消えないレムリア
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#1 [ぎぶそん]
諸事情により、約3年前に書いていたものを内容を少し変えてもう一度最初から書き直したいと思います。

文章を書くのは得意ではありませんが頑張って書きますので、これからお付きあいよろしくお願いします。

⏰:12/06/02 16:51 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#2 [ぎぶそん]
部屋中に散らばった教科書やプリント。
テーブルの上に山積みに置かれたカップ麺の容器。
衣類もあちこちに散乱していて、どれが洗濯したものでどれが着たものかすら分からない。

見るからに汚いこの部屋に、私、足立かなめは生息している。
片付けよう。大学の春休みの期間、何度もそう思ったがいまいち身体が動かない。
三つ子の魂百までとは言ったもので、この性格は一向に直る気配はない。

でもこの部屋を訪ねてくる知人はほとんどいないし、これでも別に構わないとさえ思ってしまっていた。
誰にも邪魔されない。この部屋は私にとって最高のテリトリーだ。

⏰:12/06/02 16:58 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#3 [ぎぶそん]
3月中旬。お昼、ベッドの上でスナック菓子を食べながら雑誌を読んでいると、テーブルの上の携帯電話が鳴った。

「もしもし。かなめちゃん?」
叔母のみどりさんからだった。

みどりさんは私の父の妹にあたる存在で、現在は埼玉県で旦那さんと子供と一緒に暮らしている。
みどりさんと最後に会ったのは高校3年のお盆の時で、こうして会話するのもそれ以来である。
珍しい人から電話が掛かったと思っていると、みどりさんは私に元気してるのだとか大学生活はどうだとか色々と質問してきた。

「それで、相談があるんだけどね」
みどりさんが本題に入った。

⏰:12/06/02 17:06 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#4 [ぎぶそん]
「叔母さんの知り合いのお子さんで今度、かなめちゃんと同じ大学に通う子がいるの。
でも……、なかなかそっちで住む場所が決まらないらしくて。
それでね、少しの間でいいから、かなめちゃんの部屋に一緒に住ませてもらえないかと思って電話してみたんだけど……」
みどりさんが遠慮がちにそう言った。

赤の他人と共同生活か。考えただけでも、窮屈である。

「そうですねえ……」
私は返事を渋った。

⏰:12/06/02 17:13 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#5 [ぎぶそん]
「叔母さんは悪い話じゃないと思うわ。だって、払う家賃も今までの半分になるのよ!」
みどりさんのその言葉に、私はごくりと唾を飲んだ。
みどりさんが言うそれは、いわゆるルームシェアの最大の利点だ。

私は少し共同生活というものを想像してみた。
考えてみれば同居人がいた方が緊張感が増して、生活にめりはりが出来るかも知れない。
そうしたらだらしのないこの性格とも、いよいよおさらば出来るかも知れない。
頭の中の考えが、どんどんいい方向へと進む。

「分かった」
私はみどりさんの要求を呑むことにした。

⏰:12/06/02 17:20 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#6 [ぎぶそん]
「ありがとう。その子は、イトウマオリちゃんっていう名前の子よ。
イトウの漢字は伊藤博文と同じで、真面目の『真』に、西陣織の『織』ね」
「真織ちゃんかあ。可愛らしい名前の子だね」
「え、ええ……」
一瞬、みどりさんの声が生返事に聞こえたのは気のせいだろうか。

それから今度の詳しい段取りを聞いて、みどりさんとの電話を切った。
こうしちゃいられない。三日後に来るという同居人をきちんと迎えるため、私は大急ぎで部屋を片付けることにした。

⏰:12/06/02 17:27 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#7 [ぎぶそん]
夕方。あんなに散らかっていた部屋は、あっという間に綺麗になった。
昼間とは段違いに片付いた部屋を見回して、私はまだ見ぬ真織ちゃんとやらいう子に心の中で感謝をした。

その日の夜。私は近々同居人となる真織ちゃんのことを想像してみた。
名前からして、細身でしおらしい性格の子だろうか。
いや、あるいは名前とは対照的な、活発で体育会系な子かも知れない。

別になんだっていい。ただ、一緒にいて何ら苦労も感じない、空気みたいな存在であることを祈る。
そう思いながら、眠りについた。

⏰:12/06/02 17:38 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#8 [ぎぶそん]
そして三日後。朝から風呂掃除をしていると、インターホンが鳴った。
真織ちゃんかな?私は掃除をやめ、急いで玄関に向かった。

