2年A組
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#201 [我輩は匿名である]
「彩ちゃーん!皐ちゃーん!」

今度は美穂が教室にやってくる。

すると、ちょうど同じタイミングで入ってきた忍とぶつかってしまった。

「あっ、ごめんなさい!」

美穂はそれだけ言って、小走りで彩たちの所へ走ってくる。

「久しぶり!元気だった?」

「元気だったよ!美穂は!?」

「私もー!」

仲良く抱き着いている2人を見て、彩はほっとしたように笑う。

⏰:11/11/26 21:05 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#202 [我輩は匿名である]
「相変わらず大きいほくろだねぇ♪」

「うるさいな!」

抱き着いた拍子に目に映ったのか、皐の首元のほくろを見て美穂が笑う。

「…彩ちゃん」

美穂は、今度は彩の方を向いて小さく笑う。

「…電話で聞いたよ、春香ちゃんの事。…気を落とさないで」

美穂に言われ、彩も同じように笑って頷いた。

⏰:11/11/26 21:05 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#203 [我輩は匿名である]
「それにしてもあの陰キャラ、美穂にぶつかっといてダンマリかよ!」

皐はよっぽど嫌いなのか、むすっとした表情で小言を言いながら忍の背中をにらむ。

「陰キャラ?」

「そう!さっき美穂がぶつかったやつ、岡本忍っていうオタクだよ」

「ふーん」

鼻息を荒くしている皐とは反対に、美穂がどうでもよさそうに返事する。

すると、その美穂の視界が急に真っ暗になった。

「きゃあ!?」

⏰:11/11/26 21:06 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#204 [我輩は匿名である]
「よっ♪」

「寺田君!」

美穂に目隠ししていた手を離し、龍也が笑う。

「おはよー」

「何しに来たんだよ」

「いやー青山が嬉しそうに入って行ったのが見えたからさ、俺も行こうと思って」

「何その理由」

自分も嬉しそうにデレデレしている龍也を見て、皐が呆れている。

⏰:11/11/26 21:06 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#205 [我輩は匿名である]
「寺田君も、元気そうだね」

ここでは、みんな変わっていない。彩もちょっと嬉しくなって話の輪の中に入る。

「元気も何も、暇すぎてさぁ!この間も暇だったから、おっさんのとこに抗議しに行ったんだけど、『忙しい』っつって相手にしてくれなかったし」

「え、おっさんって誰?」

「知らなかったっけ?俺がぐれてた時に話聞いてくれた、刑事のおっさん。土谷っていうんだけどさ」

「土谷…」

どこかで聞いたことがあると思ったら、誠が疑われたときに南里と一緒にいたあの髭の刑事か。

⏰:11/11/26 21:06 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#206 [我輩は匿名である]
「そんなに忙しそうにしてたの?刑事さん。何かわかったのかなぁ?」

「さぁ?でも、犯人かもしれない奴がわかったから、探してるって」

「マジで!?じゃあやっと終わんの!?やったー!」

皐がガッツポーズをする。

土谷が言っているのは、1週間前に誠が南里に言った葛城の事だろうか。まぁどちらにしろ、やっと警察が力を入れて動き出したのを聞いて、彩もようやく期待が持てる気がした。

⏰:11/11/26 21:07 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#207 [我輩は匿名である]
その日は予定通り、午前中で授業が終わった。

彩はいつも通り誠と一緒に家へと帰り、皐もぶらぶらと寄り道をして帰ろうとしていた。

美穂も1人、家への道を歩く。まだ外も明るいため、特に怖いとは思わない。

それでも、やっぱり早く帰った方がいいというのは頭の中に残っていたため、近道しようと、近所の公園を横切ろうと決めた。

公園に1歩踏み入った瞬間。誰かがぽんと、美穂の肩をたたいた。

完全に気を抜いていたため、美穂の背筋が一気に凍りつく。

⏰:11/11/26 21:07 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#208 [我輩は匿名である]
「青山?」

名前を呼ぶその声に、美穂は思わず振り返る。そこにいたのは、同じく学校帰りの龍也だった。

「寺田くんかぁ…」

美穂はこれ以上ない安堵のため息をつく。

「びっくりした…」

「え!?ごめん!全くそんなつもりなかったけど!」

龍也は慌てて謝る。

「塩見と内村が、危ないからって一緒に帰ってたからさ、…よかったら、近くまで送っていこうかなぁ、と、思って」

龍也は相当照れながら、途切れ途切れに美穂に言う。

⏰:11/11/26 21:08 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#209 [我輩は匿名である]
それを聞いて、美穂の表情がパッと明るくなった。

「本当!?ありがとう!!」

美穂の嬉しそうな笑顔に、龍也も笑って、2人並んで公園に入った。

「でも、寺田くんの家ってこっちだっけ?」

「え?いや、正反対だけど」

「良かったの?なんかごめんね、ついて来てもらっちゃって」

「え!?いいよいいよ!俺が勝手について来てるだけだし!」

「…ありがとう。寺田くん、パッと見怖いけど、優しいね」

⏰:11/11/26 21:08 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#210 [我輩は匿名である]
「(…パッと見は怖いのか、俺…)」

美穂の何気ない一言に、龍也は少し肩を落とす。

そんな事に気づかず、美穂は公園内を見渡す。いつもなら親子が遊んだり、主婦同士が楽しそうに話しているはずの公園だが、事件のせいかほとんど人影がない。

「…やっぱり、寺田くんに送ってもらってて良かった」

「何で?」

「この公園、本当はもっと人がいるの。でも、事件が起こってからは、ほとんど誰もいなくて…」

「そうなんだ。言われてみたら誰もいないな」

美穂に言われ、龍也も周りを見まわす。

「…あのさぁ、これから…何日か送っていってもいい?」

⏰:11/11/26 21:09 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#211 [我輩は匿名である]
龍也が緊張した面持ちで美穂に尋ねる。美穂はきょとんとした表情で龍也を見上げる。

「…どうして?」

「どうしてって……やっぱり、心配だから…さ」

珍しく、龍也が真面目な顔で言う。それを見た美穂も、少しドキッとして視線を落とす。

「…でも…危なくない…?」

「大丈夫だよ!俺狙われてないしさ!もし出て来やがったら、俺がとっつかまえてやるよ!」

龍也が力強く宣言する姿に、美穂は笑う。

「…じゃあ…お願いしてもいい?」

「おう!まかせとけ!」

⏰:11/11/26 21:10 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#212 [我輩は匿名である]
張り切ったように、龍也が言った直後。2人の背後からパチパチと拍手が聞こえた。

2人は同時に振り返る。そこにいたのは、1人の知らない男性。

黒い短髪で、笑顔で立っている。

「いやぁ〜頼もしいなぁ。かっこいいね、お兄さん」

「え、そう…かなぁ?」

「うんうん。じゃあ」

男性はポケットに手を入れ、何かを取り出す。それを見た瞬間、2人は動きを止めた。

⏰:11/11/28 21:54 📱:PC/0 🆔:gxp/Dz5.


