消えないレムリア
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#71 [ぎぶそん]
「……足立さんは何かサークル入ってるんすか?」
真織が私に尋ねてきた。
よそよそしく“足立さん”なんて呼んじゃって。
「かなめはね、写真部に入ってるよ。
でも、同じ部の先輩に失恋してから部室に行ってない」
私の代わりに佐奈が答えた。
「ちょっと待ってよ。別に失恋なんかしてないし」
「前、渋沢先輩のことが好きって言ってたじゃん。先輩に彼女が出来た時、がっかりしてたじゃん」
「してないしてない!」
私は首を大きく横に振った。
私が写真部に行かなくなった理由。
単純にカメラに飽きたからでもあるが、もう1つ気がかりなことがあるからだ。
それは、同じ写真部にいる1つ年上の渋沢優哉先輩のことだ。
:12/06/08 20:59
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#72 [ぎぶそん]
先輩はとても面倒見がよく、いつも率先して後輩の世話をしていた。
私がすんなりと写真部に入部したのも、そんな先輩がいたからだ。
去年の新入生歓迎会の帰り、私のことが心配だからとわざわざアパートの前まで送ってくれた。
長い夜道を先輩と2人きりで歩いた時、心臓がずっとどきどきしていたのを覚えてる。
その時以来、私は先輩を異性として見るようになった。
でも去年の夏、渋沢先輩は私と同い年の小原朱実と交際しはじめた。
私は先輩に彼女が出来たこともショックだったけど、誠実な先輩があの小原朱実を選んだことが何よりも悲しかった。
小原はいつも派手な身なりをしていて、禁煙の部室で煙草を平気で吸うわ、香水の匂いもきついわで私は彼女を苦手としていた。
:12/06/08 21:15
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#73 [ぎぶそん]
そして、2人が幸せそうな顔をするほど、私の足も思いもだんだん写真部から遠ざかっていったのだった。
と、忘れかけていた不愉快な出来事を思い出してしまった。
あの時使っていたカメラは押し入れの中に閉まってある。
もう使うこともないだろう。
この春休み、部活を辞めようかと考えていた。
名前を残したままでは部費を払わせられるだけだし、行く気がないのなら迷わず除籍したほうがいい。
そう私がしんみりとしてる中、佐奈は色んなことを真織に尋ねてた。
その会話の中で、彼のことを色々と知った。
高校は男子校で、3年間部活動は一切せず帰宅部だった。
好きな怪獣は「ブラックコング」とかいうの。強いらしい。
そして今、彼女はいない。
:12/06/08 21:31
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#74 [ぎぶそん]
夕方、佐奈は帰った。
台風のように現れ、そして去っていった彼女だった。
夜。電気を消して布団に入ると、今日も真織が隣を占領してきた。
彼の布団も明日で届くだろうし、一緒に寝るのも今日で最後か。
なんか解放された気分だ。
「ねえ」
彼が私に注意を向けさせる。
そしてベッドの下をごそごそとしだした。
「もう写真撮らないの?」
いつそれを見つけたのか、押し入れにしまっていた私のカメラを手にしていた。
「撮らない。もう興味ない」
「もったいないな。いいカメラそうなのに」
暗がりの中、彼がカメラの表面をまじまじと見る。
「良かったらそれ、タダであげるよ」
彼は私の言葉に耳を傾けず、黙ってカメラを見ていた。
:12/06/08 21:49
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#75 [ぎぶそん]
翌朝。歯を磨こうと洗面台に行く途中、棚の上にカメラが置いてあるのに気がついた。
真織の仕業のようだ。
また押し入れに戻そうとしたが、カメラを見て、去年わくわくしながら風景写真を撮ってた時の記憶がよみがえってきた。
――また、あの頃みたいな気持ちになれたらな……。
私ははっとしてちょうど洗濯物を干している彼を見た。
もしかしたらあいつ、写真部の件のことを気にかけてくれてるのかな?
