天使と悪魔の暇潰し
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#1 [匿名]
読んでもらえたら嬉しいです。

⏰:10/10/17 12:08 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#2 [匿名]
天使と悪魔



天使。そう言われているのが僕。
人間を見守り幸せを与え、間違えた道に進みそうになる人間をそっと軌道修正するのが天使の仕事。
悪魔。そう言われているのが彼。
人間を観察し不幸を与え、間違えた道に入り込んでしまった者に罰を与えるのが悪魔の仕事。

⏰:10/10/17 12:16 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#3 [匿名]
天使は何万、何百万といるがそのほとんどが淡いキャラメルのような髪色をしていて肌は白い。
瞳は綺麗な青だったり緑だったり茶色だったり、それぞれだ。

それに比べて悪魔は皆黒髪。肌は少し黒く人間で言う日焼けを少しした程度。瞳は真っ黒だ。

⏰:10/10/17 12:21 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#4 [匿名]
「よぉ!」

彼が僕に話しかけてきた。彼が話しかけてくる理由はだいたい分かる。
面白い事があった時、何か面倒臭い頼み事、暇潰し。

そうだ、言っておくが人間は勘違いをしている。天使と悪魔は敵同士。悪魔は天使にこてんぱにやられてしまう。というのは間違いだ。本当は仲がいい。

⏰:10/10/17 12:27 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#5 [匿名]
僕と彼も仲良しと言える方だと思う。

「なに?面白い事でもあったか?」
ニヤニヤと近づいてくる彼を見たら、誰もが良い事があったんだなと思うだろう。

「おう。暇潰しに勝ったんだよ!なぁ、すげーだろ?しかも相手は大人だぜ。悔しがってたなー!」

⏰:10/10/17 12:35 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#6 [匿名]
彼は暇潰しに向いていない。短気で大雑把で、天使と悪魔には必要不可欠な人間の心を読む事を面倒臭がる。

なのに彼が大人に勝てるとは。同じ天使として恥ずかしくなる。そんな大人にはなりたくないと心の底から思った。

⏰:10/10/17 12:39 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#7 [匿名]
「本当かよ。君に負ける大人がいるなんて信じれない」

素直に思った事を口にする。嘘だろ?とは言わなかった。

「本当だよ!俺もびっくりだ。その人間がさ、簡単に自殺したんだよ、笑えるよな」

あははっと彼は大きく笑ったが、僕は苦笑いしかできなかった。

⏰:10/10/17 15:03 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#8 [匿名]
暇潰しというのが、天使と悪魔でやるゲーム。

ターゲットとなる人間を一人選び、近付く。

五日間で自殺させたら悪魔の勝ち。二日間自殺させずに過ごせたら天使の勝ち。


簡単なゲーム。
ただの暇潰し。

⏰:10/10/17 15:07 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#9 [匿名]
>>8

五日間自殺させずに過ごせたら天使の勝ち。


です。すみません。

⏰:10/10/17 15:12 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#10 [匿名]
大抵死にたそうな人間が選ばれる。というか、人間はほとんどが死にたいと軽々しく口にする。
僕達にはそれが理解出来ない。まあ、僕達は死なないからだろうけど。

その死にたいと口にする半分以上の人間は本当に死のうなど思っていない。

死に直面すると死にたくない!!と泣き叫ぶんだ。あんなに醜いものはない。

⏰:10/10/17 17:10 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#11 [匿名]
「なあ、暇潰ししようぜ」
僕は彼との暇潰しで負けた事はない。

「今ならお前にも勝てる気がするんだよなー」

「ターゲットは選ばせてあげるよ」
僕には自信がある。

まあ、負けた所でただの暇潰し。ただのゲーム。

⏰:10/10/17 17:18 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#12 [匿名]


「あいつに決めた!な、良さそうだろ?」

彼の言う良さそうというのは死にそうって事なんだろうな。
僕には全然良くないが、彼の指差す人間を見る。

年齢は三十代半ばくらいの中肉中背のいかにも地味な男。髪の毛が少し薄く、整えられてない。
スーツを着ているからサラリーマンとやらなのだろうけど、品がなく、不潔な雰囲気だ。

⏰:10/10/17 17:54 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#13 [匿名]
「いいよ。あの人にしよう。」
「よし!じゃあ早速行ってくるわ!」

じゃあな、とヒラヒラ手を降って彼は地上に降りた。
五日間、いつ、どこで、ターゲットと接触してもかまわない。ただし一日二時間とルールがある。

誰が作ったかわからないルールだが、僕達は必ず守る。でないと面白くないからだ。

僕はターゲットと彼を上から見守る事にした。

⏰:10/10/17 18:00 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#14 [匿名]
ちなみに人間の世界に行く時は人間の姿になる。まあ、あまり変化はないのだけれど羽が取れたり、表情が少し変わる。より人間らしくなるのだ。

彼はターゲットに向かって歩いて行く。人間でいうと二十歳くらいに見える。黒い髪、キリッとした目付きはそのまま。

⏰:10/10/18 00:14 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#15 [匿名]
ドンッ
彼の肩がターゲットに当たった。

「いてぇな」

ギロッと彼が睨む。あんなに怖い顔をして睨んだら悪魔である事がばれてしまうんじゃないかとハラハラする。

「ああ、す、す、すみません!ごめんなさい!」

ターゲットは必死に頭を下げて謝っている。
可哀想だと思ったが、必死な姿に笑えてしまった。

⏰:10/10/18 00:19 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#16 [匿名]
「死んで謝れ」

彼は直球に死ねと言う。
今時死ねと言われて、はい、わかりました。今から死んできます。と死にに行くやつがいるのだろうか。

そんなに簡単に死ぬやつはとっくに死んでいると思ってしまう。

⏰:10/10/18 00:22 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#17 [匿名]
「え、え?いや、あの、お金なら払います。す、すみません、もうしませんから許してください!!」

震える手で財布からお札を抜き彼に渡し、走って逃げて行った。

ターゲットは以前にも同じ様な経験があるのだろうか、怖がり方が異常だった。

⏰:10/10/18 00:27 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#18 [匿名]
ターゲットは死なない。
いや、いつかは死ぬだろうけど自殺はしない。

彼に睨まれてあんなに怖がって逃げて行ったやつは大体死に直面しても同じ様に逃げる。

こっちこいよ!

人間には聞こえない声で彼は僕に呼び掛けてきた。断る理由もないので地上に降りた。

⏰:10/10/18 01:18 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#19 [匿名]
「あいつすげぇびびってたな!こりゃ5日もいらねーんじゃねぇか?」

彼はケラケラ笑う。
本当に人間の心を読まないんだなーと呆れた。

「そんな事よりさこの金で何か食いに行かね?俺のおごりだよ!」

「いいね!」
彼に乗る事にした。

⏰:10/10/18 11:01 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#20 [匿名]
僕達は地上に降りるといつも行く場所がある。
人間からも大変人気だというハンバーガー屋さんだ。

こんなに美味しい物があるなんて人間は幸せだな〜とその時ばかりは思う。

「やっぱうめぇな!」
しみじみとハンバーガーを頬張る彼はもう3個目だ。

⏰:10/10/18 11:36 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#21 [匿名]
ふと視線を感じ隣を見ると、女子高生とやら三人組みが僕達を見ていた。
よくある。
なぜ見られているのか、僕が女子高生とやらを見返すと、こっち見た!!と騒ぎ出した。

そっちが見ていたのにもかかわらず僕が見たら騒ぎ出す。全く意味が解らない。不愉快だ。

⏰:10/10/18 11:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#22 [匿名]
もしかして、ばれている?
僕達が人間ではない事が奴らにはわかっているのか?