#213 [我輩は匿名である]
彼が手に持っているのは、折り畳みの小型ナイフ。

「僕の事“とっつかまえて”見せてよ」

男性はにっこり笑った後、それを構えて2人に向かって来た。

「青山、ごめん!」

龍也はとっさに、美穂を強く突き飛ばした。

美穂は受け身をとる暇もなく、少し離れた地面に倒れ込む。

起き上がると同時に、今度は龍也の携帯電話が飛んできた。

「それで『土谷』って刑事に電話して!さっさと逮捕しに来いって!!」

⏰:11/11/28 21:54 📱:PC/0 🆔:gxp/Dz5.


#214 [我輩は匿名である]
「でも…!」

「早く!!」

龍也は言いながら、肩にかけていた鞄を手に持つ。

美穂は戸惑いながらも、言われたとおりに震える手で電話を掛ける。

「これは面白い」

男性は笑う。まるで、この時間を楽しんでいるかのように。

あの様子では、きっと自分も殺される。そう直感した龍也は、自分から飛び込んでいく。

「何だ?今忙しいんだが」

「刑事さん!?助けて!!私も寺田くんも殺されちゃう!!」

「…何?」

⏰:11/11/28 21:56 📱:PC/0 🆔:gxp/Dz5.


#215 [我輩は匿名である]
「この野郎!!」

男性のナイフに向かって、龍也が鞄を振り回す。

男性はそのすぐ手前で足を止め、当たらないように後ずさる。

「残念だったね!バット持ってたら勝てたかもしれないのに!」

「うるせえ!誰が負けたなんて言った!?」

言い返しながら、龍也は追い払うように鞄を振り回す。

これではナイフを出せないと思ったのか、男性はしばらく鞄を目で追う。

⏰:11/11/28 21:56 📱:PC/0 🆔:gxp/Dz5.


#216 [我輩は匿名である]
そして、何度か龍也の攻撃をかわした後、ナイフを持っていない方の手を出した。目の前に来たところで、その手は鞄を掴む。

「ワンパターンだと読まれちゃうよ?」

男性の言葉にぎょっとして、龍也は素早く手を離す。

男性は邪魔だと言わんばかりに鞄を遠くに放り投げ、再びナイフを構える。

「(やべぇ…手で止めるしかない!)」

野球で鍛えた自分の反射神経を頼りに、龍也は身構える。

⏰:11/11/28 21:56 📱:PC/0 🆔:gxp/Dz5.


#217 [我輩は匿名である]
「高校生2人がナイフ男に襲われてる!!おそらく例の連続殺人だ!!」

一方、美穂から通報を受けた土谷が、警察署内で声を張り上げる。その声に、南里を含めた捜査員たちが動きを止めて土谷を見る。

「行くぞ!今度こそ捕まえる!!」

「はい!!」

全捜査員が、一斉に部屋を出ていく。

南里は土谷に駆け寄ってくる。

「“襲われてる”って…?」

⏰:11/11/28 21:57 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#218 [我輩は匿名である]
「青山美穂と寺田龍也が帰ってたところに、奴が出てきたってよ!今龍也が止めてるらしい!」

自分たちも走りながら話す。

「犯人は!?」

「“黒い髪の男”らしい!おそらく…」

「葛城…!?」

南里が信じられないという顔をする。これでは誠の推測どおりではないか。

「絶対に止めるぞ!関係ない奴まで死なせてたまるか!!」

怒りと苛立ちのこもった表情で、土谷はパトカーの運転席に乗り込み、ドアを閉めた。

⏰:11/11/28 21:57 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#219 [我輩は匿名である]
電話を終えた美穂は、龍也の背中を見て震えていた。

龍也と男性が接触したように見え、龍也の足の間からぽたぽたと血液が滴り落ちてきているのが見える。

「寺田くん!!」

「…ってぇなあ!!!」

美穂が叫んだのとほぼ同時に、龍也も怒鳴り声をあげて男性を蹴り飛ばした。

怯んでいたのか、男性はよろけて倒れ込む。そのうちに、彼の手から離れたナイフを公園の溝めがけて蹴る。

ナイフは狙い通り、公園の端にある溝に落ちた。

それを確認してから、龍也が美穂に駆け寄る。見ると、ナイフは龍也の体に刺さったわけではなさそうだ。

⏰:11/11/28 21:58 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#220 [我輩は匿名である]
その代わり、龍也の両手が血に染まっている。

「寺田くん!その手…」

「手なんかどうだっていいから!早く逃げろ!!」

「無理だよ!!」

完全に腰が抜けてしまっているのと、龍也を置いていけない気持ちで、とても逃げれるような状態ではない。

その美穂の視界の端に、起き上がって立っている男性の姿が映る。

「寺田くん!後ろ!!」

美穂の声に、龍也が振り向く。

⏰:11/11/28 21:58 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#221 [我輩は匿名である]
しかしすでに、男性は龍也の目の前まで迫っていた。その手には、さっきの物は別のナイフ。

もうだめだ。龍也は腹をくくり、血だらけの両手を構える。

その直後。さっきよりもぴったりと接触する龍也と男性をみて、美穂は息を止めた。

男性が小さく笑う。

「余計なことするから、変なところに刺さっちゃったじゃないか。一息で死なせてあげようと思ったのに」

「…あんまり調子乗んじゃねぇぞ…」

自分の左下腹部に突き刺さったナイフを見てから、龍也は男性をにらみつける。

⏰:11/11/28 21:59 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#222 [我輩は匿名である]
「安心しなよ。彼女もすぐ後に来てくれるからさ」

そう言って、男性はナイフを引き抜いた。…はずだった。

しかしその手は龍也にがっしりと掴まれ、ナイフが抜けないようになっている。

そうなって初めて、男性の眉間に一瞬しわが寄った。

「…絶対…逃がさねぇからな…!」

出血と痛みで息を切らしながら、龍也が言う。

「おっさん達が来るまでは…死んでも離さねぇ…!」

⏰:11/11/28 21:59 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#223 [我輩は匿名である]
「やめてくれよ。捕まっちゃうじゃん」

「だからさっきから言ってんだろ!俺が捕まえるってな…!」

「…頑張ったご褒美に、良い事を教えてあげるよ」

男性はまた笑って、美穂にまで聞こえるように言う。

「僕が捕まっても、この事件はまだ続くよ」

その言葉に、龍也も、そして美穂も耳を疑う。

そして、その一瞬を男性は見逃さなかった。龍也の手の力が弱まった、その瞬間を。

⏰:11/11/28 22:00 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#224 [我輩は匿名である]
男性が勢いよくナイフを引き抜くと、逃げ道のなかった龍也の血液がどっと外へ流れ出した。

