天使と悪魔の暇潰し
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#270 [我輩は匿名である]
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>>201-280

⏰:11/01/24 11:20 📱:SA001 🆔:wPlWYTqY


#271 [匿名]
だがその時、ターゲットが動いた。

「もう…耐えられない。死ぬ…」

泣いているように見えたが、その目は正気を失っている。

なぜかターゲットの目の前には包丁が転がっていて、それを見つけると、スッと両手で持ち上げた。

きっと彼が用意したんだろう。すぐに死ねるように。

「やめて!!」

母親の叫ぶ声は、ターゲットには届いていない。

⏰:11/01/24 12:54 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#272 [匿名]
唇の片方だけを吊り上げて、彼が不気味に微笑む。

これでターゲットが自分自身に包丁を向けて、グサッと刺せばそれで終わってしまう。

包丁がターゲットの心臓の目の前にある。

手が震えている。

⏰:11/01/29 17:03 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#273 [匿名]
死ぬ事は怖い。

誰でもきっとそうだ。
それは今まで経験がないからなんだと思う。

死んでしまえば、こんなもんか!もっと早く死んでおけばよかった!と思ってしまうほど、呆気ない。

のかもしれない。僕は死んでないから分からないけど。

ただ神様の列に並んでいる自殺をした人は皆後悔している。

今なら何でも出来る気がする。もう一度生きたい。そう言いながら泣いたりする。

⏰:11/01/30 14:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#274 [匿名]
もう何を思っても遅いのに。だから僕は出来るだけ人間を生かしておきたい。

後悔するのが目に見えて分かるからだ。

何かに追い込まれて、冷静に物事を考えられなくなると、死ぬ事が最善策だと考えてしまう。何も解決なんてしていないのに、人間は馬鹿だ。



そう考えながら、僕はターゲットの部屋に入った。

ターゲットは自分に向かう包丁を見ていて、僕には気付かない。

彼はチラッと僕を見て、
「遅せぇぞ。もうすぐ死ぬんだから見とけよ!」
と言った。

⏰:11/01/30 14:44 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#275 [匿名]
「あなた!」

母親がようやく僕の存在に気が付いた。


「あなた!!助けて!うちの子を止めて!」

この人は何を言っているのだろう?いつもこうして生きてきたのか。

「なぜ僕が?」

僕もターゲットが死んでしまうのは避けたいが、なぜ母親は自分で止めようとしないのだろう。

なぜ必死にならない?

⏰:11/01/30 14:45 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#276 [匿名]
「あなたの友達のせいなのよ!責任取りなさいよ!!うちの子が死んだらどーしてくれんのよ!」

「僕の友達は死んだんです。責任取ってもらいたいのは僕の方だ!何でもかんでも人のせい。あなたがそんな人間だから、あなたの息子はこうなったんだ!」

僕は怒鳴った。

母親は唇を噛み締めて、僕をギッと睨み付けている。

「死んでほしくないなら、あなたが説得しろ。僕は赤の他人だ。」

⏰:11/01/30 14:46 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#277 [匿名]
母親はターゲットを見た。ターゲットは目を瞑り、震えている。

「死ぬ…死ぬ…死ぬ…」


ターゲットが包丁を振りかざした。勢いをつける。

さっきまでの震えはない。

彼はその様子を見ながら、笑っている。悪魔の笑顔はいつ見ても、不気味だ。


僕の負けか。
やっぱり母親はどうしようもない人間だった。

これもまたありかもしれない。

⏰:11/01/30 14:48 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#278 [匿名]
僕の目の前から母親がいなくなるのが分かった。勝利を諦めて、ふと視線を下に落とした瞬間だ。

「っんだよ!」

彼の声が聞こえた。
予想外の事が起き驚いているような、悔しがっているような、苛立ちを抑えられない声だった。

何となく、何が起きたか理解できた。視線をターゲットに向ける。

⏰:11/02/01 15:12 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#279 [匿名]
ターゲットは包丁を刺した。自分に向かって振りかざした包丁を真っ直ぐ胸辺り目掛けてふった。

