消えないレムリア
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#252 [ぎぶそん]
メンバーは一旦談話室で解散となり、私は彼と2階にある洋室まで荷物を置きに行った。
8畳ほどの広さの部屋はベットが2つあり、風呂トイレが共同で設置してある。
荷物を床に置くと、2人でベランダに出た。
「空気がうまいな」
隣にいる彼が深呼吸をする。
耳を澄ますと、近くで流れている川のせせらぎが心地よく聞こえてきた。

下に目をやると、渋沢先輩が玄関から出てきた。
「あの人かっこいいよな。背も高いし」
真織も彼を見る。
先輩は茶髪で色黒で、赤いフレームの眼鏡を掛けている。
身長は180センチ近くあって、筋肉質で逞しい体をしている。
色白で細身の真織とはタイプが全く違う。
先輩は高校時代非常にモテたらしく、恋愛経験も豊富らしい。
そういう点でも真織とは対照的だ。
2人に甲乙をつけるとするならば、私は断然に真織を選ぶ。
清廉潔白な真織の方が一緒にいて落ち着くから。彼の心は川の流れのような清さを感じる。

そんなことを思っていると、部屋のドアから軽快なノックの音がした。
ドアを開けると、まりやと1年生の角川くんという男の子が立っていた。
まりやは私たちにバドミントンをやらないかと誘ってきた。彼も興味津々だったので、私たちはその誘いに乗った。
1階の受付で用具を借り、外にあるテニスコートを利用して、私と真織、まりやと角川くんのペアになってダブルス戦を行うことになった。
対戦がはじまると、ほとんど私のミスで点数を奪われてしまった。でも、後方にいる彼が徹底的に応戦してくれた。
その結果、21対19で私たちが勝利した。ほぼ彼の貢献によるものだったけど。

⏰:12/08/02 23:47 📱:Android 🆔:3lWn.h9A


#253 [ぎぶそん]
「伊藤くんだっけ?俺と勝負してみないか?」
渋沢先輩がやって来た。
「いいですよ」
2人の対戦がはじまると、男どうしの激戦が続いた。先輩は部の間ではスポーツ万能で有名だった。
先輩は2コ下相手に何度もスマッシュを決める。2人の対戦は21対15で先輩が勝利を収めた。
「あいつやっぱりかっこよくない。いけ好かない奴」
先輩に負けた悔しさからか、彼はもう手のひらを返していた。
「たかがゲームに負けたくらいでそんな怒らなくていいじゃん。それに、あんたがこの合宿に参加できたのも先輩のご厚意があったからなんだよ」
彼はむすっとした表情で黙っていた。私はそんな彼の手を優しく取った。
「こんないい場所に来るなんて滅多にないよ。もっと楽しもうよ」
私がそういうと、彼は小さく笑った。

その後皆で川に足を着けて遊んだ。猛暑の中足に掛かる水はとても気持ちがよかった。
川の中で小原がよろけると、彼女の近くにいた真織が支えた。彼女もしっかり彼の腕を持つ。
そして彼女と彼が談話をはじめた。彼もきちんとした対応で彼女に接する。
私はその一部始終を不快に思った。彼女が真織に近づきたくて、わざとよろめいたように見えた。
と、そんな勝手な憶測で腹を立てる自分に嫌気が差した。私は落ち着きを取り戻そうと川の水で顔を洗った。

「ねえ」
私の元に彼がやって来た。
「渋沢先輩とあの女の人、何で一緒にいないの?夏祭りの時一緒だったよね」
「……2人はもう別れたよ」
「ふうん」
そこからお互い無言になった。夏祭りの夜あんなに否定したのに、まだ先輩のことが何か気にかかるのだろうか。

⏰:12/08/03 00:36 📱:Android 🆔:D1SbFdlc


#254 [ぎぶそん]
私は一握りの勇気を出した。
「私、渋沢先輩よりあんたの方が好き」
こわばった顔をし、彼の目を見て言った。
彼は私の言葉がうまく理解出来ないのか、放心状態で立ち尽くしていた。
「あ、うん。変な意味じゃないよ。一緒に住んでると、嫌でも愛着湧くみたい。飼ってるペットみたいに……」
私は一気に取り乱して、とっさに話を付け加えた。
すぐに彼が口を開く。
「早く夜にならないかな」
「何で?」
「2人きりになれるから。そうしたら色んなことが出来る。2人でしか出来ないこと」
彼もまた私の目を見て、真面目な顔で言う。
私は気恥ずかしさで居ても立ってもいられなくなり、まりやたちがいる方へ走って行った。