「僕の勝ちだ。お疲れ様」

龍也が抵抗する暇もなく、今度は男性の狙い通り、ナイフは龍也の胸部の中心に深く突き刺さった。

その衝撃で、龍也はせき込み、口からも血が流れてくる。

しかし、気を失いそうな中で、龍也は再び、男性の腕を両手で掴む。

そして、にやりと勝ち誇ったように男性に笑い返して見せた。

「…いや……俺の、勝ちだ…」

3人の耳に、遠くから近づいてくるパトカーのサイレンの音が届いた。それも、様々な方向から聞こえてくる。

⏰:11/11/28 22:00 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#225 [我輩は匿名である]
今まで余裕の笑みを見せていた男性の顔から、笑顔が消える。

そして、諦めたようにため息をついた。

「…そうだね、僕の負けだ。…格好良かったよ、君」

負けを認めた男性を見て、龍也は笑って、男性から手を離した。

男性は龍也の服を掴み、彼の体からナイフを抜いて、ゆっくり地面に座らせる。

しかし、もう龍也の体には力が入らず、糸が切れた操り人形のようにその場に倒れ込んだ。

それを見てやっと、美穂はハッと我に返り、龍也のそばに来て彼を抱きかかえる。

⏰:11/11/28 22:00 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#226 [我輩は匿名である]
大きくなっていたサイレンの音が一斉に止まる。

目の前の道から、土谷や南里たちがピストルを手に走ってきた。

「寺田くん!刑事さん来てくれたよ!!」

目を閉じて息を切らす龍也に、美穂が必死に呼びかける。

すると、龍也がうっすらと目を開けた。

「……遅かったじゃねぇか…おっさん…」

⏰:11/11/28 22:01 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#227 [我輩は匿名である]
土谷たちは現場に到着し、その状況を目にして呆然とした。

葛城の手に握られた、真っ赤なナイフ。シャツを真っ赤に染めてぐったりしている龍也。それを抱きかかえ、泣いている美穂。

何が起きたのか、誰でもわかった。

「遅かったね。もうちょっと早ければ、この子助かったかもしれないのに」

「葛城…貴様ああああ!!」

土谷は目を血走らせ、持っていたピストルを構える。

しかし、引き金に手をかけたところで葛城が口を開いた。

⏰:11/11/28 22:01 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#228 [我輩は匿名である]
「僕を撃っていいの?」

違う道からも挟み撃ちにするように走ってきた刑事たちにも聞こえるように、葛城が言う。

「僕をここで撃ち殺せば、唯一の“捜査資料”が無くなるよ?何も掴んでないあんた達にとって、僕の自供には重要な意味があるよね?それでもいいのかな?」

それを聞いて、土谷は歯を食いしばり、手を震わせる。

「土谷警部、…銃を下ろしてください」

悔しそうな顔で、南里が土谷に言う。

土谷が銃を下ろしてから、葛城が笑みを浮かべながら話を始めた。

⏰:11/11/28 22:02 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#229 [我輩は匿名である]
「この子が頑張ったから、あんた達にも教えてあげるよ。1回しか言わないからよく聞きなよ。

まず言っとくけど、僕を捕まえてもこの事件は終わらない。わかってるだろうけど、僕の他にもいるからね、犯人」

「…それは、3件目の犯人の事?」

南里が険しい顔で口をはさむ。

「そうだよ。でも、あいつ以外にもう1人いる。この事件の犯人は全部で3人だ」

「3人…!?2人じゃなかったの!?」

「違うよ。僕があんなヘタレに従うと思う?僕が従ってたのは、“3人目”さ」

⏰:11/11/28 22:02 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#230 [我輩は匿名である]
「じゃあ、そいつが首謀者って事ね?」

「そうなるね。僕もあのヘタレも、その子のただのコマ」

葛城の話を信じるなら、葛城と銃殺犯は、首謀者に付き従って事件を起こしている事になる。

要は、その首謀者を捕まえなければ、この事件は終わらない。

「でも、僕が逮捕されれば、死ぬ子は減るだろうね。あいつはまだ人を殺すことを躊躇ってる。やりたくなかったら、やらなきゃいいのにね」

「…他の犯人2人は誰?」

「そこまでは言わないよ。あんた達警察でしょ?推理するのが仕事なんだから、ちゃんと仕事しなよ」

呆れたように言い放たれ、南里たちは顔をしかめる。

⏰:11/11/28 22:03 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#231 [我輩は匿名である]
「さぁ、僕を逮捕して」

葛城は観念したように、ナイフを持ったまま両手を差し出す。

「…土谷警部。…手錠を」

「…わかってる」

土谷がピストルをしまい、代わりに手錠を握る。

葛城は土谷の手からピストルが離れたのを見届けてから、また笑った。

「…本当馬鹿だね、警察って」

その声は、土谷にしっかり届いた。

⏰:11/11/28 22:03 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#232 [我輩は匿名である]
「僕が素直に捕まると思う?」

葛城の言葉に、土谷は素早くピストルを構え直す。それを見て、南里たちも葛城に狙いを定める。

しかし、葛城の方が数秒速かった。

「バイバイ」。そう言い残して、葛城は持っていたナイフで自分の首を切り裂いた。

頸動脈が切れた葛城の体は、周囲を赤く染めながら仰向けに倒れる。

⏰:11/11/28 22:04 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#233 [我輩は匿名である]
土谷の頭の中が真っ白になる。その後ろで、南里が部下に救急車の要請を命令し、美穂たちに駆け寄る。

他の刑事たちも、葛城に駆け寄ったり、話し合ったりしている。

葛城は倒れ込んだまま、ボーっと青空を見上げる。

「(ごめんね…、僕はここまでだ…。…楽しかったよ…)」

誰かにあててそう思いながら、ゆっくりと目を閉じた。

⏰:11/11/28 22:05 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#234 [我輩は匿名である]
南里が美穂のそばにしゃがみ込み、龍也の首元に触れる。

しかし、南里の指先にはもう、何の感触も返ってこない。

美穂は生気のない表情でぼんやりと、ほとんど息をしていない龍也の寝顔を見つめている。

「そんなわけねぇだろ…」

南里の後ろで立ち尽くしている土谷が呟く。

「こいつはそんなに簡単に死なねぇ…!そんな奴じゃねぇんだよ!!」

⏰:11/11/28 22:09 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#235 [我輩は匿名である]
土谷は龍也に駆け寄り、心臓マッサージをしようと龍也の体に手をかける。

しかし、美穂がそれを拒むように、龍也の体を強く抱きしめた。

「…もうやめて…」

首を振る美穂の体も、小刻みに震えている。

ここまで拒否されては、手を出すことができない。土谷と南里は困ったように顔を合わせた。

その後、龍也と葛城は、救急車で警察病院に運ばれたが、2人ともそこで死亡が確認された。

⏰:11/11/28 22:10 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#236 [我輩は匿名である]
2年A組を見て凄いファンになりました
続きが早くみたいです

