消えないレムリア
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#152 [ぎぶそん]
「デザインが気に入ってるだけだよ」
それだけ言って、彼の前を通り過ぎる。
私の隣で一連の流れを見ていたまりやが嘆いた。
「相変わらず素直じゃないなあ。前、『かっこいいし、付き合っちゃおうかな』って言ってたじゃん」
「あれは冗談で言ってただけだよ」
「そんな冷たくばかりしていると、そのうち向こうも嫌になって出て行っちゃうよ」
「別にいいし」
私は俯いた。

あいつがいなくなること。
想像もしたことがない。
でも、いつかは確実にいなくなるだろう。
私が大学生でいる残り3年が限度かな。
3年。それは長いのかな、短いのかな。
あいつは私にとってどうでもいい存在だ。
でも、どうにでもなってほしい存在ではなかった。

そうして1週間、2週間と時間は過ぎた。
だんだん彼も一緒に寝ようとはしなくなった。
夜布団で寝ている彼をふと見てみると、私のいる方に背を向けて寝ていた。
彼のその後ろ姿はどこか寂しく見えた。

⏰:12/06/16 22:52 📱:Android 🆔:gmdZmKOc


#153 [ぎぶそん]
6月初旬。私も周りの皆も半袖姿が目立つようになった。
学校が終わり、夏物の洋服を見て回ろうと駅前のデパートに入った。

特に買わずに洋服屋を見回ると、何の用もないのにおもちゃコーナーがある6階に向かった。
ステレオマン関連のコーナーに、ミグピーの人形もあった。
今日も相変わらず無愛想な顔をしている。
私はいつもあいつといる時、こんな顔をしてるんだろうな。
似てると指摘されても、無理もない。

ミグピーの隣に、“モグピー”の人形があった。
モグピーはミグピーと姿形がよく似ているが、表情は真逆だ。
にこにこしていて、とても愛嬌がある。
もし私もこのモグピーのようにいつも笑顔だったら、彼との共同生活もうまくいってただろう。

でも、あいつが悪いんだ。
すぐ勘違いして甘えてくるから。
でも、最近は少し厳しくしすぎたかな。
私はモグピーを見つめながら、その場で笑顔の練習をした。

⏰:12/06/16 23:03 📱:Android 🆔:gmdZmKOc


#154 [ぎぶそん]
その数日後。放課後、彼が大理石のテーブルで同じサークルの人たちと楽しそうにしているのが見えた。
あいつ、私がいなくても平気そうじゃん。少し心配して損した。
彼の隣には、女の人がいた。
確か、3年の三鷹さんって人。
美人で優しく、とても感じのいい人だ。
彼も本当は、同居人になるならあんな女の人が良かったんだろうな。
私は少しため息をついた。

その晩、私は帰って麻婆茄子を作った。
食卓の席で彼が箸を持ったまま、げんなりとした表情でそれを見つめていた。
私は内心その顔が見たかったので、にやりとする。
「俺、ナス嫌い」
彼が皿を端にやる。
私は手のひらでテーブルを叩いた。
「全部食べないと怒るから」
「じゃあ、全部食べたらキスしてくれる?」
「何寝ぼけたこと言ってんの?もういいわよ!」
私はその皿を分捕った。
2人分を食べるのはきついが、無理して全部頬張った。

⏰:12/06/16 23:16 📱:Android 🆔:gmdZmKOc


#155 [ぎぶそん]
夜の9時過ぎ、彼はテーブルにうつ伏せになっていた。
「……腹減った」
さすがに夕飯にお茶漬け1杯はきつそうだった。
「一緒にコンビニ行かん?奢るから」
私は彼の誘いに乗った。

2人でアパートの前のコンビニに入ると、レジに見慣れた従業員の顔があった。
「あ、かなめちゃん」
店長が声をかけてきた。
店長はサーフィンが趣味の40代前半の男性で、いつも日焼けしている。
「この子が例の一緒に住んでる男の子?大人っぽいね」
店長が気さくに真織に話しかける。
彼も店長にしっかりとした受け答えで話していた。
まさか誰も彼が実際は甘えたがりな性格だなんて、想像も出来ないだろう。
私は彼に紙パックのコーヒー牛乳を渡した。

⏰:12/06/16 23:26 📱:Android 🆔:gmdZmKOc


#156 [ぎぶそん]
コンビニを出ると、彼がアパートがある方とは逆の方向を指差した。
「公園に行かん?」
奢ってもらった義理があるので、私は黙って頷いた。
商店街を進み、その近くにある公園に入った。
誰もいない閑散とした公園で2人、ベンチに座る。
私は夜の公園を見回しながら、コーヒー牛乳を飲む。
彼は隣で生姜焼き弁当を食べていた。
「野菜もちゃんと食べないとバランスが悪いよ」
「母親みたいなこというね」
「あんたが病気すると、こっちまで面倒になるから言ってるだけ」
それだけ話すと、彼は黙々と弁当をかきこむ。
その姿を見て、私もそれが食べたくなった。
どうして人が食べてるものは、こうもおいしく見えるのだろう。

「一口食べる?」
彼が箸で豚肉とご飯をつまんで私に差し出した。
私はその誘惑に負け、口を開けた。
彼がこぼさないように私の口に入れる。
それを口の中で味わいながら噛む。
冷えたご飯に脂身たっぷりの豚肉は、とても相性がよかった。