まりやたちといながら時々真織の方に目をやると、小原がまた彼に話しかけていた。
私はそれを見ても何とも思わなくなった。
彼は絶対に私の元に戻ってくるから。彼の居場所は、私だから。
「足立の知り合いのあの男の子、足立と一緒に住んどるんやっけ?」
彼を見ていると、和美という子が話しかけてきた。関西出身で、男勝りでさっぱりとした性格をしている。
「そうだよ。何か誰かとルームシェアをするのが夢だったんだって」
「何でや?」
「えっと……」
そういえば何でだ?後で聞いてみようかな。
「あちゃー。小原の奴、後であの子のことたらしこむ気やで」
和美がそうはっきりと言うほど、彼女は彼の身体にべたべたと触っていた。
小原は特別美人ではないけれど、男に苦労しないような外見をしている。
部の中ではスタイルが抜群にいいし、胸も私より大きい。
彼女のことはやっぱり少し不安になった。この3日間、用心しなければ。

⏰:12/08/03 01:23 📱:Android 🆔:D1SbFdlc


#255 [ぎぶそん]
夕方。皆で1階の食堂に集まり、一斉に竜之介さん手作りの夕食を取った。
私の隣で真織も食べる。
彼の目の前にいるまりやが、彼に話しかけてきた。
周りも得体の知れない彼に興味があるのか、耳を傾ける。
「真織くん、どう?うちの部」
「いいと思います。皆さん優しいですし」
「あれ?確か軽音楽部に入ってなかったっけ?」
まずい。今日ここに来たこと、不審に思われたかな?
「はい、入ってます。ですから、もしこの部に入部したら掛け持ちってことになりますね」
おお、こいつもなかなか返しが上手いな。

まりやの質問は続く。
「今彼女はいるの?」
「いいえ。僕、今までいたことないです」
「えー!それホンマなん!?」
びっくりした様子で和美が間に入った。
「ほんなら何や、伊藤くんは“チェリーボーイ”なん?」
和美がそのままの様子で問いかける。彼女の質問に、彼は黙って頷いた。
「じゃあ、お姉さんがオンナを教えてあげようか?」
小原が髪を耳にかけ、おどけた様子で言う。彼女の大胆な発言に、彼は一瞬うろたえた。
「いえ、僕、初めては好きな人とって決めてるんで……」
彼が小さな声でぼそぼそと喋る。
彼のその一言で、チキンソテーをフォークで切るのに動かしていた私の手が止まった。
小原が「冗談だよ」と笑いながら返すと、皆が笑った。
私も皆に合わせて顔に笑みを浮かばせつつも、心はひどく動揺していた。

彼の純潔は私のものと、既に先約してある。じゃあ、こいつは私のことを……。
ううん、彼は普段ほとんど本音を言わない。だから、これもただ断りたかったための口実だよね。
いちいち真面目に考えてたら、きりがない。

⏰:12/08/04 00:23 📱:Android 🆔:xEON1uX.


#256 [ぎぶそん]
夕食を食べ終えそのまま食堂で団欒した後、メンバーは1階の広間でビリヤードをすることになった。
真織は1人談話室でマンガを読みたいというので、彼とは一旦離ればなれになった。
およそ1時間後。ビリヤードが終わって談話室を覗くと、彼がソファの上で横になって寝ていた。
彼の前に座り込んでその姿を観察していると、雪さんがやって来た。
「かわいい寝顔。同年代だったら、あたし恋してたかも」
雪さんのその言葉で、当たり前に見ていたこの寝顔が、とても貴重なものに思えてきた。