「足立かなめさんのお宅ですか?」
ドアを開けると、作業着を着た引っ越し業者の男性が立っていた。
それから業者さんの手によって、部屋にわらわらと荷物が運ばれてきた。
その荷物の多さを見て、私はこの部屋に本当に新しい住人が来るのだということを実感した。

業者さんが出ていくと、荷物の中に黒いギターケースがあることに気がついた。
ふうん。真織ちゃんって、音楽やるんだ。
私はそのギターケースを慎重に壁に立て掛けた。

⏰:12/06/02 17:46 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#9 [ぎぶそん]
夕方、再びインターホンが鳴った。
今度こそ、真織ちゃんだろう。
遂に同居人との対面だ。
私は緊張の面持ちでドアを開けた。

しかし私の予想とは違い、そこには身長175センチくらいの、灰色のパーカーを羽織った男性が立っていた。
誰だろうと思ったが、私はこの状況をすぐに理解できた。
きっと、隣に住む女性の彼氏だ。
こっちに引っ越してから、その男性に部屋を間違えて訪ねられたことが何度かあった。
その男性の姿形は覚えていないが、確か目の前にいる彼みたいな感じだった気がする。

「えっと、渡瀬さんなら隣の206号室ですよ?」
しかし、私の言葉の意味が分からないのか、その男性はきょとんとした顔をする。
「いえ、俺、今日からこちらに一緒に住むことになった伊藤真織ですけど……」
私は言葉を失った。

⏰:12/06/02 17:56 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#10 [ぎぶそん]
迂闊だった。思いもしなかった。まさか、男の子だったなんて。
みどりさんに少し腹が立ったが、話をきちんと聞かなかった自分が悪いに決まっている。

しかし、目の前の真織くんは自分より年下であるとは到底思えない、随分大人びた子だ。
ついこの間まで高校生だったことが、まるで信じられない。

「ああ、あなたが真織くんね。初めまして。どうぞ」
本当は女の子が来ると思ってたなんて知れたら格好悪い。
心中を悟られないように、私は平然を装って彼を部屋に入れた。

⏰:12/06/02 18:03 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#11 [ぎぶそん]
私はリビングまで彼を招き入れると、彼に飲み物を出そうと冷蔵庫を開けた。
その彼はリビングに腰を下ろすや否や小さな箱から煙草を1本取り出し、慣れた手つきで煙草の先にライターの火を着けた。
そして、一息ついた様子でふうと煙を吐く。

ちょっと、まだ18歳でしょ。何、堂々と煙草なんか吸ってるのよ。
少し頭に来たが、出会って早々関係がこじれるのは避けたいのでぐっと堪えた。

「はい」
私は作り笑いで彼に麦茶を差し出した。

⏰:12/06/02 21:20 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#12 [ぎぶそん]
彼は煙草を吸い終わると、ダンボールから荷物を出して整頓をし始めた。

「これ、この部屋の鍵」
その途中、私は彼に合鍵を渡した。
彼はジーンズのポケットから革製のキーケースを取り出し、早速鍵をその中に入れた。

それから一言も会話をすることなく、彼は黙々と作業に取りかかっていた。
私はベッドの上で雑誌を読みながら、時々視線を彼の方にやった。
彼は衣類をひたすらたたみ、収納ボックスにどんどん押し込んでいた。
複数の収納ボックスが、どんどん壁際に配置されていく。

広かったこの部屋が、彼のお陰でどんどん狭くなる。

⏰:12/06/02 21:32 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#13 [ぎぶそん]
18時を過ぎた頃、彼が立ち上がった。
「この近くにコンビニある?」
「アパートを出て正面にある信号を渡ったら、すぐ目の前にあるよ」
キーケースと財布を手にして、彼は部屋を出た。

彼が外出している間、私はダンボールの中を覗いてみた。
その中にはミドリムシという変な名前のバンドのCDと楽譜の本が大量に入ってあった。

私は音楽にはあまり興味がない。
興味を持たない理由は特にないが、私には趣味という趣味がほとんどない。
カメラを持つ自分の姿がかっこいいんじゃないかという不真面目な理由で大学の写真部に入部したが、それもすぐに飽きて、ここ半年はほとんど部室に顔を出していない。

