消えないレムリア
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#171 [ぎぶそん]
「何だと!そんなふしだらな生活をさせるために、大学に通わせてるんじゃないぞ!」
私は父に痛いところをつかれ、身体がびくっとなった。
私は両親に学費を払ってもらい、仕送りまでもらってる。何も言葉が出なかった。
「伊藤くんと言ったね。君は一刻も早く他の部屋を見つけて、この部屋を出ていきなさい。もし今月中に出なかった場合は、君のご家族と話をする!」
「……はい。分かりました」
彼が頷く。
それたけ言うと、両親は出て行った。
彼と2人きりになり、気まずい空気が流れる。
私は肩をすくめている彼をなだめようと、彼の肩に手をかけようとした。
その瞬間、彼が起き上がる。
「ごめんな、最後まで迷惑かけて。明日不動産屋に行って来る」
彼があっけらかんとした表情で私に言った。
私はその平然を装った態度を見て、めらめらと怒りが湧き上がった。
:12/06/19 23:12
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#172 [ぎぶそん]
「いつかいなくなるんだったら、最初から私の目の前に現れないでよ!」
彼の身体を手のひらで何度も叩く。
「ごめん。好きなだけ殴っていいよ」
彼は一切抵抗することなく、悲しげな目をして私を見ていた。
私は肘で思いきり彼の胸元を突いた。
その拍子で後ろに倒れた彼のお腹に跨がり、両手を彼の首にかけた。
悔しい。何のために、私が自分の父親からあんたを庇ったと思ってるのよ。
あんたは、私のもの。
どこにも行かせやしない。
こいつが私のものにならないなら、いっそのこと……。
「私は、あんたの全部が欲しいのよ」
私は、少し彼の首を絞めた。
「あげるよ」
彼は何も抵抗することなく、澄んだ瞳でこっちを見ていた。
私はすぐに手を離した。
そして、その場で声に出して泣いた。
いつもさんざん辛く当たってるじゃない。
どうして嫌いにならないの?
どうして、こんな私を受け入れてくれるの?
:12/06/19 23:25
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:VnBGkXIc
#173 [ぎぶそん]
「何で泣くの?泣かれると困るよ」
彼が私の頬に手をかける。
少しだけ、そのまま彼に抱きつこうと思った。でもそうすれば彼に自分が弱い人間だと思われてしまう。
私は瞬時にその手を払い、 玄関に向かって走った。
気がつけば、私は泣きながら部屋を飛び出していた。
アパート前の信号で体裁を気にし、泣くのをやめる。
目的があるわけでもなく、大学までの道をまっすぐ歩いた。
商店街の中に入り、広場にあるベンチに腰掛けた。
自分の目の前を、たくさんの人が通る。
ただそれを呆然と見ていた。
そういえば私、あいつが来てから他の異性のことを気にも止めなくなった。
以前は少なからず意識して、“かっこいい”“好みじゃない”と判断していた。
バイト先にも一応男性がいるけど、何とも感じない。
皆、私にとってただの物質になってる。
もし他の人が同居人だったら、今頃どうなってたのだろう?
何であいつだった?
あいつは私にとって、うっとうしくて迷惑な存在だ。
でも私は、あいつと出会って後悔はしていない。
私をこんなにいらいらもどきどきもさせる奴は、他にいない。
あいつは面白い。全てが自分にないものを持ってるから。
:12/06/19 23:44
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#174 [ぎぶそん]
1時間ほどしてベンチに座ってるのが退屈になり、商店街の中を散策した。
買う気もないのに、適当に薬局や雑貨屋に入ったりした。
日が暮れて、大学まで歩いてみた。
夕暮れに染まる大学のキャンパスを、1人ふらふらとさ迷う。
途中で、軽音楽部がいつも使うあの大理石のテーブルとイスが目に入った。
そのイスに座り、顔をうつ伏せた。
あいつ、いつもここで皆とどんな話をしているのだろう?
私のことも話題に出てくるのかな?