うっという声が漏れる。
その声に気付き、ターゲットは目を開けた。ターゲットの目の前には抱きつくように、ターゲットと包丁の間に立つ母親がいる。そして、自分に向けたはずの包丁が、自分自身に刺さっていない事に気付いた。

⏰:11/02/01 15:20 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#280 [匿名]
目の前の母親の背中には、ターゲットに刺さるはずだった包丁が刺さっている。ターゲットは震え出した。

膝から崩れる様に母親が倒れた瞬間、ターゲットは悲痛な表情を浮かべ後退りした。

「うわあああ!」

彼を殺しても、あの男を殺しても動じなかったターゲットが、母親を刺したらこの有り様だ。

⏰:11/02/06 13:53 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#281 [匿名]
「…ごめんね」

倒れた母親が声を絞り出す。

「あなたは…生きてなきゃ駄目よ。何度でもやり直せるんだから…」

母親は目に涙を浮かべ、ターゲットを諭した。初めて見た、まともな母親の顔だ。

ターゲットはガタガタと震え、泣いている。

「何で…どうして…僕は…」

⏰:11/02/07 00:22 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#282 [匿名]
「悪いのは全部、お母さんなのよ。…大丈夫。…ごめんね、間違えてたみたい。お母さんがした事は、全部あなたの為にはなってなかったみたいね。」

ターゲットが膝をつき、母親の手を握る。こんなにも親子という関係は素晴らしいのに、どうして今まで上手く行かなかったのだろう。


この歪みがなくなった今、母親は死んだ。

⏰:11/02/07 00:29 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#283 [匿名]
ターゲットは暫く方針状態で、僕が声をかけても反応しなかった。一言も話さないまま僕たちの二時間は過ぎてしまい、その場を離れなければならなくなった。

この二時間が過ぎたので、これからどうなろうと僕の勝ちが決まった。

「またおめぇの勝ちかよ。気に食わねぇな!」

彼は僕より先に上に戻っていて、僕が戻るとすぐにこう言った。

⏰:11/02/07 00:35 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#284 [匿名]
「でももしかしたら今日中にターゲットは自殺するかもよ。ずっとあの調子だし。」

僕は彼の機嫌を取ろうとした訳ではなく、本当にそう思ったから言った。だけど彼は、僕が気を使ったと思ったらしい。

「もう暇潰しは終わったんだ。これからあいつがどーなろうと、俺の負けが勝ちになるわけじゃねぇんだよ。…次だな!次!」

彼はここ最近成長した。大人になった。僕はそれが少し嬉しくて笑ってしまった。

⏰:11/02/07 00:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#285 [匿名]
そしてターゲットは、次の日自首をした。

自殺をするか、もしかしたら逃げるかもしれないと考えていたので、正直嬉しかった。最後の母親の言葉が効いたのかもしれない。

僕はいつの間にか笑っていた。隣にいるターゲットの母親が、嬉しそうに泣くからだ。

⏰:11/02/07 00:48 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#286 [匿名]
>>283
×方針状態

放心状態


誤字ばかりですみません(x_x;)

⏰:11/02/08 02:05 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#287 [匿名]




今日は暇潰し最終日。
今回のターゲットは、妻子ある者を愛してしまった、愚かな女。

男の言う「愛している」という言葉を信じ、奥さんと離婚する事を願っている女。

年齢は二十代前半。相手の男は三十代半ば。

当たり前かもしれないが、男は本気ではなく、ただ若い女と体の関係を持ちたいと思っているだけの、どこにでもいる最低な男だ。

⏰:11/02/08 22:19 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#288 [匿名]
ターゲットは昨日、自殺をしようとした。その男に遊ばれていたとやっと気がつき、ショックが大きかったみたいだ。自分の命を捨てる程、あの男に魅力があるとは思えない。

