消えないレムリア
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#211 [ぎぶそん]
数日後の金曜日。学校から帰ると、リビングで彼と一緒に茶髪で巻き髪の女の子が座っていた。
デニム生地のジャケットを羽織っていて、花柄のスカートの下から細くて白い脚が見えていた。
大きくて丸い目に、少しふっくらとした丸い輪郭。とても可愛らしい子だった。
軽音楽部の子?でもこんな子いたっけ?
じゃあ同じバイト先の子?もしかして、彼女が出来た?
私は彼が女の子を連れていることに違和感を覚えた。
「こいつ、俺の幼なじみ」
真織がその女の子の肩に手をやる。
「こんばんは。宮崎涼二って言います」
その子が見た目とはそぐわない低い声で話す。
名前といいこの声といい、これは完全に女の子じゃない。
「えー!男?」
「はい。女装してます」
その子が白い歯を見せて笑う。
「やっぱり、かなめは間抜けだから気がつかなかった」
真織はくくくと笑っていた。
私はこの状況がわけもわからず、彼を怒る気力も出なかった。
そして彼の知り合いが男の子だと知り、なぜか少しほっとした。
:12/07/05 00:07
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:1naubqGY
#212 [ぎぶそん]
私はその子ならびに、涼二くんが普段の格好をしている写真を見せてもらった。
黒髪で中性的な顔立ちをしている、れっきとした男の子だった。
涼二くんは真織と小学校と中学校まで一緒で、2人でよく遊んでいた。
昔から頭が良く、今はここから少し遠い有名国立大学に通ってる。
大学ではまだ周りに女装が好きなことを打ち明けてないらしい。
その女装に目覚めたのは高校2年の時。
お姉さんの化粧道具を借りて化粧をしてみたら楽しかったのがきっかけ。
女装をして街を出た時、男性からナンパをされたこともある。
地声を出したら皆びっくりして逃げると、楽しそうに話す。
私は涼二くんに真織の昔の様子を聞いてみた。
身体が小さくて、かなりの泣き虫だったらしい。
だから別々の高校に進学して、久しぶりに彼と再会して背が一気に伸びていたときは本当にびっくりしたという。
でもその真織は逆に女装しはじめた涼二くんにたまげたらしい。
話のおかしさに、私たちは大笑いした。
「えっと……、涼二くんは男の子が好きなの?」
「いえ、普通に女の子が好きですよ。女装はただの趣味です」
私は彼が誰を好きになろうが特別関心はなかった。
とりあえず真織が彼の恋愛対象ではないことに安堵した。
「かなめさん、もし良かったら今度一緒に服でも買いに行きませんか?僕、かなめさんと友達になりたいです」
私は快く涼二くんと連絡先を交換した。
男の子だけど女の子でもある、こんな特殊な子と友達になれるなんて早々ないだろう。
私は非常にうきうきとしていた。
:12/07/05 23:00
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:1naubqGY
#213 [ぎぶそん]
「今度は真織抜きで会おうね。女同士で楽しもう」
私はにやけた顔で涼二くんの両手を取った。
「ミグピー調子のんなよ。男の涼二より不細工だぞ」
真織が煙草の箱を投げると、私の頭部に直撃した。
その痛みで、私はたちまち笑顔を失った。
「何よ、クソガキのくせにこんなもん吸ってんじゃないわよ」
私は床に落ちたその箱を、足で何度も踏みつけた。
箱は見事にぺしゃんこに潰れた。中身もぐちゃぐちゃになっているだろう。
「何すんだよ」
私と真織は即座に取っ組み合いの喧嘩になった。
それを見ていた涼二くんは、女の子みたいに口に手を当てて笑っていた。
夜の8時過ぎ。涼二くんが帰ることになり、玄関で真織と一緒に彼を見送る。
「今度は2人で僕の部屋にでも遊びに来てください」
「もちろん。夏休みにでもまた遊ぼうね」
礼儀正しく気品があり、おまけに優しい。
私は涼二くんのことがすぐさま好きになった。
私は彼と女友達みたいに付き合っていきたいと思った。
:12/07/05 23:26
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:1naubqGY
#214 [ぎぶそん]
涼二くんが部屋を出ると、また部屋にいつもと変わらない2人の空気が流れた。
「そうそう、晩ご飯は涼二が作ったよ。あいつ料理が好きだから」
台所に向かうと、鮭のムニエルとサラダが入った皿がそれぞれラップしてあった。
台所は綺麗に片付けてあって、涼二くんの几帳面さがうかがえた。
2人でさっそくそれらを食べる。
味はどこかの定食屋みたいでおいしかった。
「あんたもレパートリーを増やしてよ。もう野菜炒めは飽きた」
「いいじゃん。簡単だし、野菜もたくさん摂れるし」
「そうだけど、あまりにも頻繁だとストレスが溜まる」
「分かったよ。今度カレーとかオムライス作る」
