*トワイライト・ゾーン*
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#101 [スピーディー]
トニ―はナイフをシャツのポケットにもどすと、長身の痩せたからだを、まるで重量がないかのように軽々と伸ばして立ちあがった。

⏰:11/02/22 13:24 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#102 [スピーディー]
「つぎからつぎに、いろんなところが具合悪くなったりしてな」

言葉を途中で切って、ユ―タの顔をつくづくと見た。

⏰:11/02/22 13:28 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#103 [スピーディー]
「どうやら調子があんまり良くなってないみてェだな。

風来ユ―タはは心配事の山をかかえてるってところかい?」

「ええ、そんなところ」

ユ―タは言いかけたが、どう説明したらいいのかわからなくなった。

⏰:11/02/22 13:30 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#104 [スピーディー]
彼はどうしていいかわからず、ただ目の前の長身の黒人をみつめた。

トニ―は両手をポケットに深くつっこみ、ふといグレイの眉と眉の間に、縦に深い皺を刻んでいる。

⏰:11/02/22 13:32 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#105 [スピーディー]
その目はほとんど色がないくらい薄く、ユ―タの目をひたとみつめた―

―すると、ユ―タはまた、急に気分が軽くなった。

⏰:11/02/22 13:35 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#106 [スピーディー]
なぜかはわからないが、トニ―は感情をじかに交流させることができるらしく、二人はつい1週間ほど前に知りあったばかりではなくて、何年来もの友だちであるかのような気分にさせられるのだった。

⏰:11/02/22 13:37 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#107 [スピーディー]
「さて、ひとまず仕事はこんなもんでいいだろう」

トニ―は少し離れた建物をちらりと見た。

「これ以上だとやりすぎだな。

わしのオフィスを見せたことがあったかな?」

ユ―タは首を横にふった。

⏰:11/02/22 13:40 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#108 [スピーディー]
「ちょうど一息入れるところだ。 坊主、いいときに来たな」

そして長い脚を桟橋を歩きだした。

そのあとからユ―タは小走りについていく。

⏰:11/02/22 13:43 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#109 [スピーディー]
桟橋の踏み段をおりて、ちょぼちょぼと雑草の生えた茶色の固い地面を、遊園地のむこう端にある建物のほうへ歩いていきながら、トニ―が急に歌いだしたので、ユ―タはびっくりした。

⏰:11/02/22 13:45 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#110 [スピーディー]
風来ユ―タ、風来坊
遠くの郷から旅をして
遠くの郷へと帰ってゆく

⏰:11/02/22 13:48 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#111 [スピーディー]
それは正確には歌というより、いわば歌と語りとの中間のようだった。

たとえ歌詞がなくても、トニ―のどっしりした、しわがれ声を聴いているだけでも、いい気持にさせられた。

⏰:11/02/22 13:50 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#112 [スピーディー]
遠い道を旅ゆく少年よ
帰りの道はなお遠い

⏰:11/02/22 13:51 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#113 [スピーディー]
トニ―は肩越しに、きらきら光る目をユ―タのほうに向けた。

「どうして"風来ユ―タ"なんですか? 」

と、ユ―タは尋ねた。

「ぼくが日本からやってきたから?」

⏰:11/02/22 13:53 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#114 [スピーディー]
遠い日本から遙々と
来たはいいが、また帰る

⏰:11/02/22 13:55 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#115 [スピーディー]
トニ―の彫刻刀できざんだような顔に、逡巡にも似た表情がうかんだ。

⏰:11/02/22 13:56 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#116 [スピーディー]
遙々きたと、少年はいう
すぐまた帰るとも知らず……

⏰:11/02/22 13:57 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#117 [スピーディー]
「え?帰るって」

ユ―タは思わず言った。
トニ―がこんどは、即興調の歌なんかではなく、普通の声で答えてくれたので、ユ―タは安堵した。

⏰:11/02/22 14:00 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#118 [スピーディー]
「前にわしと会ったことがあるのを、憶ていないだろうな、ユ―タ。 そうなんだろ?」