⏰:11/12/02 19:13 📱:SH004 🆔:WNdrMwfs


#237 [我輩は匿名である]
>>236サン
コメントありがとうございます!
感想板もありますので、そちらもご利用ください♪

⏰:11/12/02 20:22 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#238 [我輩は匿名である]
美穂は南里に貸してもらった毛布を肩にかけて、病院のベンチに座ってじっとする。

龍也の最期の言葉が頭から離れず、何度も繰り返し響く。

⏰:11/12/02 20:23 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#239 [我輩は匿名である]
土谷たちと葛城が対峙している間、龍也は美穂の声にじっと耳を傾けていた。

『きっと救急車も呼んでくれるよ!だからもうちょっと頑張って!ね!?』

『…救急車が来ても…これじゃ…助からない…だろ…』

『どうして?わからないじゃない!』

『…わかるよ…』

龍也は言いながら、地面に広がる自分の血の跡に目をやる。

⏰:11/12/02 20:23 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#240 [我輩は匿名である]
下腹部を刺された時も出血は多かったが、胸部の出血量は、明らかにそれを上回っていた。

この出血量では、きっと助からない。万が一助かっても、脳死状態や麻痺が残る可能性がある。

龍也はそう思って、もう一度美穂を見る。

『…ごめん…。明日からは…送ってあげられそうにねぇわ…。…気を付けて帰れよ…』

『寺田くん…』

ぼろぼろと涙を流す美穂を見て、龍也は小さく笑みを浮かべる。

⏰:11/12/02 20:24 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#241 [我輩は匿名である]
『あーあ…俺…今超幸せかも…。…好きな子が…自分の為に泣いてくれて…好きな子に抱かれて…死ねるんだから…』

龍也は満足そうに言って、目を閉じる。

その言葉を聞いて初めて、美穂は気が付いた。

皐がやたらと恋愛話で意味深な笑みを浮かべていたのも、その時にちょっと心の中が変な気分になったのも、
龍也にグローブを貸してもらったり、「送ってやる」と言われてとても嬉しかったのも…みんな、

龍也の事が好きだったからだ。

⏰:11/12/02 20:24 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#242 [我輩は匿名である]
『寺田くん!』

眠ろうとする龍也の手を掴み、美穂が呼びかける。

『今まで気が付かなくてごめんね。私も…私も寺田くんの事、大好きだよ!』

すると、龍也は少しだけ目を開け、嬉しそうに笑った。

『…サンキュ』

あの時の手の感触は、今でも残っている。

龍也の最期の笑顔も、温かさも、全部覚えている。

美穂はしばらくじっと自分の手を見つめた後、毛布をその場において、ひっそりと夜の闇に消えた。

⏰:11/12/02 20:24 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#243 [我輩は匿名である]
次の日の放課後。

彩が掃除当番をやっている間、誠は1人、屋上でぼーっと外の景色を眺めていた。

龍也が亡くなった事は、すでに彩や誠、皐たちに伝わっている。

数少ない理解者である龍也が死に、犯人であると思っていた葛城も死んだ。「犯人はまだいる」。そう言い残して。

置いてあるベンチに座り、誠はため息をつきながら頭を抱える。

少し遠くでドアが開く音がした。

⏰:11/12/02 20:26 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#244 [我輩は匿名である]
「…内村?」

聞き覚えのある声が自分の名前を呼ぶが、振り返る気にもならない。

誠が返事をしないからか、声の主が誠に近づいてくる。

「…こんなところで何してんの?」

誠の視界の端に、皐の顔が映る。

「…別に」

目も向けず、短く答える。機嫌が悪い時や誰とも話したくない時は、こうするのが1番。今までよく使ってきた手だ。

⏰:11/12/02 20:26 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#245 [我輩は匿名である]
しかし、誠の思惑とは反対に、皐はその場から立ち去ろうとしない。

「…寺田たちの事、考えてるの?」

傍に立ったまま、再度問いかけてきた。

誠は、今度は目だけを皐に向ける。

「…俺に何か用?」

「…用があるわけじゃないけど…」

「じゃあほっといてくれないか。今は誰とも話したくない」

誠に突き放され、皐はショックを受けた表情を見せる。

⏰:11/12/02 20:27 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#246 [我輩は匿名である]
さっさと行ってくれ。誠はそう思いながら視線をそらす。

「…相手が彩でも、同じ事言うの?」

皐は、今度は声のトーンを落として言う。なぜか不機嫌そうな態度の皐に、誠はまた目をやる。

「…は?」

「私が彩でも、今みたいに『ほっといてくれ』って言えるの?」

皐と誠は、お互い苛立ったような顔で見つめ合う。

「…しょうもない事聞いてくんじゃねぇよ」

誠はうっとうしそうに、顔ごとそっぽを向く。

彼のあからさまな態度に、皐もムッとした表情で何か言い返そうと口を開く。

⏰:11/12/02 20:27 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#247 [我輩は匿名である]
すると、「うっち〜?」という声とともに、彩も屋上にやってきた。

「あっ、こんな所にいたの?掃除終わったよー」

彩はたたたっと足音を立てて、2人のもとに走ってくる。

「2人とも何してるの?もしかして、ナンパ?」

「ふざけた事言うな」

「…ごめん」

本気で機嫌が悪そうな誠に、彩は素直に謝る。

⏰:11/12/02 20:28 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#248 [我輩は匿名である]
「…俺、塩見と話があるから、どっか行ってくれない?」

誠は皐を見ようともしないで言い放つ。

「(…何?この険悪なムード…)」

間に挟まれ、彩は困ったように皐と誠を交互に見る。

すると、皐が何も言わずに早足でその場を後にした。

大きな音を立てて閉まったドアを見つめ、彩は首をかしげる。

⏰:11/12/02 20:28 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#249 [我輩は匿名である]
「…うっちー、今のはさすがに怖いよ」

彩は少し間を空けて、誠と同じベンチに腰を下ろす。

しかし、誠はむすっとした顔で黙り込む。

誠がこういう態度をとる時は、大体嫌いな相手と接している時だ。皐も不機嫌そうだったし、2人で喧嘩でもしたのだろうか。

彩は考えたが、今の誠には直接聞けない。仕方なく、彩も少し黙る。

「…今日、美穂ちゃん学校来なかったって」

しばらくしてから、彩がぽつりと言った。

⏰:11/12/02 20:28 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#250 [我輩は匿名である]
誠はじっとどこかを見つめたまま口を開く。

「そりゃ、あんな事があったんだから、次の日に学校なんか来ないだろ。…俺だって来たくなかった」

「…まぁ、そうだけどさ…」

彩は暗い表情でうつむく。

「…今、前のお前と同じこと考えてるわ、俺」

誠も少し視線を落として言う。「何?」と、彩が誠の方を向く。

「“何で俺たちがこんな目に遭わないとならないんだろう”…って」

⏰:11/12/02 20:29 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#251 [我輩は匿名である]
「うっちー…」