⏰:12/06/16 23:41 📱:Android 🆔:gmdZmKOc


#157 [ぎぶそん]
彼は弁当を食べ終えると、一服し始めた。
「あ、珍しく弟からメールきてる」
彼がケータイを握り締める。
「弟?あんたって弟いるの?」
「いるよ、俺より2つ下。弟も女みたいな名前してる。“ミオリ”っていうの。えーっと、『お兄(にい)の部屋にある新品のノート全部貰っていい?』だって。さすがあいつ、真面目」
彼がそのメールに返信しようとケータイを操作する。

彼に兄弟がいたことは、今ここで初めて知る事実だった。
私は彼のことを色々と知った気になっていたが、実際は知らないことの方が多いのだろう。
そう考えると、はがゆい気持ちになった。
こんなに近くにいるのに何も知らないのは、何だか違和感がある。
私は彼について、今まで何とも思っていなかったことまで気になりだした。

⏰:12/06/16 23:52 📱:Android 🆔:gmdZmKOc


#158 [ぎぶそん]
彼が煙草の灰を地面に落とす。
「……いつから煙草吸ってるの?」
「高校卒業してからだよ」
「割と最近じゃん。何で吸うの?」
「何となく」
彼が勢いよく煙を吐く。白い煙が夜の空気に溶け込んだ。

「何でバイク乗るの?」
「歩くのが面倒くさくなったから。いつかはハーレーに乗りたいな」
彼が両手を上げて背伸びをする。
「ハーレーって、すごく高い奴?」
「うん。憧れる」
「その時は私も乗せてよ。“乗った”って皆に自慢できるから」
「いいよ。約束な」
彼がまばゆい笑顔をして、私の手を握った。
「離してよ」
私は嫌な顔をして手を払ったが、胸がきゅっと締め付けられた思いをした。

こいつは人心掌握に長けてるというか、人の心をくすぐるのがうまいんだと思う。
それを無意識でやってのけるんだから、実に恐ろしい。
だから私も放っておけなくて、こんな一緒にいてしまうんだろう。

⏰:12/06/17 00:02 📱:Android 🆔:FCqHJV9I


#159 [ぎぶそん]
彼が煙草を吸い終えた後、公園を後にした。
アパートに戻ると、彼はお風呂に入った。
既にお風呂に入っていた私は、歯を磨いた後ベッドの上で雑誌を読むことにした。
風呂上がりの彼が、電気を消してくれるのを待つ。

うとうとしかけている時、彼がお風呂から出てきた。
「やっぱ他のを着よう。これ暑い」
突然、彼がリビングで着ていたシャツを脱ぎ捨てた。
私は初めて彼の上半身裸の姿を目の当たりにした。
顔以上に肌が白くて、細身だけど意外に筋肉がついていた。
私は、彼が私の前で服を脱いだことを怒らなかった。
目が冴え、少し放心状態になった。
彼は私に背中を向けて服を選んでいた。
足を屈んで座ってる彼の腰元に注目すると、ジャージの下から若干灰色の下着が見えていた。
私は雑誌を見るふりをして、彼の身体やその下着をじっと見ていた。

⏰:12/06/17 00:19 📱:Android 🆔:FCqHJV9I


#160 [ぎぶそん]
彼は着替え終わると、自分の布団を取り出そうと押入れを開けた。
「ねえ」
私は彼に声をかけた。
「毎日布団敷くのも面倒くさいでしょ。金曜とか土曜とか、次の日が学校のない日なら私のベッドで一緒に寝てもいいよ。でも、キスとかそういうことはもうしないから」
「本当に?」
彼が子犬みたいな目をして笑う。
そしてすぐに電気を消して私の隣にやって来た。今日は金曜日だった。

彼が仰向けで寝ている私の髪を触る。
「こっち向いてよ」
彼が私の顔を持って、自分の方に向けた。
彼の大きな目と、自分の目が合った。
ふいに見た彼の顔に、思わず心臓がとくんと鳴った。

こいつ、こんな顔してたっけ。
そこそこいい顔してるじゃん。
何で今まで女の子とキスしたことないの?
どう考えてもおかしいでしょ。
こいつ、本当に人間なの?
もしかして、人間の姿をした怪獣?
私ってば、何子供じみたこと考えてるんだろう。

私は思わず声に出さずに笑った。
彼が私の笑顔に目を丸くした。
でも、すぐに目を細くした。
「今日はモグピーに似てる」
彼が片腕を私の肩に回し、私の身体を自分の方に引き寄せた。
私は怒らなかった。

⏰:12/06/17 01:09 📱:Android 🆔:FCqHJV9I


#161 [ぎぶそん]
そのままの状態で彼と会話をする。
「あんた、本当は三鷹さんみたいな美人で優しい人と一緒に住みたかったんじゃないの」
「うーん、そういう人だと逆に気を遣っちゃいそうで嫌だな」
「私だと気を遣わなくて済むんだ」
「そうだよ。かなめといると落ち着くんだよね。気が置けないっていうか。もし他の人の部屋に住んでたら、血眼になって他の部屋を探してたよ。やっぱり住む家っていうのは、落ち着けるのが1番」
彼の言葉に、私ははっとした。
こいつのこの言葉は、私の心の中の琴線に触れた。
私は胸が一杯になった。

私は彼から離れ、上半身を起こした。
「ちょっと今日身体が冷えてるから、両腕で抱きついてくれない?」
本当は真っ赤な嘘だけど、寒そうに腕をさすった。
彼が少し嬉しそうな顔をして、私に向かって両腕を広げた。
「おいで」
私も両腕で彼の身体に抱きついた。
顔中に彼の匂いが広がる。
本当は熱くてたまらないけど、彼から離れたくないので我慢した。

私はそのまま彼の胸の中で眠った。
私は少し、ほんの少しだけ彼に心を開いた。

⏰:12/06/17 01:21 📱:Android 🆔:FCqHJV9I


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