雪さんがいなくなると、私は当たりを見回した。
誰もいないことを確認すると、私は彼の耳を唇で挟んだ。
彼の顔がかすかに歪む。その無意識な反応がかわいく思えた。
すぐにまた彼の耳を唇で挟んだり、舌の先で舐めたりを繰り返した。
「何してんの?」
彼が目を覚ました。眠りを妨害されたからか、少し顔が怒っている。
「あ、いや、こないだされたから、その仕返し」
「あ、そう。発情してんのかと思った」
「しないわよ、馬鹿!」
思わず大声で怒鳴った。
「どうしたの?」
雪さんが慌てて駆け寄ってきた。
「いえ、何でもないです。行こう」
彼の腕を引っ張り、2階へと上がった。

⏰:12/08/04 00:41 📱:Android 🆔:xEON1uX.


#257 [ぎぶそん]
部屋に戻ってから、私は彼に話しかけた。
「あんた、経験がないってこと、皆に知られて良かったの?」
「別に。事実だし、何も恥ずかしいことはないじゃん」
「そうだね。あんたって、意外と真面目だよね。しっかり自分を持ってていいと思うよ」
「それはどうもありがとう」
彼は私の頭をぽんと叩くと、着替えを持って風呂場に向かった。
彼が烏の行水で出ると、私もすぐにお風呂に入った。

お風呂から出ると、部屋が異常なくらいに冷えていた。
あまりの寒さにクーラーのリモコンを手に取ると、部屋の温度は16℃と表示されていた。
彼は布団にくるまっている。お前の仕業か。
こんな妙なことをするのなら、設定温度を上げて布団をはがせばいいのにと思う。
こういうエゴな奴がいるから、ますます環境破壊に拍車がかかるんだ。

「おいで」
彼が布団を開けてきた。
私は黙ってそれに従う。
きっとこうなるだろうと予想は出来ていた。
布団の中で、彼にきつく抱きしめられた。
真夏の熱帯夜なのに、なぜあたたかいことに幸せを感じているのだろう。
「冬が楽しみ」
「何で?」
「寒いから、毎日こんな風に抱き合って寝れる」
「寝ないわよ、馬鹿」 

⏰:12/08/04 01:15 📱:Android 🆔:xEON1uX.


#258 [ぎぶそん]
彼が私の顔を見た。
「下着見せて」
私は黙って頷く。
彼が私の着ているTシャツをゆっくりとめくる。
しだいに水色の下着をつけた胸元が露出した。
彼がそれを真剣な顔で直視するので、緊張で身体が硬直した。
「かわいいじゃん。ずっとこういうの着けときなよ」
彼はそれだけ言うと服を直し、目を閉じ眠りについた。

彼はずるい。人の情欲を煽り立てるだけ立てといて、結局何もしないのだから。
ねえ、私たちいつするの?私はいつだってしてもいいんだよ。
あんたは何で“出来ない”の?

翌朝。部屋にある置き時計のアラームの音で目が覚めた。
私は涼二くんとの買い物で買った、赤いギンガムチェックのワンピースを着た。
後ろのファスナーを自分ではうまく上げきれないので、彼に手助けしてもらう。
私の後ろに回った彼は、ブラジャーのベルト部分を掴んだ。
「ねえ、これどうやって着けてんの?」
「秘密」
今度はワンピースを下からめくりあげた。
「パンツも水色だ」
「もう!早くファスナー閉めてよ」
彼は私が下着の色を変えてから、急激にそれらに関心を持つようになっていた。

⏰:12/08/09 06:13 📱:Android 🆔:0hVQSaQw


#259 [ぎぶそん]
朝食を食べた後、皆で近くの山に登ることになった。
私は体力に自信がないので、列の最後尾についた。
彼も私の隣につく。
私はその間、昨日の昼疑問に思ったことを彼に聞いてみた。
「あんたさ、ルームシェアをしてみたかったって言ってたじゃん?あれ、何で?」
「俺が餓鬼の頃、親父はしょっちゅう家にいないし、お袋もその頃まだ働いてたから結構寂しい思いをしてたんだよ。で、その時たまたま観たドラマが面白くて。見知らぬ男女数人が、共同生活を送る話だった」

