消えないレムリア
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#162 [ぎぶそん]
翌週。彼も月曜日から半袖を着るようになった。
でもいつも着ているパーカーシャツが長袖から半袖になっただけなので、特に新鮮味はなかった。
朝、彼が先に玄関で座って靴を履く。
私はその後ろで立ったまま彼の広い背中を見ていた。
「あんたって、何でパーカーが好きなの?」
「着やすいから」
「ふうん。でもあんたって、おしゃれだよね」
「そう?適当だよ」
私はその場で屈み、彼の着ている黒いパーカーのフードを掴んだ。
鼻に近づけると、彼の匂いがした。
少し幸せな気持ちになった。
「何してるの?」
「あ、煙草臭いなって」
本当は煙草の臭いはしなかった。背中はたまに本当に臭うことがあるけど。
「悪かったな」
「煙草、辞めちゃいなよ。臭いし、身体に悪いし」
「無理です」
あーあ、せっかくのいい匂いも台無しじゃん。
私はもう1度彼の匂いを嗅いだ。
:12/06/17 20:48
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#163 [ぎぶそん]
水曜日。昼休み図書館で本を探していると、近くで聞き覚えのある女の子の甘い声がしていた。
その声がする方を見ると、里香ちゃんが友達と一緒に辺りをうろうろとしていた。
私はとっさに顔を俯け、本棚の陰に身を潜めた。
私は彼女が怖い。
私が彼女の好きな真織と一緒に寝てると知ったら、どんなことになるだろうか。
それどころか、キスをしたこともある。
私は彼女が彼のことを諦めてくれればいいのにと思った。
いや、彼女が彼と付き合えばいいのかな?
でもそうしたら、あの匂いを嗅げなくなる。
ジレンマだった。
その日の夜。彼と晩ご飯を食べた後、一緒に音楽番組を観ていた。
男性アイドルグループの出番で、観客の女性たちが黄色い声援を上げていた。
その金切り声が耳に響く。声援というより、悲鳴や発狂に近かった。
:12/06/17 20:58
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#164 [ぎぶそん]
「周り、きゃあきゃあうるさい。歌を聴きにきたのなら、黙って歌を聴きなさいよ」
私には芸能人を見て舞い上がる心理が分からなかった。
「いやいや、男はそうされて嬉しいもんだよ。俺も女の子にきゃあきゃあ言われてみたいなあ。1度でいいから、モテてみたい」
テーブルに頬杖をつく彼がため息をつく。
そういえばこいつ、キスしたこともないって言ってたな。
――それじゃあもしかしたら……。
私は思いついた言葉が、とっさに口に出た。
「……あんたって、女の子と付き合ったことないの?」
「ないよ。告白したことも、されたこともない」
「それってモテてるのに気づいてないだけなんじゃない?ほら、こないだだって里香ちゃんに遊びに誘われてたじゃん。後、あの子ライブの時もあんたの腕に抱きついてたし」
「あの子はただのサークル仲間」
ほら。気づいてない。
:12/06/17 21:07
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#165 [ぎぶそん]
「あんたって存在が浮いてるのよ。何か近寄りがたいっていうか」
「ひでえ。何その言い方。別に俺って普通じゃん」
「周りを雑草とすると、あんたはその中にいるスミレかな。とにかく異質」
「スミレって、紫色の花だっけ。女みたいであまり嬉しくないな」
そこで会話が止まると、彼が真顔でこっちを見る。
「そっちこそ、誰かと付き合ったことあるの?」
「ないよ。私も告白したことも、されたこともない」
「一緒だ」
彼が小さくにっこりとする。
その笑みが私には嘲笑に感じ、少しいらっとした。
そして瞬時に、彼が何か気づいたように目を見開く。
「じゃあ、俺たちってお互い……」
彼の照れる様子に、私は背筋が凍る思いがした。
“お互い性的経験がないんだね”って言おうとしたのだろう。
私は年下に馬鹿にされてるようで、すごくいらいらした。
:12/06/17 21:15
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#166 [ぎぶそん]
私は立ち上がり、彼を突き飛ばした。
床に倒れた彼のお腹に跨がり、右手で彼の顎を掴んだ。
そして、蔑んだ目をして彼の歪んだ顔を見た。
「いい?いつかあんたの“初体験”、私が奪ってあげる。一生のトラウマにしてあげるから」
右手の力を強めた。
「楽しみにしておく」
「それまで絶対に誰ともしちゃ駄目だからね」
「分かった」
彼が首を小さく縦に振る。
そして両手で私の手首を持ち、強い力で自分の顔から離した。
抵抗してもその両手は離れず、私の顔の眉間に皺が寄った。
「そっちも俺とするまで、誰ともしちゃ駄目だよ」
彼がしたり顔でいう。
私はかっとなった。
自分の方がいつも優位な状況に立っていると思ってたのに、実際は彼の方が一枚上手なんだと悟ったからだ。
こいつはその気になれば、本当は私に何でも出来る。
今まで気づかなかった自分に、一気に恥ずかしさを感じた。
「うるさい!」
私は左手で彼の頬に平手打ちをした。
やっぱり里香ちゃんとは付き合ってほしくない。
いや、他の誰とも付き合ってほしくない。
こいつの真っ白な心と身体を、私が汚してやりたい。
こいつは私が独占する。こいつを支配したくなった。
:12/06/17 21:52
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#167 [ぎぶそん]
金曜日。夜、彼は私のベッドに寝にきた。
隣で寝ている私パジャマをめくり、お腹の肉をつまむ。
「すげえぷにぷにしてるし。ちょっと痩せたほうがいいんじゃないの?」
「うるさい。そういうあんたはどうなのよ」
