大量生産の屑みたいな短編集
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#103 [身分の低い男と王女の話(17)]
案の定女子はいなかった。女子がいないとまるで神様が僕に知らせてるみたいだった。先生に告白するべきだ、と。
先生はいつも通り書き物をしていた。そして顔を上げ、「こんにちは、水野くん」と言った。僕は「こんにちは、先生」と言った。
僕はベッドに座った。先生は書き物を再開した。
さあ、言うんだ僕。口に出すんだ僕! けれどなかなか言葉が出なかった。僕は迷惑がられる事を恐れていた。恐れが僕の口を閉ざしてしまった。
:11/02/20 14:32
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#104 [身分の低い男と王女の話(18)]
直接言うのは無理だ、と僕は思った。とてもじゃないけど好きですなんて言えない。でも何か言わなくてはならない。ここで想いを伝えなければ、僕はこれからも伝える事はできないだろう。そうなれば僕は一生後悔という念を背負って生きていく事になる。
「先生」と僕は言った。「なあに?」と先生は書き物をしながら言った。
「最近ファンタジー小説を読んでるんです。そのファンタジー小説なんですが、とっても悲しい話なんです。主人公は身分の低い男性で、王女に恋をしてるんです。激しい恋です。心臓を焼くような恋です。これは小説にあった表現なんですがね……」
:11/02/20 14:34
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#105 [身分の低い男と王女の話(19)]
僕は一息ついた。下を向いて話していたせいで、先生がこちらを向いている事に気が付かなかった。僕は顔を赤く染めた。
「続きを話して」
「あ、はい。えっと……それから男は耐えきれなくなり、王女に告白するんです。ほんの僅かな時間ですが、王女に会える時間があるんです。男は好きだと告げるんです。でも王女はやはり身分の違いから断るんです。こんな話なんですが、僕はこれを読んで強い衝撃を受けました。あまり本を読まなかったから、本ってこんなに素晴らしい物なんだって」
:11/02/20 14:34
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#106 [身分の低い男と王女の話(20)]
先生は少し考えてから言った。
「身分っていうのはやはり大きな障害なのよね。身分の低い男性と付き合ったら、王女の身分が危なくなってしまう。王様から『お前はもう王女じゃない』って言われるかもしれない。だから王女は断るしかないのよ。でもね、王女は嬉しかったと思うの。どんな身分であれ、人から愛の告白を受けるって嬉しいものよ。そして身分の低い男性。あっぱれよね。彼は断られる事を知ってて告白したんだから。その勇気って凄いと思う。なかなかできないと思うわ」
先生は一息ついてからまた口を開いた。
:11/02/20 14:35
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#107 [身分の低い男と王女の話(21)]
「こんな風に色々考えさせられるわよね、小説って。水野くんは良い小説を見つけたね」
「そうですね。その小説を見つけて良かった」
僕は緊張から解放されていた。僕の心には温かい気持ちがあった。
四月に離任式があった。離任式には卒業した生徒が何人か駆けつけた。中には泣いている人がいた。
山村先生はステージに上がり、生徒に感謝の言葉だとかを述べた。僕が見た山村先生の姿はそれが最期だった。
もう僕が保健室に行く事はない。心を焦がすこともない。二年生の時感じた想いは思い出となっていつまでも心に残るだろう。
:11/02/20 14:35
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#108 [異世界への行き方(1)]
◆異世界への行き方
僕は夜中、友人と二人で酒を飲んでいた。
「異世界への行き方って知ってる?」と友人は出し抜けに足首のミサンガをいじりながら言った。僕は「異世界って?」と訊き返した。
「よくわからないんだけど、行ってみたらわかるらしいんだ。『ああ、ここは異世界だ』っていう風に」
「へえ。それで行き方を知ってるの?」
「知ってるよ。聞きたい?」
「是非」
すると友人は頷き、改まった表情をして言った。
:11/02/20 15:01
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#109 [異世界への行き方(2)]
「まず十階以上あるマンションを探すんだ。見つけたら一人でエレベーターに乗り、四階、二階、六階、二階、十階と移動するんだ。このとき、誰かが乗ってきたら成功しない。もし乗ってきたらもう一回やり直しだ。誰も乗ることなく十階についたら、降りずに五階を押す。五階に着いたら女の人が乗ってくる。その人には話しかけちゃいけない。というか、その人が乗ってきたら声を出しちゃいけない。女の人が乗ってきたら一階を押す。押したらエレベーターは一階に降りず、十階に上がっていく。十階についたらそこはもう異世界ってわけさ」
「よくわからないな。その女の人は何なんだろう?」
:11/02/20 15:01
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#110 [異世界への行き方(3)]
「わからない。多分異世界の住人かなんかじゃない?」
「なるほど」
友人はタバコを取り出し、ライターで火をつけた。煙をうまそうに吸い、上に吐き出す。そして僕の顔をじっと見る。
「やってみたいとは思わない?」
「別に。面倒じゃないか」
「もしかしてビビってる?」
「ビビってなんかない」
「じゃあやろうよ。このマンションって十二階建てだろう?」
僕は階数を思い出してみた。ああ、十二階だ。僕は頷く。
「なあ、やろうぜ。どうせ異世界なんて行けやしないんだから」
「わかったよ」
:11/02/20 15:01
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#111 [異世界への行き方(4)]
僕は渋々了承した。本当に面倒だったんだ。でもそこまで言うならしょうがない、付き合ってやろう。
僕たちは部屋を出た。外は闇が広がっていた。腕時計に目を遣る。時刻は二時五分だった。
「どっちが先にやるかジャンケンをして決めよう」と友人は言った。「オーケー」と僕は言った。
「最初はグー、ジャンケンポン」と二人で言う。僕はパーを出し、友人はグーを出した。
「チェッ、俺が先か」と友人は不服そうに言った。しょうがないだろう、ジャンケンで負けたのだから。
僕たちはエレベーターがある所まで歩いた。
:11/02/20 15:02
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#112 [異世界への行き方(5)]
友人はエレベーターに乗った。へらへらと笑っていた。
友人を乗せたエレベーターが四階に向かう。十一階にいた僕は、エレベーターの上に設置された階数表示を見ていた。これを見ていれば友人が何階にいるのかがわかる。
エレベーターは二階行き、そして六階、二階、十階と移動した。夜中だし誰もエレベーターには乗らなかったのだろう。エレベーターは降下し五階で止まった。奇妙な世界に入っていなければエレベーターは一階に向かう筈だった。しかし、降下すると思われたエレベーターはゆっくり上昇した。そしてエレベーターは十階で止まった。そのときだった。
:11/02/20 15:03
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