それから食後に、涼二くんが家で作ってきたという色んな動物のかたちをしたクッキーを食べる。
そのクッキーはバターの風味がしてとてもさくさくとしていた。
涼二くんは女の私より女らしい。
私は今までにいない友達が出来たこと、真織の友達と知り合いになったことにほくほくとした。
「明日は定期ライブの日なんだけど、来る?」
「あんたは出るの?」
「俺は出ないよ」
「じゃあ行かない」
前のライブの日の夜は、酔ったこいつにキスをされたっけ。
あれから2ヶ月か。早いものだな。
「あのさ、明日打ち上げで別にお酒飲んでもいいから。勝手にして」
未成年に向かって全くいうことでなないけど、所詮赤の他人だし好きにしてほしいと思った。
「いやもう飲まない。すぐ帰ってくるよ」
思えば一緒に住むようになって、お互い外泊をしたことが1度もない。
お互いこの部屋がすごく好きなのだろう。
それに、こいつの顔を見て1日を終えないとなんか寂しい。
:12/07/07 03:54
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:RuRWjcQo
#215 [ぎぶそん]
次の日。2人で昼食を済ませると、彼は出掛けた。
私は彼を見送った後、掃除をしたりテレビをぼーっと観たりして過ごした。
夜は彼に借りてきてもらったDVDを観ることにした。
「真夏のルームシェア」というタイトルのアメリカ映画だ。
彼に何か適当に映画を借りてきたと言ったら、2人の関係を示唆するようなこんな題名の映画を選んでいた。
その映画の内容は、主人公の男性の家に突然、金髪でショートヘアの女性が転がり込むことになった。
彼女は美人だけど無愛想で目つきが悪く、男勝りな性格をしている。
一方男性は彼女に対してへっぴり腰で、いつもおずおずとした態度だ。
次第に2人は意気投合し、彼女は男性が失恋するとギターを弾いて励ましていたり、男性の仕事がうまくいくように必死でアドバイスをしていた。
物語の中盤で、男性が彼女の優しさを指摘した。
その言葉が嬉しかったのか、彼女が不器用にもにこりと笑った。
私は同性ながらに、その笑顔に心を奪われた。
夏祭りの時、真織に“時々笑うとかわいい”と言われた。
きっとこういうことなんだなと確信した。
最終的に、映画の中の2人は恋人同士になった。
私は久しぶりに映画を観て胸が一杯になった。
:12/07/08 06:48
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:iLQESbRE
#216 [ぎぶそん]
DVDを観終えお風呂から出た後、帰ってきた彼が楽なようにと床に布団を敷いた。
「ただいま」
10時半過ぎ、彼が戻ってきた。
彼はリビングに入った途端、何やら浮かれた様子で布団の上に座った。
「打ち上げの時OBの人で『ステレオマン』に詳しい人がいて、ずっと2人で盛り上がってた。その人すごいの、知らない怪獣がなかった」
「あんたって何で『ステレオマン』っていうか、怪獣が好きなの?」
「幼稚園の時初めて『ステレオマン』を観て、その時はステレオマンに憧れてたんだよな。でも途中で怪獣って何かかわいそうだなあって思って。それから怪獣目当てでずっと観てる。たぶん『ステレオマン』が続く限り一生観る。何で好きかは自分でも分からない」
子供の頃大切だったものなんて、大人になればほとんど無意味なものになってる。
それをこいつは今でも大事にしてる。
そのまっすぐな心が素晴らしく思えた。
私は少しだけ彼に愛情を感じ、後ろから彼に抱きついた。
「今日あんたの布団で一緒に寝てもいい?」
「急にどうしたの?」
「ただの気分だよ。早くお風呂入ってきなよ」
「もうちょっとこのままで」
さっき観た映画の男女のやり取りが、頭から離れない。
彼となら、あの映画みたいな日々を送れそうだ。
:12/07/08 07:07
:Android
:iLQESbRE
#217 [ぎぶそん]
翌日。私たちは一緒に外出することになった。
彼のバイクで遠出をし、都心部をうろつく。
彼の希望で、街の大型スポーツ用品店に入った。そこで彼はサッカーボールを衝動買いしていた。
夕方、街の外れの河川敷で遊ぶことになった。
彼がさっき買ったボールでリフティングをはじめた。連続で10回は続く。
「久しぶりにやると全然できないわ」
彼が子供みたいにはしゃぐ。ボールが地面に落ちてはリフティングをはじめる。
私はその光景を草むらに座ってぼーっと見ていた。
「そっちもやってみて」
しばらくして、彼が私の元にボールを軽く蹴ってきた。
腰を上げて近くでリフティングをはじめると、2回までしか出来なかった。
運動音痴の私にとってはとても難しく感じた。
私はすぐに彼にボールを返した。
「それじゃあパスしよう。向こう行って」
彼が向こうを指差す。
そして5メートルくらい離れて向かい合って、ボールを蹴りあう。
彼の提案で、お互い2人で一緒に行きたい場所を言いながらパスを回す。
「海」
向こう側から一直線でボールが来た。
私も行きたい場所とやらを適当に考える。
「ミドリムシのライブ」