まずい、面倒だ。

「もう行くよ」

「え?お、おう。お前一つでいーのかよ」

「もう十分だよ。」

足早に彼を連れて席を立った。

⏰:10/10/18 11:48 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#23 [匿名]
「僕達の正体あの隣の子達にばれてたんじゃないかな」
不安を自分の中に抑え込んでおく事が出来なくて、店を出てからすぐに彼に言った。

「あ?ばれるわけねーだろ」

ばれた試しがねーよと、呆れた口調で彼は言うとまだお店の中にいる三人組にヒラヒラと手を降った。

するとまた騒ぎだした。

⏰:10/10/18 16:28 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#24 [匿名]
な?
と彼に言われたが、その意味が理解できず首を傾ける。

「俺らって若い人間の女に人気らしーよ」

「天使と悪魔がか?」

「だからばれてねーって!何かよくわかんないけど見た目?」

人間の見た目になれてるとはいえ、やはりどこか本当の人間とは違うのだろうか。

⏰:10/10/18 16:32 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#25 [匿名]
「お前は鈍感だな。」
ポンと彼に肩を叩かれムッとする。彼にだけは言われたくない。

「それよりお前はいいのかよ、ターゲット」

あぁ、忘れていた。

「今日はいいよ、帰ろう。」

「もう帰るのかよー。」

駄々をこねる子供の真似をする彼を無視し、僕は上へ帰った。

⏰:10/10/18 16:37 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#26 [匿名]
それにしても人間の女は解らない。
心を読む気にもなれない。

人間に僕達の正体がばれるのはとても面倒なのだ。

ばれると一年間くらい地上に降りられなくなる。
大好きなハンバーガーが食べられなくなるのだ。
まあ、ばれた事はない。
彼の言う通りだ。

⏰:10/10/19 10:53 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#27 [匿名]
二日目

「いってくるわ」
なんだかだるそうに、彼はふわっと降りて行った。

それほど興味はないのだが、僕も今日はターゲットと接触するつもりだったので眺める事にした。

今日のターゲットは休みのようで私服姿でスーパーにいた。

その私服も地味だ。
御世辞にもお洒落だなんて言えない。

⏰:10/10/19 11:34 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#28 [匿名]
沢山着たんだなー、これはTシャツも幸せだと感心するほどヨレヨレになった服は、お腹の脂肪を引き立てる。

彼はターゲットの後を2メートルほど開け追跡している。見事に怪しい。

だが他の客は、いかにお得な商品を買うかで一生懸命なのだろうか、商品しか見ていない。

⏰:10/10/19 11:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#29 [匿名]
彼は手に小さなお菓子の様な物を持っている。

あれだけ持っているのは怪しい。見た目が子供だったら文句はないが。

ただそんな怪しい彼を誰も怪しいだなんて思わないみたいだ。興味がないのだろう。

彼がサッとターゲットに近づくと、手に持っていたお菓子をターゲットの鞄の中に入れた。

⏰:10/10/19 11:58 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#30 [匿名]
何事もなかったように彼はまたターゲットとの距離を開け、さっきよりは自然に後をつけていた。

何も知らないターゲットはレジに並び会計を済ます。

自動ドアを出た所で彼が近づいた。

「あの!」

突然話しかけられたターゲットはびっくりして、恐る恐る彼を見上げてる。

「え、なんでしょうか?」

⏰:10/10/19 17:36 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#31 [匿名]
「万引き」

「…はい?」

「万引きしただろ?」

「え、何を言ってるんですか?してないですよ!!」

ターゲットは両手を前に出しぶんぶん振って否定をしていた。頭も激しく横に振る。

その姿がとても気持ち悪かった。

⏰:10/10/19 17:40 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#32 [匿名]
「嘘つくな!いーから来い!」
勢いよく背中を押す彼は何だか楽しそうに見えた。

「い、痛い!!嘘じゃないですよー僕はなにも…!!」


ターゲットは嘘などついていない。

嘘などついていないのに、ひどい扱われようだ。

⏰:10/10/19 17:44 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#33 [匿名]
「すみません、あなた店長ですよね?この人万引きしてたんですけど」

彼はスーパーの中までターゲットを連れて行き、レジ付近にいる店長と呼ばれた男に言った。

「え、本当ですか?びっくりだなぁ」

年齢は四十代前半。髪の毛は白髪混じりだが整えられ、お腹の肉もさほどない。ガリガリではなくガッチリした体格。学生時代ラグビーをやっていました!と自己紹介をしてきそうな雰囲気がある。

⏰:10/10/22 13:15 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#34 [匿名]
びっくりだなぁと笑いながら言う店長に彼は少し苛立った顔をした。

「とりあえず事務所で話を聞こう。」

君はどうもありがとう。とターゲットだけを中に入れた。

「ちょ、ちょ、あの待って下さい!!僕何もしてないんですよ」

ターゲットは泣きそうな顔で店長にすがり付く。

「中で聞きますから」

なだめるような言葉にターゲットは下を向き歩き始めた。
はぁ、本当についてない。ターゲットの心の声が聞こえてきそうだ。

⏰:10/10/22 13:22 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#35 [匿名]
「鞄の中のものを出してくれますか?」

「…はい」

財布、ティッシュ、メモ帳、チラシなどを次々出していくが、そこで手が止まった。

「どうしました?出せないものがあるんですか?」

「なんで…」

動いた手はお菓子を持っていた。

⏰:10/10/23 18:01 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#36 [匿名]
「なんで?あの!僕は本当にやってないんです。何かの間違いです!!」

見に覚えのない事が起き動揺している。

「そんな事言われても実際に鞄の中から出てきましたからねぇ。それに皆最初はやってないって言うんです。認めないと帰れないですよ。」

店長は慣れているみたいだ。

「しかもまた何でこんな安いお菓子を万引きしたんです?これくらい買えるでしょう?」

それもそうだ。

⏰:10/10/23 18:07 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#37 [匿名]
「お金は払います。」

「そういう問題じゃないんですよ!!」

「でも本当にやってないんです。」

「はぁ。」

「こんなばかな事しないですよ…」

「何で認めないんだ?」


そんな会話を15分くらい続けている。本当に可哀想なターゲットだ。
弱気な性格なのか怒鳴ったりはしない。

⏰:10/10/23 18:11 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#38 [匿名]
「分かりました。今回は一度目なので警察には通報しません。…お菓子一個だけですし。」

「…はぁ」

「もう帰っていいですよ。」

「はい…」

下を向いたままターゲットは立ち上がり、ドアの前で一礼し外へ出た。

⏰:10/10/24 15:16 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#39 [匿名]
僕はターゲットに接触しようと思った。もう彼は下には居ないみたいだし、何もしないでいるわけにはいかないからだ。

相変わらずターゲットは下を向いたまま暗い顔をしてゆっくり歩いている。ターゲットの周りだけ空気がどんよりしている

「あのすみません。」

ターゲットの鞄から落ちたハンカチを拾う。正確に言うと落ちたではなく、僕が落としたのだ。

⏰:10/10/25 18:05 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#40 [匿名]
今度はなんだ?と言いたげな嫌な顔をしてターゲットが振り返る。

「あの、これ落としましたよ。」
できるだけ優しい言い方で、できるだけ嫌味のない笑顔を向けた。

さっきの彼とは違う親切な青年に見えたみたいだ。ターゲットの顔が少し和らいだ。

「あぁ、すみません!ありがとうございます。」

⏰:10/10/25 18:09 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#41 [匿名]
なんだ…と呟き僕の手からハンカチを受けとる。

「すみません、ありがとうございました。」

ターゲットは丁寧にお辞儀をし、前を向こうとする。

「何かあったんですか?」
突然の僕の問いにターゲットは、え?と目を丸くする。

「いや、なんだって言われたので何かあったのかと思いまして。」

⏰:10/10/25 19:00 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#42 [匿名]
「あぁ、ちょっとね不運な事が起こりまして。最近そんな事ばかりでね、いろんなものを警戒してしまうんですよ。」