「…何で、寺田が死ななきゃいけなかったんだろうな。あいつは何も関係ないのに…」

誠は両手で顔を覆い、うなだれる。

高校に入って、龍也が1番誠と仲良くしていたことは、彩もよく知っている。他の野球部員たちともそこそこ仲良くしていたが、龍也だけが誠とよくつるんでいた。

それだけに、誠のショックも大きいのは明らかだった。

「…長谷部の時みたいに病院に行ってあいつらと顔合わせたら、俺多分あいつらの事ボコボコにしてると思う」

「…あの時の私の気持ち、よくわかったでしょ?」

「…わかりたくなかったけどな」

⏰:11/12/02 20:29 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#252 [我輩は匿名である]
誠は呆れたようにほんの少し笑う。それを見て、彩も小さく笑い返す。

「その上犯人死なせるし…本当頼りになんねぇな、警察」

「何か…犯人の思うつぼって感じだよね、あの人達。寺田くんは体張って美穂ちゃん守ったのに、何も出来ないなんて…馬鹿みたい」

彩は自分で言いながら、だんだんイライラしてきた。逆に、誠は頭を抱えたまま動かなくなった。

「…塩見」

「ん?」

「…しばらく、こっち見るなよ」

そう言った誠の声がちょっと震えていたような気がして、彩は「うん」と頷き、それ以上何も言わずに景色を見つめていた。

⏰:11/12/02 20:30 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#253 [我輩は匿名である]
南里は手袋をして、1冊のアルバムをめくる。

葛城の潜伏先をやっと突き止め、土谷をはじめとする他の刑事たちも張り切って証拠探しに走り回っている。

南里が発見したある中学の卒業アルバム。生徒数名の顔写真に黒いマジックで顔に“×”が書かれている。

凛や春香たち8人に書かれているところを見ると、今まで被害に遭った生徒たちのようだ。

まだあどけなさの残るその顔写真たちを、南里は静かに見つめる。

それを手に、同僚たちがせわしそうに動き回っている居間に入る。

⏰:11/12/02 20:31 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#254 [我輩は匿名である]
まさに“潜伏先”というにふさわしい、ぼろくて小さなアパートの一室。

部屋にはカップラーメンのゴミなどが転がっている。

葛城歩。彼を変えたのは、一体何だったのだろう。

「南里警視!」

名前を呼ばれ、若い刑事のもとに急ぐ。

さっきアルバムを見つけた部屋の棚から、1枚の写真が見つかったようだ。

見ると、1人の少年とその両親らしい人物が映っている。しかも、その両親らしい人物の顔が、見えないように黒いマーカーでぐちゃぐちゃに塗りつぶされている。

⏰:11/12/02 20:31 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#255 [我輩は匿名である]
「これ…葛城本人ですかね?」

若手の刑事と一緒に、南里はそれを見ながら首をひねる。

「そういえば…」

2人の間に、他の刑事が割って入ってきた。

「3年前に葛城の事件を追ってた時の情報なんですが、元々は『葛城』って名字じゃなかったそうです」

「じゃあ、誰の名字?」

南里が尋ねる。

⏰:11/12/02 20:31 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#256 [我輩は匿名である]
「葛城は15歳の時、家で両親を包丁で刺して殺害する事件を起こしています。その後少年院に送られ、出所してから親戚に引き取られたそうで…そこの名字らしいです」

「何でそんな事件を…」

「…虐待されてたそうです、小さいころから」

「…それで…」

南里はため息をつき、もう1度その写真を見る。

もし、まともな両親の手で育てられていたら。もしかしたらこんな事件に手を染めていなかったかもしれない。

犯人に同情する気はこれっぽっちもないが、南里は何とも言えない気持ちで室内を見渡した。

⏰:11/12/02 20:32 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#257 [我輩は匿名である]
次の日から、皐は彩と口をきこうとしなかった。

今まで一緒に食べていた弁当も、この日から別々で食べるようになってしまった。美穂も凛もいないため、彩は仕方なく、同じく弁当を食べる相手を失った誠と一緒に食べた。

龍也が亡くなってから10日。葛城が自殺したこともあってか、事件は身を潜めていた。

凛の退院のめどが立ったという嬉しい知らせ以外は、特に何も変わった事はない。

⏰:11/12/05 11:41 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#258 [我輩は匿名である]
「良かったよね。凛ちゃんが退院できるだけでも、今の私たちには嬉しい事だし」

「そうだな」

相変わらず、彩と誠は一緒に帰っていた。

「もう、電話とかしても大丈夫かなぁ?さすがにまだ学校には来れないと思うし」

「…今度してみたら?」

「うん!」

ずっと暗いニュースしかなかったためか、彩は嬉しそうだ。

⏰:11/12/05 11:42 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#259 [我輩は匿名である]
もちろん、事件前の喜び方と比べると元気がないが、それでもだいぶ表情が明るくなってきている。

「…俺も、久しぶりに司に電話でもしてみようかな…」

誠は小声でもう漏らす。

「そうだね。私も、また美穂ちゃんにも電話してみる」

あれから、美穂は1度も学校に登校していない。彩が電話をかけても、電話にも出ない。

学校が家に電話して母親から聞いた話では、ずっと部屋にこもっているらしい。

「…出てくれればいいけどな」

「うん…」

彩が力なく頷くと同時に、誠が不意に足を止めた。

⏰:11/12/05 11:42 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#260 [我輩は匿名である]
「…どうかした?」

「…静かに」

誠は声を潜める。彩は黙って首をかしげる。

すると、誠が黙ったまままた歩き出した。わけがわからず、彩もそれについて行く。

彩は何気なく下を向いて、何かに違和感を感じた。

彩と誠の歩くタイミングが同じだ。

もちろん、誠は彩より背が高く足も長いため、今までは足を動かすタイミングはばらばらだった。

しかし、違和感はもう1つ。2人で同じ歩幅で、同じタイミングで足を動かして歩いているにもかかわらず、バラバラに足音が聞こえるのだ。

⏰:11/12/05 11:43 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#261 [我輩は匿名である]
「…うっちー」

「…わかったか?」

「……誰か…いるよね…?」

2人は振り返ることなく、誰にも聞こえないように話す。

彩・誠の足音と、離れたところからついてくる、もう1つの足音。

彩の背筋に、一瞬で寒気が走る。

⏰:11/12/05 11:43 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#262 [我輩は匿名である]
「…どうするの…?…家までついて来られたくないよ…」

不安そうな彩に、誠はふと、近くの曲がり角に目を付けた。

「…塩見。…あの右の角曲がるぞ」

「…うん」

「曲がったら一緒に、全速力で走れ」

「…わかった」

緊張と恐怖で体が震えるが、そんな事を気にしている場合じゃない。

⏰:11/12/05 11:44 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#263 [我輩は匿名である]
その曲がり角は、すぐにやってきた。

