消えないレムリア
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#241 [ぎぶそん]
翌朝。身支度を済ませ、彼からもらったネックレスを身につけた。
2人でアパートを出ると、彼がバイクで駅まで連れていってくれた。
「じゃあ元気でな」
駅で私を降ろすと、彼はバイクで颯爽と走り出した。
改札口を抜けぎりぎり飛び乗った電車の中で、首元にあるネックレスを見つめた。
彼がいつもそばにいてくれてる気がした。
その後実家に到着すると、一目散に2階にある自分の部屋まで駆け上がった。
去年の春部屋を散らかしたまま1人暮らしを始めたけど、その後母が綺麗に片付けてくれていた。
鞄を放り投げ、ベッドに飛び込む。そのまま仮眠を取った。
夕方になり母は夕飯に唐揚げやポテトサラダ、レタス巻き、けんちん汁など、私の好物をふんだんに振る舞ってくれた。
「伊藤くんは元気しているのかね」
父がけんちん汁を吸いながら、ぶっきらぼうに話しかける。
「真織くん、びっくりするくらいの美少年よね。ほら、俳優の何とかに似てるわね。ほら、あの人。何とかこんとか」
母が話に割って入る。
母は困った時はいつも“何とかこんとか”で表現をする。大学生になってからほとんど会ってないのに、その癖は相変わらず変わってないな、と思う。
「確かに男前だが、あの髪型はなよなよしてる感じがして好かないな」
「ちょっと前に髪切ったよ。好青年になってる」
なんで私、あいつのことを褒めてるんだろう。でも今の髪型はいい。髪型だけは。
「あら、そのネックレス買ったの?」
母が私の首元を見た。
「ううん。真織に買ってもらった」
「まあ素敵」
:12/07/22 23:23
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:TdfnQEy.
#242 [ぎぶそん]
夜。お風呂で汗を流し、ベッドに入った。
あいつは今頃何をしているのだろうか。彼のいない一時は、長く退屈に感じた。
1つ屋根の下で暮らしておいて、いまさらメールや電話をする気にはなれない。
彼がいない1人の夜は、寝る前歯みがきをし忘れた翌朝みたいな気持ち悪さがあった。
ここは私の生まれ育った場所なのに、自分の居場所ではないみたい。
薄暗い部屋の中、テレビを点けた。ちょうど歌番組をやっていた。
君に会いたいでも会えないとか、中学生でも書けるポンコツな歌詞を若手バンドのボーカルがしたり顔で歌う。
そんなに会いたいなら、さっさと会いに行けばいいのにといらいらする。
ふと真織の顔が浮かぶ。
あいつが昨日歌った「僕の嫌いな言葉」が頭の中で浮かぶ。
あいつに会いたい。私自身も彼に対する感情を、結局そんな陳腐な言葉でしか表現できないでいた。
その後も家族で墓参りを済ませたり、母と一緒に来年の成人式の着物を買いに行ったり、親戚の家に挨拶しに行ったりと、ばたばたとした日々が続いた。
:12/07/23 22:30
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:jyY.9Ydw
#243 [ぎぶそん]
実家には4日間過ごしただけで、再びアパートに戻った。
誰もいない部屋は、自分の部屋なのに夜の校舎みたいな薄気味悪さがあった。
歯ブラシも2人分あるし、怪獣の人形も置いたままだ。バイク雑誌もあるし、ギターケースもある。
でもあまりの虚無感に、もしかしたらあいつがこのまま戻ってこないんじゃないかと不安になった。
首元のネックレスを見つめる。逆に満たされない思いが募る。
「くそ真織!早く戻って来なさいよ!」
私は苛立ちから床にあったちきゅ丸くんの人形を蹴った。
私は彼に電話を掛けた。
『……もしもし?』
こいつ、こんな声してたっけ。
「あんた、いつ戻って来るの?」
『予定としては20日だけど、早く戻ろうかな。そっちが早く戻ってきてほしいみたいだし』
「一生戻ってくるな!」
私はかっとなって電話を切った。
こんな態度では向こうもさすがに怒ったかも知れない。
『ごめんね』とメールしておいた。
返信はすぐに届いた。
『何が?』
うわ、やっぱり送らなきゃよかった。
でも下に余白があるのに気がついて、スクロールさせた。
『心配しなくても、ちゃんと戻ってくるから』
「何よ」
私はベッドにケータイを放った。少しにやにやとした。
:12/07/24 22:49
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:XCFEV5ZU
#244 [ぎぶそん]
2日後。お昼のニュース番組を観ながら、ベッドの上でポテトチップスを食べていた。
冷蔵庫の中には何もないし作るのも面倒なので、食事はお菓子とコンビニ弁当で済ませていた。
彼がいない私は、すっかり元の面倒臭がりの駄目人間に戻っていた。
「ただいま」