「前にあったことが? どこで?」

「東京―あそこで会ってると思うがな。 ほんのちらりとだから、憶えてないのは無理ないがね。

あれは…え―と…4年、いや5年前かな? 」

⏰:11/02/22 14:03 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#119 [スピーディー]
ユ―タはすっかり面喰らってしまった。

…だとすると、7歳のときだ。

「さあ、わしのオフィスへ行こう」

⏰:11/02/22 14:04 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#120 [スピーディー]
ユ―タはトニ―のあとを追って、遊園地のむこう端に針金の柵を背にして建っている、赤ペンキ塗りの木造小屋にむかって歩きだした。

⏰:11/02/22 14:08 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#121 [スピーディー]
どう考えても、東京でトニ―に会ったことなどあるはすがなかった…

…だが、そのかわりに、あの頃のべつの記憶がもどってきた。

⏰:11/02/22 14:10 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#122 [スピーディー]
ユ―タが6歳のときのある日の午後の情景が、そのとき感じたままに蘇ってきたのだ―

あのときユ―タは、父の事務所の長椅子のうしろで、玩具のタクシーで遊んでいた…

そして父とナオト叔父さんが、白昼夢の世界のことを話していたのだ。

⏰:11/02/22 14:12 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#123 [スピーディー]
『こっちの世界の物理学にあたりのが、むこうでは魔術だというわけだな?
科学のかわりに魔術を用いる農業王国か。 しかしだな、もしもそこに電力を導入したら、どういうことになるだろう?

むこうのやつらに近代兵器を渡してやったら? 考えてみたことはあるかい?』

『ちょっと待てよ、ナオトくん、きみがまだ考えてもいないようないろんなことを、私はすでに考えてる…』

⏰:11/02/22 14:17 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#124 [スピーディー]
父の声が現実に聞こえてくるような気がした。

ユ―タはふたたび足を速めた。

トニ―はすでに赤い小屋のドアを開け、そこによりかかって、微笑をうかべていた。

⏰:11/02/22 14:19 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#125 [スピーディー]
「胸ん中に何かがいるんだな、風来坊。 それじゃひとつ、この重役室に入って、とっくり聴かせてもらおうかい」

⏰:11/02/22 14:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#126 [スピーディー]
彼の笑いがもっと大きく広がっていたら、ユ―タは身をひるがえして逃げだしたかもしれなかった。

だがトニ―は口ではからかうように言いながらも、全身で温かく迎え入れる姿勢を見せていた。

それでユ―タは彼のそばを通って、小屋の中にはいっていった。

⏰:11/02/22 14:22 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#127 [スピーディー]
トニ―のオフィスは狭い板張りの部屋で、外部とおなじく赤く塗られ、机も電話もなかった。

⏰:11/02/23 23:05 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#128 [スピーディー]
ユ―タは壁にテ―プで止められてある写真を見ていた。

写真は1枚をのぞいてすべて、男性雑誌から切り抜いたヌ―ドばかりだった。

⏰:11/02/23 23:08 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#129 [スピーディー]
トニ―・パ―カ―がそばに立ってじっとこちらを凝視しているのを、ユ―タは意識していた。

それから、ヌ―ド写真の中央に貼ってある1枚の風景写真に目が移り、その刹那、ユ―タは息が止まったかと思った。

⏰:11/02/23 23:11 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#130 [スピーディー]
ひどく鮮やかな緑の丈高い草のはえた平野が、とおくの低い山並までずっと続いている。

⏰:11/02/23 23:14 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#131 [スピーディー]
その草原と山脈の上には、透きとおるほど澄みわたった空がひろがっていた。

ユ―タはこの風景の新鮮な香りが現実に匂ってくるような気がした。

⏰:11/02/23 23:16 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#132 [スピーディー]
彼はこの写真の場所を知っていた。

実際には行ったことはなかったが、知っていた。
それはあの白昼夢で見る場所のひとつだったのだ。

⏰:11/02/23 23:18 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#133 [スピーディー]
「ちょっと見惚れるだろ?」
と、トニ―に言われて、ユ―タは自分がどこに立っているか思い出した。
欧亜混血の女がカメラに背を向け、ハ―ト型のお尻をつぎだして、肩ごしにこちらに微笑みかけている。