「そうでしたか」

「ああ、ごめんなさい!こんな愚痴聞きたくないですよね。」

頭をポリポリとかき、照れているのか恐縮しているのか分からない顔をしている。

⏰:10/10/25 19:14 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#43 [匿名]
「いえ、そんな事ないですよ。」

そんな事はない。あなたの気持ちが知りたいから。そこで優しい言葉をかけて自殺から救わなくてはいけないから。

「死にたいって思います?」
唐突な僕の質問にターゲットはまた、え?と驚いた顔をする。きっと彼の仕業以外にも不幸な事は沢山起きているのだろう。その度に死にたいと思うに違いないと僕は思った。

⏰:10/10/26 16:35 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#44 [匿名]
人間は小さな不幸があると、あーもう死にたい!と口にする。

テストの点数が悪かったり、恋人に振られたり、上手く行くはずの仕事が失敗したり、浮気された時。大好きなカレーを白い洋服にこぼした時や、沢山の人が通る場所で派手に転んだ時。

僕からしたらそんな事はどうだっていいのだ。

全く興味がない。

いや、馬鹿馬鹿しくて笑う事もできない。

⏰:10/10/26 16:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#45 [匿名]
「死にたいか…そうだな、死にたいかもなぁ。死んだら楽になるのかな。会社で上司には無意味に怒鳴られて、女性社員には気持ちわるがられてさ、僕、何もしてないのに。さっきも万引きしたと間違えられたし、昨日もおっかない若者に絡まれてとっさにお金渡しちゃったよ…だらしないよなー。僕の人生って不運な事で出来ているような気がするよ。」

ハハッと無理矢理笑うターゲットの顔は生気が感じられなかった。

⏰:10/10/26 16:49 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#46 [匿名]
彼の悪戯が効いているみたいだ。

さぁ、1、2、3で目を瞑ればそのまま死ねます!せーのっ!とカウントダウンを始めたら何の迷いもなく目を瞑るだろう。今のターゲットなら。

「死んでも大変ですよ?まず死人の行列に並ばなきゃいけないんです。」

⏰:10/10/26 20:56 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#47 [匿名]
そう。この地球にいる人間を含めた生き物は一日に何万と死んでいる。
死んだ瞬間死人の行列に並び順番を待つ。
神様への列だ。

神様は、何故死んだか、やり残した事はないか、生前の悪事など様々な事を聞かれる。

それまでの行列に大体二年は並ぶことになる。

⏰:10/10/26 21:03 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#48 [匿名]
「行列?」
ターゲットはハハッと笑う。

「そうです。神様までの。それから神様にいろんな事を聞かれるんです。面倒臭いですよ。特に自殺の場合は質問が多くて。」
僕は正直に事実を伝えた。励ますつもりではなく、笑わせようとしたつもりもない。

「君は面白い事を言うんですね!ありがとう。自殺は面倒臭そうだから止めとくよ。」

⏰:10/10/26 21:11 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#49 [匿名]
三日目

とりあえず昨日は良かったんじゃないかな。最後に笑ったターゲットは今まで見たことのない顔をしていた。

彼も自分がターゲットと接触してからはどこかへ行ってしまって、僕とターゲットの接触は全く見ていなかった。

きっとハンバーガーでも食べに行ったのだろう。マイペースな所が彼の長所だ。

⏰:10/10/29 19:52 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#50 [匿名]
ターゲットは昨日と同様、今日も休みのようだった。

ただ違うのは服装だ。ビシッとしたジャケットを着ていている。髪の毛も整えられていて昨日より五歳は若く感じる。

出勤の日も同じようにすれば、回りの態度も変わるのにと思う。

いったい何があるのだろう。仕事よりも気合いの入れる行事があるのだろうか。

⏰:10/10/29 20:02 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#51 [匿名]
僕と彼は上からターゲットを見守る事にした。

電車に乗り一番端に座る。そして立つ。ドアの前に歩いて行く。

そわそわと、キョロキョロ辺りを見回してる姿は実に怪しい。

挙動不審な男に、回りの乗客も嫌な目で見ている。絶対にかかわりたくない、目があってはいけないと、わざと目をそらす女性も沢山いた。

⏰:10/10/29 22:25 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#52 [匿名]
しばらくして電車が停車すると、ターゲットは慌てて降りた。慌てる必要はどこにもないのに。

少し歩き、大きな時計台の前で止まり、深呼吸をしている。

また辺りをキョロキョロし始めたので、誰かと待ち合わせをしているのだと分かった。

⏰:10/10/29 22:30 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#53 [匿名]
大体三十分は経っただろうか。ターゲットは時計を気にしながらキョロキョロと辺りを見回している。

「ちょっと僕行ってくる」

隣で退屈そうに頬ずえをついている彼は、おぅとあくび混じりの返事をした。

たいした作戦があったわけではない。ただ、なんとなく、行こうかなと思ったくらいだ。

⏰:10/10/30 11:50 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#54 [匿名]
ターゲットの後ろに立ち肩をポンポンと叩いた。するとビクッと肩が上がり、次には満面の笑みで振り返った。

「昨日はどうも。僕の事覚えてます?いや〜こんな所で会うなんて奇遇ですね!」

昨日と同じように、笑顔と人当たりの良さを全面に出し、声をかけた。

ターゲットは待ち合わせの相手が来たと思ったに違いない。笑顔から、目を見開きびっくりした顔になると、すぐに表情が曇った。

⏰:10/10/30 11:56 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#55 [匿名]
「やぁ、昨日はどうもありがとう。覚えているよ。あんな事を言う人には出会った事がなかったから、印象深かったよ。」

まあ、人間は神様の事なんて全く知らないから、あんな忠告は出来ないだろう。


「ところで何をしているんです?一人で。」

「あ、いや、ちょっと待ち合わせで。」

何故か顔を赤くし、照れ始めるターゲット。実に気持ちが悪い。

⏰:10/10/30 12:03 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#56 [匿名]
この手の反応はきっと異性が絡んでくる。

「もしかしてデート?」
僕は悪戯っ子のような笑顔を作り、ターゲットの顔を覗き込んだ。

「よくわかったね。そうなんだ。こんな年になって恥ずかしいんですが、お見合いで先日出会った人でして。」

また照れ始めたターゲットは、僕に久しぶりの敬語を使った。

緊張からなのだろうか。

⏰:10/10/30 12:08 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#57 [匿名]
そこで今日のターゲットがビシッと決めている理由が分かった。

「がんばってください!」
と応援してみせる。

「ありがとう。」
と先程の緊張が少しほどけた顔つきになった。

「あ!そうだ!良いこと教えてあげます。以前知り合った女の子が言っていたんですけど…」

アドバイスか?とターゲットは激しく頷きながら僕に近付いてきた。必死さが伝わってきて、また気持ちが悪いと思ってしまった。

⏰:10/10/30 12:13 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#58 [匿名]
「女性は誰でも褒められる事が好きみたいです。綺麗ですねだったり、その服とてもお似合いですねみたいな。」

あぁ!と今度は深く頷き始める。

「あとは適度な強引さだったかな?次はあそこに行きましょう!とか、このお店でご飯を食べましょうとか。だけどここが難しくて、一度女性に伺わなきゃ駄目みたいです。行きたい場所はありますか?とか何か食べたい物はありますか?と。」

⏰:10/10/30 12:19 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#59 [匿名]
なるほど。と頭の中で、何度も何度もイメージトレーニングを繰り返している様子だった。

「それじゃあ、僕はこれで。また会う機会があったら是非聞かせて下さい。」
ニコッと笑って、その場を離れた。折角だからハンバーガーでも食べようと、近くのハンバーガー屋さんに入る。

僕が入ると彼も降りてきて、一緒に食べる事にした。

⏰:10/10/30 12:28 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#60 [匿名]
「おい!なんだよあのアドバイス!あれは俺が教えてもらったんだぞ!」