だから、こうして好きなことに打ち込める真織くんを羨ましく思う。 

⏰:12/06/02 21:45 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#14 [ぎぶそん]
ダンボールの中をよく見ると、片隅にソフトビニールで出来た怪獣の人形が入っていた。
何だこれ。少し疑問に思ったが、気にも止めないことにした。

その後、20分ほどして彼が戻ってきた。
リビングに着くとすぐにコンビニの袋から煙草と弁当を出し、テーブルの上に置いた。

「あんたもどうぞ」
彼が私に弁当を差し出してきた。
あんたって。少しは年上のことを敬いなさいよ。
でも、私の分まで買ってくれたことは素直に嬉しかった。
「ありがとう。お金払うよ」
私は鞄から財布を取り出そうとした。

⏰:12/06/02 21:56 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#15 [ぎぶそん]
「いいよ。俺のおごり」
私のことには目もくれず、彼がどさっと大きな音を立てて座った。

彼は無愛想でとっつきにくい。
何だか、普段笑っているところが想像できない。

その後、時計の針の進む音が聞こえる中で、お互い黙々と弁当に手をつける。
気まずい。 そう感じ、テーブルの上にあるテレビのリモコンに手を伸ばした。

電源ボタンを押すと、ちょうどニュース番組の最中だった。
特集で、新生活を快適に送るグッズだとかを紹介していた。まるで興味がない。
でもその新生活とやらを送る彼は、一度もテレビに目を向けることなく弁当を食べていた。

⏰:12/06/02 22:04 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#16 [ぎぶそん]
19時になると、彼が口を開いた。
「チャンネル変えてもいい?」
「どうぞ」
私は彼にリモコンを渡した。

彼はチャンネルを回すと、「音速戦士ステレオマン」という特撮テレビ番組でちょうど止めた。
その番組の陽気なオープニングの曲が、リビングに流れ始める。

――何これ。こんなの観るの?
可笑しさのあまり、私は思わず吹き出しそうになった。
そこで、彼の荷物に怪獣の人形があったことを理解した。
大人びた外見からは想像も出来ない、意外な趣味を垣間見た。

⏰:12/06/02 22:18 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#17 [ぎぶそん]
彼は箸を動かすのをやめ、テレビに釘付けになっていた。
彼をそんなに夢中にさせるものがどんなものか気になり、私もその番組を観てみることにした。

まず、宇宙からやって来た巨大な怪獣が街を破壊し、人々を恐怖に震え上がらせる。
そして主人公の青年がステレオマンとやらに変身をし、怪獣並に巨大化する。
最後にステレオマンがバイオリンみたいな武器で怪獣をやっつけ、再び街に平和が戻る。

単純明快な内容だけど、まあつまらなくはないと思った。
こんな夢や希望に溢れた物語が好きなんて、彼もそんなに悪い奴じゃなさそうだと思い始めた。

⏰:12/06/02 22:28 📱:Android 🆔:qps2jHGA


#18 [ぎぶそん]
番組が終わり弁当を食べ終えると、彼はまた荷物を整頓する作業に取り掛かった。
荷物もだいぶ片付いたようで、部屋の隅で空になったダンボールが山積みになっていた。
それから彼は収納ボックスの上に怪獣の人形をいくつも並べ始めた。
しかしそれだけではスペースが足りなかったのか、私の本棚の上にまでも人形を並べる始末になった。

――ちょっと待て!そんなもん置くな!
心の中でそう叫んだが、彼に文句を言う筋合いはない。
だってこの部屋はもう私だけのものじゃなく、彼と私のものになったんだから。

殺風景だったこの部屋が、一気にフリーダムな空間へと姿を変えた。

⏰:12/06/03 08:58 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#19 [ぎぶそん]
その後、気がついたら私はベッドの上で雑誌を片手に眠っていた。
時計の針は10時を指していて、私は慌てて湯沸し器のボタンを押しにいった。

10分後、お風呂が沸いたことを告げるアラームが鳴った。
「お風呂入ったら?」
「まだいい」
彼のために普段入れないお風呂を入れたのに、そっけなく返された。
自分の行動に空回りさを感じながら、私は彼より先にお風呂に入ることにした。

脱衣室で服を脱ごうとした時、ふとある想像が働いた。
――もしかして、私がお風呂に入ってるところを覗くんじゃ?