私は彼の着ているシャツをめくった。
色白の締まったお腹が現れる。
そしてそのお腹をつまもうとするが、何度やっても指がかするだけだった。
「男はそんなないよ。うわ、こっちもすげえぷにぷにしてるし」
彼が今度は二の腕をつまんできた。
「二の腕の感触は、胸と似てるらしい」
「へぇ……」
私の言葉で、彼が強く揉みだす。
会話が途切れ、微妙な空気が流れる。
しまった。余計なことを言ったと思った。
彼が何度も揉みながら呟く。
「柔らかい」
まるで、胸がそう言われてる気分になった。
「もうやめてよ!」
私は彼の手を払いのけ、彼に背中を向けた。
「そう怒るなよ」
彼が片腕を私の肩に回してきた。
「俺のこと嫌い?」
「うん」
私はこいつのことが嫌いだ。
だって、こいつといるといつも心臓がうるさくなるから。
自分の心臓まで嫌いになりそう。
:12/06/18 22:52
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#168 [ぎぶそん]
「俺もかなめのことが好きじゃない。いつもつんつんしてるし、おっかない」
「だったら何でくっついてくるのよ」
「好きじゃないけど、なぜかくっつきたくなる」
あほか。私は彼のことを無視した。
「身体ちょっと上げて。両腕で抱きしめたい」
私は無視し続けた。
「聞いてるの?身体上げて」
私は取り合わない。
「お願いだってば」
彼が私の肩を揺する。
「もううるさいわね!分かったわよ……」
私は彼に言われるがまま身体を起こした。
彼が私の身体を包み込むように両腕で抱きしめ、そして私の脚に自分の脚を絡める。
「……いつ俺とするの?」
「何が?」
「こないだ自分で言ってたじゃん。いつか俺と“そういうこと”するって」
「その話はやめて」
「避妊はちゃんとしないとね。だって、子供が出来たりでもしたら大変だし」
「そういう言い方しないで」
「ここでするの?ホテルでも行くの?」
「お願い。もうやめて」
私は首を横に振った。
「冗談だって。ちょっとからかってみただけ。おやすみ」
私は少し涙ぐんでいた。
どうしてこいつは、こんなにも私を恥ずかしがらせるのが得意なのだろう。
どうして私は、こんな辱しめを受けてもどきどきするの?
私は色んなものに苛立ちを感じながら、彼の腕を力強く握りしめた。
:12/06/18 23:32
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#169 [ぎぶそん]
「かなめ!何をやってるんだ!」
翌朝、誰かの怒鳴り声で目が覚めた。
声のした方を見ると、私の両親がリビングで立っていた。
――どうしてここにいるの?
状況がうまく飲み込めないまま、私は身体を起こす。
隣で私を抱きしめていた彼も、慌てて飛び起きる。
それは、最悪のシチュエーションだった。
私は、全身の血の気が引いた。
自分の両親に、今1番見られたくない姿を見られてしまった。
父が彼を凝視する。
「君は誰なんだ。みどりが言う“まおりちゃん”というのは、女の子じゃないのか」
みどりさん、ちゃんと言ってくれなかったのか。
少しおっとりしてると思っていたが、あまりにも抜けすぎている。
彼が床にひざまずき、顔を床につけた。
「すみません!昨日酔っ払ってかなめさんの布団に入ったみたいで……。でも、誓ってかなめさんには手を出していません」
何も悪いことはしていないのに、彼が必死で父に謝る。
でも未成年が酒を飲んだという言い訳は、火に油を注ぐだけだと思った。
父は私以上にそういう不正を嫌うから。
:12/06/18 23:48
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#170 [ぎぶそん]
「かなめ!本当なのか?」
「本当だよ。私、何もされてない」
父がテーブルに置いてある彼の煙草とライターを見た。
「君はうちの娘より1つ下だろう?未成年の分際で、煙草を吸うのかね?」
「はい、吸ってます」
彼が頭を下げたまま言う。
「飲酒の上に喫煙まで。全く、どうしようもない子だな」
父の呆れた様子の顔を見て、私は何故だか怒りを覚えた。
「ちょっとお父さん!彼のことを悪く言わないでよ!」
私は父に負けないくらいの怒鳴り声を上げた。
私は人生で初めて父に反抗的な態度を取った。気の弱い母は、父の後ろでおろおろとしだす。
「本当は彼は酒なんて飲んでない。私が……、私が昨日彼と一緒に寝ようって言ったの」
私はとっさに嘘をついて彼を庇った。
話に信憑性を持たせるために、彼の身体に抱きつく。
自分でも、なぜこんなことをしているか分からない。
でも彼がすごく可哀想に思えて、黙って見ていられなかった。
:12/06/19 22:57
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#171 [ぎぶそん]
「何だと!そんなふしだらな生活をさせるために、大学に通わせてるんじゃないぞ!」
私は父に痛いところをつかれ、身体がびくっとなった。
私は両親に学費を払ってもらい、仕送りまでもらってる。何も言葉が出なかった。
「伊藤くんと言ったね。君は一刻も早く他の部屋を見つけて、この部屋を出ていきなさい。もし今月中に出なかった場合は、君のご家族と話をする!」
「……はい。分かりました」
彼が頷く。
それたけ言うと、両親は出て行った。
彼と2人きりになり、気まずい空気が流れる。
私は肩をすくめている彼をなだめようと、彼の肩に手をかけようとした。
その瞬間、彼が起き上がる。
「ごめんな、最後まで迷惑かけて。明日不動産屋に行って来る」
彼があっけらかんとした表情で私に言った。
私はその平然を装った態度を見て、めらめらと怒りが湧き上がった。
:12/06/19 23:12
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