そう思うのは、少し自意識過剰すぎるか。
あいつは、私がいなくてもやっていける。
いなくなって駄々をこねるのは、本当は私だけ。
自分で出した結論に虚しくなり、そこで考えるのをやめた。
「見っけ」
しばらくそのままでいると、近くで聞き慣れた声がした。
顔を起こすと、真織が目の前に立っていた。
「どうしてここが分かったの?」
「商店街のベンチにいた時から、ずっと後ろをつけてたよ」
全く気がつかなかった。
どうしてすぐに声をかけなかったのだろうか。
そう思っていると、彼が私に手を差し伸べてきた。
「帰ろう」
私は迷わずその手を取った。
:12/06/21 00:08
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:/k1Vm..Y
#175 [ぎぶそん]
2人で手を繋いで、誰もいない校内を歩く。
夕日で伸びた2つの影は、とても仲睦まじく見えた。
今この瞬間はこんなにも彼と近くにいるのに、近い未来これが懐かしい思い出と変わってしまうのだろうか。
私は胸が一気に苦しくなった。
「……出て行かないでよ」
私はぼそぼそとした声で喋り、話を続けた。
「明日、2人で私の実家に行こう。お父さんを説得して許してもらおうよ」
「なんでそんなに俺との生活にこだわるの?」
「あんたの作る料理がおいしいから」
本当は、彼は野菜炒めばかり作るので飽き飽きしている。
「そんな理由だけ?」
彼が立ち止まった。
びっくりして見上げると、いつになく真剣な顔をしていた。
その顔を見て、私は正直な気持ちを伝えようと決心した。
「あんたの歌ってるところがもっと見たい。あんたのバイクにもっと乗りたい。……あんたともっと一緒にいたい」
私はいつになく気持ちが高ぶっていた。
彼が大きな目を丸くした後、声に出して笑いはじめた。
そしてずっと握っていた私の手を引っ張って、私の身体を自分の元に引き寄せた。
「俺もだよ。かなめとずっと一緒にいたい」
そう言う彼の声はいつになく優しく聞こえた。
:12/06/21 00:31
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#176 [ぎぶそん]
彼が繋いでいた手を離し、私をきつく抱きしめてきた。
私も自分の両腕を、彼の身体に回した。
彼のシャツから少し煙草の臭いがしたけど、今はその匂いさえもいとおしく感じた。
「あんたは私がいないと嫌?」
「かなり嫌。いや、死ぬほど嫌だね」
私はあまりの嬉しさでつい、涙が込み上がりそうになった。
自分と誰かが全く同じ気持ちでいることが、こんなにも幸せなんだとは思いもしなかった。
「かなめの実家ってどこ?」
「山梨だよ」
「近いな。じゃあ明日、一緒に行こうか」
彼の言葉に、私は彼の胸の中で何度も頷いた。
お互い身体を離し、再び手を繋いで公園を歩いた。
大学の校門を出る前、彼が口ずさむ。
「『年上であっても わがままだとしても
心で燃え立つ熱情を あなたとくべていきたい
愛想がなくても 冷たくされても
ほんの一瞬 見せてくれた笑顔が愛しい』」
「それミドリムシの歌?そんな歌あったっけ?」
「いや違うよ。昔そんな歌あったなって。何か、今の俺の……何でもない」
彼が顔に表情を失わせて俯いた。
その態度を不審に思ったが、私は気にしないことにした。
それからずっと、私たちは手を繋いだままアパートまで戻った。
:12/06/21 01:02
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#177 [ぎぶそん]
夜。お風呂から出ると、彼が薄暗い部屋の中布団の上で煙草を吸っていた。
「おいで」
灰皿で煙草の火を消し、私を胸元に呼び寄せる。
私は迷わずその場所に向かうと、ふわりと抱きしめられた。
いつもよりもっと優しい感じがした。
彼は私の身体をゆっくり倒し、私の身体に覆い被さった。
私の顔を触りだし、やがて唇を触り始める。
「キスしてもいい?」
彼に真面目な顔で言われた。
私は薄暗い中彼の唇を見た。色気を感じて、どきどきする。
私はその唇をふいに指先でなぞった。
「……いいよ。でも、1回だけだからね」
彼は私の髪を耳にかけ、両手で私の顔を見た。
彼の顔が近づく。
私は目を閉じた。
彼が私の唇に、自分の唇を押し付ける。
言葉ではうまく言い表せない、不思議な感触がする。
向こうも私と同じ感触がしているのかな?