曲がった瞬間、誠が彩の肘を掴んで走り出す。彩も必死に、誠の足について行く。

さすがにここで足音を合わせていられないので、後ろからまだ誰かがついて来ているのかわからない。

しかし、後ろを振り向く勇気も、そんな余裕もない。

「おい、次、そこ左に行くぞ!」

「うん…!」

早くも息を切らしながら、彩は大きく頷く。

⏰:11/12/05 11:44 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#264 [我輩は匿名である]
言われた曲がり角を曲がると、誠はそこで立ち止まり、電信柱の影に身を潜めた。

彩は小さく息を切らし、静かに呼吸を整える。

「…誰か来てる…?」

「…いや…」

誠は姿が見えないよう、ほんの少しだけ顔を出してあたりの様子を伺う。

しかし、その道には誰も歩いていない。追ってくるような足音も聞こえてこない。

「…多分…大丈夫だと思う…」

⏰:11/12/05 11:45 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#265 [我輩は匿名である]
「…はぁ…」

緊張が一気に切れ、彩はずるずるとその場に座り込む。

「…次は…私達って事…?」

「さぁな…。…防犯ブザーとか…持ってた方がいいんじゃねぇの?」

「そうだね…」

しゃがみこんだまま、彩は不安げに頷く。

今度は自分が殺される。自分か、誠か。…もしくは同時に2人。

「…帰れるか?」

「…うん…」

彩はふらふらと立ち上がり、誠とともに、警戒しながら家へと帰った。

⏰:11/12/05 11:46 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#266 [我輩は匿名である]
家につき、彩はじっと、携帯電話の画面を見つめる。

南里に、帰り道の事を伝えるべきか。しかし、言ったところできっと何もしてもらえない。

パトロールはすでに強化されているだろうし、それ以上は警察も何もできないだろう。それに、もはや警察はあてにはならない。

悩んでいると、不意に携帯電話が鳴り出した。

びっくりしつつも見てみると、凛からの電話だ。

「もしもし!?」

彩はすぐに電話に出る。

⏰:11/12/05 11:46 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#267 [我輩は匿名である]
「あっ、彩ちゃん?久しぶり」

そう言った凛の声は、少し元気がない。

「凛ちゃん…。大丈夫?もうすぐ退院できるって聞いたよ」

「うん。抵抗したおかげで、あんまり大したところには刺さらなかったみたいで…。でも、まだ学校は行かない方がいいみたい」

「…正直、学校どころじゃないもんね」

彩もため息をついて答える。

「…見張りの刑事さんから聞いたよ。私を刺した犯人、死んだんだよね」

⏰:11/12/05 11:47 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#268 [我輩は匿名である]
「…そうみたいだね」

「ほっとしたのに、『まだ他にも容疑者がいる可能性があるから』って言われて…。…何でこんな事になっちゃったんだろ…」

凛は、今にも泣きそうな声でつぶやく。

凛の言う通りだ。みんな、考えることは同じだ。

「…私、やっとわかったよ。自分の身は、自分で守らないといけないって」

彩は決心したように言う。


「今日もね、後ろから誰かにつけられてる気がして…。走って逃げたらいなくなったみたいだけど。防犯グッズ買い揃えようかな」

⏰:11/12/05 11:47 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#269 [我輩は匿名である]
「…そっか…。その方がいいよ、きっと。私も退院したらそうする」

「うん。凛ちゃん、…あんまり無理しちゃだめだよ。気を付けてね」

「ありがとう。彩ちゃんもね。…じゃあ、また」

「うん。お大事に」

2人はそう言い、電話を切った。

こんな状況でも、凛だけは生きていてくれた。彩は安心して、大きく息を吐いた。

その後、彩はネット通販で防犯ブザーを買い、休日には絶対に外出しないように決めた。

⏰:11/12/05 11:48 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#270 [我輩は匿名である]
彩は「うーん」と、紺色のシーツがかかったベッドの上で腕を組む。

傍には机の椅子に座って足を組む誠の姿。

週が明けた月曜日。先週何者かに尾行された事を受けて、念のため仮病を使って学校を休んでいる。

犯人についてはもはや見当はつかないが、自分たちで考えられることは考え、備えられることは備えておきたい。

2人はそれぞれ、最大限の知恵を振り絞って考える。

「…なんか…」

誠がぼそっと呟く。

⏰:11/12/08 16:11 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#271 [我輩は匿名である]
「この事件…何かがおかしい気がする…」

それを聞いて、彩が顔を上げる。

「…“何か”って?」

「わからない。でも…どこか変な感じがするんだよ」

「そうかなぁ…?」

彩は首をかしげる。誠の言う“おかしい気がする”という感覚は、彩には感じられない。

「…1番おかしいのは、私たちが狙われてることだよ」

⏰:11/12/08 16:11 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#272 [我輩は匿名である]
「…まぁ、それはそうだけど」

「…犯人は、2A全員を殺してどうしたいんだろう?やっぱり何か恨みでもあるのかな?」

「…小松とその仲間はともかく、お前や青山は特に恨まれるようなことはしてないだろ」

「うっちーだってしてないよ」

「わからないぞ?俺の事嫌いな奴は多くいるだろうし」

「だったらうっちーだけを殺すと思う。そうじゃなくても、1番に狙われるのはうっちーになるよね」

「そう…。だから余計わからないんだよ。全員が殺されなければならない理由が何なのか…」

⏰:11/12/08 16:11 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#273 [我輩は匿名である]
「…先生は?」

彩は自分で言いながら顔を上げる。

「去年県外に転勤したって聞いたぞ。教師続けてるらしいし、平日に事件起こすのはどうやっても無理だろ」

「そうなんだ…」

彩はため息をついて肩を落とす。

「…梶浦君は?あの子も一緒に調べてたんじゃないの?」

⏰:11/12/08 16:12 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#274 [我輩は匿名である]
「あいつも葛城が死んでからはサッパリらしい」

「…完全に行き詰っちゃったね」

「ま、ただの一般人の推理なんか、こんなもんだろ」

誠は早くも諦めたように言った。

葛城が言い残した通り、その後9日間、何の事件も起こらなかった。彼が“ヘタレ”と言っていた犯人はともかく、“首謀者”と思われる方の犯人は自分の手で罪を起こす事はしないらしい。

⏰:11/12/08 16:12 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#275 [我輩は匿名である]
しかし、とうとうその犯人たちが動き出した。

彩達が尾行されてからちょうど10日後。他の高校に通う元2年A組の男子生徒2人の遺体が、大通りから一本路地に入ったところで発見された。

南里と土谷は険しい顔でその2人の遺体を見つめる。

2人の遺体には、数か所の銃痕。

「…動き出しましたね」

⏰:11/12/08 16:13 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#276 [我輩は匿名である]
南里が土谷に言う。

