消えないレムリア
最新 最初 🆕
#1 [ぎぶそん] 12/06/02 16:51
諸事情により、約3年前に書いていたものを内容を少し変えてもう一度最初から書き直したいと思います。

文章を書くのは得意ではありませんが頑張って書きますので、これからお付きあいよろしくお願いします。

#321 [ぎぶそん]
その後も仁和寺、上賀茂神社、下鴨神社と、世界遺産を堪能した。
夕方になり、三条大橋から四条大橋までの鴨川の河川敷を歩く。
川沿いにはカップルらしき男女のペアが何組も座っていた。
私たちの前を、学生服を着た高校生の男女が、横幅20センチの間隔をあけて歩いていた。
付き合いたてなのかお互い何だかそわそわしていて、照れくさそうにしている。

ふいに、男子高校生の嬉しそうな横顔が見えた。隣の女子高生は、さっきから首をきょろきょろとさせている。
「――あんたって彼女いなかったんだよね。欲しいと思わなかったの?」
私は前にいる2人の微笑ましさに笑みを浮かべながら、隣で一緒に歩いている彼に訊いた。
「うーん、欲しくはないこともなかったけど、他に夢中になってたものがあったから」
「何?」
「読書。音楽も怪獣も好きだけど、読書が1番好き」
確かに彼は部屋でよく本を読んでいる。
だけどそれと同じくらいギターも弾くし特撮番組も観てるので、まさかそんなに読書だけ比重が大きいとは思わなかった。

「俺さ、15歳の時から毎日欠かさずずっと――」
そこで彼の口が止まる。
「何?」
私は彼を見た。
「いや、何でもない」
彼が首を垂れる。表情はどこか暗い。
その言葉の続きが気になったけど、言いたくないのなら無理に言わせたくはないので、私も追及はしなかった。

⏰:12/08/31 23:08 📱:Android 🆔:oJzCNo8E


#322 [ぎぶそん]
日も落ちそうな頃、彼が事前に予約を取ってくれた温泉旅館にチェックインした。
2階の角部屋に入ると、サスペンスドラマに出てくるような空間が広がった。
8帖の和室の中央に赤黒い座卓と2人分の座椅子があり、床の間には「和」と書かれた掛け軸と、丸い壺が飾られていた。
デッキテラスにある窓から外を眺めると、雑木林が一面にあるだけだった。

私は食卓の上にあった急須に茶葉を入れ、ポットのお湯を注ぎ、少し間を置いて2つの湯飲み茶碗に淹れた。

床脇にあったテレビの電源を点けると、音楽番組をやっていた。
メンバーは全員現役女子高生なのか、4人の女の子たちが同じセーラー服を着てバンド演奏を披露していた。
それを私も彼もお茶を飲みながら観賞する。
遠い地に来て、ここではじめて現実に戻った気がした。

「みんな私より年下そうなのに、楽器が弾けてすごいなあ」
私はお茶に息を吹きかけながら言った。
「こいつら弾いてないよ」
彼もまたお茶に息を吹きかけている。
「どういうこと?」
私は首をかしげた。

⏰:12/09/02 00:53 📱:Android 🆔:WewZe9mU


#323 [ぎぶそん]
「当て振りって言って、音楽番組なんかは基本楽器を弾かないんだよ。楽器の音は録音。機材トラブルがあったら困るとかで。まあでもプロだし楽器ができることに変わりはないけど」
「そうなんだ。ちょっと残念だけど、事情があるなら仕方ないね」
彼の説明を聞き改めて彼女たちを観ると、その一生懸命さがどこか虚しく思えた。
虚構。夢を売る商売も、そうやって割り切っていかない部分がたくさんあるんだろうね。

彼女たちの演奏が終わり、彼が立ち上がった。
「そうそう、風呂は別々だから。ここら辺で混浴がある宿を探しきれなかった」
「よっしゃあ!」
私は両手の拳を握った。
「ほんと残念。そういうことで、また後でな」
彼はタオルや浴衣を持って、部屋を出た。

私もすぐに入浴の準備をし、1階にある大浴場に向かった。
大浴場は高齢者が多く、温泉に入ったままグループで話し込んでいた。
私も身体を洗った後、ひとり温泉に浸かる。
にごり湯の中には湯の花がちらほら混在していた。
美肌のためにと、何度も顔を浸けた。

温泉から出て脱衣場で浴衣の着方が分からず悪戦苦闘していると、背の低いお婆さんが親切にも代わりに着付けてくれた。
「1人で来たの?」
そのお婆さんが柔和な顔でたずねる。
「えっと、その、男の子と……」
「まあ若いね。じゃあこれもどうせすぐ脱がされちゃうんだね。おほほ」
お婆さんが目尻にいっぱい皺を寄せて笑う。
私は一気に緊張した。

