄弟そろって馬鹿でごめん。
でも好きだった。ということを。
:11/01/04 23:36
:840SH
:SJMj34kI
#696 [愛華]
「………あんた馬鹿だね……」
梓は泣きながら俺をゆっくりと
抱きしめた。
懐かしい、ぬくもり。
「……でも、いい男!!
タカなんかよりも、もっとね!
すっげ好き!!直純好き!!」
:11/01/04 23:42
:840SH
:SJMj34kI
#697 [愛華]
「ちょ、お前変な噂たつから!
やめろっての!!」
「なに?キスしてやっか?
ほら、こっち向いてみな!」
「やーめーろー!」
白石、もう一個伝えたい。
ありがとう。
俺を、変えてくれて。
:11/01/04 23:51
:840SH
:SJMj34kI
#698 [愛華]
-那佑side-
:11/01/04 23:52
:840SH
:SJMj34kI
#699 [a]
:11/01/05 00:55
:F906i
:lJ/Laj8o
#700 [愛華]
:11/01/05 15:38
:840SH
:22xhhoZo
#701 [愛華]
もうすぐ夏なのに、
喉の奥がスンとする。
寒いのか、暑いのか
もうそんなものもわからない。
『日曜日、2人で出かけよう。
大切な話があるんだ』
そういった直純くんは
ほんとうにいつも通りで。
あの保健室での直純くんは
まるで幻だったみたいで。
:11/01/05 15:42
:840SH
:22xhhoZo
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