「…一体何人殺せば気が済むんだ?」

「この調子なら、おそらく全員でしょう。もしかしたら、この間退院した小山凛もまた狙われる可能性がありますね」

「彼女はまだ自宅療養の指示が出てる。しばらく家から出ないだろう。…本人も、まだ怯えた感じだったしな」

2人は小声で話し合った後、男子生徒の遺体に手を合わせた。

⏰:11/12/08 16:13 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#277 [我輩は匿名である]
その日の夜。

ベッドに寝転んでいた誠は、自分の携帯電話の着信音を聞いて起き上がる。

司からだ。誠は電話に出て、それを耳にあてる。

「もしもし」

「あ、いきなりごめん。この間、『この事件おかしい気がする』って言ってたじゃん?」

「あぁ、言ったな」

彩と話し合ったあの日の夜、誠は司にも同じ内容の話をしていた。

⏰:11/12/08 16:13 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#278 [我輩は匿名である]
「…俺、わかっちゃったかもしれない」

「…え?」

「それって…」

司はそこまで言って、なぜか黙り込んでしまった。

「…司?」

不審に思って、誠が声をかける。

「…やばい。後ろに誰かいる」

⏰:11/12/08 16:14 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#279 [我輩は匿名である]
司が声を潜め、誠に言う。誠はそれを聞いて顔色を変えた。

「お前、今どこにいるんだよ」

「外」

「何で!」

「仕方ないだろ?バイト先から電話かかってきて、『今日だけどうしても出てくれ』って言って聞かなかったんだから。ごめん、また後でかけ直すから」

「え?おい司!」

誠は彼の名前を呼ぶが、聞こえてくるのは電話が切れたことを示す機械音だけだった。

⏰:11/12/08 16:14 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#280 [我輩は匿名である]
もう1度かけ直すが、司は出てこない。

しかたなく、今度は着信履歴から南里の携帯番号を探し出し、彼女に電話を掛ける。

「もしもし南里です」

「内村です。今ちょっといいですか」

誠の切羽詰まった声に、南里は「…何かあったの?」と慎重な声で聞き返す。

「梶浦司が、今誰かに狙われてます。探し出して、保護してもらえませんか?」

「梶浦司…?…あぁ、あなたの親友の。“狙われてる”って?」

⏰:11/12/08 16:15 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#281 [我輩は匿名である]
「今電話してたら、『誰かにつけられてる』って…。あいつ、バイトの帰り道だと思うんです。早くしてください」

「“バイトの帰り道”だけじゃわからないわ。今から場所を割り出して、すぐに向かいます。もし彼から連絡があったらすぐに教えて」

「わかりました」

南里はそう言ったが、誠は納得のいかない顔で携帯電話を見つめる。

しかし、その日に司が電話をかけ直してくることはなく、どこかでパトカーと救急車のサイレンの音がけたたましく鳴り響いていた。

⏰:11/12/08 16:15 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#282 [我輩は匿名である]
次の日、彩のもとに南里と土谷がやってきた。

「…何かあったんですか?」

玄関先で、彩は南里に尋ねる。

「…青山美穂さんが…」

「死んだって言うの?」

南里が全て言う前に、彩が彼女たちをにらみながら言う。

2人は何も言わない。ただ悔しそうな、申し訳なさそうな顔で黙っている。

⏰:11/12/14 21:27 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#283 [我輩は匿名である]
「…どうして…?どうしてよ!?いい加減にしなさいよ!!」

「…彼女の件で、あなたに伝えておきたいことがあって」

彩につめよられても動じず、南里が続ける。

彼女の態度に、彩もそれ以上問い詰めることはせず、口を閉じる。

「今から署に来てもらう事は出来る?」

「…いいですけど…」

一体警察署に何があるのだろう。彩は彼女たちについて行く。しかし、2人はまっすぐパトカーへは戻らず、向かいの誠のマンションに入った。

⏰:11/12/14 21:27 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#284 [我輩は匿名である]
「…警察署に行くんじゃないんですか?」

「行くわ。…彼も一緒にね」

そう言った南里が行き着いた先は、誠の家だった。

ベルを鳴らすと、誠が出てきた。

南里たちを見て、誠はなぜか苛立った表情で口を開く。

「…司は」

美穂の事しか聞いていなかった彩は、何のことかわからず南里を見る。

⏰:11/12/14 21:28 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#285 [我輩は匿名である]
南里と土谷が、困ったように顔を見合わせる。

「…あのな、坊主」

南里の代わりに、土谷が暗い表情で何か言いかけたのを見て、誠が彼に掴みかかった。

土谷の体が壁にたたきつけられる。

「…司はどうしたって聞いてんだよ」

土谷の胸ぐらを掴んだまま、誠が彼をにらみつける。

「…携帯の電波から場所を特定して現場に向かった時には、すでに救急車が到着していた。おそらく自分で呼んだんだろう」

「そう言う事を聞いてるんじゃない!!」

⏰:11/12/14 21:28 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#286 [我輩は匿名である]
「…彼は生きてるわ」

南里が静かに言う。彼女の言葉に、彩と誠が彼女に目を向ける。

「ただ…まだ意識が戻っていない」

「…そんな…」

彩がつぶやく。美穂だけでなく、たった1日で司まで被害に遭うなんて。両足が震えだす。

「…話はそれだけか?」

誠がうつむいて言う。

⏰:11/12/14 21:29 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#287 [我輩は匿名である]
「…お前、梶浦が襲われる前に、あいつと電話してたな」

おそらく、彼の携帯電話の通話履歴を見たのだろう。土谷が服装を正しながら続ける。

「何を話してたんだ?」

「まだ俺を疑ってるのか…?」

「そうじゃない。私達だって知りたいのよ。もし事件に関する事なら、どんな情報でも」

そう言った南里の顔は、春香の時に見た弱々しいものとは違った。

彼女の表情を見て、誠はどうにか怒りをおさめ、大きく息をつく。

「…署で、詳しい事を話すわ。彼女にも、聞いてもらいたいものがあるから」

南里は言いながら、彩に視線を送る。

警察署に、一体何が待っているのだろう。彩と誠はともに、暗い表情でパトカーに乗った。

⏰:11/12/14 21:29 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#288 [我輩は匿名である]
署に着くと、2人は応接室のような部屋に通された。

目の前の机には、DVDレコーダーのような機械が置かれている。

室内のソファに2人を座らせ、南里と土谷も向かいのソファに腰を下ろす。

「…まず、昨日起こった事を話すわ」

書類を手に、南里が言う。

「午後20時13分。梶浦司本人から、『男に撃たれた』と119番通報あり。相手は面識がない男だったと、到着した救急隊員に話した後意識がなくなり、そのまま病院に運ばれた。

撃たれたのは右胸部。そして、救急隊員が到着した時、梶浦司のそばにピストルが落ちていて、そこから彼の指紋が確認されてる」

⏰:11/12/14 21:30 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#289 [我輩は匿名である]
「ちょっと待て」