夕方、彼が戻ってきた。
「うわ、何この汚い部屋」
彼が散らかり放題の部屋に絶句する。
髪が少し伸びただけで、後は全然変わらない彼の様子を見てほっとした。
彼は床に腰を下ろすと、鞄の中をあさった。
「昔の写真持ってきた」
彼が私に1枚の写真を渡す。私はさっそくその写真を見た。
そこには幼い頃の彼と実織くんが写っていた。
写真の彼はカメラ目線でピースサインをしていて、舌をぺろっと出していた。
天真爛漫で、とてもかわいかった。
このまま成長していればよかったのに。
この頃の彼に出会ったことがあるらしいけれど、やっぱり身に覚えがなかった。
続いて彼の中学時代の集合写真を見た。話に聞いていたとおり、だいぶ小柄だった。
高校時代の集合写真も見た。背が伸び、今現在とほとんど変わらなくなっていた。
彼が当時のことを楽しそうに話す。男子しかいなかったので、だいたい皆と仲が良かったらしい。
「かなめのこと地元の奴らに話したら、今度連れて来いって」
「行きたくない。どうせ、いまいちな女だなあ、って思われるだけだし」
「誰も期待してないから大丈夫だよ」
うわあ、出た。こいつのこの気の利かない感じ。私は苦笑いをした。
:12/07/24 23:17
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:XCFEV5ZU
#245 [ぎぶそん]
「そうそう、ゲーム持ってきたよ」
彼が紙袋からゲーム機を取り出した。
私の気が晴れる。今から一緒に以前椎橋くんの部屋でやったゲームと同じのをすることになった。
「負けた方は勝った方の言うこと聞くこと」
「そんな。私の方が圧倒的に弱いから不利に決まってるじゃん」
「ちゃんとこっちにハンデつけるから。俺からの攻撃は2回までにするわ」
そしてバトルが始まり、彼のキャラクターに攻撃し続ける。彼はすべて軽やかにかわす。
攻撃するのに疲れて一瞬気を抜くと、彼に初めて攻撃された。
私のキャラクターは舞台から落下した。たった一撃受けただけで敗北した。
「はい、俺の勝ち。じゃあ……」
彼が腕を組んで考える。どうせ言うことはキスとかそういうことだろう。
「今月の30日にサークルの皆でキャンプすることになったから、それに来ること」
何だそんなことか。ひとまず安心したが、すぐに恐怖で冷や汗が出た。
「里香ちゃんはいるの?」
「多分いるよ」
私の顔が青ざめる。彼女と顔を合わせるのは非常に気まずい。
でも命令は命令だ。私は観念した。
「川で泳ぐかも知れないから、水着があった方がいいかも」
水着か。持ってないし、学校の授業以外で着たこともないな。ふと、私にいいアイデアが浮かぶ。
涼二くんを誘おう。すぐに彼にメールを送ってみた。
涼二くんは迷わず引き受けてくれた。私は彼と遊ぶことになった。
:12/07/25 22:46
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:44/09JFM
#246 [ぎぶそん]
2日後。電車に乗り、涼二くんの住んでる町の駅で降りた。改札口を抜けると、女装をした彼がいた。
カールした髪を2つに結び、白いノースリーブシャツに7分丈の黒いズボンを履いていた。
駅を出て、彼の車である赤いスポーツカーに乗った。車内は芳香剤のいい匂いがした。
ここからそう遠くない場所にアウトレットの店があるということで、そこに向かって車が走り出す。
車の中で、共通の知人である真織のことで話が盛り上がった。
「小学校の時まおちゃんとは学校が終わると図書室で本を読んだり、川に魚釣りしに行ってましたね。高学年になると、ゲームばかりしていました。
中学に上がってからは僕がソフトテニス部に入ったので、遊ぶことは少なくなりなした。同じ塾に通ってたんですけど、まおちゃんは数学と理科のテストだけは常に満点でした」
「あいつ、今まで恋をしたことがないらしいね」
「そうですね、そういった話は全くしませんでした。僕もまおちゃんも大人しくて目立たない方だったので」
「それがどうしてあんな生意気な性格になったの?身長が伸びて調子に乗ったのかな?」
「そうかも知れませんね」
2人でけらけらと笑う。
真織は今までの人生を行儀よく真面目に生きてきたみたいで、どこか安心感がある。
何より異性を知らない。
私にとって真織は過去があってないようなものだった。
:12/07/25 23:24
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:44/09JFM
#247 [我輩は匿名である]
あげます
:12/07/29 13:07
:F08A3
:bkhEdwvE
#248 [ぎぶそん]
【※247 匿名さん 前も上げてくれた方ですか?ありがとうございます。体調を崩してしまい、ここ数日書けませんでした】
アウトレットモールに到着すると、まずは洋服の店を回ってみた。
