漆黒の夜に君と。V[BL]
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#387 [ちか]
しかし、“終わり”というのは不条理なもので。
どうしても“思い”より先に来てしまうんだ。
だから涙が止まらなかった。
気持ちだけ置いてけぼり喰らって、もうすぐ傍には別れだけが冷たく待っている。
それは医者を志す人間にとっては極当たり前のことでも、日常的なことでも、その時の俺にはとても堪えられることじゃなかった。
気づけばもう少しで綺麗な桜が見れそうな季節だった。
──────……あいつが、息を引き取ったのは。
「でも暫くして様態が急変した。
駆けつけた時には、すぐにでも消えてしまいそうな浅い呼吸でさ、ああ、これで終わりってやつなのかって思ったよ。
それで俺の顔が真っ青だったんだろな。うっすら目開けたそいつに、どっちが患者だか分かんないって、息も途切れ途切れなのに宥めるみたいに言われて、情けなくなった。俺、なんで今何も出来ないんだって。…───」
すっかり目の色を暗くした俺を、優里は心配そうに覗きこむ。
俺はそんな優里の頭をそっと撫でた。
:11/11/08 19:00
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:9R3No4Oc
#388 [ちか]
精密機器の音も段々聞こえないくらい、俺は周りが見えなくなった。
名前を呼んで辛うじて反応が見える程度と言ったところだろうか。
「ただ泣きそうな顔で見つめる俺に、そいつは震える手から自分がいつもつけてたネックレスを出してきた。
そんで言ったんだ。
“先生はちゃんと、素敵な人と幸せになって”、“コレ持ってたらきっと幸せになれるから。約束だよ。”って。…───」
そして俺がその手から零れるようにそれを受け取った瞬間、何か火でも消えたように静かに終わった。
あいつの人生。あいつの命が。
鮮明に今でも覚えている。
最後に見せた、精一杯の笑顔が。
:11/11/08 19:15
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:9R3No4Oc
#389 [ちか]
「うそ…」
優里の目の奥が揺れる。
敢えてその目をすぐにそらして話を繋げた。
「それから、もう人を好きになれなくなった。
失うのが怖くて消したんだよ、感情を。
でも律儀に“約束は守らないと”っていう自分が居て、そんな時今の妻を紹介された。
それで普通に付き合って、普通に結婚して。
だけど、好きだったかって言われると分かんねえ。おかしな話だよな。そんな暮らしが2年くらい続いたんだけど、カナダ(こっち)へ研究に来る前日に、離婚届突き出されたよ。好きな男が出来たから別れてって。」
ザブンザブンと波の音が聞こえる。
自嘲気味な俺の笑いは拐われるように消えた。
チラリと優里を見るとこれまた複雑そうな顔で。
聞かせる方が酷な気さえする。
:11/11/08 19:32
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:9R3No4Oc
#390 [ちか]
「普通ならショック受けるんだろうけど、なんか俺納得出来ちゃってな。
やっぱ俺に人好きになることなんかもう無いんだろうなって思ってた。
でもやっぱりあの“約束”が気になって、こっちに来てからも離婚届にサイン出来ないでいた。
必死に“一般的な幸せ”を維持しようとしてたんだよ。
そんな時に、会ったのがお前。」
「……─────っ」
急に話の矛先が自分に向けられたことに驚いたのか、一瞬その体がピクリと跳ねる。
そして構えるような目線を俺に向けた。
そんな優里に俺は容赦なく言い放つ。
「正直、最初はお前のこと嫌いだった。」
:11/11/08 19:42
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#391 [ちか]
その瞬間、優里はひっぱたかれたような顔で俺を見る。
「なんだよ、大事な話ってそれ?!嫌いなら嫌いって言えよ!!」
カッと熱くなる顔に苦笑いした。
やっぱり昔の自分に似てるな、なんて思いながら。
「話の途中だろうが。最後まで聞け。」
宥めるように言うと、大人しくなった優里にため息に近い白い息を吐きながら続ける。
「でも、何度も懲りずに言われるうちになんか胸の奥が揺さぶられるみたいな感覚になった。
最初はそれもただの苛立ちだろうって思ってたんだけど、お前があの金髪の友達と仲良くしてるのを見た時は正直妬いた。」