⏰:11/02/23 23:34 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#134 [スピーディー]
ほんとにそうだ、とユ―タは思った。

「その風景写真の1枚はわしが壁に貼ったのさ。

ほかの女の子たちのは、わしがここにくる前から貼ってあったんだが、剥がしてしまう気がしなくてな。

わしが旅をしていたころの昔を思い出させてくれるんでな」

⏰:11/02/23 23:37 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#135 [スピーディー]
ユ―タは驚いてトニ―を見あげた。

すると老黒人は、片目をつぶってみせた。

⏰:11/02/23 23:38 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#136 [スピーディー]
「あの場所をしってるんですか?」

ユ―タは訊いた。

「つまり、あれがどこかってことを?」

⏰:11/02/23 23:39 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#137 [スピーディー]
「知ってるかもしれんし、知らんかもしれん。

わしがそう思ってるだけかもな。 ま、座んなよ、風来ユ―タ。

その安楽椅子に掛けな。」

⏰:11/02/23 23:41 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#138 [スピーディー]
「あれはアフリカ―ケニアのどこだったかな」

ユ―タは椅子の向きを変えて、その白昼夢の場所の写真が見えるようにした。

「あれがアフリカ。?」

「いや、もっと近いところかもな。 だれかさんが、行きたいと心からそう思ったときは、いつでも行けるような場所とか、な」

⏰:11/02/23 23:45 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#139 [スピーディー]
ユ―タはふいに、さっきから自分が震えていることに気がついた。

両の拳をしっかりと握りしめると、震えが胃袋のほうへと移動していくのが感じられる。

⏰:11/02/23 23:47 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#140 [スピーディー]
自分でも白昼夢の場所へ行ってみたいと思うかどうか確信がもてなかったが、彼は椅子に腰をおろしたトニ―のほうを見て、尋ねた。

⏰:11/02/23 23:49 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#141 [スピーディー]
「じゃ、アフリカじゃないんですね?」

「さあ、どうだかな。 そうだともいえる。

ただ、わしは自分で名前をつけてんのさ、

"テリトリー" ってな 」

⏰:11/02/23 23:51 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#142 [スピーディー]
ユ―タは写真に目をもどした。

草のなびく広びろとした平原、茶色の低い山並。
"テリトリー"

そうだ、それに違いない。

⏰:11/02/23 23:53 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#143 [スピーディー]
「"テリトリー"か」

ユ―タはその名をゆっくりと味わうように口にした。

「そこの空気は、お金持の地下倉に眠っている極上のワインみてェだ。

雨もしずか―に降る。

それが" テリトリー "さ」

⏰:11/02/23 23:56 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#144 [スピーディー]
「行ったことがあるんですか」

ユ―タはなんとしてもその答えを聞きたいと思った。

だが、トニ―はそれには答えなかった。

⏰:11/02/23 23:58 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#145 [スピーディー]
トニ―は微笑した

「じつは、わしはこのアメリカから外に出たことないんだよ、風来ユ―タ。
戦争中もな。」

⏰:11/02/24 00:01 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#146 [スピーディー]
「だったら、どうしてその……テリトリーのことを知ってるんです?」

テリトリーという名が、少しずつユ―タの口になじんできた。

⏰:11/02/24 00:04 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#147 [スピーディー]
「わしみたいなものは、いろんな話を耳にするのさ。

首が2つあるオウムの話とか、翼をもっていてそれで飛ぶことのできる人間とか、狼に変身する人とか、女王の話とか。」

⏰:11/02/24 00:08 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#148 [スピーディー]
天使と狼男

「狼男の話なら、ぼくも聞いたことありますよ」

ユ―タは言った。

「マンガにだってあります。 でも、あんなものは作り話だから」

⏰:11/02/24 00:11 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#149 [スピーディー]
「そうかもしれん。

けど、ある人がハツカダイコンを畑から引っこ抜くと、半マイルも離れたところにいる人が、その匂いを嗅ぐことができる、なんて話もある―

空気がきれいで澄んでるからさ 」

⏰:11/02/24 00:13 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#150 [スピーディー]
「でも、天使は…」