⏰:12/09/02 01:29 📱:Android 🆔:WewZe9mU


#324 [ぎぶそん]
また部屋に戻ると同じ浴衣を着た彼がいて、私の髪をドライヤーで乾かしてくれた。
乾かし終わると、私の着ている浴衣の襟を左右にかばっとめくった。
「もうさすがに跡はないね」
彼が私の右鎖骨らへんをなぞる。1週間以上前に彼からキスマークをつけられた部分だ。
「あれ、どうやってつけたの?」
私がそうたずねると、彼は今度は自分の着ている浴衣の襟を広げた。

そして私の頭を抱きかかえ、自分の胸元に寄せた。
「ちょっと吸い付いたらすぐつくよ。やってみて」
温かい彼の体温が顔に移る。彼の生命の鼓動もはっきりと聞こえる。
「し、しないよ……」
私は彼の身体を両手で押した。

それから間もないうちに、仲居さんの手で次々と懐石料理が運ばれてきた。
「まじうめえ。やっぱ肉より魚だよな」
ハンバーグが好きなくせに、現金なんだから。
私はおいしそうに焼き魚を食べる彼を白い目で見た。

彼の着ている浴衣はまだはだけていて、胸元が半分覗いていた。
彼の上半身裸姿は見たことがあるけれど、中途半端に見え隠れしていると逆にみだらに感じる。
私は彼の胸元に見惚れてしまった。
「何ぽーっとしてんの?」
彼が眉をひそめる。
「え?料理がすごくおいしいなって感心してた」
私はカワハギの天ぷらをぱくっと口にいれた。

⏰:12/09/02 02:43 📱:Android 🆔:WewZe9mU


#325 [ぎぶそん]
長い夕食を終えて、2人デッキチェアに座って色んな話をはじめた。
「和室って、オバケ出そうな独特の雰囲気があるよな」
彼が部屋全体に目を通す。
「じゃあさ、ここで俺が餓鬼の頃に考えた世にも怖ろしい怪談話をしてあげるわ。その名も『はなさかじいさん』」
彼が人差し指を立てて言った。
私は両手を膝の上に置いて、黙って彼の話を聞くことにした。

「ある日の夜、去年死んだ爺さんが夢枕に立ったのがきっかけで、ナオトは墓参りに行こうと決意しました。
次の日の夜、ナオトは薄気味悪い墓地に行き、お爺さんの墓を参りました。
その直後、誰かがいる気配を感じました。なんと、死んだ爺さんが幽霊となって現れ、墓の真横に立っていたのです!

ナオトはびっくりしてその場から逃げようとします。すかさずお爺さんも追いかけ、ナオトの手をぐっと掴みます!
ナオトは必死で抵抗します。でもお爺さんの手をなかなか振りほどけません。
そこでナオトは言いました、『離さんか爺さん、離さんか爺さん』と―…」

「………………」
私は彼の話が終わっても無言のままでいた。
「あれ?やっぱつまんなかった?」
彼が拍子抜けしたように頭を掻く。
私は口を真一文字に結んだまま笑いをこらえていた。肩がぷるぷると震える。結構ツボだった。

⏰:12/09/02 23:09 📱:Android 🆔:WewZe9mU


#326 [ぎぶそん]
やがて瞼もだんだん重くなり、目を何度もこすった。
「そろそろ寝ようか」
私は立ち上がり、隣の部屋へとまっすぐ歩き出した。
襖を開けると、薄暗い6畳の部屋に、敷布団が2つ敷いてあった。
私は脱衣場で出会ったお婆さんの言葉を思い出した。
どうせ今日も彼と何事なく終わると分かりつつも、はげしい動悸に襲われた。

身体を横向きにして布団に入ると、彼も私と同じ布団に入ってきた。
「布団1つでいいのに、な?」
彼が私の胴体を腕1つで抱える。
「暑苦しい。あっち行ってよ」
私は彼の手から離れようと、その場で両足をばたばたとさせた。
「何もしないよ」
後ろからそう小さくつぶやくのが聞こえた。
私は足を動かすのをやめ、身体を後ろに180℃回転させた。
瞬き1つしない彼と目が合った。
こいつはいつもそう。前にいても、後ろにいても、まっすぐな目で私を見ている。

私は少しの沈黙をすぐに遮った。
「あのさあ、さっきの話、『はなさかじいさん』、結構面白かったよ」
「本当に?」
彼の顔に笑みが浮かぶ。
「後……、今、本当はそんな暑苦しくなんかない、かな」
「本当?じゃあもっとくっついてもいい?」
「うん」
彼が私を両手で強く抱きしめる。
旅先であろうと何事なく終わる今日が、お婆さんの予感を見事に壊す彼が、彼のおだやかな胸のリズムに合わせて、心地よく感じた。

⏰:12/09/19 23:38 📱:Android 🆔:.9O/32XA


#327 [我輩は匿名である]
よんでます!
頑張ってください\(^o^)/

⏰:12/09/22 01:41 📱:F08A3 🆔:OdsSxEP.


#328 [我輩は匿名である]
かなや

⏰:13/02/23 00:04 📱:F08A3 🆔:sCbQL2XM


#329 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:22/10/04 21:14 📱:Android 🆔:nH.OoPsQ


#330 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30

⏰:22/10/04 21:15 📱:Android 🆔:nH.OoPsQ


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194