あの日ベランダから見た二人の影が重なる姿がフラッシュバックした。
あの時のどうしようもない苛立ちは、好きが故のことだったのだと今になって思う。
「妬いたって…、俺ケンとは別に…」
「お前がなんとも思ってなくても、相手がそうとは限らない。」
あの夜、襲われてる場面に遭遇した時がそれを示している。
優里は遮られた言葉を続けることもなく、俯いた。
襲われた夜のことを思い出したのだろう。
:11/11/08 21:35
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:9R3No4Oc
#392 [ちか]
そんな優里の頭を乱雑に撫で回した。
まるで、忘れろとでもいうように。
自分も似たようなことをしておきながら。
俺自身も優里を弄んだあの夜に苦い顔をしながら、さらに言葉を紡ぐ。
「でも気づかないように気づかないようにしてた。障害が多すぎんだろって。
これじゃ、約束は果たせねえって。」
どこまでも約束に囚われて
約束に固執する俺。
あいつはそんな俺を望んでいたのだろうか。
そんな俺を繋ぎ止めるための約束だったのだろうか。
いや、
「なのに、手術前日の夜だよ。…どうしようもないくらいお前に惹かれてる自分に気づいたのは。」
きっと、違う。
:11/11/09 01:43
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:/zp5pGog
#393 [ちか]
気づけば細い肩を抱き締めていたあの夜。
泣き顔にさえ、ドキンとしたあの夜。
もう気づいてないフリは出来ないと悟った、あの夜。…───
「俺、お前に実は相当ハマってるみたいだわ。」
そして、ふぅ、と一息ため息をついた。
言い切った安堵とも言える。
いや、正確には、まだ言い終えてはいないのだけれど。
そんな俺とは裏腹に優里は不安げな顔で俺を見つめる。
なんでだよ。
もっと喜ばないか?普通。
そう思ったのも束の間、優里は重苦しい口を開いた。
「でも、…俺とじゃ“約束”は守れないんじゃねーの…?」
その表情がたまらなく愛しい。
:11/11/09 12:44
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:/zp5pGog
#394 [ちか]
「だから、ココに連れてきたんだよ。」
「え…?」
優里の目を真っ直ぐ見据え、そう呟く。
親指で海を指しながら。
「あいつ、この海のどっかで眠ってるから。」
この青くて綺麗な海のどこかに、
白い灰となって。
ますますよく分からないと言った顔をする優里に、俺は付け足した。
「散骨ってやつ。あいつの遺言にそう書いてあったんだよ。もちろん、撒いたのは日本でだけど。でも海はどっかで繋がってると思うから、たぶんあいつはここにも居る。」
だから
俺は最後の挨拶と礼をこめて
ここに来たんだ。
:11/11/09 12:55
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:/zp5pGog
#395 [ちか]
あんなにすがりついていた約束を
あんなに執着し続けていた約束を、
裏切っても言いかもしれないなんて思ってしまったことは奇跡かも知れない。
それなら、
その奇跡に“幸せ”を願ってみても悪くはないだろうか。
もちろんこいつが拒むならそれを優先する心の準備はある。
病気も治った未来ある少年をたぶらかして引きずるようなことはしない。
だけど、
「最後に言っとく。俺はもう30だ。冗談でした、とかなんとか言って逃げるなら今が最後のチャンスだぞ。」
この嵐みたいに何もかもを巻き込んで離さないようなこいつには、
「…っぐ、言わねえ…よッ、グスン、俺はあんたしか…あんたしか見え…てねえんだ…から…────っ」
そんな心配は意味を成さなくて。
俺はそんな優里にどんどん嵌まっていく。
:11/11/09 13:07
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:/zp5pGog
#396 [ちか]
なぁ、
海の中のお前は
そんな俺を許してくれるか?
「グスっ、…神崎こそ、本当に俺で良いのか…?」
いつの間にか涙の膜が決壊した優里が揺れる瞳で問いかける。
そんな優里に俺は微笑んだ。
「お前が良い。」
.
:11/11/09 13:12
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:/zp5pGog
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