「翼をもった人間さ」

「じゃ女王って…」

「病気の女王な 」

⏰:11/02/24 00:16 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#151 [スピーディー]
「病気の女王って」

ユ―タは笑いとばすつもりで、そう言った―

―(そんなのはどうせ、作り話じゃないか )。

ところがそれを言ったとたんに、ドキリとした。
あの夢の中の出来事、おまえのママは、もうすぐ死ぬんだぞ、ユ―タ

と言うのが耳に蘇ってきたからだった。

⏰:11/02/24 00:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#152 [スピーディー]
B級映画の女王 " 海堂 ナオコ "

「そうさ」

トニ―の静かな声が言った。

⏰:11/02/24 00:22 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#153 [スピーディー]
「心配事はどこにもあるのさ。 病気の女王…もうすぐ死ぬかもしれん。

そしてみんなは、女王を救ってくれる者が現れるのを、ただ待ってるのさ」
ユ―タはぽかんと口を開けて、トニ―の顔をみつめた。

⏰:11/02/24 00:24 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#154 [スピーディー]
なんだか老黒人に胃のあたりを蹴とばされたような気分だった。

女王を救う?…いや母を救うって??

ユ―タは狼狽えた―

⏰:11/02/24 00:26 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#155 [スピーディー]
―どうすれば救うことができるの?

これはもしかしたら、母がいま現に、ホテルの部屋で弱って死にかけている、という謎なのかもしれない。

⏰:11/02/24 00:28 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#156 [スピーディー]
「おまえさんには、やらなければならんことがあるんだ、ユ―タ」

トニ―が言った。

「ぜったいに逃れることはできないのさ。そうじゃないってことを願うけどな」

⏰:11/02/24 00:30 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#157 [スピーディー]
「なんの話かわかりません」

「その時がきたようだな」
と、トニ―が言った。

「わしの言ってることはわかるはずだ、自分ではわからないと思ってても、ほんとうはちゃんとわかってんだよな。

ようくわかってるのさ」

⏰:11/02/24 00:32 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#158 [スピーディー]
トニ―は床板の間にできた隙間から、壜(びん)を引っぱり出した。

壜の色はダ―クグリーンで、中に入っている液体はまっ黒に見えた。

⏰:11/02/24 00:34 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#159 [スピーディー]
「こいつを飲むといいぜ、ユ―タ。

ちょっとばかし味わえば、新しい場所に行けて、わしがいまさっき言った、おまえさんのやらなければならんことの取っかかりが見つけられるのさ 」

⏰:11/02/24 00:36 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#160 [スピーディー]
「ぼく、帰らなければ」

ユ―タはだしぬけにそう言った。

急いでホテルへもどらなければならない、と思ったのだ。

⏰:11/02/24 00:37 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#161 [スピーディー]
老黒人は驚きの色を抑えて、壜を床板の隙間にもどした。

⏰:11/02/24 00:38 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#162 [スピーディー]
ユ―タはすでに立ちあがっていた。

「心配なんです」

「お袋さんのことかい?」

ユ―タはうなずいて、開いているドアのほうへ後退りした。

⏰:11/02/24 00:40 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#163 [スピーディー]
「それじゃ、気持ちを落着けて、お袋さんが無事だってことを確かめてきたほうがいいな。

またいつでももどっといで、風来ユ―タ 」

「うん」

⏰:11/02/24 00:42 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#164 [スピーディー]
少年は表に走り出る前に、ちょっとだけためらった。

「ぼく……ぼくたちが前に会ったことがあるのを、覚えているような気がします。」

「いや、いや、わしの頭がどうかしてたんだろ」

⏰:11/02/24 00:48 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#165 [スピーディー]
トニ―はかぶりを振って、両手を目の前でふりうごかした。

「あれはまちがいで、先週会ったのが初めてだったんだろ。

さあ、お袋さんとこへ行って無事な姿を見届けてきな」

⏰:11/02/24 00:50 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#166 [スピーディー]
ユ―タは小屋をとび出すと、棒漠とした陽光の中を、表の通りへつづいている大きなア―チ門のほうへ走った。

⏰:11/02/24 00:52 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#167 [スピーディー]
駆けるユ―タのナイキのスニーカーがぱっぱっと埃を蹴あげた。