彼がドンッとぶつかってきた。

「あぁ、そうだったっけ?だいぶ前の事だから忘れちゃったよ。」

とぼけた顔で言う僕が、気に食わなかったらしい。舌打ちをしてハンバーガー五つ、奢らされた。

⏰:10/10/30 18:22 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#61 [匿名]
しばらくして僕達はターゲットの事が気になり始め、また上から眺める事にした。

するとすでに待ち合わせしてたであろう女性と一緒に歩いていた。

女性は肩までのストレートな黒髪で、年齢は三十代後半だろうか。目の周りの皺が目立つ。身長はターゲットよりも少し小さい位なので、女性の中では大きい方なのかもしれない。ベージュのワンピースを着ている。

知的で真面目そうな印象。どこか優しそうで、良いお母さんになりそうだ。

⏰:10/11/02 12:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#62 [匿名]
女性も少し緊張しているように見える。

案外お似合いな二人なのではと思う。

「このワンピースお似合いですね!」

早速ターゲットは先程僕が教えた事を言っている。

「本当ですか?今日は何を着るか凄く悩んだので、そう言ってくださると、とても嬉しいです。」

まるで十代の女の子のように無邪気に喜ぶ女性を見て、女はいくつになっても少女の気持ちを忘れたくないのよ!!と教えられた事を思い出した。

⏰:10/11/02 18:16 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#63 [匿名]
「今日は、あ、あの、フレンチのお店を、予約したんですが、だ、大丈夫ですか?」

緊張が隠しきれない様子のターゲットは、とても頼りなく感じる。三十代になって何年もたつのに、女性との接点はなかったんだろうな、と予測できた。

「えぇ、大丈夫です!好き嫌いもないですから」

女性の方が余裕がある。

⏰:10/11/02 18:22 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#64 [匿名]
それから二人はそのお店に向かった。

会話という会話はとくになく、今日は雨じゃなくてよかったですね、そうですね、寒くないですか?大丈夫です。を続けている。

黙ったままの時間もあったが、運良く早めにお店に着いた。

予約名を伝え、テーブルへと案内される。

綺麗な内装で、スタッフも皆、プロのサービスマンというかんじだ。

⏰:10/11/02 18:29 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#65 [匿名]
「料理はディナーコースでお間違いないでしょうか?」

「あ、はい。」

「ではこちらがドリンクのメニューでございます。」

「あ、はい」

ぎこちなさすぎる。

⏰:10/11/02 21:53 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#66 [匿名]
「なににしますか?」

ターゲットは先程僕が教えた通りまず女性に伺った。

「えっと、あまりお酒は詳しくないのでお任せします。」

女性は簡単でいいなぁと思った。そうですか、とターゲットはメニューに目を戻す。

そうだなぁ、んー、どれがいいかなぁ、うーん、と目をキョロキョロ動かす。

⏰:10/11/04 16:45 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#67 [匿名]
きっとターゲットは僕のアドバイスなど関係なく、女性が決めてくれたドリンクと同じ物を頼もうと思い、伺ったのだろう。

「お客様、本日何かの記念日だったり特別なお日にちでしたら、乾杯はまずシャンパンなどはいかがでしょうか?」

店員が助け船を出してくれた。

「シャンパンは大丈夫ですか?」

ターゲットはここぞとばかりに女性に言う。

「えぇ、大丈夫です。」

「じゃあそれでお願いします。」

ふぅ、と息を吐く。
緊張が少し解かれたみたいだ。

⏰:10/11/04 16:57 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#68 [匿名]
あ、とターゲットは思い出したように呟いた。

「どうかしましたか?」
キョトンとした顔で女性は聞いた。

「いや、今日は記念日でもなんでもなかったなと思いまして。」

恥ずかしそうに下を向きながら頭をかく。

「それなら、二回目のデート記念でいいじゃないですか?」

ニコッと笑った女性を見て、ターゲットは幸せそうに頷いた。

今まで生きてきて女性に微笑まれた事などないような、新鮮な反応だった。

⏰:10/11/04 17:02 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#69 [匿名]
それからターゲットは適度に会話をして、適度に飲んで、食事を楽しんでいた。

お酒が弱いのか、女性を目の前にしているからなのか、徐々に顔が赤くなってきた。


そこで隣にいる彼は舌打ちをし始め、そわそわと動き出した。


「こりゃ悪魔として、放っておく訳にはいかねーよなー?」

⏰:10/11/04 17:07 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#70 [匿名]
同意を求められても僕は天使で、悪魔にはなれないから彼の気持ちは分からない。

「君は悪魔だもんね。」

と質問の答えにはなっていない返事をした。だが僕の答えに彼は納得したみたいだ。

「だよな!そうだよ。俺は生まれてこの方人間の幸せを願った事はねーんだよ。幸せそうな笑顔を見ると虫酸が走る!」

嫌な顔をして彼は肩と顔を震わせた。

⏰:10/11/04 17:12 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#71 [匿名]
その時下では、女性が席を立っていた。きっとトイレだ。

「ってことで行ってくるわ!幸せな時間はここまで」
ニヤッと笑う彼は実に恐ろしい。

お手柔らかに、と彼に言うが、聞く耳は持っていない。

⏰:10/11/04 17:17 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#72 [匿名]
女性トイレ付近で、女性が出て来るのを彼は待っている。

黒いスーツをきて、髪の毛も後ろに流して整えられている。僕達は思い描いた格好に一瞬にして変える事が出来る。


少しして女性は出てきた。
彼の前を通り過ぎようとしたとき、彼は呼び止めた。

「あの、あなたあそこに座ってる男性と一緒に来られた方ですよね?」

いつになく丁寧な喋り方の彼が、後ろ姿のターゲットを指差す。

「えぇ、そうですがなにか?」

いきなり見ず知らずの若者に言われ、警戒をしている。当たり前の事だ。

⏰:10/11/04 17:27 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#73 [匿名]
「これは忠告です。ター…た、多分あなたははめられています。」

何の話ですか?と女性は怒った顔をした。

「簡単に説明します。あの男性は詐欺師です。あの方は結婚していて、その妻と二人で詐欺をしているんです。」

「おっしゃってる意味がよくわかりません。からかっているのなら私ではなく、他を当たって下さい!」

完全に怒ってしまった。彼の口からあんな嘘が出てくるとは思わなかった。

⏰:10/11/04 17:34 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#74 [匿名]
「ちゃんと聞いてください!あの男性は複数の女性と関係を持っています。そう、不倫です。でもそれは本気ではない。お金の為なんです。」

彼の正義感溢れる口振りに、女性は騙され始めた。

「不倫している事が妻にばれたふりをして、妻が不倫相手に慰謝料を請求するという流れになっているんです。だから、あなたも危ないんです!!」

「そんな…まさか!」

恋人を信じたいという気持ちなのだろうか、女性は泣きそうな顔をしている。

⏰:10/11/04 17:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#75 [匿名]
「全て本当の話です。実は昨日も一人の女性がお金を払ってしまいました。次のターゲットはあなたなのです。」


「私はどうしたら…」
しばらくの沈黙のあと掠れた声で女性が呟いた。

「逮捕するのは警察の役目です。あなたの身に危険が及ぶ可能性がありますので、あの男性との関係をこの場で終わらせてください。」


「…分かりました。」

⏰:10/11/04 17:48 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#76 [匿名]
「あ、僕とのこの会話はあの男性にはバレないようにしてください。とても危険なので。…では、私は店の外で見張っております。」

一礼し、彼は外に出た。

女性はゆっくりとターゲットの元へ向かう。

「あ、大丈夫ですか?気分でも悪いですか?」

長い間トイレから帰って来ない女性を心配したのだろう。ただ今の女性にはターゲットの優しい言葉も全て嘘に感じている。

⏰:10/11/04 17:52 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#77 [匿名]
「え、えぇ。」