近々合宿に行くということで、張り切って洋服を物色する。
涼二くんの意見を参考にして、ワンピースを3着買った。
それから今日1番の目的である水着の店に入った。めぼしい品を1着1着見て探す。
白い生地に黒い水玉模様があるビキニが目についたので、試着してみた。
「どうかな?」
涼二くんに試着した姿を見せる。
「すごくいいと思います。すみません、今完全に男目線で見てました」
彼が両手で顔を覆う。着心地も良かったので、迷わず購入した。
正午を過ぎ、建物の2階にあるオムライスの店に入った。
「もうすぐあいつの誕生日じゃない?それで、誕生日プレゼント何にしようかと迷ってるんだけど……」
私は真織の誕生日のことが気がかりでいた。
「何でもいいと思いますよ。かなめさんから貰ったものなら喜びますよ」
「あいつハーレーが好きだから、そのミニチュアセットでも買おうかと」
「それはいいですね」
彼がにっこりと笑う。
「じゃあそうしようかな」
私も微笑み返した。
オムライスの店を出てちょっと歩くと、下着売り場が目についた。
「見ていいかな?」
一応性別の違う彼に配慮した。
「じゃあ、僕はここで待っておきますね」
「ごめんね、すぐ終わるから」
1人で中に入り、いつものようにベージュ色を探そうとした。
でも真織にいつも下着がださいとけなされていることをふと思い出した。
怒りで拳を握る。結局、ベージュ以外の色んな色の下着を購入した。
:12/07/31 22:25
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:f95fGXxk
#249 [ぎぶそん]
その後モールを出て涼二くんのケータイから真織を呼び出し、2人で涼二くんの部屋に上がった。
涼二くんの部屋は私の部屋と同じ1DKだった。
リビングは必要最小限のものしか置いていない、殺風景な空間だった。
涼二くんが洗面台に向かう。ウィッグを外し化粧を落とした彼は、見事に普通の男の子に戻っていった。
そして涼二くんは私たちに冷やし中華を作ってくれた。甘辛い汁に浸った冷たい麺を啜る。夏を感じた。
アパートに戻ると、ノートパソコンを開いた。
ネットショッピングでハーレーのミニチュアモデルを探す。
くまなく探していると、6台セットで売られているものがあった。
数は多い方がいいかも知れない。それを注文した。
22日。ネット通販で頼んだ商品が届いた。
「かなめがネットで何か頼むとか珍しいな」
「うん、ちょっと本が欲しくて」
私はカモフラージュに部屋にあった教科書を彼に見せた。
彼に気づかれないよう注意して、ミニチュアセットを鞄の中にこっそり隠した。
その日の夜。明日からサークルの合宿ということで、必要な荷物をキャリーバッグに詰める。
「ちょっと待って」
彼がバッグの中に入ってあるピンク色のブラジャーを手にした。
それはこの間アウトレットモールで買った一品だ。
「こんな色の下着持ってたっけ?えっ……もしかして、勝負下着って奴?」
彼は呆然としていた。
「違うよ!安かったし、気分転換に買っただけ」
私は彼の手からブラジャーを取り上げた。彼が私の肩を叩く。
「まあ、夜を楽しみにしておくな」
その言動に激しく身震いした。
:12/07/31 23:03
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#250 [ぎぶそん]
23日。写真部の合宿の日になった。
早朝、メンバーが駅に集合した。私は皆に真織を紹介した。
「初めまして。入部希望……かも知れないです」
彼にカメラに興味があるフリを演じてもらった。
地味で大人しいメンバーが揃う中、目鼻立ちのはっきりとした真織は明らかに存在が浮いていた。
部長の渋沢先輩から今後の詳しい段取りを聞いた後、電車に乗ってペンションがある群馬県を目指す。
私と真織は当然のように隣同士で座らされた。
最初にちょっとだけ会話を交わすと、彼は私の肩に頭をもたれたまま眠ってしまった。
その重さに疲れがくるけど、彼の無垢な寝顔がかわいいので黙って見過ごすことにした。
駅に到着して、ペンションに向かうバスに乗った。
また彼と隣同士に座る。彼は窓に映る林だらけの景色をずっと見ていた。
私は車内を観察してみる。渋沢先輩は前の席で1人本を読んでいた。
彼の元恋人である小原は、1番後ろの座席で男の先輩と楽しそうに話していた。
彼女の笑い声が静かな車内に響く。気まずい雰囲気を感じ取る。
合宿に参加したことをわずかながら後悔に思っていると、隣に座る真織が私の手を取った。
「かなめも見てみろよ。面白いよ」
窓を指差し、無邪気に笑う彼。こいつがいれば、どんなことがあっても大丈夫だと思った。
:12/08/01 22:59
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