彼も一応男の子。油断は出来ない。
音を立てず脱衣室の扉を開け、リビングにいるであろう彼の様子を見た。

⏰:12/06/03 09:08 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#20 [ぎぶそん]
彼はベランダに出て、外の景色を見ながら煙草をふかしていた。
考えすぎか。鍵もかけず、私は安心してお風呂に入ることにした。

身体を洗って湯船に浸かり、今日一日の出来事を振り返ってみた。
今日は人生でも特に最悪な一日だった。
同居人は女の子かと思ったら、まさかの男の子。
未成年でありながら煙草は平気で吸うし、つっけんどんな態度だし、敬語は遣わないし生意気だ。
そのくせ特撮が好きだったりして、予測不能な部分もある。

もう、訳が分からない。
でも、決して嫌いという訳ではない。

⏰:12/06/03 09:20 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#21 [ぎぶそん]
同じ大学の友人に、毛利佐奈という子がいる。
入学当初に行われたオリエンテーションの時、偶然席が隣どおしになったことがきっかけで仲良くなった。
以来この1年間、彼女とはいつも一緒にいた。

佐奈は飽きっぽく気まぐれな性格で発言がころころと変わるので、しょっちゅう私を悩ませる。
でも私は佐奈のことが大好きだ。
たぶん、私は自分の周囲をかき乱す人物が好きなんだと思う。

だから真織くんのことも嫌とは思っても、本当に嫌いになることはないだろう。

⏰:12/06/03 09:30 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#22 [ぎぶそん]
お風呂から出ると、彼はベランダの窓に背もたれ、アコースティックギターを弾きながら小さな声で歌っていた。
音楽に興味のない私だったけど、なぜかその姿に興味をひかれた。
私はタオルで濡れた髪を拭きながら、彼の近くに寄った。

「どうこう言ったって 僕もいつか星になる 星になる
その一粒を 君に見てほしい 見つけてほしいんだ」

今日一日私に見せた態度と言葉遣いとはほど遠い、優しく柔らかな声で歌う。

「それ、『ミドリムシ』ってバンドの曲?」
「知ってるの?」
「ううん。荷物の中に楽譜があったのを見たから」
荷物を勝手に見たことを怒られると思ったが、彼は気にもとめない様子でまたギターを弾きだした。

⏰:12/06/03 09:39 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#23 [ぎぶそん]
彼の歌った曲の歌詞が気になったので、私は近くで開いていた楽譜を覗いてみた。
「星座の居場所」というタイトルのようだ。

『所詮、この世界では、僕は大勢の中の一人なのだろう。
彼女も、星の中から偶然、僕を見つけただけなのさ。

こぐま座も、おうし座も、本当はただの点さ。
どうして、僕たちは、無関係な星を結びたがる。

輝いて、輝いて、朝になるまで、輝いて。
その一粒を、僕は見ている。見ているから。

僕だって、星の数から偶然、彼女を見つけただけなのに、
どうして、僕たちは、一つになりたがる。

輝いて、輝いて、灰になっても、輝いて。
その一粒を、君に見てほしい。見てほしいんだ。

どうこう言ったって、僕もいつか星になる。星になる。
その一粒を、君に見てほしい。見つけてほしいんだ。』

⏰:12/06/03 09:49 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#24 [ぎぶそん]
句読点が多く、短編小説を読んでいる気分になった。
でも、嫌いじゃない。むしろ好きかも。
何となくそう思った。

「好きなの?このバンド」
「別に」
彼が顔を背けた。きっと、本当はすごく好きなのだろう。

「さてと。風呂入ろうかな」
ギターをケースにしまい、彼は向こうに行ってしまった。
彼がお風呂に行っても、私はその場で「星座の居場所」の歌詞を繰り返し読んでいた。

この現代社会において個性的な人は異端とされ、罵られる。常に他人と同じであるように求められる。
この曲はそういった世の中を疑問視するメッセージが込められてると感じた。

⏰:12/06/03 09:58 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#25 [ぎぶそん]
それから私はノートパソコンを立ち上げ、「ミドリムシ バンド」で検索をかけてみた。