よりいっそう速く走るために全身の筋肉をフルに活動させ、ア―チをくぐり抜けるころには、ほとんど宙を飛んでいるような感じさえした。

⏰:11/02/24 00:54 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#168 [スピーディー]
5年前、大阪

ユ―タが7歳のころ、あのとき友だちの家へ行く途中だったのか、いまではもう覚えていない。

とにかく、急ぎのお使いなんかじゃなかったことは確かだ。

⏰:11/02/24 15:04 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#169 [スピーディー]
なにかというと父のことを思い出していた期間を、すぎたばかりの頃だったと思う―

海堂 ジュンノスケが狩猟中の事故で亡くなって、なんの心の準備もない少年の身に、父の死という現実をいきなり叩きつけてきた日から、もう何ヵ月もすぎていた。

⏰:11/02/24 15:08 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#170 [スピーディー]
ユ―タは7歳だったが早くも子供時代の一部分が失われてしまったのを感じ、6歳までの自分がいかにも無邪気で、なんの苦労もなかったとも思われるとともに、母の力を信頼して生きていくことを学んでいた。

⏰:11/02/24 15:15 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#171 [スピーディー]
得体のしれない恐怖が、隅の暗がりとか、戸の半開きになったクロ―ゼットとか、人のいない部屋にひそんでいるように思えた時代は終わったのだった。

⏰:11/02/24 15:17 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#172 [スピーディー]
その束の間の平和が、おなじ年の夏にぶちこわされてしまった。

それ以来ユ―タは、半年ほどの間、夜は灯りをつけて眠るようになり、眠っても夢にうなされる日がつづいた。

⏰:11/02/24 15:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#173 [スピーディー]
大阪の祖母の家へ遊びにきていたユ―タは、祖母の家から少し離れた場所の公園で遊んでいた。

⏰:11/02/24 15:22 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#174 [スピーディー]
帰ろう公園の出入口を出たところに、一台のベンツが道を横切ってきて停まった。

ハンドルを握っていた男が窓ガラスを下げて、眼鏡ごしにユ―タに笑いかけた。

⏰:11/02/24 15:27 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#175 [スピーディー]
盲人が掛けるような、レンズがまんまるで、ほとんど黒にちかい眼鏡だった。

白いス―ツを着ていた。

⏰:11/02/24 15:28 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#176 [スピーディー]
助手席に乗っていた男は、ハット帽をかぶっていてよく見えなかった。

⏰:11/02/24 15:29 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#177 [スピーディー]
眼鏡の男が言った。

「坊や、このあたりでコ―ヒ―がうまいカフェに行く道を知ってるかい?」

彼は通りの先をまっすぐ指差してみせた。

⏰:11/02/24 15:32 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#178 [スピーディー]
おいしいかどうかは別として、カフェはすぐこの先にあり、父がそこのカフェで朝食会議をするときなど、利用していたことを知っていた。

というか、そこしか知らなかった。

⏰:11/02/24 15:34 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#179 [スピーディー]
「まっすぐかい?」

そう聞く眼鏡の男の、横に乗っている帽子の男は微笑していた。

ユ―タはうなずいた。

⏰:11/02/24 15:35 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#180 [スピーディー]
「きみは賢い坊やだな」

と、男が言うと、もう一人のほうが今度はくすくす笑った。

「有難う、じゃあきみに何かお礼をしたいな」

と、眼鏡の男。

⏰:11/02/24 15:38 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#181 [スピーディー]
「キャンディーは好きかい?」

握り拳を窓から突きだして、開いてみせた。

「そら、きみにあげるよ」

⏰:11/02/24 15:39 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#182 [スピーディー]
ユ―タはおずおずと前に進み出た。

進みながらも、この知らない男たちとキャンディーに近寄るな、という内心の心を聞いていた。

⏰:11/02/24 15:40 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#183 [スピーディー]
だが相手は車の中なのだ。

もし何かしようとしても、男がドアを開けるすきに、ユ―タは逃げ出す自信があった。

だいいち、せっかくくれるというものを貰わないのは、失礼だろう。

⏰:11/02/24 15:42 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#184 [スピーディー]
ユ―タはさらに一歩近づいた。