ターゲットはビルの屋上にあがり、飛び降りようとした。だが、良いタイミングで僕が現れた。

「死んだらダメだ。僕は君が死んだら悲しい。」というような事を、一生懸命感情を込めて、ターゲットの目をずっと見つめながら言う。

突然現れた男にそのような事を言われたターゲットは、驚く程簡単に自殺をやめた。

⏰:11/02/11 19:40 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#289 [匿名]
「もっと早くあなたに会っていれば…」

とろーんとした目で僕を見つめるターゲットは、泣き真似みたいに涙を流した。

やっぱり人間は、簡単な理由で生き続ける事が出来る。死にたい理由が小さな事のように、生きたい理由も小さな事だ。僕からしてみたら。

彼女がいるから生きる。彼氏の為に生きる。まだ海外旅行に行ってないから、新しい靴を履きたいから。仕事がしたいから、家族が欲しいから。春が好きだから、来月好きな漫画の発売日だから、夢があるから、友達と遊ぶから。

⏰:11/02/11 19:41 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#290 [匿名]
だから生きる。
意識なんてしてなくても、人間の回りには生きる理由が沢山ある。ない人間なんて、僕は見た事がない。


今回のターゲットも、頭は悪いけど生きる理由なら死ぬ程ある。そして何故か僕は、命の恩人と言われ、ターゲットの実家に招待されてしまった。

それが今日、最終日。


もうターゲットが自殺をする事はないと断言出来る。その為にも僕は行かなくてはならない。ただ、面倒臭い。

⏰:11/02/11 19:42 📱:F06B 🆔:☆☆☆


#291 [我輩は匿名である]
>>1-100
>>100-200
>>200-300
>>300-400
>>400-500

⏰:11/02/14 01:42 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#292 [匿名]
ターゲットと駅で待ち合わせをして、家へと向かう。歩いて10分程の距離だったが、ターゲットがひたすら喋っていたので、とても長く感じた。

お父さんは普通のサラリーマンで、お母さんは専業主婦。という事だけは覚えているが、他は覚えていない。興味がない事や、自分の為にならない事は覚えない事にしている。

「ただいま!」とターゲットが元気よく玄関のドアを開けると、中から両親が出迎えてくれた。

⏰:11/02/20 14:18 📱:F06B 🆔:W7R7DE9.


#293 [匿名]
ぷくっとお腹の出た父親は眼鏡をかけていて、白髪頭を後ろに流している。たれ目がとても優しそうに見えた。母親は肩まである髪の毛、上品なワンピース、品のある笑顔で、理想の母親像だな、と思った。

どこかで見た覚えのある二人だと感じたが、それもそのはずだ。どこにでもいる幸せそうな家族だからだ。暇潰しをする時に地上に降りると、1日5組くらいは、このような夫婦とすれ違う。見覚えがあると勘違いしても無理はないだろう。

⏰:11/02/20 14:26 📱:F06B 🆔:W7R7DE9.


#294 [匿名]
「やあ!よく来てくれたね。さあ!上がって上がって!」

父親が笑顔で僕に言うと、隣にいる母親もうんうんと頷いた。

「お邪魔します」

僕も笑顔で答える。頭の中は、どんな理由をつけて早く帰ろうかと、必死に考えていた。

⏰:11/02/20 14:30 📱:F06B 🆔:W7R7DE9.


#295 [匿名]
「いやー本当に君には感謝しているよ!娘の命の恩人だからなー。さあ!沢山食べて下さい!お口には合いますか?」

お酒が進んでいる父親は赤い顔をしながら、ご機嫌な様子で笑っている。
その隣で品よく笑う母親は、父親の言葉にうんうんと頷く。

「はい、ありがとうございます。」

何故僕がここにいるのだろう、と疑問に思いながらも、精一杯笑顔を作る。

それにしても、料理は美味しい!