ミドリムシ。静岡県出身の4人組からなるロックバンド。
ボーカルの斎藤正裕とギターの小松貴也を中心に、高校時代に結成。
その5年後、メジャーデビュー。
昨年の夏、念願だった初の武道館公演を果たす。
ほとんどの楽曲をボーカルの斎藤正裕が手掛ける。
今年2月、「星座の居場所」が深夜ドラマのエンディングに抜擢。初のタイアップ。

こんなバンド、聞いたことないけど結構有名なのかな。
物知りの佐奈なら知っているかも。
大学が始まったら聞いてみよう。

⏰:12/06/03 10:09 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#26 [ぎぶそん]
ふと、バンドの公式サイトに載ってあったボーカルの斎藤正裕の顔が目についた。

年齢は大体30手前だろうか。まだまだ若い感じ。
黒髪で毛先にゆるやかなパーマがかかった髪型は、今ここにいる真織くんとまるで同じだった。
きっと、真織くんはこの人に憧れているのだろう。
誰かを目指してその真似をするなんて、生意気な性格にしてはかわいいところがあるじゃない。

ボーカルの色白で綺麗な肌も、真織くんに似ていた。
でも、ボーカルの人の方が断然に優しそうな感じだ。
真織くんは冷たそうで近寄りがたい雰囲気だもん。

⏰:12/06/03 10:21 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#27 [ぎぶそん]
パソコンを閉じ、ベッドの上で雑誌を読んでいると彼がお風呂から出てきた。
そして、はっとした様子でつぶやいた。
「やべえ。今日、こっち来て布団買うの忘れてた」

そして、彼はベッドの上で寝そべっている私の元に寄ってきた。
「布団、半分借りていい?明日ちゃんと買うんで」
彼が私の目を見て言った。

流石にそれはまずいんじゃないかと思った。
仮にも、男と女だし。
「えっと、その……」
私が戸惑いながら答えを出せずにいると、呆れた様子で彼が口を開いた。
「何、照れてんの。こっちはあんたのこと、全く女として見てないんだけど」

⏰:12/06/03 10:33 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#28 [ぎぶそん]
カチン。頭の中でそんな音が聞こえた。
「好きにすれば」
私だけ変に意識して馬鹿らしい。こっちだって、あんたのことなんかこれっぽっちも男して思ってないんだからね。
私は彼に背を向け、身体を壁際に寄せた。

彼は部屋の明かりを消すと、身体の向きを私とは正反対にして布団に入ってきた。
「……大学ってどんなところ?」
暗がりの中、向こう側からこんな質問が聞こえた。
私に物事を尋ねてくるなんて、どういったものの心境だ?私は少しからかってみることにした。
「そんなことも知らないの。勉強するところに決まってるでしょ」
「それは分かってるわ」
彼が私の背中を足で蹴ってきた。
「痛い。何するの」
私も対抗すべく彼の身体を激しく蹴り返した。

⏰:12/06/03 10:44 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#29 [ぎぶそん]
「この野郎」
彼が起き上がり、全体重をかけて私の身体にのしかかってきた。
その重さは胸を一気に圧迫した。
「苦しい?」
上にいる彼がへらへらと笑う。

ちょっとやめてよ。暗闇でこんなに密着されたら、流石に緊張する。意識する。
心臓が破裂しそうなくらい、ばくばくと鳴る。
もー。やっぱりこいつ大嫌い。

「降参。降りて」
恥ずかしいのと息が苦しいのとで、私はすぐに助けを求めた。
彼は身体をすぐに離し、そのまま私と同じ向きで隣に寝込んだ。

⏰:12/06/03 10:51 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


#30 [ぎぶそん]
ちょっと、なんで一緒の向きになってるのよ。
私は咄嗟に彼に背中を向けた。

落ち着け、私。そうよ、こいつはいわば弟みたいなもんよ。
弟と同じ布団に寝て、わざわざ緊張する姉がどこにいる?
何でもない。何でもない。これは、取るに足らない日常。
乱れた呼吸を整えるべく、私は心の中で自分に暗示をかけ続けた。

「あんた、今日から来る同居人が女だって思ってたでしょ?」
息も少し落ち着いた時、後ろから彼の声が聞こえた。

⏰:12/06/03 11:00 📱:Android 🆔:Ddsu8QkE


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