漆黒の夜に君と。V[BL]
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#337 [ちか]
じんわりと手に滲む汗を見つめながら、自分に言い聞かせた。


さすがのアイツでも夜中の4時じゃ、起きていないだろう。
寝ている時にちょっと顔を覗いてすぐ帰るだけだ。

誰にも何にも迷惑はかからないし、
そうこれは俺の自己満足だ。

だから迷わず開けてしまえ。…――


ガラ…ッ

⏰:11/11/04 00:22 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#338 [ちか]
勢いで開けたドアが小さく音を立てて開く。

ピッ…――ピッ…――ピッ…―



中では無機質な電子機器の音がその部屋の全てのように静まり返っていた。


入ってすぐ目につくベッドには入り口に背を向け横になっている華奢な後ろ姿。

俺は、部屋に入ってきても無反応なその背中に安堵の息をつく。



そして優里が寝てることを確信した俺は、ゆっくりとベッドの傍に歩み寄った。

⏰:11/11/04 07:05 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#339 [ちか]
もう何ヵ月も見ていなかった背中。

相変わらず華奢な腰や腕。



俺はいつのまにか見とれるように、すぐ傍で立ち尽くしていた。



薄暗い部屋にカーテンの隙間から月の光が射し込む。

人工的な金色の髪がその光に照らされてキラキラと美しく光った。


思わず、撫でたい衝動に駆られ、本能が赴くままにその手をそっと髪に伸ばす。

あと2、3センチと言ったところか。
ふいに静かな声が俺の手を止めた。



「…神崎だろ」

⏰:11/11/04 17:20 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#340 [ちか]
「なっ、お前起きて…っ」

伸ばしていた手を咄嗟に引っ込める。
動揺を隠しきれず、声は震えた。

俺の馬鹿!!
だから、さっさと顔見て帰りゃよかったのに!!

内心でこれでもかと言わんばかりに自分を叱咤に、合ってもいない目を泳がせる俺。


それとは正反対に、
俺が入ってきた時と同様、横を向き俺に背中しか見せない優里。

⏰:11/11/04 17:27 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#341 [ちか]
「動揺しすぎだから。」

逆にお前はなんでそんなに冷静なんですか。

そうツッコミたくなる気持ちをぐっと抑え、平然を装い問い掛ける。


「なんで俺だって分かったんだ?」

声が揺れないよう心がけるが、顔はひきつるばかり。
表情のも見えないまま、優里はそんな俺に淡々と答えた。


「あんたの足音、独特だから。部屋の前まで来たのになんで入ってこねえんだろって思ってた。」


…………つ、つまり最初っから気づいてた、と。
そんでこいつの耳は野生児並みだ、と。

⏰:11/11/04 17:32 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#342 [ちか]
気恥ずかしさが沸々と沸き上がり、怒りへと変わる。
今の俺はきっと百面相に違いない。

「き、気づいてんならこっち向いて声の一つくらい…っ!」

そういえば、俺はガキの頃から照れると暴力で誤魔化すタチだった。
咄嗟に伸ばした手を見ながら、ふとそんなことを思い出す。

さすがに患者に暴力はふるわないが、勢いに任せ一度引っ込ませた手を伸ばし、その細い肩をひっ掴んだ。

そしてこちらに向かせようと力を入れる。
すると、なんということでしょう。

華奢な体は見掛け倒し、ではなく、
思った通り、というか思っていた以上にあっさりとその体は体勢を崩した。


そして。

⏰:11/11/04 21:03 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#343 [ちか]
「お、お前…、」

「…ッ見んな、バカ神崎っ!!」


一瞬のことに目を見開いたままこちらに振り向いた優里の瞳にはくっきりと涙のあとが滲み、赤く腫れていた。

驚いた俺はそのまま手を離す。

優里もそれと同時に、またもや俺に背を向ける先程の姿勢に戻った。


あれー…えーっと、
これは一体…

「泣いてんの…?」

「うっせ。」

俺、空気読めてなかった、ってこと?

⏰:11/11/04 21:15 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#344 [ちか]
「や、あの…えーっと、…」

慰めの言葉が出てこない。
そりゃそうだ、何に泣いてるか分かんねえんだから。

でもただ一つ言えるのは、
なんかドキドキしてる俺が居るってこと。

異様な脈の上がりように戸惑い話を繋げられないでいると、優里が先に沈黙を破った。


「俺さ、明日手術なんだ。」

その瞬間、
ドクン、と心臓が跳ねた。

⏰:11/11/04 21:26 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#345 [ちか]
「…知ってる。」


さっきとは違う意味で鼓動が速くなる。
受け止めたくない現実がすぐ傍にあるのに、見たくなくて、でも見なきゃいけないみたいな、そんな時にピッタリの感覚。

アイツが死ぬ間際のあの時も、こんな感じだった。


思いの外落ち着いた声に優里はフッと笑う。

「じゃあ、その手術の成功する確率が40%ってことも知ってる?」

「…ああ。」

「なーんだ、強がる意味無しって感じか。」

一瞬見せた泣き顔とは裏腹におどけてみせるその声が、らしくなくて痛々しい。

⏰:11/11/04 21:39 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#346 [ちか]
「じゃあ、あんたにだけ本音言っちゃおっ かなー。」

ふいに声色が変わる。
陰を帯びた声。
少し震えている。

優里はそう言って上体を起こした。
背中は俺に向けたまま。

月明かりがちょうどスポットライトみたいにそんな優里を照らしていて、なんだか幻想的にさえ思えた。


暫くの沈黙のあと、再び優里が口を開く。


「………ほんとは手術、すっげー怖い。」


それはもうか細くて握り潰せてしまいそうな声。

頭より先に、体が、その震える声に触れようと手を動かしていた。

⏰:11/11/04 21:54 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


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