私は彼の首にしっかりと自分の両腕を絡めた。
私にとって彼はキスを1番やりたくない相手から、1番やってもいい存在に変わっていた。
:12/06/21 20:03
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#178 [ぎぶそん]
そのキスは息が出来なくなるまで続いた。
彼が唇をゆっくりと離す。
「これで3回目だね。俺にとっては2回目だけど」
彼の顔が少しにやつく。
上で私を覆う彼を見て、私の心臓の鼓動が早くなる。
私はこれ以上先があることを期待してしまった。
そして、本能で彼を求めてしまいそうになった。
明日は真面目な話で両親に会わなきゃいけないのに、何を考えているのだろう。
私は自己嫌悪した。
「もう寝なきゃ」
私は彼に顔を背けた。
「そうだな」
彼が私の隣に横になり、私の手を取る。
私たちはお互いの手を絡め、見つめあった。
「もし明日駄目だったら、新しい俺の部屋に泊まりに来いよ」
「うん」
「毎日でもいいよ」
「うん」
そこでお互いに会話が途切れた。
空気が重い。お互い明日が不安で仕方がない。
「おやすみ」
彼が手を繋いだまま仰向けになる。
しばらくして、彼は寝息を立てて眠っていた。
彼はいつも先に寝る。
私が彼が隣にいると、なぜか寝つきが悪くなる。
私は目を閉じ、彼のことを考えた。
私は自分でも彼のことをどう思っているのか分からなくなった。
でも彼にいなくなってもらうと、確実に困る。
:12/06/21 20:23
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#179 [ぎぶそん]
次の日の朝。2人で身仕度を済ませ、バイクで駅まで走った。
駅に入ると彼は販売店で、私の両親に渡す菓子を買っていた。
意外と細かいところに気がつく子なんだと思った。
自動券売機で切符を買い、改札口を抜けて山梨行きの電車に乗る。
電車の中で、会話はほとんどなかった。
父を説得できなかったらどうしよう。そのことばかりが頭をよぎった。
自分の家に帰るのが、こんなに憂鬱に感じるなんて。
うたた寝をしていると彼に起こされ、電車が目的地に到着した。
駅前にあるバスに乗って、家の近くまで向かった。
バスの中で、彼は隣で目新しそうに窓の景色を見ていた。
20分ほどでバスを降り、何もない一本道を少し歩いた。
住宅地に入り、木造で出来た一軒家の前に立った。
呼び鈴を押すと、母が出た。
「お母さん?かなめだけど」
「かなめ!?どうしたの?」
「お父さんに話があるの。真織もいるから」
少し経って、母がドアを開ける。
「2人とも、昨日は突然訪ねたりしてごめんね。真織くん、主人が嫌な思いをさせてごめんなさいね」
母が悪そうに何度も頭を下げる。その姿を見て、母は私たちの味方に思えた。
:12/06/21 22:20
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#180 [ぎぶそん]
中に入ると木の優しい匂いが広がり、半年前正月で帰ったのになつかしい感じがした。
「お父さん、客間にいるから」
母が1人で居間に入る。私は彼と居間へと続く長い廊下を歩く。木で出来た床が歩く度きしむ。
客間の障子を開けると、父が腕を組んで厳格な様子で座っていた。
私と真織は父に対面して座った。
真織が菓子を差し出した後、頭を下げる。
「昨日はお見苦しいところを見せてすみませんでした。お父さんには出て行けと言われましたが、それはやっぱり出来ません。どうか許して下さい」
私も彼に続いて頭を下げる。
父はしばらくの沈黙の後、口を開いた。
「君はどうしてあの部屋にこだわるのかね?」
「今の生活が充実してるんです。だからどうしても失いたくないんです」
「お父さん、私も彼が来てから変わったんだよ。あの部屋見たよね?すごく片付いてたでしょ。ご飯も自分で作って食べてるんだよ」
私はもう真織にだらしない性格がばれようがどうでもよかった。
無我夢中で父を説得しようとした。
「正直に言いなさい。2人は、お互い恋愛感情があるのか?」
父の質問に、言葉を失った。
真織が最初に答える。
「……すみません、それは分かりません。でも、かなめさんは僕にとって大切な存在です。お父さんの代わりに、僕がかなめさんを守りたいと思ってます」
たかが同居人の身分でそこまでする義理はないだろうと思いつつ、私はくすぐったい気持ちになった。
「お父さん、私も彼と同じ。彼のことが大切なの」
私は彼に話を合わせた。
:12/06/21 22:43
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