彼は話を続ける。
「そいつら、最初はいがみ合ってたけど、だんだん距離が縮んでお互いの悩みを皆で協力して解決したり、夢や目標を心から応援する間柄になっていた。俺はそこで家族でもない赤の他人と深い絆が生まれることに感動して。友達とはまた違う、そういう関係っていいなと思った。で、自分も大きくなったら……って」
彼はそこで喋り終えた。
彼の言いたいことはよく分かった。
でも、彼の理想の生活における相手が、自分で良かったのかと不安に思う。
彼は人との繋がりを心の奥底から求めている。
私はそれにじゅうぶん応えられるだろうか。

⏰:12/08/09 06:36 📱:Android 🆔:0hVQSaQw


#260 [ぎぶそん]
山を登りながら、目についた草木を適当にカメラで撮る。
「あんたも撮ってみる?」
私は彼にカメラを渡した。
「鳥いないかな。鳥撮りたい」
気がつけば他のメンバーはどんどん先を進んでいて、辺りは2人だけになった。
山を登る途中で、川が流れていた。
彼はしゃがみこみ、その川の水で顔を洗う。私は真後ろから彼の広い背中を見た。
「……ありがとうね」
「何が?」
「あんたが前押し入れからカメラを出したでしょ?だからまた写真部に顔を出す気になれたんだよね」
「結局は自分の意思でしょ。自分で戻る気があったから、そうなっただけなんじゃない」
私は彼の背中を見たまま静かに笑った。

その後もひたすら山中を登り続ける。
「あ、鳥!」
彼が目の前を指差す。なんて名前かは分からないけど、緑色の小鳥が木に留まっていた。
私たちが近づくと、その小鳥は飛んでいった。彼はただ悔しがる。
「そんなに鳥が好きなら、バードウォッチングでも行けば?」
「うん、いつか一緒に行こう」
彼が笑う。
「1人で行けば?」
そのあどけない笑顔に、私は照れた。

山中を3分の2ほど登ったところで、はげしい悪路が続く。
「捕まって」
先を進む彼が自分の手を伸ばす。私もそれに従う。
彼は私の手を取ると、強い力で引っ張った。
彼は前を先導して歩き、足元が不安定な箇所があると私に手を差し出す。
前、彼は私の父に私のことを守ると言っていた。
特別意識してなかったけど、こういうことなんだと思った。
自然で、見失いそうなほどさりげないもの。

⏰:12/08/11 23:32 📱:Android 🆔:APPEQ5B2


#261 [ぎぶそん]
そうして私たちは他のメンバーからだいぶ遅れを取って、山頂にたどり着いた。
疲労も限界に達していた時であったからか、非常に大きな達成感があった。
私は山のてっぺんから風景写真を何枚も撮った。
隣にいた彼がいなくなったことに気づくと、小原が彼に話しかけていた。
少し気になったけど、無視した。誰にでも分け隔てなく接する彼は憎めない。
おそらく彼は彼女が渋沢先輩と付き合っていた時に5股をかけていたことを知っても、何の偏見もなく接するだろう。
私は彼の存在を忘れて、戻りはまりやたちと戻ることにした。

夕方頃部屋に着いて、ベッドに思いきりダイブした。
そのまままどろんでいると、彼も戻ってきた。
彼は私の隣に寝転ぶと、私の着ているワンピースを触った。
「朝から思ってたけど、この服かわいいな。こないだ涼二と遊んだ時に買ったんだろ?」
「どうしたの急に?」
「いや、小原さんが女を喜ばせたかったら、もっと褒めろって言ってたから」
「は?どういうこと?」
「あの人に色々教わってた。女への接し方とか」
彼の健気さに、私の中に熱いものがこみ上げてきた。
どうやら2人のことを誤解していたようだ。彼女にも疑いの目で見たことに申し訳なさを感じた。
私は彼にしがみつくように抱きついた。
「お世辞なら言わなくていいから。気持ち悪い」
「本当に思ってるよ」
彼が私の頬に手を添え、そしてつぶやく。
「最近キスしてないね」
私は静かに目を閉じた。彼は私にそっと口づけをした。

⏰:12/08/12 04:33 📱:Android 🆔:wfeWLSss


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