彩が口を開く前に、誠が話を止める。

「何で司の指紋が付いてるんだよ」

誠の疑問に、彩も頷く。

「…先に全部聞いてちょうだい」

その質問が来るのはわかっていたのだろう。南里はそう言って、続きを話す。

⏰:11/12/14 21:30 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#290 [我輩は匿名である]
「午後20時28分。今度は私の携帯に、青山美穂から『犯人らしい人がいる』と通報あり。電話をつなげたまま、自分の携帯電話をポケットに入れて犯人と接触」

「何で美穂ちゃんが…?」

「親に何も言わず、出歩いてたらしい」

彩の問いに、土谷が答える。

南里はためらうように息を吐いた後、こう続けた。

「犯人と接触中、もう1人の射殺され死亡」

彩はハッと息をのみ、南里を見つめる。

⏰:11/12/14 21:31 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#291 [我輩は匿名である]
※すみません、>>290の南里の最後のセリフに脱字がありました。
正しくは↓です。

「犯人と接触中、もう1人の犯人に射殺され死亡」

⏰:11/12/14 21:33 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#292 [我輩は匿名である]
昨夜。何も用はないが、ただ外をぼーっと歩いていた美穂は、何かから逃げるように目の前を横切って行く黒いパーカーの男性を見つけた。

美穂は生気のない目でそれを見た後、足をそちらに向けて歩き出した。

『もしかしたら、寺田くんを殺した奴の仲間かもしれない。』

その考えが美穂の頭の中をよぎる。

「…許さない…」

美穂はそう呟き、家から持ってきた包丁が入った鞄を大事そうに肩からかけ直す。

男性が走って行った道を、美穂はじっと物陰から様子を伺う。

⏰:11/12/14 21:35 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#293 [我輩は匿名である]
そこには、どこから逃げてきたらしく、膝に手をついて呼吸を整えている黒いパーカーの男がいた。

しかも、その先はゴミ置き場。行き止まりだ。

美穂はそれを見て、いったん少し離れたところに来て南里に電話を掛けた。

「刑事さん、…犯人っぽい人がいますよ」

相手が電話に出ると同時に、美穂は淡々と言う。

思わぬ通報に、南里は目を丸くする。

「どこ!?」

南里は美穂に聞いた場所を、近くにあった紙にメモする。

⏰:11/12/14 21:36 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#294 [我輩は匿名である]
「…今からその人に聞いてみる。…何でこんなことするのか」

「やめなさい!あなたが危ないだけよ!」

急に声を荒げる南里に、周囲にいた刑事たちが動きを止める。

「…構わないよ。それで、もう他の子が被害に遭わなくて済むんなら」

美穂の言葉に、南里は耳を疑った。前にあった時は、こんな事を言う子ではなかったはずだ。

少し考え、南里は美穂に言った。

「…青山さん、…電話を切らずに、携帯電話をそのままポケットに入れてちょうだい」

⏰:11/12/14 21:36 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#295 [我輩は匿名である]
「…どうして?」

「何を言っても、あなたは犯人との接触を試みるでしょう。犯人との会話を少しでも聞くことができたら、犯人の特定に役立つわ。逮捕できる可能性も高くなる。

…くれぐれも気を付けて」

本当は、どうしても引き止めなければならない。それは南里もよくわかっていた。しかし今の美穂の様子では、おそらく誰が何を言っても聞く耳を持たない。

南里は受話器を離し、そこにいた全警官に、美穂が言った場所に向かうよう命じる。

そして、近くにいた鑑識課の男性を呼び寄せた。

⏰:11/12/14 21:37 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#296 [我輩は匿名である]
「今から、私の携帯の通話を全部録音して下さい」

「わ、わかりました」

「この形態の近くで、絶対に物音や声を出さないように。音を拾われたら、きっとその場で電話を切られる」

「はい」

南里に指示を出され、半ばあまり事情が分かっていないながらも、周囲の捜査員は大きく頷いた。

⏰:11/12/14 21:38 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#297 [我輩は匿名である]
美穂は言われたとおり、携帯電話を通話状態のまま上着のポケットに入れ、男のもとへと向かう。

男はまだそこにいて、誰かに電話しているようだった。

「ねぇ」

美穂が背後から話しかけると、男はびくっと肩を上げ、急いで電話を切った。

「…あんた、犯人でしょ?」

男は何も言わない。その態度が、“自分が犯人だ”という事を物語っているのに、彼は気づいていないのだろう。

何も答えず固まっている男に、美穂は追い打ちをかける。

⏰:11/12/14 21:38 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#298 [我輩は匿名である]
「そうなんでしょ?2年1組の…岡本君」

美穂が名前を呼ぶと、男は…岡本忍は、ゆっくりと振り向いた。

以前教室でぶつかった事を、美穂は覚えていた。

岡本は動揺したような表情で美穂を見ている。

“こんな奴らに、寺田くんは…”

美穂は腹の底から湧いてくる怒りを抑え、岡本に尋ねる。

「どうして…こんな事してるの?」

岡本は、さらに困ったような顔で黙っている。

⏰:11/12/14 21:38 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#299 [我輩は匿名である]
「同じ中学じゃなかったよね?なのに何で私たちを狙うの?誰に命令されてるの?」

「…それは…」

岡本は口ごもる。弱そうな割に、口だけは堅いらしい。

美穂はもう少し岡本に近寄り、鋭い目で彼をにらみつける。

「頭おかしいんじゃないの…?命令されて、自分の人生棒に振ってまでこんな事件起こして…バカみたい。あんたも、そのボスも」

「…バカなんて言うな…」

“バカ”という言葉に反応したらしく、岡本が小声で言った。

⏰:11/12/14 21:39 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#300 [我輩は匿名である]
言い返されて、美穂は眉間にしわを寄せる。

「僕は、何て言われてもいいよ…。でも、あの子は…あの子を侮辱する事だけは、…許さないよ」

「あんたなんかに許してもらおうなんて思ってない」

“あの子”。岡本はそう言った。おそらく、首謀者の歳は、自分たちとそう離れてはいなさそうだ。

そして、もう1つ。

「…その“あの子”が、よっぽど大事なんだね」

美穂は小さく笑って言う。

⏰:11/12/14 21:39 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#301 [我輩は匿名である]
まるで心の内側を見透かされたような感じがして、岡本は言い返せず、また黙る。

「でも、その“あの子”は…あんたの事何とも思ってないと思うよ?」

美穂はまるで挑発するような笑みを浮かべて続ける。

「何…!?」

「だって本当にあんたの事を大事に思ってるなら、こんな事させないでしょ?普通の人なら逆に止めるはず。でもあんた達は違う。

その人にとってのあんたは……ただの“捨て駒”だよ」

「黙れ!!」

岡本はキレたように叫び、自分の腰に手を当てる。

⏰:11/12/14 21:40 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


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