女性の顔は緊張していた。

「あの、一つお伺いしてもいいですか?」

女性はふぅと息を吐き、本題へと入ろうとした。

「ええ!何でも聞いてください!」

ターゲットは女性に興味を持たれているのが嬉しいようで、ウキウキしている。

⏰:10/11/04 17:57 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#78 [匿名]
「昨日何か大変なことが起こりましたか?」

遠回しのような、直球のような質問だ。

え?とターゲットは少し考えるが、すぐにはっと思い出した。

昨日は万引きの容疑をかけられていたのだ。

「あ、えっと、その…な、なにもなかったですよ!!何もしてないです!!」

ターゲットは万引きをしたと思われては確実にふられてしまうと思い、必死に隠そうとした。

⏰:10/11/04 18:02 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#79 [匿名]
素直に、やってもいない万引き犯だと思われて大変だったんですよ、と笑い飛ばせば良かったのに。

その怪しい反応に女性は確信したようだった。


「信じてました。残念です。ガッカリです!」

いきなり目を潤ませる女性を見て、ターゲットは慌て出した。

「な、な、なんの話ですか?」
万引きの事がばれたのか?と青ざめた顔になる。

⏰:10/11/04 18:07 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#80 [匿名]
「私を騙してたんですね!誠実そうな顔をして、そんな最低なことをするだなんて…!もうこれ以上あなたには会えなくなりました。もう顔も見たくありません!!二度と連絡してこないでください!!」

女性は勢いよく席をたつと、迷わずお店を出た。

ターゲットはポカーンと口を開けたまま、何が起きたのか理解出来ていない。

追い掛ける事すらできずにいる。

⏰:10/11/04 18:12 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#81 [匿名]
「思った以上に上手くいったぜ!」

店の外で見張るといった彼は、迷わず上へ戻ってきて、僕の隣で二人の様子を見ていた。

「店の外にいなくていーのか?」
僕が訪ねると

「こっちの方が見やすいしな!外からじっと見てたら怪しいだろ?」
と、答えた。

「あんな不様なふられ方しちゃー死にたくもなるよなぁ?唯一の光だった優しい女に嫌われたんだ!」

⏰:10/11/04 18:18 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#82 [匿名]
そうだなぁ、確かに今生きる人間は死にたくなるのかもしれない。と天使のくせに僕は思った。

ターゲットにとってあの女性は、最後のチャンスだったのだろう。

ターゲットは女性恐怖症になったかもしれない。

最後だと決めた恋が呆気なく終わりを迎え、何もかも終わったと勘違いをしただろう。

⏰:10/11/04 18:23 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#83 [匿名]
恋愛、仕事、学業、趣味、食事、友人。

人間の心は全てを1つの風船に入れてしまう。何かがダメになり、その部分に針が刺さるとパンッと風船は割れて、他の物まで一緒に粉々に萎れてしまう。

一つ一つを違う風船に入れればいいのだ。一つの風船、例えば恋愛の入った風船が割れても、他の友人が入った風船、趣味が入った風船は割れない。

他に頼る風船があるのだ。

⏰:10/11/04 18:32 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#84 [匿名]
今のターゲットは完全に前者だろう。

食事のコースはメインが出たばかりだった。
ターゲットは残りを食べる気もなく、途中で席をたち、会計を済まし一人で店を出た。

足取りが重く、一歩一歩にいろいろな思いが積もっているように感じた。

僕は今ターゲットの所に行こうか迷ったが、止めた。きっと僕の慰めの言葉は、逆効果になるような気がしたのだ。

⏰:10/11/04 18:39 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#85 [匿名]
四日目


今日のターゲットは一日目と同じスーツを着て、仕事をしている。

案の定表情は暗い。

仕事もはかどらない様で、パソコンに向かって作業をしたかと思えばすぐに手が止まり、考え事をしている。その繰り返しで、時計は12時を回っていた。

同僚達は昼食を取るべく出掛けていく。ターゲットはそれでもまだ考え事をしている様子だった。

⏰:10/11/06 22:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#86 [匿名]
結局ターゲットはそのまま動く事なく、何も食べずに昼休みを過ごした。

恋愛というものは、こうも人間の心を左右するのかと思うと、怖くなる。

子孫を残したいだけなら、死ぬ程悩まなくて良いはずなに。人間は面倒臭い。

⏰:10/11/06 23:13 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#87 [匿名]
今日も僕はターゲットと接触する気にはならなかった。

そう簡単には自殺するようには思えなかったし、それならわざわざ関わる必要はないと思ったからだ。

僕とは反対に、彼は今日も、何をしてやろうかと企んでいる。

悪戯をしようとする子供のように無邪気だが、考えてる事は残酷だ。

人間を自殺させるんだから。ただの暇潰しで。

⏰:10/11/07 01:02 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#88 [匿名]
ターゲットはのそっと席を立ち、トイレに向かった。

そのすきに彼は、ターゲットの机の上にある資料のようなものを消した。

彼は姿を消して、ターゲットの会社に入ったようで、他の人には彼の姿は見えていない。

⏰:10/11/08 12:33 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#89 [匿名]
しばらくしてターゲットは戻ってきた。相変わらず表情は暗く、足取りは重い。

席につき、ぼーっとバソコンの画面を見ている。いや、見ているというか、そちらに顔が向いているだけだ。

机の上にあるはずの資料が無くなった事に気付いたのは、暫くしてからだった。

⏰:10/11/08 19:07 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#90 [匿名]
「おい、お前。そろそろ出来ただろ?見せろ」

社長だか、部長だか、課長だか、僕には何者だか分からない偉そうな男が、ターゲットに声をかけた。

「あ、あ、はい!」

そこで初めて机の上に目をやる。あれ?という顔になる。そして徐々に焦りだし、ばたばたとあちらこちらを探し始めた。

⏰:10/11/08 19:13 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#91 [みか]
おもしろいです!
応援してるので頑張って下さい\(^O^)/

⏰:10/11/08 22:13 📱:SH904i 🆔:yfCdiuP.


#92 [匿名]
みかさん

ありがとうございます!!
めちゃくちゃ嬉しいです!

⏰:10/11/08 22:28 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#93 [匿名]
「おい、どうした?」

課長だか、社長だか、偉そうな人が、なかなか資料を持って来ないターゲットに対して苛立ち始めた。

「あ、すみません!いやーあの、ここに置いておいたんですけど」

ターゲットはさらに焦る。

⏰:10/11/08 22:41 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#94 [匿名]
「ないのか?」

社長だか…偉い人が、ターゲットの近くまで寄ってきた。

「いや、あ、あの、あるはずなんです!」

「…はず?」

「いや、いや、あるんですけど、ないんです。」

「どういう事だ?本当に仕上げたのか?さっきからボーッとして、仕事をしているようには見えなかったんだがねぇ。」

⏰:10/11/08 22:48 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#95 [匿名]
「…すみません。」

探しても探してもない資料。当たり前だ。彼がさっき消してしまったのだから。

「もう一度作り直します!」
ターゲットは椅子に座りパソコンに向かう。

「もういい。期限の守れない者は必要ない。おい!田中ー!こいつの代わりに新しく作ってくれ。」

ターゲットの斜め前に座る田中という男に、その社長だかなんだか偉そうな奴は声をかけた。

⏰:10/11/09 02:25 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#96 [匿名]
田中という男は、面倒くさそうな顔を一瞬だけしたが、すぐにキリッとした目付きに変わり、わかりました。と返事をした。

わざとらしくターゲットの前でため息をつく。

「先輩。何で後輩の僕が、先輩の尻拭いをしなきゃいけないんですかねぇ。」

嫌味たっぷりの言葉に、ターゲットは下を向く事しかできなかった。

⏰:10/11/09 02:29 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#97 [匿名]
その日ターゲットは定時になると、こそこそと帰った。
自分の居場所がなく、煙たがられる場所に居たくはなかったのだろう。