⏰:11/03/02 14:22 📱:F06B 🆔:Xakx.NxM


#296 [匿名]
「そうだ!お父さん、昔のアルバム見ましょうよ!」
そう言い出したのはターゲット。そういう家族の思い出話は、赤の他人の僕が帰った後にしてほしい。

「持ってくるわ!」

そんなにアルバムが見たいのか、母親はターゲットが言い終わるとほぼ同時に立ち上がり、アルバムを探しに隣の部屋へ行ってしまった。

面倒だ。
僕が興味のない家族の昔の写真を見て、どんなリアクションをとればいいのだろうか。

⏰:11/03/02 14:23 📱:F06B 🆔:Xakx.NxM


#297 [匿名]
「皆さん若いですねー!」でいいのだろうか。
「もしかしたらこれは海ですか?」そうだ、背景が海だったらこう言おう。
「可愛いですね!」ターゲットが産まれたばかりの頃の写真だったらこうだな。


「沢山ありすぎて、とりあえず5冊だけ持ってきたわよ!」

僕が言葉を必死に考えていると、母親が重たそうにアルバムを抱えて戻ってきた。

僕以外の3人はそれぞれ違うアルバムを見始めた。

⏰:11/03/02 14:25 📱:F06B 🆔:Xakx.NxM


#298 [匿名]
僕の向かいに座っている父親と母親は、お互いのアルバムを見合いながら、これがあの時だーだとか、この後転んで大泣きだったなーだとか、その頃の記憶を蘇らせている。

隣に座っているターゲットは、他のアルバムよりも少し小さめの薄いアルバムを見ていた。

「お父さんもお母さんも若ーい!」

そのアルバムを見ながら楽しそうに笑っている。どうやらターゲットが産まれる前の、父親と母親だけの写真らしい。

⏰:11/03/02 14:27 📱:F06B 🆔:Xakx.NxM


#299 [匿名]
「ねぇ、見てください!お母さんって昔は綺麗だったでしょー!お父さんは変わらないけどね!」

ターゲットが僕にも見えるように、アルバムを広げてくれた。別に見たかった訳ではないが、見ない訳にもいかずに覗き込む。

「昔はね〜お母さんも綺麗にしてたから。」
いえいえ、今も十分綺麗ですよ!と言おうとしたが、お世辞に聞こえると思ったので辞めた。

「お母さんは昔からずっと変わってない。」

ボソッと父親が言う。
そして照れ隠しのように、アルバムを直視する。

⏰:11/03/02 14:29 📱:F06B 🆔:Xakx.NxM


#300 [匿名]
やっぱり最初に、この両親に会った時に感じた違和感は、ただの思い過ごしではなかった。

父親の恥ずかしがる時の顔、そしてアルバムの写真。

何十年経っても覚えているものだ。


僕は昔この父親をターゲットにして、彼と暇潰しをした。

父親は飛び降り自殺をしようとしたが、今の母親に助けられた。

⏰:11/03/08 18:13 📱:F06B 🆔:fwOrpEHk


#301 [匿名]
親子に渡ってターゲットにしてしまうとは、偶然なのか必然なのか、人生は面白いと思ってしまう。

それから僕は適当に理由をつけて上へと帰る事に成功した。

ふてくされた彼が僕を待っていて、僕の顔を見るなり舌打ちをした。

「つまんねー。早く次のターゲット決めようぜ!」


そうだね、と適当に相槌をうって考えた。あの父親はあの時死なないでよかったと思っているに違いない。

⏰:11/03/08 18:19 📱:F06B 🆔:fwOrpEHk


#302 [匿名]
僕が暇潰しに勝たなくてはいけない理由だ。



end

⏰:11/03/08 18:20 📱:F06B 🆔:fwOrpEHk


#303 [夢。*]
とても楽しんで読ませて頂きました。 もし続編をやる機会があるのであれば、ぜひお願いいたします

⏰:11/03/08 23:29 📱:F02B 🆔:q9.btUyc


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