彼に向かって勢いよくボールを蹴る。その一連の動作がひたすら続く。
いずれ内容は大きく飛躍して、ただ世界にある国名を言い合うだけになった。
喋りながらやる運動は、息が切れそうになった。
「もう疲れた」
途中で私はその場にしゃがみ、息を落ち着ける。
「じゃあもう終わりにしようか」
彼が余裕そうな表情で言った。
彼はさらに会話を続ける。
「さっき言った場所、全部行こうな」
彼の口元が緩む。
:12/07/09 21:23
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:5AHHz48E
#218 [ぎぶそん]
それから夕日を正面にして、2人で一緒に草むらに座った。
目の前にある風景を見つめる。夕日が眩しくて目を閉じてしまいたくなるほどだ。
手前で流れている川もオレンジ色に染まっていた。
「あれ?あんたこんな腕時計持ってたっけ?」
私は右隣にいる彼の左手を持った。
その腕時計は独特な字体の文字盤が特徴的だった。
「これ親父のお下がり。フランクミュラーってメーカーのらしい。時計はよく知らん」
彼は何ともない様子でそう言うが、一目見ただけですぐに高級品だと分かった。
彼とは生活水準が明らかに違うから時々萎える。
「夕日が綺麗だね」
体育座りをしている彼がぼやく。その横顔は哀愁が漂っていた。
人類が誕生してから、どの時代の人間も皆この橙色に心を魅了されていたのだろう。
これから時代がどんなに変わっても、その気持ちは変わらずあり続けると確信する。
そして私と彼がどんなに育ってきた環境が違っても、その気持ちは同じなんだ。
「俺、もし命に色があるとしたら、こんな色じゃないのかと思う」
真顔でそう言う彼に、私はふっと笑った。
「あんたにそのロマンチックなセリフは似合わないよ」
そう言いながら、私は彼の肩に頭を乗っけた。彼が私の肩に手を回す。
今日ここで一緒にボールで遊んだことも、一緒に見たこの景色もいずれ忘れる。
だけどこんなに近くで彼と過ごしたことと、こんなに間近で彼を感じたことは忘れない。
:12/07/09 22:05
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:5AHHz48E
#219 [ぎぶそん]
7月中旬。前期のテストが近づいてきた。
私も彼と毎晩リビングのテーブルで勉強をする。
目の前の彼が開いてる教科書を見ると、得体の知れない数式がたくさん書かれていた。
私は数学が大の苦手だった。だから、こんなのが解読できる彼がかっこよく思えた。
「ちょっと休憩」
彼が床に寝転ぶ。やがて寝息が聞こえた。
私は勉強をやめ、寝ている彼の元に寄った。
彼の所有物を観察しようと思い、まずテーブルに置かれてる煙草の箱を手に取った。
箱は白く星形の模様がまんべんなくあり、黒い字で中央に“セブンスターズ”と英語で書かれていた。
未成年のくせにこんなの吸って何が楽しいんだろう。私はため息をついた。
次に金属製のライターを手にした。
フタを開閉させるたびカチッ、カチッという金属音がする。
続いてノートを覗くと、女の子みたいな丸っこい字体で色々と書き込んでいた。
あいつ、こんな字を書くんだ。なんか新鮮。
筆箱をの中を見てみると、私が前あげた指人形が入っていた。
見ないと思ったら、こんなところにあったのか。
彼が大切にしてくれてる気がして、私は嬉しくなった。
:12/07/11 22:50
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:OQA3Vljc
#220 [ぎぶそん]
その横で、彼のノートパソコンの電源がつけっぱなしになっているのに気がついた。
消した方がいいのだろうか。
でもいくら一緒に暮らしてるからといって、勝手に操作するのはいい気がしない。
ちょっとの間、暗い画面を見つめたままでいた。
「……何してんの?」
突如起き上がった彼が、険しい目つきをして私の腕を掴んだ。
「パソコンの中、見た?」
「ううん、見てないよ」
「それならいい」
彼は私からパソコンを死角にして再起動し、電源を切った。
そうだよね。一緒にいても、私に知られたくないこともあるよね。
私は彼は私に何でも打ち明けてくれていたと思ってた。
私も彼のことを知った気でいた。
歯磨きの仕方、持ってる下着の種類と数、右鎖骨の真下の部分に小さなほくろがあること。
他の人が知らないようなことをいくつも知ってる。
体温、匂い、そして唇の感触。
私も同じように彼に教えていたつもりだ。
私は彼との隔たりを少し感じて寂しくなった。
そうして大学がテスト期間に突入した。
いつもぼんやりと真織のことが頭から離れずにいたが、さすがに勉強のことだけに集中した。
気持ちよく夏休みを過ごしたいから、単位を落とすのだけは避けたかった。
そうしたら、また彼と遊べる。
:12/07/11 23:10
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