それに、残業するほどの仕事がなかったのだ。

なぜ、こんなにも僕の人生は上手く行かないのだろう。と思ってるに違いない。

教えてあげたい。
悪魔が取り付いてるからだよ、と。でも安心してほしい。天使も付いてるよ。

⏰:10/11/09 13:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#98 [匿名]
僕は今日、ターゲットと接触するかわりに、昨日の女性に会いに行こうと考えた。

ターゲットを今救えるのは、僕の言葉ではなく、あの女性の言葉だろう。

その女性の会社の前で待ち伏せする事にした。
スーツを着て、少し歳をとってみた。多分、二十代後半に見えるだろう。

僕が会社の前に着いてから、ほんの5分ほどで、女性は出てきた。

⏰:10/11/09 13:49 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#99 [匿名]
すぐに声をかける。

「あの、失礼します!」
なるべく誠実に、なるべく真面目そうに、なるべく優しく声を発した。

「どちら様で?」
顔だけこちらに向け、警戒した声で女性は答えた。

「昨日のレストランで、あなたに逃げていただく為にお手伝いをさせていただいた…覚えてます?その上司でございます。」

お手伝いというか、無理矢理というか。まあ、何でも良い。

⏰:10/11/09 13:57 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#100 [匿名]
「あぁ!お世話になりました。どうもありがとうございます。」

言葉は感謝しているが、その表情は暗かった。

「いえ。その件なんですが、ちょっとお話をしなければならない事がありまして。」

はあ、と女性は空気の出るような返事をした。

「ここではちょっとあれなので、場所を移してもよろしいでしょうか?」

「え、えぇ大丈夫です。」

⏰:10/11/09 14:02 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#101 [匿名]
僕達は近くのカフェに入る事にした。時間帯がよかったのか、あまりコーヒーが美味しくないのか、他の客はあまりいなかった。

店員に端の席に案内してもらい、コーヒーを2つ頼んだ。

「すみません、突然で。何かお約束などはなかったですか?」

警戒心を解いてもらおうと、良い人柄を演じる。

「いえ、帰るだけでしたから大丈夫です。…で、何かあったんでしょうか?」
女性は早く話が聞きたいみたいで、そわそわしていた。

「えっとですね、まず謝らなければなりません。」

⏰:10/11/09 14:09 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#102 [匿名]
「…謝る?」

女性が聞き返した所でコーヒーが運ばれた。話は中断となり、店員が置き終わるのを待つ。

「実は、昨日犯人だと申したあの男は無実でした。本当に申し訳ございません。」

えっと短い声を出した女性は口に手に抑え、目を見開いていた。

口ではなく、目を抑えた方がいいんじゃないかと思うほど、こぼれ落ちそうだった。

⏰:10/11/09 14:14 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#103 [匿名]
「僕達が追っていた詐欺師は、あの男性と良く似た風貌で、上の調査の手違いで犯人だと間違えられたようです。」

女性は驚いた顔のまま、あまり動かない。

「真犯人は今日捕まりました。あの男性には、まだ詐欺師の容疑がかけられていた事は知りません。」

「それは、本当ですか?」
ようやく女性は言葉を発した。零れそうな目も、先程よりはましになっている。

⏰:10/11/09 14:21 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#104 [匿名]
「えぇ。全て事実です。なので今日は謝りに参りました。本当に申し訳ございませんでした。」

女性は全身の力が抜けたように、脱力していた。

「今日の朝も、あの男性を会社まで尾行していたのですが、やはり元気がなかったです。きっとあなたに振られてしまったからでしょう。死にそうな顔をしていました。」

女性ははっと顔を上げた。

「私、彼に酷い事を言ってしまった。」

目には涙が浮かんでいて、今にも零れ落ちそうだった。

⏰:10/11/09 14:30 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#105 [匿名]
五日目 最終日


毎回ながら、最終日は少しドキドキする。ワクワクと言ってもいいかもしれない。

五日間付きまとったターゲットが死ぬのか、生き続けるのか…、今日決まる。天使が勝つのか、悪魔が勝つのか。

勝てば少なからず嬉しい気持ちはある。負けてもやはり少し悔しいと思う。ターゲットの命がなくなったからではない。勝負に負けるからだ。

⏰:10/11/10 15:59 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#106 [匿名]
この日のターゲットも会社にいた。

来たよ。来なきゃいいのに。使えない奴だよな。本日いらない。邪魔。

皆が皆、そこら辺でターゲットの悪口を言っている。

遠くにいても、上から見ている僕には分かる。ターゲットに同情はしなかった。むしろ、しょうがないんじゃないか、と思ってしまう。

⏰:10/11/10 16:06 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#107 [匿名]
「あいつらさ〜陰で言ってねぇで本人に直接言ってくんねぇかなぁ!」

彼は下を睨みながら舌打ちをした。

「そしたらもっともっと追い込まれんのによぉ。嫌いだったら直接言った方がスッキリすんじゃんなぁ」

その通りだ。

「嫌いじゃないんじゃない?」

⏰:10/11/10 16:14 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#108 [匿名]
ただ皆が悪口を言うから、私も言ってみた。そんな所なんだろうな。

彼の言った通り、直接言った方がスッキリする。見ててイライラしてるだけなんて、ストレスをわざと溜めてるようにしか見えない。

本当はそこまで嫌いじゃないんだ、きっと。だから直接言わない。皆に合わせてるだけ、ストレスなんて溜まらない。

⏰:10/11/10 16:18 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#109 [我輩は匿名である]
>>1-150

⏰:10/11/10 18:31 📱:P03B 🆔:84bByedM


#110 [匿名]
>>109さん
アンカーありがとうございます!

⏰:10/11/10 18:56 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#111 [匿名]
「嫌いじゃない?んなわけねーよ!俺はああいう男は大っ嫌いなんだよ!」

悪魔の彼が嫌いなら、世の中の皆が嫌いになるのか?そんな訳がない。

彼は本当に自分中心の考え方しか出来ない。絶対に天使にはなれないだろう。

そっか、と僕はあやふやな返事をした。

⏰:10/11/10 19:03 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#112 [匿名]
「君、ちょっと話があるんだ。会議室にきてくれるか?」

昨日の、社長だか、部長だか、課長だか、偉そうな人がターゲットだけに聞こえる声で言った。

ターゲットは驚いた様子もなく、はい、と小さな声で返事をすると、席を立った。


何となく良い話ではない事が予想出来た。

⏰:10/11/10 19:08 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#113 [匿名]
「昨日の資料の事でしょうか?それでしたら本当に反省しています。申し訳ありませんでした!もう、このような事は起こさないよう努力します!」

社長だか偉い人が喋り出す前に、ターゲットは頭を下げた。

「いや、もういいんだ。」

「ありがとうございます!」

もういい、という言葉にターゲットはまた頭を下げた。また頑張ればいいと、心に決めたような顔をしている。

⏰:10/11/10 19:16 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#114 [匿名]
「いや、違うんだ。もう君は今日限りでここには来なくていい。」

え?とターゲットは頭を上げる。

「いや、今は不況だろ?こっちは人経費を払うのもやっとなんだ。君には悪いけど、君が一番成果のない人間なんだ。すまないが、そういう事だ。」


ターゲットは首になった。

ターゲットとしては突然の話だったのかもしれない。

⏰:10/11/10 19:22 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#115 [匿名]
それからターゲットは、社内に戻らず、屋上に向かっていた。

ただただ、空を眺めている。

神様でも見えるのか?もし見えたとしたら、忙しく死人に質問をしているだろう。生きてる人間の事は見ていない。

神様は人間の為にいるんじゃないのかよ?と思われたら困るだろうな。そんなのは人間が勝手に決めつけただけで、神様は一言もそんな事は言っていない。

⏰:10/11/10 19:52 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#116 [匿名]
神様なんていない。という人間もいる。

神様はいる。

ただ人間の為に何かをする事はない。

そして、神様お願い!と願う人間も自由だか、そんな願い、神様は聞いていない。

そんな暇があるなら、自分で努力したり、他の事を考えた方が、時間の無駄にならなくていいよ、と教えてあげたくなる。

⏰:10/11/10 19:55 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#117 [みか]
続きが楽しみ

更新頑張って下さい

⏰:10/11/12 23:04 📱:SH904i 🆔:s8LPXFGY


#118 [匿名]
>>117みかさん
ありがとうございます!
凄く嬉しいです!!

