大量生産の屑みたいな短編集
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#11 [もし傘を貸さなかったら(4)]
「こっちの台詞ですよ」
「そうでしたね」
そして私たちは別れた。私は鞄を傘代わりにしてシャワーの中を駆け抜けた。
変な人だと思われただろうか? まあそうだと思われても良い。彼女と少しでも話せて良かった。傘一本で話すことができたのだ。安い物だ。
:11/02/01 22:58
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#12 [もし傘を貸さなかったら(5)]
一週間くらいしてまた駅で彼女に会った。彼女から寄ってきてお礼を言った。そして傘を返してくれた。
「そこでコーヒーでも飲みませんか? お礼をさせてください」
「お礼なんていいですよ。私が勝手にしたことなので」
「じゃあ話だけでもしませんか?」
:11/02/01 22:58
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#13 [もし傘を貸さなかったら(6)]
私は頷いた。そして喫茶店に入り、コーヒーを飲みながらちょっとした話をした。そして私たちは別れた。
まさかまた彼女と話せるなんて思いもしなかった。実に良い時間だった。魅力的な女性と飲むコーヒーは格段にうまい。
私は思った。やはり傘を貸して良かったな、と。そして思った。あの場面でもし傘を貸さなかったら今の私は居ないんだな、と。
:11/02/01 22:58
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#14 [最低最悪のトンネル(1)]
◆最低最悪のトンネル
2012年世界は終末を迎えるらしい。そんな都市伝説を耳にした。結構。終わってくれ。あらゆる生命を死滅させ、不公平なこの世を木っ端微塵にしてくれ。欲を言うならば今そうしてほしい。
何故か? この世界から消え去りたいからだよ。わざわざ自殺しないで済む。不公平な世の中なんだ。最後くらい公平に死のうじゃないか。そうなったら素敵だと僕は思う。世界は最後に公平になるんだ。金持ちも貧乏も、顔の整った人も不細工な人も、背が高い人も低い人も、大人も子供も、女も男も、みんないっぺんに死ぬ。
:11/02/01 23:02
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#15 [最低最悪のトンネル(2)]
平等に苦しみながら(苦しむ暇なんてないかもしれない)死ぬ。
強い風が吹いた。どうせならもっと強力な突風が吹けば良いのに。それも後ろから。そうすれば僕は覚悟を決める間もなくこの屋上から飛び降りることができた。
怖い。地面に身体が叩きつけられる瞬間、想像を絶する痛みが身体の中を駆け巡るんだろうな。そう思うとあと一歩が出ない。怖い。
僕は気持ちを落ち着かせるため、一旦腰を下ろした。
:11/02/01 23:02
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#16 [最低最悪のトンネル(3)]
死ねば地獄から解放される。痛みはひどくキツいだろうが一瞬だ。このままちびちびと痛みを加えられるより良いだろ? それに精神的ダメージからも解放される。
死ねば楽になる!
僕は立ち上がった。拳を強く握る。息を飲む。いけるか? いける! 飛べる!
「止せよ」
なんだ? 後ろから声がした。僕は振り返る。
そこに居たのは、人間ではなかった。人の形はしていた。それでも人間じゃなかった。全身真っ黒で目や口のない不気味な生き物……。黒い物体……。僕の足から伸びたそれはそうだ、影だ。
:11/02/01 23:03
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#17 [最低最悪のトンネル(4)]
「お前に死なれちゃあ、俺が困る」と影は言った。「俺はこんな所で諦めたくないね。まだまだ人生は長いんだ。いじめられたくらいで死んでたまるか」
僕は苛ついた。『いじめられたくらいで』だと? お前は僕の影なんだろう? なら僕の苦しみを間近で見てきた筈だ。それなのに『いじめられたくらいで』なんて言うのか?
影は笑った。笑ったように見えた。
「間近で見てきたからわかるんだ。俺たちはまだ生きていける」
「いや無理だ。耐えられない」
「全く。情けないぜ、俺よ」
:11/02/01 23:03
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#18 [最低最悪のトンネル(5)]
「ならどうしたらいい? 教えてくれよ」
「最低最悪のトンネルを抜けるんだ」
最低最悪のトンネル? なんだそれは。
影は続けた。
「今、俺はトンネルにいる。いや君と呼ぼう。君はトンネルにいる。最低最悪のトンネルだ。じめじめしていて臭くて暗い。先が見えない。いつまで続くかわからない。でも歩き続けるんだ。靴がボロボロになっても、足が吊っても、ガラスの破片で足の裏を切ってもだ。歩くのを止めたら最低最悪のトンネルに留まることになる。最低最悪のまま終わることになる」
:11/02/01 23:04
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#19 [最低最悪のトンネル(6)]
「いいかい? 出口のないトンネルなんて無いんだ。そんなトンネルは許されない。絶対出口はある。そして出口の先が楽園じゃなくても、君は幸福を感じる筈だ。だって最低最悪のトンネルを抜けて来たんだもんな。これ以上最低最悪の所なんてない。そうだろ? 悪いことは沢山あるけど、これよりひどいことなんてないんだ」
:11/02/01 23:04
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#20 [最低最悪のトンネル(7)]
「それにさ、足を進めれば良いことにだって巡り会えるんだぜ? たとえそれが小さなことでも、死んでしまったら味わえない。どんな小さなことでも味わえないんだ。そうだろ? 歩き続けようぜ。
そんでさ、俺を明かりのある所へ連れて行ってくれよ。影は暗い所にいちゃあ駄目なんだ。闇と同化しちまう」
:11/02/01 23:05
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