いや、あいつに限ってそれはないだろう。
その後歯を磨きながら、洗濯物を干してる彼に近づいた。
「私が昔壊したっていう怪獣の名前、何ていうの?」
「は?『ゴモゴラ』だけど」
ゴモゴラ。私はその名前を瞬時に記憶した。
:12/06/08 22:04
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#76 [ぎぶそん]
のんびりと身支度を済ませ、私は彼を残してアパートを出た。
真織と一緒に住むようになって4日目。
今日は初めての別行動となった。
私が1人で出掛けたのには理由があった。
彼の人形を壊したという話が気になっていたので、私はせめてもの償いで彼に同じ人形を渡したいと思ったのだ。
まずは駅前のデパートを目指して、駐輪場にある白い折りたたみ自転車に乗る。
私が自転車が好きだ。
車やバイクと違って税金がかからないし、排気ガスも出ないので環境にも優しい。
徒歩だと遠くに感じる場所も、自転車ならちょっと漕いだだけであっという間に着く。
あたたかい春の風に吹かれながら、駅へと続く大通りをまっすぐ進む。
:12/06/08 22:18
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#77 [ぎぶそん]
駅前のデパートに入り、6階のおもちゃコーナーを回る。
ステレオマンのコーナーの中に、怪獣の人形もたくさん陳列してあった。
それを1つ1つ見ていくが、「ゴモゴラ」という名前の人形は見当たらなかった。
すかさず近くにいた店員さんに尋ねてみる。店員さんは確認のためカウンターに行った。
「申し訳ありません。その名前の商品は、こちらには置いてないようです」
戻ってきた店員さんが、きまりが悪そうに伝える。
もしかしたら駅の裏にある中古ショップならあるかも知れないと、と親切にも教えてくれた。
私は店員さんに礼をして、デパートを出た。
:12/06/08 22:31
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#78 [ぎぶそん]
しかし、それから色んな中古ショップを回ってみたが、どの店からも「ゴモゴラ」という名前の人形はないと言われた。
夕方になり、私は気がつけば自転車で隣の隣の街まで来ていた。
7軒目。こじんまりとした中古ショップに入り、恰幅のいい店員さんに尋ねる。
「これでよければありますけど」
店員さんが案内をし、商品を指差す。
だがそれは小さな指人形だった。
明らかに違うだろうと少し迷ったが、今日のところは諦めて買うことにした。
彼にもしいらないと言われたら、ネットショッピングで探してみよう。
レジを済ませ、やっとの思いで手にいれた「ゴモゴラ」を見てみた。
頭の角と、鳥のような羽が特徴的だった。
しっぽは細く、これならいつ取れてもおかしくないと思った。
色も汚く不細工だけど、少しかわいく思えた。
:12/06/08 22:48
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#79 [ぎぶそん]
家に帰った時は夜の8時で、真織は1人ベランダで煙草をふかしていた。
はやる気持ちで近づき、声をかける。
「あのさ、これ……」
私は買った指人形を彼に渡した。
「私が壊したっていう人形さ、今日探してみたけどなかった。これでよかったらもらって」
彼は指人形を手のひらで転がし、思いがけない表情で見つめる。
そして、それを持っていた方の腕で私の身体を自分のもとに引き寄せた。
「別にいいっていったのに。でも、ありがとな」
彼が腕の力を強めた。
「お、おう……」
彼からの突然の抱擁に、私の頭は真っ白になる。
彼の服からは、ほのかにミルクのような甘い匂いがしていた。
こいつといるとどうも調子が狂う。
でも、優しくされて悪い気はしなかった。
:12/06/08 23:04
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#80 [ぎぶそん]
お風呂から出ると、彼は床に敷き布団を敷いて寝ていた。
私も電気を消し、自分のベッドへと向かう。
シングルサイズなのに、ここ数日彼と寝てたからか広く感じる。
「ねえ」
向こうにいる彼が呼ぶ。
「何?」
「こっち来てよ」
彼がお招きといった形で布団を叩いた。
「は?何でよ」
「ずっと布団半分貸してもらったから、俺も貸してあげる。でも3日だけね。いや、4日借りたから、4日か」
カッチーン。怒りで脳みその血管が切れそうだった。
何その上から目線。
なんで私があんたと寝るのを喜んでる前提なのよ。
でも新品の布団の感触を味わいたいので、彼のいうことに従うことにした。
「分かったわよ。まったく、一緒にまたこうして寝たらさ、布団買った意味ないじゃん」
「新しい布団に寝てみたいだけだから」
彼の頼みごとを素直に聞いたと思われたくないので、ぶつくさと文句を垂れながら布団に入る。
:12/06/09 23:54
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