⏰:10/11/13 12:43 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#119 [匿名]
「なんだよアイツ!自殺してぇならとっとと飛び降りりゃいーのによぉ」

屋上に行き、ただただ空を眺めてるターゲットに嫌気がさしたのか、舌打ちをしながら彼は下に降りて行く。

僕もターゲットの所へ行きたかったが、先を越されてしまった。


彼が何をするかは分からなかったが、彼がターゲットに接触する事で、死が早まるような気がして仕方がなかった。

⏰:10/11/13 14:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#120 [匿名]
「おい、お前!こんな所で何してんだよ!!」

彼はターゲットの後ろから話しかける。話しかけるというよりは、怒鳴るが近いかもしれない。


「…君は?」

ターゲットは驚く事もなく、振り向いた。もう、何もかも諦めているような顔だ。


「てめぇには関係ねぇだろ。」

なんて無愛想なんだろう。

⏰:10/11/13 14:48 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#121 [匿名]
「あぁ、関係ないね。なら僕がここで何しようと、君にも関係ないよね。」

「お前死ぬ気か?」

「…君には関係ない。」

ターゲットは冷静だった。

「ああ、そうだな。俺には関係ねぇことだな。」

「分かってくれたら、どこかへ行ってくれないか。人が目の前で死ぬなんて嫌だろう。」

「答えてんじゃねーかよ。」

⏰:10/11/13 14:53 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#122 [匿名]
「だから…」

「うるせぇ!」

ターゲットが話そうとしたとき、また彼は怒鳴った。

「悪いけど、人が死ぬ事には慣れてる。てめぇが目の前で飛び降りた所で俺は笑うだけだ!」

「僕を止めようとしても無駄だよ?」


「は?笑わせんな。俺はてめぇみてーな奴が大嫌いなんだよ!早く死んでほしくてわざわざ此処まで来てやったんだ!」

ターゲットはふふっと下を向き笑った。

「そっか。よかった。僕は意志が弱いから、君みたいに後押しをしてくれる人がいると心強いよ。」

⏰:10/11/13 15:02 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#123 [匿名]
するとターゲットは手すりに手をかけ、ゆっくりとまたぐ。そして柵の向こう側へと出た。

今までのターゲットの性格が嘘のように、落ち着き払っている。

ターゲットは死ぬ気だ。死ぬ事すら出来ない人間だったのに、もうここまで成長してしまった。

まずい、と思ったとほぼ同時に、その気持ちはなくなった。

「待って!!」

ターゲットの自殺を止める事が出来る、唯一の女性。

⏰:10/11/14 12:04 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#124 [匿名]
間に合った。

昨日女性には、ターゲットの会社の場所を教えていた。

行くのも行かないのも、あなたの自由です、とだけ伝えて。

よく屋上にいるとわかったもんだ。僕はほっと一安心した。

「待って!!死ぬなんてやめてください!!」

女性は今にも泣き出しそうな形相で、必死に言葉を出している。

⏰:10/11/14 12:09 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#125 [匿名]
「…あ、あなたは!どうしてここに?」

ターゲットは驚いた顔をしている。

「私、あなたに謝らなければならない。ごめんなさい!あんなに酷い事を言ってしまって。ずっと後悔してたんです。あなたを信じてあげなかった自分を恨みました。」

とうとう女性は泣き出してしまった。

「あなたは悪くありません!泣かないでください。」
ターゲットは柵に手をかけ、女性を心配している。

⏰:10/11/14 12:16 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#126 [匿名]
「もう一度私とデートしていただけませんか?」

「え?」

聞き取れなかった訳ではないだろう。

「もう一度私とデートをしてください。」

女性は必死だった。
ターゲットも泣き出しそうだ。目は真っ赤で涙が溜まっている。

「こんな僕とですか?…僕、たった今首になっちゃったんです。いらない人間なんです。誰からも必要とされない、邪魔な人間なんです!こんな僕があなたとデートだなんて…」

⏰:10/11/14 12:22 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#127 [匿名]
「邪魔なんかじゃない!」
女性は叫んだ。

「邪魔なんかじゃないです。必要なんです。私には、あなたが必要なんです!あなたに合わない会社なんて辞めればいい!私が支えますから、一緒に頑張りましょう?そして私を支えてください。」

ターゲットは泣いた。子供のように声をあげて。

足が震えている。やっと死ぬ事への恐怖が、戻ってきたみたいだ。

⏰:10/11/14 12:28 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#128 [匿名]
「また俺の負けかよ。」

彼はいつの間にか、僕の隣に戻って来ていた。

「でも今回は、今まで以上に手こずったよ。彼女が来なかったら僕は負けてた。」

「来るって分かってたんだろ?」

ああ、わかっていた。必ず来ると思っていた。だけど僕は、いや、と否定しておいた。

⏰:10/11/14 12:32 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#129 [匿名]
その後、ターゲットはあの女性と結婚をした。

不景気らしいが会社も決まり、以前とは見違えるように働いている。

お腹の肉は一回り余計についたようだ。きっと女性の料理が美味しいのだろう。

幸せそうに笑っているターゲットを見ると、少しだけ嬉しくなった。


いつまでも続いて欲しいものだ。

⏰:10/11/14 12:41 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#130 [匿名]



僕は、かれこれ何百人ものターゲットを決めて暇潰しをしてきた。

初めての彼との暇潰しは、僕の圧勝だった。彼は自分が悪魔である事を忘れてしまっていたから。

⏰:10/11/14 12:46 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#131 [匿名]
一日目


「暇潰しって知ってるか?」

企んだ顔をして、彼は近寄ってきた。

暇潰し、僕も早くやりたいと思っていた。子供の天使と悪魔は、暇潰しの遊びはやってはいけない事になっている。

産まれてから何千年とたった。もう子供ではないので、暇潰しをしても何も言われなくなる。

⏰:10/11/15 10:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#132 [匿名]
「知ってるよ。ずっとやりたいと思ってた。君もだろ?」

「おう!やろうぜ。どーせ暇だしよっ。」

暇じゃなくても、彼は無理矢理暇を作って、遊ぼうとしてきただろう。


ターゲットは彼が決めた。大きな病院に入院している高校生の女の子。

髪の毛は黒く、大きな目、小さめな鼻に、薄い唇。華奢なので、どこかか弱そうに見える。

⏰:10/11/15 10:53 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#133 [匿名]
「まぁ、とりあえず行ってくるわ!」

彼は何の作戦も考えていないのに、下に降りて行った。僕には真似出来ないな、と少し感心した。

ターゲットは屋上で空を眺めていた。

「なんか見えんのか?」

何の躊躇いもなく、彼はターゲットの隣に立つと、声をかけた。

「ずっと空を見てたら、天使が見えたりしないかなーって。」

ターゲットは警戒もせず答える。

⏰:10/11/15 12:24 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#134 [匿名]
「天使じゃなくて、悪魔じゃダメなのか?」

その言葉に、ターゲットは一瞬戸惑うような顔付きになったが、すぐに緩んだ。

「悪魔は何かしてくれるの?」

「うーん、自殺を促す。」

彼は少し考えたが、あまりいい答えが出来ていないようだ。だがターゲットは笑った。

⏰:10/11/15 12:30 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#135 [匿名]
「じゃあ、悪魔に会いたいかも!天使を待つのはもう意味ないから。」