男の目がブルーで、笑顔と同じようにぎらついているのを見た。

本能的に、さしのべた手をおろして、逃げたほうがいい、という気がした。

⏰:11/02/24 15:43 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#185 [スピーディー]
左手がキャンディーのそばまで行って、指先がかすかに触れた。

とたんに、男の手がユ―タの手首をがっちりと掴み、助手席の帽子の男が声をたてて笑いだした。

⏰:11/02/24 15:45 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#186 [スピーディー]
ユ―タはびっくりして、固まった。

助手席の男の目が黄色に変化していた。

―すくなくとも、そんなふうに見えた。

⏰:11/02/24 15:47 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#187 [スピーディー]
助手席の男が、むこう側のドアを開けて、車の後ろをまわってこようとしている。

「いやだ! 助けて!!」

眼鏡の男が窓から引きずりこもうとする。

⏰:11/02/24 15:50 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#188 [スピーディー]
ユ―タはなおも叫びながら抵抗したが、男はがっちりとユ―タの体をつかまえて放さなかった。

⏰:11/02/24 15:51 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#189 [スピーディー]
帽子の男が後ろからユ―タの腰をもち、中に押し込もうとした。

ユ―タはその手を掴んで引きはがそうとするが、自分の指がつかんだものが人間の皮膚ではないことに気づいて、ゾッとした。

⏰:11/02/24 15:54 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#190 [スピーディー]
ユ―タはまた悲鳴をあげた。

そのとき、通りの先から怒鳴り声がした。

「おい、その子に何をしてんだ! あんたたち!

その子を放せったら!」

⏰:11/02/24 15:56 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#191 [スピーディー]
ユ―タは勇気を得て、男の腕の中で、いっそう激しく暴れた。

向こうから、背の高い痩せた黒人が、まだ怒鳴りながら駆けつけてくる。

⏰:11/02/24 15:57 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#192 [スピーディー]
周りの見物人が増えてきたのを見て、男はユ―タを放して歩道に転倒させると、車に戻り、アクセルに足を掛けた。

⏰:11/02/24 16:00 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#193 [スピーディー]
車はくるりと向きを変えて、タイヤの軋み音をたてながら走り去っていった。

⏰:11/02/24 16:02 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#194 [スピーディー]
ユ―タは歩道から立ちあがった。

そばに寄ってきた近所の人たちの心配をよそに、ユ―タは訊いた。

「黒人の 怒鳴ってた人は?」

通りには、黒人はもういなかった。

⏰:11/02/24 16:09 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#195 [スピーディー]
あのとき怒鳴りながら駆けてきた黒人が、トニ―・パ―カ―だったのだ。
トニ―はあのとき、ユ―タを救ってくれたのだった。

⏰:11/02/24 16:11 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#196 [スピーディー]
母のもとへ駆けるユ―タはいまそのことに気がついた。

そして、いっそう懸命に、ホテルに向かって走りつづけた。

⏰:11/02/24 16:12 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#197 [スピーディー]
翌朝、

「朝ごはん、食べたの?」

母が口から煙草のけむりを吐き出すのといっしょに訊いた。

⏰:11/02/24 16:13 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#198 [スピーディー]
スカーフをタ―バンみたいに頭にかぶっている。
そんなふうにして髪を隠すと、母の顔は骨ばっていて、病人じみて見える。

母はドレッサーの上の灰皿で煙草をもみ消した。

⏰:11/02/24 16:15 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#199 [スピーディー]
「あ、うん、いや」

ユ―タは母の寝室に入っていきながら生返事をした。

「どっちかはっきり言いなさい」

⏰:11/02/24 16:16 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#200 [スピーディー]
鏡のほうに向き直って言った。

「そういう曖昧なお返事は大嫌いよ」

化粧をしている、鏡にうつった手も手首も、ひどく痩せ細って見えた。

⏰:11/02/24 16:18 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#201 [スピーディー]
「食べてない」

「じゃあ、ちょっと待ってなさい。

ママのお化粧がすんで美人になりしだい、何か食べさせてあげるわ。」

「うん」

とユ―タ

⏰:11/02/24 16:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


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