「意味ない?」

「うん、意味ないの。」

「なんで?」

「天使っているの?」

「いるよ。悪魔もいる。」

「悪魔に会いたい。」


ターゲットは僕には会いたくないらしい。隣に悪魔がいるからなのか。

⏰:10/11/15 12:39 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#136 [匿名]
それから二人は近くにあったベンチに座って、話をしていた。

天使がどーとか、悪魔は凄いとか。病院の怖い話だったり、今流行っているアイドルグループの話。

彼は何がしたいのか。ターゲットを追い詰めるなりして自殺させないと、負けてしまうというのに、楽しく話している。

⏰:10/11/15 12:51 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#137 [匿名]
「あ!やっべ、もう行かなきゃ。」

そう、彼が下に降りてから、もうすぐ二時間が経つのだ。

「あ、そっか。」

「おう、じゃあな。」

彼は立ち上がり、歩き出す。

「次はいつくるの?」

ターゲットは彼を呼び止めた。

「明日かな。」

「わかった。この時間に、私明日もここにいるから、気が向いたら来てよ!」
「おう、気が向いたらな。」

ターゲットは笑顔で手を振った。

⏰:10/11/15 19:16 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#138 [匿名]
「何で仲良くなってるの?」

二時間たっぷりと使い、彼が今日した事は、会話。時には笑い、時には真剣に、会話。

「いや…これからだよ!ったくお前はいつもせっかちなんだよ!」

彼にだけは言われたくない台詞だ。だけど僕は我慢して、作戦?とだけ聞いた。

「お、おう!当たり前だろぉが!仲良くしといて、いろいろ情報を集めてから、突き落とす!」

絶対に今考えた。僕は断言出来る。

⏰:10/11/16 00:00 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#139 [匿名]
「てかお前は俺の心配してる場合かよ!いーのかよ、行かなくて。」

彼は下を眺めながら言う。

正直僕は、初めての暇潰しだから、しっかりと作戦を考えてから行動したかった。

何も考えずむやみにターゲットに近付くのは、危険な気がしたのだ。特にこのターゲットは何らかの病気なはずで、慎重にいく必要がある人間だと思っていた。

⏰:10/11/16 00:07 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#140 [匿名]
仲良くなるのも一つの手だとは思ったが、彼に先を越されてしまった。

しかもターゲットはあんなに楽しそうに笑っていたので、僕はそれ以上にターゲットを楽しませる自信がなかったのだ。


女は難しい。
人間も、天使も、悪魔も。

⏰:10/11/16 00:11 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#141 [匿名]
二日目



結局僕は、考えても考えても、良い作戦は思い浮かばなかった。

人間は何が起きた時、死にたくないと思うのだろうか。死なない僕には検討も付かなかった。

「そろそろ時間だ。」
と彼は独り言を呟き、下に向かった。昨日と同じ時間。同じ場所。

⏰:10/11/16 00:21 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#142 [匿名]
「よお。来てやったぞ。」

彼の上から目線にも、ターゲットは苛立つ事はないようだ。

「昨日と同じ!ぴったしじゃん!」

ターゲットは嬉しそうにニコッと笑った。その笑顔を見て、心なしか彼が照れているように感じた。

ベンチに座り、昨日と同様、二人は話し出す。たいした話ではなさそうだったが、一時間位経って、彼がターゲットに質問した。

「お前、死にたいか?」

⏰:10/11/16 00:27 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#143 [匿名]
ターゲットは一瞬、何を聞かれたのか理解に苦しむ表情を見せたが、すぐに笑った。

「そんな質問、初めてされた!」

アハハと今度は声を出して笑う。

「何が可笑しいんだよ!」
彼は不機嫌になる。


「違うの。皆はさ、生きようね!って、頑張ろうね!って言うの。死、なんて口に出さないんだよ。」

「なんで?」

「リアルなんだよ、死ぬ事が。だから誰も口にしないの。皆の反応見てたらさ、嫌でも分かっちゃうんだよね。」

ターゲットの笑顔は少しずつ消えて行った。

⏰:10/11/16 00:34 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#144 [匿名]
「最初はさ、一週間ほど入院しましょう。って言われてたんだけど、気がついたらもう半年入院してるんだ。毎日のようにお母さんはお見舞いに来てくれるけど、毎日のように目を腫らしながら来るんだよー。」

ターゲットの言葉に、彼は無言で頷くだけだった。

「最近特に優しくてさ、我が儘何でも聞いてくれる。それに…」

言葉がつまった。

「私、どんどん痩せていってるんだ。最近は歩くのも辛くて、すぐに疲れちゃうの。熱も頻繁に出るし、身体中が痛くて寝れない時もある。徐々に悪くなってるのが自分でも分かるの。」

⏰:10/11/16 00:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#145 [匿名]
「でもさ、手術したら治るんだろ?」

彼はやっと口を開いた。悪魔である事を疑いたくなる、励ましの言葉。

ターゲットは彼の言葉に無言で首を振った。

「多分手術出来ないんだよ。先生とか、ナースさんとかを見てたらわかっちゃった。」

ターゲットは無理矢理笑顔を作ってみせた。

⏰:10/11/16 00:48 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#146 [匿名]
「あ!さっきの質問だけど、どーせ私はもうすぐ死ぬんだし、死ぬなら楽に死にたいな!このままだと私絶対苦しみながら死んじゃうと思うんだよねぇ。だから、死ぬほど苦しくなる前に…」

ターゲットは真っ直ぐ彼を見た。笑顔はなく、表情は無に等しい。

「死にたい。」


…死にたい。その言葉に彼はニコッと笑った。優しい笑顔ではなく、悪魔という名前にぴったりの笑顔だ。

⏰:10/11/16 00:56 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#147 [匿名]
彼はターゲットの、死にたい、という言葉を聞くと、その日はそれで帰った。

僕は彼に一歩リードされ、少しだけ焦りを感じた。


彼が僕の隣に戻ってきてからしばらくすると、ターゲットの母親らしき人が来た。

「ここにいたの?体調は大丈夫?」

母親はターゲットの後ろから声をかけた。出来るだけ明るい声で、明るい顔で言葉を発したつもりだろうが、裏目に出ている。

顔は疲れきっていて、やつれている。ターゲットの言っていた通り、目は腫れていた。

⏰:10/11/17 19:26 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#148 [匿名]
母親が来たというのに、ターゲットは空を見たまま黙っていた。

「さや!聞いてるの?」

「…ああ!お母さんいたの?」

「いたの?じゃないわよ!ぼけーっとして、何かあったの?」

ターゲットはさやという名前らしい。

「別に。」

そう言い、また空を眺め始めた娘に、可笑しな子ね、と笑いながら言う母親。

どこにでもいる親子だ。どちらかといったら、仲の良い方かもしれない。

⏰:10/11/17 19:38 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#149 [匿名]
僕は母親が一人になった時を見計らい、下に降りる事にした。

時間がかかるかな、と思ったが、チャンスはすぐに訪れた。

「ちょっと洗濯物取ってくるわね。」

そう言い、母親は病院の地下まで降りて行った。

⏰:10/11/17 19:49 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#150 [匿名]
「あの、さやちゃんのお母さんですよね?」

僕は洗濯物を取り込んでいるお母さんの後ろ姿に声をかけた。

「えぇ、あなたは?さやのお友達かしら?」

「はい!高校が一緒で。加藤と申します。」

僕は日本人にはよくある名前を言った。

「あら、お見舞い?どうもありがとう。さやなら今屋上にいるわよ。」

優しい顔で微笑んでくれたが、近くで見ると先程よりくまが目立つ。

⏰:10/11/20 14:22 📱:F06B 🆔:☆☆☆


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